九十九君の日常 (1)
一ヶ月ぐらい前の事。父子家庭だった我が家に突如として大量の家族がやってきた。
父さんの“現地妻”達とその娘達。全員が魔物娘で、降ってわいた六名の美人姉妹達に俺は言葉を失った。
やがて両親組は再び海外へと旅立って行ったが、何を考えたか腹違いの姉妹達は我が家に定住してしまう事に。いやまぁ、家族が増えるのは良い事なんだけど、男一人は少し肩身が狭いよ!
美人だけど癖が強い魔物娘六姉妹に囲まれた俺こと九十九烈火の明日はどっちだ。
朝。俺は家族の誰よりも先におきだして、朝食の準備を始める。九十九家の家事担当は俺であり、姉妹達は全員家事下手だからである。
良いの、俺って料理とか大好きだから。というよりも、我が姉妹達は揃いも揃って優秀すぎるので、俺にも一つ位誇れるものがあったのは僥倖というべきか。
「という訳で、完成したのがこちらになります」
ミックスベジタブル入り炒り卵、ソーセージ、卵スープに白米。手軽に作れる我が家の定番レシピだ。
それでは、朝食作りに続く朝の重要任務にとり掛るとするか。
我が姉妹達は揃いも揃って寝起きが悪い。偶に起きていても身支度に手間取っている事が多い。
それを手伝うのが、俺の重要任務だ。
まず最初に長女であるアナスタシアお姉ちゃんの部屋に向かう。
「お姉ちゃん、朝だよー」
無反応。この場合の入室は許可されているので、俺は躊躇う事無く室内へと侵入。
アナスタシアお姉ちゃんはデュラハン種。その実力も然ることながら、趣味が刀剣収集というのだから一種のバトルマニアでなかろうか?
そんな事を口に出そうものなら、ボコボコにされちゃいそうだけど。
「お姉ちゃん、朝だよ。起きてって!」
「うぅん……」
手強い。……かと思われたが、瞼の辺りがひくひくと動いている。
貴様、狸寝入りしているな?
「お姉ちゃん、起きてってば。起きないと悪戯するよ?」
お姉ちゃんが更に固く目を瞑った。どういう事やねん。
しょうがないので悪戯決行。俺はお姉ちゃんの耳元に口を寄せると、ボソボソとお経を唱えてやる。
なるべく低く、静かに、それで居て情念を込めて……
「起きるから止めてくれ……!」
「はい、おはよう。お姉ちゃん」
ようやくお姉ちゃんが身を起こした。身を起こしたお姉ちゃんは、むぅ、と大層不満そうに頬を膨らませると、
「こら、お姉ちゃんになんて仕打ちをするんだ!結婚してやらないぞ!?」
「どういう脅しか知りませんけど、別に結婚しなくても良いです」
「そんなのお姉ちゃんが許さないぞ!」
自分が言い出した事なのにスゲェ怒られた。
アナスタシアお姉ちゃんは事あるごとに俺に求婚してくる。しかしお姉ちゃんは引く手あまたの人気者、何となく気遅れする。
というか俺、まだ高校生なので結婚できません。
「まったく烈火は頑固者だなぁ……だが、意志がぶれない事は良い事だぞ」
何をやっても褒められる。
「……とにかく起こしたからね。二度寝とかしないでよ、心配してないけど」
「ああ、二度寝しそうだ……弟よ、傍にいておくれ」
「今日の晩飯はピーマン尽くしで良いね?」
「そんなっ!? ……いや、これは烈火なりのSプレイ?私がドMである事を汲んでくれているのだな!?お姉ちゃんは嬉しいぞ!」
何をやっても褒められる……。
次は次女のミスト姉さんの部屋。声をかけて見るがやはり応答がないので、室内へ侵入。
姉さんの種族はサハギン。部屋内にはでっかい水槽が据えてあり、姉さんはその水槽内で就寝するのだ。
「姉さん、朝だよ!」
「…………!」
水槽をぺしぺし叩きながら声をかけると、姉さんは身じろぎをしつつ目を開けた。
やがて水槽の中から飛び出してくると、
「……!!」
「うひゃぁ!」
勢いよく俺へと抱きついてきた。
姉さんは抱きつき魔で、俺の姿を見ると直ぐに抱きついてくる。嫌ではないが、場所を選んで欲しいとも思う。
そんな事を考えている間にも、姉さんは俺の胸へと頭をぐりぐりと押し付けてきてた。くすぐったいし、柔らかいしで変な気分になっちゃうよ!
