やりたかったこと
「・・おーい起きろ、今日は町を案内する日だぞー。」「ん・・」
牢屋の中で看守のサラマンダーに起こされる。
意外にもすっきりとした目覚めだ。
「ああ、おはよう・・ふあ・・」
「昨日の態度は何処へやらって訳かい。」
「ま、そう言わないでくれよ。俺だって町に興味が無いわけじゃないしな。
で、監視がつくって話だが・・」
にやけて話す俺にサラマンダーは頷く。
「ああ、あたしだよ。
なんか、家があるからそこに住まわせてその周辺で見張ってろってさ。」
「そんなことを俺に話しても大丈夫なのか?」
「あ〜・・良いんじゃない?
あんた、あんまり根っから教団ってわけでもなさそうだしねぇ。」
歩きながら、それに・・と付け加える。
「逃げようったって困難だって分かってる顔だよ、あんたは。
過去逃げようとした奴みたいにただ逃げることだけを考えてない。
現状分析をしっかりと出来る、一番敵にしたくねぇ奴だ。」
「・・そりゃ、どうも。・・ったく、変わろうとした矢先にこれか・・」
「あ?」「いや、なんでもないよ。」「なら良いけどさ。」
体に染み付いた習慣は消えてはくれないらしい。
騎士団の詰め所を横切り、扉をくぐった先は見事な城下町だった。
「ほ〜、こりゃ凄い。」
「まぁね、この辺りは人が多いから発展もしてるってわけさ。
ところであんた、どっか行きたい所があるかい?
出来るだけ捕虜の好きな所に行かせてやりなってのがこっちの方針でさ。」
「行きたい所・・ねぇ・・そうだな。
この辺に、皆の頼みを聞いてやってる場所はあるか?」
「ふむ?ちょいと待っておくれよ・・」
顎の下を手で撫でながら思案するサラマンダー。
程なくして、笑顔になると答えてくれた。
「あるね、エキドナとかがやってる何でも屋の集まりみたいなのがあるよ。
確か名前は・・エメラルダ・・だったかな?
その仕事は運搬から護衛まで、数多いって噂だよ。」
「そうか・・よし、行ってみよう。それはどこにあるんだ?」
すると、付いてきな、と言って走り出した。
結構なスピードに苦笑いしつつ、俺も同じく走って付いていく。
何故その隙に逃げなかったかは、分からない。
しばらく走ると大きな蛇を形どった像が両に二つ立っている建物の前に着いた。
「ここがエメラルダギルドだ。
あたしも入っていくけど詳しいことは中の奴から聞いた方が早いだろうね。」
そう言い彼女は俺と共にドアを開け入っていく。
中には立派な広場があった。
ケンタウロスと人間が酒を酌み交わしていたり、
オーガとアカオニが腕相撲していたりとにぎやかだ。
そんな彼らを横切りカウンターに近づいて行く。
カウンターは3つあり、左から、
ラミア、メドゥーサ、エキドナが受け持っているようだ。
と、エキドナがこちらを見て手招きをしていた。
拒否する理由もないので近付き話をする。
「貴方、ここに来るのは初めてかしら?私はここのマスター、ナナキよ。
ここで仕事をやってみるつもりはないかしら?
