アポピスへの道!!
「ククク…懲りないわねぇ、人間も」
「……」
金銀財宝が無造作に床に散らばっている王室、簡易だが気品差を感じられる王座で腕を組み見下ろしてくる魔物…アポピスのラヴィーナを前にしてリュウガは立っていた。
紫色の肌に見事な作りの銀細工、整った顔を歪め呆れ気味に笑うラヴィーナ。普通の人間ならば彼女に恐怖し、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまうだろう。
だから、ラヴィーナはリュウガもそうだと思っていた。唯一違うのは彼が他の勇者気取りや傭兵とは違い、何の役にも立たない糞のような前向上を述べなかった事だった。それは恐怖している自分を隠すための誤魔化しである事をラヴィーナはよく知っている。
しかし、リュウガは不気味なほど無言だった。
その態度にラヴィーナは疑問とちょっとした不安、そして淡い期待を抱いた。
(この人なら…いや、考え過ぎよね)
馬鹿な考えを振り払うようにラヴィーナは立ち上がった。紫色の鱗を持った蛇の下半身が大きく揺れる。
「さぁ、来なさい!自分の愚かさ!無力を思い知り、このラヴィーナ・ウル・スネコバの前に敗北しなさい!!」
それでもリュウガは動かない。実の所、リュウガはラヴィーナが考えているような事を考えていなかった。
全く別の事を考えていた。
「……」
(やべぇ、超タイプだ…!!)
リュウガはラヴィーナに一目惚れしていたのである。
砂漠に隣する反魔物領の城塞都市。そこでは教団の教えが広く教えられ、そこに生きる者にとって教団の教えは絶対であり真実である。
魔物は人類の敵、滅ぼさなければならない悪しき存在。
それ故、この城塞都市では度々砂漠にて魔物狩りが行なわれていた。帰ってくる者もいれば、帰らぬ者も多いその戦はいつ終わるとも知れず、どこまで続くのか、誰もが思ったが教団の唱える正義の聖戦であると誰もが信じて疑わなかった。
正義の聖戦ではあるものの、慢性的な人員不足に悩まされているのは変わりもしない事実である。だから、余所から傭兵が訪れる事も珍しくはない。
リュウガもまたそんな傭兵の1人であった。
日に焼けた黒い肌、獅子の如く逆立った銀髪に鋼のような巨体を黒い鎧に包んでいる。背中には畳1枚ほどの大きさを誇る大剣が陣取っていた。
「……」
リュウガは無言でグラスに入った白い液体を一口飲み、静かに座りなおした。屈強な男達を見慣れているはずの酒場のマスターは居心地悪そうにグラスを磨き、チラチラとリュウガを見ている。先ほどまで騒いでいた傭兵達もリュウガを見るとすごすごと店を出て行った。その原因をリュウガはよく知っている。
顔だ。
リュウガは致命的と言っていいほど人相が悪いのだ。幼少の頃より鬼の顔、顔面阿修羅と呼ばれ、騎士団に入団を希望すれば即座に断られ、傭兵団に入ろうとすれば魔物より恐ろしいと言われ、護衛の仕事に就けば対象が怯える始末なのである。
そのような調子なのでリュウガは仕事にも就けず、文無し宿無しであった。
「……」
「お、お客さん…」
マスターは無言でグラスを見つめるリュウガに声をかけるが、一睨みで黙り下がってしまう。もちろん、リュウガは睨んだわけではない。ただ呼ばれたからマスターを見ただけだ。
「……」
(そんなにビビらなくてもいいだろ…)
内心、泣きそうになりつつも決してそれをリュウガは見せなかった。
マスターは再び話しかけてくる。
「お、お客さん…酒はいらないんですか?」
「……」
「お客さん、さっきから酒を頼まないでミルクばっかり飲んでいるじゃないですか?」
「……」
(…いいだろ、別に)
「何か理由でもあるんですかい?その…宗教上の理由とか…?」
「…そのような理由ではない。酒を飲み、油断した隙に寝首を掻かれては先祖に示す顔が無い……」
(何で金を払ってまであんな気持ち悪くなるモン飲まなきゃならんのだ…)
大層な事を言ったが、リュウガは下戸であった。
とっさの言い訳になるほどとマスターは頷き、グラス磨きに戻った。我ながら上手く取り繕う事が出来た、とリュウガは内心ほくそ笑み一気に牛乳を飲みほした。
空になったグラスをテーブルに置くのと、後ろから声をかけられたのは同時であった。
「そこの黒き剣士様、よろしいかな?」
「!!」
リュウガが振り返るとそこに1人の男がいた。髪を剃った頭に左腕には聖書を抱えている。人当たりの良い笑みを浮かべてはいるが、気配を感じさせずリュウガの背後を取った腕は只者ではない。
それが例え神父だとしても。
神父はリュウガの顔を見ると顔を引きつらせ1歩下がったが、すぐに先ほどの笑みを取り戻しまた1歩近づいた。
「私、アル・フォボスと申します。お隣良いですか?」
「……」
(え、嫌なんだけど)
リュウガが何か言う前にアルはリュウガの隣に座り、リュウガの顔を真正面から見つめてくる。
「黒き剣士殿、お名前をお伺いしても?」
「……リュウガだ」
「リュウガ殿、貴殿を凄腕の剣士と見込み、折り入って頼みがあるのです」
「……」
(帰ってくれと怒鳴れる強い男になりたい…)
「…この魔物を斬っていただきたいのです」
そう言ってアルは懐から羊皮紙を取り出し、テーブルに乗せた。
リュウガとマスターはその羊皮紙を覗き込み、マスターが悲鳴を上げた。
「ア、ア、アポ…神父様!コ、コイツはアポピスじゃないですか!!」
「……」
(え、誰それ)
ワナワナと震え、羊皮紙を指さすマスターはすっかり怯えた様子だ。そんなマスターを見ていても一文の得にもならない。リュウガは今一度そのアポピスの書かれた羊皮紙を見下ろした。
巨大な黒い蛇が頭上にある太陽を飲み込もうと大きく口を開けていた。目を赤く輝かせ、まるで剣の様な鱗が逆立ち、大地を黒く抉っている。見る者に嫌悪感を与える画風のアポピスはまさに魔物である。
しかし、魔物に対してあまり知識の無いリュウガにとっては特に何も思わなかった。ただ、気持ち悪い蛇が描かれている程度の認識である。
「……」
(汚い絵だな…何これ、栗?あ、太陽か)
場違いな事を考えながら絵を見つめている。
そんなリュウガの態度にアルはにんまりと笑い、細められた目の奥でしっかりとリュウガを見つめている。その顔の裏には何が隠れているのかを決して他者には見せない、そういう強い意志の様なものが見える。
「リュウガ殿、どうかこの魔物を斬っていただけないでしょうか」
「……」
(え?いや、無理でしょ。無理無理)
「今まで多くの傭兵や冒険者にこの仕事を依頼しましたが、誰もが怯えてこの仕事を引き受けてくれません。引き受けてくれた者もいましたが、彼らは戻っては来ませんでした」
「……む」
(もう諦めろよ…)
「お願いします、リュウガ殿!今でも砂漠の民はこの恐ろしい魔物に恐怖しているのです!どうか、どうかこの仕事を引き受けると言ってください…!!」
「……他を当たってくれ」
そっけなくそう言うと、リュウガは立ち上がりアルに背中を向けた。
アルは慌てて立ち上がり、リュウガの前に立ちふさがる。
「神父さん…そこをどいてくれ」
「そういうわけにはいきません!リュウガ殿、貴方は恥ずかしく思わないのですか!?困っている数多くの命を見捨てる自分を…彼らを救うと思わないのですか!?」
「…アンタは勘違いをしているようだな」
(何を…このつんつるてんが)
怒気を孕むリュウガの声にアルの顔に緊張が走る。
「俺は遊歴の身だ……アンタの望むような正義と寛大の騎士道精神は…持ち合わせていない」
(だってその魔物強そうじゃん…嫌だよ、怖いもん)
そう言うとリュウガは乱暴に神父の身体をどけて、扉に手をかけた。
「もちろん報酬は出します」
「……」
アルの言葉に扉を開きかけた手が止まる。
無職のリュウガにとって報酬という言葉は魅力的だ。しかし、その報酬を得るには魔物を斬らなければならない。見るに太陽を飲み込めるほどの大蛇だ。万が一にも勝ち目は無い。
それでも、リュウガにとって報酬という言葉は振り切りづらい魔力を持っていた。
ゆっくりと振り返るリュウガを見るとアルは懐からまた羊皮紙を取りだした。
「神の神聖なる任務に、俗世の如く金銭という人間の身勝手な欲望を持ち入れるのは神にとってはもちろん、私にとっても不本意ではありますが今は仕方ありません」
「……」
(コイツ本当に何なんだ?)
