後編 慕情匂い立つ雌飛竜
何の冗談だ…
「嘘だろ…」
そう思わずにはいられなかったし言わずにもいられなかった。
起こされた彼女の体、体が。
まるで元々そうだったかのようにするすると様変わりしていき。
緑の薄い服が溶けるように鱗へと変わったかと思うと、膨らみのある袖が鋭さのある畳まれた双翼のように彼女の体の一部となり。
程良い膨らみをゆったりと包んでいた部分はぴっちりと包む皮に、靴の先から爪に、膝当てが鱗に、髪飾りが角に…
「なんで…お前の体!?」
そうしていつしか見てみれば、彼女はワイバーンとなっていた。
しかもご丁寧に、所々修飾がかった紫色の。
「なんでってこういう体だから、かしら?まぁいいじゃない。」
驚きに硬直する俺に、しかし彼女はそう言って再び近づいてくる。
広げた翼と体をゆっくりと降ろし、まるで覆い被さるように…
「ぁ…!」
その覆い被さる、という行動を受けることに先程までとは違う危機感を抱き、俺はその場から動く。
「っ、ぅ」
いや…動こうとしたが動けなかった。
指先はピクリピクリと動こうとしているし足ももぞもぞとして体を動かそうとしているのも分かるのだが、どうにも今一歩力が入らない。
…どうやら、回ってしまったらしかった。
致死性の毒ではないのは情報で分かっていたが、そうでなくてもこの状況でこれは致命的である。
ちっ…
心の中で舌打ちをする。
「ふふ、そう逃げないでよ…」
そんな俺をよそに、ヴィオは微笑みを崩さないまま俺の背中に翼をゆっくりと差し込んできた。
ついでとばかりにその爪のついた脚を俺のそれに重ねながら…
「ほらこうすると…ね、気持ちいいでしょ?」
そして抱きしめるように力を込め、続けてくる。
確かに体全体を翼に包まれるというのは、思いの外気持ちがよかった、が…
そのように思って力を抜けば死ぬ…と思う俺にそれを味わう余裕などあるはずが無い。
「そんなこと…っ、ぐ…!」
喰われるわけにはいかない、何とかしてこいつから逃げなければ。
そう思い体をどうにかこうにか動かそうともがく。
「もぅ…まだ逃げようとするの?」
対して彼女は、呆れたような困ったような声で言葉をかけてきた。
その顔はというとまるで愛おしいものを見るような顔で笑っている。
「当たり、前だ!」
その顔が優越感やら勝利の喜びやらに浸っているように見えて…俺はそれが気に障り、やや怒るように声を荒らげる。
…いや、そもそもこのワイバーンは俺を追い立てていた張本人なわけで、それが普通と言えばそのはずだ。
声を荒らげる、等と申し訳なさそうに思わなければならない筋合いなどない。
「ふふ…」
「っ」
そんな風に思ってしまったという事は、いつの間にか警戒を解かれかけていたということだ。
…このままでは、まずい。
「もぅ、暴れないで…別に取って食おうってわけじゃないんだから、ね?」
等と考えていると目の前のワイバーンは笑ってそんなことを言う。
「は…ぁ?」
その言葉に俺は呆然とそう返す事しか出来なかった。
当たり前だ。
先程まで命懸けで逃げていたその相手からの、取って食うつもりがないという宣言はそうなって当然だろう。
「言った通りよ、殺したりとか食べたりとかしたいわけじゃないってこと。」
しかしヴィオは平然とそう言い、重ねて説明してきた。
目の前での笑顔を見る…その顔は嘘を言っているようには思えない。
かといってあっさりと信じ切れるわけではないが…それにしても。
揺れることなく真っ直ぐにこちらを見つめる瞳は、疑いきるにはどうにも眩しい。
だがそうなると…正直、わからなかった。
魔物が動物がワイバーンがに限らず、肉食の生き物が追いかけてきたならばそれは殺生の為だと思うのが普通だろう。
だが、目の前の…ヴィオは取って食ったりするために俺を追いかけていたのではないという。
毒まで振りまいておきながらこれはどういうことなのだろうか。
…しかし…いや、いっそ。
「なら、一体何のために追いかけてきた…?」
考えて分からないなら、と俺は直接聞いてみる。
幸いにして喰われる心配はないらしいのだからこれが一番手っ取り早いだろう。
拘束から逃げられそうにないので、これしかもうすることがなかったのもあるが。
ともかく尋ねると、彼女は首を傾げ。
「うーん…一目惚れしたから、かしら?」
「な…!?」
驚くべきことを、口にした。
一目惚れ…したから?何を言っている?魔物が、人間に?
いや、魔物が人間に惚れるというのは物語で良く聞くが、だがしかし…
「本当にね、それだけなの…」
と考えていると、ヴィオは口を近づけてくる。
それはすぐに口と口が触れ合いそうな距離に近づき…
「って待て、お前まさか」
その近さに、少し前に味わった感覚を思い出し止めようとする。
「んっ…」
がやはり体は動かせず、再びその感覚を味わうこととなった。
「!ぁっ…んむ…」
唇をまさぐるそれを味わった途端、体からみるみる力が抜けていき、それと同時に抵抗する気力までも奪われていく。
「ん…ぁ…」
それだけならばまだ彼女のせいと言えたが…あろう事か俺は、自分から口を動かしてしまってもいた。
毒のせいかと思うがそれだけでは、ない。
「む…ぅ…ん」
例えそれが人間でなくワイバーンであろうと美しい女性に、自分だけを求められそうしてしまったのだ。
他ならない自分の体、どれほど目を背けようとはっきりとそれが自覚できてしまう。
それ…意思など簡単に超越してしまう…求められたなら求め返したいという、本能が。
「ん…む…」
一度そうしてしまうともう後は情けないやら弱いやらでその感触から抜け出せなくなっていって。
「んぅ…む…」
鼻を侵していく濃厚な甘みと唇を包み込んでくる柔らかさ、
そして愛しさを帯びて捉えてくるうっとりとした目に意志と脳が溶かされて。
拘束と考えていた翼も、今は抱きしめられているとさえ思えてしまっていた。
「ん…ん、ふ…」
沈み込んでいくようなこの感覚はさながら沼とでもいったところか…?
段々とおぼつかなくなっていく思考でぼんやりとそう考える。
「ん、はぁ…」
と、ヴィオが口を離した。
「…ぁ…」
人知れず、その展開に名残惜しいと告げる声を漏らしてしまう。
さっきまでなら、やっと終わったと思っていただろうに。
「もっと、したい?」
「ぁ…?」
しかも、自分にしか分からなかった気でいたのに聞こえていたらしく、彼女はそう尋ねてきた。
顎の下から、少しばかり蕩けた目で舐め上げるように見つめながら。
「そ、れは…」
誘うようなその視線を真正面から見ているのが何だか恥ずかしくて、目を逸らす。
「素直になってよ…教団の教えを信じてるわけでもないんでしょう?」
対してヴィオは、俺の首元に頬を押し当てながらそんな事を言う。
どうして分かった…
「ふふ…」
と言葉が口から出ようとしたその瞬間、心底安心しきったような笑みを彼女が浮かべる。
「…なんなんだ、急に。」
その、どこか愉快そうな感情も見えるその表情に、抗議が漏れ出てしまった。
「ううん…だって、本当に信じてないんだなって。」
「な…どういう?」
だが彼女は同じ表情のままに言う。
そんな様子にほだされたか、俺は心からの疑問を素直に告げていた。
「っふふ…うん、教えてあげる。」
するとその行動の何かが彼女の気に召したらしく、彼女は嬉しそうに喉を鳴らすと顔を耳側へと動かし…
「汚れるー…とか、やめろーって言わないんだもの…好きよ、そういうの…」
味わったのは、ややもすれば舐め上げられているのではないかという感覚。
湿った息と共に耳に滑らかに入り込んできた艶に勝手に体がくねり、呻きまで漏らしてしまう。
かけられたのは何がしかの言葉だったのだろうが、もはやそれも意味を成していなかった。
思考が囚われ、言葉まで考えが回らないのだ。
しかしながらそれが心地良い言葉であることは何となく分かった。
だからだろうか。
「…ん…もしかしてこういうの好き?」
「それ、は」
その質問にも、即答は返せなかった。
今の状況でも違うというと嘘になるが、好きでもない。
好きではないはずなのだが…
「ふぅん、まぁ…どっちでも良いけどね…」
としかし、それはさしたる問題では無かったようで、ヴィオは再び顔を突き合わせてきた。
「ねぇ…」
「っ、ヴィ、ヴィオ?」
歪んでいる口元と濡れた瞳が見え、恐怖じみた何かを鈍った直感が告げる。
だがそれは…どこか甘美な期待をも俺に抱かせた。
感覚が感覚故にはっきりとしたイメージこそ湧かないのだが、
逆にそのせいで、蕩けた理性は期待の方ばかりを固めていっているような気さえしてくる。
「…逃げないんだ…ふふ、つまり良いって事ね…ん…」
そんなことになっていたからだろう、重ねられようとする唇を感じていても俺は逃げる気すら今度はあまり起きず…
「ぇ、ぅる…」
「ぅ…んぁ…」
最初に味わったのは、にゅるりだったか、ねっとりだったか。
それの侵入を、いとも容易く許していた。
「れ、ん、りゅ…む…」
だがそんなことはもはやどうでもよかった。
口の中を這いずり始めた細いぬるつきは、そう思えるくらいに気持ちが良い。
「っ…ふぁ…ん…む…」
抑えつけられなすがまま、されるがままに口の中を舌で舐めずり回られる。
男として、等と考えると恥ずかしくてたまらないはずなのだが、舌がそんな常識さえ奪い去っていくようで。
「ん…ぅ…えぅ…」
絡め取られ、螺旋を描くようにしてなぞられる度に…
体のみならず頭まで震えるような感覚に陥る。
それ程に意識をもっていかれると、
こちらのそれのどの辺りを舌が触れているかで感じ方も細やかに変わってくるのが分かって。
「ぇぅ…ん、じゅっ、んるぅ…」
通り過ぎれば終わるその一回の再来を俺の本能が求めている事も、理解できてしまう。
「ん…んむぇ、ぉ、ん…」
だが感覚の方はというとまた複雑で…
どこから始められたかでも変わるこの感覚は、再びを望んでも微かに違うものだった。
もう一度、と願う身にそれは堪らなくもどかしいのだが。
結局は、一舐めの間に体が浮いたり沈んだりする錯覚を覚えてしまう程の心地良さに、
そのもどかしささえ塗り替られていってしまう。
「…ぁ…ん…ゅ…」
しかし…どうしてこんなに、これほどまでに気持ちがいいのだろう…
半ば差し出すような動きを勝手にする舌を感じつつ、ぼんやりと考える。
「ん…ふ…ん…れ、りゅぅ…」
もはやどろどろで、まともな思考など無理だったが…
「っ…ふあ…っ、む…」
それでも。
愛おしいと言ってくる閉じかけの目とねっとりだと思っていた口内の蹂躙、そして抱きしめ覆い被さる翼の感触ですぐに答えは分かった。
「っふ…ん…」
「…っぁ…ふふ…ん、ん…」
一口離し…そしてまたかき混ぜられる。
好き勝手に口の中と外を、まるで自分の物かのように出入りされる。
…だが今はそれさえ、彼女の愛に思えて…
うーん…一目惚れしたから、かしら?
