非常事態に食べるから非常食
大岩小岩、大石小石がゴロゴロ転がっている山の中腹にある岩場。
一人の男が足元の石に躓きそうになりながらそこを走っている。
男の形相は必死……というほどでもないが、かなり焦っている感がある。
それもそのはず、男は今まさに追われている最中なのだ。
「ヒャッハー！ おら、逃げろ逃げろぉ！」
男が今通り過ぎた大岩に突然の落雷。岩は轟音と共に砕け、無数の石と化す。
男はチラリと振り向くと、粉々になった岩を見て顔をしかめた。
危害を加える気はないと分かってはいるが、その威力には慄かざるを得ない。
「あ〜ん？ ビビったのかぁ？ 降参でもするかぁ？」
バサバサッという羽ばたき音と共に上から響くのは魔物の楽しげな声。
男は上空を見上げ、憎々しげにその姿を視界に収める。
寒色系の羽毛で覆われた両翼。
ブーツに酷似した質感と色の両足。
どこの踊り子かと思える、やたら露出度の高い服。
男を襲っているのは、魔物の一種であるハーピー。
それも特に気性の荒い、サンダーバードという種であった。
男は旅人である。
といっても目的のある旅をしているわけではなく、行くまま気ままの放浪の旅人。
男はとある王の隠し子であり、幼い頃に存在が発覚して以来周囲に様々な目で見られていた。
やがて成長し才能を現わし始めると、周囲の目は警戒へと変わった。
無能で良い人形になる嫡子と比べて、男は有能だったのだ。
そんな周囲の視線に嫌気がさし、男は国を棄てて旅へ出た。
男が生まれ育ったのは反魔物国家であり、初めの頃は反魔物の国しか旅をしなかったが、
しばらく旅を続けるうちに親魔物国家へも立ち寄るようになった。
そして魔物の真実を知り、魔物への無条件な敵意や恐れは消え去った。
だが魔物への好意を持ったかというとそれは違う。
とある親魔物の町で目にした人間とダークエルフの夫婦。
ダークエルフは夫の事を『奴隷』と呼び、ピシッ！ と鞭で叩いた。
そして夫は公衆の面前でありながら、快感の叫びを上げて悶えたのだ。
どちらかといえば男尊女卑な考えを持つ男は、
魔物に捕えられ“そういう扱い”にされるのだけは心底ゴメンだと思った。
それ以降男は乾燥させたキノコを一本入手し、最終手段として持ち歩いている。
――――そして現在。
男は最終手段を使うかどうかの瀬戸際に立たされていた。
始まりは太陽が中天に昇り、昼食休みも兼ねた休憩を取ろうとした時のこと。
男が平らな石に腰かけて昼食を取り出そうとした瞬間、ゴロゴロと雷鳴が鳴り響いたのだ。
山の天気は変わり易いとはいえ、雲一つない快晴なのに？
そう疑問に思い空を見上げると、そこにはポツンと異形の影が一つ。
「ヒャッハー！ やっと男を見つけたぜー！ そこ動くんじゃねえぞー！」
甲高い歓声をあげて急降下してくる異形の影。
それを魔物だと認識すると、男はすぐ立ち上がって駆けだした。
もちろんただの魔物が相手なら男も逃げはしない。
警戒しつつも無関心を装って、スルーしようとするだろう。
だが、今回現れた魔物の声は明らかに“狙っている”声だった。
男は知っている。
魔物の中には“モヒカン”という隠語で呼ばれる存在がいることを。
“モヒカン”の種族は様々だが、基本的に強気・凶暴な性格で、
無理矢理にでも男性を犯そうとする性質は共通している。
そんな奴に捕まったら、どんな目にあわされることか……！
「おー？ 逃げんのか？ 追い駆けっこかぁ？
いいぜいいぜー、あがく獲物の方が犯りがいがあるってもんだ！」
魔物は逃げる男の背に嗜虐心が刺激されたのか、降下するままに飛びかかりはしなかった。
その代わり、付かず離れずの微妙な距離と高度を保って男を追跡する。
（ひひっ、飛んでるアタシから走って逃げられると思ってんのかねぇ？
さあ、走れ走れ。立てないぐらい疲れたトコで犯してやっからよぉ！）
気を抜けば石に躓き、運が悪ければ足を挫きかねない最悪の足場。
男はそんな大地の上を跳ねるように逃げていく。
そして魔物は話しかけたり、雷を落としたりとちょっかいを出す。
そんな追跡劇が十分近く続き、ついに男が躓いて転んだ。
硬い地面に体を打ちつけ、男はぐっ…と呻きをもらす。
だが痛みに構っている場合ではない。早く立って走らなければ―――！
そう考えるも、一度止まってしまった足はがくがくと震え動かない。
