読切小説
[TOP]
絡みつくもの
「……っ、はぁ……あつい、です……」
「くぅ……うぁっ………琴音、さん……」

私はお勤めしている神社の本殿で、敬愛する神主様と交わっていました。
頭はまるでぬるま湯に浸かっているようで、まともに働きません。感じられるものは神主様と私自身の体の温もりと、ずっと注ぎ込まれ続けている白く熱い迸りだけです。
誰よりもお慕いしていた神主様と交わることができる喜びと、体に与えられる天にも昇るような快楽で胸がいっぱいになり、いつまでもこうしていたい気持ちになります。
……時々、私はこれが夢なのではないかと思うことがあります。
私は神に仕える者であり、例え想い人がいたとしても、その方と結ばれる事は許されません。
神主様と交わることなど、本来ならば有り得ないことなのです。
だから、神主様とこんなに幸せな日々を送れていることが、今でも信じられないのです。
しかし、幸せなものは幸せなのです。
今は、神主様と共にいられる幸せをただ感じていたいのです。
私は、今幸せです。











「はぁ…………」
その日、私は神社にいて、出かけられた神主様の帰りをお待ちしながらもの思いに耽っておりました。
想いの向かう先は−−神主様。
「神主様……私は、貴方をお慕いしております……」
ぽつりと、届かぬ想いを呟きます。
神主様は見目麗しく、同時に常に誰に対しても心優しく真摯な姿勢を崩さないお方です。
傍で共に神へお仕えするうちに、私はそんな神主様に堪えようも無く惹かれていきました。
……しかしながら、私は巫女という身分にあります。
少なくとも私自身は神に仕える者として純潔を保たなくてはなりません。だから、この恋は道ならぬ、結ばれぬ恋です。
神主様に直接伝える事も、想いを共有する事もままなりません。
……まだ、はっきりと拒絶された方が気は楽でしょう。
この、内面に澱んだ成就され得ぬ出来損ないの恋を、これ以上の時間抱えずに済むのですから。
そのうちに外へ出ない恋は腐って毒となり、私を苦しめます。
「せめて、せめてこの想いを伝える事が……」
その慟哭が、意味をなさない呟きとして私の口から漏れ出ていきます。
そうしなければ、私は私の想いそのものに押しつぶされてしまいそうなのです。
……神主様がいない間、私は私の中の毒を、呟きとして口から追い出していました。

その時です。
突然、どさりと何かが地に倒れるような音が聞こえました。
見てみると、少し離れたところに女性が一人横たわっています。
(行き倒れ?それとも何かの病でしょうか)
どちらにせよ放っておけないと思った私は、急いで彼女の下へ向かい……そして我が目を疑いました。
彼女は、人間ではなかったのです。
この地ージパングでは、確かに妖というものは珍しくありません。昔に比べて人に害をなすことも少なく、神社にやってくるのを見かけることもままあります。
しかしこの妖の姿は、私が今まで見たことのないものでした。
腰から上こそ、普通の人間と変わるところはさしてありません。しかし、その下半身は人のものではありませんでした。
着物の裾と足は半ば溶けたようになって地にべっとりと広がり、その付け根から何本か桃色の触手が生え、蠢いています。
……その不気味な姿に、私はしばらく呆気に取られていましたが、その息が苦しげに鳴っているのを聞き、恐る恐るしゃがみこんで彼女に声をかけました。
「あ、あの、どうされたのですか?」
「はぁ……はぁ……た、たまご……」
私の声に気付き、彼女は顔を上げました。その頬は真っ赤に染まり、目はひどく潤んでいます。
しかし、その返事はどうも要領を得ません。卵がどうしたというのでしょうか。
「……卵?卵が食べたいのですか?」
「ううん、たまご、たまごが……」
……そして、次の瞬間。