いちいち引っかかるが、それに突っ込んでいたらキリがない。
アルは羊皮紙をリュウガに渡し、羽ペンを差し出した。
「その紙にお好きな金額をお書き下さい。それを報酬としてお渡しします」
「……」
差し出された羽ペンを手に取り、リュウガは殴り書くと乱暴にアルへ羊皮紙を突き出した。
羊皮紙に書いた金額はハッキリ言えば魔物退治には不釣り合いと言えるほどの金額であった。リュウガの田舎ならば豪邸を買い、メイドを山のように雇っても有り余るほどである。
これだけの金額ならば断るだろう。
リュウガはそう思い内心ほくそ笑むと、アルはそんな考えを見透かしたかのように鼻で笑った。
「この程度の金額で良いのですか?」
「……む」
(え、嘘でしょ?)
リュウガが何か言う前にアルは羊皮紙を懐へしまうと、ニッコリと笑った。懺悔をしに来た者ならば安堵する神の如き笑みだろうが、リュウガには悪魔の笑みに見えた。
「さぁ、リュウガ殿…この恐ろしい魔物アポピスをどうぞ斬ってくださいますね?」
「……」
そして、今に至る。
目の前のラヴィーナは狂気を顔に張り付けていた。狂った光を宿す金色の瞳はまるで満月のようだ。一目惚れしたリュウガにはその瞳すら美しく見える。
しかしリュウガは今、ラヴィーナの蛇体に締めつけられていた。彼女に見とれていたところ、油断して気付いた時には彼女が尻尾でリュウガを絡め捕っていたのだ。鎧が上げる金属質の悲鳴に、あまり長くは持たないとリュウガは思ったが、現状打つ手は無い。
ラヴィーナはそれが楽しくて仕方がないようで、何もできないリュウガを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべている。それと同時にどこか空しい、冷めた風が心を通り抜けるのを感じていた。
所詮、この男も他の侵入者達と同じだ。どうせ自分の命を奪いに来たのだ。
醜い魔物。滅ぶべき悪しき存在。
どう呼ぼうが勝手だが、そう思っているに違いない。私を倒す事しか考えていないのだ。ラヴィーナは嫌がらせをこめてリュウガに顔を近づける。
「どんな気分かしら?何もできない屈辱は…心地よいでしょう?貴方の命は今、私の掌よ。殺すも生かすも私の気分次第、ってね」
「……ぐ」
(ふぉぉぉおおお、良い匂いがするぅ!!)
「…こんな状況でも何も言わないのね、貴方。つまらないわぁ」
はぁ、とため息を吐きだしすでにリュウガに飽きている自分に気が付いたラヴィーナは油断していた。どうせ、何もできやしないと思い込んでいたのだ。
それは間違いだった。
その油断を見逃さなかったリュウガは、締めつけてくるラヴィーナの下半身から両手を抜く。気が緩んでいたところ、拘束が甘くなっていたのをリュウガは見逃さなかったのだ。
「しまっ…!」
慌てても遅かった。
自由になった両腕がラヴィーナに迫る。
(詠唱を…だめ、間に合わない!)
魔法を唱えようにもそれより早く、リュウガの腕が彼女の首を絞めるだろう。いや、恐らくはあの大木のような腕で首の骨をへし折られるかもしれない。
リュウガの腕が目前に迫った瞬間、その一瞬でラヴィーナは自らの短くはない生涯を見ていた。
何の為に生まれたのかも分からず、それを教えてくれるような存在はいなかった。誰からも必要とされず愛されない。常に忌み嫌われ、人間だけでなく同じ魔物達からも敵と見られる。味方はいなかった。
ならば、悪に染まろう。そして、全てを自分と同じ悪に染めよう。そうすれば、きっと誰かが分かってくれる。この孤独を。空しさを。
しかし、それは叶わない夢だったのだろうか。
(嫌…死にたくない!)
ギュッと目を閉じ、ラヴィーナは迫りくる死から逃れられないと分かっていても、身を固くした。
しかし、ラヴィーナの恐怖した死は訪れなかった。首を折るだろうと思っていた手はラヴィーナの手を優しく包んだ。
「え…?」
「……けっ」
「な、え?…」
ラヴィーナは困惑した。
この男は何を考えているのか、それが分からなかった。
「な、何を…」
「…け、結…婚を前提に…いや……お、俺と……結婚、してくれッッ」
(やべぇぇぇ、言っちまったぁぁぁぁ!)
「……」
ラヴィーナの思考は止まった。
一瞬前まで予想できていなかった事が起きた。
殺されると思っていた男に求婚された。
何故?それよりも結婚?この私と?
ん?いやいや、え?つまりこの人は私を……
「ば、え…えぇぇぇぇ!?」
だから、叫ぶしかなかった。
「きゅ、え?はぁ!?結婚!?何で!?」
「いや…ア、アンタが……美しい、から……だ」
「えぁ!?う、うつく…!?」
醜い化け物、薄汚い魔物、そう言われた事は多々あったが美しいと言われた事は無かった。
すっかりパニックとなってしまったラヴィーナをリュウガは思わず抱きしめた。
「ふぇ!?」
「だ、だから…俺とふ、ふ、ふ…夫婦に…」
「え、あ……」
眉間にしわを寄せ、まるで鬼のような形相をしたリュウガをラヴィーナは見上げた。抱き締められているのだから自然と顔が近くなる。
どっちが魔物だか分からない恐ろしい顔つき、しかし、その瞳は真剣であった。
この男は本気でラヴィーナを求めている。
それを感じた瞬間、ラヴィーナは心臓が高まる音を聞いた。
(こ、この人…本当に?)
