読切小説
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武者修行に行った人虎が寂しくなって帰ってきた。

 「財布は持ったか?」

 「あぁ」

 「着替えは?」

 「持っている」

 「知らない人に話しかけられても付いて行くなよ?」

 「子ども扱いするな!!」

 しつこく聞いてくるシドに人虎の夜薙(やなぎ)は声を荒げた。
 人虎は虎の特徴を持った獣人である。強靭な肉体と高潔な精神を持っている。生まれながらの武人であり、非常に理知的な魔物娘だ。他の魔物娘のように色恋沙汰に夢中というわけでは無く、彼女達は常に自らを高めようと厳しく律している。
 人と魔物娘が共存するようになってからは人虎を人間の経営する道場などで見るようになり、人間以上に理性的で物静かな彼女達に憧れる者も多い。
 気高く、美しい人虎は確かに憧れを抱かせるだけの存在である。
 だから、シドは不安になるのだ。

 「何言っているんだよ、お前…だって、いつも」

 「今度こそは大丈夫だ。お前が心配する必要はない」

 シドの言葉に夜薙はフンと鼻を鳴らした。

 「それよりもシド、私がいないからって寂しくなって泣くなよ?」

 「オレは……」

 大丈夫と言いかけてシドは言葉を止めた。
 ここで大丈夫と言っては夜薙の機嫌を悪くさせるだろう。プライドの高い彼女の事だ、自分がいなくて平気とは何事だ!?と拗ねられては面倒な事になるのは目に見えている。
 だから、シドは顔を伏せ言葉を選んだ。

 「そうだな、夜薙がいないと寂しい。だから、早く帰ってきてくれよ?」

 「そうだろう?安心しろ。私もお前を長く、1人にするつもりはない」

 シドの言葉に夜薙は満足そうに微笑んだ。
 そんな夜薙にシドは苦笑したが、決して今の言葉はまったくの嘘ではない。ある程度本音も入っている。

 「では、行ってくるぞ」

 「あぁ、気を付けてな」

 夜薙は荷物を肩にかけ、家から出て行った。シドはその後姿を確認すると、ゆっくりと台所へ向かった。
 人虎である夜薙は己を高めようと武者修行に「何度」も旅立とうとした。彼女曰く、常に上を目指しそのための努力を怠ってはならないとのことだ。その姿勢は見習うべきだとシドも考えている。
しかし、シドは1つの心配事を抱えていた。今回こそ大丈夫だと良いが…
 朝食の残りを片付け、食器を洗い、昨日仕込んでおいた料理をチェックするとシドは湯を沸かし、棚からまんじゅうを取り出す。ジパングで学んだこのまんじゅうはシドの得意料理の1つだ。お湯が沸騰したのを確認すると、シドは湯呑に茶葉を入れてお湯を注ぐ。
 ふわりと鼻腔に広がる豊かな香りに、美しい緑色のお茶が見ていて心を落ち着かせる。

 (そろそろか?)

 夜薙が家を出て数十分、いつもならそろそろのはずだが…?
 シドがそう考えていると、扉を叩く音が聞こえた。それは小さく、注意していなければ聞き逃すほどだ。
 再び扉が叩く音が聞こえる。シドはため息を吐き出し、玄関へ向かう。
 玄関につき、扉をゆっくり開けるとそこには旅立ったはずの夜薙がいた。

 「……」

 唇を噛みしめ、悔しそうに伏せられたその目には今にも落ちそうなほど涙が溜まっている。拳を作った手がプルプルと震えており、鼻をすする音が空しく響く。

 (今回も駄目か…)

 シドは内心はそう思いつつも表に出さず、無言で夜薙を家に入れる。夜薙もそれに逆らわず、大人しくシドに従った。
 シドの心配事はこの事だ。
 夜薙は心細くて1人旅をする事が出来ないのだ。





 「……私は駄目な人虎だな」

 それから数分後、湯呑に注がれた緑茶に映る自分の顔を見ながら夜薙は呟いた。その口調には自虐、嫌悪感の他に複雑な感情が混じり合っているのをシドは見逃さなかった。

 「そう自虐的になるな。ほら、まんじゅうだぞ」

 「……」

 差し出されたまんじゅうとシドの顔を交互に見つめ、夜薙はおずおずとまんじゅうを頬張った。夜薙の大好物のはずなのに、夜薙の顔は暗いままだ。

 (重症だな…)

