はこいり
「うん、テル。それはいったい何なんだい?」
「は、箱……」
「それは見ればわかるけど。いや、紙で出来た箱は珍しいかもね。それもこれだけ大きなものは」
「え? あ、あー……そっか……。段ボールって、こっちでは、珍しいのか……」
「じゃあ、質問を変えよう。何をしているんだい?」
「……箱に……入ってる……」
「それは見ればわかるけど」
「箱の中……好き」
「へぇ」
「暗くて狭い所にいると……落ち着く……。誰にも邪魔されない空間……安らぐ……ひひ」
「そうかい。しかし、アレだね。なかなか良いじゃないか。暗くて狭い所、なんて」
「う? へ、閉暗所の良さが分かるなんて……なかなか、通だね……ひひ」
「うんうん、こうすると、とっても素敵だね」
「え? う、わっ! むぎゅ」
「ほら、こうやって、暗くて狭い空間に、男と女が二人きり。素敵だろう?」
「は、入ってきたの……!? なんで……!」
「いつでもどこでも、君の隣に神出鬼没。それがチェシャ猫の能力だって説明しただろう?」
「うおお……ぐ……狭い……きつい……」
「ん? 中が狭くてキツキツ?」
「狭い……! どこにでも消えたり出てきたり出来るってズルイ……! 出てってよぉ……!」
「狭いのが好きなんだろう?」
「げ、限度ってものが……それに、密室に、他人と二人きりは……む、無理……」
「他人だなんて。私と君の間柄じゃないか」
「あ、案内人と迷子の関係だけど……」
「それはもう男と女の関係といっても差し支えないね」
「む、無茶をおっしゃる……」
「こうして二人で寄り添っていると、ふふ、恋人か何かみたいだね」
「寄り添ってないし……い、一方的に覆い被さられてるだけだし……」
「しかし、アレだね。この体勢で行為に及ぶのは、ちょっと難しいね」
「膝抱えてて本当に良かった……」
「まあいいや。この状態でも出来るセクハラなんて、いくらでもあるからね」
「セクハラって……セクハラって……」
「ふふ、君はいい匂いがするねぇ。体も柔らかくて、とてもおいしそうだよ。性的に」
「ひぃぃ……! か、体まさぐるのやめて……み、耳、噛むなよぉ……!」
「女の子の体も柔らかいだろう? ほら、君がいつもちらちら見ている胸が、君の背中で潰れているのがわかるかい?」
「うおお……! み、見てないし……見てないし……!」
「隠す必要なんて無いのに。私にはちゃあんと分かっているんだよ。おや? なんだかオスの臭いがしてきたね。ここからなら、君のオトコノコに手が届くかな?」
「はぐぅ……! も、もうやだよぉ……僕の空間から出てってよぉ……!」
彼が不思議の国から脱出できる日は、遠い。
20/08/15 18:00更新 / お茶くみ魔人