全力疾走ではないが、相当な早さで長時間走ったのだ。
男の両足は疲労の蓄積に耐え切れず、ストライキを起こしていた。
「ヒャハハ！ きれいにすっ転んだなオイ！ ほら、早く立って逃げてみろよ！
できないってんならテメェで素っ裸になりな！ そうすりゃ少しは優しくしてやっからよぉ！」
魔物は倒れた男の上をグルッと一周し、少し離れた岩の上に降り立つ。
（よしよし、怪我はないみたいだな。骨でも折れてりゃ先に治さねーとだからなぁ……）
サンダーバードは凶暴な性質であるが、魔物であることに違いはない。
骨折や深い裂傷で苦しんでいる相手を無理矢理犯そうとはしないのだ。
（ま、今回は無事だからオッケー、オッケー！ さあて、どう犯してやっかなぁ……）
魔物は舌舐めずりすると、岩から飛び降りた。
そして男にさらなる焦りを与えようと、ゆっくり近づいていく。
（まず全部剥いて雷でちんぽぶっ立たせてやろうか？
んで、足でぶっこいて射精させてやったら……イイ顔しそうだなぁ！
『まんこも見てねーのに出すとかテメェは猿かよ！？』とか濡れるぜぇ…！）
どうやって男を凌辱してやろうか。
勝利を確信していた魔物の脳内はその考えに埋め尽くされ、注意が散漫になっていた。
そのため男が胸ポケットから取り出した包みに気がつかなかった。
男が取り出した包み。
その中身は乾燥圧縮された“タケリタケ”というキノコである。
タケリタケは魔界産のキノコであり、飲食者の理性を飛ばして発情状態にしてしまう。
また飲食者が男性の場合、相手が強力な魔物であってもその力を無効化し、一方的に犯すことができるようになる。
そしてタケリタケの飲食者に一方的に犯されぬいた魔物は、
どれほど凶暴な魔物でも被虐的な性質を開花させ、蹂躙されることを望むメスになるのである。
男は包みを剥ぐと即座に口に放り込み―――はしなかった。
タケリタケはあくまで最終手段。
あのダークエルフの夫のようになることを避けられるというだけでしかない。
確かにこのキノコを口にすれば、歩み寄る魔物を完膚なきまでに犯し返し、
どちらが上か思い知らせてやることができるだろう。
だが、魔物を一方的に凌辱し打ち負かして“もうやるんじゃないぞ”で済むわけがない。
魔物はおそらく……いや、１００％確実に男を夫として認識し付きまとうようになる。
結婚願望などなく、気ままな一人旅を続けたい男にはそれも望まざる展開なのだ。
男は手にした非常食を口にせずに、この状況を切り抜けられないかと考える。
何かないか…何かないか…何かないか…何かないか――――何も思いつかない。
そもそもこの状況をどうにかできる手段があるなら、とっくにそうしている。
今まで逃げられていたのは、魔物が遊んでいたからにすぎない。
向こうが最初からその気だったら、きっと数秒で捕えられていただろう。
そしてキノコを取り出す間もなく犯されていたに違いない。
だとすると、最後のチャンスがあるだけこれはマシなのかもしれない。
男はそのように考え直すと、溜息一つ吐いて乾燥キノコを口に放り込んだ。
初めて味わったタケリタケ。それは辛味が効いていて、なかなか美味だった。
（あー、アタシが脱いで顔面に乗ってやるってのもイイかもなぁ…。
『のど渇いてんだろ？ 飲ませてやるよ！』つってまんこ汁舐めさせてやるとか？
シャワー代わりにションベンで汗流してやったら、なんて鳴くかなぁ！）
数々の凌辱パターンを思い浮かべながら、魔物は倒れた男の傍に寄る。
「おい、脱げつったろ？ なにしれっと無視してんだよ。
それともなにか？ 気絶したフリすれば――――おわっ！」
バネ仕掛けのようにいきなり立ちあがる男。
油断しきっていた魔物は突然の動きに驚きの声をあげる。
情欲で血走った眼をした男はその隙を見逃さない。
羽毛の生えていない二の腕を掴み、地面に引き倒す。
「痛っ……なにしやがんだテメェ！ そんなにヤられてーのかよ！？」
不意打ちとはいえ、無力な獲物と思っていた相手に土を付けられ魔物は怒りを覚える。
（舐めたマネしやがってこの野郎！ ああマジむかつくっ！
泣き叫んで気絶するまで犯してやるからなっ！）
驚いて転ばされはしたが所詮は人間。自分が少し本気を出せば、簡単に押し退けられる。
もう服を脱がすなんて情けはかけない。ビリビリに引き裂いて凌辱してやる。
魔物はそう考え、腕に力を込めるが――――。
