シビレ罠
「よし・・遂にこの時が来た。」
軽装で森の中に息を潜め、大剣を背負い屈みつつ呟く。
正確には、呟くつもりはなかったが、
高揚していた気分がそうさせたと言ったところか。
・・まぁ、無理もない話だな。
俺は、グレン。
狩人・・というよりは、もはや魔物退治の専門家と言った方が良い。
今まで数多くの魔物を討伐してきた。
勇者と持て囃されたこともあるが・・あんなのはごめんだ。
俺は・・魔物との戦いに生き甲斐を求めているだけなのだから。
今回の獲物・・いや、相手はワイバーンだ。
しかし、俺にとってはただのワイバーンではない。
幾度と無く戦い、撤退させ、撤退させられた、因縁の相手だ。
奴は俺との最後の戦いの後、行方知れずとなっていたのだが、
ようやく俺はその情報を手に入れたのだ。
なにやら妙な口調の、やけに恰幅の良い女性から、
対策用とやらの、罠と一緒に。
どうにも怪しい装いではあったが、
喉から手が出るほど欲しい情報だったのでそれは無視した。
対価には剥がれた奴の鱗を要求されたが、
奴を倒せば鱗などいくらでも手に入るのでくれてやった。
ちなみにその罠は、地面に置くと魔物に反応して、
高圧の電流を流してその身を拘束できるらしい。
半信半疑ではあったが、俺はそれを目前の泉の傍に置いている。
効けば良し、効かなければ俺の腕をもってして相対するだけだ。
・・そう。
あの泉に、奴は現れるはずなのだ。
水質が良く、大型の魔物が好むというあの泉に。
きちんと、やつの逞しい足跡もあった。
「・・・・」
じっと、待つ。
あの、忌まわしくも俺を奮い立たせる翼の音はまだ聞こえない。
「・・・・」
ひたすらに、待つ。
ここは、上からは見えないはずだ。
派手に動いて気配を晒せば別だろうが。
「・・・・」
奴は、まだ来ない。
だが、この一帯を根城にしているのは間違いないのだ。
そう言えば。
気になる噂を聞いた気がする。
確か・・魔王が代替わりをしたとかだったか。
その手の話に興味はなかったが、
情報収集をしている内に、その噂は嫌でも耳に入ってきた。
そのせいで、確か、魔物の習性が変化しているんだったかな。
まぁ、魔王が居なくなったわけではないのだ、
変化したのは精々、弱い魔物くらいだろう。
だから・・
ブワォゥ・・
「ッ!!」
聞こえた。
今、確かに聞こえた。
あの、風を切る音が!
「ォクッ・・」
生唾を飲み込む。
泉の方向を注視する。
バフアァッ・・バフアァッ・・!
来た・・!
待ちに待った、奴が来た!
出来る限り、身じろぎせず、その場に留まる。
ドドオォォ・・ッ・・
奴が着地した。
相も変わらぬ巨体をこれでもかと見せつけている。
「グオァゥ・・ンン・・?」
奴は、首を持ち上げ周囲を見回している。
・・気配だけを、察知はしているようだ。
それが、どこからかは分かっていないようだが・・
相変わらず、恐ろしい野生の勘だ。
しかし、見つかっていない以上焦る必要はない。
焦って動けば、それこそ見つかる。
「ンググゥ・・ン・・」
だがしばらくして、奴は泉の方へと歩き出した。
どうやら、渇きには勝てなかったようだ。
足音を立てないように、歩く。
ゆっくり、ゆっくり。
物陰から出ないように、しかし、最大限近づく。
「ングゥン・・グァオォ・・」
奴が泉に口を付けようとする、その瞬間。
「はぁああぁっ!!」
俺は叫び、駆けつつ背負った得物の柄に手をかける。
「グォアッ!!」
驚くことはせず奴は振り向いた。
そして。
「ヒュウォオオ・・・ッ・・」
息を大きく吸い込む。
大音量をまき散らし、こちらの本能に訴えかけるつもりなのだ。
だが。
「フンッ!!」
それよりも先に、俺は奴の右足に刃を振り下ろした。
鱗を数枚弾く感触、次いでズブリという音。
・・手応えあった!
次の動きに繋げるべく、体を捻るが・・
「ゴウゥオガアオアアオァァアアァッ!!!」
ッ・・!
その捻りは、全て俺の耳を防ぐために無駄となった。
やむを得ない・・あの大音量、間近で聞けば動けなくなる。
しかし、幸運が舞い降りた。
「ギャウオゥ!」
そう叫び、奴は、俺から距離を取るように『後ろ』へ跳ねたのだ。
着地しようとするその足下には、あの罠。
よし・・!
効くかどうかは分からないが、隙が出来れば儲けものだ。
自由になった体を動かしつつにじりよる。
剣を地を這うように動かしつつ、相手の行動に応対できるように。
ドドォッ。
奴が着地した。
足下の罠が炸裂する。
「ギャウウゥン!?ギャオゥ・・アッ・・」
目論見通り、奴は動けなくなった。
しかし。
バチィイアッ!
迫り来る電流は、剣を伝わり。
「あぐぅあっ・・!?」
俺にも、伝播した。
たまらず、横たわるように倒れる。
「ギャオウウ・・ッ・・アオゥッ・・」
奴は、動けない。
絶好のチャンスだ。
「ぐぉあ・・ッ・・」
しかし、俺も動けない。
しかも、何だか、妙な気分になっていく。
体が火照り、頬が熱く。
「ギャウォアオオアオッ!」
そうする間に、奴は罠を壊しその束縛から逃れた。
「うっ・・うぅう・・」
俺は、まだ動けない。
動けないと言うのに。
「ハッ、ハッ、ハッ・・!」
奴は、飛び上がり横倒しの俺を息を荒らげ見下ろしている。
すでに、電流が抜けきったのだろう。
当然だ・・人間の俺と奴では、元々の体力が違う。
「はぁっ・・はぁっ・・」
逃げなければ。
そう思うのに、俺の体はピクリとも動かない。
動かせるはずなのに・・!
「グオアイィ・・♪」
そんな俺を、何故か楽しげな奴は軽々と両足で掴み。
「グオァァアアァァッ!」
飛び上がり、どこかへと連れ去ろうとする。
・・そこから先は、失神して覚えてない。
情けないがな。
次に目を覚ましたのは。
というか、目を覚ませたこと自体驚きだが。
なんと、奴の巣穴の中だった。
何故だかは分からないが・・俺は、本来卵があるべきそこに、居た。
背負っていた剣は、ご丁寧に遠くの壁に掛けられている。
慌てて、立ち上がろうとする。
「うっくぁ・・」
が、体に何かビリリとしたものが走り、
俺はその場にくずおれてしまった。
ふさふさの干し草が頬に触れる感触。
「そんなに急いで出て行こうとするなよ・・」
同時に聞こえてくるそんな声。
「ッ!?」
辺りを、動かない首を捻り見渡すと。
「ここだ、ここ。」
俺の真横に、美女が寝そべっていた。
いや、ただの美女ではない。
良く見ると腕に見えたのは翼で、あるべき指がない。
この時点で人外であることは明らかなのだが、
鱗、尻尾そして、右足の傷が俺をさらに驚かせた。
・・あの、ワイバーンなのか?
だが、そんなはずがない。
ワイバーンは、サキュバスではない。
雄々しき飛竜であって、見ほれるほどの美女ではない。
「どうした・・そんな首を振って。
さては、私に見とれていたな・・」
戸惑う間にも、ワイバーン?は俺の肩に爪をかけた。
それは、狩りを行う際のやり方に思えたのだが。
その爪が俺の肌をつついた瞬間。
「あっぐぅあっ・・!」
再び、あの痺れが俺を襲う。
恐れから身を縮めるのではなく、俺は今、
快感から身を縮めていた。
俺の想像が正しければ、あのワイバーンの前で。
「フフ・・可愛いなぁ・・
あの狸とサンダーバードに協力してもらった甲斐があった。」
「な・・っ・・?」
その言葉を疑問に思う。
狸・・?サンダーバード・・?
「分からないようだな・・?
ふふ、では・・撫でながら説明してやろう・・」
戸惑う俺に対して、ワイバーン?は再び俺の肌を擦る。
爪だから、痛いはずなのに。
「は、うぁっ・・」
呻いた。
体がジュクジュクと、得体の知れないものに浸される感触。
頭が、熱くなっていく。
「まず、な・・?
あの罠は・・仕込まれていたんだ。
私と、あの商人、そして罠の材料のサンダーバードにな。」
「なん・・だと・・?」
驚愕する。
「全てが、仕組まれていた・・?」
「ああ・・そうだよ・・?」
足が迫る。
ゴツゴツとした足が、俺の足腰を押さえつけた。
それは、痛みのはずなのに。
「く・・ふぅ・・っ・・」
何故か、足からは快感が来た。
ビクビクッと体が揺れる。
「そしてな・・?
