連載小説
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明け方〜昼前
ワイバーン…
空を思うがままに飛ぶ、凶暴なドラゴン族亜種。
ドラゴンであるだけあって気性が激しく、魔物娘の中でも相当の実力を誇るといわれる。



「んふふ…おはよう、テリィ。」
…言われてる、んだけどそうは見えないよなぁ。
まだ日も昇らずベッドから出もしないうちから抱きついてくるそのワイバーンの顔を見つつ俺は、そんなことをふと思っていた。
「ああ…まだ深夜だけどな、リヴェ。」
「んふ〜、そんなことはいいの!テリィが一緒なら関係なし!」
俺にとっては、ただの底抜けに元気な奴だ。
「それは嬉しい、でも、深夜に大声を上げるのはやめような?」
「はーい、じゃあ代わりにもっと抱きついちゃおっと。」
そして、素直な甘えん坊でもあるか。
俺よりも背は少しだけ高いはずなのにわざわざ、俺の腕の輪の中に入って胸に頬ずりしにくるんだ、間違いない。
「それだけか?抱きしめてやらなくてもいいのか?」
「あっ、もちろんギューッてして?」
まぁ、毎度毎度こうやって抱きしめてやる俺にも原因はあるか。
この暖かさと匂いを知っている身としては止める気はないし、止める気にもならないけど。
「ほら、こうか?…ーーっ。」
背に回っている両腕両手に力を込め、抱きしめてやる。
指先や掌で感じるすべすべの柔肌の感触はもちろんのことだが、腕に被さっている翼の、どこかざらざらしているそれもまた心地いい。
「どうだ?」
そんなことを思いながら俺は、自らの行動の評点をリヴェに求めてみた。
「んふふっ…」
対して採点者リヴェ、やや満足そうに笑みを漏らした後…
「まだ、まだまだ、かな?」
直後に顔を上げ、採点結果を発表。
仕草とは裏腹に、及第点には届いていなかったようだ。
「そうか…ふ。」
そうこなくっちゃな。
にやりと笑ってみせる、するとリヴェもまた同じように笑った。
「ふふっ、でも今度はこっちの番よ。」
そしてかけられる、肩から背中にかけての優しい圧力。
「んっ、ん…」
腕とそこから連なる翼膜の圧によって、肩から背中までの全てからゆっくりと力が抜けていく。
まるで包まれているような暖かい実感が、体全体へと伝播する。
いや、実際に包まれているのだから、まるで…というのは違うかな。
「んふふ、どうだ、これが私の攻撃なんだから!」
そんな風に考えているとリヴェは笑って更に力を込めてきた。
強い…しかし不快ではない、むしろ心地の良いその暖かい感触に、こちらからもまた何かしてあげたくなってきてしまう。
「ほーう、そうくるか…じゃあ今度は俺の番だな?」
そこで俺は、そう言って笑んでみせた後に片足を軽く持ち上げ、こいつの足の上に乗せてやった。
ふくらはぎで感じるややざらついた感触が心地いい。
「ん、で…そこからどうするの?」
と味わっていると、リヴェは煽るように胸に頭を擦り付けてくる。
確かに乗せただけでやめるつもりはなかったが、何も言ってないのにそう聞いてくるとは。
「…欲しがりだなぁお前は。」
まだ何も言ってないだろ、という意味を含めてそう言う。
するとリヴェはふふっ、と笑ってこう返してきた。
「ふふ、テリィがこのくらいでやめるはずないもん。
私もテリィも…これじゃ満足できないでしょ?」
「…」
無言で息を漏らす。
「…ね?」
一旦顔を離し、そしてまた至近まで近づけてくるリヴェ。
両目を閉じて鼻先を突き出しているのが実にあざとい。
それを見ていると可愛らしく思うと同時に、この表情を驚きに変えてやろうか、という悪戯心もわいてきたので…
「まぁな!」
勢いよく答えるその瞬間乗せた方の膝を曲げ、シーツと足でこいつの足を挟み込んで引き寄せてやった。
「んわっ、びっくりするじゃない!」
やや驚いたような声を上げるリヴェ、しかしその割に口の端はくにっ、と持ち上がっている。
どう見ても、嬉しそうだ。
「ん、嫌だったか?」
が、あえてそう聞いてみる、我ながらいじわるだ。
「んーん!嫌なわけないっ!」
しかし、そんないじわるを彼女は笑顔の中央突破。
「ふふ、そうかよ、だろうとは思ってたが!」
リヴェを抱きとめつつ笑う。
元よりこうなることを期待していたのだから、やはり意地が悪い。
「当然じゃない!テリィを一番分かってるのは私で、私を一番わかってるのはテリィだもん!」
そんなことを悪びれもせずに思っていると、リヴェはそう言う。
「当然、俺はお前のパートナーだからな。」
それは当然のことであったがやはり嬉しいものは嬉しかったので、自信満々にそう返してやると、
「んふふ、だから好きなんだよね、テリィはさ!」
今度は体をこすりつけてきた。
「ふふ、こいつめぇ。」
「んふ、ふふーん。」

