出会い
頭がふらつく、喉が渇いた。
俺、バレル・デナートはそんな極限状態で、
反魔物領の近くを歩いていた。
いや、正直に言おう。
さまよっていた。
いやー反魔物領を武者修行してたは良いんだけど、
スリにあってしまいました。
まあそんなに金残ってなかったからそれは良いんだけど、
ぶっちゃけこの状況、キツい。
「み・・水・・あと・・食料を・・」
世紀末じみた台詞を吐きながら地面を見つめる今日この頃。
皆さんどのようにお過ごしでしょうか。
俺はもう限界みたいです。
今日の事件は反魔物領近くで人がぶっ倒れるってとこですかね。
いやー大事件っすね。
「う・・」
そこまで考えてから俺の体はボトッと倒れた。
ああ・・これは死んだっぽいなぁ・・。
おや・・あっちから歩いてくるアレは・・
あれはなんだろう・・妖狐かな・・いや違うな・・
稲荷の尻尾はもっとこう、ふわぁっとなってるもんな・・
まぁいいや、死ぬってのには変わりないし。
あーでも、嫁さん欲しかったなぁ・・
享年20歳、バレル・デナート ここに眠る。
って普通思うじゃん?
どういうわけか、どっこい生きてた。
何か体の周りには暖かいものが敷かれてる。
多分、布団。
手触りからして、ジパング製のもの。
屋根は布張りだから・・テントかな、これは。
んで、俺の顔をまじまじと見てらっしゃるのは・・
「おー起きたかい。」
特徴的な耳、そしてこれまた特徴的な尻尾。
え・・と、端的に言えば狸。
というか狸だった。
目の前の狸は俺の顔を見るなり腕組みをしつつうんうんと一人で頷く。
「いやあ、びっくらこいたわ。
ウチが商売道具持って進んでった先にアンタがぶっ倒れてんやもん。
・・つーか、大丈夫?起きれる?」
どうやらこの狸が助けてくれたらしい。
「あ・・ああ、大丈夫だ・・ありがとう。」
そう答えると、この狸はにぱあっと笑う。
「そっか・・そっかそっか、そりゃあ良かった良かったうんうん・・。」
どうやら人当たりのいい人らしい・・とは思いませんよ、ええ。
だって、一瞬だけどはっきり悪そうな顔見えたもん。
「じゃあさ?なんか、恩返しして欲しいなぁ思うんやけど。」
ホラネ?ヤッパリダッタデショ?
え、やだなぁ、恩返しの方法がなくて焦ってるなんてそんなこと。
・・はい、焦っております、どうすれば良いんすか。
「・・何をすれば恩返しになる?」
どうしよ、とんでもない条件突きつけられたらどうしよう。
そんな風に思って悩んでいると、
目の前の狸は、じゃあ・・と少し考えた後こう提案してきた。
「あ・・だったらよ?ちょいと付き合って欲しいんやけど。」
「・・え?」
その言葉に俺は固まってしまう。
付き合う?え、男女のお付き合いって奴ですか?
ん、なわけねえだろ。
えーとじゃああれか、奴隷か何かか。
おじさんについておいでっていうアレの、女性版?
「あー・・メンゴ、言い方悪かったわ。
説明も足りてないよな。」
そんな風に考えていたのが顔に出ていたのか、
狸は俺の顔を見るなりそう言って人差し指を自分の額に当てた。
「えーとやな・・どこから話したらええか・・。
うん、これやな。」
そして、俺の方を向き直す狸。
「まずウチの種族は刑部狸。
ウチの耳を見ても怯えたりせえへんのを見ると、
アンタは親魔物領の人ってことらしいな、合ってる?」
「ああ、当たってる。」
「おうおう、良かった。
そんで、刑部狸っちゅうのは商売に命懸けとるみたいな所あるわけ。
品物を売るためなら何処にでも行くっちゅうような感じや。
そんでもって、ウチもそういう種族の例に漏れず、
商売商売!って所あんねんけど・・」
そこまでペラペラとまくし立てるように喋った後、
一瞬だけ、この刑部狸の言葉が止まる。
表情には少しの躊躇いと後悔の色が見えた。
「あ・・ごめん、やっぱ忘れて。
ここまで言っといて何やけど、危険すぎるわ。」
そして続くこの言葉。
一方の俺は、何がなんだか分からない。
「・・え?どういうことだ?」
誰か説明してくれよぉ!!