 黙々とまんじゅうを食べる夜薙を見つめ、シドは彼女と出会った時の事を思い出していた。
ちょうど1年前、ジパングで料理修業を終え、帰国したシドはとある山の中で山賊に襲われた。それを助けてくれたのは夜薙だった。
 武器を持った屈強な男達に囲まれ、死を覚悟していたシドだが、夜薙がその場に現れ山賊達を打ち倒したのだ。
 夜薙にやられた部位を押さえ、罵詈雑言を浴びせながら山賊は逃げて行った。
 シドは礼を言おうと夜薙に近づいた。
 そして、彼女が泣いている事に気が付いた。
 月明かりに照らされ、彼女の頬を一筋の涙がこぼれ落ちる。山賊達の血で染まった手を見つめ、その表情は言葉では言い表せないほど悲痛なものだった。シドはその顔を一生忘れる事はないだろう。
 その時は何故、彼女が泣いているのかシドには理解できなかった。
 しかし、一緒に生活するようになってからその理由を知った。
 夜薙は暴力が嫌いなのだ。





 「はぁ…」

 夕食を終え、一息つくと夜薙は自室にこもった。そのまま簡易な作りのベッドの上に身を投げ出す。
 その上で激しい自己嫌悪に襲われていた。

 (本当に私は…情けない)

 自分の甘ったれにうんざりし、夜薙は髪をかき上げた。
 1年前のあの日、シドを助けてからは彼の家に居候という型でこの家で彼と住んでいるが何もできずにいた。
 家の手伝いをしようにも生来の不器用から逆にシドの足手まといとなり、料理の勉強をしようとしても未だにまともに作れない。最近、ジパング料理のオニギリを握れるようになったぐらいだ。働いて家賃・食費ぐらいは払おうとしても彼女に紹介される仕事は武術や柔術の師範代ばかりだった。
 武術も柔術も彼女はやっていないし、他の人虎のように人間に教えられるほど器用でもない。
そんなこんなで今ではすっかり彼に養われている。

 (私は…何もできない。駄目な人虎だな)

 グスッと鼻をすする音が妙に響く。
 そんな夜薙をシドは決して追い出そうとせず、逆に彼女を支えてくれている。そんなシドに申し訳なく、夜薙自身も何か恩返しをしようと思ったが何もできていない。
 彼の優しさにまだ何も返せていない。
 このままでは良くないと分かっていた。だから、何度も武者修行に行こうとした。しかし、再び山賊のような相手と出くわして暴力を振るう事、そしてシドと離れまた1人ぼっちで旅をする勇気が今の夜薙には無かった。
 いつの間にかシドに依存している自分に夜薙は気が付いた。

 (……私は)

 何が出来ると言うのか、こんな自分に。
 シドのように確かな夢も持っていない。
 以前、彼が話していた。シドには立派な料理人になって店を持つという夢があった。1人でも多くの人に美味しい料理を安く食べて欲しい、いろんな国の料理を味わってほしい。そんな純粋な願いだ。
 夜薙はそれをとても素敵な夢だと思った。同時に羨ましかった。彼の夢は誰かのため、そしてとても平和な夢だ。
 自分には夢が無い。それどころか、彼の夢に自分のような者の居場所があるのか?
 彼のお荷物となっている自分はシドといてはいけないのではないか?
 考えれば考えるほど、自己嫌悪に落ちて行った。
 
 「……」

 彼の邪魔はしたくない。彼の足は引っ張りたくない。
 ならば、今すぐにでも出て行くべきだ。彼の元を離れるべきだ。
 それがお互いに良い方法なのだ。

 (でも…)

 それが出来たらどれだけ楽だろうか。
 彼とサッパリ別れる事が出来たらどれだけ楽だろうか。
 出来ないからこそ苦しいのだ。
 シドと離れる事は嫌だ。彼が隣にいなければ嫌だった。

 「シド……」

 彼の事を考えるだけで胸が痛い。
常にいるのに何故か遠い。
 彼の事を考えるだけで……

「あ…や、また…」

気が付けば、愛液が滴り落ちていた。それは太ももを濡らし、秘所がすっかり濡れた証しでもある。
 最近はいつもこうだ。彼の事を考えるだけで身体が熱く、同時に切なくなる。
 獣欲を押さえようと夜薙は集中したが、既にその程度で収まるレベルの欲望ではなかった。
 夜薙は我慢できず、自分の秘所に手を伸ばした。