と、まぁ。
今日の俺と彼女の深夜から朝にかけての時間は、こういう感じに過ぎていったのである。
ちなみに二度寝したのだが、それは外が明るくなり始めるころだった。




……で、太陽が半分くらい昇った今。
「その結果がこのざまですか。」
「…まぁ、そうなるな。」
「そうなるね。」
俺達は隊長執務室で、見回りにきた団長の秘書兼奥さんのアヌビス、ルナ・スピナスさんにちょっと叱られていた。
「そうなるなではないでしょう…」

こうなった理由はもちろん、朝の二度寝のせいである。
あれをしたために、隊長室でもついついうとうとしてしまったのだ。
朝寝たんなら大丈夫じゃないか、と思うかもしれないがここで考えてみてほしい。
醒めきらない眠気を引きずったまま執務室の椅子に座り、朝のぽかぽか陽気を背中から浴び続けるというその当時の状況を。
どんなに頑強な精神を持つ、それこそドラゴンやアヌビスであろうと決して、多分、恐らく、耐えられないだろう眠気が襲ってくるのだ。
つまり俺は悪くない、きっと…いや少しは悪いけど。

「隊長たるもの規律を正し、皆を導くのが本質、それが執務室で居眠りとはまったく…」

ああそれと俺、テリィ…テリア・グランツがこの国の軍の隊長の一人であるというのもあったか。
ルナさん他風紀を気にする方々が、「まずは上の者が規範を示すべき」とそう言って回ってるんだし。
あーあ、隊長ってのは損な役回りだねぇ…
まぁおかげで、騎竜かつ妻のリヴェ…リヴィエナ・ルテナスと、四六時中一緒にいられるんだから文句は言わないけどもさ。
…いや、竜騎士ならいつでも一緒にいて当然じゃないか?あれ?
じゃあ俺損しかして無くないか…?

「…ちゃんと聞いているんですか。」
そんな風に違うことを考えているのが顔に出ていたのか、ルナさんは腰に手を当てて確認を取ってきた。
眉間にしわが寄っているようにも見える。
「あ、はい、聞いてますー」「聞いてまーす。」
対して俺達は二人揃って適当な返事を返した。
俺は椅子に座りながら、リヴェは机の空いた場所に上半身を乗せながら。
隊長格の俺達と団長格のルナさんとの身分の差を考えると、些かばかりではない失礼である。
「…」
思った通り渋い表情をしてため息をつきつつ、先ほどよりもしわの寄った眉間にその肉球を当てるルナさん…
「…まぁ、いいでしょう。」
しかしながら爆発はせず、それで片づけてしまった。
間が空いたので心中色々と思考していたのだろうが、それにしてもあっさりしすぎじゃないだろうか。
「あれ、怒らないんだ。」
同じような事を思ったらしく、リヴェがそう問いかける。
恐怖等の感情は入っていない軽い口調、ただの疑問であることがすぐに分かるそんな口調だ。
「…いえ、怒ってもいいのですが。」
そんな口調に毒気を抜かれた…かどうかは分からないが、ルナさんはいつもの静かな語り口に戻っていた。
それにしても復帰が早い。
…アヌビスってこういうの結構効くと思ったんだけどな…
と、狙いが外れたことにちょっとした不満を覚えているとルナさんは、
「ああいった答えが返ってくるのは予想は出来ていたので。」
一つ息を吐いた後に同じ語り口のまま、淡々とそう告げてきた。

…えー?