やはりだ、だから…だからこんなにも…っ。
「っ…む…ぇ、ほっ…!」
突如思い出した言葉と、伴って引き出された感情に呼吸を乱してしまう。
「ん…ぁ…」
感じ取った彼女はというと口を離し…
「大丈夫?…ちょっと、きつかった…?」
そう、心配そうな目を向けてきた。
「いや…っ…何て事は、ない…っ…ぅ」
それについ強がろうとしてしまうが、そんな言葉しか返せなかった。
体が、彼女は強者で自分が弱者だと認めてしまっているからだ。
「そう…良かった。」
だからなのだと、少なくとも先程までは確信を持てていだたのだが。
物憂げな表情から一転して微笑みを浮かべる彼女に、そうは思えなくて。
そしてその代わりに思ったのは…愛されているからなんだ、ということで。
その考えでいけば。
ただの強い拘束だと思っていた翼は締めると言うより包み込むようで。
支配の布石だと思っていた舌使いはねっとりというよりもゆったりで。
獲物への悦楽の視線だと思っていた目は、まるで大好きだと言っているようで。
思い返すほどにどうにも都合の良い方へと解釈をしてしまう。
最も恐ろしいのは、そのように否定する事すらもがある意味での逃げに思える事である。
だがもしそうなら。
本当に、彼女が、俺を獲物として見ていないのだとしたら…
「…ねぇ…」
と、考えているとヴィオが声をかけてくる。
意識を向けると、慈しむような目で期待するように頬を上気させていた。
異常という程ではないがどこか普通でない何かを感じる顔だ。
何だ…
「交尾…私、あなたと交尾したいなぁ…」
と聞こうとしたがそれよりも先に、彼女はとんでもないことを口走る。
甘えるような誘うような…それでいて、どこか危険な感じのする声が耳に入ってきて。
「っ…!…は!?」
…驚く。
俺は、正直言ってとても驚いていた。
口があとうを交互に行き来しているのが自分でも分かるくらいだ。
だが当たり前と言えばそうだろう、これが当然の反応、その筈である。
交尾とは、つまり、そういう事なのだから。
「……」
焦り、そして困惑気味に目を逸らす。
交尾とは…きっと…
「したくない?」
しかし彼女は整理する暇を与える気など無いようで、逸らした先に回り込んでくる。
直視せざるを得ない琥珀色は焦りも急ぎもなくただただ楽しげで。
「…それは…」
曖昧な返事をしながら俺は、今更にじっくり見たその瞳に危うく見とれそうになっていた。
しかし…交尾か。
あまりにも脈絡無く繰り出されたその言葉は、普通なら頭の悪い物言いに聞こえる。
だが彼女にはしっかりとした知性があるし、行為に対する認識もあるだろう事も分かっていた。
だから…つまるところ彼女は、俺とセックスしたい、とそう言っているのだ。
それがそういう行動であると分かった上で。
…では、俺は…?
「嫌?」
と考えていると、思考に声が差し込まれる。
ハッ、と意識を戻すとそこには変わらぬ琥珀色。
まっすぐで淀みない輝きがこちらを見つめていた。
「……」
嘘のないそれとその言葉に、再び目を逸らす。
「そう…」
それをどう取ったかどうかは定かではないが、彼女は何故か嬉しそうに微笑んで。
「なら、体に直接聞いちゃおうかなぁ…」
そんな言葉と共に下半身を引き寄せ、爪先を俺の腰にあてがってくる。
続くのは、下半身を覆うものがゆっくりと持ち上げられるような感覚。
「…おい、ヴィオ!」
嫌な予感にとっさに声を上げる。
しかしそれに対する返礼は、ひんやりとした下半身が空気に触れる感覚だった。
「…ん…良かった。」
「っ…」
そして。
彼女が微笑んで見つめる先、足と足の間には、そそり立つそれがあった。
ただあるのではなく、そそり立っていた…つまりそれは。
顔が熱くなる。
穴があったら入りたいとはこのことだ。
襲いかかってきていた相手に押し倒され、抱きしめられ…勃起、しているのだから。
しかもそれを見られていた。
「体は正直って言うわよね…?」
だが、俺にとって恥じるべきその状況を彼女はそう言ってただ笑う。
「…だったら、なんだ。」
嘲るでも呆れるでもないその表情に、つい何となく強がる。
どうしてかなど分からない。
馬鹿にされているわけでもないというのに、何故か俺はそうしていた。
「うぅん何でも?…ただ、こうしようかなって…」
対するヴィオは言って。
強がりを挫くでもなく指摘するでもなく、また微笑んだ。
抱きしめ続けられているのと、その微笑みに否応無く自分が心を許すのを感じる。
少し前と違って、もうそれを否定する気にもならない。
「ぁ…!?」
と、ここで不意に密着されていた感覚が離れ、代わりに股間に痺れが走った。
遅れて脳まで駆け抜けたそれに、俺は直感して咄嗟に口を開く。
「ま、待てお前…!」
何をされているのかは考えるまでもない。
「なぁに?」
しかし、いつの間にか上体を起こしていたヴィオはこう言ってくる。
とぼけるような返事だったが…
「ちょっと、待ってくれ…それは…」
それは有り得ないのは流石に分かった。
自分からやっておいて、分からない訳がないのだ。
だから俺は、それという言葉を使って止めようとする。
「言ったでしょ?交尾したいって…ね?」
「…!だからって…」
しかし彼女はそのように続ける。
今のぐにゃりと歪んだ口元と濡れた瞳はワイバーンというよりさながらサキュバスだった。
捕らえた獲物を絶対に逃がさない、手法こそ違えども同じ狩人の表情である。
「こういうことしたいって、体は言ってるわ?それに…」
「っ、ぁ…」
と、またあの感触が襲いかかってきた。
激しさ自体はさっきより控えめだったものの、それだけに確かに感じ取れてしまう。
何か、湿っていて温かいものがそこに押しつけられている、と。
そしてこの場でそんなものは一つしかなかった。
ということは、つまり。
「ま、待てヴィオ…」
その行動を止めようと抗う。
だが。
にゅじゅり。
「ふふ、上にいるのは…私よ?」
返ってきたのは無慈悲な言葉と、刺激というには甘美すぎる痺れだった。
「っ、ぁ、あ…!?」
口から、惚けたような甲高い声が出てしまう。
下半身を強かに襲来した食らいつくような快感が、脳髄までを一瞬で駆け抜ける。
「ぁ…は…が…っ?」
意識がふわりと持ち上がり…落ちる。
自分でも何の事か分からないがそれほどだった。
それほどに、これは強烈だった。
「っ、ふっ、ん…ぁ、はぁ…」
しかもそんな状態の俺にも、ヴィオはぐりぐりと腰を押しつけてくる。
恍惚の表情を浮かべながらじっくりしっかり、快楽の毒牙を突き立てるように。
「は…ぁ…っ…ぅ!」
無論こちらにそれを止めることなど出来ない。
今もじわりじわりと…いや。
「っ、ぐ…ぅぁっ…」
ぐじゅりぐじゅりと生々しく伝わってくる、
下半身がまるで咀嚼されるようなこれにそんな表現はもはや生温かった。
「ん、ぁ…うぅ、んっ…」
彼女が腰を押し込む度、
みっちりとして暖かい感触が敏感な雄の象徴をもみくちゃにし、快楽を叩きつけてくるのだから。
「っふふ…は、ぁあ…ん」
だが、不思議なことにヴィオの腰の動き自体は緩やかだった。
心地良さにだろうか口を開いたまま、ゆっくり、ただただ押しているだけである。
「っ、く…はぁ…」
だが彼女のそんな動きは、俺の体を凄まじい勢いで貫いていく。
まるで倍以上に敏感になってしまっているのではないかと思ってしまう、それ程の快楽で。
「っふふ…」
と、彼女が意味深に笑った。
「っ、ま、待ってくれ」
何をするつもりかは分からなかったが、本能が口をそう動かす。
しかし彼女はその言葉に口元を更に歪め…
「言ったでしょ…?上は…」
そのまま俺の胸の上に双翼の爪先を、並べるように置くのだった。
「…!」
心臓が、早鐘を打つ。
その動きが、その言葉の先が、もっと言うならそれらが招く行動がそうさせる。
「…私だ、って…」
じゅぶり。
「はぁぅっ!?く、んあぁ、あぁあ…!」
しかして。
その時は、感覚は、決定的な蹂躙は訪れた。
脳は既に動けない程に熱かったが、何が起きたかなど考えるまでもなかった。
根元まで、喰われたのだ。
彼女の、緩やかながらも容赦のないそこに、俺のペニスが。
「ん…あぁ…んふふ、どう…?気持ちいい…?」
ヴィオが聞いてくる。
「…ぁ…あ、ぁ…」
対して口から出たのは、そんな情けない声だった。
言葉、単語ですらないただの呻き。
「そぅ…よかっ、た…ぁ…は、ぁ…」
それを見た彼女はぐにゃぁっと笑い、うっとりとした様子で息をついた。
紅潮した頬の中央から熱っぽい空気を吐き出しながら。
それを見た途端、朦朧としている筈の意識が反応する。
もう限界まで行った筈の肉棒が、更に膨らみを増して膣を押し分けていくのが分かった。
「ぁ…」
それに彼女が自分の唇を舌でなぞった瞬間、動きが変わる。
ぐじゅぐじゅと揺らすように食いついてきていた膣が、にゅちゅりぃっ…と、圧迫してきたのだ。
今度こそ最大まで膨張したペニスを、根元までずっぽりとくわえ込まれる、感触。
「は…ぁ…ふぇ、あ…?」
声が、漏れる。
彼女は動いていない。
なのに、到底自分の口から出たとは思えない声を、俺は出していた。
「ん…んぅ…っ…」
それがいけなかった。
もっと言えば、それが引き金だった。
それが彼女の中の何かを刺激してしまったらしく、膣が少しだけずりゅりゅっ、と動いたのだ。
ぎちぎちと締め付けたまま、左右の肉が上下逆に。
「ぁ…」
聞こえたのは、恍惚に沈みゆく湿っぽい声。
それが俺のものだと気づいたのは。
「…あ…ぁ…?」
彼女の中に、熱い白濁をぶちまけていると気づいたのと同時だった。
「っ、は…ぁあ、あぁ…っ…」
…射精していた。
情けないだとかだらしないだとか、普段ならばそう思うようなこんな状況で俺は精を放っていた。
しかも、それは無理矢理という訳でもない。
全てがその白に溶け込んで流れていくような、これまで味わった事のない脱力がそれを証明していた。
そこまでを惚ける頭で認識して脳が理解する。
「ぁ…ん、っ、ん…んんっ…ぁっはぁ…」
この、まるで吸い上げるように体を弓なりに反らしているワイバーンの膣内に俺は、
自ら望んで出したのだと。
強すぎる圧迫をされて動かれたから、そして射精したいと思ったから。
そうでなければこんなに、こんなに心地よい筈がなかった。
「ぅ…っ…ぁ」
体が、ピクリピクリと不規則に跳ねている。
まるで他人のもののようでいて、その感触ははっきりと伝わってきた。
快楽に耐えきれずこうなったのだろうか、と何処か傍観するように考える。
「ん…」
彼女はまだ弓なりになったままだ。
その膣内はにゅちゅ、にゅちゅ、と精を吸い上げていく。
脈打つような肉の動きは、漏らしているのか、吸い上げられているのか分からない程の快楽を俺に継続してもたらしてくる。
「あ…ぁ…」
漏れると言えば、口からも何かが漏れていくような感覚があった。
…何がだろうか。
それは息に決まっているのだが…今は魂やら気力やらといった諸々全てに思えてならなかった。
あまりに心地よい射精の為に、それ以外の何もかもを捨ててしまいたくなっているのだと。
実際、それくらいに気持ちよかった。
視界のぼやけも気にならない程、瞼が落ち意識が無くなっても良い程に…
「ぁ、むっ…ん…」
と、何かが柔らかく覆い被さり、俺の口に生暖かいものを滑り込ませてくる。
「んむ…ぅあ…」
入り込んでくるぬるつきに、無意識に口が開く。
するとそれは、ゆっくりと労るようにこちらの舌をなぞってきた。
「んふぁ、え、む…ん…」
ゆっくり…しっかり…まるで、子供をあやすように…
「んむ、ん…ぁ、んぅ…?」
それを受け、僅かだが回復する。
一切の働きを拒否するように重かった瞼が、ちょっとだけ開く。
「…んふ、ぁ…む…」
そこにいたのはヴィオだった。
…何を当たり前の事を、と頭が言う。
裏を返せば、脳が麻痺するほど心地よかったという事らしかった。
「ん、は…ぁ…」
とその直後生暖かいそれ…舌が俺の口の中から抜けていく。
それがキスの終わりだと、分かった。
「…落ち着いた?」
続けて聞こえてきたのは、優しい彼女の声。
「ん…」
ゆっくりと、また少し目を開ける。
見えたのはヴィオの慈しむような、それでいてどこか安心したような顔だった。
先程までキスをされていたおかげでかなりの至近距離だ。
「っ、ぁ…」
呻いて答える。
成立しているか心配だったが…
「そぅ…」
胸元にあった翼を俺の背に回しながら、
こちらの頬に自らのそこを擦り付けてくれる所を見ると、杞憂だったようだ。
少しして、この抱擁から離れたくなくなった頃。
「…っ…」
完全とは言わないまでも俺は自分を取り戻していた。
その為、思い出して顔を赤くしてしまう。
「ん…どうしたの?」
そしてそれは当然ながら見つかる。
ヴィオの性格上、隠しても無駄そうだった。
「…早かった…というか…」
だからといって告げる恥ずかしさが霧散してくれるわけでもないので、
俺は断片的に伝えたいことだけを口から出してしまっていた。
「ぁ…うん、いいの…」
しかし通じてくれたようで彼女は、そう言って強く抱きしめてくれる。
…力強い。
改めてそう感じた。
ワイバーン故の翼の構造も相まって、並ではない暖かさだ。
明らかに平均以上はあるだろう胸の素晴らしい柔らかさも合わさり、
しっかりと包まれるとまるで布団か何かのようだ…
「私、だって…」
等と考えていると顔の横から続きが聞こえる。
少々高くなっているその声からは照れているような色が伺えた。
…俺はともかく彼女に何か恥じらうような事があっただろうか?
