メイ(その1)・田辺さん(その2)
今日は天気が良かった。天気予報によると一日晴れ。気温も上がるらしい。朝食を済ませた昇太郎は、洗濯物を片付けることにした。洗濯物は既に洗濯機で洗っておいた。ゲストハウスの洗濯機は風呂場の前にあり、一回200円のコインランドリーになっている。洗濯機の上には乾燥機がある。こちらは一回20分で100円だ。天気が悪い時にはここで乾かした。昇太郎は、洗濯物を籠に取り込むと、二階に上がり、奥の扉を開けた。サンダルを履き、階段を上がる。
屋上につくと、太陽の日差しが眩しかった。この辺りは庶民的な住宅街だから景観はそれほどでもないが、解放感はある。昇太郎は洗濯籠を置き、ふぁーと背伸びをした。晴れた日の屋上は気持ちがいい。彼は休日など、ここで読書をする事があった。屋上には物干し竿が二つに、ハンガーがいくつかぶら下がっていた。ハウスの住人なら、ここは自由に使っていい事になっている。左手にはいくつかの植物と、ベンチとテーブルがあった。
「ご主人様、今日はお休みなのかにゃ?」
振り向くと、そこには、ネコマタの【メイ】がいた。彼女は大学時代、昇太郎が飼っていた猫だ(当時は本当に普通の猫だと思っていた)。昇太郎は前のアパートに住んでいた時、彼女を道端で拾い、ずっと一緒に住んでいた。初めは、尻尾が二股に分かれた珍しい猫だくらいにしか思っていなかった。彼女も彼女で猫に徹していたらしい。大学卒業時に、実家に猫を預けるか、アパートに連れて行くか悩んだが、その時、彼女が本性を現した。
◇
「ご主人様、メイは実はネコマタだったのですにゃ!」
昇太郎が部屋を掃除していると、突然メイの周りから白い煙が出て、その中から女の子が出てきた。彼女の第一声である。当時妖怪というものにあまり馴染みがなかった昇太郎は、事態がイマイチ理解できていなかった。「今まで黙っていてごめんなさいですにゃ」メイはぺこりと頭を下げた。ふと、彼女を見ると、猫の耳があり、両手両足は毛皮になっている。そして、極め付きは二つに分かれた尻尾。ふむ、なるほど、確かに状況から考えて、目の前にいる女の子がメイである可能性は高かった。しかし、彼女がただのコスプ(ryではないかという疑惑も僅かに残った。昇太郎は、彼女の手を取り、肉球をふにふにと揉んでみた。メイが「ふにゃ〜」と声を出す。
間違いない、確かにこいつはメイだ!昇太郎は確信した。「おい、メイ、僕の事よくも騙したな」「違うんだにゃ、これは、その、ご主人様をリサーチする為に必要だったことなのですにゃぁ」メイが汗をかいている。「何が、リサーチだよ、ほれほれ」試に尻尾を引っ張ってみた。「いたた、何するんだにゃ、ご主人様」間違いない、確かにこいつはメイだ(二回目)!そんな事があって、昇太郎とメイは本当の意味で主従関係を結んだ。彼女の話によると、ネコマタが本来の姿を飼い主に見せるのは、信頼の証らしい。
「それはそうと、メイ、僕と一緒にくるか?それとも、実家に引き取ってもらうか?」
「もちろん、メイは、ご主人様と一緒がいいにゃ。どこまでもお供するのにゃ!」
メイが魔物だという事もあり、いくつか物件を調べた結果、今のゲストハウスが新たな住まいとなったわけだ。メイの扱いをどうするか悩んだが、結局ドミトリーの二段ベッドの上下を予約した。
◇
「今日はメイも休みなのか?」
「そうだにゃ、今日はシフトも休みだし、ゆっくりその辺をお散歩してたにゃ」
メイは屋上の端を器用に歩きながら答えた。二股に分かれた尻尾でバランスを取っている。ちなみにだが、彼女は某電気街の、メイド喫茶で働いていた。折角人間の姿になれるのだから、それを生かしてバイトでもしてみたら?と昇太郎が助言したのだ。詳しいことは分からないが、店でもNo1の座を保っているらしい。彼女がそこで働き出してはや1年。働きだしてからは、自分で家賃を払っていた。そういうところはしっかりしている。これも飼い主の躾によるものだな、と昇太郎は内心感心していた。
「ご主人様、今度の土日に、【キャット・ジョーカー】でイベントをやるにゃ。ご主人様もきてにゃ!」
彼女が楽しげに話す。【キャット・ジョーカー】とは彼女が勤めているメイド喫茶の名前だ。今週末は特に、予定もない。友人でも連れていってみるかと思った。
二人で洗濯物を干す。メイはどうせ今日一日暇にしているらしいので、手伝わせた。「ご主人様、どうして、こんなに洗濯物がたまってるんですにゃ。本当に面倒臭がりなんですにゃあ」メイは呆れたようにそう言った。「最近仕事が忙しくってな、そう思うなら、メイ、お前が代わりにやってくれよ」「まったぁ、そんな事面倒臭いこと私がやるわけにゃいじゃないですか?無理無理」ペットは飼い主に似るとはよく言ったものだと昇太郎は思った。
そこへ、田辺さんがやってきた。
「にっしっし、これはこれは、昇太郎殿と、メイちゃんではないか!」