何故、快感が迫ってくるか、気になるだろう?」
ゆっくりと、体を、特に顔を迫らせつつ訊く女性。
その動きはまさしく、獲物を追いつめるワイバーン。
「う・・く・・な、にっ?」
辛うじて体を支えつつ、正面から女性を見つめる。
女性はこう言った。
「全ては、魔王の代替わりの影響だ・・」
「なんだと・・?」
驚きを隠せない俺に、女性は続ける。
「良いか?魔王は全ての魔物に影響を与える・・
そして、今回の魔王は・・淫魔、サキュバス族だ・・
それも、人間が好きで、共に生きようと言う思考のな。」
「まさか・・お前の姿も!」
結論を思いつく。
そうでなければ、説明がつかない。
それに頷きながら女性は言った。
「そうだ・・だから、私はこうなったし、
サンダーバードの雷も、殺傷用から・・」
そこで言葉を切り、彼女は俺の頬を舐めた。
ぬめった舌が、頬を撫でると・・
「ぅうぁ・・っ・・」
またも、俺の体に震えが走った。
「っ・・まさか・・俺のこの体の異常も・・?」
訊くと、女性・・いや、ワイバーンはゆっくり頷く。
「そうだ・・媚薬のような効果をもたらすようになった。」
そして、そう言って俺の肩をゆっくりと押した。
もとより力の入っていなかった俺の体は、
いとも容易く、柔らかな干し草へと押しつけられる。
「私は、体が強靱だから今まで我慢できたが・・」
彼女の胴が押しつけられる。
柔らかな肌の感触が、俺を否応無く高めた。
「お前の雄の臭いを嗅いでいたら、な・・?」
首同士が密着し、耳に彼女の口が当たる。
暖かく湿った息が、俺の頭をボウッとさせていく。
「我慢出来なくなったから・・お前が、欲しいんだ・・」
直後。
「はむっ・・んむ・・んちゅ・・」
俺の唇は、彼女によって奪われていた。
相手の正体はあのワイバーンのはずなのに・・
「んむぅ・・ん、ん・・」
その唇はとろけるように甘く、そして柔らかい。
ややもすれば、俺から口を動かしてしまいそうな程に。
だが、俺の口はまだ辛うじて動かなかった。
疑問が消えないのだ。
「む、はぁ・・どうした・・?
私は高まっているのに、何だか乗り気でないな・・?」
口を離した彼女が言う。
赤く染まりつつも、それでもなお美しいその顔に問う。
「・・お前は、何者なんだ・・?
そして、っ、なんで、命を狙う俺を愛する・・?」
それは最も気になっていた事。
俺の中で、性欲すら凌駕して存在する疑問だ。
「ん・・?ああ、なんだそんなことか・・」
彼女は、ふ、と一度優しく微笑む。
「何者かは、見ての通りワイバーンだ。
・・まぁ・・この姿は私も最初驚いたがな・・
ああ、きちんとお前に馴染み深い姿にもなれるぞ。
そして、何故お前を愛してしまったか・・だったか。
これも、簡単なことだ・・お前が・・」
そこまで言うと、彼女は俺の首筋を一噛み。
力のこもっていない、所謂甘噛みだったのだが。
「うっ・・」
それでも俺の体は震えてしまう。
首を優しく噛まれるくすぐったさと、
サンダーバードのせいらしい、甘い痺れのせいで。
「私と、幾度と無く死闘を繰り広げてくれたからだ・・。
・・不思議そうな顔をしているな・・
だが、雌が、強い雄を求めるのは、当然だろう・・?」
「だ、が・・魔物にも、雄はいるだろう・・!」
そう、そのはずなのだ。
でなければ、これまで魔物達が増えてきた説明が付かない。
しかし、これにもまたワイバーンは微笑み。
「居た・・というべきだな。
さっきも言ったが、魔王はサキュバス族。
その魔力が全ての魔物に行き渡った結果・・」
そして、驚愕の事実を口にした。
「魔物にな・・?雄が存在しなくなったんだよ。
元々雄だったものすら、雌になった。」
「は、ぁ・・?!」
訳が分からない。
雄が、居なくなった・・?
ではどうやって繁殖するというのか。
・・まさか。
魔王は、サキュバス。
サキュバスは、人間の精を糧とする。
その魔王の魔力が、伝播・・した・・
伝播ということは、つまり・・!
「ッ・・!」
おぞましいその想像に、唾を飲み込む。
事実このワイバーンも美女と化している。
宿敵と定めていたはずの俺さえ、
その美しさに一瞬、ほんの一瞬とはいえ心を奪われた。
唇を奪った後の技術も、高いなんてものではなかった。
では、その全てを誘惑のために使えばどうなるか。
そんなこと、想像するまでもない。
「どうやら、理解したようだな・・」
俺の表情を見てか、そう言うワイバーン。
その足は依然として、俺の両足を捕らえていた。
先ほどの結論に至った今は、奴の全ての動作が、
これまでと全く別の意味を持っているのが分かる。
この足が、やけに優しいのは、食料を傷めぬ為でなく。
肩を押さえ込むのは、逃がさぬ為だけではなく。
口を近づけてくるのは、喰らうためなどではなく。
体を密着させてくるのは、威圧のためではなく。
全て、その先・・すなわち。
生殖行為へと繋がっているのだ。
それを理解する・・してしまった。
瞬間、恐怖が襲いかかってくる。
冗談じゃない・・!
女を選り好みする気はないが、それでも。
宿敵が女体になって、好かれていました、
じゃあはい交わろう、などと考えられるほど、
俺は単純には出来てはいない!
「くっ・・!」
精一杯の力を込めて、もがく。
「ふふ、逃がさないぞ・・!」
しかし、易々と封じ込められてしまう。
人の大きさになったとはいえ
ワイバーンはワイバーン・・というところだろう。
「ぐ、ぅ・・っ・・」
しかもすでに痺れは抜けていたが、
俺の体が、すでに快を覚えて疼き続けている。
つまり、体が勝手にこのワイバーンを求めているのだ。
俺の意志など、関係なしに。
体が、勝手にピクリと震える。
「良いじゃないか・・お前の体も望んでいるんだろう?」
それを目敏く見つけたらしく、にたりと笑う。
「ふ、ざけるな・・!
誰が、殺し合いをしていた相手としたがるんだ・・!」
それでも、俺の本心を叩きつける。
しかし。
「そうか・・っふ・・だろうなぁ・・」
こいつは、楽しそうに微笑む。
まるで、それでこそお前だ、とでも言いたげに。
「なに・・?」
それが気に食わなくて、奴の顔を睨む。
だが、こいつは気にもかけず続ける。
「でもな・・?
それじゃあ、自然の摂理に反するだろう・・?」
「・・何だと?」
自然の摂理?
