連載小説
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デレデレ×デュラハン デレツン×ヴァンパイア
 
 
 
 
 
 
中間テストが近づいてきた。授業を聞いているだけで点数が取れる程頭が良くないので、参考書でも買いにいこうと思い立つ。
 
 
「ん? 何処かに出かけるのか?」
 
「あ、お姉ちゃん」
 
 
身支度を整えて部屋から出ると、ロードワークの後でシャワーでも浴びた様子のアナスタシアお姉ちゃんに遭遇。
余程行き先が気になるのか、前のめりに訊いてくるので簡潔に説明する。やがてお姉ちゃんは得心した表情で頷いた。
 
 
「ならば、お姉ちゃんもついていこう!」
 
「いや、参考書ぐらいは一人で選べるから」
 
「お姉ちゃんと出かけるのは……嫌か?」(←涙目で上目遣い
 
「嫌じゃないです!」
 
「よし、決まりだな♪」
 
 
騙された感が満載だが、お姉ちゃんが喜ぶ顔を見れたからシスコン的には良しとしよう。
お姉ちゃんは着替えてくるらしいので、玄関で靴を履いて待つ事にする。
 
 
「待たせた!」
 
「早かったね」
 
「折角のデートだ。少しでも時間が惜しい!」
 
 
デート?そう言う話だったっけ?
 
 
「そ、それでどうだ?お姉ちゃんの格好は……?」
 
 
お姉ちゃんの問いを受けて、全身を観察する。
白いタートルネックシャツとデニムパンツ。お姉ちゃんの長身のスラリとしたスタイルにピッタリといえるだろう。
タートルネックは少し暑そうに見えるが、デュラハン種は出来るだけ首の露出を避けたいらしいし……。
 
 
「カッコ良くて良いと思うよ」
 
「……ちなみに烈火はカッコいいのと可愛いのはどちらが良い?」
 
「特に拘りはないかな。それぞれのイメージってのあると思うし」
 
「そうか!流石私の弟だ、結婚しよう!」
 
「何でそんな話になるの?」
 
 
不可解な現象を起こしつつも、俺達は町へと繰り出すのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
電車で三駅も行くと、人でごった返す都市部に出れる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「さすが休日、人が多い」
 
「そうだな」
 
 
見渡す限りの人、人、人!時折魔物娘も横切る所に時代の変遷を感じる。
わぁ、噴水前にいるサキュバス。露出度高いなぁ、五月の気候は寒くないのかしらん。
 
 
「む、何処を見ている弟よ。お姉ちゃんから目を逸らす等大罪だぞ?」
 
「うーん、でも前を見ないと歩けないし」
 
「口応えは許さん! 罰として今日一日、烈火はお姉ちゃんと手を繋ぐ事!」
 
「はーい」
 
 
これが言いたかったのだろうなぁ、と思いつつ手を繋ぐ。お姉ちゃんと手を繋ぐのは嫌じゃないし。
 
 
「じゃあ行こうか」
 
「うむ」
 
 
お姉ちゃんと手を繋ぎながら歩く。しかしあれだな、俺とお姉ちゃんの背丈は殆ど変わらないので、自然と顔の位置も近くなってしまうね。
ちょっと気恥ずかしくなってきたので、何かしらの話題を探る。
 
 
「……お姉ちゃんってさ、学校ではどんな事をしているの?」
 
「んー? そうだな……やはり勉学と剣道のどちらかだな」
 
「学校の友達と遊びに行ったりしないの?」
 
「友達は魔物娘ばかり、しかもみんなが彼氏持ちだ。彼氏持ちの魔物娘がオフを彼氏以外と過ごすのはそうそう無い事だろう?」
 
「そうなんだ。 ずっと一緒にいて疲れたりしないのかな?」
 
「弟よ、君はまだまだ魔物娘の事が解っていないな。 彼女達の旦那への愛は途轍もないんだぞ?」
 
「へぇ……」
 
 
まぁ、何かと飽きはこなさそうではあるが。そういえば魔物娘の彼女が出来た友人は凄く楽しそうだったっけ……。
 
 
「烈火には、そう言う娘は居ないのか? 誰かに言い寄られたりはしていないか?」
 
 
お姉ちゃんが硬い表情で問い返してくる。何だ、何気ない質問なのに凄い緊張感だぞ?
 