 「あぁ、んくぅ…」

 指をそっと秘所の割れ目に沿って動かすと、口から喘ぎ声が漏れた。シドに聞かれる可能性もあったが、自分の胸をゆっくりと揉み、服の上からでも分かるほどすっかり勃起した乳首を摘まむとそんな考えは消し飛んだ。

 「あぁ…シド…シドォ…」

 シドの名を呼びながらの自慰、夜薙は声を押し殺す事が出来なかった。





 (どうしたものか……)

 自室で本を読みながら、シドは物思いにふけっていた。考えているのは夜薙の事だ。
 彼女の悩みにシド自身も真剣に考え、悩んでいる。
 何度か彼女の修行について行こうとも考えたが、その度に夜薙に止められた。

 「お前は料理人として店を持つ事が夢なのだろう?私の修行について来てはその夢を叶えるのは難しくなる。私のために夢を諦めて欲しくはないのだ」

 彼女の言うとおりだった。
 幼い頃より料理人として腕を磨き、店を持つ事がシドの夢だった。夜薙の修行に付き添い、各地を転々としては店を持つ事は出来ない。
 いつか、何処かの地に落ち着く事もあるのだろうが、それはいつになるのか分からない。
 しかし、それでもシドには夜薙を放っておく事は出来なかった。
 夢か夜薙か、二者択一とは何とも嫌な問題だ。
 どちらを選んでも、結局はどちらかを失う。二兎追う者は一兎も得ずとはまさにこの事だ。

 (オレは…)

 どうすればいいのか、と頭を抱えていると、不意に夜薙の声がシドの耳に入ってきた。

 「んくぅ…あぁ、シドォ…」

 「?」

 くぐもってはいるが、妙に艶のある夜薙の声にシドは首を傾げた。
 もしかしたら、具合でも悪いのかもしれない。
 シドは部屋を出て夜薙の部屋に向かった。

 「夜な……!」

 夜薙の部屋は完全に扉が閉まっていなかった。その扉の隙間からそれは見えた。
 月明かりに照らされ、ベッドの上で夜薙は自慰に耽っていた。胸を自ら揉みしだき、秘所をまさぐる指の動きは次第に激しさを増している。すっかり熱に侵され、蕩けきった夜薙の顔は今まで見た事が無いものであった。
 うっすらと浮かぶ汗が月明かりに反射し、淫らではあったがそれでも美しいと言えるものであった。
 そう言えば、聞いた事がある。人虎は普段は冷静で人間以上に理知的な面が目立つ魔物娘だが、発情期に入った個体ではそうはいかない。今まで押さえてきた欲望が溢れだし、どの魔物娘よりも激しい性行為を求めるのだという。
 夜薙も発情期に入ったのかもしれない。

 「は、んんん…シド…♪」

 欲望に支配されたその表情でシドの名前を呼ぶ夜薙、その光景を見てシドは段々と我慢が出来なくなってきている自分に気が付いた。
 自分の名前を呼びながら自慰に耽っている夜薙はつまりそういう目でシドを見ていたのだろうか?

 「ッ…夜薙…」

 「はぁー…え?」

 シドは思わず、夜薙の名前を呼び、部屋に入った。夜薙は名前を呼ばれ、自慰を止め入ってきたシドの顔を見つめた。熱に蕩け、理性を失っていたその瞳にまるで朝日が昇ってくるかのように理性の光が戻ってくる。

 「え、や…シ、シド?ど、どうして…?」

 「いや…その、すまん」

 シドは思わず謝ったが、それでどうにかなる問題でも無い。

 「シド、や…んんん」

 しかし、夜薙は再びシドの目の前で自慰を始めた。
 その瞳には再び熱が戻ってきていた。

 「や、夜薙…?」

 「ふあぁ…み、見るなぁ…見ないでくれぇ♪あ、あぁ…」

 夜薙は秘穴に指を軽く挿入し、溢れだす愛液を指に絡め、そのままグチャグチャとかき回す。愛液がとめどなく溢れ、次第に淫らな水温が部屋中に響き、その淫らな雰囲気にシドは飲み込まれつつあった。
 ドクン、ドクンと心臓が脈打つ音が痛いほど聞こえる。
 夜薙の甘い声が耳を打ち、夜薙ぎの自慰から目が離せなくなる。