いきなりこいつは、何を持ち出して。
「ふふ、私とお前は争っていた。
共に、自らを守るためにな。
これは・・防衛本能からなる自然なことだろう?」
「・・ああ。」
「そして、今お前は負けている。
失敗したからだが・・失敗は死、これも自然だな?」
「・・ああ・・」
「最後に・・」
そう言って、こいつは俺の唇を軽く奪う。
一回だけ、たった一回の柔らかな感触。
だが、それはかえって俺にそれを求めさせた。
無意識に唇を突き出そうとしてしまう。
それに気付いて止めるのと、
ワイバーンが唇を離すのはほぼ同時だった。
・・まったく恥ずかしい、俺が求めてどうするんだ。
そんな風に思っていると、
ワイバーンは俺を至近距離で見つめ言う。
「勝者は敗者を好きなように出来、
敗者は勝者のなすがまま・・これもそうだろう?」
「それは・・っぷ?!」
そして今度は、俺の返事を訊かずに唇を奪ってくる。
今度は、唇のみなどという生易しいものではなかった。
「あぷ・・んむ、ちゅむ、りゅうぅ・・」
舌を突っ込み、こちらの口の中を舐め回してくる。
「んりゅ、んふ・・んあむぅ・・」
その動きの苛烈さに、俺の体は震えるが。
「ん、ぷ、む・・ぅ、むぅ・・!」
肩と足を掴まれ地面に押しつけられている俺は、
どうすることも出来ず、その感触を受け入れるしかない。
そう、最初の内はそう思っていたはずだった。
「あむ、むぅ・・」
しかし、彼女の舌の感触を長い間味わっていると。
「む・・うっ、ぷ・・ん・・」
いつの間にか、こちらからも舌を伸ばしたくなってしまう。
・・それをすることは人の道を踏み外すことだ。
その思いが、俺がそうすることを辛うじて阻む。
「む、むぅ・・ん、む・・りゅ、う・・む・・」
だが、そうやって我慢しているからといって、
ワイバーンの舌による甘い感触は止まるわけではない。
「りゅみゅ・・れりゅぅ・・んふ・・♪」
「む・・う・・っ・・」
好き勝手に俺の口の上下を舐め回したかと思うと、
今度は努めて動かぬようにしている俺の舌をつついてくる。
力強い舌が、俺の舌を持ち上げ無理矢理に絡んでくるのだ。
舌の裏をなぞるその動きが、俺の体を震わす。
ふっと気の抜ける度、俺の舌はほぼ無意識に動きかける。
「む・・むぅ・・っ・・!」
だが、耐える、耐えなければならない。
それに応えてしまえば、もう取り返しはつかない。
俺の本能がそう、警鐘を鳴らしていた。
「あみゅ・・むふぅ・・♪」
だから、耐える。
どんなに体が震え、甘い香りが鼻を突き抜けても。
ここまで耐えられたのはひとえに俺が
狩人という忍耐力のいるものが生業だったおかげだろう。
「んふぅ・・む・・はぁ・・」
ついに、奴は俺から口を離した。
「んぅ・・ふぅ・・なかなかに強情だな。」
微笑みつつそう言うワイバーン。
「っはぁ、っ、当然だ・・」
そう返しつつ俺は、微かな勝利の感触を味わっていた。
俺は、このワイバーンの誘惑を振り切れたのだ。
「・・ふむ・・こうなれば、体に直接訊いてみるか。」
そう思う俺に、ワイバーンはそう言う。
「っくぅ!?」
次の瞬間、股間に妙な感触がした。
ごつごつしていて、温かく・・そしてしなりがある。
そんな何かが、俺がつけている防具の中に入り込み、
俺の、ペニスを包んでいるのだ。
「ほら・・こういうのは、どうだ。
きっと、味わったことのない感触だぞ・・?」
そして彼女がそう言うと同時に、
その感触は俺のまたの間でうねり始める。
まるで蛇がとぐろを巻くように、そこへ巻きついた。
「ぅっふ・・っ・・」
その感触に、またしても俺はブルリと身を震わす。
柔らかい感触が、じんわりと下半身を満たすのだ。
「何を、している・・!?」
顔を上げ訊く。
「ん・・見たいか・・?」
すると奴は笑いながら、腕で体を持ち上げた。
腕立て伏せの要領で持ち上げられていく奴の体。
やがて俺と奴の間に空洞が出来、そこから見通すと。
「ぁ・・っ!」
俺の下半身の股間の辺り。
奴に勝つためにこしらえた防具の中に。
突っ込まれていた。
見間違いかと・・そうであって欲しいと思ったが。
伝わってくる感触からして、残念ながら事実だ。
あの、鱗に覆われたうねうねと動く尻尾が、
俺の股間のペニスの辺りに突っ込まれている。
「っ!お、い・・!や、え・・ぐっ・・」
やめろ、そう言おうとしたが、
尾がくねらされた瞬間、言葉は封じ込められてしまった。
堅い尾が俺のペニスを締め付けているはずなのに、
どうしようもない気持ちよさがこみ上げてくるのだ。
そのせいで、体がゾクゾクッとして、
どうにも力が入らなくなってしまう。
「ふふ・・良い顔だ♪」
満足げに言うと、奴は次に足をもぞもぞと動かし始める。
何をする気だ・・そう思いつつも、もはや為す術はない。
それに屈辱に思いながら、
俺は段々と肌が外気に晒されていくのを感じた。
・・なるほど、そういう、ことか。
とうとう、俺は・・こいつに犯されるのか。
ワイバーンに本能のままに犯された時、
俺は一体どうなってしまうのだろうか。
・・正直、怖い。
戦闘を繰り広げている時とは異なる恐怖だ。
そんな風に、内心怯える俺とは裏腹に、
下半身を脱がし切った奴は、先ほどから自らが刺激して
大きくしてきた俺のペニスを見て、笑う。
「ふふ・・なんだかんだ言っても、
お前の体は乗り気じゃないか・・」
そしてその後、上半身をべったりと押しつけてきた。
至近距離に、奴の顔が迫る。
そこに浮かぶ微笑みが、俺にはまるで、
獲物を前にして舌なめずりをしているように見えた。
・・ゾクリと背筋が凍る。
怖い・・この感覚は・・何だ・・?!
「っ・・ぅ・・!」
正気を失いかけつつ、何とか奴を見据える。
「さっきまで相当に我慢させてくれたからな・・」
奴はそう言って、腰を降ろしていく。
濡れた何かが俺のペニスの先に当たる感触。
「っひ・・ぅ・・!」
ブルリと震え、息を吐く。
やけにそれは生暖かく感じられた。
「もう抑えなど効かないぞ・・!」
奴はそう言ったかと思うと、一気に腰を降ろし・・
次の瞬間。
「っ、が、ぁ・・っ!?」
弾けた。
そうとしか表現できなかった。
何が起こったのかすら、理解できなかった。
「っはぁ・・暖かい・・これが、お前のぉ・・♥」
どこからか聞こえた、そんな声。
それは、あの、奴の、ワイバーンの声だった。
「っ・・っ・・はぁ・・っ・・?」
意識が戻ってくる。
そこでやっと、俺の意識が飛んでいたことに気付く。
「ん・・ふふ・・可愛い顔をしていたぞ?」
「っ!」
目の前に奴の顔があった。
慌てて表情を引き締めようとするが・・
「おっと、まだ私は、満足してないからな・・!」
「あっ・・ぐ、ぅああっ・・」
股間から伝わってきた快感に、
俺はあっけなく体を震わし、顔を背けてしまう。
「ふふ・・やっぱり、可愛い顔だ・・」
俺の様子を見て、奴は微笑み。
「じゃあ・・もっと、激しくしてやるからな・・!」
そんな悪夢のような事を言う。
「な、なに・・を・・!」
もっと、激しく・・?
戦慄する俺に、奴は言う。
「腰を振って犯してやると言ってる・・
ふふ、良いんだぞ?気絶してしまっても。
その間も、しっかりと気持ちよくしてやるからな。」
「え、や、やめろ、よせ・・」
未だに安定の兆しすら見えない意識の中、懇願する。
「ふふ・・お前は、敗者だよ・・!」
しかし、その願いは叶えられることは無かった。
「うぐぅぁ・・?!」
腰が、俺の腰が、奴によって揺り動かされている。
それだけではない。
それだけでも失神したさっきの締め付けはそのままに、
それが上下に動き、擦り立ててくるのだ。
「あ、あ・・あが・・っ!!」
呻く。
自分でも情けないと思ってしまうが、
本当にそれしかできなかった。
顔を天井に向け、口を開き、それしか出来ずに、
ただただ押し寄せる暴れ狂う快楽を身に受ける。
「なんだぁ・・?可愛い声を出してぇ・・!」
俺の様子に、何をどう思ったか奴はそう言うと、
「もっと、もっと聞かせてくれ・・!」
更に腰の動きを加速させてしまった。
グチュグチュとペニスとヴァキナが擦れ合う音。
嫌なはずなのに、恐ろしいはずなのに、
その音や動きが俺に、確実に強烈に快楽を蓄積させる。
・・あの音が、二十回ほど聞こえた辺りだろうか。
「あ・・ぁ・・あっ・・あ、やっ・・
やめっ・・!う、ぐ、あああぁあっぁぁあああ!!」
俺は、また、絶頂していた。
目をかっと見開き、情けない声を上げながら。
体が跳ねて少しでも快感を逃がそうとするが・・
「はっ、あぁっ・・良いぞ・・♥」
奴に俺の体が押さえられているため、それすら出来ない。
結果、俺の体は全ての快楽を叩き込まれることとなった。
少し後。
「あ・・あっ・・ああぁ・・う・・っ・・」
口を開き、途切れ途切れの息を整えようとする。
少しは落ち着いただろうか・・と思った時。
「うあぁっ・・!?」
また、あの腰の振りが再開された。
「はっ、はっ・・ふふ、もっと、もっと・・!」
奴が、そう言っているのが聞こえる。
その声は、楽しげだ。
「や・・や、やめ、ろ・・っ・・」
対して俺はまた、懇願していた。
いや、もう、哀願だ・・。
二回絶頂させられ、それでも腰は動かされ続けた。
屈辱的で、男としてのプライドはズタズタにされ、
それでも、俺の体は快楽に浸され痺れ続けている。
・・そう、いえば・・サキュバスは、
快楽を与え、死ぬまで精を搾り取るのだった、か・・。
ふと、俺はそんなことを考えた。
実際、そうされた者の噂も聞いたことがある。
今の状況は、まさに、それではないか。
「あ・・うぅっ、ぁひあっ、あ・・っ・・」
快感が、津波のように押し寄せる。
・・嫌だ、そんな。
狩人は、戦士の筈だ。
戦いの中に生き、戦いの中に死ぬ。
そういう、生き物の筈だ。
なのに、なんだこれは。
「あ、く・・ぅ・・んぁ・・っ・・」
波は引かず、それどころか新たな波が打ち寄せてくる。
快楽を与えられ、快楽により屈せられ、
行動する全てが相手を喜ばせることにしかならず、
しかも、一矢を報いることすら叶わない。
いっそ一思いに殺されたい、そう思うのに、
快楽に押し流され、舌を噛み切ることすら出来ない。
「ふ、ふふ・・あ、うぅん・・♥」
「あ、ああっ、うぅ・・あひ・・っ・・」
自制心が、砕けかける。
こんなの、あんまりだ。
死が迫るのに、死のうとすることすら許されない。
結局は死ぬのに、屈辱にまみれた生を強制される。
俺の生涯は、こんな結末のためにあったのか・・?