「たまご、うみたいのぉぉぉっ!」

彼女の体から生える触手が、一斉に私に襲いかかりました。
「ひっ!?な、何をするのですか!?」
「もうっ、もうがまんできないの!うませて!たまごうませてぇっ!」
手足に絡みつくぬめついた触手を、私はなんとか振りほどこうともがきますが、その力は案外強く、全く離れる気配がありません。
そしてその間に、また一本の触手が私の緋袴の中へもぐりこみました。
「ひぅっ!」
内腿に伝わるぬるぬるした感触に怖気が立ち、私はつい声をあげてしまいます。
しかし、それより何より恐ろしいのは、その触手はそのまま足に絡みつくことなく、奥へ奥へ……私の大事な場所へ向かっていることでした。
「たまごうむの!うんでうえつけるの!うえつけていっぱいいっぱいなかまふやすのぉ!」
その妖の言葉に私は凍りつきます。
(卵を、植え付ける……?)
どうやらこの妖は、私に卵を植え付けてしまうつもりのようです。人に自らの卵を産み付ける妖など聞いたことがありません。産み付けられた私の身に何が起きるか想像もつきませんが……私には悪い予感しかしませんでした。
「い、いやぁ!やめて!卵なんて……産み付けないでぇ!」
必死で暴れて抵抗する私ですが、それも空しく触手は進んでいき……ついに私の膣口に触れました。
「ひゃあっ!」
その感触に、私はひどい嫌悪感とほんの僅かな快感を覚えます。
そして。
−−ずぶっ!ぷちぃっ!
「んあぁぁぁぁっ♪」
「ぎぃ……ぃぁぁぁあぁっ!」
それから間髪を入れず、触手は私の中へと侵入してきました。
処女であった証が破られ、私は酷い痛みに悶えます。その一方、妖は何処か蕩けた様な表情で甘い声を上げました。
「いいよぉ、きゅうきゅうしまるのきもちいいよぉ……」
私の様子など意に解さない様子で、彼女は触手を突き入れていきます。私は痛みと僅かな快楽の中、誰かが助けに来ることを祈っていました。
……しかし、その思いは届きません。
「あっ、あっ!きた!もうたまごきたっ!」
中に差し挿れられた触手がびくびくと痙攣します。恐らく、私の中に妖の卵を送り込むための動きでしょう。
「そ、そんな!やめ……ぇっ!」
余りに早い絶望の到来に、私は痛みに苦しみながらもやめるよう懇願しようとします。
しかし。
「うんじゃう!みこさんに、たまご……うえつけちゃうぅぅぅぅぅっ!」
……びゅるるるるるっ!ぽこっ!
「ぃぁああああああああっ!?」
妖がひときわ大きな声で鳴くと、私の中に大量の熱い液体と、何かつるりとした丸いものが注がれました。
その丸い何かが私の体に根をはっていくのが感じられると同時に、私の意識は急激に薄れていきます。
「……えへへ……これであなたも、わたしたちのなかま……」
最後に聞こえたのは、心底嬉しそうな妖の声でした。