「…えー」「えぇー」
微妙な表情でそう返してしまう。
理由は、俺達の評価低くない?とか淡々とした反応だなぁ…とか、大小問えば有りすぎて答えられないくらいにあるのだが、ざっくりわかりやすく言えば、なにそれ…?だろうか。
残念そうな感じに表情を歪め、それを表現する。
「…なんですか、えー、って。」
対するルナさんは、これまた眉をひそめた呆れ顔でそう返してきた。
自分で引き起こしといてなんだが、まぁ至極もっともだろう。
正しい返答をしたと思ったら文句を言われたんだから。
「そう言う反応をするのでしたら、普段の行動を省みてほしいのですが。」
と考えていると、今度は呆れた感じでそんな言葉が飛んできた。
「普段の行動…ああ。」
耳に入ってきたその単語に、つい苦笑いしてしまう。
そこそこ、思い当たる節があったからだ。
「む…ぶぅ。」
顔を上げて何かを言おうとしたリヴェも、結局は渋々といった様子でその言葉を飲み下す。
「…自覚がおありのようで、大変よろしい。」
「いや、まぁ…」「エヘヘ…」
…流石に、あれを訓練っていうのは無理があったよな。
返事をしつつそう思う。

と、いうのもこの国の大規模な軍、合同で基礎的な共通演習を行う以外は、隊ごとに別々に訓練を行うのだ。
別々に訓練ということはつまり、隊長が違えば内容も違う。
時間内にどこまで戦えるかというペース配分を要求するものや、体力の限り続ける持久力を要求するものなど。
それを決めるのは隊長に一任されている。
…ざっくり言うとなんでもいいのである…そう、「なんでも」。
例えばさっき挙げたようなものは勿論のこと、親睦を深めるために遊ぶとか疲労を抜くために寝るとか、極端に言うならろくなの思いつかないから各自頑張ってーでもいいのだ。
で、俺達は大体そういうので面倒な訓練をどうにかこうにかすっぽかしていたので、まぁ、こういう事になる訳である。

「…まぁしかし、です。
どういうわけだかそれでも戦果をあげているのですから、これ以上は言いません。
それに、士気を保つには必要でもあるでしょうし。」
と、ルナさんがそう続ける。
やや諦めの入った声音だが、その言葉の通り、悪い感情だけでもないようだ。
「それは、ありがたいですね…はは…」「んぇへへ…」
さっきと同じような調子で返す。
気分はまるで、親にいたずらを苦笑いされた子供だ。
「…さて。」
とか何とか思っていると、ルナさんはそう切り出すと共に扉の方へ体を向けた。
何だ…と思ったが、彼女が時計へ目を向けたのを見て理解する。
「…あ、もう次の予定ですか?」「はい。」
それを口に出すとルナさんは一言答えてから扉を開けた後、振り向いて続ける。
「…先程はああ言いましたが、あなた方はそのままでいるのがベストと思いますよ。」
「え…?」「んぇ?それってどういう。」
さっきは注意したのに、とそういう意味を込めて首を傾げてみせる、するとルナさんはふっ、と笑ってこう言った。
「何事も適材適所、という事です…それでは。」
そして今度は、疑問をぶつける暇もなく早歩きで去っていく。
しかしそれでも静かに扉を閉める辺り、流石は団長の奥さんといったところである。
「…リヴェ。」「なに?」
それはともかくとして、俺達は今、疑問が完璧には解消されないまま話題が消えてしまったという状況にある。
「とりあえず、これ終わらせるか?」
となればまずは身近な面倒を片づけよう、という考えに至るのは当然のことだった。
「…そだね、まずめんどくさいの終わらせよっか。」
リヴェもそれは同じだったようで、頷いた後紙を一枚掴まえてまじまじと見始める。
そんな彼女を見て俺も、仕事に取りかかったのだった。