「あの声を聞いたら、抑えられなくなって、うん…」
と思っていると再びヴィオが口を開いた。
「そ、そうか…」
告げられた言葉にたまらずこちらも赤面してしまう。
それがどの声なのかは考えるまでも無い。
ヴィオの本能を刺激したのはあの、間違いなく俺の口から出た弱々しい声なのだから。
正直思い出すだけでも顔面がさらに加熱する。
「その、かわいいって思って…」
が、しかし彼女はやはり容赦なく追い打ちをかけてきた。
どこか甘えるような色を帯びた口調で、しかも顔を見つめてきている。
それはまるで恋人に接するような、いや、違う。
彼女は一目惚れをしたと言っていた。
だったらこれは、まるでではなく正真正銘そうなのだ。
心の底から俺をかわいいと、愛おしいと…
「あっ」
と考えていると、ヴィオが突如として声を上げた。
不意をつかれたかのような声に意識を戻すと。
「…また、したい…?」
視線の先から、期待するような淫らな笑みと言葉がかけられる。
「え」
対して俺は驚いたような声を出す。
だがこれは反射のようなもので、その理由が分かっていないわけではなかった。
「だ、ってぇ…っ」
彼女が呻く。
「ぁぅ、っ」
続けてこちらも呻かされた。
彼女を刺激した原因がゆっくりと動かされたからだ。
行為中の圧迫程ではないにしろ、敏感なそこには堪える。
「かわいいって、言われて興奮しちゃった…?」
そのように感じて悶えているとヴィオはまたも追撃を加えてきた。
…全く、少しは容赦してくれてもいいのではないだろうか。
しかしそう思うと同時に、そのある意味での苛烈さが好きになっている自分も感じるのだった。
…それはそうと。
「…」
沈黙で答える。
素直にそうだと頷けるものではなかったが、不思議と嘘をつこうという気にもならなかったからだ。
「そぅ…」
それを見て優しく、彼女が微笑む。
言い過ぎかも知れないが、まさしく全てを受け入れる笑顔だった。
「…っ」
その笑顔にまたも反応してしまう。
股間のものが先程よりも更にムクリムクリと大きくなっていく。
そしてそれは今、彼女の中にあるもので…
「…えぉぅ…」
等と考えていると、口の中に舌を突っ込まれる。
「ん…?!ぁむ…」
いきなりだったのは確実なはずなのだが、俺はさほど驚かずに舌を動かして応えていた。
…そうなることを望んでいたかららしい。
「ふぁ、む…ん、りゅぅ…」
「んぅ…!?」
と直後、下半身の方からもじわじわとせり上がってくる何かがあることに気づく。
「っ、む、ふ、ぁあ…」
それは先程射精させられた時よりも緩やかだ。
そして、だからこそじんわりと背筋を伝ってくる感覚は、俺に再び声を漏らさせた。
「んぁ…ふふ…やっぱり、かわいい…ぃ」
そうさせた張本人はというと、うっとりとした声を上げてぐりぐりとまた腰を押しつけてくる。
「っ、ぁ、く…ぅ」
一回目を思い出す押しつけ。
だが今回は違った。
「ん…気持ちいい?ザン…」
「ぁ…!」
そのように俺の名前を呼んで、抱きつきを強めてくれたのだ。
至近距離にあるその顔は、赤い頬の中にこちらを気遣う色が見える。
事実動きもそのように、搾り取るというよりはねっとりとした快楽を与えるような動きである。
追いつめるような圧迫ではなく、言うなれば揉みほぐすような締め付け。
「っ、あぁ…」
その動きがもたらすした、射精とはまた違う脱力に声が漏れる。
声自体は一回目の時と同じだったが、考えはそうではない。
むしろ今はどこかで、ヴィオに聞いて欲しいとすら思えていた。
「んっ、よかった…ぁ」
と、そのヴィオの様子が何やらおかしい事に気づく。
「ヴィ、オ…?」
見れば彼女は赤かった頬を更に染め、悦ぶように目を細めていた。
熱と湿り気の混じった息から察するにこれは…
「っ」
等と考えると、無意識に体が反応する。
もっと悶えさせたくて、腰をぐっと突き上げてしまう。
「あ、ん、あぁ…っ」
するとヴィオは、思惑通りに更なる声を上げた。
目を少し閉じて余裕なさげに息を震わせるその様に、欲望が一段と増長していく。
「っ、は、ぁっ!」
それは、尽きたはずの力をかき集めさせるにもまた十分で。
俺は彼女の熱くてトロトロの膣に、なけなしの力を込めて攻め込んでいった。
「んぅ、ぁ、あぁ…んっ…!」
余力も何も考えない。
彼女が、ヴィオが心地よさそうに表情を崩していくのを楽しむように、そして更なる悦楽を貪るように。
ただただ、この沼のような快楽の中をペニスで突き進んでいく。
「ぅ、くっ…!」
その度に足腰がガクガクと揺れても構わなかった。
そんなことよりも、ヴィオを感じさせることの方が大事だった。
自分の肉棒で彼女が気持ちよくなっている、絶頂に近づいている。
今大事なことは、ヴィオをイかせる事が出来るということ、これが何よりも。
そう思い一際強く押し込む。
「っ、ぐあぁ…っ」
だが。
「ん、上は、私っ…」
その直後に彼女がそう言った瞬間。
俺のペニスが、熱すぎる肉にぐちゅぅっと挟み込まれる。
「あ…あ、あぁ…っ」
無論、こちらに為す術などない。
それどころか、心構えすら出来ていなかった。
「ふふ…一番奥で、つか、まえたぁ…」
ヴィオが笑みを深める。
彼女の言う通り、俺は膣の奥深くまでペニスを突っ込んでしまっていた。
しかも、どうやっても動かせすらしない。
「ぁ、ぐっ」
突き上げ、浮いてしまった腰に襲い来る快感に、思わず歯を食いしばる。
「んっ…んぅうっ…っ」
だが無駄だった。
「は、ぁっ…!」
彼女が俺の腰を巣に押しつけることで、それを無意味にしたのだ。
言葉で言えばたったそれだけの事…しかし感じるとなると別物だった。
「あぁ、あぁあ…っ!」
声が暴れ、膝が勝手に跳ね上がる。
快楽を少しでも紛らわそうと体が勝手にそうしている。
「っふ、ダメ…逃がさない…んだからぁ」
しかし、ヴィオはやはり容赦なく追い立ててきた。
覆い被さってきていた体を更に寄せ、俺を強く抱きしめてくる。
「はぁっ、あっ、ぁっ、ぅ…ぁっ」
密着を越える密着。
突き込んだガチガチながらも敏感なモノが、灼熱の淫らな毒沼に囚われたまま好きに愛される。
「っん、はぁっ…かわいい…かわいいわ、ザンっ…」
そして弱々しく漏れる俺の声は、彼女をますます興奮させていく。
「あ…ぁっ…ヴィ、オっ…ヴィオぉっ…!」
だが構わなかった。
俺はもう、この快楽を享受することだけを考えていた。
だから、腰を差し出すように彼女に突き込む。
動きが突き込むというよりも引きずる感じで、殆ど動かせずに揺れるようなものであろうとも。
「ぁ、んっ、ザンっ…良、いっ」
ヴィオが感じてくれて、ぞわぞわとさざめく膣がこちらを責め立ててくれるのなら。
その度に彼女の顔が快感に綻ぶのを見れるのなら、それで良かった。
「っ、あぁっ、は、ぁっ…!」
しかし、いくら心で思おうとも体力はどんどん限界に近づいているようで、
俺は、ギリギリの所にあるのを自覚し始めていた。
「っ、は、ぁ…」
もっとヴィオを感じさせたいのに。
まだ彼女という淫毒の全てを享受し切れていないのに。
「ぁ!く…っ」
嬉しい悲鳴を上げて達しようとする体が恨めしくて堪らない。
「ん、ザン…えぉぅ…」
「ひぁっ!?」
と、突如首筋を彼女の舌がなぞりあげてくる。
「ヴィ…ヴィ、オ?」
ぬるついた不意打ちに、らしくない声を上げてしまってから彼女を見ると。
「いいよ…私もイきそうだから、ね…?」
そこには慈しむような微笑み。
淫らでもなくただ愛玩しているでもなく…またそのどちらでもある…
そんな、全てを受け入れるが如き微笑みがそこにはあった。
「っ、ぁ、ヴィオ…ッ…ヴィオっ、ヴィオ…ぉっ!」
それを見た瞬間。
俺は全てを振り絞るように彼女の名を呼んでいた。
彼女が欲しい…彼女のくれる全てが欲しい。
悦楽も蹂躙も、屈服のようでいてそれからは限りなく遠い絶頂も、全て。
「ん…ザン…っ、ん、はぁっ…!」
彼女が応えるように息を吐く。
直後、その動きが変わった。
とどめとばかりにきつく締め付け、肉の動きも殊更苛烈へと変化していく。
押しつけられてからはやや緩やかだった腰の動きまでもが、
今は巣で尻の皮膚が熱くなるくらいに激しく擦り付けられる。
こうもされると尻が痛くなろうものだが不思議とそんな事はなく、
痛み寸前の擦れる感触がすりつぶされるような動きと相まり、むしろ体全体を高ぶらせる。
「ヴィオ…ヴィオぉ…!」
そんな激しすぎる波の中、こちらからも最後の気力で動かす。
深々と突き刺さった奥でドロドロに溶かされているペニスを膣壁でうねらせ、
跳ね返ってくる快感ごと丸々受け止める。
こんな無茶苦茶な求め方、正気ではいられなかったが、
既にそんな邪魔なものはどこかに放り投げていた。
「っ…ん…良い、良いわ、ザンっ…!」
その甲斐有ってか彼女が心地よさそうに呻く。
そして俺のモノを、体を、心を全てを使って蹂躙してくる。
「はっ…はっ、はっッ…!」
はちきれそうなペニスを膣にくわえ込んだまま、
足をその鱗のついた強靱な足腰で、更には手までも押さえ込んでくる。
快楽に惚けて開かれていた手のひらに、鋭い爪が刺さる。
しかし刺さるといっても血が出るような事はなく、
皮膚を何か柔らかいもので…それこそ、指で圧されているような感覚だった。
言うなれば恋人同士が指を絡みつかせるそれのような。
…恋人、愛する人、愛されている…
「っ、ぐ、ぁぁあっ、あぁっ…!」
そう思った瞬間、残された最後の力が俺の体を狂ったように震わせ始める。
こんなにも愛され、求め求められてはもう限界も限界だった。
「んっ、ザンっ、イこうっ、イきましょうっ…ザ、ン…っ!」
彼女の方もそうらしく、短い言葉で絶頂を求めている。
膣も早く早くと急かすようにその締め付けを強めてきていた。
「あぁ、っ、イく、ぁっ、ヴィオっ…ヴィオ…っ!」
返事をするつもりがただの呻きになり、そしてそんなことすらどうでも良くなっていく。
脳が揺れ、足が硬直し、口は断続的に荒い息を吐いていく。
「ぅんっ、ザン…イく…ぅ…っ!出してぇっ!」
彼女が叫ぶように言い、爪で指をぎゅっ、と握りしめてきた。