「どけよクソがっ！ アタシを犯そうなんざ１０年……え？
おい！？ どけ！ どけっつってんだろ！？」
押さえこむ男の腕を払おうと翼を動かす魔物。
しかし大人に掴まれた赤子のようにビクともしない。
（なっ、なんだ！？ アタシの体はどうしちまったんだよ！？）
一瞬なにが起きているのかと魔物は混乱したが、男の目を見てうっすらと理解した。
（コイツ、なんかやりやがったな！ エロしか考えてない目してやがる！）
流石にタケリタケを食べたということまでは分からないが、
己の腕力が人間女性以下にまで落とされてしまったことは理解できる。
そして非力な女性ではこの体勢から抜け出せないということも。
「ちっ、ちくしょー！ アタシを犯そうってのかよ！？
雷鳥舐めんな！ まだ雷が…って布めくんじゃねぇ！」
タケっている男は魔物の言葉など聞いていない。
魔物がベラベラ減らず口を叩いている間に、深緑の腰布を押し上げる。
この魔物は下着を着ていないため、ツルツルの女性器が白日にさらされた。
男の方も、もがく魔物に手間取りながらズボンの前を開け、タケっている男性器を取り出す。
（うぉ、デケェちんぽ……。アレがアタシん中に…じゃねぇ！ 雷でさっさとマヒらせないと！）
魔物は体内の発電器官に命じ電圧を高めていく。男を至近距離の雷で撃ち抜くために。
しかし残念なことに、サンダーバードの発電器官には致命的な弱点があった。
それは本人の感情が昂っていると、制御不能になってしまうというものである。
襲った相手に逆襲されている屈辱や今にも挿入されそうという焦り。
それは雷の制御を誤らせるには十分すぎるものであった。
「がっ…！ あがががが……！ しびっ、しび……れっ…！」
空中放電を起こすほどの高電圧。
それが漏れて細い体の中を駆け巡り、魔物はマヒして行動不能。
抵抗できなくなったとみた男は腕を押さえ付けるのをやめ、魔物の腰を掴む。
そしてキノコにより通常以上にタケった男性器を挿入した。
「ひぐっ…！ ち…ちんぽ、入れんなっ……！
アタシを…犯すだなんて、許さね……あっ！」
動けない魔物の言葉など無視し、男は深く突き入れる。
（ああっ、まんこに突っ込まれてるっ！ アタシ犯されてるっ！）
男性に一方的に蹂躙される魔物。しかし思っていた以上の苛立ちは感じなかった。
「テメェ…覚えて、ろっ…！ んっ…！ 直ったら…すぐ、犯して…あぁっ！」
マヒした中で唯一動く口。魔物はそれを使い、喘ぎ混じりの憎まれ口を叩く。
それは男が正気だったなら、意地を張っているだけと思うであろう艶を帯びていた。
「くっ…！ やめ…ろっ！ そこは……ん゛ぉ゛ぉ゛っ゛！」
非常に膨らみの少ない平らな胸。
そこでピンと立っている両乳首をつねられ、魔物は淫らさを煮詰めたような叫びを上げる。
（ぢぐじょー……。いいように犯されてんのに気持ち良すぎる……）
魔物はついに犯されて感じていることを認めた。
嗜虐心が裏返り、被虐の悦びが芽生える。
「はひっ…もっと、犯して……。まんこ、ズボズボしてぇ……」
舌足らずな声で“犯してほしい”とねだる魔物。
理性が飛んでいてもそういった言葉だけは分かるのか、男はより激しく腰を動かして責め立てる。
「ひっ…ひっ…！ アンタのちんぽ、最高っ！ 脳まで…シビれちまうよっ！」
魔物はあまりの快感に涙さえ流して凌辱を満喫する。
そして射精の予兆を感じ取ると、男へ膣内射精を求める声を発した。
「た、種付けっ！ 種付けして！ アンタの精液でタマゴ犯してっ！」
身動きできない体を弄ばれての妊娠。
それは被虐に目覚めたばかりの魔物にとって、最上級のシチュエーション。
元より避妊などする気のない男は素直に“オネダリ”を受け、魔物の膣内へと精を放つ。
（おぉっ！ せ、精液が熱いっ…！ に、妊娠……！ アタシ、犯されて妊娠してるっ…！）
タケっている男性器から放たれる精液量は通常の比ではない。
魔物は穴から逆流するほどの射精を受け、マヒしているはずの体をビクンビクンと跳ねさせた。
（あー……ヤベ。犯されんのって、思ってたよりずっと良いわー…）
男の射精が止まった後。
トロンとした目で快楽の余韻を味わいながら、そう魔物は考えた。
（痺れが取れたらどうすっかな……。とりえずコイツに―――あん？）
強姦後の女性のように仰向けで倒されている魔物。
男はそれをひっくり返し、尻を突き出した体勢にさせる。