氷のように冷たく、冷えた心に初めて火が灯ったような感覚であった。心臓の音が痛いほど聞こえる。頬が赤く染まっていくのが見なくとも分かった。
この男と夫婦になる。夫婦になれば当然……
それを思った瞬間、ラヴィーナの身体は火照り始めた。情欲に火が着き、触れている部分がじんわりと熱く、物足りない。
(あ、やだ…)
秘所がじんわりと熱を持ち、湿ってきているのを感じていた。チラリと見るとそこは既にラヴィーナが見た事無いほど濡れている。
生唾を飲み込む音が響く。
自分の魔物娘としての本能が鎌首を持ち上げ、大きく押さえきれないほど膨れ上がっているのが分かった。
この男を犯したい。
この男に犯されたい。
この男に孕ませられたい。
この男の子どもを産みたい。
「…ふ、ふん。言ってくれるわね、人間の分際で」
精一杯の虚勢を張り、ラヴィーナは余裕のあるふりをしてリュウガにニヤリと笑いかけた。
「いいわ…あ、相手をしてあげる。その代わり、私を満足させなかったら…どうなるか分かっているのかしら?」
「は、んふ…あぁ…」
熱い吐息が唇から洩れる。
ラヴィーナは後ろから抱き締められ、乳房を責められていた。優しく揉んでくる指にラヴィーナは身をよじらせるがリュウガに抱き締められ逃げる事は出来なかった。
絞るように後ろから前へ愛撫されると痺れるような心地よさが広がり、身をくねらせた。
「な、なかなか…んん!上手いじゃ、あ…ない」
肩越しに振り返り、不敵な笑みを浮かべるも既に余裕は無い。されるがままであるが、特に抵抗しようとも、拒むつもりも無かった。
リュウガは両手を使い、2つの乳房を揉んでいた。時に強く、優しくリュウガは掌で揉んでくる。すでに熱く、固くなった先端を触るような事はしない。
彼は待っているのだ。ラヴィーナが触ってくれと言うまで。
確かに心地良いが、どこか物足りない不安定さがあった。
「ね、ねぇ…触ってくれないの…?」
「……」
「うぅ、お、お願い…切ないのぉ…だからぁ……ね?」
リュウガは何も言わず、ラヴィーナの乳首を強くつまんだ。電気のような刺激が走る。
「あ、ぎッ…!んんん!」
痛みなのか快楽なのか分からない、心地良さが身体に広がる。ラヴィーナが悶え暴れてもリュウガは乳首を放さなかった。指で弾いたり、爪で引っ掻いてやるとラヴィーナはより強く声をあげた。
「ん、ふふ♪本当に上手いのね…?でも…」
やられっぱなしというのは性に合わない。
ラヴィーナは勢いよく振り返り、リュウガを押し倒した。リュウガは石畳の上に倒れ、その上にラヴィーナは跨ってくる。
「あら?ず、ずいぶん元気なのね…ふふふ、楽しみだわぁ」
「…む、ぐ」
鎧を剥がし、リュウガのモノを引っ張りだすとラヴィーナはその硬さを確かめるように握った。人体のそれとは思えぬほど、熱く硬くなったそれはラヴィーナを求めて凶悪なまでに反り返っている。
今からこれを挿入れると思うとラヴィーナの秘所はさらに濡れてきた。
もはや、我慢の限界だった。
「ん……」
ほとんど体重をかける必要も無かった。ラヴィーナの体はリュウガのモノを易々と受け入れた。
しかし、リュウガは違和感を覚えた。異様にキツい。ミチミチと音を立てそうなほどキツく、痛いほどである。
「ッグ……!!」
「な……ま、さか」
その違和感の正体にリュウガは感づいていたが、奥にある何かを突き破ったような感覚、そして結合部から流れる一筋の血でそれは確信に変わった。
「お前…まさか……は、初めて…か?」
「ん、ぐ…それがどうしたの、かしら?」
目尻に涙を貯め、ラヴィーナはあくまで平静を装おうとする。そして、腰を動かし始めた。
「お、おい!」
「んん…!はッ……っあ」
魔物娘とはいえ、処女膜を貫通した痛みはあるだろう。なのに、苦痛に唇を噛み耐えながら、腰を上下に動かす。まだ痛みが強いはずだ。
リュウガは慌てて、ラヴィーナの腰をつかみその動きを止めた。
「はぁー…えっ?」
「止せ…む、無理をするな」
「だ、だってぇ……こうしないと気持ち良くないんでしょ?」
ラヴィーナの顔からは余裕のある笑みはいつの間にか消え、不安そうにリュウガを見つめてくる。拒絶されたくない。そんな想いが伝わってくる。
アルの言っていた恐ろしい魔物の姿ではない。
ここにいる魔物は、ただリュウガに尽くそうとする健気な魔物娘だった。
リュウガの手から逃れようとラヴィーナは腰を動かそうとするが、リュウガはそれを許さなかった。ラヴィーナはふるふると頭を振り、今にも泣きそうな顔だ。
「何で…?貴方、私の事…愛してるんでしょ?何でぇ…?」
「お、俺だけでは…ダメだ。アンタにも……ラヴィーナにも気持ち良くなってほしいんだ。だから…無理はするな」
「あッ……」
頬を撫でられ、名前を呼ばれ、ラヴィーナの心はさらに高まった。
愛されている。心配してくれている。そう思えば思うほど体は熱くなっていく。
しばらくは繋がったまま、お互いの身体を愛撫し合った。リュウガが腹を撫でればその手に自分の手を添えてクスッと微笑む。大きく形の良い尻を撫でると、ラヴィーナの身体はビクンと跳ねた。ラヴィーナがリュウガの胸を撫で、爪で軽くひっかくと何とも言えないむず痒さが広がった。
そうしているうちに痛みは薄れ、次第に腰が動き始める。
「あ、んん…ふぅ、い…」
「む…」
「も、もう大丈夫だから…ね?動いて…んあッ!」
ラヴィーナが最後まで言い終わらないうちにリュウガは突き上げた。先端が子宮口に当たり、ズンとした衝撃が走る。
しかし、既に痛みは無い。それどころか、今まで味わった事の無い快楽が襲ってきた。
「ん、あぁ!はぁ…あッ!」
決して自慰では味わえぬぶつかり合う肉の音と温もり、それらを味わいながらラヴィーナは腰を打ちつけるように動かす。
「は、んんん!すごッいぃぃ!!」
ラヴィーナはガチガチに勃起し溶岩のように熱いリュウガのペニスをとろけきった穴で締めつける。あえぎ声が響く王室にはリュウガとラヴィーナ以外誰もいないが、誰かがいても構わなかった。むしろ、見せつけてやりたいとまでラヴィーナは考えていた。
腰を振り乱し、それに合わせるかのように大きな乳房も揺れる。先ほどまで処女だったとは思えないほどの乱れっぷりだ。
「ハッ、ハッ!んふぅああ」
ラヴィーナは倒れるようにリュウガに抱きつくと、蛇の下半身をリュウガに巻き付けた。それはラミア属特有のいわゆるだいしゅきホールドだった。リュウガも抱き締めるとさらに力が強くなる。
「ね、ねぇ…お願い、おねがいよぉ」
「ぐ…!な、何だ?」
「お願い、ずっと…ずっと私と一緒にいてぇぇ!」
見るとラヴィーナの顔には快楽と不安が混じり合った複雑な表情をしていた。
「もう嫌なの、1人は!んんひあぁッ!あ、貴方が望むならひぅッ!何でも、何でもする!だから、だからあ、ぁあああああッ!」
まるで子どものような願いを泣きながら吐き出す。しかし、彼女にとって切実な願いなのだ。
彼女が何処から来たのか、いつからここにいるのかは知らないがずっと独りで生きてきたのだろう。
そんなラヴィーナがどうしようもなく気の毒に、愛おしく感じてリュウガはピストン運動を速める。
「ッあ!だ、ダメ!そんな、そんなにされたら私、わたしぃぃ!」
「ぐっ、出すぞ…!」
「や、あぁ!おちんちん、ピクピクって…ひぁぁぁあ!」
髪を振り乱しリュウガを絶頂させようと、今までより激しく腰を動かす。リュウガもラストに向かって、下から突き上げる。結合部から愛液が飛び散り、お互いの下腹部を汚すが気にならなかった。
ついに、ラヴィーナが絶頂を迎えた。
「ひあぁぁぁぁぁ!や、すごぉんあああぁぁ!!」
射精の勢いを止め、ビクンとその身体が揺れた。ラヴィーナは精液が注ぎ込まれた下腹部を撫で、愛おしそうに見つめている。
まだ物足りないのか、リュウガはそう感じると自分がまだ硬さを失っていない事に気が付き、再びラヴィーナを突き上げた。
「ん、お…はッ、ああぁぁぁ!」
それからどれほど交わっていたのか。結合部からは愛液と精液の混じったものが溢れ出ているが互いに満足はしていなかった。