そう思った瞬間。
「ぁひ・・う、ひぐっ・・あぅっ・・」
俺の目からは、涙が滴り落ちていた。
屈辱にまみれた光が止まらない。
「あはっ・・はっ・・は、ぁ・・?」
不思議なことに、それを見た瞬間奴の動きが止まった。
どうしたのだろう、普通ならそう思っている所だ。
「う・・ううぅ・・」
だが今は、そんなことすら考えていない。
溢れ出るままに、涙をこぼし続ける。
嫌だ・・もういっそ、殺してくれ・・
次から次へと、涙が出てくる。
止まらない。
「・・・・」
俺を見たまま奴は固まっていたが。
ぺろっ。
次の瞬間、俺の涙が舐められた。
まさか、奴は涙すら糧にするのか。
そんな、そんな・・!
絶望に思考が染まりかけた、その時。
「・・なぁ・・何故、泣、くんだ・・?」
奴はそう言った。
からかっていないことは、心配そうな表情を見れば分かる。
「っく・・最後には、殺される・・
なのに、ギリギリまで生かされる・・狩人にとって、
これ以上っ・・屈辱的なことが、あるものか・・!」
涙ながらに訴える。
もう、相手が魔物だということすら忘れかけて。
次の瞬間。
ぱふっ・・。
俺の顔は、何か暖かいものに包まれていた。
一瞬の後、それが奴の体だと理解する。
「・・ごめん・・」
次いで聞こえた、消え入りそうな声。
上を見ると、悲しそうな顔をした奴がいた。
今にも、泣き出してしまいそうだ。
「な・・なんで、そんな顔をする・・?」
恐る恐る、訊く。
すると奴は体を下げ、俺の首に自分の首を擦りつつ言った。
「だって・・大事な事を言い忘れていたが故に、
お前に、快楽を味わう幸せをくれてやれなかった・・」
「大事な、事・・?」
そう訊くと奴は、驚愕の事実を話す。
「ああ・・良いか・・?
私達は精を糧とするといっても・・吸い殺しはしない。
むしろ・・相手を愛おしく思い、心から愛するんだ・・」
「は・・ぁ・・!?」
絶句する。
・・え?では、なんだ・・?
「さっきまで、俺が考えていたことは・・」
「ああ・・問題ない・・私はお前を愛している。
お前を犯すのも、最初に言った通り愛しているからだ。
だから・・お前にも、快楽を味わって欲しい・・」
しかしそう言った後、奴は悲しそうに顔を歪ませる。
「でも・・私は・・お前を泣かせた。
夫を泣かせるなんて・・妻失格だ・・
私は・・私、は・・」
そして、今度は奴が泣きそうになっていく。
至近距離の目がどんどんと細められ、潤っていく。
それは、見ているのは余りにつらかった。
・・ッ!
「っぅ・・ん、ぷ・・」
「ん、んんうっ・・!?」
俺は力を振り絞り、その唇を奪った。
背筋と首の力だけでその口に俺の口を届かせる。
何故そうしたかなど分からない。
分かるのは、そうしなければいけないと思ったという事だけだ。
「ん・・ぷぁ・・あ?・・なんで・・?」
唇を離した後、奴が訊く。
理由など、正直分からない。
「知らない・・何故かなんて分からない・・」
だから、俺は素直にそう言った後。
「だけどな・・どんなに屈辱的でも・・
お前のあそこは、気持ち、良かったんだ・・。
俺、初めてだったんだぞ・・?
だっていうのに、初めてのそういうことで、
あんなの味わったら、他の女なんてもう無理だ・・。
だから、責任、取ってくれ・・」
勢いに任せてそう続けた。
さっきまでそれを嫌悪していたことすら忘れて。
すると。
「あ・・あっ、あ、うわああああ・・っ!!」
いきなり奴は泣き出し、
「お、おい、おちつ、むぐうぅっ!?」
静止させようとする俺の唇を乱暴に奪った。
舌が絡まり、俺の舌諸共口を舐め回す。
それだけでなく腰も、制御を失った暴れ馬のように、
がつんがつんと打ち付けられていた。
・・どうやら、相当に堪えたらしい。
舌を動かしつつ、ぼやける頭でそう思う。
とろけていく思考。
しかし、今度は抵抗する気にはならなかった。
振られるままに腰を動かし、
「む、むぅ、むぐ、んむぅうぅ・・」
「んむ、ちゅぶ・・ん、むぅっ・・」
目を細め、求められるままに舌を動かし応える。
そうしていると、さっきより何倍も気持ちよくて。
ぐぢゅん。
俺の中で、何かが弾ける準備がされたのが分かった。
恐らくは、射精。
それも、無理矢理にさせられるものでなく、
自らがこの雌を妊娠させたいと思ってのもの。
「あむ・・ぱぁっ・・は、あっっ・・あ・・
出る・・そろそろ・・出る・・」
途切れ途切れに、彼女に伝える。
すると彼女は、嬉しそうに目を細めると
「う、うん・・良いぞ・・出して・・
私の中・・お前の精でいっぱいにして・・」
腰を更に激しく上下させ始めた。
彼女との接合部分がビチャビチャといやらしい水音を立てる。
その度に、射精の瞬間が刻々と近づいてくるのが分かった。
「はぁっ、はっ、あはぁっ・・♥」
「う、うっ、んあ・・あ・・っ・・♥」
もう少し、後ちょっと、あ、出る・・っ・・!
その到達の瞬間の直前。
「むぐうぅ・・!!」
俺は、彼女の口に自らの口を押しつけた。
舌を突き込み、彼女の舌と絡み合おうかというその時・・!
「はむぅむ!む、むん、んみゅうううぅぅっ♥♥」
俺は、三回目の射精をした。
さっきまでした射精の中で、一番気持ちの良い、射精を。
頭がバチバチとして、まともに動けない。
「んむ!ん、むむ、んんむ、む、むんうんぅんん〜っ♥♥」
その俺の精を受けた彼女はというと、
目をトロンとさせ、体を震わしながら快楽を享受していた。
その様は、可愛らしかったのだが。
「っはぁ・・あ・・あぁ・・っ・・」
直後に脱力し、意識を失ってしまったため、
ずっと見ておくことは出来なかった。
「・・ん・・んう・・」
目を何回か開閉させる。
光が、天井から差し込んでくる。
どうやら、朝になっているようだ。
「ん・・ぁ・・おはよう・・」
俺の体の上に乗っている彼女から声がかかる。
繋がったままの状態で、寝ていたらしい。
いや、正確には気絶していた、か。
「ああ・・おはよう・・」
彼女にそう返す。
すると彼女は、
「うん・・」と言って俺の首に自分の頬を擦り付けた。
何となく、彼女の体を抱きしめる。
すると彼女は大人しく抱きしめられてくれた。
「ん・・んぅ・・」
気持ちよさそうな、声。
それを可愛らしく思いながら、俺は口を開く。
「なぁ・・これから、どうする・・?」
これまた何となく、訊いた。
すると彼女は、顔を持ち上げる。
間近に浮かんだその顔は微笑んでいた。
「まずは・・自己紹介から、どうだ・・?
恥ずかしいが・・私はお前の名前を知らないんだ・・」
「あー・・そう、だよな・・っふ、はは・・」
答えつつ、笑ってしまう。
殺し合いをしていたと思えば犯され、愛し合い。
その癖に、互いの名前すら知らないとは。
人間同士ならば、絶対に考えられない話だ。
それが、妙におかしい。
「むー・・どうした?」
俺が笑ったのを不審に思ったらしく、彼女は首を傾げた。
それに、なんでもない、と言った後、俺は自らの名を言う。
「グレン・・だ、俺の名前だよ。
・・お前の名前は?」
そして、続けてそう問う。
しかし、彼女は困ったような顔をした。
「あ・・いや・・前まで純粋な魔物だったからな。
その・・名前、無いんだ。」
「あー・・そう、か・・」
少し残念に思いつつも、納得しようとする。
しかし、彼女はこう続けた。
「だから・・だからな?
グレン・・お前に、名付けて欲しいんだ。」
「・・え?」
驚く。
同時に、冗談だろうと思ったが。
「冗談で言ってるんじゃないぞ。
本当に・・お前に付けて欲しいんだ。」
その表情は至って真面目だ。
「そうか・・」
なら、俺も真面目に答える他には有り得ない。
・・しかし、どうしたものか。
こういうのは文献からだよな・・。
確か・・あの文献にも狩人とワイバーンが載ってたな。
番のワイバーンで・・雌の方は確か・・ああそうそう。
じゃ、ちょっとそれを借りるかな。
彼女を、その微笑みを見ながら俺は言った。
「よし・・じゃ、レイアっていうのはどうだ?」
彼女は、一瞬驚いたような顔を見せると、
「れいあ・・レイア・・レイア・・」
と何回もそれを反芻した。
そして、明るい顔になると
「っああ!レイア、凄く気に入った!ありがとうグレン!」
そう言ってにこりと笑う。
「そうか・・俺も嬉しいよ。」
色々と紆余曲折はあったが・・
この笑顔が見れるという結末ならば悪くはない。
いや・・違う、か。
俺の、俺とレイアの関係は、ここからがスタート地点だ!