瞬間。
「っ、か、ぁあああぁあぁぁああぁあぁ…あっぁ…っ…!」
「んっ、ふあぁあぁああぁああぁあぁーーっ!……っ…」
俺は、ヴィオと同時に達していた。
あまりの快楽が体から口へと突き抜けていく喜びに、震えながら。
「ーーーっ、ーー…っ!!」
次に上がったものは、もはや声にすらなっていない。
痙攣するようにぴくりぴくりと揺れる体が、そうさせた。
「…ぁ…あ…」
やっと、声になる。
そうなった時俺は、びゅるっ…びゅるるっ…と彼女に注ぎ込まれていく精をはっきりと感じていた。
「…ん…ぅ、うー…っ…ん…っ」
ヴィオは、俺に倒れ込むようにしてビクビクと同じように痙攣している。
それを見ていると手を差し伸べてやりたくなるのだが…
「ぁー…っ…ふ、ぅぁ…ぁ…」
俺も動けるものではなく、下半身から今もとめどなく射精していた。
本人は絶頂の余韻に浸っているにも関わらず、未だ貪欲に吸い出そうと蠢く膣が、
俺のペニスをぐっちゅぐっちゅと揉みしだいているのだ。
「はぁ…ー…ぁ…っ…」
また、震えてしまう。
彼女の膣の中へ、先端から漏れるどろどろの熱いものが注がれていく快楽に。
「ぅ…っ…」
気力、愛欲、性欲…そんな物達が、精へと変わった矢先からゴクゴクと飲み干されていくような感覚。
「…ふ…ぁ…」
快楽で誤魔化していた限界を越えた動きの反動と合わさり。
その脱力感が恐ろしい程の眠気を引き連れて訪れる。
「はー…っ…」
瞼が、ずり落ちそうになっていく。
しかし、そうしてしまうともう開けられないことは確かだ…
「んっ…ぅ…はぁ、あ…」
と抵抗をしていると、俺がそうしたくない理由、ヴィオが呻きながらも顔を上げた。
まだまだ動けそうにないが、少しばかりは回復したように見える。
魔物なので、タフという事なのだろうか…
「ヴィ、っ…オ…」
だが今はそんな事は関係ない。
その顔に見て欲しくて、息も絶え絶えに名を呼ぶ。
すると彼女はこちらを見た後。
「ザ、ン…」
微笑んで、俺の名を呼んでくれた。
「…は…」
それだけで体から力がもっと抜けていく。
言いしれぬ幸福感がもたらされ、眠気と合わさり意識が保っていられなくなっていく。
「ぁ…っ…」
そんなのはダメだ、と。
彼女を、もっと見ていたいと、もう半分まで閉じている瞼を無理矢理に支える。
「…ん…」
「ふ、ぅぁ…?」
と、俺に彼女が這うようにしてゆっくりと顔を近づけた。
ぼやけた視界だろうとその中の、愛おしく思う視線ははっきりと分かる。
そんな細められた目はまた少し近づくと…
「ん、ゅ…」
俺の口に、舌を入れてきた。
「ぇ、ぅ…」
今回のは弱々しいとすら言える舌使いだが、今の俺にはまるで労わってようにも思える。
…そう言えば、一回目の後もこんな感じだったか…
「ね、ぇ…良いの、よ…?」
等と考えながら、応えようと舌を動かしているとヴィオはそう言ってきた。
「い、い…?」
質問を、返す。
「うん…」
答えは短かった。
まともに考えれば、全くもって意味不明だが…
「…そう、か…」
今はその意味が分かり、俺は目を閉じた。
…良い…それは、つまり…眠って、良いと…そう、いう…
思考が、沈んでいく。
「ん…っ」
落ちていく意識の中そんな声を聞いた気がした。
直後少しだけ強まったのは、包まれるような感触。
あぁ、そうか…きっと、抱きしめてくれたんだ…
「……」
…光が射している感じがする。
何となく、そう思う。
「…ん…」
目を、少しだけ開いてみる。
そこには、天井から差し込む陽光が見えた。
「っ…」
次に体をもぞもぞと動かそうとして…
「…おはよう、ザン…」
「あ…」
顎の下からかけられた声に俺は視線を動かす。
「…ヴィオ。」
ほぼ無意識に、その名を呼ぶ。
呼ばれた彼女は、うん、と優しく微笑んでくれた。
「おはよう…」
それに安堵しながら、こちらも挨拶を返す。
やはり彼女は、ふふ、と微笑んでくれた。
「…」
何となく、天井を見上げる。
まだ体と頭がぼーっとしている感じがした。
「…まだ、眠い?」
彼女が、ヴィオがそう気遣ってくれる。
「大丈夫だ、ただ…」
優しい気遣いにそんな風に言葉を返す。
そして、ただ?と促すような彼女の声に、こう続けた。
「どれくらい、寝ていたんだろうと思って…」
「ぇ…?ふふ、そうね…」
すると彼女は、少しだけおかしそうに笑い。
「あれから一晩中、かしら?」
そう言って、微笑んだ。
「…一晩中。」
オウム返しして天井を見る。
確かに、これが見えるということはそうらしかった。
「…」
「…」
訪れる、沈黙。
眠気を振り払うには十分で…そして、とても心地がよいものである。
そうして少しの間それを味わっていたのだが。
「あ…」
ふと、あることを思いついた俺はそんな声を上げた。
「…?」
どうしたの?
そう彼女がゆっくりとこちらを見てくるのが分かったので、聞かれる前に話し始める。
「いや…少し、気になることがあってな。」
「気になる、事?何かしら…」
そう、気になる事。
今は俺に覆い被さり抱きしめてくれている彼女だが、その行動にちょっとした疑問が湧いたのだ。
「俺を無理矢理犯せたなら…なんで、わざわざ巣に誘導するような事をしたんだろう、ってな…」
「え…」
それを口に出しつつ考える。
疑問とはまさしくこれ…何となくそう思ったのだ。
よくよく思い出してみれば、襲いかかるような素振りこそ見せていたものの、
そこには全力で捕らえようという意志が見えなかった気がする。
あの時だってそうだ。
「だってな…あの洞窟の時にしたって、尻尾を突っ込んで棘を放った後に、
逃げた所を捕まえれば良いのに。
何だか、巧く誘導されたように思ったんだよ。」
考えたことを口に出し、遠回しに聞いてみる。
「……」
だが彼女は、口を閉じて押し黙ってしまった。
…良く見れば少しだけ頬が赤いようにも見える。
これは、図星でいいのだろうか?
そのように思った俺は、こうも続けてみた。
「それにな…依頼の時だって、少々強引だが、連れ出して犯すくらいは出来ただろうにって」
「…ッド…いじゃない…」
と。
彼女の口から小さく何かが漏れる。
「え?」
反射的に聞き返してしまう、するとヴィオは更に赤くなって口を開く。
「だって…自分のベッドでしたいじゃない…初めての、時は…」
何とも乙女チック、と言うのだろうか、そんな答えだった。
「そ、そうか…」
…恥ずかしさに、こちらまで赤くなってしまう。
「うん…」
「そ、うか…」
「う、ん…」
会話とも言えない会話。
「……」
「……」
その後、俺達は二人してまた黙ってしまった。
気まずいだとか申し訳ないだとかそういうのでは、ないのだが。
少なくとも…先程の沈黙よりはどこか居心地が悪かった。
悪いと言っても体がむず痒くなるような悪さで…しかし、どうにかして抜け出したいものでもあって…
「あ」
と、もう一つ思いつき声を上げる。
「何、どうしたの…?」
反応した彼女の声には、やや警戒するような色があった。
だが今回は杞憂というものだろう…何せ。
「いや…この依頼の色々、どうすればいいんだろうと思ってな。」
そう、依頼のことだったからだ。
まぁ結果を見れば失敗で、そう言われればそれまでなのだが…
こっちは騙されたようなものなので、ちょっとした彼女に対する悪戯心もあったりして。
だから、敢えて言葉にしてみたといったところだ。
「あら、それなら…」
そんな言葉だったのだが、ヴィオの声は意外にも上機嫌なものになる。
もっと慌てるかと思った…と見れば、その口元は少しばかり歪んでいた。
「な、なら?」
少しだけ怖じ気づきつつも続きを促す。
すると彼女は俺の体をまたぎゅっと抱きしめ。
「ん…」
俺の首に自分のそれを絡めるように押し当ててきた。
「ぁ……ヴィオ…」
その行動が示す、彼女なりの報酬やら色々が分かりこちらも同じように首を絡める。
鱗の冷たさと人肌の暖かさが程良く混ざり、心地良い熱を伝えてきて。
「ん…」
そんな感触の同居がもっと味わいたくなった俺は、自分からヴィオの背中に手を伸ばしていた。
「…ふふ。」
「…ん…」
少しの間抱き合う。
「ん。」
「…ふ。」
ちょっと強くして、まだ抱き合う。
「…ね。」
「ん…」
もうずっとこのままでも良いかと思い始めた頃。
「…それなら、そのことなら、ね?」
彼女が再び口を開く。
今度は怖じ気なく、ああと相づちを打てた。
その返答は満足いくものだったようで、ヴィオは上機嫌に続きを語っていく。
「反魔物領で仕事できなくなった分も騙した分もぜーんぶ入れて。
私の一生をかけて報酬を渡す…ねっ、これなら良いでしょ?」
その意味も彼女の気持ちも、一切の誤解無く分かった。
俺と一緒にいると言っているのだと。
一生ずっと、離れずにいると。
「…」
そう理解した直後暖かいものがこみ上げてくる。
…一緒。
その言葉が一人でやってきた俺に染みるように、入っていく。
「あら不満?」
等と噛みしめていると彼女が覗き込んでくる。
不満かと訊いているくせにその表情は明るかった。
恐らく、いや絶対、逃がすつもりなど無いのだろう。
「いや…文句ない。」
…むしろ望むところだ。
そう思い笑顔で承諾する。
「っ」
すると、ヴィオは俺を一際強く抱き締め。
「うんっ!追加の依頼だって、どんどん出しちゃうんだから!」
最高に嬉しそうな…幸せそうな顔で、笑ったのだった。
「嘘だろ…」
そう思わずにはいられなかったし言わずにもいられなかった。
起こされた彼女の体、体が。
まるで元々そうだったかのようにするすると様変わりしていき。
緑の薄い服が溶けるように鱗へと変わったかと思うと、膨らみのある袖が鋭さのある畳まれた双翼のように彼女の体の一部となり。
程良い膨らみをゆったりと包んでいた部分はぴっちりと包む皮に、靴の先から爪に、膝当てが鱗に、髪飾りが角に…
「なんで…お前の体!?」
そうしていつしか見てみれば、彼女はワイバーンとなっていた。
しかもご丁寧に、所々修飾がかった紫色の。
「なんでってこういう体だから、かしら?まぁいいじゃない。」