「姉さん、とりあえず着替えて。学校に遅刻しちゃうよ?」
「……もっと」
「通学路で腕を組んでも良いから、ね?」
「……着替える」
姉さんが渋々と言った様子ながらも離れてくれた。代償に俺の羞恥プレイが確定してしまった訳だが、俺と姉さんの学生生活のためには止むをえまい。
「じゃ、早く下に降りて来てね」
「(こくり)」
諸々の事情により三女はすっ飛ばして、四女の部屋へ。彼女の名前はステラ。俺と同い年でメドゥーサ種だ。
「ステラさーん、起きてますかー?」
応答なし。権限により室内へ侵入。
彼女の部屋は基本的に汚い。雑多に置かれた雑誌や脱ぎ散らかした服、下着などが散乱しているのだ
更に彼女の長い蛇体もスペースを取っているので、足の踏み場が無い。
「百年の恋も覚める、か……」
学校では綺麗で気さくなマドンナで通っているが、この姿を見たら皆どう思うであろうか……。
ちなみに俺は、こんなものなのかな、と思っている。むしろ生活能力以外は完璧超人なので逆に人間味を感じられると言うものだ。
人間じゃないけど。
「ステラ、起きろー!朝だぞーっ!」
「うぅん……」
返答がお姉ちゃんと同じだが、彼女の場合は本当に起きていないらしい。髪の毛の蛇たちも動かないし。
仕方が無いので布団を引っぺがして、強行手段に移る。
「おい、起きろって!遅刻するよ!? ……ん?」
ステラが何か胸に掻き抱いている。……これって俺のYシャツじゃん?
……ええい、深くは追求するまい。考えない、考えなーい!
「ええい、起きろ!」
「ふみゃぁっ!?」
力任せに尻尾を引っ張り、ベッドから叩きおとしてやる。
これには流石の彼女も目が覚めたらしく、ボンヤリとした目ながらも俺の姿を目に入れたらしい。
「あれ、れっか……?何でこんな所に……?」
「1.朝だから 2.君を起こす為 3.応答が無いから部屋に入った。さぁ、どーれだ?」
「……それって全部正解じゃない!」
ようやく目が覚めたらしく、勢いの良いツッコミが返ってきた。起床確認。二度寝の心配もないだろう。
「良く寝れた?」
「……目覚めは最悪だったけど、お陰さまで」
「ところでそのYシャツは何処から?」
「え? ……っ!!」
ステラの顔が超真っ赤になった。これ以上からかうとロクな事にならないので次に行こう。
「じゃ、食卓で会おう」
「ちょ、待ちなさい!これは違うの、烈火のシャツから放たれるα波がぁーっ!!」
五女はバフォメット種のクルミだ。魔物娘の中でも最強に近い種族とあって、最初はおっかなく感じた物だった。
「あ、おはようなのじゃ、兄者!」
「今じゃすっかり可愛らしい妹ですよ」
「?」
「何でもないよ。 ……それにしても、また遅くまでゲームをやっていたの?」
「う、うん……」
クルミがバツが悪そうに俯く。俺は、あはは、と苦笑しながらも彼女の頭を撫でてやる。
「別に文句を言っている訳じゃないよ。ただ、日中眠くならないかなぁ、って」
「その点はちゃんと考えておるぞ?」
「なら良し。 今度、一緒にゲームしような?」
「ならば新作の格ゲーを仕入れておこう! ……パズルゲーや戦略ゲーでは兄者に勝てる気がせん……」
バフォメットであるクルミが俺の事を兄と認めてくれた切欠は戦略ゲームだった。
「人魔大戦略」と呼ばれる図鑑世界発祥のボードゲームで、家族となった当日、クルミはこれで俺へと勝負を挑んてきたのだ。
その際クルミが使ったのは魔王軍第三騎士団と呼ばれる魔法部隊。対する俺はかつて図鑑世界に存在したとされる「宗教国家レスカティエ」を選択した。
結果は俺の圧勝。「宗教国家レスカティエ」はあらゆる意味でピーキーユニットだが、使いこなせれば魔王軍主力ユニットすらをも退けられるのだ。
「「宗教国家レスカティエ」とか使う奴は始めて見たのじゃ……強くても本拠地の政情や軍の士気管理はゲーム内で一番難しいのに……」
「そう言うの大好き」
「腹黒なのじゃぁ!でもそんな所も大好きなのじゃぁ!」
常々思うが魔物娘は盲目に過ぎると思う。
「まぁ、良いや。 じゃぁ、下で待ってるからね」
「解った!」
最後は六女の部屋。この部屋は色々な意味で危険だ。
「……夜霧ー?入るぞー?」
ドアを開けて侵入――――するなり、虚空から針が飛んできた!