軽装で森の中に息を潜め、大剣を背負い屈みつつ呟く。
正確には、呟くつもりはなかったが、
高揚していた気分がそうさせたと言ったところか。
・・まぁ、無理もない話だな。
俺は、グレン。
狩人・・というよりは、もはや魔物退治の専門家と言った方が良い。
今まで数多くの魔物を討伐してきた。
勇者と持て囃されたこともあるが・・あんなのはごめんだ。
俺は・・魔物との戦いに生き甲斐を求めているだけなのだから。
今回の獲物・・いや、相手はワイバーンだ。
しかし、俺にとってはただのワイバーンではない。
幾度と無く戦い、撤退させ、撤退させられた、因縁の相手だ。
奴は俺との最後の戦いの後、行方知れずとなっていたのだが、
ようやく俺はその情報を手に入れたのだ。
なにやら妙な口調の、やけに恰幅の良い女性から、
対策用とやらの、罠と一緒に。
どうにも怪しい装いではあったが、
喉から手が出るほど欲しい情報だったのでそれは無視した。
対価には剥がれた奴の鱗を要求されたが、
奴を倒せば鱗などいくらでも手に入るのでくれてやった。
ちなみにその罠は、地面に置くと魔物に反応して、
高圧の電流を流してその身を拘束できるらしい。
半信半疑ではあったが、俺はそれを目前の泉の傍に置いている。
効けば良し、効かなければ俺の腕をもってして相対するだけだ。
・・そう。
あの泉に、奴は現れるはずなのだ。
水質が良く、大型の魔物が好むというあの泉に。
きちんと、やつの逞しい足跡もあった。
「・・・・」
じっと、待つ。
あの、忌まわしくも俺を奮い立たせる翼の音はまだ聞こえない。
「・・・・」
ひたすらに、待つ。
ここは、上からは見えないはずだ。
派手に動いて気配を晒せば別だろうが。
「・・・・」
奴は、まだ来ない。
だが、この一帯を根城にしているのは間違いないのだ。
そう言えば。
気になる噂を聞いた気がする。
確か・・魔王が代替わりをしたとかだったか。
その手の話に興味はなかったが、
情報収集をしている内に、その噂は嫌でも耳に入ってきた。
そのせいで、確か、魔物の習性が変化しているんだったかな。
まぁ、魔王が居なくなったわけではないのだ、
変化したのは精々、弱い魔物くらいだろう。
だから・・
ブワォゥ・・
「ッ!!」
聞こえた。
今、確かに聞こえた。
あの、風を切る音が!
「ォクッ・・」
生唾を飲み込む。
泉の方向を注視する。
バフアァッ・・バフアァッ・・!
来た・・!
待ちに待った、奴が来た!
出来る限り、身じろぎせず、その場に留まる。
ドドオォォ・・ッ・・
奴が着地した。
相も変わらぬ巨体をこれでもかと見せつけている。
「グオァゥ・・ンン・・?」
奴は、首を持ち上げ周囲を見回している。
・・気配だけを、察知はしているようだ。
それが、どこからかは分かっていないようだが・・
相変わらず、恐ろしい野生の勘だ。
しかし、見つかっていない以上焦る必要はない。
焦って動けば、それこそ見つかる。
「ンググゥ・・ン・・」
だがしばらくして、奴は泉の方へと歩き出した。
どうやら、渇きには勝てなかったようだ。
足音を立てないように、歩く。
ゆっくり、ゆっくり。
物陰から出ないように、しかし、最大限近づく。
「ングゥン・・グァオォ・・」
奴が泉に口を付けようとする、その瞬間。
「はぁああぁっ!!」
俺は叫び、駆けつつ背負った得物の柄に手をかける。
「グォアッ!!」
驚くことはせず奴は振り向いた。
そして。
「ヒュウォオオ・・・ッ・・」
息を大きく吸い込む。
大音量をまき散らし、こちらの本能に訴えかけるつもりなのだ。
だが。
「フンッ!!」
それよりも先に、俺は奴の右足に刃を振り下ろした。
鱗を数枚弾く感触、次いでズブリという音。
・・手応えあった!
次の動きに繋げるべく、体を捻るが・・
「ゴウゥオガアオアアオァァアアァッ!!!」
ッ・・!
その捻りは、全て俺の耳を防ぐために無駄となった。
やむを得ない・・あの大音量、間近で聞けば動けなくなる。
しかし、幸運が舞い降りた。
「ギャウオゥ!」
そう叫び、奴は、俺から距離を取るように『後ろ』へ跳ねたのだ。
着地しようとするその足下には、あの罠。
よし・・!
効くかどうかは分からないが、隙が出来れば儲けものだ。
自由になった体を動かしつつにじりよる。
剣を地を這うように動かしつつ、相手の行動に応対できるように。
ドドォッ。
奴が着地した。
足下の罠が炸裂する。
「ギャウウゥン!?ギャオゥ・・アッ・・」
目論見通り、奴は動けなくなった。
しかし。
バチィイアッ!
迫り来る電流は、剣を伝わり。
「あぐぅあっ・・!?」
俺にも、伝播した。
たまらず、横たわるように倒れる。
「ギャオウウ・・ッ・・アオゥッ・・」
奴は、動けない。
絶好のチャンスだ。
「ぐぉあ・・ッ・・」
しかし、俺も動けない。
しかも、何だか、妙な気分になっていく。
体が火照り、頬が熱く。
「ギャウォアオオアオッ!」
そうする間に、奴は罠を壊しその束縛から逃れた。
「うっ・・うぅう・・」
俺は、まだ動けない。
動けないと言うのに。
「ハッ、ハッ、ハッ・・!」
奴は、飛び上がり横倒しの俺を息を荒らげ見下ろしている。
すでに、電流が抜けきったのだろう。
当然だ・・人間の俺と奴では、元々の体力が違う。
「はぁっ・・はぁっ・・」
逃げなければ。
そう思うのに、俺の体はピクリとも動かない。
動かせるはずなのに・・!
「グオアイィ・・♪」
そんな俺を、何故か楽しげな奴は軽々と両足で掴み。
「グオァァアアァァッ!」
飛び上がり、どこかへと連れ去ろうとする。
・・そこから先は、失神して覚えてない。
情けないがな。
次に目を覚ましたのは。
というか、目を覚ませたこと自体驚きだが。
なんと、奴の巣穴の中だった。
何故だかは分からないが・・俺は、本来卵があるべきそこに、居た。
背負っていた剣は、ご丁寧に遠くの壁に掛けられている。
慌てて、立ち上がろうとする。
「うっくぁ・・」
が、体に何かビリリとしたものが走り、
俺はその場にくずおれてしまった。
ふさふさの干し草が頬に触れる感触。
「そんなに急いで出て行こうとするなよ・・」
同時に聞こえてくるそんな声。
「ッ!?」
辺りを、動かない首を捻り見渡すと。
「ここだ、ここ。」
俺の真横に、美女が寝そべっていた。
いや、ただの美女ではない。
良く見ると腕に見えたのは翼で、あるべき指がない。
この時点で人外であることは明らかなのだが、
鱗、尻尾そして、右足の傷が俺をさらに驚かせた。
・・あの、ワイバーンなのか?
だが、そんなはずがない。
ワイバーンは、サキュバスではない。
雄々しき飛竜であって、見ほれるほどの美女ではない。
「どうした・・そんな首を振って。
さては、私に見とれていたな・・」
戸惑う間にも、ワイバーン?は俺の肩に爪をかけた。
それは、狩りを行う際のやり方に思えたのだが。
その爪が俺の肌をつついた瞬間。
「あっぐぅあっ・・!」
再び、あの痺れが俺を襲う。
恐れから身を縮めるのではなく、俺は今、
快感から身を縮めていた。
俺の想像が正しければ、あのワイバーンの前で。
「フフ・・可愛いなぁ・・
あの狸とサンダーバードに協力してもらった甲斐があった。」
「な・・っ・・?」
その言葉を疑問に思う。
狸・・?サンダーバード・・?
「分からないようだな・・?
ふふ、では・・撫でながら説明してやろう・・」
戸惑う俺に対して、ワイバーン?は再び俺の肌を擦る。
爪だから、痛いはずなのに。
「は、うぁっ・・」
呻いた。
体がジュクジュクと、得体の知れないものに浸される感触。
頭が、熱くなっていく。
「まず、な・・?
あの罠は・・仕込まれていたんだ。
私と、あの商人、そして罠の材料のサンダーバードにな。」
「なん・・だと・・?」
驚愕する。
「全てが、仕組まれていた・・?」
「ああ・・そうだよ・・?」
足が迫る。
ゴツゴツとした足が、俺の足腰を押さえつけた。
それは、痛みのはずなのに。
「く・・ふぅ・・っ・・」
何故か、足からは快感が来た。
ビクビクッと体が揺れる。
「そしてな・・?