あ、マスターって言うのは・・」
「仕事の斡旋及び選抜、人員の管理、よそのギルドとの業務の提携。
それと・・ギルドそのものの管理をする・・と言ったところか。」
するとナナキは感心したように頷く。
「ええ、そんな感じよ。
貴方、ギルドに詳しいわね、どこかに所属していたことはあるの?」
「あると言えばある、あまり褒められたものではないが。」
「やっぱりね・・貴方の眼を見れば分かるわ。
仕事って聞いて、すっと色が変わったもの。」
「・・へえ、そうかい。」
拗ねたように視線をずらすと彼女は笑って手を振った。
「でも大丈夫よ、ここは殺しの依頼なんて入ってこないわ。」
「・・そりゃ安心だな、何より楽で済む。」
「まぁここで紹介する仕事っていうのは・・例えば、そうねぇ・・
落し物を見つけて欲しいとか、手紙とかを届けて欲しいっていうのかな。」
その手の仕事ならば、これまでもやったことがあったし慣れている。
何より・・職を見つけなくては生活が成り立たない。
そう思いこのギルドに所属することにした。
「そう言うことか・・ここに所属するにはどんな手続きを踏めばいい?」
「そうね・・特に必要なことは無いわ・・
しいて言うなら私に気に入られること、かしらね。」
「それだけか・・?試験などは必要ないのか?」
「あら、私に気に入られることは前提なの?随分と自信があるのね。」
「・・・・」
目の前でいたずらっぽく笑う大人びた彼女に
冗談ではなかったのか、と内心こぼす。
「・・仕事をこなしていけば、そのうち気に入られるのではないか?」
そう答えた俺にナナキはクスッと笑った。
「ふふっ冗談よ、まぁ、そんなに生真面目な人なら大丈夫ね。
資格はそんな、真面目に人の事を考えられる人ならだれでも良いのよ。」
そして、座っていた椅子からするりと降りる。
「じゃあそう言う事ね、手続きは暇だから私がしておくわ。
明日になったらまたきてちょうだい。」
「・・ああ、明日から世話になるだろうし、よろしく頼む。」
「ええ、こちらこそ、よろしくね。」
会話を交わし、出口に向かう。
サラマンダーを探していると、柱にもたれかかっている彼女を見つけた。
彼女は俺に気付くと笑って近づいてくる。
「お、終わったかい。
見ていたけど、なかなかに収穫があったみたいだねぇ。」
「ああ、とりあえず仕事は見つけられた、これで退屈はせずに済みそうだ。」
「監視役のあたしは延々それに付き合わされるッて訳かい?」
肩をすくめて言う彼女に「すまないな」と言うと彼女は笑った。
「いんやあ、良いんだよ。
どうせ一人でいたって素振りぐれえしかやるこたねえんだし。
だから、気にすんなって、な!!」
この笑顔を見る限り、本当に気にしていないようだ。
そして彼女は柱から身を離す。
「他に行きたい場所とかあるかい?
無けりゃ、あんたの住まいを紹介しようと思うんだけど。」
「ああ、それでいい。
無いわけじゃないが、そっちの方が気になるからな。」
「そっかい、じゃあついてきな。」
そう言い彼女は歩き出す。
しかし背中を追って歩き出した瞬間彼女は思い出したように振りかえった。
「そうそう、同居人がいるんだって。
確か・・男にゃたまんねえ奴なんだってさ。」
どういう意味だ、と聞こうとした時には彼女は再び歩き出していた。
それについて行きながら、先程の彼女の言葉の意味を考える。
男にはたまらない・・この言葉を聞いて思いつくのはまず、
サキュバスやら、マーメイドなどの所謂お色気担当の魔物だった。
しかしサキュバスではそもそもの話、共同生活は怪しい線だし、
マーメイドなどは水から出ることは難しくそれもあり得ない。
ならば、どういう事であろうか。
考えながら、付いて行くと一軒家の前に着く。
正直なところあまり期待してはいなかったが思ったよりもいい家だ。
「ここだよ、んじゃあ同居人さんを呼んでくっから待っててくれ。」
そう言って彼女は走っていく。
一人残された俺はこれと言ってすることも無かったため適当に散歩をする事に決めた。
家の前には小さな花壇がある。
しかし、今は使われて無いようでその土は無造作に散らかっていた。
次に目に入ってきたのは少し大きめの倉庫だ。
家より二回り程小さいがそれでもかなりの量が入るだろう。
仕事をする上ではそれなりに道具も必要になるかもしれないのでこれは有難かった。
「さて次は・・」「あのぉ〜・・ここの新しい入居者さんですか〜?」
まるで探検をする子供のように見て回る俺の後ろから不意に声がかかる。
間延びしたその声に振り向く。
振り向いたその先にあったものを一言で表すならば・・そうそれは
紛れもなく巨乳だった。
大きすぎる程の、それでいて崩れてもおらず
些細な体の動きに合わせて細かくふるふると揺れる圧倒的なおっぱいに釘づけになっていると目の前の彼女は恥ずかしそうに言った。
「あ、あのぅ〜・・確かに胸には自信がありますけど・・
そんなに見続けられたら流石に恥ずかしいです・・」
その言葉に、ハッと我に返る。
(お、俺はなんという事を・・!