（コイツまだ収まってねーのかよ。ま、薬かなんか使ってりゃ当然か。
いいぜー、好きなだけ犯しな。アタシをブタみたいに喘がせやがれ！）
また犯されて、家畜のように無様な喘ぎ声をあげる。
魔物はもうそのことに歓喜しか感じない。
（正面はやったから、今度はバックってわけか。その次はどうすんだろな？
まあアタシはどんな体勢でも…おい、尻広げすぎ―――ってまさか！？）
高く上げさせた魔物の尻。
男はそれを左右に開き中心にある穴―――肛門に男性器の先端を当てる。
（げーっ！ コイツケツ穴でやる気だ！ そっちは一度も使ったことねえんだぞ！？）
魔物は（自慰で）女性器を使ったことはあったが、肛門を性的な目的で使ったことはない。
男も普段ならそういう目で見たりはしないが、今は性欲の権化。
穴があれば突っ込むことしか考えられないのだ。
「ちょ、ちょっと待て！ 口とかまんことか、もっと良いトコあるだろ！？」
痺れの取れてきた首で振り向き懇願する魔物。
しかし今の男に拒否する言葉など通じるはずもなく。
（んぎっ！ ケ、ケツっ！ ケツ穴にちんぽがぁっ！）
異物の受け入れなど初めから想定していない消化器官。
膣よりもずっと狭い穴にタケった男性器をねじ込まれ、魔物は苦しげな息を吐く。
「うぇ…！ きつ、い……っ！ ケツ穴が、伸びちまうっ…！」
ミチミチと直腸を広げながら侵入していく男性器。
人間なら裂けかねないほどの窮屈さだが、魔物の体はそうならない。
交わりに特化している体は、圧迫の苦しみも快楽に変換するのだ。
（ひひっ、ケツ穴で感じるとかマジモンの変態だなアタシ。
でも、気持ち良いからいいや……。もう一つのまんこになるぐらい犯してくれよ？）
肛門を何度も出入りする男性器。
硬かった直腸の筋肉が柔軟になっていき、それに伴って快感が増加していく。
だらしなく伸びた魔物の舌から唾液がたれ、乾燥した石の表面に黒い染みを作る。
「んぁっ……！ ケツ…ケツ穴がイイっ！ ケツ穴犯されるのイイっ！
もっと…ほじくってっ！ ケツ穴をただのスケベ穴にしてぇっ！」
肛門を交わりのための器官に調教して欲しいと望む魔物。
男は頷く代わりに白い尻をペシン！ と平手打ちし、直腸に精液を注ぎ込む。
（く…おっ！ ケツで…出されてる！ 内臓に射精されてるっ！
あ…あ、イく…っ！ ケツ穴犯されてイっちまうぅっ！）
指一本入っていない空っぽの女性器。
魔物はそこから失禁に見えるほど大量の膣液をこぼし、絶頂に達した。
タケリタケの効果はスイッチのようにパチッと切れる物ではない。
徐々に効果が弱まっていき、気が付くと普段通りに戻っていた…という風に終わる。
男が完全に正気に戻った時、体の下には快楽に震える魔物が一人いた。
「あ…もう、止めんのか……？」
交わり後特有のダルさを含んだ声で喋る魔物。
食べた直後のことは覚えていないが、終盤のことについては男も覚えている。
向こうの自業自得とはいえ、ずいぶんと酷い目に合わせてしまった。
一割ぐらいは自分にも責任があると考え、悪いことをしたなと男は謝る。
「別に、謝んなくても……。もう…しない？ アタシを犯さない？」
しないしない。もう乱暴なことはしないよ…と言う男。
その返答に魔物は「そっかー……」と呟くと、男を抱いて突如１８０度反転した。
魔物が上で男が下。最初の交わりとちょうど正反対の体勢。
急な動きに男は目を回し、なんだ！？ と声をあげる。
「だったらアタシが犯してやんよ！
メチャクチャにされる快感をアンタにも教えてやるぜ！」
交わり後の呆けた雰囲気などどこへやら。
発電器官フル稼働といった感じに魔物はみなぎり、ヒャハった笑みを浮かべる。
サンダーバードは凶暴な性質で男性を犯すことを好む。
それはタケリタケによって犯される快感を覚えた後でも変わりはしない。
この魔物にとっては“男を犯す”一辺倒だった思考に、
“男を犯す“男に犯される”の選択肢が発生したにすぎないのだ。
よって男が“犯さない”という選択をすると、
魔物は生来の嗜虐心を発揮して犯そうとしてくるのである。
確かに男はダークエルフの夫の二の舞にはならなかった。
だが、これからは毎日凶暴な魔物を犯し、屈服させ続けなければならない。
最悪の事態は避けられたとはいえ、厄介なことになった……。
男はそう考え溜息を吐くと、魔物を下から犯し始めた。
