からかわれた日
「・・・・」
今この状況を俺、ベリクは確認する。
俺はいつもの団内の仕事を終え、狭い部屋に帰ってきた。
念のため部屋番号も確認し、内装も見る。
うん・・間違い無い、ここは俺の部屋だ。
見慣れた壁の日めくり式のカレンダーに、その近くに武器をしまってある簡易倉庫。
他にも色々あるがそれらは、俺の日常にあるものだった。
ただ一つ・・強烈な違和感を放つ者がそこに、俺のベッドの上にいる。
「あ、やっと帰ってきた。
三十分くらい前からずっと待ってたのよ。」
俺の義姉のエキドナ、レヴィナだ。
近くの本棚に手を伸ばし、適当に本を読み漁っている。
帰ってきた義弟に対して遠慮だとかは無いらしい。
「姉さん、不法侵入って言葉知らない訳じゃないよな。」
「ええ、勿論知っているわ。」
「姉さんがしたことは、十分不法侵入に入ると思うんだが。」
「あら、どうしてかしら?」
ベッドの上で頬杖をつきながら、ニヤつきつつ横目でこちらを見てくる。
「ちゃんと鍵は外したし、ノックもしたわ。
ただ・・ちょっと外し方は強引だったかもね。」
ちょっとどころでは無い。
帰ってきてみれば、鍵の魔法術式に強引にねじ曲げられた跡があるなど、
事情を知らぬ者からすれば強盗だと思うだろう。
ちなみに壊す、ではなくねじ曲げて通って後始末までするのが
レヴィナクオリティ(本人談)らしい。
「良いじゃないの、私とあなたの関係でしょう?
一緒にお風呂入ったり布団の中で抱き合ったりした仲じゃない。」
「お風呂は姉さんが勝手に入ってきただけだし、
抱き合った方は酔っぱらった姉さんを支える為にしただけ。
わざわざ変に言い直さないでくれ。」
呆れながら椅子に座り背を向けると、後ろで本を閉じる音が聞こえた。
数瞬の後、首筋を冷たく細い指が伝ってくる。
「ねぇ・・姉弟で間違いを起こすっていうのも、背徳的で面白いとおもわなぁい・・?」
言葉が耳を、髪の匂いが鼻孔をくすぐってくる。
それだけでなく尻尾が腕に巻き付いてきた。
「ふふ、どうするの・・?
このまま欲望に流されちゃっても良いのよ・・それとも、頑張って堪えてみる?」
ついに口元に、長い舌が迫る。
それに対して俺ははぁ、とため息をつき振り返った。
「姉さん、言いたいことは結構あるが。
まず一つな、チョコを食べるのは構わないからせめて口を濯いでくれ。
髪の匂いと一緒に入ってきた。
二つ目、髪の毛はちゃんと洗ってくれ。
ちゃんと洗わないと指通しても進まなくなる。
三つ目・・その言葉は聞き飽きた。
覚えてる分でももう五百回は聞いたぞ。
ま、最初の二つは俺が気にし過ぎだったりするし、
姉さんだってわざとそうしたんだろ?」
「ふふ、良く分かったわね。」
「そりゃそうだよ、俺だって伊達に姉さんと生活してるわけじゃない。それに・・」
そこまで言って俺はちょっと恥ずかしくなり止まる。
「それに・・何かしら?」
だがあまり待たせて、人をからかうのが好きなこの義姉に
冷やかされたくも無かったので続けた。
「もし姉さんが本気で落としにかかったんなら、俺は動くことすらできないだろうしな。」
そこまで言うと、姉さんは自らの額に手の甲を当てる。
「はぁ・・あなたってほんとからかいがいが無いわ。
他の子にやったら、もうちょっと恥じらいを見せてくれるわよ?」
その言葉を聞いて俺は少々ムッとしてしまった。
「なあ姉さん。
もしかして、他の人にもこんな事やってんのか。」
「ん、まあね〜でも本気なんて出してないわ。」
「そういう問題じゃないだろ。
姉さんがその気じゃなくたって、相手がその気になっちゃったりしたらどうすんだよ!」
さらりとそう言う姉さんに対して、俺は食ってかかる。
自分でもどうしてそこまで苛立っているのか分からない。
対して姉さんは、急に笑い始めた。
まるで危機感を持っているようには見えない。
「何で笑ってるんだよ!