初対面でこんな失礼なこと、殴られても文句は言えぬ失態だ・・!!)
「す、すまない・・!
あんまり、大きかったもので・・つい・・本当にすまない・・!」
これまでに無い程恥ずかしく思いながら謝る俺に彼女はゆったりと笑う。
「いいんです〜初対面の人は大体そんな感じですから。
あ・・自己紹介がまだでしたね〜私、ミルナって言います。
あなたは・・え〜と・・グロゥさんでしたっけ?
これから、よろしくお願いしますね〜。」
「あ、ああ、こちらこそよろしく。
色々と不慣れなもので迷惑をかけるかも知れないがよろしく頼む。」
彼女のおっとりとした喋り方に緊張が解れたのか、
不思議と割と落ち着いて自己紹介をする事が出来た。
そこに横からサラマンダーが入ってくる。
「お、もう打ち解けたかい。
流石はホルスタウロスってところかね。」
「もう、そんな・・ただ話しただけですよ。」
そしてこちらに近づくとサラマンダーは耳打ちをしてきた。
「な?男にはたまんねぇだろ?」
「・・否定はしない・・事実目を奪われた。」
「はっはは!あんたもムスッとした顔して男だねぇ!!」
確かにあれは男にはたまらないと言って間違いないだろう。
耳打ちが終わると彼女は家の門の出口に近付く。
そして振りかえると、手を振りながらこう言った。
「またな、お二人さん!
後グロゥ、あたしの名前今更だけど教えるよ!ゲーティアだ!
明日、エメラルダに来たら同行者はゲーティアって言ってくれりゃあ良い!
そんじゃあね、心配いらねえと思うけど仲良くやんなよ!!」
「ああ、分かった・・明日よろしく頼む。」
散々騒がしく別れの言葉を告げると、こちらの言葉も聞こえたかどうかと言う辺りで走り去った。
元気な奴だったな、と思いつつ振り返ると同じく手を振っていたミルナと目が合う。
「それじゃあお願いします、まずは家の中に入りましょうか〜。」
そう言ってゆっくりとした足取りで歩く彼女について行き家の中を案内してもらう。
家の中の構造はなかなかにシンプルなものでお風呂、
それにキッチンとリビングが繋がっている広めの部屋があった。
それと、日記が置いてある小さな部屋が二つ。
しかし、気になるものもあった。
寝室は一つしかなく、しかも・・ダブルベッド。
「・・これは、えーと・・ミルナ・・?」
「えっと・・私、いっつもあの大きな部屋で寝るんです。
だから、寝室に置くベッドはどんなのが良いのか分かんなくて、それで
サキュバスさんに聞いたらこのベッドが良いって言われたんです。」
「・・なるほど、納得だ。」
惜しむらくはなぜワーシープに聞かなかったのかという事だけだ・・。
その後、そろそろ良い時間になっていたので夕飯を食べた。
ちなみに普通のパンにバターを塗ったものと苺ジャムを塗ったもの、
それと・・何の因果か牛乳だった。
食事中にもチラチラと机にむにゅっとなる彼女の胸を見てしまう。
「ごちそうさまでしたぁ〜。」「ご、御馳走様・・。」
いろんな意味で。
パンだけだったので皿は少なくコップも二つであった為、洗うのに時間は掛らなかった。
片づけを終えた後疲れたので風呂に入りたいな・・と思った。
「風呂はさっき沸かしたな・・入ってきても構わないか?」
「じゃあ、お風呂入ってきて良いですよ。
私と違って、今日はたくさん歩いてきたみたいですし。」
少々時が進んで風呂の中・・俺は彼女について考えていた。
彼女は正直言って無警戒が過ぎると思う。
男から見てあれ程魅力的な体つきをしているにもかかわらず、
今日いきなり俺が一緒に住む事になったというのに
危険をまるで感じていないように見えたからだ。
「・・もし、俺が襲いかかったらどうするつもりなんだかな・・」
ついぽつりと風呂の中で呟く。
そんなことはしないとはいえ、心配せずにはいられない。
「いや・・そんな仮定の事を考えててもしょうがないな。
のぼせるまで浸かって倒れるのも馬鹿馬鹿しいし上がるか・・」
風呂から上がりタオルで体を拭く。
そのタオルからは良い匂いがして、ミルナがきちんと洗っているのが分かる。
(こういう所は意外と、しっかりした性格なのかもな・・)
そう思い直し、少し風に当たりに外に出る。
もう夜は遅く、真っ暗だったが町は未だに明かりに包まれていた。
「・・んん〜っ・・ふう。
やっぱ、風呂上がりの夜風ってのは気持ちいいな・・」
伸びをして思った事を口に出す。
とはいえあんまり風に当たって風邪をひく訳にも行かないので
大人しく家の中に入る事にした。
・・サキュバスに攫われても困るしな。
家の中に入り、リビングに入るとミルナがマットを枕にして眠っているのが目に入った。
「・・おい、ミルナ。」「ふみゅ・・?何でしょう・・?」
寝惚けた声で応じてくる所を見るともう結構深く眠っていたようだ。
申し訳なく思いながら、気になった事を聞いた。
「風呂・・入んなくていいのか?