驚きに硬直する俺に、しかし彼女はそう言って再び近づいてくる。
広げた翼と体をゆっくりと降ろし、まるで覆い被さるように…
「ぁ…!」
その覆い被さる、という行動を受けることに先程までとは違う危機感を抱き、俺はその場から動く。
「っ、ぅ」
いや…動こうとしたが動けなかった。
指先はピクリピクリと動こうとしているし足ももぞもぞとして体を動かそうとしているのも分かるのだが、どうにも今一歩力が入らない。
…どうやら、回ってしまったらしかった。
致死性の毒ではないのは情報で分かっていたが、そうでなくてもこの状況でこれは致命的である。
ちっ…
心の中で舌打ちをする。
「ふふ、そう逃げないでよ…」
そんな俺をよそに、ヴィオは微笑みを崩さないまま俺の背中に翼をゆっくりと差し込んできた。
ついでとばかりにその爪のついた脚を俺のそれに重ねながら…
「ほらこうすると…ね、気持ちいいでしょ?」
そして抱きしめるように力を込め、続けてくる。
確かに体全体を翼に包まれるというのは、思いの外気持ちがよかった、が…
そのように思って力を抜けば死ぬ…と思う俺にそれを味わう余裕などあるはずが無い。
「そんなこと…っ、ぐ…!」
喰われるわけにはいかない、何とかしてこいつから逃げなければ。
そう思い体をどうにかこうにか動かそうともがく。
「もぅ…まだ逃げようとするの?」
対して彼女は、呆れたような困ったような声で言葉をかけてきた。
その顔はというとまるで愛おしいものを見るような顔で笑っている。
「当たり、前だ!」
その顔が優越感やら勝利の喜びやらに浸っているように見えて…俺はそれが気に障り、やや怒るように声を荒らげる。
…いや、そもそもこのワイバーンは俺を追い立てていた張本人なわけで、それが普通と言えばそのはずだ。
声を荒らげる、等と申し訳なさそうに思わなければならない筋合いなどない。
「ふふ…」
「っ」
そんな風に思ってしまったという事は、いつの間にか警戒を解かれかけていたということだ。
…このままでは、まずい。
「もぅ、暴れないで…別に取って食おうってわけじゃないんだから、ね?」
等と考えていると目の前のワイバーンは笑ってそんなことを言う。
「は…ぁ?」
その言葉に俺は呆然とそう返す事しか出来なかった。
当たり前だ。
先程まで命懸けで逃げていたその相手からの、取って食うつもりがないという宣言はそうなって当然だろう。
「言った通りよ、殺したりとか食べたりとかしたいわけじゃないってこと。」
しかしヴィオは平然とそう言い、重ねて説明してきた。
目の前での笑顔を見る…その顔は嘘を言っているようには思えない。
かといってあっさりと信じ切れるわけではないが…それにしても。
揺れることなく真っ直ぐにこちらを見つめる瞳は、疑いきるにはどうにも眩しい。
だがそうなると…正直、わからなかった。
魔物が動物がワイバーンがに限らず、肉食の生き物が追いかけてきたならばそれは殺生の為だと思うのが普通だろう。
だが、目の前の…ヴィオは取って食ったりするために俺を追いかけていたのではないという。
毒まで振りまいておきながらこれはどういうことなのだろうか。
…しかし…いや、いっそ。
「なら、一体何のために追いかけてきた…?」
考えて分からないなら、と俺は直接聞いてみる。
幸いにして喰われる心配はないらしいのだからこれが一番手っ取り早いだろう。
拘束から逃げられそうにないので、これしかもうすることがなかったのもあるが。
ともかく尋ねると、彼女は首を傾げ。
「うーん…一目惚れしたから、かしら?」
「な…!?」
驚くべきことを、口にした。
一目惚れ…したから?何を言っている?魔物が、人間に?
いや、魔物が人間に惚れるというのは物語で良く聞くが、だがしかし…
「本当にね、それだけなの…」
と考えていると、ヴィオは口を近づけてくる。
それはすぐに口と口が触れ合いそうな距離に近づき…
「って待て、お前まさか」
その近さに、少し前に味わった感覚を思い出し止めようとする。
「んっ…」
がやはり体は動かせず、再びその感覚を味わうこととなった。
「!ぁっ…んむ…」
唇をまさぐるそれを味わった途端、体からみるみる力が抜けていき、それと同時に抵抗する気力までも奪われていく。
「ん…ぁ…」
それだけならばまだ彼女のせいと言えたが…あろう事か俺は、自分から口を動かしてしまってもいた。
毒のせいかと思うがそれだけでは、ない。
「む…ぅ…ん」
例えそれが人間でなくワイバーンであろうと美しい女性に、自分だけを求められそうしてしまったのだ。
他ならない自分の体、どれほど目を背けようとはっきりとそれが自覚できてしまう。
それ…意思など簡単に超越してしまう…求められたなら求め返したいという、本能が。
「ん…む…」
一度そうしてしまうともう後は情けないやら弱いやらでその感触から抜け出せなくなっていって。
「んぅ…む…」
鼻を侵していく濃厚な甘みと唇を包み込んでくる柔らかさ、
そして愛しさを帯びて捉えてくるうっとりとした目に意志と脳が溶かされて。
拘束と考えていた翼も、今は抱きしめられているとさえ思えてしまっていた。
「ん…ん、ふ…」
沈み込んでいくようなこの感覚はさながら沼とでもいったところか…?
段々とおぼつかなくなっていく思考でぼんやりとそう考える。
「ん、はぁ…」
と、ヴィオが口を離した。
「…ぁ…」
人知れず、その展開に名残惜しいと告げる声を漏らしてしまう。
さっきまでなら、やっと終わったと思っていただろうに。
「もっと、したい?」
「ぁ…?」
しかも、自分にしか分からなかった気でいたのに聞こえていたらしく、彼女はそう尋ねてきた。
顎の下から、少しばかり蕩けた目で舐め上げるように見つめながら。
「そ、れは…」
誘うようなその視線を真正面から見ているのが何だか恥ずかしくて、目を逸らす。
「素直になってよ…教団の教えを信じてるわけでもないんでしょう?」
対してヴィオは、俺の首元に頬を押し当てながらそんな事を言う。
どうして分かった…
「ふふ…」
と言葉が口から出ようとしたその瞬間、心底安心しきったような笑みを彼女が浮かべる。
「…なんなんだ、急に。」
その、どこか愉快そうな感情も見えるその表情に、抗議が漏れ出てしまった。
「ううん…だって、本当に信じてないんだなって。」
「な…どういう?」
だが彼女は同じ表情のままに言う。
そんな様子にほだされたか、俺は心からの疑問を素直に告げていた。
「っふふ…うん、教えてあげる。」
するとその行動の何かが彼女の気に召したらしく、彼女は嬉しそうに喉を鳴らすと顔を耳側へと動かし…
「汚れるー…とか、やめろーって言わないんだもの…好きよ、そういうの…」
味わったのは、ややもすれば舐め上げられているのではないかという感覚。
湿った息と共に耳に滑らかに入り込んできた艶に勝手に体がくねり、呻きまで漏らしてしまう。
かけられたのは何がしかの言葉だったのだろうが、もはやそれも意味を成していなかった。
思考が囚われ、言葉まで考えが回らないのだ。
しかしながらそれが心地良い言葉であることは何となく分かった。
だからだろうか。
「…ん…もしかしてこういうの好き?」
「それ、は」
その質問にも、即答は返せなかった。
今の状況でも違うというと嘘になるが、好きでもない。
好きではないはずなのだが…
「ふぅん、まぁ…どっちでも良いけどね…」
としかし、それはさしたる問題では無かったようで、ヴィオは再び顔を突き合わせてきた。
「ねぇ…」
「っ、ヴィ、ヴィオ?」
歪んでいる口元と濡れた瞳が見え、恐怖じみた何かを鈍った直感が告げる。
だがそれは…どこか甘美な期待をも俺に抱かせた。
感覚が感覚故にはっきりとしたイメージこそ湧かないのだが、
逆にそのせいで、蕩けた理性は期待の方ばかりを固めていっているような気さえしてくる。
「…逃げないんだ…ふふ、つまり良いって事ね…ん…」
そんなことになっていたからだろう、重ねられようとする唇を感じていても俺は逃げる気すら今度はあまり起きず…
「ぇ、ぅる…」
「ぅ…んぁ…」
最初に味わったのは、にゅるりだったか、ねっとりだったか。
それの侵入を、いとも容易く許していた。
「れ、ん、りゅ…む…」
だがそんなことはもはやどうでもよかった。
口の中を這いずり始めた細いぬるつきは、そう思えるくらいに気持ちが良い。
「っ…ふぁ…ん…む…」
抑えつけられなすがまま、されるがままに口の中を舌で舐めずり回られる。
男として、等と考えると恥ずかしくてたまらないはずなのだが、舌がそんな常識さえ奪い去っていくようで。
「ん…ぅ…えぅ…」
絡め取られ、螺旋を描くようにしてなぞられる度に…
体のみならず頭まで震えるような感覚に陥る。
それ程に意識をもっていかれると、
こちらのそれのどの辺りを舌が触れているかで感じ方も細やかに変わってくるのが分かって。
「ぇぅ…ん、じゅっ、んるぅ…」
通り過ぎれば終わるその一回の再来を俺の本能が求めている事も、理解できてしまう。
「ん…んむぇ、ぉ、ん…」
だが感覚の方はというとまた複雑で…
どこから始められたかでも変わるこの感覚は、再びを望んでも微かに違うものだった。
もう一度、と願う身にそれは堪らなくもどかしいのだが。
結局は、一舐めの間に体が浮いたり沈んだりする錯覚を覚えてしまう程の心地良さに、
そのもどかしささえ塗り替られていってしまう。
「…ぁ…ん…ゅ…」
しかし…どうしてこんなに、これほどまでに気持ちがいいのだろう…
半ば差し出すような動きを勝手にする舌を感じつつ、ぼんやりと考える。
「ん…ふ…ん…れ、りゅぅ…」
もはやどろどろで、まともな思考など無理だったが…
「っ…ふあ…っ、む…」
それでも。
愛おしいと言ってくる閉じかけの目とねっとりだと思っていた口内の蹂躙、そして抱きしめ覆い被さる翼の感触ですぐに答えは分かった。
「っふ…ん…」
「…っぁ…ふふ…ん、ん…」
一口離し…そしてまたかき混ぜられる。
好き勝手に口の中と外を、まるで自分の物かのように出入りされる。
…だが今はそれさえ、彼女の愛に思えて…
うーん…一目惚れしたから、かしら?
