ただ。それだけでいい
「隣にいる理由?そんなの、大好きだからに決まってるでしょう?」
そんなことを初めて言われたのは、いつだったか。
クーラーが無くても涼しい夜の闇の中、電灯のつかないベッドの上、ワイバーンに抱きつかれながら考える。
半ばのしかかるような形の彼女、見上げた先のその笑顔は涎を垂らして既に寝入っていた。
では何故その後を追わないのか。
それは迷っていたから。
もっと言えばその迷いに、一応の決着が着いたからだった。
「……」
「んぅ……」
眠る、その頭を撫でる。
こんなのは久しぶりだった。
久しぶりに、何の意味もなく頭を撫でた。
輝く銀色の髪は、記憶の中にあったどんな感触よりもさらさらした手触りで、ふわふわとした甘い柔らかさをもを伝えてくる。
「……ふ」
こんなに気持ちいいのだしもう少し……と思ったところでつい、笑ってしまう。
そうだ。
気持ちいいのだから撫でていたい。
それだけでいい。
同じなのだ、一緒にいる理由も。
「……ふぅ……」
手はそのままに、天井を見上げて息を吐く。
迷っていたのはそれだった。
最初は彼女が好きで、彼女も俺が好きで、だから一緒にいた。
なのに俺はいつの間にかそこに理由を欲しがっていた。
惚れたのは翼に魅せられたからだとか尻尾のくねりが可愛らしいだとか、だ。
「……」
いや、と首を振る。
それ自体は悪い事ではなかった筈だ。
しかし……追い求めるあまり、元にあった心を見失ってしまっていた。
翼が尻尾が腰が腋が胸が性格がというのは好きに理由を欲しがっているだけなのだから、そこを忘れて理由を探せば分かるわけがない。
分からないから……
「んぅ……?もぅ、また難しい顔になってる……」
「……!」
しまったと顔の向きを戻す。
だが遅かったらしく彼女は、困ったような顔をしていた。
困らせてしまう、それは、怖いことだった。
「悪「ふふ、変な顔」
しかし謝る前に彼女は笑った。
どうして笑うのだろう。
どうして笑えるのだろう。
分からないのは、怖いことではないのか。
そんな風に呆気に取られていると、彼女は言う。
「もぅ、何でそんな顔をするかな。私はキミの顔なら何でも好きなんだよ?」
……。
これには、流石に絶句してしまった。
だがすぐに口を開く。
怖くないのか?何故怒っているのか変な顔になるのか何故悲しむのか、分からないのは怖いことではないのか?
「だって、好きだもの。私はそれでいい。キミがどんな顔をしていても、私はキミが好きだから分からなくても別にいいの」
「……強いなぁ、ははは」
答えに、つい口からこぼれる。
呆れたでもなく、きっと感心したわけでもなかった。
何だかその滅茶苦茶な理論がバカバカしくて、それでいて納得できて、色々と笑いたくなってしまったのだろう。
「ぅー、なぁんか馬鹿にされてる気がする……」
「気のせいだ気のせい。ほら寝ろ寝ろ、お前は寝たら起きないくせに寝るまで長いんだから」
図星を、口から出任せにして誤魔化す。
実際彼女は寝るのも早いし寝ていたっていじればすぐに起きる。
それでも、何も考えずに間違いだらけの言葉を放つのはとても楽しかった。
「んーん。キミが寝るまで今度は寝ない」
まぁだからこそ、意に添わないこんな展開もあるわけだが。
首もとに角を擦り付けてくる彼女を感じながら、俺はまたそう思って笑った。
……いい、とてもいい。
何がいいのか分からないがいいと思うからきっといいのだろう。
「む、何で笑ってるのよ」
「……別に?」
彼女の追及を、彼女自身を掛け布団にしてかわす。
それだけだ、特に何も考えていなかった。
考えているとすればこのまま目を閉じれば眠れるだろうくらいだった。
「……ふぅん?」
彼女が口角を持ち上げる気がした。
といってももう眠るために目を閉じていたから分からない。
「……ねぇ……」
「大好き……大好き、とっても」
「大好き……大好き……」
「やめろ」
「なーんで?大好きって言われるの嫌いじゃないでしょう?」
「嫌いじゃないが」
「ならいいじゃない、大好き。だーいすき」
「……」
「ふふ、ほら。なんで?」
「……照れるだろう」
「……んふふ、おやすみ」
「……」
負けてしまった。
何がどう負けたかは分からないがそれは確定的だった。
しかしながら、満足したらすぐに手を引くとはまぁ、やってくれる。
いつもならここで引くところだが。
「ふぅ。……おやすみ、だ」
「だ、大好き、あぁ、おやすみ」
今日からは自分を抑えないことにする。
そんな決心とともにそう言って、寝る為に目を閉じる。