俺の記憶が確かなら、まだ入って無いよな?」
「ああ〜・・良いんです。私、早めにお風呂入っちゃう方だから、
ふぁ・・すいません・・気を使わせちゃいましたね・・ふ・・んぅ・・」
「いや・・良いんだ、こっちこそ、起こしてすまなかったな・・」
謝ってみたがもう彼女は再び夢の中へ旅立っていた。
その寝顔はとても穏やかで、無防備で、誰か来ても抵抗など出来ないだろう。
だからという訳ではないが、同じ部屋で寝ることに決めた。
とりあえず冷えないようにタオルケットをかけてやる。
そして俺自身はソファに横になり目を閉じた。
(色々、考えさせられる事になるのかもな・・人付き合いとか、
話し方とか・・ま、主体的に動く上じゃしょうがない事か。)
そう考えてはみたが、あまり悲観的に考える必要も無さそうだし、
何よりも明日の初仕事は何になるか楽しみだ。
色々と苦労はしそうでもあるが、それでも血生臭い仕事をやるよりましだろう。
そのうち眠気も深くなり、瞼だけでなく意識も落ちかけていたので素直に眠る事にした。
牢屋の中で看守のサラマンダーに起こされる。
意外にもすっきりとした目覚めだ。
「ああ、おはよう・・ふあ・・」
「昨日の態度は何処へやらって訳かい。」
「ま、そう言わないでくれよ。俺だって町に興味が無いわけじゃないしな。
で、監視がつくって話だが・・」
にやけて話す俺にサラマンダーは頷く。
「ああ、あたしだよ。
なんか、家があるからそこに住まわせてその周辺で見張ってろってさ。」
「そんなことを俺に話しても大丈夫なのか?」
「あ〜・・良いんじゃない?
あんた、あんまり根っから教団ってわけでもなさそうだしねぇ。」
歩きながら、それに・・と付け加える。
「逃げようったって困難だって分かってる顔だよ、あんたは。
過去逃げようとした奴みたいにただ逃げることだけを考えてない。
現状分析をしっかりと出来る、一番敵にしたくねぇ奴だ。」
「・・そりゃ、どうも。・・ったく、変わろうとした矢先にこれか・・」
「あ?」「いや、なんでもないよ。」「なら良いけどさ。」
体に染み付いた習慣は消えてはくれないらしい。
騎士団の詰め所を横切り、扉をくぐった先は見事な城下町だった。
「ほ〜、こりゃ凄い。」
「まぁね、この辺りは人が多いから発展もしてるってわけさ。
ところであんた、どっか行きたい所があるかい?
出来るだけ捕虜の好きな所に行かせてやりなってのがこっちの方針でさ。」
「行きたい所・・ねぇ・・そうだな。
この辺に、皆の頼みを聞いてやってる場所はあるか?」
「ふむ?ちょいと待っておくれよ・・」
顎の下を手で撫でながら思案するサラマンダー。
程なくして、笑顔になると答えてくれた。
「あるね、エキドナとかがやってる何でも屋の集まりみたいなのがあるよ。
確か名前は・・エメラルダ・・だったかな?