どれだけ射精しても物足りない。
どれだけイっても物足りない。
騎乗位だけでなく正常位、駅弁などさまざまな体位で繋がっても、2人は飽きることなく快楽を貪り合った。
ラヴィーナは床に手をつきバックの姿勢で責められていた。それはどこか動物的で原始的でもあり、荒々しささえ感じるが決して暴力的ではない。
「あひぃッ!それ!それ、しゅごいぃぃ!」
犬のように舌を突き出し、口は呂律の回っていない。それでも、止められない。いや、だからこそ止められないのだろうか。
肉棒が膣壁に擦れると痺れるような快感が全身に広がる。子宮口をグリグリと責められ、精液を塗りつけるような動きにラヴィーナはただ声を上げ、腰を振り、雄を受け入れるしかできなかった。
「んあ、くぅぅ!あ、あぁぁもっと!もっひょぉぉ!!」
「うっ…!」
腰の動きが速くなる。
そうするたびに一番奥が削られるような、潰されるような感覚を覚え、ラヴィーナは目を白黒させたが決して苦痛ではない。打ち付けられる度に肉厚な尻がたぷんと歪み、結合部からはまるで雨のように愛液と精液の混じり合ったものが溢れだす。
「や、だめぇ!出ちゃう…それ以上したら、全部出ちゃうからぁぁぁ!」
「だったら…ん、ぐ…!ま、また出してやる…!!」
「んひゃひぃ!あ、出して!またいっぱい!いっぱい出してぇぇ!!」
互いが互いに動き、絶頂を迎えようと動きを速くする。ラヴィーナは腰を動かし、リュウガのモノがより深く挿入れるようにする。肉穴が射精を促すように締め上げるとリュウガは限界を迎えた。
「ぐッ…!!」
「んああッ!!あ、あぁぁっぁああ!!!」
射精を子宮で受け止め、ラヴィーナは背中をのけぞらせながら絶頂を迎えた。ドロドロとした精液が子宮を犯し、甘美な至福が全身を満たしていく。
荒い息をつきながら、ラヴィーナは肩越しに振り返り覆いかぶさってきたリュウガと口づけを交わした。口の中の唾液を交換し合い、ついばむように唇を動かす。リュウガの伸ばした舌をラヴィーナはまるで男性器のようにしゃぶり、吸っていた。
そうしながら、子宮全体がリュウガで染まり、身も心も彼に落ちた事を実感しながら、ラヴィーナは限界を迎え、ついに意識を失った。
「……」
隣を見れば、幸せそうに寝息を立て、安らかに眠るラヴィーナの顔がある。頬を軽く撫でてやるとくすぐったそうに掌に頬を擦りつけてくる。
一見、高圧的で邪悪な魔物娘に見えるが、実際は寂しがり屋の甘えん坊なのだろう。
そんなラヴィーナを見下ろしながら、リュウガは「仕事」に取り掛かる事にした。
あの神父から依頼された仕事を忘れたわけではない。
(…悪く思うなよ)
「素晴らしいですな、リュウガ殿」
街に戻り、教会を訪ねてアルに結果報告をするとこの神父は満面の笑みとなった。あまり好きな顔ではないが、報酬をもらうためにはこの男に会わなければいけないのだから仕方がない。
「…報酬をもらおうか」
「分かっております。こちらですね?」
そう言ってアルが差しだした大きな袋には金貨が山のように入っていた。リュウガはそれを確認すると、黒い壺を差し出した。
「リュウガ殿…これは?」
「…神様以外信じないアンタの事だ。証拠が欲しいだろうと思って…な」
壺はひんやり冷たく、禍禍しいオーラをまとっていた。入口には札が大量に貼ってある。
アルは中身が何かは分かったが、一応尋ねた。
「中には何が…?」
「心臓だ…その一部が入っている……決して開けるなよ…開ければ魔物は甦るだろう」
そう言い残し、リュウガは教会から出て行った。
その背中を見送り、アルは疲労と達成感の混ざったため息を吐きだした。
(調査隊を送るつもりだったが…手間が省けたな)
ニヤリと笑い、アルは壺を自分の部屋まで運んだ。
魔物の心臓、その一部が入っている壺を神の下に置くのはどうかと思ったが、逆に神の下で浄化すべきではとも思えたのである。
決して開けるなよ。
リュウガの言葉が頭にこだまする。その度にアルの中で好奇心が顔を出し始めた。
そして、アルはリュウガの言葉を無視した。浄化するために一度は開けなければならないのだ。それにあんな小汚い傭兵の言葉など信じていられない。
大量に貼ってある札を剥がし、壺を封じてある蓋を外し、中身を見た。
そして、目が点となった。
「…へ?」
そこには想像していた禍禍しい魔物の心臓など無く、代わりに紙切れが1枚だけ入っていた。アルは恐る恐る紙切れを取り出し、何なのかを確認した。
紙には簡潔に、一言だけ書かれていた。
『バカ』
「あ、あのクソヤロウ…!!」
神に支える者としてあるまじき暴言を吐き散らし、アルは勢いよく部屋を飛び出た。教会のドアを蹴り開け、通りを見まわすも、リュウガの姿は影も形も無くなっていた。
「……」
(速い!速い!無理無理!!)
リュウガは街から離れ、砂漠の海を砂上船と呼ばれる船で渡っていた。風を受け、砂の上を滑るように進むその船は砂漠の民にとって無くてはならない必需品であった。
しかし、リュウガの乗っている砂上船は通常ではありえない速度で進んでいた。
それもそのはず、その砂上船はサンドウォームと呼ばれる魔物娘が引っ張っていたのだ。砂漠でサンドウォームと商人の夫婦と偶然出会い、親魔物領へと連れて行ってもらえる事になったのだ。
風を切り、砂を切り裂いて船は物凄い速度で進む。
「ね、ねぇ…これ、もっとスピード落とせないの?」
ふと、後ろの荷台から声が聞こえる。
振り返ると、荷物に紛れて隠れていたラヴィーナが不安そうな顔でリュウガを見上げてくる。青い顔がさらに青くなっている。
「…ど、どうだろうな?あの商人達と連絡する手段が無いから、無理だ。お、おぉぉぉ…」
「んぐ、そうな、の…?」
ガタガタと揺れる荷台からラヴィーナは出るとリュウガの隣に腰を落ち着けた。
「ま、まぁ…新婚旅行の思い出だと思えば…ね?」
「ま、まぁな……」
甘えるように寄り添ってくるラヴィーナを抱きしめ、リュウガは確かな幸福を噛みしめていた。この先どうなるか分からない。何があるかも分からない。
「それよりも…ねぇ?」
ラヴィーナが怪しく笑う。
「私は欲張りなの。リュウガとずっと、ずぅーっと繋がっていたいの。だからぁ…」
腰布を脱いで、ラヴィーナは自分の秘所をゆっくりと拡げた。そこはすでに濡れきっており、リュウガを欲しがりヒクヒクとしている。
「ここにぃ、早く欲しいのぉ…ね、お願いよぉ…早くぅ」
見た目とは裏腹に可愛らしい声でおねだりしてくるラヴィーナに我慢できず、リュウガは彼女を押し倒した。
頬を優しく撫でてやり、ちらっと横を見ると大量の金貨が入ったあの袋が目に入った。
(…悪く思うなよ、神父様)
終わり
「……」
金銀財宝が無造作に床に散らばっている王室、簡易だが気品差を感じられる王座で腕を組み見下ろしてくる魔物…アポピスのラヴィーナを前にしてリュウガは立っていた。
紫色の肌に見事な作りの銀細工、整った顔を歪め呆れ気味に笑うラヴィーナ。普通の人間ならば彼女に恐怖し、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまうだろう。
だから、ラヴィーナはリュウガもそうだと思っていた。唯一違うのは彼が他の勇者気取りや傭兵とは違い、何の役にも立たない糞のような前向上を述べなかった事だった。それは恐怖している自分を隠すための誤魔化しである事をラヴィーナはよく知っている。
しかし、リュウガは不気味なほど無言だった。
その態度にラヴィーナは疑問とちょっとした不安、そして淡い期待を抱いた。
(この人なら…いや、考え過ぎよね)
馬鹿な考えを振り払うようにラヴィーナは立ち上がった。紫色の鱗を持った蛇の下半身が大きく揺れる。
「さぁ、来なさい!自分の愚かさ!無力を思い知り、このラヴィーナ・ウル・スネコバの前に敗北しなさい!!」
それでもリュウガは動かない。実の所、リュウガはラヴィーナが考えているような事を考えていなかった。
全く別の事を考えていた。
「……」
(やべぇ、超タイプだ…!!)