一人の男が足元の石に躓きそうになりながらそこを走っている。
男の形相は必死……というほどでもないが、かなり焦っている感がある。
それもそのはず、男は今まさに追われている最中なのだ。
「ヒャッハー！ おら、逃げろ逃げろぉ！」
男が今通り過ぎた大岩に突然の落雷。岩は轟音と共に砕け、無数の石と化す。
男はチラリと振り向くと、粉々になった岩を見て顔をしかめた。
危害を加える気はないと分かってはいるが、その威力には慄かざるを得ない。
「あ〜ん？ ビビったのかぁ？ 降参でもするかぁ？」
バサバサッという羽ばたき音と共に上から響くのは魔物の楽しげな声。
男は上空を見上げ、憎々しげにその姿を視界に収める。
寒色系の羽毛で覆われた両翼。
ブーツに酷似した質感と色の両足。
どこの踊り子かと思える、やたら露出度の高い服。
男を襲っているのは、魔物の一種であるハーピー。
それも特に気性の荒い、サンダーバードという種であった。
男は旅人である。
といっても目的のある旅をしているわけではなく、行くまま気ままの放浪の旅人。
男はとある王の隠し子であり、幼い頃に存在が発覚して以来周囲に様々な目で見られていた。
やがて成長し才能を現わし始めると、周囲の目は警戒へと変わった。
無能で良い人形になる嫡子と比べて、男は有能だったのだ。
そんな周囲の視線に嫌気がさし、男は国を棄てて旅へ出た。
男が生まれ育ったのは反魔物国家であり、初めの頃は反魔物の国しか旅をしなかったが、
しばらく旅を続けるうちに親魔物国家へも立ち寄るようになった。
そして魔物の真実を知り、魔物への無条件な敵意や恐れは消え去った。
だが魔物への好意を持ったかというとそれは違う。
とある親魔物の町で目にした人間とダークエルフの夫婦。
ダークエルフは夫の事を『奴隷』と呼び、ピシッ！ と鞭で叩いた。
そして夫は公衆の面前でありながら、快感の叫びを上げて悶えたのだ。
どちらかといえば男尊女卑な考えを持つ男は、
魔物に捕えられ“そういう扱い”にされるのだけは心底ゴメンだと思った。
それ以降男は乾燥させたキノコを一本入手し、最終手段として持ち歩いている。
――――そして現在。
男は最終手段を使うかどうかの瀬戸際に立たされていた。
始まりは太陽が中天に昇り、昼食休みも兼ねた休憩を取ろうとした時のこと。
男が平らな石に腰かけて昼食を取り出そうとした瞬間、ゴロゴロと雷鳴が鳴り響いたのだ。
山の天気は変わり易いとはいえ、雲一つない快晴なのに？
そう疑問に思い空を見上げると、そこにはポツンと異形の影が一つ。
「ヒャッハー！ やっと男を見つけたぜー！ そこ動くんじゃねえぞー！」
甲高い歓声をあげて急降下してくる異形の影。
それを魔物だと認識すると、男はすぐ立ち上がって駆けだした。
もちろんただの魔物が相手なら男も逃げはしない。
警戒しつつも無関心を装って、スルーしようとするだろう。
だが、今回現れた魔物の声は明らかに“狙っている”声だった。
男は知っている。
魔物の中には“モヒカン”という隠語で呼ばれる存在がいることを。
“モヒカン”の種族は様々だが、基本的に強気・凶暴な性格で、
無理矢理にでも男性を犯そうとする性質は共通している。
そんな奴に捕まったら、どんな目にあわされることか……！
「おー？ 逃げんのか？ 追い駆けっこかぁ？
いいぜいいぜー、あがく獲物の方が犯りがいがあるってもんだ！」
魔物は逃げる男の背に嗜虐心が刺激されたのか、降下するままに飛びかかりはしなかった。
その代わり、付かず離れずの微妙な距離と高度を保って男を追跡する。
（ひひっ、飛んでるアタシから走って逃げられると思ってんのかねぇ？
さあ、走れ走れ。立てないぐらい疲れたトコで犯してやっからよぉ！）
気を抜けば石に躓き、運が悪ければ足を挫きかねない最悪の足場。
男はそんな大地の上を跳ねるように逃げていく。
そして魔物は話しかけたり、雷を落としたりとちょっかいを出す。
そんな追跡劇が十分近く続き、ついに男が躓いて転んだ。
硬い地面に体を打ちつけ、男はぐっ…と呻きをもらす。
だが痛みに構っている場合ではない。早く立って走らなければ―――！
そう考えるも、一度止まってしまった足はがくがくと震え動かない。
全力疾走ではないが、相当な早さで長時間走ったのだ。
男の両足は疲労の蓄積に耐え切れず、ストライキを起こしていた。