その仕事は運搬から護衛まで、数多いって噂だよ。」
「そうか・・よし、行ってみよう。それはどこにあるんだ?」
すると、付いてきな、と言って走り出した。
結構なスピードに苦笑いしつつ、俺も同じく走って付いていく。
何故その隙に逃げなかったかは、分からない。
しばらく走ると大きな蛇を形どった像が両に二つ立っている建物の前に着いた。
「ここがエメラルダギルドだ。
あたしも入っていくけど詳しいことは中の奴から聞いた方が早いだろうね。」
そう言い彼女は俺と共にドアを開け入っていく。
中には立派な広場があった。
ケンタウロスと人間が酒を酌み交わしていたり、
オーガとアカオニが腕相撲していたりとにぎやかだ。
そんな彼らを横切りカウンターに近づいて行く。
カウンターは3つあり、左から、
ラミア、メドゥーサ、エキドナが受け持っているようだ。
と、エキドナがこちらを見て手招きをしていた。
拒否する理由もないので近付き話をする。
「貴方、ここに来るのは初めてかしら?私はここのマスター、ナナキよ。
ここで仕事をやってみるつもりはないかしら?
あ、マスターって言うのは・・」
「仕事の斡旋及び選抜、人員の管理、よそのギルドとの業務の提携。
それと・・ギルドそのものの管理をする・・と言ったところか。」
するとナナキは感心したように頷く。
「ええ、そんな感じよ。
貴方、ギルドに詳しいわね、どこかに所属していたことはあるの?」
「あると言えばある、あまり褒められたものではないが。」
「やっぱりね・・貴方の眼を見れば分かるわ。
仕事って聞いて、すっと色が変わったもの。」
「・・へえ、そうかい。」
拗ねたように視線をずらすと彼女は笑って手を振った。
「でも大丈夫よ、ここは殺しの依頼なんて入ってこないわ。」
「・・そりゃ安心だな、何より楽で済む。」
「まぁここで紹介する仕事っていうのは・・例えば、そうねぇ・・
落し物を見つけて欲しいとか、手紙とかを届けて欲しいっていうのかな。」
その手の仕事ならば、これまでもやったことがあったし慣れている。
何より・・職を見つけなくては生活が成り立たない。
そう思いこのギルドに所属することにした。
「そう言うことか・・ここに所属するにはどんな手続きを踏めばいい?」
「そうね・・特に必要なことは無いわ・・
しいて言うなら私に気に入られること、かしらね。」
「それだけか・・?試験などは必要ないのか?」
「あら、私に気に入られることは前提なの?随分と自信があるのね。」
「・・・・」
目の前でいたずらっぽく笑う大人びた彼女に
冗談ではなかったのか、と内心こぼす。
「・・仕事をこなしていけば、そのうち気に入られるのではないか?」
そう答えた俺にナナキはクスッと笑った。
「ふふっ冗談よ、まぁ、そんなに生真面目な人なら大丈夫ね。
資格はそんな、真面目に人の事を考えられる人ならだれでも良いのよ。」
そして、座っていた椅子からするりと降りる。
「じゃあそう言う事ね、手続きは暇だから私がしておくわ。
明日になったらまたきてちょうだい。」
「・・ああ、明日から世話になるだろうし、よろしく頼む。」
「ええ、こちらこそ、よろしくね。」
会話を交わし、出口に向かう。
サラマンダーを探していると、柱にもたれかかっている彼女を見つけた。
彼女は俺に気付くと笑って近づいてくる。
「お、終わったかい。
見ていたけど、なかなかに収穫があったみたいだねぇ。」
「ああ、とりあえず仕事は見つけられた、これで退屈はせずに済みそうだ。」
「監視役のあたしは延々それに付き合わされるッて訳かい?」
肩をすくめて言う彼女に「すまないな」と言うと彼女は笑った。
「いんやあ、良いんだよ。
どうせ一人でいたって素振りぐれえしかやるこたねえんだし。
だから、気にすんなって、な!!」
この笑顔を見る限り、本当に気にしていないようだ。
そして彼女は柱から身を離す。
「他に行きたい場所とかあるかい?