リュウガはラヴィーナに一目惚れしていたのである。
砂漠に隣する反魔物領の城塞都市。そこでは教団の教えが広く教えられ、そこに生きる者にとって教団の教えは絶対であり真実である。
魔物は人類の敵、滅ぼさなければならない悪しき存在。
それ故、この城塞都市では度々砂漠にて魔物狩りが行なわれていた。帰ってくる者もいれば、帰らぬ者も多いその戦はいつ終わるとも知れず、どこまで続くのか、誰もが思ったが教団の唱える正義の聖戦であると誰もが信じて疑わなかった。
正義の聖戦ではあるものの、慢性的な人員不足に悩まされているのは変わりもしない事実である。だから、余所から傭兵が訪れる事も珍しくはない。
リュウガもまたそんな傭兵の1人であった。
日に焼けた黒い肌、獅子の如く逆立った銀髪に鋼のような巨体を黒い鎧に包んでいる。背中には畳1枚ほどの大きさを誇る大剣が陣取っていた。
「……」
リュウガは無言でグラスに入った白い液体を一口飲み、静かに座りなおした。屈強な男達を見慣れているはずの酒場のマスターは居心地悪そうにグラスを磨き、チラチラとリュウガを見ている。先ほどまで騒いでいた傭兵達もリュウガを見るとすごすごと店を出て行った。その原因をリュウガはよく知っている。
顔だ。
リュウガは致命的と言っていいほど人相が悪いのだ。幼少の頃より鬼の顔、顔面阿修羅と呼ばれ、騎士団に入団を希望すれば即座に断られ、傭兵団に入ろうとすれば魔物より恐ろしいと言われ、護衛の仕事に就けば対象が怯える始末なのである。
そのような調子なのでリュウガは仕事にも就けず、文無し宿無しであった。
「……」
「お、お客さん…」
マスターは無言でグラスを見つめるリュウガに声をかけるが、一睨みで黙り下がってしまう。もちろん、リュウガは睨んだわけではない。ただ呼ばれたからマスターを見ただけだ。
「……」
(そんなにビビらなくてもいいだろ…)
内心、泣きそうになりつつも決してそれをリュウガは見せなかった。
マスターは再び話しかけてくる。
「お、お客さん…酒はいらないんですか?」
「……」
「お客さん、さっきから酒を頼まないでミルクばっかり飲んでいるじゃないですか?」
「……」
(…いいだろ、別に)
「何か理由でもあるんですかい?その…宗教上の理由とか…?」
「…そのような理由ではない。酒を飲み、油断した隙に寝首を掻かれては先祖に示す顔が無い……」
(何で金を払ってまであんな気持ち悪くなるモン飲まなきゃならんのだ…)
大層な事を言ったが、リュウガは下戸であった。
とっさの言い訳になるほどとマスターは頷き、グラス磨きに戻った。我ながら上手く取り繕う事が出来た、とリュウガは内心ほくそ笑み一気に牛乳を飲みほした。
空になったグラスをテーブルに置くのと、後ろから声をかけられたのは同時であった。
「そこの黒き剣士様、よろしいかな?」
「!!」
リュウガが振り返るとそこに1人の男がいた。髪を剃った頭に左腕には聖書を抱えている。人当たりの良い笑みを浮かべてはいるが、気配を感じさせずリュウガの背後を取った腕は只者ではない。
それが例え神父だとしても。
神父はリュウガの顔を見ると顔を引きつらせ1歩下がったが、すぐに先ほどの笑みを取り戻しまた1歩近づいた。
「私、アル・フォボスと申します。お隣良いですか?」
「……」
(え、嫌なんだけど)
リュウガが何か言う前にアルはリュウガの隣に座り、リュウガの顔を真正面から見つめてくる。
「黒き剣士殿、お名前をお伺いしても?」
「……リュウガだ」
「リュウガ殿、貴殿を凄腕の剣士と見込み、折り入って頼みがあるのです」
「……」
(帰ってくれと怒鳴れる強い男になりたい…)
「…この魔物を斬っていただきたいのです」
そう言ってアルは懐から羊皮紙を取り出し、テーブルに乗せた。
リュウガとマスターはその羊皮紙を覗き込み、マスターが悲鳴を上げた。
「ア、ア、アポ…神父様!コ、コイツはアポピスじゃないですか!!」
「……」
(え、誰それ)
ワナワナと震え、羊皮紙を指さすマスターはすっかり怯えた様子だ。そんなマスターを見ていても一文の得にもならない。リュウガは今一度そのアポピスの書かれた羊皮紙を見下ろした。
巨大な黒い蛇が頭上にある太陽を飲み込もうと大きく口を開けていた。目を赤く輝かせ、まるで剣の様な鱗が逆立ち、大地を黒く抉っている。見る者に嫌悪感を与える画風のアポピスはまさに魔物である。
しかし、魔物に対してあまり知識の無いリュウガにとっては特に何も思わなかった。ただ、気持ち悪い蛇が描かれている程度の認識である。
「……」
(汚い絵だな…何これ、栗?あ、太陽か)
場違いな事を考えながら絵を見つめている。
そんなリュウガの態度にアルはにんまりと笑い、細められた目の奥でしっかりとリュウガを見つめている。その顔の裏には何が隠れているのかを決して他者には見せない、そういう強い意志の様なものが見える。
「リュウガ殿、どうかこの魔物を斬っていただけないでしょうか」
「……」
(え?いや、無理でしょ。無理無理)
「今まで多くの傭兵や冒険者にこの仕事を依頼しましたが、誰もが怯えてこの仕事を引き受けてくれません。引き受けてくれた者もいましたが、彼らは戻っては来ませんでした」
「……む」
(もう諦めろよ…)
「お願いします、リュウガ殿!今でも砂漠の民はこの恐ろしい魔物に恐怖しているのです!どうか、どうかこの仕事を引き受けると言ってください…!!」
「……他を当たってくれ」
そっけなくそう言うと、リュウガは立ち上がりアルに背中を向けた。
アルは慌てて立ち上がり、リュウガの前に立ちふさがる。
「神父さん…そこをどいてくれ」
「そういうわけにはいきません!リュウガ殿、貴方は恥ずかしく思わないのですか!?困っている数多くの命を見捨てる自分を…彼らを救うと思わないのですか!?」
「…アンタは勘違いをしているようだな」
(何を…このつんつるてんが)
怒気を孕むリュウガの声にアルの顔に緊張が走る。
「俺は遊歴の身だ……アンタの望むような正義と寛大の騎士道精神は…持ち合わせていない」
(だってその魔物強そうじゃん…嫌だよ、怖いもん)
そう言うとリュウガは乱暴に神父の身体をどけて、扉に手をかけた。
「もちろん報酬は出します」
「……」
アルの言葉に扉を開きかけた手が止まる。
無職のリュウガにとって報酬という言葉は魅力的だ。しかし、その報酬を得るには魔物を斬らなければならない。見るに太陽を飲み込めるほどの大蛇だ。万が一にも勝ち目は無い。
それでも、リュウガにとって報酬という言葉は振り切りづらい魔力を持っていた。
ゆっくりと振り返るリュウガを見るとアルは懐からまた羊皮紙を取りだした。
「神の神聖なる任務に、俗世の如く金銭という人間の身勝手な欲望を持ち入れるのは神にとってはもちろん、私にとっても不本意ではありますが今は仕方ありません」
「……」
(コイツ本当に何なんだ?)