って言いたいけどこの狸にしか訊けない俺は、そう狸に訊いた。
すると、狸はさっきと比べるとゆっくりと話していく。
「ウチがこれから行くところはな、反魔物領で、
アンタに頼もうと思ってたんは旅の付き添いや。
一人旅は寂しいからって思ったからなんやけど、
よう考えたら、アンタがあそこ行くって危険やろ?
やから、やっぱ誘わんとこって今考えついたって事。」
その話を聞いて、俺の中に疑問が生まれる。
「・・理解した。
だが、おまえは大丈夫なのか?」
その疑問をぶつけると、今度は一転、微笑んで狸はこう言った。
「ウチはだいじょーぶよ。
百聞は一見に如かず、まぁ見とき!」
そして、葉っぱを頭の上に載せると、ぶつぶつと何かを呟き始める。
「いあ!いあ!くとぅ・・あ、ちゃうわこれ。
えーと、天光満つるところ我は・・ちゃうな。
えーと・・そう、モ○ャス!これや!」
するとなんということでしょう!
さっきまで狸の耳と尻尾があった位置には何も無いではありませんか。
魔力の流れも一切感じない所に、こだわりを感じます。
体型すら瓜二つという遊び心も伺えますね。
「ふふん、どないや、驚いたか!
これがウチら刑部狸の秘技、人化の術や!」
そしてドヤ顔でこちらを向きサムズアップする刑部狸。
対して俺は素直に感想を口にする。
「すげー・・」
すると、ちょっと彼女は元の姿になった後不機嫌そうに言った。
「・・え?そんだけ?なんかもうちょっとないの?
流石刑部狸、俺に出来ないことを平然とやってのける!
そこにシビレる憧れるぅー!!・・みたいな。」
「・・そんな風に反応した方が良かったか?」
これはちょっと反応しくじったかな・・。
そんな風に思っていると、狸はケロッとしてこう言う。
「んにゃ、そんな風にされたら正直引くわ。」
「アッハイ、そうすか。」
うん、なんかこの人・・ていうか狸の付き合い方分かってきた。
一人心中で頷いていると狸はピン、人差し指を立てる。
「ま、こういうわけでウチは反魔物領内でも大丈夫なんや。
せやけど、アンタは・・」
「ああ、じゃあ大丈夫だろ。」
そこまで彼女が言ったところで俺はそれを遮る。
え?と不思議そうな顔をする目の前の狸を見て俺は続けた。
「倒れてた場所で分かるかもしれんが、
元々俺は反魔物領で武者修行しててスられてあのザマだっただけだ。
意外と検問は温いし、喧嘩しに行くならまだしも
商売をするだけならそこまで警戒する必要もない。
お偉方を誤魔化すのは俺だって出来ない訳じゃないしな・・どうだ?」
一気に喋って、締めにそう言うと
狸は顎に手を当てて考え込む仕草を見せた後、口を開いた。
「分かった、そーいうわけなら、
アンタにもこの商売付き合ってもらお。」
そう笑顔で言った後、真面目な表情になる。
それに反応して俺も同じような表情になった。
「・・最初に言っとくけど、
ウチが人化の術を使うときはあくどい商売をする時や。
って言うても、割高にするとかそんなんやないで?
ちょーっと商品名を隠して売るとか、そんなん。」
「ほうほう。」
その情報に対して俺はただそう言って頷く。
それを見て満足そうに彼女は続ける。
「反対に、ウチがこの姿で商売するのは、
安心安全の絶対保証、インチキ無しの商品を売るとき。
お得意さんにはサービス券の配布もしたりする。」
「なるほどな・・大体分かった。」
つまり、騙すにしても正直にしても、まずは形から入ると言うことか。
「これで、一応説明するべき事はしたかな・・あっ!」
納得していると、彼女は驚いたような声を出した。
どうした、とこちらが訊く前に彼女は喋り始める。
この辺りの出だしの早さは流石商人と言ったところだろうか。
「ウチとしたことが、一番大事なこと忘れてたわ。
ウチの名前は流葉天利(ながればの あまり)。
・・なんて呼んでも良いけど、あまちゃんとは呼ばんでな?