無けりゃ、あんたの住まいを紹介しようと思うんだけど。」
「ああ、それでいい。
無いわけじゃないが、そっちの方が気になるからな。」
「そっかい、じゃあついてきな。」
そう言い彼女は歩き出す。
しかし背中を追って歩き出した瞬間彼女は思い出したように振りかえった。
「そうそう、同居人がいるんだって。
確か・・男にゃたまんねえ奴なんだってさ。」
どういう意味だ、と聞こうとした時には彼女は再び歩き出していた。
それについて行きながら、先程の彼女の言葉の意味を考える。
男にはたまらない・・この言葉を聞いて思いつくのはまず、
サキュバスやら、マーメイドなどの所謂お色気担当の魔物だった。
しかしサキュバスではそもそもの話、共同生活は怪しい線だし、
マーメイドなどは水から出ることは難しくそれもあり得ない。
ならば、どういう事であろうか。
考えながら、付いて行くと一軒家の前に着く。
正直なところあまり期待してはいなかったが思ったよりもいい家だ。
「ここだよ、んじゃあ同居人さんを呼んでくっから待っててくれ。」
そう言って彼女は走っていく。
一人残された俺はこれと言ってすることも無かったため適当に散歩をする事に決めた。
家の前には小さな花壇がある。
しかし、今は使われて無いようでその土は無造作に散らかっていた。
次に目に入ってきたのは少し大きめの倉庫だ。
家より二回り程小さいがそれでもかなりの量が入るだろう。
仕事をする上ではそれなりに道具も必要になるかもしれないのでこれは有難かった。
「さて次は・・」「あのぉ〜・・ここの新しい入居者さんですか〜?」
まるで探検をする子供のように見て回る俺の後ろから不意に声がかかる。
間延びしたその声に振り向く。
振り向いたその先にあったものを一言で表すならば・・そうそれは
紛れもなく巨乳だった。
大きすぎる程の、それでいて崩れてもおらず
些細な体の動きに合わせて細かくふるふると揺れる圧倒的なおっぱいに釘づけになっていると目の前の彼女は恥ずかしそうに言った。
「あ、あのぅ〜・・確かに胸には自信がありますけど・・
そんなに見続けられたら流石に恥ずかしいです・・」
その言葉に、ハッと我に返る。
(お、俺はなんという事を・・!
初対面でこんな失礼なこと、殴られても文句は言えぬ失態だ・・!!)
「す、すまない・・!
あんまり、大きかったもので・・つい・・本当にすまない・・!」
これまでに無い程恥ずかしく思いながら謝る俺に彼女はゆったりと笑う。
「いいんです〜初対面の人は大体そんな感じですから。
あ・・自己紹介がまだでしたね〜私、ミルナって言います。
あなたは・・え〜と・・グロゥさんでしたっけ?
これから、よろしくお願いしますね〜。」
「あ、ああ、こちらこそよろしく。
色々と不慣れなもので迷惑をかけるかも知れないがよろしく頼む。」
彼女のおっとりとした喋り方に緊張が解れたのか、
不思議と割と落ち着いて自己紹介をする事が出来た。
そこに横からサラマンダーが入ってくる。
「お、もう打ち解けたかい。
流石はホルスタウロスってところかね。」
「もう、そんな・・ただ話しただけですよ。」
そしてこちらに近づくとサラマンダーは耳打ちをしてきた。
「な?男にはたまんねぇだろ?」
「・・否定はしない・・事実目を奪われた。」
「はっはは!あんたもムスッとした顔して男だねぇ!!」
確かにあれは男にはたまらないと言って間違いないだろう。
耳打ちが終わると彼女は家の門の出口に近付く。
そして振りかえると、手を振りながらこう言った。
「またな、お二人さん!
後グロゥ、あたしの名前今更だけど教えるよ!ゲーティアだ!
明日、エメラルダに来たら同行者はゲーティアって言ってくれりゃあ良い!