やはりだ、だから…だからこんなにも…っ。
「っ…む…ぇ、ほっ…!」
突如思い出した言葉と、伴って引き出された感情に呼吸を乱してしまう。
「ん…ぁ…」
感じ取った彼女はというと口を離し…
「大丈夫?…ちょっと、きつかった…?」
そう、心配そうな目を向けてきた。
「いや…っ…何て事は、ない…っ…ぅ」
それについ強がろうとしてしまうが、そんな言葉しか返せなかった。
体が、彼女は強者で自分が弱者だと認めてしまっているからだ。
「そう…良かった。」
だからなのだと、少なくとも先程までは確信を持てていだたのだが。
物憂げな表情から一転して微笑みを浮かべる彼女に、そうは思えなくて。
そしてその代わりに思ったのは…愛されているからなんだ、ということで。
その考えでいけば。
ただの強い拘束だと思っていた翼は締めると言うより包み込むようで。
支配の布石だと思っていた舌使いはねっとりというよりもゆったりで。
獲物への悦楽の視線だと思っていた目は、まるで大好きだと言っているようで。
思い返すほどにどうにも都合の良い方へと解釈をしてしまう。
最も恐ろしいのは、そのように否定する事すらもがある意味での逃げに思える事である。
だがもしそうなら。
本当に、彼女が、俺を獲物として見ていないのだとしたら…
「…ねぇ…」
と、考えているとヴィオが声をかけてくる。
意識を向けると、慈しむような目で期待するように頬を上気させていた。
異常という程ではないがどこか普通でない何かを感じる顔だ。
何だ…
「交尾…私、あなたと交尾したいなぁ…」
と聞こうとしたがそれよりも先に、彼女はとんでもないことを口走る。
甘えるような誘うような…それでいて、どこか危険な感じのする声が耳に入ってきて。
「っ…!…は!?」
…驚く。
俺は、正直言ってとても驚いていた。
口があとうを交互に行き来しているのが自分でも分かるくらいだ。
だが当たり前と言えばそうだろう、これが当然の反応、その筈である。
交尾とは、つまり、そういう事なのだから。
「……」
焦り、そして困惑気味に目を逸らす。
交尾とは…きっと…
「したくない?」
しかし彼女は整理する暇を与える気など無いようで、逸らした先に回り込んでくる。
直視せざるを得ない琥珀色は焦りも急ぎもなくただただ楽しげで。
「…それは…」
曖昧な返事をしながら俺は、今更にじっくり見たその瞳に危うく見とれそうになっていた。
しかし…交尾か。
あまりにも脈絡無く繰り出されたその言葉は、普通なら頭の悪い物言いに聞こえる。
だが彼女にはしっかりとした知性があるし、行為に対する認識もあるだろう事も分かっていた。
だから…つまるところ彼女は、俺とセックスしたい、とそう言っているのだ。
それがそういう行動であると分かった上で。
…では、俺は…?
「嫌?」
と考えていると、思考に声が差し込まれる。
ハッ、と意識を戻すとそこには変わらぬ琥珀色。
まっすぐで淀みない輝きがこちらを見つめていた。
「……」
嘘のないそれとその言葉に、再び目を逸らす。
「そう…」
それをどう取ったかどうかは定かではないが、彼女は何故か嬉しそうに微笑んで。
「なら、体に直接聞いちゃおうかなぁ…」
そんな言葉と共に下半身を引き寄せ、爪先を俺の腰にあてがってくる。
続くのは、下半身を覆うものがゆっくりと持ち上げられるような感覚。
「…おい、ヴィオ!」
嫌な予感にとっさに声を上げる。
しかしそれに対する返礼は、ひんやりとした下半身が空気に触れる感覚だった。
「…ん…良かった。」
「っ…」
そして。
彼女が微笑んで見つめる先、足と足の間には、そそり立つそれがあった。
ただあるのではなく、そそり立っていた…つまりそれは。
顔が熱くなる。
穴があったら入りたいとはこのことだ。
襲いかかってきていた相手に押し倒され、抱きしめられ…勃起、しているのだから。
しかもそれを見られていた。
「体は正直って言うわよね…?」
だが、俺にとって恥じるべきその状況を彼女はそう言ってただ笑う。
「…だったら、なんだ。」
嘲るでも呆れるでもないその表情に、つい何となく強がる。
どうしてかなど分からない。
馬鹿にされているわけでもないというのに、何故か俺はそうしていた。
「うぅん何でも?…ただ、こうしようかなって…」
対するヴィオは言って。
強がりを挫くでもなく指摘するでもなく、また微笑んだ。
抱きしめ続けられているのと、その微笑みに否応無く自分が心を許すのを感じる。
少し前と違って、もうそれを否定する気にもならない。
「ぁ…!?」
と、ここで不意に密着されていた感覚が離れ、代わりに股間に痺れが走った。
遅れて脳まで駆け抜けたそれに、俺は直感して咄嗟に口を開く。
「ま、待てお前…!」
何をされているのかは考えるまでもない。
「なぁに?」
しかし、いつの間にか上体を起こしていたヴィオはこう言ってくる。
とぼけるような返事だったが…
「ちょっと、待ってくれ…それは…」
それは有り得ないのは流石に分かった。
自分からやっておいて、分からない訳がないのだ。
だから俺は、それという言葉を使って止めようとする。
「言ったでしょ?交尾したいって…ね?」
「…!だからって…」
しかし彼女はそのように続ける。
今のぐにゃりと歪んだ口元と濡れた瞳はワイバーンというよりさながらサキュバスだった。
捕らえた獲物を絶対に逃がさない、手法こそ違えども同じ狩人の表情である。
「こういうことしたいって、体は言ってるわ?それに…」
「っ、ぁ…」
と、またあの感触が襲いかかってきた。
激しさ自体はさっきより控えめだったものの、それだけに確かに感じ取れてしまう。
何か、湿っていて温かいものがそこに押しつけられている、と。
そしてこの場でそんなものは一つしかなかった。
ということは、つまり。
「ま、待てヴィオ…」
その行動を止めようと抗う。
だが。
にゅじゅり。
「ふふ、上にいるのは…私よ?」
返ってきたのは無慈悲な言葉と、刺激というには甘美すぎる痺れだった。
「っ、ぁ、あ…!?」
口から、惚けたような甲高い声が出てしまう。
下半身を強かに襲来した食らいつくような快感が、脳髄までを一瞬で駆け抜ける。
「ぁ…は…が…っ?」
意識がふわりと持ち上がり…落ちる。
自分でも何の事か分からないがそれほどだった。
それほどに、これは強烈だった。
「っ、ふっ、ん…ぁ、はぁ…」
しかもそんな状態の俺にも、ヴィオはぐりぐりと腰を押しつけてくる。
恍惚の表情を浮かべながらじっくりしっかり、快楽の毒牙を突き立てるように。
「は…ぁ…っ…ぅ!」
無論こちらにそれを止めることなど出来ない。
今もじわりじわりと…いや。
「っ、ぐ…ぅぁっ…」
ぐじゅりぐじゅりと生々しく伝わってくる、
下半身がまるで咀嚼されるようなこれにそんな表現はもはや生温かった。
「ん、ぁ…うぅ、んっ…」
彼女が腰を押し込む度、
みっちりとして暖かい感触が敏感な雄の象徴をもみくちゃにし、快楽を叩きつけてくるのだから。
「っふふ…は、ぁあ…ん」
だが、不思議なことにヴィオの腰の動き自体は緩やかだった。
心地良さにだろうか口を開いたまま、ゆっくり、ただただ押しているだけである。
「っ、く…はぁ…」
だが彼女のそんな動きは、俺の体を凄まじい勢いで貫いていく。
まるで倍以上に敏感になってしまっているのではないかと思ってしまう、それ程の快楽で。
「っふふ…」
と、彼女が意味深に笑った。
「っ、ま、待ってくれ」
何をするつもりかは分からなかったが、本能が口をそう動かす。
しかし彼女はその言葉に口元を更に歪め…
「言ったでしょ…?上は…」
そのまま俺の胸の上に双翼の爪先を、並べるように置くのだった。
「…!」
心臓が、早鐘を打つ。
その動きが、その言葉の先が、もっと言うならそれらが招く行動がそうさせる。
「…私だ、って…」
じゅぶり。
「はぁぅっ!?く、んあぁ、あぁあ…!」
しかして。
その時は、感覚は、決定的な蹂躙は訪れた。
脳は既に動けない程に熱かったが、何が起きたかなど考えるまでもなかった。
根元まで、喰われたのだ。
彼女の、緩やかながらも容赦のないそこに、俺のペニスが。
「ん…あぁ…んふふ、どう…?気持ちいい…?」
ヴィオが聞いてくる。
「…ぁ…あ、ぁ…」
対して口から出たのは、そんな情けない声だった。
言葉、単語ですらないただの呻き。
「そぅ…よかっ、た…ぁ…は、ぁ…」
それを見た彼女はぐにゃぁっと笑い、うっとりとした様子で息をついた。
紅潮した頬の中央から熱っぽい空気を吐き出しながら。
それを見た途端、朦朧としている筈の意識が反応する。
もう限界まで行った筈の肉棒が、更に膨らみを増して膣を押し分けていくのが分かった。
「ぁ…」
それに彼女が自分の唇を舌でなぞった瞬間、動きが変わる。
ぐじゅぐじゅと揺らすように食いついてきていた膣が、にゅちゅりぃっ…と、圧迫してきたのだ。
今度こそ最大まで膨張したペニスを、根元までずっぽりとくわえ込まれる、感触。
「は…ぁ…ふぇ、あ…?」
声が、漏れる。
彼女は動いていない。
なのに、到底自分の口から出たとは思えない声を、俺は出していた。
「ん…んぅ…っ…」
それがいけなかった。
もっと言えば、それが引き金だった。
それが彼女の中の何かを刺激してしまったらしく、膣が少しだけずりゅりゅっ、と動いたのだ。
ぎちぎちと締め付けたまま、左右の肉が上下逆に。
「ぁ…」
聞こえたのは、恍惚に沈みゆく湿っぽい声。
それが俺のものだと気づいたのは。
「…あ…ぁ…?」
彼女の中に、熱い白濁をぶちまけていると気づいたのと同時だった。
「っ、は…ぁあ、あぁ…っ…」
…射精していた。
情けないだとかだらしないだとか、普段ならばそう思うようなこんな状況で俺は精を放っていた。
しかも、それは無理矢理という訳でもない。
全てがその白に溶け込んで流れていくような、これまで味わった事のない脱力がそれを証明していた。
そこまでを惚ける頭で認識して脳が理解する。
「ぁ…ん、っ、ん…んんっ…ぁっはぁ…」
この、まるで吸い上げるように体を弓なりに反らしているワイバーンの膣内に俺は、
自ら望んで出したのだと。
強すぎる圧迫をされて動かれたから、そして射精したいと思ったから。
そうでなければこんなに、こんなに心地よい筈がなかった。
「ぅ…っ…ぁ」
体が、ピクリピクリと不規則に跳ねている。
まるで他人のもののようでいて、その感触ははっきりと伝わってきた。
快楽に耐えきれずこうなったのだろうか、と何処か傍観するように考える。
「ん…」
彼女はまだ弓なりになったままだ。
その膣内はにゅちゅ、にゅちゅ、と精を吸い上げていく。
脈打つような肉の動きは、漏らしているのか、吸い上げられているのか分からない程の快楽を俺に継続してもたらしてくる。
「あ…ぁ…」
漏れると言えば、口からも何かが漏れていくような感覚があった。
…何がだろうか。
それは息に決まっているのだが…今は魂やら気力やらといった諸々全てに思えてならなかった。
あまりに心地よい射精の為に、それ以外の何もかもを捨ててしまいたくなっているのだと。
実際、それくらいに気持ちよかった。
視界のぼやけも気にならない程、瞼が落ち意識が無くなっても良い程に…
「ぁ、むっ…ん…」
と、何かが柔らかく覆い被さり、俺の口に生暖かいものを滑り込ませてくる。
「んむ…ぅあ…」
入り込んでくるぬるつきに、無意識に口が開く。
するとそれは、ゆっくりと労るようにこちらの舌をなぞってきた。
「んふぁ、え、む…ん…」
ゆっくり…しっかり…まるで、子供をあやすように…
「んむ、ん…ぁ、んぅ…?」
それを受け、僅かだが回復する。
一切の働きを拒否するように重かった瞼が、ちょっとだけ開く。
「…んふ、ぁ…む…」
そこにいたのはヴィオだった。
…何を当たり前の事を、と頭が言う。
裏を返せば、脳が麻痺するほど心地よかったという事らしかった。
「ん、は…ぁ…」
とその直後生暖かいそれ…舌が俺の口の中から抜けていく。
それがキスの終わりだと、分かった。
「…落ち着いた?」
続けて聞こえてきたのは、優しい彼女の声。
「ん…」
ゆっくりと、また少し目を開ける。
見えたのはヴィオの慈しむような、それでいてどこか安心したような顔だった。
先程までキスをされていたおかげでかなりの至近距離だ。
「っ、ぁ…」
呻いて答える。
成立しているか心配だったが…
「そぅ…」
胸元にあった翼を俺の背に回しながら、
こちらの頬に自らのそこを擦り付けてくれる所を見ると、杞憂だったようだ。
少しして、この抱擁から離れたくなくなった頃。
「…っ…」
完全とは言わないまでも俺は自分を取り戻していた。
その為、思い出して顔を赤くしてしまう。
「ん…どうしたの?」
そしてそれは当然ながら見つかる。
ヴィオの性格上、隠しても無駄そうだった。
「…早かった…というか…」
だからといって告げる恥ずかしさが霧散してくれるわけでもないので、
俺は断片的に伝えたいことだけを口から出してしまっていた。
「ぁ…うん、いいの…」
しかし通じてくれたようで彼女は、そう言って強く抱きしめてくれる。
…力強い。
改めてそう感じた。
ワイバーン故の翼の構造も相まって、並ではない暖かさだ。
明らかに平均以上はあるだろう胸の素晴らしい柔らかさも合わさり、
しっかりと包まれるとまるで布団か何かのようだ…
「私、だって…」
等と考えていると顔の横から続きが聞こえる。
少々高くなっているその声からは照れているような色が伺えた。
…俺はともかく彼女に何か恥じらうような事があっただろうか?