いちいち引っかかるが、それに突っ込んでいたらキリがない。
アルは羊皮紙をリュウガに渡し、羽ペンを差し出した。
「その紙にお好きな金額をお書き下さい。それを報酬としてお渡しします」
「……」
差し出された羽ペンを手に取り、リュウガは殴り書くと乱暴にアルへ羊皮紙を突き出した。
羊皮紙に書いた金額はハッキリ言えば魔物退治には不釣り合いと言えるほどの金額であった。リュウガの田舎ならば豪邸を買い、メイドを山のように雇っても有り余るほどである。
これだけの金額ならば断るだろう。
リュウガはそう思い内心ほくそ笑むと、アルはそんな考えを見透かしたかのように鼻で笑った。
「この程度の金額で良いのですか?」
「……む」
(え、嘘でしょ?)
リュウガが何か言う前にアルは羊皮紙を懐へしまうと、ニッコリと笑った。懺悔をしに来た者ならば安堵する神の如き笑みだろうが、リュウガには悪魔の笑みに見えた。
「さぁ、リュウガ殿…この恐ろしい魔物アポピスをどうぞ斬ってくださいますね?」
「……」
そして、今に至る。
目の前のラヴィーナは狂気を顔に張り付けていた。狂った光を宿す金色の瞳はまるで満月のようだ。一目惚れしたリュウガにはその瞳すら美しく見える。
しかしリュウガは今、ラヴィーナの蛇体に締めつけられていた。彼女に見とれていたところ、油断して気付いた時には彼女が尻尾でリュウガを絡め捕っていたのだ。鎧が上げる金属質の悲鳴に、あまり長くは持たないとリュウガは思ったが、現状打つ手は無い。
ラヴィーナはそれが楽しくて仕方がないようで、何もできないリュウガを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべている。それと同時にどこか空しい、冷めた風が心を通り抜けるのを感じていた。
所詮、この男も他の侵入者達と同じだ。どうせ自分の命を奪いに来たのだ。
醜い魔物。滅ぶべき悪しき存在。
どう呼ぼうが勝手だが、そう思っているに違いない。私を倒す事しか考えていないのだ。ラヴィーナは嫌がらせをこめてリュウガに顔を近づける。
「どんな気分かしら?何もできない屈辱は…心地よいでしょう?貴方の命は今、私の掌よ。殺すも生かすも私の気分次第、ってね」
「……ぐ」
(ふぉぉぉおおお、良い匂いがするぅ!!)
「…こんな状況でも何も言わないのね、貴方。つまらないわぁ」
はぁ、とため息を吐きだしすでにリュウガに飽きている自分に気が付いたラヴィーナは油断していた。どうせ、何もできやしないと思い込んでいたのだ。
それは間違いだった。
その油断を見逃さなかったリュウガは、締めつけてくるラヴィーナの下半身から両手を抜く。気が緩んでいたところ、拘束が甘くなっていたのをリュウガは見逃さなかったのだ。
「しまっ…!」
慌てても遅かった。
自由になった両腕がラヴィーナに迫る。
(詠唱を…だめ、間に合わない!)
魔法を唱えようにもそれより早く、リュウガの腕が彼女の首を絞めるだろう。いや、恐らくはあの大木のような腕で首の骨をへし折られるかもしれない。
リュウガの腕が目前に迫った瞬間、その一瞬でラヴィーナは自らの短くはない生涯を見ていた。
何の為に生まれたのかも分からず、それを教えてくれるような存在はいなかった。誰からも必要とされず愛されない。常に忌み嫌われ、人間だけでなく同じ魔物達からも敵と見られる。味方はいなかった。
ならば、悪に染まろう。そして、全てを自分と同じ悪に染めよう。そうすれば、きっと誰かが分かってくれる。この孤独を。空しさを。
しかし、それは叶わない夢だったのだろうか。
(嫌…死にたくない!)
ギュッと目を閉じ、ラヴィーナは迫りくる死から逃れられないと分かっていても、身を固くした。
しかし、ラヴィーナの恐怖した死は訪れなかった。首を折るだろうと思っていた手はラヴィーナの手を優しく包んだ。
「え…?」
「……けっ」
「な、え?…」
ラヴィーナは困惑した。
この男は何を考えているのか、それが分からなかった。
「な、何を…」
「…け、結…婚を前提に…いや……お、俺と……結婚、してくれッッ」
(やべぇぇぇ、言っちまったぁぁぁぁ!)
「……」
ラヴィーナの思考は止まった。
一瞬前まで予想できていなかった事が起きた。
殺されると思っていた男に求婚された。
何故?それよりも結婚?この私と?
ん?いやいや、え?つまりこの人は私を……
「ば、え…えぇぇぇぇ!?」
だから、叫ぶしかなかった。
「きゅ、え?はぁ!?結婚!?何で!?」
「いや…ア、アンタが……美しい、から……だ」
「えぁ!?う、うつく…!?」
醜い化け物、薄汚い魔物、そう言われた事は多々あったが美しいと言われた事は無かった。
すっかりパニックとなってしまったラヴィーナをリュウガは思わず抱きしめた。
「ふぇ!?」
「だ、だから…俺とふ、ふ、ふ…夫婦に…」
「え、あ……」
眉間にしわを寄せ、まるで鬼のような形相をしたリュウガをラヴィーナは見上げた。抱き締められているのだから自然と顔が近くなる。
どっちが魔物だか分からない恐ろしい顔つき、しかし、その瞳は真剣であった。
この男は本気でラヴィーナを求めている。
それを感じた瞬間、ラヴィーナは心臓が高まる音を聞いた。
(こ、この人…本当に?)