そんじゃあね、心配いらねえと思うけど仲良くやんなよ!!」
「ああ、分かった・・明日よろしく頼む。」
散々騒がしく別れの言葉を告げると、こちらの言葉も聞こえたかどうかと言う辺りで走り去った。
元気な奴だったな、と思いつつ振り返ると同じく手を振っていたミルナと目が合う。
「それじゃあお願いします、まずは家の中に入りましょうか〜。」
そう言ってゆっくりとした足取りで歩く彼女について行き家の中を案内してもらう。
家の中の構造はなかなかにシンプルなものでお風呂、
それにキッチンとリビングが繋がっている広めの部屋があった。
それと、日記が置いてある小さな部屋が二つ。
しかし、気になるものもあった。
寝室は一つしかなく、しかも・・ダブルベッド。
「・・これは、えーと・・ミルナ・・?」
「えっと・・私、いっつもあの大きな部屋で寝るんです。
だから、寝室に置くベッドはどんなのが良いのか分かんなくて、それで
サキュバスさんに聞いたらこのベッドが良いって言われたんです。」
「・・なるほど、納得だ。」
惜しむらくはなぜワーシープに聞かなかったのかという事だけだ・・。
その後、そろそろ良い時間になっていたので夕飯を食べた。
ちなみに普通のパンにバターを塗ったものと苺ジャムを塗ったもの、
それと・・何の因果か牛乳だった。
食事中にもチラチラと机にむにゅっとなる彼女の胸を見てしまう。
「ごちそうさまでしたぁ〜。」「ご、御馳走様・・。」
いろんな意味で。
パンだけだったので皿は少なくコップも二つであった為、洗うのに時間は掛らなかった。
片づけを終えた後疲れたので風呂に入りたいな・・と思った。
「風呂はさっき沸かしたな・・入ってきても構わないか?」
「じゃあ、お風呂入ってきて良いですよ。
私と違って、今日はたくさん歩いてきたみたいですし。」
少々時が進んで風呂の中・・俺は彼女について考えていた。
彼女は正直言って無警戒が過ぎると思う。
男から見てあれ程魅力的な体つきをしているにもかかわらず、
今日いきなり俺が一緒に住む事になったというのに
危険をまるで感じていないように見えたからだ。
「・・もし、俺が襲いかかったらどうするつもりなんだかな・・」
ついぽつりと風呂の中で呟く。
そんなことはしないとはいえ、心配せずにはいられない。
「いや・・そんな仮定の事を考えててもしょうがないな。
のぼせるまで浸かって倒れるのも馬鹿馬鹿しいし上がるか・・」
風呂から上がりタオルで体を拭く。
そのタオルからは良い匂いがして、ミルナがきちんと洗っているのが分かる。
(こういう所は意外と、しっかりした性格なのかもな・・)
そう思い直し、少し風に当たりに外に出る。
もう夜は遅く、真っ暗だったが町は未だに明かりに包まれていた。
「・・んん〜っ・・ふう。
やっぱ、風呂上がりの夜風ってのは気持ちいいな・・」
伸びをして思った事を口に出す。
とはいえあんまり風に当たって風邪をひく訳にも行かないので
大人しく家の中に入る事にした。
・・サキュバスに攫われても困るしな。
家の中に入り、リビングに入るとミルナがマットを枕にして眠っているのが目に入った。
「・・おい、ミルナ。」「ふみゅ・・?何でしょう・・?」
寝惚けた声で応じてくる所を見るともう結構深く眠っていたようだ。
申し訳なく思いながら、気になった事を聞いた。
「風呂・・入んなくていいのか?
俺の記憶が確かなら、まだ入って無いよな?」
「ああ〜・・良いんです。私、早めにお風呂入っちゃう方だから、
ふぁ・・すいません・・気を使わせちゃいましたね・・ふ・・んぅ・・」
「いや・・良いんだ、こっちこそ、起こしてすまなかったな・・」
謝ってみたがもう彼女は再び夢の中へ旅立っていた。
その寝顔はとても穏やかで、無防備で、誰か来ても抵抗など出来ないだろう。
だからという訳ではないが、同じ部屋で寝ることに決めた。
とりあえず冷えないようにタオルケットをかけてやる。
そして俺自身はソファに横になり目を閉じた。
(色々、考えさせられる事になるのかもな・・人付き合いとか、
話し方とか・・ま、主体的に動く上じゃしょうがない事か。)
そう考えてはみたが、あまり悲観的に考える必要も無さそうだし、
何よりも明日の初仕事は何になるか楽しみだ。
色々と苦労はしそうでもあるが、それでも血生臭い仕事をやるよりましだろう。
そのうち眠気も深くなり、瞼だけでなく意識も落ちかけていたので素直に眠る事にした。
13/09/04 20:28更新 / GARU
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