…そして、太陽がさらに昇ってそろそろお腹が空いてくる頃。
「ふむ…これも、確認完了っと!よっし、ぜーんぶ終わりっ!」
リヴェがそう言って確認済みの所に最後の紙を置く。
「こっちも…これで最後、だ。」
それと同時に、俺も最後の一枚を置いた。
ほとんど確認だけの上に隊長が相当数いるのでこの短時間で全て終わらせられるのだ。
「お疲れ様、リヴェ。」
微笑みつつ、リヴェに労いの言葉をかけてやる。
「うん!テリィもお疲れさま!」
すると彼女もそう言って、にこっと笑って返してくれた。
この笑顔を見た途端に疲労が程よいものに変わるのだから、良いものである。
「つっかれたーぁ…んんんぅっ。」
リヴェが両翼をぐぐっと持ち上げる。
感覚を味わうように閉じられた彼女の両目や口、鍛え抜かれた筋肉が作る艶かしい腋のライン、そしていやにいやらしく見えるくねる尻尾はまぁー眼福。
しかも、これでリヴェはそれを見せつけようとしていないのだから恐ろしい。
「んはぁ…っ、んん…」
そんな姿を堪能していると、彼女は姿勢を自然体に戻して体を震わせた。
「ん…んんんっ、ん、んん…?んん…」
緊張からの弛緩を味わっているように見えたが、唸りながら首を傾げるのを見ると、どうやらそれだけでもないらしい。
その証拠に、さりげなくちらちらとこちらを伺っているのが見える。
…言えよ、それくらいさ。
そう思い、ため息をつきつつ俺は執務室のカーペットにあぐらで座り込む。
「…ほら、リヴェ。」
そして我ながら甘いなぁと思いながら、リヴェの方を向いて両手を広げて見せた。