 「んくぅ、シド…や、頼む…見ないで、こんな…あんん」

 「夜薙…ッ!」

 シドはついに我慢できず、ベッド上の夜薙に覆いかぶさった。

 「にひゃ!?シ、シド…?」

 「夜薙…すまん、もう我慢できそうにない」

 「え…?あ…」

 シドが夜薙の手を取り、自らの股間に招くとそこは既に大きく張り詰め、ギチギチと痛く熱く勃起していた。
 夜薙はドクンと心臓が一際大きく脈打つのを体で実感した。
シドが求めている。こんな私を…
 こんな私を…?良いのだろうか、このまま彼に求められて。彼を求めて。

 「あ、あぁ…シド」

 「夜薙…」

 「ん、いいのか?なぁ…」

 「何が?」

 見れば夜薙は熱に蕩けきりつつも不安そうな顔でシドを見上げている。

 「わ、私…もう我慢できないんだ…お前が欲しくて、欲しくて仕方がないんだ。でも、お前の…シドの気持ちは無視したくない……な、なぁ?どうなんだ?お前は…私なんかで良いのか?」

 「…夜薙、オレはお前が良い。お前じゃなきゃダメなんんちゅ!?」

 シドが最後まで言うのを夜薙は許さなかった。覆い被さっているシドを逆に押し倒すと、唇を押し付けた。まるで貪るように唇をついばむと、舌でシドの唇をかき分けるとその口内を舐め回す。熱く蠢く舌がシドを絡め取る。かと思えば、唇の粘膜を舌でなぞり、歯の裏側もまた舌でなぞった。

 「はむ、んちゅ…ぷふぁ…!」

 「や、夜薙…!ちょ、ちょっんぶ!」

 「お前が…お前がいけないんだ…!お前があんな事を言うから、わ、私だって我慢できなくなって…!」

 ギラギラと欲望が燃える瞳に普段の理知的で冷静な面は見られない。そこにいるのは1匹の魔物娘だった。
 獣のような口付けを終えると、夜薙はシドの服を脱がしていく。全てを脱がせると夜薙はその胸板を指で撫でる。撫でるたびにクスリと夜薙は微笑む。
 シドも負けじと夜薙の服を脱がせた。夜薙は身体をピクリと震わせたが、特に抵抗もせず逆に脱がされる事を楽しんでいた。
 虎柄のブラをずらすとまるで風船のように膨らんだ乳房が大きく揺れた。桜色した乳首がツンと立っている。
 それはまるでシドの愛撫を待っているかのように自己主張をしていた。
 シドはそれに応えるように、まるで赤ん坊のように目の前の乳房にむしゃぶりついた。

 「ひぐッ…!うぅ、シドォ…!」

乳首だけでなく、乳房全体に舌を這わせ、もう片方の膨らみを揉みしだく。そこにはテクニックも何もない。ただ、それでも愛情はしっかりと伝わってくる。それがとてつもなく嬉しかった。

「くふぅ…ま、まるで赤ん坊だな♪」

 夜薙はそう呟くとすっかり愛液で濡れた自分の指でシドのモノを握った。すると、肉棒全体が震え、シドは呻き声を上げる。それを満足そうに見つめ、夜薙はゆっくりと上下にしごきだした。
 初めて握る男の欲望に夜薙はゾクゾクとした感覚を覚え、それに酔うように動きを速く、シドに尽くす。シドのモノは大きく、熱く、凶悪なまでに反り返っていた。竿に愛液を塗るように指を動かしつつ、亀頭の部分を軽く親指で撫でてやるとシドは身体をビクンと震わせた。
 お互いそうやって愛撫しあっていたが夜薙はふとシドの身体から離れると、顔をシドの肉竿に近付けた。
 汗と香ばしいほどのオスの匂い。それが夜薙のメスを刺激する。
 夜薙は自らの愛液とカウパー液ですっかり濡れたシドのモノの根元を掴むと、躊躇せずに亀頭に唇を当ててそのまま全体を咥え込んだ。

 「うぐ…!夜薙」

 「んふ?ろぉひた?」

 咥えながら上目づかいに見つめてくる夜薙、その頭をシドが撫でると夜薙は気持ち良さそうに目を細め、口による愛撫を続けた。
 グチュグチュと唾液で卑猥な音を奏でつつ、夜薙は器用に頬の粘膜に亀頭を擦り付け、竿に舌を絡ませる。