 
「えーと……そう言うのは無いかなぁ。というか、俺がそんなモテる風に見える?」
 
「見える」
 
 
断言されちゃうと恥ずかしく死にそうだ。
 
 
「……まー、今はお姉ちゃん達と一緒にいる方が楽しいし。そう言う話は当分先になるかもね」
 
「全く、烈火はシスコンだな。そんなお前の為に私が結婚してあげよう!」
 
「お姉ちゃんも大概ブラコンだと思うよ?」
 
「お似合いという事だな!」
 
 
決してめげない所は凄いと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
本屋で参考書を探す。
 
 
「……ま、こんな物かな」
 
 
事前に先生等からお勧めの参考書を聞いておいたので、選ぶのには苦労はしなかった。
これで点数が取れればいう事無しなんだけど。
 
 
「……そう言えばお姉ちゃんが居ないな」
 
 
先程まで横であれこれと口を出していたのだが、何時の間に姿が見えなくなっていた。
何処に行ったのだろうか。探しにいこう。
 
 
「……いた」
 
 
ぐるりんぐるりんと本屋の中を巡った結果、お姉ちゃんを発見。場所は官能小説のコーナーだ。
今巷では官能小説が大ブームだ。魔物娘が流入し始めてから、エロ方面の文化は急速に発展。今や官能小説は各種プレイの教本扱いなのである。
これも一種の文化革命であろうか……等と考えながら、立ち読みに耽っているお姉ちゃんの肩を叩く。
 
 
「お姉ちゃん、俺の用事は終わったよ」
 
「む、そうか。 既に清算は済ませたのか?」
 
「まだだけど?」
 
「では、これも一緒に頼む」
 
 
そう言って渡されたのはやはり官能小説。タイトルは「縛愛 〜純粋な歪み〜」。
 
 
「今流行りの小説でな、魔物娘の新婚夫婦が手探りでSMプレイに挑戦、それに溺れていくストーリーなのだ」
 
「へー」
 
「私的には魔物娘がMに回る所が良いと思うんだ。魔物娘=上位という固定観念はプレイの幅を狭めてしまうと思わないか?」
 
「…………」
 
「こう言うプレイは私の理想の一つでな……攻めが出来る男性は、頼りがいを感じられるだろう?」
 
 
本屋の真ん中で姉に理想のプレイ内容を語られる。何これ、罰ゲーム?
いやまぁ、さっさと清算しにいこう。一刻も早くこの場を離れたい……。
 
 
「合計2,100円になります。 ――――ああ、この小説は良いですよねー。やっぱり向こうにいるデュラハンさんとするんですか?」
 
「いえ、彼女は俺の姉でして……」
 
「成程、禁断の関係なんですね!? 大丈夫、堕落の神の前では血縁なんて障害にはならないですよ!」
 
「…………」
 
 
レジにサキュバス種のお姉さんとか何のトラップだよ!こんなアドバイスはお節介とかそういうレベルじゃないよ……!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
本を買った後は足早に帰路に就く。何故ならお昼時が近いから。我が家の姉妹達に料理スキルは全くないのだ。
 
 
「全く……慌ただしい事だな。もう少し弟とのデートを楽しみたかった……」
 
 
お姉ちゃんが溜め息を吐いて言う。 やっぱりお姉ちゃん内ではデートという事になっていたらしい。
ふむ、まぁ、女性と二人で出掛ける事をデートと呼ぶのならデートなのかもしれないなぁ。
ならば、この機会に前々からの計画を発動するべきか!
 
 
「……じゃあお姉ちゃん。何か初デートの記念品でも贈ろうか」
 
「何!? 良いのか!?」
 
「うん。 ちょっと気になる事もあってさ」
 
「……やっぱり烈火は素敵だなぁ!結婚しよう!」
 
「電車内で求婚しないでくれ!」
 
 
こんな会話をしていても周囲からは微笑ましげな視線が送られるのみ。世間の価値観はどんどん魔物娘寄りになっていっているらしい。
それでも俺は居た堪れないので最寄り駅で途中下車。お姉ちゃんの手を強く引っ張って改札から出る。
お姉ちゃんは顔を赤くして、
 