「…っふふ!テリィはやっぱり分かってるよね!」
直後そんな声と共に体にずしっ、と重みがかかる。
理由はもちろん、リヴェが抱きついてきたからだ。
勢いの乗った何の遠慮もない全身での抱きつき、だがそれは信頼の証だ。
事実俺はきちんと受け止められているし、それを予測もできていた。
「まぁ、お前の騎手だからな。」
それくらいは当然だろ?と内心誇らしく思ったのが漏れ出て、ちょっと自慢するような感じで返す。
「んーん?」
しかしリヴェは首を横に振った後、翼を俺の背中に回して俺の胸に顔を押し当ててきた。
胴回りや胸を優しく押し込まれる暖かい感触は、彼女を全身で感じているようで心地良い。
「えぇー?」
心地良い…のはそうなのだが、今ははずしたことの方が気にかかっていた。
というか、自信満々で答えた分恥ずかしかった。
「んふふー、やっぱりテリィの胸は気持ちいね…」
そんな風に考える俺をよそにリヴェはほおずりを続ける。
両目を閉じて俺の胸に顔を何度か擦り付けたかと思えば味わうように押しつけたり。
「ほふぅ…」
そして時折満足げな表情でそのように息を吐く。
…可愛い。
さっきの思考をどうでも良いかと停止させるのには十分な可愛さだ。
それを見られるのが俺一人という優越感もまた、俺を十二分に満足させる。
「…」
心の中に暖かい何かが満ちていく…言葉にするならば、愛情とかそういうものだろうか。
見慣れたもので感じ慣れてもいるものだが、やはり良いものは何度感じても見ても、良い。
その良さは一人で味わいきるには贅沢で、そしてまた、一人ではすべて堪能することは出来ないものだ。
「じゃあ、俺からも。」
そう思って、今度はこちらから行動する。
彼女がしているのと同じように背中に手を回して力を込めて…流石に胸に頬擦りはしないが。
その代わりに、俺の首を彼女の首に押し当ててやる。
感じるのは彼女の肌と、そしてやや異質な冷たさを持つ鱗の感触。
暖かさと冷たさがもたらす彼女特有の肌触りがもっと感じたくなって、無意識に体を押しつける。
「ん…んふふ。」
それに俺が気づいたのは、彼女の平素と少し違う微笑み声を聞いてからだった。
「っ、と…」
いつも甘えさせる側に回るので、自分が甘えていたことに気付き苦笑する。
「ふふ、良いよ、偶にはそうしても。
私だけが甘えてたんじゃ、何か申し訳ないからさ。」
そんな俺の行動を感じてだろう、いつもより大人びた声音でリヴェがそう言ってくる。
「…それもそうか。」
彼女がこういう声音の時は、何故だか分からないが素直に甘えてしまう。
きっと包容力だとか母性だとか、そう言うのが働いているんだろうな。
「あ、そうそうそれと…さっきの続き。」
そう思いながら抱きしめていると、彼女は唐突にそう切り出した。
「続き…ああそう言えば、違うって言ってたな?」
軽く忘れかけていたその話題、しかしながら気にはなるので訊いてみる。
「うん、さっきの言葉の正解は、ね?」
すると彼女は俺から首をいったん離し、そう前置きをした。
良く見るとその目は、軽くとろけたような色を含んでいて、それでいて獲物を狙う野性を感じさせるものでもあった。
それだけで、次の彼女の大体の行動を察する。
「んっ…」
しかして予想通り、彼女は俺に顔を近づけキスをしてきた。
舌はまだ入れない触れるだけのキス。
しかしそれだけでも、彼女の甘い香りや柔らかな唇の感触だけでも、俺を興奮させるには十分過ぎるほどだ。
「っ…!」
すぐさま返しにこちらからもキスを仕掛けようとする。
「あ…だぁめ…まだ、答えいってないでしょ?」
しかし、唇を動かしたその瞬間彼女はそう言って離れていってしまう。
「むぅ。」
残念な気持ちをその一息に込めて放つ。
リヴェは、それを見てふふっ、と笑ってこう続けた。
「さっきのはね…さっきの、一番の答えはね…」
そしてそこで言葉を切ると、再び俺の目の前に顔を近づけてくる。
整った端正な顔、そしてそれに異常なほどマッチしている、欲望で濡れた瞳と息と唇。
今すぐにでもその口を塞ぎ、その上で舌をねじ込みたくなってくる。
例え、彼女の方が余程それが上手いと知っていても。
「私の…夫、大好きな人、だから…だよ?」