「いい加減にしろ……!」
寸での所で回避した俺は懐から飴玉を取り出し、これと思った方向に投げつける。
「ひゃん!」
「今だ!」
投擲の目宙を確信した俺は、声の主に跳びかかり抑え込んだ。
暗さにようやく慣れた目に映るのは無表情ながらも綺麗な少女。
「……やはりお兄様は手強い」
「手強いじゃないよっ!」
彼女こそが我が家の六女、クノイチ種の夜霧である。
彼女は事あるごとに俺へと“暗殺”を仕掛けてくる。勿論殺される方ではなく、手籠めにされちゃう方だ。
朝から逆れいーぷ、とかちょっと勘弁してほしい。
「その割にはお兄様。先程から私の胸を揉みしだいておりますが」
「……気づいていなかった」
夜霧は俺より三つも年下の中学生なのに立派なお胸を持っている。何だっけ、D?
「Eに届こうとしております」
「心を読まないでおくれ……!」
兄の尊厳にかかわる。
朝御飯を食べると、家族はそれぞれの場所へと向かう。
お姉ちゃんは大学へ、クルミと夜霧は中学へ、残りの俺達は高校へ、という具合に。
お姉ちゃんと妹達を見送った後、俺はゴミ出しを済ませてから学校に向かう。
「……腕、組もう?」
「はーい」
姉さんの言葉に従って腕を差し出す。それに姉さんは嬉々として抱きつきうわぁ、やわらけぇ!
「ちょ、二人とも何やってんのよ!?」
それを見たステラが目を吊り上げて怒鳴る。朝っぱらからうるせぇ。
「往来の真中で叫ぶな」
「……めっ」
「だ、だって、目の前でいきなり腕組まれたりしたら……その、驚いちゃうでしょう!?私、悪くないわ!」
言っている事はまともだ。俺は姉さんと顔を見合わせると、
「確かに。 では、姉さん。腕を組みましょう」
「……解った」
「宣言すれば良いってモノじゃないの!」
ややこしい。そうやって喧々諤々と言い合っていると、背中に、ふにょん、とした感触が伝わってきた。
これは……!夜霧をも超える乳力……!!毎朝感じちゃってる感触……!!!
「おはようございます、ひーちゃん」
「おはよう、白河さん」
白河のどか。お隣に住む白蛇種の同級生だ。
何だかやたらとスキンシップが激しい人で、日常的にドキドキさせられていたりする。ちなみに“ひーちゃん”とは俺のあだ名で“烈火”の“火”からきているそうだ。
「ああ、一日ぶりのひーちゃんの背中……!この感触がどれだけ恋しかった事か……!」
そんな事をすると立派なお胸がますますむにょむにょと!くそぅ、何カップだ!?気になるぞ!