もし姉さんが好きでもない奴とくっつくことになったら」
「相手、魔物のお友達よ。」
「・・え?」
「だから、からかった相手は全員魔物娘って言ってるの。
色々な反応が見れて、とっても面白かったわ。」
知らされた事実に俺がポカンとする中、姉さんは思い出し笑いをしながら続ける。
「サキュバスちゃんは流石だったわ。
[お姉様って呼んでも良いですか?]なんて言うの、ノリが良いでしょ?
可愛かったのはドッペルゲンガーちゃんね。
[へ、い、いえ、私は、そういうのはあの・・]って照れちゃって。
つい頭を撫でちゃったわ。
ちょうど来てたリリムさんにもしてみたんだけど、
[そういうことは、あんまり無闇にするものじゃないわ。
貴女が本当に落としたい人にだけするの、良い?]ってお説教されちゃった。
生真面目なのよね、そういうことにかけては。」
リリムって・・魔王の娘にまでちょっかいかけたんかい。
我が義姉ながら恥知らずというか怖い者知らずというか。
勿論そこにはエキドナ、魔物の母であるが故の自信や余裕もあるのだろう。
「で・・何であなたはさっきあんなに怒ったのかしら?
それと、今は収まったみたいだけどそれもどうして?」
そんな風に思っていると、姉さんは再びからかいの矛先を俺に向けてきた。
「なぜ怒ったかって、そんなの俺が訊きたいくらいだ。
何となくだよ、何となく。
今収まってんのは何でだろうな、安心・・したから?」
自分でも分からない為語尾が疑問系になる。
「あら、どうして安心したのかしら。
私が百合に興味があったとしたらそれこそあなたは怒るんじゃない?」
「姉さんが百合に興味がないのは知ってる。
なんせ、[将来はベリクと結婚するわ。]なんて言ってたくらいだからな。」
「覚えていてくれたのね、嬉しいわ。」
本当に嬉しかったらしく顔を綻ばせる姉さん。
こういうのなんて言うんだったか・・ブラコンだったか?
「でも、それじゃああなたは私が取られる心配が無くなって安心したって事にならない?」
取られるのを心配した・・否定しようと思ったが、
よく考えてみたら間違ってはいない。
「・・かもな、きっとそうだ。」
「んもう、そこは普通[そ、そんなことはない。誰が姉さんの心配なんてするか。]でしょう?」
「何だそれ、姉さんの心配をするのが普通だろ?」
というか、姉さんの中で俺はそんなイメージだったのか。
「あなたって、意外に甘えん坊なのね。
だっていつまでも一緒に居てほしいって事でしょう?」
「・・あ〜うんもうそれで良いよ、じゃ、俺風呂入ったら寝るから。」
「あ、沸かしておいたからね。」
ありがとう、と言いつつ
風呂に入ろうと席を立ちドアに手をかけた瞬間後ろから声がかかった。
「ねぇ・・気づいてる?
男でああいうことしたの、あなたにだけなのよ?」
「それは、どういう意味だ姉さん。」
後ろではふふっと笑う声がする。
「意味は一つもないわ・・ただ言っておきたかったの。」
「・・・・行ってくる。」
そのままドアを開け風呂に入る。
顔が熱かったのは何も風呂の熱気のせいだけではないだろう。
「・・ふふ、照れちゃって可愛いわ。
ああいう所があるから好きなのよね。」
閉まったドアを見ながら一人呟く。
自分がブラコンであるのは周知の事実だというのは分かっているし、
ベリクと結ばれたいと勿論思う。
だが何より・・あの冷静で感情が動くことはあれど、それを表面に出すことはあまりしない義弟が
あそこまで感情的になっていたというのは嬉しかった。
要するに、自分はそれ程にベリクの中で重要な存在だということだ、嬉しくないわけがない。
「・・もうちょっとしたら、本気で落としにかかってみようかしら、ふふ。」
今日は良いものが見れた、と思いつつ意識はベリクの本棚にあったエロ本に向けられた。
エロ本を否定するつもりはない。
確かに自分はラミア類だが、嫉妬心はそこにない。
自分がたかが想像でしかないエロ本に負けているなどと微塵も思わないからだ。
だが、そこにはベリクの興味、嗜好が含まれているのも事実。
まぁ、詰まるところ自分にとっては良い教科書といったところだろうか。
その他の本から得た情報を整理してみると、ベリクは
どちらかというと巨乳好きでお姉さんキャラかつ女性上位が良いらしい。
他にも色々あったが一番興味を引かれたのは、
何かに巻き付かれながら囁かれる物が多かった点だ。
他にも探るべく、エロ本を読み込む。