「ヒャハハ！ きれいにすっ転んだなオイ！ ほら、早く立って逃げてみろよ！
できないってんならテメェで素っ裸になりな！ そうすりゃ少しは優しくしてやっからよぉ！」
魔物は倒れた男の上をグルッと一周し、少し離れた岩の上に降り立つ。
（よしよし、怪我はないみたいだな。骨でも折れてりゃ先に治さねーとだからなぁ……）
サンダーバードは凶暴な性質であるが、魔物であることに違いはない。
骨折や深い裂傷で苦しんでいる相手を無理矢理犯そうとはしないのだ。
（ま、今回は無事だからオッケー、オッケー！ さあて、どう犯してやっかなぁ……）
魔物は舌舐めずりすると、岩から飛び降りた。
そして男にさらなる焦りを与えようと、ゆっくり近づいていく。
（まず全部剥いて雷でちんぽぶっ立たせてやろうか？
んで、足でぶっこいて射精させてやったら……イイ顔しそうだなぁ！
『まんこも見てねーのに出すとかテメェは猿かよ！？』とか濡れるぜぇ…！）
どうやって男を凌辱してやろうか。
勝利を確信していた魔物の脳内はその考えに埋め尽くされ、注意が散漫になっていた。
そのため男が胸ポケットから取り出した包みに気がつかなかった。
男が取り出した包み。
その中身は乾燥圧縮された“タケリタケ”というキノコである。
タケリタケは魔界産のキノコであり、飲食者の理性を飛ばして発情状態にしてしまう。
また飲食者が男性の場合、相手が強力な魔物であってもその力を無効化し、一方的に犯すことができるようになる。
そしてタケリタケの飲食者に一方的に犯されぬいた魔物は、
どれほど凶暴な魔物でも被虐的な性質を開花させ、蹂躙されることを望むメスになるのである。
男は包みを剥ぐと即座に口に放り込み―――はしなかった。
タケリタケはあくまで最終手段。
あのダークエルフの夫のようになることを避けられるというだけでしかない。
確かにこのキノコを口にすれば、歩み寄る魔物を完膚なきまでに犯し返し、
どちらが上か思い知らせてやることができるだろう。
だが、魔物を一方的に凌辱し打ち負かして“もうやるんじゃないぞ”で済むわけがない。
魔物はおそらく……いや、１００％確実に男を夫として認識し付きまとうようになる。
結婚願望などなく、気ままな一人旅を続けたい男にはそれも望まざる展開なのだ。
男は手にした非常食を口にせずに、この状況を切り抜けられないかと考える。
何かないか…何かないか…何かないか…何かないか――――何も思いつかない。
そもそもこの状況をどうにかできる手段があるなら、とっくにそうしている。
今まで逃げられていたのは、魔物が遊んでいたからにすぎない。
向こうが最初からその気だったら、きっと数秒で捕えられていただろう。
そしてキノコを取り出す間もなく犯されていたに違いない。
だとすると、最後のチャンスがあるだけこれはマシなのかもしれない。
男はそのように考え直すと、溜息一つ吐いて乾燥キノコを口に放り込んだ。
初めて味わったタケリタケ。それは辛味が効いていて、なかなか美味だった。
（あー、アタシが脱いで顔面に乗ってやるってのもイイかもなぁ…。
『のど渇いてんだろ？ 飲ませてやるよ！』つってまんこ汁舐めさせてやるとか？
シャワー代わりにションベンで汗流してやったら、なんて鳴くかなぁ！）
数々の凌辱パターンを思い浮かべながら、魔物は倒れた男の傍に寄る。
「おい、脱げつったろ？ なにしれっと無視してんだよ。
それともなにか？ 気絶したフリすれば――――おわっ！」
バネ仕掛けのようにいきなり立ちあがる男。
油断しきっていた魔物は突然の動きに驚きの声をあげる。
情欲で血走った眼をした男はその隙を見逃さない。
羽毛の生えていない二の腕を掴み、地面に引き倒す。
「痛っ……なにしやがんだテメェ！ そんなにヤられてーのかよ！？」
不意打ちとはいえ、無力な獲物と思っていた相手に土を付けられ魔物は怒りを覚える。
（舐めたマネしやがってこの野郎！ ああマジむかつくっ！
泣き叫んで気絶するまで犯してやるからなっ！）
驚いて転ばされはしたが所詮は人間。自分が少し本気を出せば、簡単に押し退けられる。
もう服を脱がすなんて情けはかけない。ビリビリに引き裂いて凌辱してやる。
魔物はそう考え、腕に力を込めるが――――。
「どけよクソがっ！ アタシを犯そうなんざ１０年……え？