氷のように冷たく、冷えた心に初めて火が灯ったような感覚であった。心臓の音が痛いほど聞こえる。頬が赤く染まっていくのが見なくとも分かった。
この男と夫婦になる。夫婦になれば当然……
それを思った瞬間、ラヴィーナの身体は火照り始めた。情欲に火が着き、触れている部分がじんわりと熱く、物足りない。
(あ、やだ…)
秘所がじんわりと熱を持ち、湿ってきているのを感じていた。チラリと見るとそこは既にラヴィーナが見た事無いほど濡れている。
生唾を飲み込む音が響く。
自分の魔物娘としての本能が鎌首を持ち上げ、大きく押さえきれないほど膨れ上がっているのが分かった。
この男を犯したい。
この男に犯されたい。
この男に孕ませられたい。
この男の子どもを産みたい。
「…ふ、ふん。言ってくれるわね、人間の分際で」
精一杯の虚勢を張り、ラヴィーナは余裕のあるふりをしてリュウガにニヤリと笑いかけた。
「いいわ…あ、相手をしてあげる。その代わり、私を満足させなかったら…どうなるか分かっているのかしら?」
「は、んふ…あぁ…」
熱い吐息が唇から洩れる。
ラヴィーナは後ろから抱き締められ、乳房を責められていた。優しく揉んでくる指にラヴィーナは身をよじらせるがリュウガに抱き締められ逃げる事は出来なかった。
絞るように後ろから前へ愛撫されると痺れるような心地よさが広がり、身をくねらせた。
「な、なかなか…んん!上手いじゃ、あ…ない」
肩越しに振り返り、不敵な笑みを浮かべるも既に余裕は無い。されるがままであるが、特に抵抗しようとも、拒むつもりも無かった。
リュウガは両手を使い、2つの乳房を揉んでいた。時に強く、優しくリュウガは掌で揉んでくる。すでに熱く、固くなった先端を触るような事はしない。
彼は待っているのだ。ラヴィーナが触ってくれと言うまで。
確かに心地良いが、どこか物足りない不安定さがあった。
「ね、ねぇ…触ってくれないの…?」
「……」
「うぅ、お、お願い…切ないのぉ…だからぁ……ね?」
リュウガは何も言わず、ラヴィーナの乳首を強くつまんだ。電気のような刺激が走る。
「あ、ぎッ…!んんん!」
痛みなのか快楽なのか分からない、心地良さが身体に広がる。ラヴィーナが悶え暴れてもリュウガは乳首を放さなかった。指で弾いたり、爪で引っ掻いてやるとラヴィーナはより強く声をあげた。
「ん、ふふ♪本当に上手いのね…?でも…」
やられっぱなしというのは性に合わない。
ラヴィーナは勢いよく振り返り、リュウガを押し倒した。リュウガは石畳の上に倒れ、その上にラヴィーナは跨ってくる。
「あら?ず、ずいぶん元気なのね…ふふふ、楽しみだわぁ」
「…む、ぐ」
鎧を剥がし、リュウガのモノを引っ張りだすとラヴィーナはその硬さを確かめるように握った。人体のそれとは思えぬほど、熱く硬くなったそれはラヴィーナを求めて凶悪なまでに反り返っている。
今からこれを挿入れると思うとラヴィーナの秘所はさらに濡れてきた。
もはや、我慢の限界だった。
「ん……」
ほとんど体重をかける必要も無かった。ラヴィーナの体はリュウガのモノを易々と受け入れた。
しかし、リュウガは違和感を覚えた。異様にキツい。ミチミチと音を立てそうなほどキツく、痛いほどである。
「ッグ……!!」
「な……ま、さか」
その違和感の正体にリュウガは感づいていたが、奥にある何かを突き破ったような感覚、そして結合部から流れる一筋の血でそれは確信に変わった。
「お前…まさか……は、初めて…か?」
「ん、ぐ…それがどうしたの、かしら?」
目尻に涙を貯め、ラヴィーナはあくまで平静を装おうとする。そして、腰を動かし始めた。
「お、おい!」
「んん…!はッ……っあ」
魔物娘とはいえ、処女膜を貫通した痛みはあるだろう。なのに、苦痛に唇を噛み耐えながら、腰を上下に動かす。まだ痛みが強いはずだ。
リュウガは慌てて、ラヴィーナの腰をつかみその動きを止めた。
「はぁー…えっ?」
「止せ…む、無理をするな」
「だ、だってぇ……こうしないと気持ち良くないんでしょ?」
ラヴィーナの顔からは余裕のある笑みはいつの間にか消え、不安そうにリュウガを見つめてくる。拒絶されたくない。そんな想いが伝わってくる。
アルの言っていた恐ろしい魔物の姿ではない。
ここにいる魔物は、ただリュウガに尽くそうとする健気な魔物娘だった。
リュウガの手から逃れようとラヴィーナは腰を動かそうとするが、リュウガはそれを許さなかった。ラヴィーナはふるふると頭を振り、今にも泣きそうな顔だ。
「何で…?貴方、私の事…愛してるんでしょ?何でぇ…?」
「お、俺だけでは…ダメだ。アンタにも……ラヴィーナにも気持ち良くなってほしいんだ。だから…無理はするな」
「あッ……」
頬を撫でられ、名前を呼ばれ、ラヴィーナの心はさらに高まった。
愛されている。心配してくれている。そう思えば思うほど体は熱くなっていく。
しばらくは繋がったまま、お互いの身体を愛撫し合った。リュウガが腹を撫でればその手に自分の手を添えてクスッと微笑む。大きく形の良い尻を撫でると、ラヴィーナの身体はビクンと跳ねた。ラヴィーナがリュウガの胸を撫で、爪で軽くひっかくと何とも言えないむず痒さが広がった。
そうしているうちに痛みは薄れ、次第に腰が動き始める。
「あ、んん…ふぅ、い…」
「む…」
「も、もう大丈夫だから…ね?動いて…んあッ!」
ラヴィーナが最後まで言い終わらないうちにリュウガは突き上げた。先端が子宮口に当たり、ズンとした衝撃が走る。
しかし、既に痛みは無い。それどころか、今まで味わった事の無い快楽が襲ってきた。
「ん、あぁ!はぁ…あッ!」
決して自慰では味わえぬぶつかり合う肉の音と温もり、それらを味わいながらラヴィーナは腰を打ちつけるように動かす。
「は、んんん!すごッいぃぃ!!」
ラヴィーナはガチガチに勃起し溶岩のように熱いリュウガのペニスをとろけきった穴で締めつける。あえぎ声が響く王室にはリュウガとラヴィーナ以外誰もいないが、誰かがいても構わなかった。むしろ、見せつけてやりたいとまでラヴィーナは考えていた。
腰を振り乱し、それに合わせるかのように大きな乳房も揺れる。先ほどまで処女だったとは思えないほどの乱れっぷりだ。
「ハッ、ハッ!んふぅああ」
ラヴィーナは倒れるようにリュウガに抱きつくと、蛇の下半身をリュウガに巻き付けた。それはラミア属特有のいわゆるだいしゅきホールドだった。リュウガも抱き締めるとさらに力が強くなる。
「ね、ねぇ…お願い、おねがいよぉ」
「ぐ…!な、何だ?」
「お願い、ずっと…ずっと私と一緒にいてぇぇ!」
見るとラヴィーナの顔には快楽と不安が混じり合った複雑な表情をしていた。
「もう嫌なの、1人は!んんひあぁッ!あ、貴方が望むならひぅッ!何でも、何でもする!だから、だからあ、ぁあああああッ!」
まるで子どものような願いを泣きながら吐き出す。しかし、彼女にとって切実な願いなのだ。
彼女が何処から来たのか、いつからここにいるのかは知らないがずっと独りで生きてきたのだろう。
そんなラヴィーナがどうしようもなく気の毒に、愛おしく感じてリュウガはピストン運動を速める。
「ッあ!だ、ダメ!そんな、そんなにされたら私、わたしぃぃ!」
「ぐっ、出すぞ…!」
「や、あぁ!おちんちん、ピクピクって…ひぁぁぁあ!」