さて、アンタの名前は?」
名前の部分をゆっくりというと、天利は俺にそう促してくる。
答えて俺も自己紹介した。
「バレル・デナート・・バレルと呼んでくれ。
特技としては、格闘術をそれなりだ。」
聞き終わると、天利はほうほう、と頷いた後、
「んじゃ、何処まで一緒か分からんけどよろしゅうな。」
そう言って握手を求めてきた。
「ああ、こちらこそよろしく頼む。」
答えて俺もその手を握る。
かくして、俺と刑部狸の天利の旅は始まったのだった。
俺、バレル・デナートはそんな極限状態で、
反魔物領の近くを歩いていた。
いや、正直に言おう。
さまよっていた。
いやー反魔物領を武者修行してたは良いんだけど、
スリにあってしまいました。
まあそんなに金残ってなかったからそれは良いんだけど、
ぶっちゃけこの状況、キツい。
「み・・水・・あと・・食料を・・」
世紀末じみた台詞を吐きながら地面を見つめる今日この頃。
皆さんどのようにお過ごしでしょうか。
俺はもう限界みたいです。
今日の事件は反魔物領近くで人がぶっ倒れるってとこですかね。
いやー大事件っすね。
「う・・」
そこまで考えてから俺の体はボトッと倒れた。
ああ・・これは死んだっぽいなぁ・・。
おや・・あっちから歩いてくるアレは・・
あれはなんだろう・・妖狐かな・・いや違うな・・
稲荷の尻尾はもっとこう、ふわぁっとなってるもんな・・
まぁいいや、死ぬってのには変わりないし。
あーでも、嫁さん欲しかったなぁ・・
享年20歳、バレル・デナート ここに眠る。
って普通思うじゃん?
どういうわけか、どっこい生きてた。
何か体の周りには暖かいものが敷かれてる。
多分、布団。
手触りからして、ジパング製のもの。
屋根は布張りだから・・テントかな、これは。
んで、俺の顔をまじまじと見てらっしゃるのは・・
「おー起きたかい。」
特徴的な耳、そしてこれまた特徴的な尻尾。
え・・と、端的に言えば狸。
というか狸だった。
目の前の狸は俺の顔を見るなり腕組みをしつつうんうんと一人で頷く。
「いやあ、びっくらこいたわ。
ウチが商売道具持って進んでった先にアンタがぶっ倒れてんやもん。
・・つーか、大丈夫?起きれる?」
どうやらこの狸が助けてくれたらしい。
「あ・・ああ、大丈夫だ・・ありがとう。」
そう答えると、この狸はにぱあっと笑う。
「そっか・・そっかそっか、そりゃあ良かった良かったうんうん・・。」
どうやら人当たりのいい人らしい・・とは思いませんよ、ええ。
だって、一瞬だけどはっきり悪そうな顔見えたもん。
「じゃあさ?なんか、恩返しして欲しいなぁ思うんやけど。」
ホラネ?ヤッパリダッタデショ?
え、やだなぁ、恩返しの方法がなくて焦ってるなんてそんなこと。
・・はい、焦っております、どうすれば良いんすか。
「・・何をすれば恩返しになる?」
どうしよ、とんでもない条件突きつけられたらどうしよう。
そんな風に思って悩んでいると、
目の前の狸は、じゃあ・・と少し考えた後こう提案してきた。
「あ・・だったらよ?ちょいと付き合って欲しいんやけど。」
「・・え?」
その言葉に俺は固まってしまう。
付き合う?え、男女のお付き合いって奴ですか?
ん、なわけねえだろ。
えーとじゃああれか、奴隷か何かか。
おじさんについておいでっていうアレの、女性版?
「あー・・メンゴ、言い方悪かったわ。
説明も足りてないよな。」
そんな風に考えていたのが顔に出ていたのか、
狸は俺の顔を見るなりそう言って人差し指を自分の額に当てた。
「えーとやな・・どこから話したらええか・・。
うん、これやな。」
そして、俺の方を向き直す狸。
「まずウチの種族は刑部狸。
ウチの耳を見ても怯えたりせえへんのを見ると、
アンタは親魔物領の人ってことらしいな、合ってる?」
「ああ、当たってる。」
「おうおう、良かった。
そんで、刑部狸っちゅうのは商売に命懸けとるみたいな所あるわけ。
品物を売るためなら何処にでも行くっちゅうような感じや。
そんでもって、ウチもそういう種族の例に漏れず、
商売商売!って所あんねんけど・・」
そこまでペラペラとまくし立てるように喋った後、
一瞬だけ、この刑部狸の言葉が止まる。
表情には少しの躊躇いと後悔の色が見えた。
「あ・・ごめん、やっぱ忘れて。
ここまで言っといて何やけど、危険すぎるわ。」
そして続くこの言葉。
一方の俺は、何がなんだか分からない。
「・・え?どういうことだ?」
誰か説明してくれよぉ!!
って言いたいけどこの狸にしか訊けない俺は、そう狸に訊いた。
すると、狸はさっきと比べるとゆっくりと話していく。
「ウチがこれから行くところはな、反魔物領で、
アンタに頼もうと思ってたんは旅の付き添いや。
一人旅は寂しいからって思ったからなんやけど、
よう考えたら、アンタがあそこ行くって危険やろ?