何故、快感が迫ってくるか、気になるだろう?」
ゆっくりと、体を、特に顔を迫らせつつ訊く女性。
その動きはまさしく、獲物を追いつめるワイバーン。
「う・・く・・な、にっ?」
辛うじて体を支えつつ、正面から女性を見つめる。
女性はこう言った。
「全ては、魔王の代替わりの影響だ・・」
「なんだと・・?」
驚きを隠せない俺に、女性は続ける。
「良いか?魔王は全ての魔物に影響を与える・・
そして、今回の魔王は・・淫魔、サキュバス族だ・・
それも、人間が好きで、共に生きようと言う思考のな。」
「まさか・・お前の姿も!」
結論を思いつく。
そうでなければ、説明がつかない。
それに頷きながら女性は言った。
「そうだ・・だから、私はこうなったし、
サンダーバードの雷も、殺傷用から・・」
そこで言葉を切り、彼女は俺の頬を舐めた。
ぬめった舌が、頬を撫でると・・
「ぅうぁ・・っ・・」
またも、俺の体に震えが走った。
「っ・・まさか・・俺のこの体の異常も・・?」
訊くと、女性・・いや、ワイバーンはゆっくり頷く。
「そうだ・・媚薬のような効果をもたらすようになった。」
そして、そう言って俺の肩をゆっくりと押した。
もとより力の入っていなかった俺の体は、
いとも容易く、柔らかな干し草へと押しつけられる。
「私は、体が強靱だから今まで我慢できたが・・」
彼女の胴が押しつけられる。
柔らかな肌の感触が、俺を否応無く高めた。
「お前の雄の臭いを嗅いでいたら、な・・?」
首同士が密着し、耳に彼女の口が当たる。
暖かく湿った息が、俺の頭をボウッとさせていく。
「我慢出来なくなったから・・お前が、欲しいんだ・・」
直後。
「はむっ・・んむ・・んちゅ・・」
俺の唇は、彼女によって奪われていた。
相手の正体はあのワイバーンのはずなのに・・
「んむぅ・・ん、ん・・」
その唇はとろけるように甘く、そして柔らかい。
ややもすれば、俺から口を動かしてしまいそうな程に。
だが、俺の口はまだ辛うじて動かなかった。
疑問が消えないのだ。
「む、はぁ・・どうした・・?
私は高まっているのに、何だか乗り気でないな・・?」
口を離した彼女が言う。
赤く染まりつつも、それでもなお美しいその顔に問う。
「・・お前は、何者なんだ・・?
そして、っ、なんで、命を狙う俺を愛する・・?」
それは最も気になっていた事。
俺の中で、性欲すら凌駕して存在する疑問だ。
「ん・・?ああ、なんだそんなことか・・」
彼女は、ふ、と一度優しく微笑む。
「何者かは、見ての通りワイバーンだ。
・・まぁ・・この姿は私も最初驚いたがな・・
ああ、きちんとお前に馴染み深い姿にもなれるぞ。
そして、何故お前を愛してしまったか・・だったか。
これも、簡単なことだ・・お前が・・」
そこまで言うと、彼女は俺の首筋を一噛み。
力のこもっていない、所謂甘噛みだったのだが。
「うっ・・」
それでも俺の体は震えてしまう。
首を優しく噛まれるくすぐったさと、
サンダーバードのせいらしい、甘い痺れのせいで。
「私と、幾度と無く死闘を繰り広げてくれたからだ・・。
・・不思議そうな顔をしているな・・
だが、雌が、強い雄を求めるのは、当然だろう・・?」
「だ、が・・魔物にも、雄はいるだろう・・!」
そう、そのはずなのだ。
でなければ、これまで魔物達が増えてきた説明が付かない。
しかし、これにもまたワイバーンは微笑み。
「居た・・というべきだな。
さっきも言ったが、魔王はサキュバス族。
その魔力が全ての魔物に行き渡った結果・・」
そして、驚愕の事実を口にした。
「魔物にな・・?雄が存在しなくなったんだよ。
元々雄だったものすら、雌になった。」
「は、ぁ・・?!」
訳が分からない。
雄が、居なくなった・・?
ではどうやって繁殖するというのか。
・・まさか。
魔王は、サキュバス。
サキュバスは、人間の精を糧とする。
その魔王の魔力が、伝播・・した・・
伝播ということは、つまり・・!
「ッ・・!」
おぞましいその想像に、唾を飲み込む。
事実このワイバーンも美女と化している。
宿敵と定めていたはずの俺さえ、
その美しさに一瞬、ほんの一瞬とはいえ心を奪われた。
唇を奪った後の技術も、高いなんてものではなかった。
では、その全てを誘惑のために使えばどうなるか。
そんなこと、想像するまでもない。
「どうやら、理解したようだな・・」
俺の表情を見てか、そう言うワイバーン。
その足は依然として、俺の両足を捕らえていた。
先ほどの結論に至った今は、奴の全ての動作が、
これまでと全く別の意味を持っているのが分かる。
この足が、やけに優しいのは、食料を傷めぬ為でなく。
肩を押さえ込むのは、逃がさぬ為だけではなく。
口を近づけてくるのは、喰らうためなどではなく。
体を密着させてくるのは、威圧のためではなく。
全て、その先・・すなわち。
生殖行為へと繋がっているのだ。
それを理解する・・してしまった。
瞬間、恐怖が襲いかかってくる。
冗談じゃない・・!
女を選り好みする気はないが、それでも。
宿敵が女体になって、好かれていました、
じゃあはい交わろう、などと考えられるほど、
俺は単純には出来てはいない!
「くっ・・!」
精一杯の力を込めて、もがく。
「ふふ、逃がさないぞ・・!」
しかし、易々と封じ込められてしまう。
人の大きさになったとはいえ
ワイバーンはワイバーン・・というところだろう。
「ぐ、ぅ・・っ・・」
しかもすでに痺れは抜けていたが、
俺の体が、すでに快を覚えて疼き続けている。
つまり、体が勝手にこのワイバーンを求めているのだ。
俺の意志など、関係なしに。
体が、勝手にピクリと震える。
「良いじゃないか・・お前の体も望んでいるんだろう?」
それを目敏く見つけたらしく、にたりと笑う。
「ふ、ざけるな・・!
誰が、殺し合いをしていた相手としたがるんだ・・!」
それでも、俺の本心を叩きつける。
しかし。
「そうか・・っふ・・だろうなぁ・・」
こいつは、楽しそうに微笑む。
まるで、それでこそお前だ、とでも言いたげに。
「なに・・?」
それが気に食わなくて、奴の顔を睨む。
だが、こいつは気にもかけず続ける。
「でもな・・?
それじゃあ、自然の摂理に反するだろう・・?」
「・・何だと?」
自然の摂理?