「あの声を聞いたら、抑えられなくなって、うん…」
と思っていると再びヴィオが口を開いた。
「そ、そうか…」
告げられた言葉にたまらずこちらも赤面してしまう。
それがどの声なのかは考えるまでも無い。
ヴィオの本能を刺激したのはあの、間違いなく俺の口から出た弱々しい声なのだから。
正直思い出すだけでも顔面がさらに加熱する。
「その、かわいいって思って…」
が、しかし彼女はやはり容赦なく追い打ちをかけてきた。
どこか甘えるような色を帯びた口調で、しかも顔を見つめてきている。
それはまるで恋人に接するような、いや、違う。
彼女は一目惚れをしたと言っていた。
だったらこれは、まるでではなく正真正銘そうなのだ。
心の底から俺をかわいいと、愛おしいと…
「あっ」
と考えていると、ヴィオが突如として声を上げた。
不意をつかれたかのような声に意識を戻すと。
「…また、したい…?」
視線の先から、期待するような淫らな笑みと言葉がかけられる。
「え」
対して俺は驚いたような声を出す。
だがこれは反射のようなもので、その理由が分かっていないわけではなかった。
「だ、ってぇ…っ」
彼女が呻く。
「ぁぅ、っ」
続けてこちらも呻かされた。
彼女を刺激した原因がゆっくりと動かされたからだ。
行為中の圧迫程ではないにしろ、敏感なそこには堪える。
「かわいいって、言われて興奮しちゃった…?」
そのように感じて悶えているとヴィオはまたも追撃を加えてきた。
…全く、少しは容赦してくれてもいいのではないだろうか。
しかしそう思うと同時に、そのある意味での苛烈さが好きになっている自分も感じるのだった。
…それはそうと。
「…」
沈黙で答える。
素直にそうだと頷けるものではなかったが、不思議と嘘をつこうという気にもならなかったからだ。
「そぅ…」
それを見て優しく、彼女が微笑む。
言い過ぎかも知れないが、まさしく全てを受け入れる笑顔だった。
「…っ」
その笑顔にまたも反応してしまう。
股間のものが先程よりも更にムクリムクリと大きくなっていく。
そしてそれは今、彼女の中にあるもので…
「…えぉぅ…」
等と考えていると、口の中に舌を突っ込まれる。
「ん…?!ぁむ…」
いきなりだったのは確実なはずなのだが、俺はさほど驚かずに舌を動かして応えていた。
…そうなることを望んでいたかららしい。
「ふぁ、む…ん、りゅぅ…」
「んぅ…!?」
と直後、下半身の方からもじわじわとせり上がってくる何かがあることに気づく。
「っ、む、ふ、ぁあ…」
それは先程射精させられた時よりも緩やかだ。
そして、だからこそじんわりと背筋を伝ってくる感覚は、俺に再び声を漏らさせた。
「んぁ…ふふ…やっぱり、かわいい…ぃ」
そうさせた張本人はというと、うっとりとした声を上げてぐりぐりとまた腰を押しつけてくる。
「っ、ぁ、く…ぅ」
一回目を思い出す押しつけ。
だが今回は違った。
「ん…気持ちいい?ザン…」
「ぁ…!」
そのように俺の名前を呼んで、抱きつきを強めてくれたのだ。
至近距離にあるその顔は、赤い頬の中にこちらを気遣う色が見える。
事実動きもそのように、搾り取るというよりはねっとりとした快楽を与えるような動きである。
追いつめるような圧迫ではなく、言うなれば揉みほぐすような締め付け。
「っ、あぁ…」
その動きがもたらすした、射精とはまた違う脱力に声が漏れる。
声自体は一回目の時と同じだったが、考えはそうではない。
むしろ今はどこかで、ヴィオに聞いて欲しいとすら思えていた。
「んっ、よかった…ぁ」
と、そのヴィオの様子が何やらおかしい事に気づく。
「ヴィ、オ…?」
見れば彼女は赤かった頬を更に染め、悦ぶように目を細めていた。
熱と湿り気の混じった息から察するにこれは…
「っ」
等と考えると、無意識に体が反応する。
もっと悶えさせたくて、腰をぐっと突き上げてしまう。
「あ、ん、あぁ…っ」
するとヴィオは、思惑通りに更なる声を上げた。
目を少し閉じて余裕なさげに息を震わせるその様に、欲望が一段と増長していく。
「っ、は、ぁっ!」
それは、尽きたはずの力をかき集めさせるにもまた十分で。
俺は彼女の熱くてトロトロの膣に、なけなしの力を込めて攻め込んでいった。
「んぅ、ぁ、あぁ…んっ…!」
余力も何も考えない。
彼女が、ヴィオが心地よさそうに表情を崩していくのを楽しむように、そして更なる悦楽を貪るように。
ただただ、この沼のような快楽の中をペニスで突き進んでいく。
「ぅ、くっ…!」
その度に足腰がガクガクと揺れても構わなかった。
そんなことよりも、ヴィオを感じさせることの方が大事だった。
自分の肉棒で彼女が気持ちよくなっている、絶頂に近づいている。
今大事なことは、ヴィオをイかせる事が出来るということ、これが何よりも。
そう思い一際強く押し込む。
「っ、ぐあぁ…っ」
だが。
「ん、上は、私っ…」
その直後に彼女がそう言った瞬間。
俺のペニスが、熱すぎる肉にぐちゅぅっと挟み込まれる。
「あ…あ、あぁ…っ」
無論、こちらに為す術などない。
それどころか、心構えすら出来ていなかった。
「ふふ…一番奥で、つか、まえたぁ…」
ヴィオが笑みを深める。
彼女の言う通り、俺は膣の奥深くまでペニスを突っ込んでしまっていた。
しかも、どうやっても動かせすらしない。
「ぁ、ぐっ」
突き上げ、浮いてしまった腰に襲い来る快感に、思わず歯を食いしばる。
「んっ…んぅうっ…っ」
だが無駄だった。
「は、ぁっ…!」
彼女が俺の腰を巣に押しつけることで、それを無意味にしたのだ。
言葉で言えばたったそれだけの事…しかし感じるとなると別物だった。
「あぁ、あぁあ…っ!」
声が暴れ、膝が勝手に跳ね上がる。
快楽を少しでも紛らわそうと体が勝手にそうしている。
「っふ、ダメ…逃がさない…んだからぁ」
しかし、ヴィオはやはり容赦なく追い立ててきた。
覆い被さってきていた体を更に寄せ、俺を強く抱きしめてくる。
「はぁっ、あっ、ぁっ、ぅ…ぁっ」
密着を越える密着。
突き込んだガチガチながらも敏感なモノが、灼熱の淫らな毒沼に囚われたまま好きに愛される。
「っん、はぁっ…かわいい…かわいいわ、ザンっ…」
そして弱々しく漏れる俺の声は、彼女をますます興奮させていく。
「あ…ぁっ…ヴィ、オっ…ヴィオぉっ…!」
だが構わなかった。
俺はもう、この快楽を享受することだけを考えていた。
だから、腰を差し出すように彼女に突き込む。
動きが突き込むというよりも引きずる感じで、殆ど動かせずに揺れるようなものであろうとも。
「ぁ、んっ、ザンっ…良、いっ」
ヴィオが感じてくれて、ぞわぞわとさざめく膣がこちらを責め立ててくれるのなら。
その度に彼女の顔が快感に綻ぶのを見れるのなら、それで良かった。
「っ、あぁっ、は、ぁっ…!」
しかし、いくら心で思おうとも体力はどんどん限界に近づいているようで、
俺は、ギリギリの所にあるのを自覚し始めていた。
「っ、は、ぁ…」
もっとヴィオを感じさせたいのに。
まだ彼女という淫毒の全てを享受し切れていないのに。
「ぁ!く…っ」
嬉しい悲鳴を上げて達しようとする体が恨めしくて堪らない。
「ん、ザン…えぉぅ…」
「ひぁっ!?」
と、突如首筋を彼女の舌がなぞりあげてくる。
「ヴィ…ヴィ、オ?」
ぬるついた不意打ちに、らしくない声を上げてしまってから彼女を見ると。
「いいよ…私もイきそうだから、ね…?」
そこには慈しむような微笑み。
淫らでもなくただ愛玩しているでもなく…またそのどちらでもある…
そんな、全てを受け入れるが如き微笑みがそこにはあった。
「っ、ぁ、ヴィオ…ッ…ヴィオっ、ヴィオ…ぉっ!」
それを見た瞬間。
俺は全てを振り絞るように彼女の名を呼んでいた。
彼女が欲しい…彼女のくれる全てが欲しい。
悦楽も蹂躙も、屈服のようでいてそれからは限りなく遠い絶頂も、全て。
「ん…ザン…っ、ん、はぁっ…!」
彼女が応えるように息を吐く。
直後、その動きが変わった。
とどめとばかりにきつく締め付け、肉の動きも殊更苛烈へと変化していく。
押しつけられてからはやや緩やかだった腰の動きまでもが、
今は巣で尻の皮膚が熱くなるくらいに激しく擦り付けられる。
こうもされると尻が痛くなろうものだが不思議とそんな事はなく、
痛み寸前の擦れる感触がすりつぶされるような動きと相まり、むしろ体全体を高ぶらせる。
「ヴィオ…ヴィオぉ…!」
そんな激しすぎる波の中、こちらからも最後の気力で動かす。
深々と突き刺さった奥でドロドロに溶かされているペニスを膣壁でうねらせ、
跳ね返ってくる快感ごと丸々受け止める。
こんな無茶苦茶な求め方、正気ではいられなかったが、
既にそんな邪魔なものはどこかに放り投げていた。
「っ…ん…良い、良いわ、ザンっ…!」
その甲斐有ってか彼女が心地よさそうに呻く。
そして俺のモノを、体を、心を全てを使って蹂躙してくる。
「はっ…はっ、はっッ…!」
はちきれそうなペニスを膣にくわえ込んだまま、
足をその鱗のついた強靱な足腰で、更には手までも押さえ込んでくる。
快楽に惚けて開かれていた手のひらに、鋭い爪が刺さる。
しかし刺さるといっても血が出るような事はなく、
皮膚を何か柔らかいもので…それこそ、指で圧されているような感覚だった。
言うなれば恋人同士が指を絡みつかせるそれのような。
…恋人、愛する人、愛されている…
「っ、ぐ、ぁぁあっ、あぁっ…!」
そう思った瞬間、残された最後の力が俺の体を狂ったように震わせ始める。
こんなにも愛され、求め求められてはもう限界も限界だった。
「んっ、ザンっ、イこうっ、イきましょうっ…ザ、ン…っ!」
彼女の方もそうらしく、短い言葉で絶頂を求めている。
膣も早く早くと急かすようにその締め付けを強めてきていた。
「あぁ、っ、イく、ぁっ、ヴィオっ…ヴィオ…っ!」