 「あむ、んちゅ…ぷはぁ…んんん♪」

それだけでなく、いったん口を離すと舌でエラの部分を丁寧になぞり、尿道を舌先でほじるような責め、竿に唇を当ててまるでハーモニカを吹くようにシドの欲望に奉仕を続ける。

 「んく、どうだ?気持ち良いか?」

 「あぁ、く、夜薙…」

 「あぁ、シド…シドォ♪」

 すっかり発情しきった夜薙は嬉しそうにシドの名前を漏らすと、ふたたびパクッと亀頭から咥え込んで頭を上下に激しく動かした。
 シドはこれ以上我慢できそうになかった。思わず腰が引くが、夜薙はそれを許さず、シドの腰を両手でガッチリと捉え、逃がそうとしなかった。
 それは不意に訪れた。
 何の前触れも無く、シドは夜薙の口内で果てた。
 
 「んんんん!?ぐ、んぶ…ちゅるるる♪」

 大きく膨張したそれ、その直後に放たれた大量の精に夜薙は驚き、目を見開いたがすぐにトロンと目を細め、口内の精をゆっくりと喉に流し始めた。
 唇で竿を締め、溢れてくる精を飲み込んでいく。射精している間もまるで促すように吸っていた動きも今では止まっている。
 苦く、生臭いそれは飲み込むのに苦労したが、喉を通過し身体全体に染み込むような奇妙な錯覚に夜薙の身体は熱く、もっと欲しいと願っていた。

 (あぁ、出したのにもうこんなに…)
 
 しかし、シドの欲望はフェラでは収まりきらないほどに再び大きく高ぶっていた。夜薙は目を潤ませ、その欲望から目を離す事が出来なくなっていた。
 見つめるたびに鎌首をもたげる魔物娘としての本能、夜薙はもはやそれに逆らうつもりは無く、身を委ねていた。
 根元に舌を当て、ゆっくりと上へと進んでいく。下腹部から胸筋、首筋、頬と舌を這わせ、シドの唇を再び塞ぐ。
 ねっとりと舌を絡ませ、お互いの唾液を交換し合いながらも夜薙は手でシドの竿をしごくのを止めなかった。
 シドも夜薙の唇、舌を味わいながらも胸や尻への愛撫を止めなかった。
 先に我慢が出来なくなったのは夜薙であった。
 唇を離すと唾液が糸を引き、2人をつないでいた。夜薙はシドに跨りなおすと、シドの肉棒を掴みその先端を自らの秘所に擦り付け始める。

 「あ、あぁぁ…」

 口から切なそうな吐息が漏れる。肉棒を軸に夜薙は円を描くように腰を左右前後に揺すった。そして、そのまま腰を落とした。

 「んが…!ぐ、うぅぅ…」

 「や、夜薙…!」

 結合箇所から滴り落ちる純潔の証、一筋の血が夜薙の白い肌では嫌というほど目立つ。夜薙も苦痛に顔を歪め、目尻に涙を貯めていた。
 シドは夜薙の苦痛を紛らわせようと大きく揺れる胸へと手を伸ばした。

 「や、あぁぁ…ふあぁ」

 痛みと快楽、その狭間で夜薙の思考回路はすっかりとろけている。胸を揉みしだくシドの腕を掴み、もっと揉んで欲しいと言うかのようにシドの腕を使って自分の胸を愛撫する。

 「あ、ンン…ふふ♪」

 怪しく嬉しそうな夜薙にシドは我慢できず、腰をゆっくりと動かした。

 「んぎ…!ッあぁぁ、んんん♪」

 下からの突き上げに夜薙は一瞬、目を苦痛に歪ませたが、すぐに目尻が快楽によって下がった。しばらくはそのままシドに突き上げられていたが、やがてシドの動きに合わせて自ら腰を揺すり始める。
 
 「あはぁッ!シドォ…いい、気持ち良いぃぃ!」

 「あぁ、オレもだ。夜薙…!」

 夜薙の中は熱く蠢き、愛する男の形、大きさを覚えるかのようにギュウギュウと締めつけてくる。竿に絡む肉の動きは確実にシドへ快楽を与えてくる。まるで熱したゼリーのように柔らかいその感触にシドはすっかり夢中になって夜薙の身体を突き上げた。
 夜薙も今まで味わった事の無い快楽にすっかり夢中になっていた。シドを想いながらの自慰とは比べ物にならない。
 下から突かれる動きに合わせて大きな胸が揺れる。その度に汗が飛び散り、月光を反射してキラキラと輝いていた。
 再び、シドは射精の感覚を覚えていた。先ほどの口淫で一度出したものの、夜薙の秘所は何度でも射精を促す魔性の物のようにも感じる。