「っ、ぅ……んんー」
彼女が跳ねたような気がする、がまぁいい。
そう、まぁいいんだ。
多少意地悪を返しても、きっと彼女には大丈夫だから。
彼女が俺を好きだからそうするように、俺も彼女が好きだからそうするのだから。
「……うん、大好き。おやすみ……」
首に柔らかい感触を感じた。
足首には刺々しくて平たくて、そしてなめらかにしっとりしていた。
太股にはくねった硬いしなやかさがあった。
背中、薄くも強い広さが暖かかった。
腹、服越しでも息を吐く彼女の脈打つ体の上下運動を感じた。
左、右、腕のどこかに当たっているのは、行くほど鋭利になる冷たい彼女の証だった。
全部、探そうとしていたものだ。
そうだ、ここにある。
ここにある全部なんだ。
俺が好きなのはここにある全部で、ここにある全部が好きだから感じられる。
「……」
別に寝る振りをするつもりはなかったのだが、考えていたらどうにもまた何かしたくなった。
「……っ」
「ん……」
だから力を入れる。
柔らかさと硬いザラツきが、心地よかった。
「……」
「……んん」
また抱きつかれた。
寝なければいけない理由はないが、だからといって寝なくてもよいわけでもないだろうに。
「……」
「……」
「……」
「……うー」
彼女がうなった。
その意味は理解している。
「……」
「うー」
「……」
「ぐウゥ……」
……わがままな奴だ。
「グクゥ……うっ!」
撫でてやる。
ゆっくり、上下にさする。
すべすべの柔肌とつるつるの鱗が指に心地いい。
「んんーゥ、んんーっ……」
……喉を鳴らした。
現金な奴だ、と思う。
だがそれがいい。
そうだから、いいのだろう。
ただ思ったままに、欲張りだ。
俺にはどうにも真似できないが、だからこそ愛おしい。
「……ふ」
「んぅ、んんぅー……」
笑ってしまう。
微笑みだと分かったが、どうでもよかった。
彼女が心地よさそうにしていてくれれば、今はどうでもよかった。
大好きな彼女が喜んでくれれば、それでまた俺が満足する。
……何かむちゃくちゃだがまぁいいだろう。
それでもいいと彼女が教えてくれてくれたのだから。
「……」
「んんぅー……んゥんんー……っ」
結局、次の日。
起きたのは昼だった。
……休みで良かった、しみじみそう思った。
そんなことを初めて言われたのは、いつだったか。
クーラーが無くても涼しい夜の闇の中、電灯のつかないベッドの上、ワイバーンに抱きつかれながら考える。
半ばのしかかるような形の彼女、見上げた先のその笑顔は涎を垂らして既に寝入っていた。
では何故その後を追わないのか。
それは迷っていたから。
もっと言えばその迷いに、一応の決着が着いたからだった。
「……」
「んぅ……」
眠る、その頭を撫でる。
こんなのは久しぶりだった。
久しぶりに、何の意味もなく頭を撫でた。
輝く銀色の髪は、記憶の中にあったどんな感触よりもさらさらした手触りで、ふわふわとした甘い柔らかさをもを伝えてくる。
「……ふ」
こんなに気持ちいいのだしもう少し……と思ったところでつい、笑ってしまう。
そうだ。
気持ちいいのだから撫でていたい。
それだけでいい。
同じなのだ、一緒にいる理由も。
「……ふぅ……」
手はそのままに、天井を見上げて息を吐く。
迷っていたのはそれだった。
最初は彼女が好きで、彼女も俺が好きで、だから一緒にいた。
なのに俺はいつの間にかそこに理由を欲しがっていた。
惚れたのは翼に魅せられたからだとか尻尾のくねりが可愛らしいだとか、だ。
「……」
いや、と首を振る。
それ自体は悪い事ではなかった筈だ。
しかし……追い求めるあまり、元にあった心を見失ってしまっていた。
翼が尻尾が腰が腋が胸が性格がというのは好きに理由を欲しがっているだけなのだから、そこを忘れて理由を探せば分かるわけがない。
分からないから……
「んぅ……?もぅ、また難しい顔になってる……」
「……!」
しまったと顔の向きを戻す。
だが遅かったらしく彼女は、困ったような顔をしていた。
困らせてしまう、それは、怖いことだった。
「悪「ふふ、変な顔」
しかし謝る前に彼女は笑った。
どうして笑うのだろう。
どうして笑えるのだろう。
分からないのは、怖いことではないのか。
そんな風に呆気に取られていると、彼女は言う。
「もぅ、何でそんな顔をするかな。私はキミの顔なら何でも好きなんだよ?」
……。
これには、流石に絶句してしまった。
だがすぐに口を開く。
怖くないのか?何故怒っているのか変な顔になるのか何故悲しむのか、分からないのは怖いことではないのか?