それは他者から見れば、エキドナが男向けのエロ本に熱中しているという
おかしな風景だっただろう。
今この状況を俺、ベリクは確認する。
俺はいつもの団内の仕事を終え、狭い部屋に帰ってきた。
念のため部屋番号も確認し、内装も見る。
うん・・間違い無い、ここは俺の部屋だ。
見慣れた壁の日めくり式のカレンダーに、その近くに武器をしまってある簡易倉庫。
他にも色々あるがそれらは、俺の日常にあるものだった。
ただ一つ・・強烈な違和感を放つ者がそこに、俺のベッドの上にいる。
「あ、やっと帰ってきた。
三十分くらい前からずっと待ってたのよ。」
俺の義姉のエキドナ、レヴィナだ。
近くの本棚に手を伸ばし、適当に本を読み漁っている。
帰ってきた義弟に対して遠慮だとかは無いらしい。
「姉さん、不法侵入って言葉知らない訳じゃないよな。」
「ええ、勿論知っているわ。」
「姉さんがしたことは、十分不法侵入に入ると思うんだが。」
「あら、どうしてかしら?」
ベッドの上で頬杖をつきながら、ニヤつきつつ横目でこちらを見てくる。
「ちゃんと鍵は外したし、ノックもしたわ。
ただ・・ちょっと外し方は強引だったかもね。」
ちょっとどころでは無い。
帰ってきてみれば、鍵の魔法術式に強引にねじ曲げられた跡があるなど、
事情を知らぬ者からすれば強盗だと思うだろう。
ちなみに壊す、ではなくねじ曲げて通って後始末までするのが
レヴィナクオリティ(本人談)らしい。
「良いじゃないの、私とあなたの関係でしょう?
一緒にお風呂入ったり布団の中で抱き合ったりした仲じゃない。」
「お風呂は姉さんが勝手に入ってきただけだし、
抱き合った方は酔っぱらった姉さんを支える為にしただけ。
わざわざ変に言い直さないでくれ。」
呆れながら椅子に座り背を向けると、後ろで本を閉じる音が聞こえた。
数瞬の後、首筋を冷たく細い指が伝ってくる。
「ねぇ・・姉弟で間違いを起こすっていうのも、背徳的で面白いとおもわなぁい・・?」
言葉が耳を、髪の匂いが鼻孔をくすぐってくる。
それだけでなく尻尾が腕に巻き付いてきた。
「ふふ、どうするの・・?
このまま欲望に流されちゃっても良いのよ・・それとも、頑張って堪えてみる?」
ついに口元に、長い舌が迫る。
それに対して俺ははぁ、とため息をつき振り返った。
「姉さん、言いたいことは結構あるが。
まず一つな、チョコを食べるのは構わないからせめて口を濯いでくれ。
髪の匂いと一緒に入ってきた。
二つ目、髪の毛はちゃんと洗ってくれ。
ちゃんと洗わないと指通しても進まなくなる。
三つ目・・その言葉は聞き飽きた。
覚えてる分でももう五百回は聞いたぞ。
ま、最初の二つは俺が気にし過ぎだったりするし、
姉さんだってわざとそうしたんだろ?」
「ふふ、良く分かったわね。」
「そりゃそうだよ、俺だって伊達に姉さんと生活してるわけじゃない。それに・・」
そこまで言って俺はちょっと恥ずかしくなり止まる。
「それに・・何かしら?」
だがあまり待たせて、人をからかうのが好きなこの義姉に
冷やかされたくも無かったので続けた。
「もし姉さんが本気で落としにかかったんなら、俺は動くことすらできないだろうしな。」
そこまで言うと、姉さんは自らの額に手の甲を当てる。
「はぁ・・あなたってほんとからかいがいが無いわ。
他の子にやったら、もうちょっと恥じらいを見せてくれるわよ?」
その言葉を聞いて俺は少々ムッとしてしまった。
「なあ姉さん。
もしかして、他の人にもこんな事やってんのか。」
「ん、まあね〜でも本気なんて出してないわ。」
「そういう問題じゃないだろ。
姉さんがその気じゃなくたって、相手がその気になっちゃったりしたらどうすんだよ!」
さらりとそう言う姉さんに対して、俺は食ってかかる。
自分でもどうしてそこまで苛立っているのか分からない。
対して姉さんは、急に笑い始めた。
まるで危機感を持っているようには見えない。
「何で笑ってるんだよ!
もし姉さんが好きでもない奴とくっつくことになったら」
「相手、魔物のお友達よ。」
「・・え?」
「だから、からかった相手は全員魔物娘って言ってるの。
色々な反応が見れて、とっても面白かったわ。」
知らされた事実に俺がポカンとする中、姉さんは思い出し笑いをしながら続ける。
「サキュバスちゃんは流石だったわ。
[お姉様って呼んでも良いですか?]なんて言うの、ノリが良いでしょ?