「……んん……う?」
気がついてみると、私はさっき妖に襲われた場所で倒れていました。
あたりは静寂に包まれていて、妖も姿を消しています。
(もしかして、夢、だったのでしょうか)
何事もなかったかのようなまわりの様子を見て、私はそんな風に考えました。
最近少し疲れていたし、きっと立ち上がった拍子にふらっときてそのまま寝込んでしまったんでしょう。
あんな夢を見たのは、神主様の事で悩んでいたからです。
そう自分を納得させて、私は立ち上がろうとし……
「…………んあっ!?」
突然腰のあたりにむずむずするような妙な感覚を覚え、再び座り込んでしまいました。
「な、なに……ひあぅぅっ!」
その感覚は次第に腰から下全体に広がっていきます。まるで体の中から肌を突き破って何かが出てこようとしているような、そんな不思議な感覚です。
そして、それが耐えられないほどに強まった瞬間−−!
「……ふぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
私の体から、細長い何かが沢山飛び出してきました。
「はぁ……はぁ……なにぃ……」
突然生えてきた「それ」はひとりでに鎌首をもたげます。
「え、こ、これって……」
視界に入ってきた「それ」は桃色をしていて、表面は粘液でぬらぬらと濡れていて……私が襲われた妖の触手と全く同じ見た目をしていました。
「い、いやぁぁぁぁぁ……んんっ!?」
悲鳴をあげようとした瞬間、触手の一本が口に突っ込まれ、それを止めました。
そしてそのまま、表面から何かじくじくと甘い蜜のようなものを流しはじめます。
「んんんっ!んっ……んぅ……」
それが喉の奥へと流し込まれるたび、私の意識は次第にぼんやりとし、一方で体はそれと対照的に熱くなっていきます。
「……ぷはっ……」
私が叫ぶのを止めると、触手は口を解放しました。
体には力が入らず、まともに動かす事もできません。
……と、次の瞬間。
「……あぁぁぁっ!?」
全ての触手が私の体に絡みつき、一斉に愛撫を始めました。
あるものは乳首をこりこりと刺激し、あるものは素肌をぬらぬらと撫で、あるものは陰核を啄み。
「いや、んぅ、あぁんっ!やぁっ!」
体を走る強い電流のような快感に、私はあられもなく声をあげました。
その度に私の頭の中身がどろりと音を立てて融けていくような感覚に襲われます。
まるで、自分が自分でなくなっていくような、そんな感覚。
今の私にとってはそんな感覚すらも心地良く感じられました。
……でも、何かが足りない。何か、まだ物足りない気がするのです。
「あ、はぁ……もっと……いじって……もっといじってぇ……」
気付けば私は、自ら触手に犯される事を望んでいました。
もう巫女としての戒律などどうでもよく、もたらされる快楽に忠実になりつつあったのです。
……と、そこに。
「……!こ、琴音さん!何をしているんです!?」
突然聞き覚えのある声が聞こえ、私ははっと我に帰りました。
そこにいたのは、私のお慕いする、ひたすらに恋い焦がれていた−−
「か、神主様!?」
神主様その人でした。
それと同時に、快楽でぐずぐずに蕩けていた私の心に、再び巫女としての意思が戻ってきます。
「あんっ、み、見た事もない妖に卵を植え付けられて……そしたら、これが……ふぅっ!」
「……なんてことだ……私が目を離している間に……!とにかく一度祓わなければ!」
私が事情を話すと、神主様は深刻な顔をして懐から札を取り出そうとします。
ところが。
「……うわっ!」
「な!?」
私を犯していた触手のうちいくつかが神主様に絡みつき、私の方へ引きずり始めました。
神主様はその場に倒れ、持っていた札も落としてしまいました。
「うっ!な、何を!?」
「!!!」
さらに多くの触手が神主様に襲いかかったかと思うと、今度は器用に着ているものを脱がせていき、下半身を露わにします。
私の痴態を見てしまったせいか、神主様のものはすでに硬く大きくなっていました。
……それを見た瞬間、私は先程まで感じていた物足りなさの正体に気付きました。
この、火所(ほと)を埋めるものがなかった、ということ。
そして、今目の前にあるものは、そこに納めるべきもの。
ということは……
「……だ、だめです……それは……」
「くっ……」
気付けば神主様は目の前まで来ていました。触手は私の緋袴をたくしあげ、さらに神主様の腰の後ろへ回っていきます。
そして、神主様のものがわたしの火所に触れたかと思うと。
「あ、だめ、だ、……あぁぁぁっ!」
「う、ぐっ……!」
ずちゅっ、と音を立てて、神主様が私に入ってきました。
触手はそのまま神主様と私の腰を激しく前後させます。その度に辺りにはぐちゅぐちゅといやらしい水音が響きました。
「あっ、は、うぁ……ぁん」
「う、あぁ……」
熱いものが火所へ押し入ってくる快感に、私の理性は再び蕩け始めます。
神主様はまだ快感に抗っている様子ですが、それでも堪えきれず声が漏れているようでした。
……そのうち、神主様のものが熱を持ってびくびくと震え始めました。どうやら限界が近いようです。
「あ、あ……がっ……!」
それでも、神主様は歯を食いしばり、精を放つまいと堪えています。
最悪の形で私を穢すまいと、必死なのでしょう。
…………巫女としての、私を。