いきなりこいつは、何を持ち出して。
「ふふ、私とお前は争っていた。
共に、自らを守るためにな。
これは・・防衛本能からなる自然なことだろう?」
「・・ああ。」
「そして、今お前は負けている。
失敗したからだが・・失敗は死、これも自然だな?」
「・・ああ・・」
「最後に・・」
そう言って、こいつは俺の唇を軽く奪う。
一回だけ、たった一回の柔らかな感触。
だが、それはかえって俺にそれを求めさせた。
無意識に唇を突き出そうとしてしまう。
それに気付いて止めるのと、
ワイバーンが唇を離すのはほぼ同時だった。
・・まったく恥ずかしい、俺が求めてどうするんだ。
そんな風に思っていると、
ワイバーンは俺を至近距離で見つめ言う。
「勝者は敗者を好きなように出来、
敗者は勝者のなすがまま・・これもそうだろう?」
「それは・・っぷ?!」
そして今度は、俺の返事を訊かずに唇を奪ってくる。
今度は、唇のみなどという生易しいものではなかった。
「あぷ・・んむ、ちゅむ、りゅうぅ・・」
舌を突っ込み、こちらの口の中を舐め回してくる。
「んりゅ、んふ・・んあむぅ・・」
その動きの苛烈さに、俺の体は震えるが。
「ん、ぷ、む・・ぅ、むぅ・・!」
肩と足を掴まれ地面に押しつけられている俺は、
どうすることも出来ず、その感触を受け入れるしかない。
そう、最初の内はそう思っていたはずだった。
「あむ、むぅ・・」
しかし、彼女の舌の感触を長い間味わっていると。
「む・・うっ、ぷ・・ん・・」
いつの間にか、こちらからも舌を伸ばしたくなってしまう。
・・それをすることは人の道を踏み外すことだ。
その思いが、俺がそうすることを辛うじて阻む。
「む、むぅ・・ん、む・・りゅ、う・・む・・」
だが、そうやって我慢しているからといって、
ワイバーンの舌による甘い感触は止まるわけではない。
「りゅみゅ・・れりゅぅ・・んふ・・♪」
「む・・う・・っ・・」
好き勝手に俺の口の上下を舐め回したかと思うと、
今度は努めて動かぬようにしている俺の舌をつついてくる。
力強い舌が、俺の舌を持ち上げ無理矢理に絡んでくるのだ。
舌の裏をなぞるその動きが、俺の体を震わす。
ふっと気の抜ける度、俺の舌はほぼ無意識に動きかける。
「む・・むぅ・・っ・・!」
だが、耐える、耐えなければならない。
それに応えてしまえば、もう取り返しはつかない。
俺の本能がそう、警鐘を鳴らしていた。
「あみゅ・・むふぅ・・♪」
だから、耐える。
どんなに体が震え、甘い香りが鼻を突き抜けても。
ここまで耐えられたのはひとえに俺が
狩人という忍耐力のいるものが生業だったおかげだろう。
「んふぅ・・む・・はぁ・・」
ついに、奴は俺から口を離した。
「んぅ・・ふぅ・・なかなかに強情だな。」
微笑みつつそう言うワイバーン。
「っはぁ、っ、当然だ・・」
そう返しつつ俺は、微かな勝利の感触を味わっていた。
俺は、このワイバーンの誘惑を振り切れたのだ。
「・・ふむ・・こうなれば、体に直接訊いてみるか。」
そう思う俺に、ワイバーンはそう言う。
「っくぅ!?」
次の瞬間、股間に妙な感触がした。
ごつごつしていて、温かく・・そしてしなりがある。
そんな何かが、俺がつけている防具の中に入り込み、
俺の、ペニスを包んでいるのだ。
「ほら・・こういうのは、どうだ。
きっと、味わったことのない感触だぞ・・?」
そして彼女がそう言うと同時に、
その感触は俺のまたの間でうねり始める。
まるで蛇がとぐろを巻くように、そこへ巻きついた。
「ぅっふ・・っ・・」
その感触に、またしても俺はブルリと身を震わす。
柔らかい感触が、じんわりと下半身を満たすのだ。
「何を、している・・!?」
顔を上げ訊く。
「ん・・見たいか・・?」
すると奴は笑いながら、腕で体を持ち上げた。
腕立て伏せの要領で持ち上げられていく奴の体。
やがて俺と奴の間に空洞が出来、そこから見通すと。
「ぁ・・っ!」
俺の下半身の股間の辺り。
奴に勝つためにこしらえた防具の中に。
突っ込まれていた。
見間違いかと・・そうであって欲しいと思ったが。
伝わってくる感触からして、残念ながら事実だ。
あの、鱗に覆われたうねうねと動く尻尾が、
俺の股間のペニスの辺りに突っ込まれている。
「っ!お、い・・!や、え・・ぐっ・・」
やめろ、そう言おうとしたが、
尾がくねらされた瞬間、言葉は封じ込められてしまった。
堅い尾が俺のペニスを締め付けているはずなのに、
どうしようもない気持ちよさがこみ上げてくるのだ。
そのせいで、体がゾクゾクッとして、
どうにも力が入らなくなってしまう。
「ふふ・・良い顔だ♪」
満足げに言うと、奴は次に足をもぞもぞと動かし始める。
何をする気だ・・そう思いつつも、もはや為す術はない。
それに屈辱に思いながら、
俺は段々と肌が外気に晒されていくのを感じた。
・・なるほど、そういう、ことか。
とうとう、俺は・・こいつに犯されるのか。
ワイバーンに本能のままに犯された時、
俺は一体どうなってしまうのだろうか。
・・正直、怖い。
戦闘を繰り広げている時とは異なる恐怖だ。
そんな風に、内心怯える俺とは裏腹に、
下半身を脱がし切った奴は、先ほどから自らが刺激して
大きくしてきた俺のペニスを見て、笑う。
「ふふ・・なんだかんだ言っても、
お前の体は乗り気じゃないか・・」
そしてその後、上半身をべったりと押しつけてきた。
至近距離に、奴の顔が迫る。
そこに浮かぶ微笑みが、俺にはまるで、
獲物を前にして舌なめずりをしているように見えた。
・・ゾクリと背筋が凍る。
怖い・・この感覚は・・何だ・・?!
「っ・・ぅ・・!」
正気を失いかけつつ、何とか奴を見据える。
「さっきまで相当に我慢させてくれたからな・・」
奴はそう言って、腰を降ろしていく。
濡れた何かが俺のペニスの先に当たる感触。
「っひ・・ぅ・・!」
ブルリと震え、息を吐く。
やけにそれは生暖かく感じられた。
「もう抑えなど効かないぞ・・!」
奴はそう言ったかと思うと、一気に腰を降ろし・・
次の瞬間。
「っ、が、ぁ・・っ!?」
弾けた。
そうとしか表現できなかった。
何が起こったのかすら、理解できなかった。
「っはぁ・・暖かい・・これが、お前のぉ・・♥」
どこからか聞こえた、そんな声。
それは、あの、奴の、ワイバーンの声だった。
「っ・・っ・・はぁ・・っ・・?」
意識が戻ってくる。
そこでやっと、俺の意識が飛んでいたことに気付く。
「ん・・ふふ・・可愛い顔をしていたぞ?」
「っ!」
目の前に奴の顔があった。
慌てて表情を引き締めようとするが・・
「おっと、まだ私は、満足してないからな・・!」
「あっ・・ぐ、ぅああっ・・」
股間から伝わってきた快感に、
俺はあっけなく体を震わし、顔を背けてしまう。
「ふふ・・やっぱり、可愛い顔だ・・」
俺の様子を見て、奴は微笑み。
「じゃあ・・もっと、激しくしてやるからな・・!」
そんな悪夢のような事を言う。
「な、なに・・を・・!」
もっと、激しく・・?
戦慄する俺に、奴は言う。
「腰を振って犯してやると言ってる・・
ふふ、良いんだぞ?気絶してしまっても。
その間も、しっかりと気持ちよくしてやるからな。」
「え、や、やめろ、よせ・・」
未だに安定の兆しすら見えない意識の中、懇願する。
「ふふ・・お前は、敗者だよ・・!」
しかし、その願いは叶えられることは無かった。
「うぐぅぁ・・?!」
腰が、俺の腰が、奴によって揺り動かされている。
それだけではない。
それだけでも失神したさっきの締め付けはそのままに、
それが上下に動き、擦り立ててくるのだ。
「あ、あ・・あが・・っ!!」
呻く。
自分でも情けないと思ってしまうが、
本当にそれしかできなかった。
顔を天井に向け、口を開き、それしか出来ずに、
ただただ押し寄せる暴れ狂う快楽を身に受ける。
「なんだぁ・・?可愛い声を出してぇ・・!」
俺の様子に、何をどう思ったか奴はそう言うと、
「もっと、もっと聞かせてくれ・・!」
更に腰の動きを加速させてしまった。
グチュグチュとペニスとヴァキナが擦れ合う音。
嫌なはずなのに、恐ろしいはずなのに、
その音や動きが俺に、確実に強烈に快楽を蓄積させる。
・・あの音が、二十回ほど聞こえた辺りだろうか。
「あ・・ぁ・・あっ・・あ、やっ・・
やめっ・・!う、ぐ、あああぁあっぁぁあああ!!」
俺は、また、絶頂していた。
目をかっと見開き、情けない声を上げながら。
体が跳ねて少しでも快感を逃がそうとするが・・
「はっ、あぁっ・・良いぞ・・♥」
奴に俺の体が押さえられているため、それすら出来ない。
結果、俺の体は全ての快楽を叩き込まれることとなった。
少し後。
「あ・・あっ・・ああぁ・・う・・っ・・」
口を開き、途切れ途切れの息を整えようとする。
少しは落ち着いただろうか・・と思った時。
「うあぁっ・・!?」
また、あの腰の振りが再開された。
「はっ、はっ・・ふふ、もっと、もっと・・!」
奴が、そう言っているのが聞こえる。
その声は、楽しげだ。
「や・・や、やめ、ろ・・っ・・」
対して俺はまた、懇願していた。
いや、もう、哀願だ・・。
二回絶頂させられ、それでも腰は動かされ続けた。
屈辱的で、男としてのプライドはズタズタにされ、
それでも、俺の体は快楽に浸され痺れ続けている。
・・そう、いえば・・サキュバスは、
快楽を与え、死ぬまで精を搾り取るのだった、か・・。
ふと、俺はそんなことを考えた。
実際、そうされた者の噂も聞いたことがある。
今の状況は、まさに、それではないか。
「あ・・うぅっ、ぁひあっ、あ・・っ・・」
快感が、津波のように押し寄せる。
・・嫌だ、そんな。
狩人は、戦士の筈だ。
戦いの中に生き、戦いの中に死ぬ。
そういう、生き物の筈だ。
なのに、なんだこれは。
「あ、く・・ぅ・・んぁ・・っ・・」
波は引かず、それどころか新たな波が打ち寄せてくる。
快楽を与えられ、快楽により屈せられ、
行動する全てが相手を喜ばせることにしかならず、
しかも、一矢を報いることすら叶わない。
いっそ一思いに殺されたい、そう思うのに、
快楽に押し流され、舌を噛み切ることすら出来ない。
「ふ、ふふ・・あ、うぅん・・♥」
「あ、ああっ、うぅ・・あひ・・っ・・」
自制心が、砕けかける。
こんなの、あんまりだ。
死が迫るのに、死のうとすることすら許されない。
結局は死ぬのに、屈辱にまみれた生を強制される。
俺の生涯は、こんな結末のためにあったのか・・?