 
「め、珍しく強引だな、烈火……でもそう言うのも大好きだぞ!」
 
 
何をやっても褒められる。
というか、この駅で降りたのは別の目的もあるのだ。
 
 
「あった、あった。この店だ」
 
「この店って……このボロイ店か?」
 
「ボロイとか言わないで。 ここは雑貨屋なんだよ」
 
 
お姉ちゃんの手を引いて入店。店内には一人の屈強な男性が一人佇んでいた。
 
 
「こんにちは、ノムさん」
 
「む? ……おお、九十九んとこの息子じゃねぇか!どうした、何か用か?」
 
「早速ですけど、例の品ってまだある?」
 
「おう、まだ残っているぜ!」
 
といった所で、ノムさんは俺の後ろにいるお姉ちゃんに気が付いたらしい。
 
「お?するってぇと、そっちのお嬢さんへの贈り物かい?」
 
「うん。 ……ああ、紹介するよ。この人はノムさん。父さんの昔の冒険仲間なんだ」
 
「よろしく、デュラハンの嬢ちゃん?」
 
「よろしく」
 
「で、こっちが俺のお姉ちゃんのアナスタシアお姉ちゃんだよ」
 
 
互いの紹介完了。ノムさんから例の品を受け取る。
 
 
「はい、お姉ちゃんにプレゼント」
 
「開けても良いか?」
 
「良いよ」
 
「では。 む、これは…………腕時計?」
 
 
普段、お姉ちゃんは懐中時計を使っている。由緒のある一品らしいのだが、現代で使うには少し無骨過ぎるだろう。
そう思っていた時にこの店で良さそうな品を見つけたのだった。
 
 
「これを、私の為に?」
 
「この世界でなら懐中時計よりも腕時計の方が便利だと思ってさ」
 
「…………」
 
「前々から目を付けてたんだけど、どのタイミングで贈れば良いか悩んでて。 良い機会かと思って……」
 
「…………」
 
「お姉ちゃん?」
 
 
箱に入れられた腕時計を見詰めたまま固まってしまったお姉ちゃんの顔を覗きこむ。
 
 
「……弟よ」
 
「何?」
 
「一生、一生!一生!!大事にするからなぁっ!!」
 
「うわっ!?」
 
 
途端、号泣したお姉ちゃんに抱きつかれる。
大きな声でありがとうを繰り返すお姉ちゃんに、そんな大げさな、とも思ったのだが、とにかく喜んでくれたようなのでこれはこれで良しとしようか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「只今戻りましたー」
 
「ただいま」
 
「お帰り……って烈火!アンタ今までどこで何をしていたのよ!?」
 
 
帰宅するなりステラに怒鳴られる。俺、何かしたか?
とりあえず今までの経緯を説明。
 
 
「――――という訳なんだ」
 
「お姉ちゃんと参考書を買いに、ねぇ? というか、私も無関係じゃないんだから誘いなさいよ!」
 
「休日は昼まで起こすなって誰かが言っていたと思うんだけど?」
 
「時と場合によるのよっ!」
 
 
無茶苦茶だ。髪の毛の蛇たちも噛みついてくるし……。
一方のお姉ちゃんは俺からのプレゼントを他の姉妹に自慢していた。あー、そういうことをするとさぁ……
 
 
「むぅ!お姉ちゃんだけずるいのじゃ!」
 
「私も、お兄様からの贈り物が欲しいです」
 
 
ほら、クルミと夜霧の妹コンビがまとわりついてきた! ちくしょう、お姉ちゃんに口止めをしておくんだった……。
 
 
「兄者!」 「お兄様」
 
「……その内ね、その内」
 
 
その後、どうにか姉妹達からの追及から逃れたが、代償として妹コンビの他にミスト姉さんやステラにもプレゼントを贈らなければならなくなった。
内職の数でも増やそうかな……アルバイトの方が身入りが良いんだろうけど、帰宅時間が遅くなるとエリカ姉様が拗ねるだろうしなぁ……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さて、テスト勉強である。参考書を買ってきたのは良いが、どうにも俺の頭だと一人では限界があったりする。
いや、多分平均点は取れるのだろうけど、それ以上を狙うとなると厳しい戦いを強いられるだろう。
そうなると誰かに教えてもらう他はなく、そう言う時は真っ先に姉様を頼る事にしている。
 
 
「姉様、起きてる?」
 
「起きてるぞ」
 
 
部屋に入ると姉様がちゃぶ台を広げて、教科書とノートを広げていた。
姉様は、ニヤリ、と得意げな笑いを浮かべると、
 
 
「ちょうど私も勉強を始めようと思っていたのだ。 折角だからお前も加わるが良い」
 
「……姉様には敵わないなぁ」
 
 
俺の行動なぞお見通しという訳だ。
そう言うと姉様は上機嫌な様子で頷くと、
 
 
「私はお前の姉にして、優秀なる家庭教師だからな。 貴様の行動なんぞ総て予測済みだ」
 
 
姉様は頭が良い。ヴァンパイア種の特性上普通の高校には通えないが、偏差値で言えば70は固いらしい。
その上、姉様は教え方が巧い。成績だけで言えば姉さんやステラもかなりの物だが、彼女達は人に教える事には向いていないのだ。
 