「……だして、ください」

私は神主様にそう語りかけ、腰をぐちゅりと押し付けました。
それが、最後の引き金になったようです。
「……ぐ、あぁぁぁぁ!」
「んあぁぁぁぁぁぁっ♪」
私の中に、熱い精がどくどくと注がれました。
そして、それが私を変容させていきます。
下半身と緋袴が一体となって融け、水飴のようになり。
そこから、さらに触手がその数を増し。
そして、蕩け切った私の頭の中に、何か私とは違うものが流れ込んできました。
……神主様の精が欲しい。神主様とずっと番っていたい。神主様を私のものにしたい。
そんな欲望が、心の中に渦巻いていくのです。
「あはぁっ♪あんっ♪あんんんんんんんっ♪」
自分が自分でなくなっていくようなその感覚がたまらなく気持ち良く、私は再び絶頂に達しました。
「琴音、さん……」
呆然としている神主様の顔は、愛しくて、それでいて美味しそうで。
「かんぬしさまぁ」
「な、何……うあっ!?」
「もっと、ください」
我慢が出来なくなりました。
「かんぬしさまぁ、だいすき、だいすきですぅ。だから、もっともっとかんぬしさまをくださいぃ。もっともっとおいしいのをくださいぃ」
「や、やめ……うぅ……」
自分でも信じられないほど淫らな笑顔を浮かべて、私は神主様に精をねだりました。じゅるじゅると蕩けた肉で神主様のものをこすり上げるたび、神主様は体をびくりと反応させます。
「あはははっ、とうめいなのとろとろってわたしのなかにでてきましたねぇ、おいしいですよぉ♪……でも、ほんとにほしいの、それじゃないです」
「う、あ……だ、だめ……」
「だめ?なにがですかぁ?こんなに、こんなにきもちいいのに……ほら、だしてくださいよぉ、かんぬしさまのせぇえき、いっぱいそそぎこんでくださいぃ。わたしもいっぱいじゅるじゅるしてあげますからぁ」
「う、うぐ……ぐぅぅぅぅっ!」
「ひあぁぁぁぁっ♪きたぁ♪かんぬしさまのせい、きましたぁ♪すごく、すごくおいしいですぅ♪」
中にびゅるびゅると注がれた精は天上の蜂蜜のように甘く、今まで食べたどんなものよりも美味しく感じられます。しかしそれより何より、神主様の精を注いでいただけたという事実が、私にとっては最高の幸福でした。
……だけれど、私はまだ満足できません。
「はぁ、はぁ……ぐっ!?ま、また……」
「まだですよぉ、もっと、もっとわたしのからだをかんじてください、もっとわたしにおいしぃのもっとください、もっと、もっともっともっともっともっともっとぉ!」
今まで我慢し続けてきたもの、私の中に毒としてたまってきたもの。それらを埋め合わせるにはまだまだ不足です。妖としての欲望は際限なく膨らみ、もう自分でも止めようがありません。
……結局その日私達はお互いが疲れ果てて眠ってしまうまでずっと繋がっていました。














その後。
「あはははっ、どうですか?わたしのしょくしゅ、きもちいいですかぁ?」
「……いい、よ……」
「そうですかぁ、よかったぁ。じゃあ……こんなのは、どうですかぁ?」
「!?ま、巻き付い…うううっ!」
「うふふ、おちんちん、ぐるぐるまきにしちゃいましたよぉ♪これでじゅるじゅるしてあげますぅ♪」
「あ、あっ……すご………」
「うふっ、きもちよさそうですねぇ……♪わたしもしょくしゅこすれてぇ……んううっ♪」
「くあっ……も、もう、も、……出るっ!」
「きゃっ……あは、またいっぱいでましたねぇ♪おいしいですぅ♪」
私達は神社の本殿にこもり、毎日延々愛し合って暮らしていました。
ある時は人間の上半身で、ある時は蕩けた下半身で、ある時はこの触手で。
私は神主様の体を気持ち良くして差し上げます。
始めのうちは抵抗していた神主様も、最近はすっかり私の虜になってしまったようで、喜んで私と交わってくれるようになりました。
「かんぬしさまぁ、こんどはこっちにいれますねぇ。いっぱいじゅるじゅるしてあげますぅ♪」
「うん…………う、うぁ……」
「うふ、きもちぃぃ……とろとろにつっこまれるの、すごくきもちいいですぅ……♪」
「わ、私も……絡み、ついてきて……いい……」
「えへへっ、うれしいよぉ……♪それじゃあ、またいっぱいわたしにごはんくださいねぇ?」
「……ええ……う、ああっ!」
私は、以前の自分の殆どを失いました。
人の身も、巫女という立場も、人間らしい心も。
でも、私は幸せです。ずっと得られるはずがないと思っていたものを得られたのですから。
独りよがりと笑う人もいるでしょう。これは本当の幸福ではないと説教をする人もいるでしょう。
……でも、放っておいてください。私にとっての幸福は、これだけなのですから。



……私は、今とても幸せです。
11/01/30 09:01更新 / 早井宿借

■作者メッセージ
これは幸せなんだろうか?私にもよくわかりません。
人外色強めのローパーさんが書きたかったので書きました。
巫女さんって素敵だと思います。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33