「せ、先日、Eになりました……ポッ」
「ええー!?白河さんまで俺の心が読めちゃうの!?」
「アンタが全部口に出してんのよ!」
ステラが、べりベり、と俺と白河さんを引き剥がした。離れるお胸の感触に安堵するやら残念がるやら。
というか思考が駄々漏れでしたか、俺。常日頃から独り言が多かったりしますか、俺。
「何をするんですか!?」
一方の白河さんは剣呑な視線をステラに向ける。対するステラの目も負けない位に鋭くなっており、髪の毛となっている小さな蛇たちは威嚇の声を上げていた。
二人は、うふふふ、と穏やかでは無い笑みを浮かべつつ、
「あーら、白河さん?天下の往来で何てはしたない。やっぱりそんな御下品なお乳を持っているからかしらねー?」
「あらあら、九十九さん?魔物娘なら男性を誘惑できて何ぼでしょう? まぁ、貴方のBにすら届かないほどの微乳ではそれもできないでしょうけど……」
「何ですってぇ!?」
「やりますか?受けて立ちますよ!?」
どうにもステラと白河さんは仲が悪い。メドゥーサと白蛇というラミア亜種同士だからか?
「何でだろう、姉さん」
「……ばーか」
何か姉さんまでもが不機嫌になった。往々にして良くあることだったりもする。
放課後は寄り道をしない。何故なら俺の帰りが遅いと、三女であるエリカ姉様が不機嫌になるからだ。
「只今戻りましたー」
「遅い!一体何時だと思っているんだ!?」
帰宅早々に御立腹なのがエリカ姉様。種族はヴァンパイアで朝方起こさなかった事情とはそういう事だ。
姉様はかなりの寂しがり屋。起床時に俺が居る事が理想らしいが、そんな無茶を言われても困る。
「これでも急いで帰ってきたんですが」
「もう五時だぞ! 貴様の高校の終業時間は四時位の筈!何処かで道草を食っていたに違いない!」
「いやまぁ、部活に顔を出しては来ましたけども」
「それが道草なのだっ! 貴様、主人の命令が聞けないのか!?」
「うーん……」
そもそも下僕という自覚が無い。ただまぁ、姉様の意向には出来る限り沿っておきたいと言う意志もある。
下僕とかじゃなく、単純にシスコン的な理由で。
「解った。出来る限りそうしてみるよ」
「う……」
俺の答えに姉様が気まずそうに声を漏らす。恐らくだが無茶苦茶を言っている自覚はあるのであろう。
けれども寂しいのも本心。だがヴァンパイア種の価値観では人間相手に素直に本心は吐露出来ないのだろう。
困った人だが、そう言う面倒くさい所がとってもかわいいと思うので問題ない!
「姉さん。今日のデザートは俺特製のプリンだからね」
「本当か!?」
「クリームも付けるから、今日の所はこれに免じて許してくれる?」
「……解った。 それと、これからはメールの一つは寄こせ。それ位は出来るだろう……?」
「はーい」
やっぱりとっても可愛い。
晩御飯を食べた後は家族全員で過ごす。我が家の決まりである。
そして大抵の場合は、家族の誰かが持ち込んだDVD等を見て過ごすのだった。
「じゃーん!今日は私の持ち込みーっ!」
今日はステラが持ち込んだDVDを見るらしく、そのタイトルを見た途端、姉妹達の目が輝き始めた。
「「怪盗ラブリエロ」!話題のラブロマンス映画じゃないか!」
「今何処も品薄だと聞いていたのだが……良く手に入ったな」
「ネットで予約しておいたの!昨日届いたんだけど、折角だから今日皆で見ようかな、って」
「「でかした!」」
ステラを褒めたたえる長女と三女を横目に俺は少し憂鬱な気分だった。
「ラブロマンス……」
「なんじゃ?兄者は何かご不満か?」
「まぁ、そう言う事になるかな」
クルミの問いに素直に答えて見る。
「男の子だとなぁ……ラブロマンスはなぁ……」
「全く見ないと言う事はなかろう?」
「一人で見ていたら寒いだろう」
「そんなものかのぉ?」
女性、特に魔物娘には理解できない感覚なのだろうか。でも男一人でラブロマンスとかインキュバスでも嫌だと思うんだけどなぁ。
そんな俺の心情を察したのか、隣に座っていた姉さんが、そっ、と手を握ってくれた。
「……今日は私達が一緒だよ?」
「ありがとう、姉さん」