髪を振り乱しリュウガを絶頂させようと、今までより激しく腰を動かす。リュウガもラストに向かって、下から突き上げる。結合部から愛液が飛び散り、お互いの下腹部を汚すが気にならなかった。
ついに、ラヴィーナが絶頂を迎えた。
「ひあぁぁぁぁぁ!や、すごぉんあああぁぁ!!」
射精の勢いを止め、ビクンとその身体が揺れた。ラヴィーナは精液が注ぎ込まれた下腹部を撫で、愛おしそうに見つめている。
まだ物足りないのか、リュウガはそう感じると自分がまだ硬さを失っていない事に気が付き、再びラヴィーナを突き上げた。
「ん、お…はッ、ああぁぁぁ!」
それからどれほど交わっていたのか。結合部からは愛液と精液の混じったものが溢れ出ているが互いに満足はしていなかった。
どれだけ射精しても物足りない。
どれだけイっても物足りない。
騎乗位だけでなく正常位、駅弁などさまざまな体位で繋がっても、2人は飽きることなく快楽を貪り合った。
ラヴィーナは床に手をつきバックの姿勢で責められていた。それはどこか動物的で原始的でもあり、荒々しささえ感じるが決して暴力的ではない。
「あひぃッ!それ!それ、しゅごいぃぃ!」
犬のように舌を突き出し、口は呂律の回っていない。それでも、止められない。いや、だからこそ止められないのだろうか。
肉棒が膣壁に擦れると痺れるような快感が全身に広がる。子宮口をグリグリと責められ、精液を塗りつけるような動きにラヴィーナはただ声を上げ、腰を振り、雄を受け入れるしかできなかった。
「んあ、くぅぅ!あ、あぁぁもっと!もっひょぉぉ!!」
「うっ…!」
腰の動きが速くなる。
そうするたびに一番奥が削られるような、潰されるような感覚を覚え、ラヴィーナは目を白黒させたが決して苦痛ではない。打ち付けられる度に肉厚な尻がたぷんと歪み、結合部からはまるで雨のように愛液と精液の混じり合ったものが溢れだす。
「や、だめぇ!出ちゃう…それ以上したら、全部出ちゃうからぁぁぁ!」
「だったら…ん、ぐ…!ま、また出してやる…!!」
「んひゃひぃ!あ、出して!またいっぱい!いっぱい出してぇぇ!!」
互いが互いに動き、絶頂を迎えようと動きを速くする。ラヴィーナは腰を動かし、リュウガのモノがより深く挿入れるようにする。肉穴が射精を促すように締め上げるとリュウガは限界を迎えた。
「ぐッ…!!」
「んああッ!!あ、あぁぁっぁああ!!!」
射精を子宮で受け止め、ラヴィーナは背中をのけぞらせながら絶頂を迎えた。ドロドロとした精液が子宮を犯し、甘美な至福が全身を満たしていく。
荒い息をつきながら、ラヴィーナは肩越しに振り返り覆いかぶさってきたリュウガと口づけを交わした。口の中の唾液を交換し合い、ついばむように唇を動かす。リュウガの伸ばした舌をラヴィーナはまるで男性器のようにしゃぶり、吸っていた。
そうしながら、子宮全体がリュウガで染まり、身も心も彼に落ちた事を実感しながら、ラヴィーナは限界を迎え、ついに意識を失った。
「……」
隣を見れば、幸せそうに寝息を立て、安らかに眠るラヴィーナの顔がある。頬を軽く撫でてやるとくすぐったそうに掌に頬を擦りつけてくる。
一見、高圧的で邪悪な魔物娘に見えるが、実際は寂しがり屋の甘えん坊なのだろう。
そんなラヴィーナを見下ろしながら、リュウガは「仕事」に取り掛かる事にした。
あの神父から依頼された仕事を忘れたわけではない。
(…悪く思うなよ)
「素晴らしいですな、リュウガ殿」
街に戻り、教会を訪ねてアルに結果報告をするとこの神父は満面の笑みとなった。あまり好きな顔ではないが、報酬をもらうためにはこの男に会わなければいけないのだから仕方がない。
「…報酬をもらおうか」
「分かっております。こちらですね?」
そう言ってアルが差しだした大きな袋には金貨が山のように入っていた。リュウガはそれを確認すると、黒い壺を差し出した。
「リュウガ殿…これは?」
「…神様以外信じないアンタの事だ。証拠が欲しいだろうと思って…な」
壺はひんやり冷たく、禍禍しいオーラをまとっていた。入口には札が大量に貼ってある。
アルは中身が何かは分かったが、一応尋ねた。
「中には何が…?」
「心臓だ…その一部が入っている……決して開けるなよ…開ければ魔物は甦るだろう」
そう言い残し、リュウガは教会から出て行った。
その背中を見送り、アルは疲労と達成感の混ざったため息を吐きだした。
(調査隊を送るつもりだったが…手間が省けたな)
ニヤリと笑い、アルは壺を自分の部屋まで運んだ。
魔物の心臓、その一部が入っている壺を神の下に置くのはどうかと思ったが、逆に神の下で浄化すべきではとも思えたのである。
決して開けるなよ。
リュウガの言葉が頭にこだまする。その度にアルの中で好奇心が顔を出し始めた。
そして、アルはリュウガの言葉を無視した。浄化するために一度は開けなければならないのだ。それにあんな小汚い傭兵の言葉など信じていられない。
大量に貼ってある札を剥がし、壺を封じてある蓋を外し、中身を見た。
そして、目が点となった。
「…へ?」
そこには想像していた禍禍しい魔物の心臓など無く、代わりに紙切れが1枚だけ入っていた。アルは恐る恐る紙切れを取り出し、何なのかを確認した。
紙には簡潔に、一言だけ書かれていた。
『バカ』
「あ、あのクソヤロウ…!!」
神に支える者としてあるまじき暴言を吐き散らし、アルは勢いよく部屋を飛び出た。教会のドアを蹴り開け、通りを見まわすも、リュウガの姿は影も形も無くなっていた。
「……」
(速い!速い!無理無理!!)
リュウガは街から離れ、砂漠の海を砂上船と呼ばれる船で渡っていた。風を受け、砂の上を滑るように進むその船は砂漠の民にとって無くてはならない必需品であった。
しかし、リュウガの乗っている砂上船は通常ではありえない速度で進んでいた。
それもそのはず、その砂上船はサンドウォームと呼ばれる魔物娘が引っ張っていたのだ。砂漠でサンドウォームと商人の夫婦と偶然出会い、親魔物領へと連れて行ってもらえる事になったのだ。
風を切り、砂を切り裂いて船は物凄い速度で進む。
「ね、ねぇ…これ、もっとスピード落とせないの?」
ふと、後ろの荷台から声が聞こえる。
振り返ると、荷物に紛れて隠れていたラヴィーナが不安そうな顔でリュウガを見上げてくる。青い顔がさらに青くなっている。
「…ど、どうだろうな?あの商人達と連絡する手段が無いから、無理だ。お、おぉぉぉ…」
「んぐ、そうな、の…?」
ガタガタと揺れる荷台からラヴィーナは出るとリュウガの隣に腰を落ち着けた。
「ま、まぁ…新婚旅行の思い出だと思えば…ね?」
「ま、まぁな……」
甘えるように寄り添ってくるラヴィーナを抱きしめ、リュウガは確かな幸福を噛みしめていた。この先どうなるか分からない。何があるかも分からない。
「それよりも…ねぇ?」
ラヴィーナが怪しく笑う。
「私は欲張りなの。リュウガとずっと、ずぅーっと繋がっていたいの。だからぁ…」
腰布を脱いで、ラヴィーナは自分の秘所をゆっくりと拡げた。そこはすでに濡れきっており、リュウガを欲しがりヒクヒクとしている。
「ここにぃ、早く欲しいのぉ…ね、お願いよぉ…早くぅ」
見た目とは裏腹に可愛らしい声でおねだりしてくるラヴィーナに我慢できず、リュウガは彼女を押し倒した。
頬を優しく撫でてやり、ちらっと横を見ると大量の金貨が入ったあの袋が目に入った。
(…悪く思うなよ、神父様)
終わり
16/07/08 17:36更新 / ろーすとびーふ泥棒