「だって、好きだもの。私はそれでいい。キミがどんな顔をしていても、私はキミが好きだから分からなくても別にいいの」
「……強いなぁ、ははは」
答えに、つい口からこぼれる。
呆れたでもなく、きっと感心したわけでもなかった。
何だかその滅茶苦茶な理論がバカバカしくて、それでいて納得できて、色々と笑いたくなってしまったのだろう。
「ぅー、なぁんか馬鹿にされてる気がする……」
「気のせいだ気のせい。ほら寝ろ寝ろ、お前は寝たら起きないくせに寝るまで長いんだから」
図星を、口から出任せにして誤魔化す。
実際彼女は寝るのも早いし寝ていたっていじればすぐに起きる。
それでも、何も考えずに間違いだらけの言葉を放つのはとても楽しかった。
「んーん。キミが寝るまで今度は寝ない」
まぁだからこそ、意に添わないこんな展開もあるわけだが。
首もとに角を擦り付けてくる彼女を感じながら、俺はまたそう思って笑った。
……いい、とてもいい。
何がいいのか分からないがいいと思うからきっといいのだろう。
「む、何で笑ってるのよ」
「……別に?」
彼女の追及を、彼女自身を掛け布団にしてかわす。
それだけだ、特に何も考えていなかった。
考えているとすればこのまま目を閉じれば眠れるだろうくらいだった。
「……ふぅん?」
彼女が口角を持ち上げる気がした。
といってももう眠るために目を閉じていたから分からない。
「……ねぇ……」
「大好き……大好き、とっても」
「大好き……大好き……」
「やめろ」
「なーんで?大好きって言われるの嫌いじゃないでしょう?」
「嫌いじゃないが」
「ならいいじゃない、大好き。だーいすき」
「……」
「ふふ、ほら。なんで?」
「……照れるだろう」
「……んふふ、おやすみ」
「……」
負けてしまった。
何がどう負けたかは分からないがそれは確定的だった。
しかしながら、満足したらすぐに手を引くとはまぁ、やってくれる。
いつもならここで引くところだが。
「ふぅ。……おやすみ、だ」
「だ、大好き、あぁ、おやすみ」
今日からは自分を抑えないことにする。
そんな決心とともにそう言って、寝る為に目を閉じる。
「っ、ぅ……んんー」
彼女が跳ねたような気がする、がまぁいい。
そう、まぁいいんだ。
多少意地悪を返しても、きっと彼女には大丈夫だから。
彼女が俺を好きだからそうするように、俺も彼女が好きだからそうするのだから。
「……うん、大好き。おやすみ……」
首に柔らかい感触を感じた。
足首には刺々しくて平たくて、そしてなめらかにしっとりしていた。
太股にはくねった硬いしなやかさがあった。
背中、薄くも強い広さが暖かかった。
腹、服越しでも息を吐く彼女の脈打つ体の上下運動を感じた。
左、右、腕のどこかに当たっているのは、行くほど鋭利になる冷たい彼女の証だった。
全部、探そうとしていたものだ。
そうだ、ここにある。
ここにある全部なんだ。
俺が好きなのはここにある全部で、ここにある全部が好きだから感じられる。
「……」
別に寝る振りをするつもりはなかったのだが、考えていたらどうにもまた何かしたくなった。
「……っ」
「ん……」
だから力を入れる。
柔らかさと硬いザラツきが、心地よかった。
「……」
「……んん」
また抱きつかれた。
寝なければいけない理由はないが、だからといって寝なくてもよいわけでもないだろうに。
「……」
「……」
「……」
「……うー」
彼女がうなった。
その意味は理解している。
「……」
「うー」
「……」
「ぐウゥ……」
……わがままな奴だ。
「グクゥ……うっ!」
撫でてやる。
ゆっくり、上下にさする。
すべすべの柔肌とつるつるの鱗が指に心地いい。
「んんーゥ、んんーっ……」
……喉を鳴らした。
現金な奴だ、と思う。
だがそれがいい。
そうだから、いいのだろう。
ただ思ったままに、欲張りだ。
俺にはどうにも真似できないが、だからこそ愛おしい。
「……ふ」
「んぅ、んんぅー……」
笑ってしまう。
微笑みだと分かったが、どうでもよかった。
彼女が心地よさそうにしていてくれれば、今はどうでもよかった。
大好きな彼女が喜んでくれれば、それでまた俺が満足する。
……何かむちゃくちゃだがまぁいいだろう。
それでもいいと彼女が教えてくれてくれたのだから。
「……」
「んんぅー……んゥんんー……っ」
結局、次の日。
起きたのは昼だった。
……休みで良かった、しみじみそう思った。
17/04/10 23:41更新 / GARU