ああ、姉さんは優しいなぁ。確かにこの姉妹達と一緒ならラブロマンスも楽しく見れるかもしれない。
…………いや、やっぱり家族と一緒に見るのは拷問かもしれない。幾らシスコンでも厳しい気がしてきた。
「あ、俺、明日の弁当の仕込みをしないと」
「明日は土曜日で弁当は要らないでしょう!」
遂にステラにまで見つかった。
「夜霧!得意の影縫いで釘づけにして!」
「御意」
ステラの指示と同時に夜霧は自身の尻尾を俺の影に突き立てた。夜霧の必殺技「影縫い」。相手の影を捉える事で、本人の動きすらも封じる秘術だ。
だがしかし、これ位なら解除してからの脱出など容易……
「だと思ったの!?」
ステラが自身の蛇体で俺の身体を拘束した。器用さには自信のある俺だが、たかが人間の力で魔物娘の力に敵う筈もなく。
ずるずるとリビングへと引き戻されてしまう……。
「……ふむ」
「? 何よ、まだ何かやる気かしら?」
「いや、そう言うのじゃなくて。 あれだね、ラミア種のホールドって存外に居心地が良いんだね」
「なっ!?」
ステラの顔が火を噴く様に真っ赤になった。何か面白くなってきたので、俺は蛇体を優しく撫でて見たり。
「このすべすべ感やひんやりした温度が良い。映画を見ている時はこのままでいてくれる?」
「しょ……しょうがないわね!? そ、そのこっちが好きなジャンルに付き合わせるんだからそれ位の役得は必要ですものね!?ええ、大歓迎よ!!」
「ステラ姉よ、ちょっぴり本音が漏れておるぞ」
「うっさい!」
「おい、そろそろ見るぞ!静かにしろ!」
姉様の一喝で静かになった一同は、映画の世界へと飛び込んでいく。
結論から言おう、これは拷問だ。
この映画は世界一と名高い怪盗とお転婆なお嬢様のラブロマンスなのだが、とにかく痒い。
演技、仕草、セリフ、演出、BGMのどれをとっても痒い。あと恋愛描写に力を入れ過ぎて、中々アクションシーンとかが入らない。
今、画面の中では怪盗とお嬢様が互いの気持ちを確かめあっている。これも痒い。
(皆はどういう顔をしてみているんだろう……)
試しに見回してみて―――――何となく後悔した。皆が皆、頬を染め、目を輝かせながら見入っていたのだ。
(うーむ、女の子はこう言うのが好きなのか……それとも魔物娘だからか?)
まぁ、俺には解らない感覚だな、と諦める事にしよう。寝落ち狙いで俺はステラの蛇体に頬を付く。
「ひぃん!?」
「うおっ!?」
途端にステラが嬌声を上げたんですの。家族達の視線は俺達に集まり、何だかちょっと気まずい。
暫くすると彼女は眼を吊り上げて、俺へと詰め寄った。
「な、な、何をしているのよっ!?」
「ステラの蛇体に顔を付けただけなんですけど」
「そんな……そんないきなりじゃ、困っちゃうわよっ!」
「何が?」
サッパリわからないので問い返すと、ステラは真っ赤な顔で、うー、と唸りだした。
多分だが怒っていない。髪の毛の蛇たちがこちらへとうねうねと擦り寄ってきているからだ。
「よしよし」
「ぁぁぁっ!!」
蛇たちを撫でたらステラが声にならない悲鳴を上げた。一体俺はどうすればいいのだろう……。
「所で一体、どうしてそんな事をしようと思ったんだ?」
「ちょっと眠いから目でも瞑っていようかな、って」
これ幸いと話題転換の為にお姉ちゃんの問いに正直に答える。
するとお姉ちゃんは、うむ、と頷き、
「烈火は何時も我が家の家事を一手に引き受けてくれているからな。疲れがたまるのも無理はないか」
そうしてから、ポン、とお姉ちゃんが手を叩いた。
「烈火!今日は労いの意味を込めて、お姉ちゃんが膝枕をしてやろう!」
リビングの時が止まった。
それから後の事は思い出したくない。ただ、皆を怒らせるような事は極力しないでおこう。その想いだけは胸に刻んでおこうと思う。
今作は『ブラコン』な魔物姉妹に囲まれた、『シスコン』である九十九烈火の日常をつづった物語である。
13/05/15 14:39更新 / うりぼー
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