可愛かったのはドッペルゲンガーちゃんね。
[へ、い、いえ、私は、そういうのはあの・・]って照れちゃって。
つい頭を撫でちゃったわ。
ちょうど来てたリリムさんにもしてみたんだけど、
[そういうことは、あんまり無闇にするものじゃないわ。
貴女が本当に落としたい人にだけするの、良い?]ってお説教されちゃった。
生真面目なのよね、そういうことにかけては。」
リリムって・・魔王の娘にまでちょっかいかけたんかい。
我が義姉ながら恥知らずというか怖い者知らずというか。
勿論そこにはエキドナ、魔物の母であるが故の自信や余裕もあるのだろう。
「で・・何であなたはさっきあんなに怒ったのかしら?
それと、今は収まったみたいだけどそれもどうして?」
そんな風に思っていると、姉さんは再びからかいの矛先を俺に向けてきた。
「なぜ怒ったかって、そんなの俺が訊きたいくらいだ。
何となくだよ、何となく。
今収まってんのは何でだろうな、安心・・したから?」
自分でも分からない為語尾が疑問系になる。
「あら、どうして安心したのかしら。
私が百合に興味があったとしたらそれこそあなたは怒るんじゃない?」
「姉さんが百合に興味がないのは知ってる。
なんせ、[将来はベリクと結婚するわ。]なんて言ってたくらいだからな。」
「覚えていてくれたのね、嬉しいわ。」
本当に嬉しかったらしく顔を綻ばせる姉さん。
こういうのなんて言うんだったか・・ブラコンだったか?
「でも、それじゃああなたは私が取られる心配が無くなって安心したって事にならない?」
取られるのを心配した・・否定しようと思ったが、
よく考えてみたら間違ってはいない。
「・・かもな、きっとそうだ。」
「んもう、そこは普通[そ、そんなことはない。誰が姉さんの心配なんてするか。]でしょう?」
「何だそれ、姉さんの心配をするのが普通だろ?」
というか、姉さんの中で俺はそんなイメージだったのか。
「あなたって、意外に甘えん坊なのね。
だっていつまでも一緒に居てほしいって事でしょう?」
「・・あ〜うんもうそれで良いよ、じゃ、俺風呂入ったら寝るから。」
「あ、沸かしておいたからね。」
ありがとう、と言いつつ
風呂に入ろうと席を立ちドアに手をかけた瞬間後ろから声がかかった。
「ねぇ・・気づいてる?
男でああいうことしたの、あなたにだけなのよ?」
「それは、どういう意味だ姉さん。」
後ろではふふっと笑う声がする。
「意味は一つもないわ・・ただ言っておきたかったの。」
「・・・・行ってくる。」
そのままドアを開け風呂に入る。
顔が熱かったのは何も風呂の熱気のせいだけではないだろう。
「・・ふふ、照れちゃって可愛いわ。
ああいう所があるから好きなのよね。」
閉まったドアを見ながら一人呟く。
自分がブラコンであるのは周知の事実だというのは分かっているし、
ベリクと結ばれたいと勿論思う。
だが何より・・あの冷静で感情が動くことはあれど、それを表面に出すことはあまりしない義弟が
あそこまで感情的になっていたというのは嬉しかった。
要するに、自分はそれ程にベリクの中で重要な存在だということだ、嬉しくないわけがない。
「・・もうちょっとしたら、本気で落としにかかってみようかしら、ふふ。」
今日は良いものが見れた、と思いつつ意識はベリクの本棚にあったエロ本に向けられた。
エロ本を否定するつもりはない。
確かに自分はラミア類だが、嫉妬心はそこにない。
自分がたかが想像でしかないエロ本に負けているなどと微塵も思わないからだ。
だが、そこにはベリクの興味、嗜好が含まれているのも事実。
まぁ、詰まるところ自分にとっては良い教科書といったところだろうか。
その他の本から得た情報を整理してみると、ベリクは
どちらかというと巨乳好きでお姉さんキャラかつ女性上位が良いらしい。
他にも色々あったが一番興味を引かれたのは、
何かに巻き付かれながら囁かれる物が多かった点だ。
他にも探るべく、エロ本を読み込む。
それは他者から見れば、エキドナが男向けのエロ本に熱中しているという
おかしな風景だっただろう。
14/01/19 15:08更新 / GARU
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