そう思った瞬間。
「ぁひ・・う、ひぐっ・・あぅっ・・」
俺の目からは、涙が滴り落ちていた。
屈辱にまみれた光が止まらない。
「あはっ・・はっ・・は、ぁ・・?」
不思議なことに、それを見た瞬間奴の動きが止まった。
どうしたのだろう、普通ならそう思っている所だ。
「う・・ううぅ・・」
だが今は、そんなことすら考えていない。
溢れ出るままに、涙をこぼし続ける。
嫌だ・・もういっそ、殺してくれ・・
次から次へと、涙が出てくる。
止まらない。
「・・・・」
俺を見たまま奴は固まっていたが。
ぺろっ。
次の瞬間、俺の涙が舐められた。
まさか、奴は涙すら糧にするのか。
そんな、そんな・・!
絶望に思考が染まりかけた、その時。
「・・なぁ・・何故、泣、くんだ・・?」
奴はそう言った。
からかっていないことは、心配そうな表情を見れば分かる。
「っく・・最後には、殺される・・
なのに、ギリギリまで生かされる・・狩人にとって、
これ以上っ・・屈辱的なことが、あるものか・・!」
涙ながらに訴える。
もう、相手が魔物だということすら忘れかけて。
次の瞬間。
ぱふっ・・。
俺の顔は、何か暖かいものに包まれていた。
一瞬の後、それが奴の体だと理解する。
「・・ごめん・・」
次いで聞こえた、消え入りそうな声。
上を見ると、悲しそうな顔をした奴がいた。
今にも、泣き出してしまいそうだ。
「な・・なんで、そんな顔をする・・?」
恐る恐る、訊く。
すると奴は体を下げ、俺の首に自分の首を擦りつつ言った。
「だって・・大事な事を言い忘れていたが故に、
お前に、快楽を味わう幸せをくれてやれなかった・・」
「大事な、事・・?」
そう訊くと奴は、驚愕の事実を話す。
「ああ・・良いか・・?
私達は精を糧とするといっても・・吸い殺しはしない。
むしろ・・相手を愛おしく思い、心から愛するんだ・・」
「は・・ぁ・・!?」
絶句する。
・・え?では、なんだ・・?
「さっきまで、俺が考えていたことは・・」
「ああ・・問題ない・・私はお前を愛している。
お前を犯すのも、最初に言った通り愛しているからだ。
だから・・お前にも、快楽を味わって欲しい・・」
しかしそう言った後、奴は悲しそうに顔を歪ませる。
「でも・・私は・・お前を泣かせた。
夫を泣かせるなんて・・妻失格だ・・
私は・・私、は・・」
そして、今度は奴が泣きそうになっていく。
至近距離の目がどんどんと細められ、潤っていく。
それは、見ているのは余りにつらかった。
・・ッ!
「っぅ・・ん、ぷ・・」
「ん、んんうっ・・!?」
俺は力を振り絞り、その唇を奪った。
背筋と首の力だけでその口に俺の口を届かせる。
何故そうしたかなど分からない。
分かるのは、そうしなければいけないと思ったという事だけだ。
「ん・・ぷぁ・・あ?・・なんで・・?」
唇を離した後、奴が訊く。
理由など、正直分からない。
「知らない・・何故かなんて分からない・・」
だから、俺は素直にそう言った後。
「だけどな・・どんなに屈辱的でも・・
お前のあそこは、気持ち、良かったんだ・・。
俺、初めてだったんだぞ・・?
だっていうのに、初めてのそういうことで、
あんなの味わったら、他の女なんてもう無理だ・・。
だから、責任、取ってくれ・・」
勢いに任せてそう続けた。
さっきまでそれを嫌悪していたことすら忘れて。
すると。
「あ・・あっ、あ、うわああああ・・っ!!」
いきなり奴は泣き出し、
「お、おい、おちつ、むぐうぅっ!?」
静止させようとする俺の唇を乱暴に奪った。
舌が絡まり、俺の舌諸共口を舐め回す。
それだけでなく腰も、制御を失った暴れ馬のように、
がつんがつんと打ち付けられていた。
・・どうやら、相当に堪えたらしい。
舌を動かしつつ、ぼやける頭でそう思う。
とろけていく思考。
しかし、今度は抵抗する気にはならなかった。
振られるままに腰を動かし、
「む、むぅ、むぐ、んむぅうぅ・・」
「んむ、ちゅぶ・・ん、むぅっ・・」
目を細め、求められるままに舌を動かし応える。
そうしていると、さっきより何倍も気持ちよくて。
ぐぢゅん。
俺の中で、何かが弾ける準備がされたのが分かった。
恐らくは、射精。
それも、無理矢理にさせられるものでなく、
自らがこの雌を妊娠させたいと思ってのもの。
「あむ・・ぱぁっ・・は、あっっ・・あ・・
出る・・そろそろ・・出る・・」
途切れ途切れに、彼女に伝える。
すると彼女は、嬉しそうに目を細めると
「う、うん・・良いぞ・・出して・・
私の中・・お前の精でいっぱいにして・・」
腰を更に激しく上下させ始めた。
彼女との接合部分がビチャビチャといやらしい水音を立てる。
その度に、射精の瞬間が刻々と近づいてくるのが分かった。
「はぁっ、はっ、あはぁっ・・♥」
「う、うっ、んあ・・あ・・っ・・♥」
もう少し、後ちょっと、あ、出る・・っ・・!
その到達の瞬間の直前。
「むぐうぅ・・!!」
俺は、彼女の口に自らの口を押しつけた。
舌を突き込み、彼女の舌と絡み合おうかというその時・・!
「はむぅむ!む、むん、んみゅうううぅぅっ♥♥」
俺は、三回目の射精をした。
さっきまでした射精の中で、一番気持ちの良い、射精を。
頭がバチバチとして、まともに動けない。
「んむ!ん、むむ、んんむ、む、むんうんぅんん〜っ♥♥」
その俺の精を受けた彼女はというと、
目をトロンとさせ、体を震わしながら快楽を享受していた。
その様は、可愛らしかったのだが。
「っはぁ・・あ・・あぁ・・っ・・」
直後に脱力し、意識を失ってしまったため、
ずっと見ておくことは出来なかった。
「・・ん・・んう・・」
目を何回か開閉させる。
光が、天井から差し込んでくる。
どうやら、朝になっているようだ。
「ん・・ぁ・・おはよう・・」
俺の体の上に乗っている彼女から声がかかる。
繋がったままの状態で、寝ていたらしい。
いや、正確には気絶していた、か。
「ああ・・おはよう・・」
彼女にそう返す。
すると彼女は、
「うん・・」と言って俺の首に自分の頬を擦り付けた。
何となく、彼女の体を抱きしめる。
すると彼女は大人しく抱きしめられてくれた。
「ん・・んぅ・・」
気持ちよさそうな、声。
それを可愛らしく思いながら、俺は口を開く。
「なぁ・・これから、どうする・・?」
これまた何となく、訊いた。
すると彼女は、顔を持ち上げる。
間近に浮かんだその顔は微笑んでいた。
「まずは・・自己紹介から、どうだ・・?
恥ずかしいが・・私はお前の名前を知らないんだ・・」
「あー・・そう、だよな・・っふ、はは・・」
答えつつ、笑ってしまう。
殺し合いをしていたと思えば犯され、愛し合い。
その癖に、互いの名前すら知らないとは。
人間同士ならば、絶対に考えられない話だ。
それが、妙におかしい。
「むー・・どうした?」
俺が笑ったのを不審に思ったらしく、彼女は首を傾げた。
それに、なんでもない、と言った後、俺は自らの名を言う。
「グレン・・だ、俺の名前だよ。
・・お前の名前は?」
そして、続けてそう問う。
しかし、彼女は困ったような顔をした。
「あ・・いや・・前まで純粋な魔物だったからな。
その・・名前、無いんだ。」
「あー・・そう、か・・」
少し残念に思いつつも、納得しようとする。
しかし、彼女はこう続けた。
「だから・・だからな?
グレン・・お前に、名付けて欲しいんだ。」
「・・え?」
驚く。
同時に、冗談だろうと思ったが。
「冗談で言ってるんじゃないぞ。
本当に・・お前に付けて欲しいんだ。」
その表情は至って真面目だ。
「そうか・・」
なら、俺も真面目に答える他には有り得ない。
・・しかし、どうしたものか。
こういうのは文献からだよな・・。
確か・・あの文献にも狩人とワイバーンが載ってたな。
番のワイバーンで・・雌の方は確か・・ああそうそう。
じゃ、ちょっとそれを借りるかな。
彼女を、その微笑みを見ながら俺は言った。
「よし・・じゃ、レイアっていうのはどうだ?」
彼女は、一瞬驚いたような顔を見せると、
「れいあ・・レイア・・レイア・・」
と何回もそれを反芻した。
そして、明るい顔になると
「っああ!レイア、凄く気に入った!ありがとうグレン!」
そう言ってにこりと笑う。
「そうか・・俺も嬉しいよ。」
色々と紆余曲折はあったが・・
この笑顔が見れるという結末ならば悪くはない。
いや・・違う、か。
俺の、俺とレイアの関係は、ここからがスタート地点だ!
14/12/13 18:03更新 / GARU