 「は、ああぁぁぁ!な、これッは…出すのか?あくぅ!また出すのか?」

 「や、夜薙!夜薙!」

 「んあ、いっぱい出せ!ぜ、全部ぅ受け止めるからぁぁぁ♪」

 お互いに早い絶頂の波に呑まれつつ、動きを激しくする。結合部からは愛液が噴き、急速に絶頂へと導いていく。
 夜薙は支えきれなくなった身体をシドに倒し、そのまま彼の身体を抱き締める。シドも抱き返し、そのまま乱暴に腰を打ちつけた。
 そして、大きく膨れ上がったかと思うと2人は同時に達した。

 「ひあッ!ああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 夜薙が絶頂の叫びを上げ、シドもそのまま夜薙の中へ精を吐き出した。肉棒は痙攣を続け、夜薙の秘所は収縮を繰り返し、放出される精を飲み干すようにブルブルと震えた。やがて、射精は収まったが、シドのモノはまだ満足しておらず、固いままだった。

 「ハァー…ハァー…」

 夜薙は抱きついたまま肩で荒い息を繰り返し、余韻に浸っている。シドは片方の腕で夜薙の体を押さえつけるように抱くと、もう片方の手を夜薙の尻へと伸ばした。
 むっちりと肉付きが良く、シドの手を受け入れつつも跳ね返すような弾力のある尻。それを撫でて、揉んでやると夜薙は軽く息を漏らし、悶えた。
 シドはそのまま指を進め、もう1つの穴を指で軽くつついた。

 「ひゃ!?シ、シド!何を…!」

 それには夜薙も慌てた様子で、下にいるシドを信じられないような顔で見つめた。しかし、シドはそれでも止めず、丁寧になぞるように指の腹で刺激を与えてやる。

 「や、あぁ…シド、そこは汚いからぁ、んんん!」

 イヤイヤと子どものように頭を振る夜薙だが、決して逃れようとはしなかった。繋がったままの秘所からは精液を押し出すように再び愛液が溢れ始めている。
 シドは入口を責めていたが、そのままゆっくりと指を挿入した。

 「あぐ…!ひあぁぁあッ」

 言葉にならない声を上げ、夜薙は口をパクパクと動かす。シドは指を第一関節まで入れ、そのままゆっくりと進めて行く。腸液が指に絡み、異物を押し出そうと蠢く腸壁、しかし入口はシドの指を引きちぎるほどの力で締めつけてくる。それは痛みすら覚えたが、同時に決して放さないと言っているようにも感じられた。

 「あ、おぉぉ…くはぁあぁ」

 苦痛に呻く夜薙の声は色を帯び始める。最初は逃げるように腰を揺すっていたが徐々にシドの指の動きに合わせて揺さぶる。
 そのままゆっくり出し入れをしてやると、夜薙の反応は確実に良くなってきていた。
 夜薙の全てが欲しい。
 そう考えると、シドは夜薙を押し倒し、体位を変えた。

 「や!な、何を…!」

 夜薙は慌てたが、既に遅かった。
 シドに背を向けさせられ、四つん這いとなった夜薙の尻をシドは掴み、マッサージするかのように愛撫する。その刺激に夜薙は緩やかな快楽ともどかしさを感じていた。
 それにさっきの尻穴への愛撫。
 あまりこういう事に詳しくは無い夜薙でもシドが何を求めているのか分かった。
 シドは自分の全てが欲しいのだ。
 全てを染めて彼の物にしたいのだ。
 そう感じると夜薙は逆らおうとはせず、むしろ全身を彼の物にして欲しいと感じ上体をベッドに付けシドに良く見えるように腰を上げた。

 (くぅ…恥ずかしい、で、でも…)

 シドの視線が痛いほど感じられる。
 夜薙は唇を噛みしめ、両手で尻肉を広げると、もう1つの穴が見えるようにした。そこは既に先ほどの愛撫でヒクヒクと蠢き、シドを誘っている。
 シドは無言で肉棒の先端を入口に当てる。その刺激ですでに夜薙の身体はびくりと震えた。