だというのに、リヴェは更にそんなことを言う。

流石に、限界というものだ。
彼女が言い終わるが早いか、俺はその口を自分の口で塞いでいた。
「んむ、ん…ふ…」
ワイバーンのお株を奪うような急襲、しかしリヴェは分かっていたとばかりに俺を受け入れる。
「ふぁむ…ん…んゅ…」
そればかりでなく、唇の隙間から舌でこちらの唇に触れてきた。
緩やかに波打つようになぞり…そして、つついてくる。
もっと来て、こんなものじゃないでしょ?
そう言っているようだ。
「っ、ぁむっ、りゅ…!」
堪えきれず、その舌を捉えようとこちらも舌を出す。
するとリヴェの舌は、逃げるように彼女の口の中へと引っ込んでいく。
明らかに誘っている…
「んむ、んっ…る…」
そんなことも分からず…いやもしかしたら分かっていて敢えてか…リヴェの口という魔窟に、浮かされた俺は舌という餌を突っ込んだ。
「んぅ…」
突っ込んだ瞬間…その一瞬だけ、彼女がくぐもった吐息を漏らす。
「じゅりゅっ、りゅ、んるんむんじゅ…!」
しかしその静寂もつかの間、俺の舌は生暖かいぬるつきに包み込まれていた。
「んっ、ん…!」
なんとか応えようとする…
「んふぁむ、んじゅじゅっ、りゅむりゅむぁ・・・」
がしかし、こちらの舌の裏と表を絶え間なく這いずり回ってくるその感触に、次第に頭がぼうっとしてくる。
「んっ、んふあ…」
それでも、何とか応えようと気を張り舌を動かすと、リヴェは、そんな俺を愛おしそうな視線で見つめてきた。
「ん…」
それだけでも軽く達してしまいそうなのに、彼女は加えて俺の体を強く抱き締めてくる。
「ふぁ…!」
その充足感に、思わず身を震わせながら口を離してしまう。
「ふゃむ、ん、ん、んりゅ…」
だが、リヴェというワイバーンは俺という愛しい獲物のそんな隙を逃さない。
間髪入れずに俺に顔を近づけ、先程と同じ状況に持って行く。
「んぁ、む、ん…」
まともにものを考えることが出来ない頭では力が入らず、されるがまま。
「んりゅ、んむ、じゅずずぅ…ちゃぴゅ…」
そんな俺を恍惚と優越と慈愛の入り交じった瞳で見つめながら、リヴェは俺の舌を、口を、蹂躙する。
歯の裏と表、舌の根と真ん中と先端、唇の端から端まで全て。
「っ、ぁっ…」
何も考えられず、ただ快楽に任せて息を漏らす。
彼女にすっかり骨抜きにされる、何度感じても飽きることのない快感が、俺の頭と体を震わし痺れさせる。
「っむ…ん…」
舌の根を押しながら、リヴェは俺のそんな様子を見つめたかと思うと…
「じゅず、りゅむ、ん、むうみゅ、じゅずず、ちゃみゅちゃみゅじゅぅ…!」
スパートとばかりに、舌の口の触れる全てを責め立ててくる。
「ん、む、ん…」
なめずられ、涎を吸い上げられ、口を出入りされるその感触に、応えようとするのはもはや意志だけで、口は支配され体は震え、俺は絶頂を迎えようとさえしていた。
「んむみゅるぅ…」
そして、最期。
俺の舌が彼女の舌にひときわ大きくなぞりあげられたその瞬間。
「んぁ…っ…!」
体を下から上に走り抜けた電撃が、俺の全ての力を奪い取っていった。
まるで糸の切れた人形のように、俺の体がリヴェに寄りかかる。
「んふ…ん…ん…んむ…ん…」
そんな俺の口を、彼女は食後のデザートを楽しむみたいにじっくり、じっくりと長い時間をかけて味わい尽くし…
「ん、るぁ…んっふふ、テリィ、いつも通りに力、抜けちゃったね…?」
そして最後の一口を惜しむかのように、ゆっくりと舌を抜き去り、耳元でそう言ってきた。
「っぁ…」
そこでまた、俺は身を震わせてしまう。
背筋をゾクゾクしたものが駆け上がり、両手がピクピクと揺れる。
キスされただけで、俺はいつもこうなってしまう。
そして…この後は決まって「ねぇ、これから…どうされたい?」と訊かれるのだ。
それを期待している自分を自覚しつつ、その言葉を待つ。

…ぐぅ、ぎゅるぅ〜…

「…ぁ。」「あ…」
しかし、聞こえてきたのは待っていた言葉ではなかった。
二人揃って…腹の音をならしてしまったのである。
「…あはは…」「は、はは…」
良い雰囲気が、台無し。
無論、ここからそういう行為に行っても良いのだけれども…
「…まずは、食欲…か?」
そう訊いてみる。
「そうなるかな…夫婦なんだし、後でもいくらでも出来るもんね…えっへへ…」
やや赤い顔で答えるリヴェ…大体予想通りの答えであった。
俺達は二人とも、割と雰囲気を気にする方なのだ。
気持ち良くなれる雰囲気というか、そういうのが俺もリヴェも好きなのである。
「…じゃあ、飯食べにいこうか。」
「うん。」
恥ずかしさと共に微笑みあう。
「ん…」「んっ…」
そして、一区切りつける意味と少々の名残惜しさを込めて、俺達は短くキスをして、執務室を後にしたのだった。
15/10/08 18:38更新 / GARU
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■作者メッセージ
一つにすると長くなるので、いくつかに分けて一日にしてみようと試みてみました。

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