おい！？ どけ！ どけっつってんだろ！？」
押さえこむ男の腕を払おうと翼を動かす魔物。
しかし大人に掴まれた赤子のようにビクともしない。
（なっ、なんだ！？ アタシの体はどうしちまったんだよ！？）
一瞬なにが起きているのかと魔物は混乱したが、男の目を見てうっすらと理解した。
（コイツ、なんかやりやがったな！ エロしか考えてない目してやがる！）
流石にタケリタケを食べたということまでは分からないが、
己の腕力が人間女性以下にまで落とされてしまったことは理解できる。
そして非力な女性ではこの体勢から抜け出せないということも。
「ちっ、ちくしょー！ アタシを犯そうってのかよ！？
雷鳥舐めんな！ まだ雷が…って布めくんじゃねぇ！」
タケっている男は魔物の言葉など聞いていない。
魔物がベラベラ減らず口を叩いている間に、深緑の腰布を押し上げる。
この魔物は下着を着ていないため、ツルツルの女性器が白日にさらされた。
男の方も、もがく魔物に手間取りながらズボンの前を開け、タケっている男性器を取り出す。
（うぉ、デケェちんぽ……。アレがアタシん中に…じゃねぇ！ 雷でさっさとマヒらせないと！）
魔物は体内の発電器官に命じ電圧を高めていく。男を至近距離の雷で撃ち抜くために。
しかし残念なことに、サンダーバードの発電器官には致命的な弱点があった。
それは本人の感情が昂っていると、制御不能になってしまうというものである。
襲った相手に逆襲されている屈辱や今にも挿入されそうという焦り。
それは雷の制御を誤らせるには十分すぎるものであった。
「がっ…！ あがががが……！ しびっ、しび……れっ…！」
空中放電を起こすほどの高電圧。
それが漏れて細い体の中を駆け巡り、魔物はマヒして行動不能。
抵抗できなくなったとみた男は腕を押さえ付けるのをやめ、魔物の腰を掴む。
そしてキノコにより通常以上にタケった男性器を挿入した。
「ひぐっ…！ ち…ちんぽ、入れんなっ……！
アタシを…犯すだなんて、許さね……あっ！」
動けない魔物の言葉など無視し、男は深く突き入れる。
（ああっ、まんこに突っ込まれてるっ！ アタシ犯されてるっ！）
男性に一方的に蹂躙される魔物。しかし思っていた以上の苛立ちは感じなかった。
「テメェ…覚えて、ろっ…！ んっ…！ 直ったら…すぐ、犯して…あぁっ！」
マヒした中で唯一動く口。魔物はそれを使い、喘ぎ混じりの憎まれ口を叩く。
それは男が正気だったなら、意地を張っているだけと思うであろう艶を帯びていた。
「くっ…！ やめ…ろっ！ そこは……ん゛ぉ゛ぉ゛っ゛！」
非常に膨らみの少ない平らな胸。
そこでピンと立っている両乳首をつねられ、魔物は淫らさを煮詰めたような叫びを上げる。
（ぢぐじょー……。いいように犯されてんのに気持ち良すぎる……）
魔物はついに犯されて感じていることを認めた。
嗜虐心が裏返り、被虐の悦びが芽生える。
「はひっ…もっと、犯して……。まんこ、ズボズボしてぇ……」
舌足らずな声で“犯してほしい”とねだる魔物。
理性が飛んでいてもそういった言葉だけは分かるのか、男はより激しく腰を動かして責め立てる。
「ひっ…ひっ…！ アンタのちんぽ、最高っ！ 脳まで…シビれちまうよっ！」
魔物はあまりの快感に涙さえ流して凌辱を満喫する。
そして射精の予兆を感じ取ると、男へ膣内射精を求める声を発した。
「た、種付けっ！ 種付けして！ アンタの精液でタマゴ犯してっ！」
身動きできない体を弄ばれての妊娠。
それは被虐に目覚めたばかりの魔物にとって、最上級のシチュエーション。
元より避妊などする気のない男は素直に“オネダリ”を受け、魔物の膣内へと精を放つ。
（おぉっ！ せ、精液が熱いっ…！ に、妊娠……！ アタシ、犯されて妊娠してるっ…！）
タケっている男性器から放たれる精液量は通常の比ではない。
魔物は穴から逆流するほどの射精を受け、マヒしているはずの体をビクンビクンと跳ねさせた。
（あー……ヤベ。犯されんのって、思ってたよりずっと良いわー…）
男の射精が止まった後。
トロンとした目で快楽の余韻を味わいながら、そう魔物は考えた。
（痺れが取れたらどうすっかな……。とりえずコイツに―――あん？）
強姦後の女性のように仰向けで倒されている魔物。
男はそれをひっくり返し、尻を突き出した体勢にさせる。
（コイツまだ収まってねーのかよ。ま、薬かなんか使ってりゃ当然か。