 (でも、あぁぁ…心地良いぃぃ♪)

 そのままシドは腰を進めた。

 「ぐ、あおぉぉぉ…」

 「んく!…やな、ぎぃ…」

 夜薙の尻は驚くほどすんなりとシドを受け入れた。初めてだと言うのにまるで最初から受け入れる事を前提に存在しているかのような、シドのためにあったような不思議な感覚。肉竿が付き進んでくる背徳感に夜薙は痺れるほどの快楽を見出した。
 生殖器ではない。不浄の門でシドを受け入れている。
 そう、これは決して生殖行動とは言えない。子を成すための行為ではなくただ、快楽を貪るためだけの行為。
 受け入れる場所ではない。
 そんな禁足的な行為に夜薙はすっかり酔いしれていた。

 「あ♪…はぐぅぅぅ」

 尻穴で根元まで咥えると、シドはゆっくりと腰を前後に動かし始めた。カリが腸壁を擦り、伝えてくる甘く危険な快楽。夜薙はそれを受け入れ、腰を動かし始める。
 シドもまた同様であった。
 擦れる度にまるで削られていくようなゴリゴリとした感触、腰を打ちつけるたびにタプンと波打つ尻が目を楽しませる。

 「んあぁ!お、お尻!お尻ぃぃぃ!」

 下半身から上半身へ背筋を駆け抜けるゾクゾクとした快楽に夜薙は犯され、何も考えられなくなっていた。口からはだらしなく舌を垂らし、まるで獣のように喘ぎ、シドを受け入れていた。
 シドは夜薙の尻を掴んでいた手を離し、覆い被さるように夜薙の背中に倒れると胸に手を伸ばした。

 「や、あ♪あぁぁぁぁ!」

 不意に訪れた胸への愛撫に夜薙の身体は喜び、身体をくねらせた。シドは夜薙の愛撫をそのまま続けつつ、腰の動きも速める。
 夜薙もまたシドに合わせつつ、自分も快楽を貪るために貪欲に腰を動かし、シドの肉竿を締めるように力を込める。

 「シ、シド…!キス、や、キスぅぅ♪」

 夜薙のキスのおねだり。
 普段の彼女からは考えられないような素直で愛らしい態度にシドは妙な満足感を覚えながら、夜薙の両胸を優しく掴んで上半身を持ち上げた。上体が起き上がり身体を支える事が出来なくなった夜薙はシドの手で支えられている。その不安定な姿勢のまま、肩越しに振り返りシドに口付けをねだるように舌を突き出した。
 突き出された舌にシドは自分の舌を絡ませ、その舌を吸い、甘噛みしてやる。

 「んく…ちゅぷ、ぷあ…あは♪」

 シドとのキスを嬉しそうに楽しみながら夜薙はシドの右腕を掴むとそのまま自らの秘所へ招き入れた。
 夜薙の意図をシドは汲み取り、そのまま秘所を弄り回す。肉穴に中指を根元まで入れて、愛液を掻きだすような動きに夜薙は歓喜に悶えた。
 前後の穴をシドに愛され、同時に征服されている。
 その事実が夜薙の欲望に火を注ぐ。

 「あ♪すご…んんんん!全部!全部、シドでいっぱいぃにぃぃぃ♪」

 シドに愛撫されながら、自らもシドと一緒に秘所をまさぐる。
 その痴態に2人はまるで1つになったような、互いの身体の境界線が溶けて混じり合ったような一体感を感じていた。
 シドのピストン運動が激しさを増し、急に膨張したかと思うとついに夜薙は派手な絶頂を迎えた。

 「ひはぁぁぁぁぁぁッ!あ、くぅあぁぁぁッ!」

 シドも夜薙ぎの絶頂と同時に射精し、夜薙の腸に思い切り解き放った。
 結合部から腸液と精液の混じり合った物が噴きだし、ベッドと2人の身体を汚したが、それすら気にならないほどシドと夜薙はお互いに満たされていた。