返事をするつもりがただの呻きになり、そしてそんなことすらどうでも良くなっていく。
脳が揺れ、足が硬直し、口は断続的に荒い息を吐いていく。
「ぅんっ、ザン…イく…ぅ…っ!出してぇっ!」
彼女が叫ぶように言い、爪で指をぎゅっ、と握りしめてきた。
瞬間。
「っ、か、ぁあああぁあぁぁああぁあぁ…あっぁ…っ…!」
「んっ、ふあぁあぁああぁああぁあぁーーっ!……っ…」
俺は、ヴィオと同時に達していた。
あまりの快楽が体から口へと突き抜けていく喜びに、震えながら。
「ーーーっ、ーー…っ!!」
次に上がったものは、もはや声にすらなっていない。
痙攣するようにぴくりぴくりと揺れる体が、そうさせた。
「…ぁ…あ…」
やっと、声になる。
そうなった時俺は、びゅるっ…びゅるるっ…と彼女に注ぎ込まれていく精をはっきりと感じていた。
「…ん…ぅ、うー…っ…ん…っ」
ヴィオは、俺に倒れ込むようにしてビクビクと同じように痙攣している。
それを見ていると手を差し伸べてやりたくなるのだが…
「ぁー…っ…ふ、ぅぁ…ぁ…」
俺も動けるものではなく、下半身から今もとめどなく射精していた。
本人は絶頂の余韻に浸っているにも関わらず、未だ貪欲に吸い出そうと蠢く膣が、
俺のペニスをぐっちゅぐっちゅと揉みしだいているのだ。
「はぁ…ー…ぁ…っ…」
また、震えてしまう。
彼女の膣の中へ、先端から漏れるどろどろの熱いものが注がれていく快楽に。
「ぅ…っ…」
気力、愛欲、性欲…そんな物達が、精へと変わった矢先からゴクゴクと飲み干されていくような感覚。
「…ふ…ぁ…」
快楽で誤魔化していた限界を越えた動きの反動と合わさり。
その脱力感が恐ろしい程の眠気を引き連れて訪れる。
「はー…っ…」
瞼が、ずり落ちそうになっていく。
しかし、そうしてしまうともう開けられないことは確かだ…
「んっ…ぅ…はぁ、あ…」
と抵抗をしていると、俺がそうしたくない理由、ヴィオが呻きながらも顔を上げた。
まだまだ動けそうにないが、少しばかりは回復したように見える。
魔物なので、タフという事なのだろうか…
「ヴィ、っ…オ…」
だが今はそんな事は関係ない。
その顔に見て欲しくて、息も絶え絶えに名を呼ぶ。
すると彼女はこちらを見た後。
「ザ、ン…」
微笑んで、俺の名を呼んでくれた。
「…は…」
それだけで体から力がもっと抜けていく。
言いしれぬ幸福感がもたらされ、眠気と合わさり意識が保っていられなくなっていく。
「ぁ…っ…」
そんなのはダメだ、と。
彼女を、もっと見ていたいと、もう半分まで閉じている瞼を無理矢理に支える。
「…ん…」
「ふ、ぅぁ…?」
と、俺に彼女が這うようにしてゆっくりと顔を近づけた。
ぼやけた視界だろうとその中の、愛おしく思う視線ははっきりと分かる。
そんな細められた目はまた少し近づくと…
「ん、ゅ…」
俺の口に、舌を入れてきた。
「ぇ、ぅ…」
今回のは弱々しいとすら言える舌使いだが、今の俺にはまるで労わってようにも思える。
…そう言えば、一回目の後もこんな感じだったか…
「ね、ぇ…良いの、よ…?」
等と考えながら、応えようと舌を動かしているとヴィオはそう言ってきた。
「い、い…?」
質問を、返す。
「うん…」
答えは短かった。
まともに考えれば、全くもって意味不明だが…
「…そう、か…」
今はその意味が分かり、俺は目を閉じた。
…良い…それは、つまり…眠って、良いと…そう、いう…
思考が、沈んでいく。
「ん…っ」
落ちていく意識の中そんな声を聞いた気がした。
直後少しだけ強まったのは、包まれるような感触。
あぁ、そうか…きっと、抱きしめてくれたんだ…
「……」
…光が射している感じがする。
何となく、そう思う。
「…ん…」
目を、少しだけ開いてみる。
そこには、天井から差し込む陽光が見えた。
「っ…」
次に体をもぞもぞと動かそうとして…
「…おはよう、ザン…」
「あ…」
顎の下からかけられた声に俺は視線を動かす。
「…ヴィオ。」
ほぼ無意識に、その名を呼ぶ。
呼ばれた彼女は、うん、と優しく微笑んでくれた。
「おはよう…」
それに安堵しながら、こちらも挨拶を返す。
やはり彼女は、ふふ、と微笑んでくれた。
「…」
何となく、天井を見上げる。
まだ体と頭がぼーっとしている感じがした。
「…まだ、眠い?」
彼女が、ヴィオがそう気遣ってくれる。
「大丈夫だ、ただ…」
優しい気遣いにそんな風に言葉を返す。
そして、ただ?と促すような彼女の声に、こう続けた。
「どれくらい、寝ていたんだろうと思って…」
「ぇ…?ふふ、そうね…」
すると彼女は、少しだけおかしそうに笑い。
「あれから一晩中、かしら?」
そう言って、微笑んだ。
「…一晩中。」
オウム返しして天井を見る。
確かに、これが見えるということはそうらしかった。
「…」
「…」
訪れる、沈黙。
眠気を振り払うには十分で…そして、とても心地がよいものである。
そうして少しの間それを味わっていたのだが。
「あ…」
ふと、あることを思いついた俺はそんな声を上げた。
「…?」
どうしたの?
そう彼女がゆっくりとこちらを見てくるのが分かったので、聞かれる前に話し始める。
「いや…少し、気になることがあってな。」
「気になる、事?何かしら…」
そう、気になる事。
今は俺に覆い被さり抱きしめてくれている彼女だが、その行動にちょっとした疑問が湧いたのだ。
「俺を無理矢理犯せたなら…なんで、わざわざ巣に誘導するような事をしたんだろう、ってな…」
「え…」
それを口に出しつつ考える。
疑問とはまさしくこれ…何となくそう思ったのだ。
よくよく思い出してみれば、襲いかかるような素振りこそ見せていたものの、
そこには全力で捕らえようという意志が見えなかった気がする。
あの時だってそうだ。
「だってな…あの洞窟の時にしたって、尻尾を突っ込んで棘を放った後に、
逃げた所を捕まえれば良いのに。
何だか、巧く誘導されたように思ったんだよ。」
考えたことを口に出し、遠回しに聞いてみる。
「……」
だが彼女は、口を閉じて押し黙ってしまった。
…良く見れば少しだけ頬が赤いようにも見える。
これは、図星でいいのだろうか?
そのように思った俺は、こうも続けてみた。
「それにな…依頼の時だって、少々強引だが、連れ出して犯すくらいは出来ただろうにって」
「…ッド…いじゃない…」
と。
彼女の口から小さく何かが漏れる。
「え?」
反射的に聞き返してしまう、するとヴィオは更に赤くなって口を開く。
「だって…自分のベッドでしたいじゃない…初めての、時は…」
何とも乙女チック、と言うのだろうか、そんな答えだった。
「そ、そうか…」
…恥ずかしさに、こちらまで赤くなってしまう。
「うん…」
「そ、うか…」
「う、ん…」
会話とも言えない会話。
「……」
「……」
その後、俺達は二人してまた黙ってしまった。
気まずいだとか申し訳ないだとかそういうのでは、ないのだが。
少なくとも…先程の沈黙よりはどこか居心地が悪かった。
悪いと言っても体がむず痒くなるような悪さで…しかし、どうにかして抜け出したいものでもあって…
「あ」
と、もう一つ思いつき声を上げる。
「何、どうしたの…?」
反応した彼女の声には、やや警戒するような色があった。
だが今回は杞憂というものだろう…何せ。
「いや…この依頼の色々、どうすればいいんだろうと思ってな。」
そう、依頼のことだったからだ。
まぁ結果を見れば失敗で、そう言われればそれまでなのだが…
こっちは騙されたようなものなので、ちょっとした彼女に対する悪戯心もあったりして。
だから、敢えて言葉にしてみたといったところだ。
「あら、それなら…」
そんな言葉だったのだが、ヴィオの声は意外にも上機嫌なものになる。
もっと慌てるかと思った…と見れば、その口元は少しばかり歪んでいた。
「な、なら?」
少しだけ怖じ気づきつつも続きを促す。
すると彼女は俺の体をまたぎゅっと抱きしめ。
「ん…」
俺の首に自分のそれを絡めるように押し当ててきた。
「ぁ……ヴィオ…」
その行動が示す、彼女なりの報酬やら色々が分かりこちらも同じように首を絡める。
鱗の冷たさと人肌の暖かさが程良く混ざり、心地良い熱を伝えてきて。
「ん…」
そんな感触の同居がもっと味わいたくなった俺は、自分からヴィオの背中に手を伸ばしていた。
「…ふふ。」
「…ん…」
少しの間抱き合う。
「ん。」
「…ふ。」
ちょっと強くして、まだ抱き合う。
「…ね。」
「ん…」
もうずっとこのままでも良いかと思い始めた頃。
「…それなら、そのことなら、ね?」
彼女が再び口を開く。
今度は怖じ気なく、ああと相づちを打てた。
その返答は満足いくものだったようで、ヴィオは上機嫌に続きを語っていく。
「反魔物領で仕事できなくなった分も騙した分もぜーんぶ入れて。
私の一生をかけて報酬を渡す…ねっ、これなら良いでしょ?」
その意味も彼女の気持ちも、一切の誤解無く分かった。
俺と一緒にいると言っているのだと。
一生ずっと、離れずにいると。
「…」
そう理解した直後暖かいものがこみ上げてくる。
…一緒。
その言葉が一人でやってきた俺に染みるように、入っていく。
「あら不満?」
等と噛みしめていると彼女が覗き込んでくる。
不満かと訊いているくせにその表情は明るかった。
恐らく、いや絶対、逃がすつもりなど無いのだろう。
「いや…文句ない。」
…むしろ望むところだ。
そう思い笑顔で承諾する。
「っ」
すると、ヴィオは俺を一際強く抱き締め。
「うんっ!追加の依頼だって、どんどん出しちゃうんだから!」
最高に嬉しそうな…幸せそうな顔で、笑ったのだった。
16/06/08 23:08更新 / GARU
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