いいぜー、好きなだけ犯しな。アタシをブタみたいに喘がせやがれ！）
また犯されて、家畜のように無様な喘ぎ声をあげる。
魔物はもうそのことに歓喜しか感じない。
（正面はやったから、今度はバックってわけか。その次はどうすんだろな？
まあアタシはどんな体勢でも…おい、尻広げすぎ―――ってまさか！？）
高く上げさせた魔物の尻。
男はそれを左右に開き中心にある穴―――肛門に男性器の先端を当てる。
（げーっ！ コイツケツ穴でやる気だ！ そっちは一度も使ったことねえんだぞ！？）
魔物は（自慰で）女性器を使ったことはあったが、肛門を性的な目的で使ったことはない。
男も普段ならそういう目で見たりはしないが、今は性欲の権化。
穴があれば突っ込むことしか考えられないのだ。
「ちょ、ちょっと待て！ 口とかまんことか、もっと良いトコあるだろ！？」
痺れの取れてきた首で振り向き懇願する魔物。
しかし今の男に拒否する言葉など通じるはずもなく。
（んぎっ！ ケ、ケツっ！ ケツ穴にちんぽがぁっ！）
異物の受け入れなど初めから想定していない消化器官。
膣よりもずっと狭い穴にタケった男性器をねじ込まれ、魔物は苦しげな息を吐く。
「うぇ…！ きつ、い……っ！ ケツ穴が、伸びちまうっ…！」
ミチミチと直腸を広げながら侵入していく男性器。
人間なら裂けかねないほどの窮屈さだが、魔物の体はそうならない。
交わりに特化している体は、圧迫の苦しみも快楽に変換するのだ。
（ひひっ、ケツ穴で感じるとかマジモンの変態だなアタシ。
でも、気持ち良いからいいや……。もう一つのまんこになるぐらい犯してくれよ？）
肛門を何度も出入りする男性器。
硬かった直腸の筋肉が柔軟になっていき、それに伴って快感が増加していく。
だらしなく伸びた魔物の舌から唾液がたれ、乾燥した石の表面に黒い染みを作る。
「んぁっ……！ ケツ…ケツ穴がイイっ！ ケツ穴犯されるのイイっ！
もっと…ほじくってっ！ ケツ穴をただのスケベ穴にしてぇっ！」
肛門を交わりのための器官に調教して欲しいと望む魔物。
男は頷く代わりに白い尻をペシン！ と平手打ちし、直腸に精液を注ぎ込む。
（く…おっ！ ケツで…出されてる！ 内臓に射精されてるっ！
あ…あ、イく…っ！ ケツ穴犯されてイっちまうぅっ！）
指一本入っていない空っぽの女性器。
魔物はそこから失禁に見えるほど大量の膣液をこぼし、絶頂に達した。
タケリタケの効果はスイッチのようにパチッと切れる物ではない。
徐々に効果が弱まっていき、気が付くと普段通りに戻っていた…という風に終わる。
男が完全に正気に戻った時、体の下には快楽に震える魔物が一人いた。
「あ…もう、止めんのか……？」
交わり後特有のダルさを含んだ声で喋る魔物。
食べた直後のことは覚えていないが、終盤のことについては男も覚えている。
向こうの自業自得とはいえ、ずいぶんと酷い目に合わせてしまった。
一割ぐらいは自分にも責任があると考え、悪いことをしたなと男は謝る。
「別に、謝んなくても……。もう…しない？ アタシを犯さない？」
しないしない。もう乱暴なことはしないよ…と言う男。
その返答に魔物は「そっかー……」と呟くと、男を抱いて突如１８０度反転した。
魔物が上で男が下。最初の交わりとちょうど正反対の体勢。
急な動きに男は目を回し、なんだ！？ と声をあげる。
「だったらアタシが犯してやんよ！
メチャクチャにされる快感をアンタにも教えてやるぜ！」
交わり後の呆けた雰囲気などどこへやら。
発電器官フル稼働といった感じに魔物はみなぎり、ヒャハった笑みを浮かべる。
サンダーバードは凶暴な性質で男性を犯すことを好む。
それはタケリタケによって犯される快感を覚えた後でも変わりはしない。
この魔物にとっては“男を犯す”一辺倒だった思考に、
“男を犯す“男に犯される”の選択肢が発生したにすぎないのだ。
よって男が“犯さない”という選択をすると、
魔物は生来の嗜虐心を発揮して犯そうとしてくるのである。
確かに男はダークエルフの夫の二の舞にはならなかった。
だが、これからは毎日凶暴な魔物を犯し、屈服させ続けなければならない。
最悪の事態は避けられたとはいえ、厄介なことになった……。
男はそう考え溜息を吐くと、魔物を下から犯し始めた。
13/05/13 17:38更新 / 古い目覚まし