 「んぐ……?」

 瞼の向こうから暴力的なまでに照らされる日光に顔をしかめ、シドは目覚めた。
 まだ回らない頭でボーっとしていたがそのままゆっくりと身体を起こした。

 「……」

 「ん、すー…くー……」

 隣を見れば夜薙が幸せそうな寝息を立てながらまだ眠っていた。昨日はあれからずっと交わっていた。話に聞いていた通り、発情期に入った人虎の性欲は桁外れであり、夜薙もあれだけでは満足しなかった。夜薙が満足するまで抱いていたがその頃には空が明るくなり始めていた。窓から覗けば、既に日は高く昇っている。まだ昼ではなさそうだが、のんびりしている時間もなさそうだ。シドは悪戯っぽく夜薙の頬を軽くつついてやると夜薙は眉をしかめ、うっとうしそうに顔を反らす。

 「むー…ぐ…ん…すー……」

 シドはクスリと微笑むとベッドから起き上がり、台所へ向かった。
 夜薙の愛し合ったという事実、それは喜ぶべき問題だ。
 しかし、未だに根本的な解決は出ていない。
 夜薙か、自分の夢か。
 もちろん、今のシドには自分の夢よりも夜薙が大切であった。しかし、それでは夜薙が納得しないだろう。お互いが満足する方法は無いのだろうか……

 「ん……?」

 ボケーっと悩んでいると、不意にジパングで買った雑誌やパンフレットが目に入った。内容はジパング料理のものであり甘味、オデン、果物を使ったデザートといった季節も種類もごちゃ混ぜになったものだった。

 「あ……?」

 その中で、シドは気になる物を見つけ、雑誌を勢い良く掴み、その内容を食い入るように見つめる。
 そして、見つけた。二者択一の答えを。それを打破する案を。
 
 「そうか、この手だ…この手があったか!」





 「いらっしゃいませー!」

 「えっと、2人なんだけど空いてる?」

 「あい、どうぞ!夜薙、これ出してくれ!」

 「うむ。待たせたな、くるみ餡と黒蜜のゴマ団子だ」

 あれから数カ月後、シドと夜薙は旅をしていた。
 しかし、シドは夢を諦めたわけではない。それが今の生活スタイルだった。
 シドは1つの場所に店を構える事を止め、あの時雑誌で見つけた「屋台」を持ちながら大陸中を夜薙と共に回っているのだ。今考えれば、どうしてこんな簡単な事に気が付かなかったのか当時の自分に説教してやりたい気持だったが、まぁ結果オーライというやつだろう。
 夜薙は最初、難色を示していたものの今ではすっかりこの屋台で店を持つ事に馴染んでいる。
 大陸中を回っても夜薙の力を振るう事への恐れは消えなかった。
 しかし、シドはそれでも良いと思うようになってきていた。下手に暴力を好む性格になるよりは、誰かを傷つける痛み、誰かに傷つけられる痛みを知っている方がよっぽど良い。甘い考えだと笑われるかもしれないが、笑う奴は笑わせておけばいい。

 「おい、シド!ちゃんと注文を聞いているのか!?」

 そんな物思いにふけっていたシドを夜薙は叱り飛ばした。
 シドは慌てて注文を聞き返し、夜薙はハァとため息をついた。

 「まったく…せっかく軌道に乗ってきたんだぞ?いいか、そういう小さなミスが信頼関係を無くす事だってあるんだぞ」

 …最近、夜薙が口うるさくなったようにも感じるが、それはそれで良いのかもしれない。

 「そうだな、最近評判になり始めてからちょっと天狗になっていたのかもしれない」

 「ふん…分かればいい。ほら、早く早く」

 夜薙はそう言うと、やかんにいれてある緑茶を湯呑に注ぎ、今来たばかりの客に差し出した。
 そんな光景を見ると、シドは夜薙のいるこの時間、夜薙と経営するこの屋台を大切にしていきたい、そう思えるのだった。
 空は快晴、雲一つない。

終わり
15/12/29 00:32更新 / ろーすとびーふ泥棒

■作者メッセージ
どうも皆さん、こんばんは。
ろーすとびーふ泥棒です。


前回の投稿から約1カ月も経ってしまいましたが皆さまどのようにお過ごしだったでしょうか?僕はクリスマスで友達に蝋燭を垂らされたりと中々濃密な出来事がありました。
人虎ですが、大変素晴らしい魔物娘だと思います。
肉球はもちろんのこと、虎耳や尻尾の可愛らしさと凛とした美しさが同居した大変魅力的な魔物娘だと思います。肉球プニプニして真っ赤になった人虎にグーパンされたいお!
このSSを読んで少しでも人虎にキュンキュンしていただければこれ以上の幸せはありませぬ。

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