 
(姉さんは説明が簡潔すぎるし、ステラは気が短いんだよなぁ……)
 
 
俺の出来が悪いのか、彼女達が優秀すぎるのか。判断に苦しむ所ではある。
それはさておき勉強開始。姉様の教えのおかげでどんどん参考書が片付いていく。
姉様は少し感心したかのように頷くと、
 
 
「やはりお前は呑み込みが早いな。教え甲斐がある」
 
「姉様の教えのおかげだよ」
 
「ふふ、そうか。 まぁ、当然と言った所だな」
 
 
今日の姉様はやけに上機嫌だ。普段の起床直後は不機嫌な事が多いのだが……。
それから暫く立った頃、俺はある事に気が付いた。
 
 
「姉様ってさ」
 
「ん?」
 
「部屋の中だと、格段に露出度が増えるよね?」
 
 
姉様は基本的に肌を露出させる服を着ない。勿論外出時には日光対策という事もあるのだろうが、家の中でも肌を見せない格好を好むのだ。
唯一姉様の肌を拝めるのは、こうやって姉様の部屋で話している時だけだった。
 
 
「何で?」
 
「何でって……」
 
 
姉様が凄く複雑そうな表情で口ごもる。また何か地雷を踏んだらしい。最近多いよなぁ、俺。
そんな事を考えていると、姉様は真っ赤な顔で俺へと問いを投げかける。
 
 
「ぎゃ、逆に訊くが……貴様は、私が他人に肌を見せる事に何も思わないのか?」
 
「どういう事?」
 
「私が、お前以外の誰かに肌を見せる事に何も思わないのかと聞いている!」
 
「…………」
 
 
もし姉様が外で肌を露出する事が出来たなら―――――
厚着をしている姉様も衆目を集めるほどに綺麗だが、肌を露出させた姉様なら男の劣情すらをも煽るに違いない。
大勢の見知らぬ男に言い寄られる姉様……
 
 
「――――腹を立てると思う」
 
「……! う、うむ!」
 
俺の答えを聞いた姉様が、輝くような笑顔で頷いた。
 
「ま、まぁ、安心するがいい、弟よ!こうやって肌を見せるのはお前だけと決めているのだから……!?」
 
「え?」
 
「ち、違う、そうじゃない! こ、これはあれだ……そう!貴族である私が下賤な人間どもに肌を晒す等あってはならない……いや、そうじゃない、そういうことじゃなくてだな!?」
 
 
何か知らんが姉様がスゲェ動揺している。普段はクールで尊大な姉様だが、百面相の姉様もとっても可愛いと思う。
だから俺は素直にそれを口にしてみる。
 
 
「姉様は可愛いなぁ」
 
「かわっ……!?」
 
「――――って、姉様!?姉様ぁーっ!?」
 
 
俺の言葉を聞いた姉様は顔を真っ赤にさせたかと思えば、仰向けにぶっ倒れてしまった。
その後、騒ぎを聞きつけて駆けつけた姉さんに事情を説明した所、
 
 
「……ばーか」
 
「痛い、姉さん痛いよ。水かきチョップ痛いよ?」
 
 
大きな掌でチョップされまくった。姉さんは地味に力が強いんだよなぁ……痛いって。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結果、姉様の教えのおかげで学年二十一位の成績を収める事が出来た。前回は六十位だったので大躍進である。
ちなみに二人の勉強会は、何時の間にか家族全員が参加する様になってしまい、遂には週に一回の恒例行事となってしまう事になる。
勉強はそこまで好きじゃないけど、これはこれで楽しいかな、と思えるようになった。
 
 
 
 
 
13/05/17 17:53更新 / うりぼー
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■作者メッセージ
九十九君の日常第二話をお送りしました。第一話に比べると少し勢いが足りなくなったような気がします……。
 
今回はアナスタシアお姉ちゃんとエリカ姉様をクローズアップしました。デュラハンとヴァンパイアって名前を聞いただけでも如何にも強そうですよね。
キャラの方向性として、アナスタシアお姉ちゃんは「デレデレ」、エリカ姉様は「甘やかしたがり」、といった感じで書きました。
 
ラブコメのラブは結構浮かんでくるのですが、コメの方が中々浮かびません。九十九君のツッコミをもう少しハイテンションにすれば勢いで押し切れるような……?
もう少しネタを挟んでみるのも良いかも……今度の課題ですね。
 
次回はサハギンのミスト姉さんとメドゥーサのステラ辺りを書く予定です。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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