やから、やっぱ誘わんとこって今考えついたって事。」
その話を聞いて、俺の中に疑問が生まれる。
「・・理解した。
だが、おまえは大丈夫なのか?」
その疑問をぶつけると、今度は一転、微笑んで狸はこう言った。
「ウチはだいじょーぶよ。
百聞は一見に如かず、まぁ見とき!」
そして、葉っぱを頭の上に載せると、ぶつぶつと何かを呟き始める。
「いあ!いあ!くとぅ・・あ、ちゃうわこれ。
えーと、天光満つるところ我は・・ちゃうな。
えーと・・そう、モ○ャス!これや!」
するとなんということでしょう!
さっきまで狸の耳と尻尾があった位置には何も無いではありませんか。
魔力の流れも一切感じない所に、こだわりを感じます。
体型すら瓜二つという遊び心も伺えますね。
「ふふん、どないや、驚いたか!
これがウチら刑部狸の秘技、人化の術や!」
そしてドヤ顔でこちらを向きサムズアップする刑部狸。
対して俺は素直に感想を口にする。
「すげー・・」
すると、ちょっと彼女は元の姿になった後不機嫌そうに言った。
「・・え?そんだけ?なんかもうちょっとないの?
流石刑部狸、俺に出来ないことを平然とやってのける!
そこにシビレる憧れるぅー!!・・みたいな。」
「・・そんな風に反応した方が良かったか?」
これはちょっと反応しくじったかな・・。
そんな風に思っていると、狸はケロッとしてこう言う。
「んにゃ、そんな風にされたら正直引くわ。」
「アッハイ、そうすか。」
うん、なんかこの人・・ていうか狸の付き合い方分かってきた。
一人心中で頷いていると狸はピン、人差し指を立てる。
「ま、こういうわけでウチは反魔物領内でも大丈夫なんや。
せやけど、アンタは・・」
「ああ、じゃあ大丈夫だろ。」
そこまで彼女が言ったところで俺はそれを遮る。
え?と不思議そうな顔をする目の前の狸を見て俺は続けた。
「倒れてた場所で分かるかもしれんが、
元々俺は反魔物領で武者修行しててスられてあのザマだっただけだ。
意外と検問は温いし、喧嘩しに行くならまだしも
商売をするだけならそこまで警戒する必要もない。
お偉方を誤魔化すのは俺だって出来ない訳じゃないしな・・どうだ?」
一気に喋って、締めにそう言うと
狸は顎に手を当てて考え込む仕草を見せた後、口を開いた。
「分かった、そーいうわけなら、
アンタにもこの商売付き合ってもらお。」
そう笑顔で言った後、真面目な表情になる。
それに反応して俺も同じような表情になった。
「・・最初に言っとくけど、
ウチが人化の術を使うときはあくどい商売をする時や。
って言うても、割高にするとかそんなんやないで?
ちょーっと商品名を隠して売るとか、そんなん。」
「ほうほう。」
その情報に対して俺はただそう言って頷く。
それを見て満足そうに彼女は続ける。
「反対に、ウチがこの姿で商売するのは、
安心安全の絶対保証、インチキ無しの商品を売るとき。
お得意さんにはサービス券の配布もしたりする。」
「なるほどな・・大体分かった。」
つまり、騙すにしても正直にしても、まずは形から入ると言うことか。
「これで、一応説明するべき事はしたかな・・あっ!」
納得していると、彼女は驚いたような声を出した。
どうした、とこちらが訊く前に彼女は喋り始める。
この辺りの出だしの早さは流石商人と言ったところだろうか。
「ウチとしたことが、一番大事なこと忘れてたわ。
ウチの名前は流葉天利(ながればの あまり)。
・・なんて呼んでも良いけど、あまちゃんとは呼ばんでな?
さて、アンタの名前は?」
名前の部分をゆっくりというと、天利は俺にそう促してくる。
答えて俺も自己紹介した。
「バレル・デナート・・バレルと呼んでくれ。
特技としては、格闘術をそれなりだ。」
聞き終わると、天利はほうほう、と頷いた後、
「んじゃ、何処まで一緒か分からんけどよろしゅうな。」
そう言って握手を求めてきた。
「ああ、こちらこそよろしく頼む。」
答えて俺もその手を握る。
かくして、俺と刑部狸の天利の旅は始まったのだった。
14/08/14 18:14更新 / GARU
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