「あ、田辺さん、おはようございます」
「おはようだにゃ!」
田辺さんは「蕎麦を茹でたんじゃが、お二方も召し上がらんか?実は茹ですぎてしまってのぉ」と言ってきた。昇太郎は小腹も減ってきたので、快諾した。「かけ蕎麦だったら、200円、天かす入りだったら250円じゃ。どうじゃ、この価格破壊!地域最安値じゃぞ!市場調査はもう済んでおる。他店より一円でも高い場合は、なんなりといってくれい!」
結局は金をとるんかい!と思った昇太郎だったが、それも、仕方がない。彼女は商いをすることが生きがいなのだ。おそらく端から商売をするつもりだったのだろう。とはいえ、そろそろ昼飯の時間ではある。昇太郎達はごちそうになることにした。干し終わった洗濯物が気持ちよさそうに風に揺れている。
「田辺さん、ざる蕎麦もあるにゃ?メイは熱いの食べられないにゃ」
「お客様のニーズを事前に把握するのが、営業人の勤め。用意してあるゆえ、安心なのじゃ!」
「にゃー!」
メイは二つに分かれた尻尾を垂直に立てた。
屋上につくと、太陽の日差しが眩しかった。この辺りは庶民的な住宅街だから景観はそれほどでもないが、解放感はある。昇太郎は洗濯籠を置き、ふぁーと背伸びをした。晴れた日の屋上は気持ちがいい。彼は休日など、ここで読書をする事があった。屋上には物干し竿が二つに、ハンガーがいくつかぶら下がっていた。ハウスの住人なら、ここは自由に使っていい事になっている。左手にはいくつかの植物と、ベンチとテーブルがあった。
「ご主人様、今日はお休みなのかにゃ?」
振り向くと、そこには、ネコマタの【メイ】がいた。彼女は大学時代、昇太郎が飼っていた猫だ(当時は本当に普通の猫だと思っていた)。昇太郎は前のアパートに住んでいた時、彼女を道端で拾い、ずっと一緒に住んでいた。初めは、尻尾が二股に分かれた珍しい猫だくらいにしか思っていなかった。彼女も彼女で猫に徹していたらしい。大学卒業時に、実家に猫を預けるか、アパートに連れて行くか悩んだが、その時、彼女が本性を現した。
◇
「ご主人様、メイは実はネコマタだったのですにゃ!」
昇太郎が部屋を掃除していると、突然メイの周りから白い煙が出て、その中から女の子が出てきた。彼女の第一声である。当時妖怪というものにあまり馴染みがなかった昇太郎は、事態がイマイチ理解できていなかった。「今まで黙っていてごめんなさいですにゃ」メイはぺこりと頭を下げた。ふと、彼女を見ると、猫の耳があり、両手両足は毛皮になっている。そして、極め付きは二つに分かれた尻尾。ふむ、なるほど、確かに状況から考えて、目の前にいる女の子がメイである可能性は高かった。しかし、彼女がただのコスプ(ryではないかという疑惑も僅かに残った。昇太郎は、彼女の手を取り、肉球をふにふにと揉んでみた。メイが「ふにゃ〜」と声を出す。
間違いない、確かにこいつはメイだ!昇太郎は確信した。「おい、メイ、僕の事よくも騙したな」「違うんだにゃ、これは、その、ご主人様をリサーチする為に必要だったことなのですにゃぁ」メイが汗をかいている。「何が、リサーチだよ、ほれほれ」試に尻尾を引っ張ってみた。「いたた、何するんだにゃ、ご主人様」間違いない、確かにこいつはメイだ(二回目)!そんな事があって、昇太郎とメイは本当の意味で主従関係を結んだ。彼女の話によると、ネコマタが本来の姿を飼い主に見せるのは、信頼の証らしい。
「それはそうと、メイ、僕と一緒にくるか?それとも、実家に引き取ってもらうか?」
「もちろん、メイは、ご主人様と一緒がいいにゃ。どこまでもお供するのにゃ!」
メイが魔物だという事もあり、いくつか物件を調べた結果、今のゲストハウスが新たな住まいとなったわけだ。メイの扱いをどうするか悩んだが、結局ドミトリーの二段ベッドの上下を予約した。
◇
「今日はメイも休みなのか?」
「そうだにゃ、今日はシフトも休みだし、ゆっくりその辺をお散歩してたにゃ」
メイは屋上の端を器用に歩きながら答えた。二股に分かれた尻尾でバランスを取っている。ちなみにだが、彼女は某電気街の、メイド喫茶で働いていた。折角人間の姿になれるのだから、それを生かしてバイトでもしてみたら?と昇太郎が助言したのだ。詳しいことは分からないが、店でもNo1の座を保っているらしい。彼女がそこで働き出してはや1年。働きだしてからは、自分で家賃を払っていた。そういうところはしっかりしている。これも飼い主の躾によるものだな、と昇太郎は内心感心していた。
「ご主人様、今度の土日に、【キャット・ジョーカー】でイベントをやるにゃ。ご主人様もきてにゃ!」
彼女が楽しげに話す。【キャット・ジョーカー】とは彼女が勤めているメイド喫茶の名前だ。今週末は特に、予定もない。友人でも連れていってみるかと思った。
二人で洗濯物を干す。メイはどうせ今日一日暇にしているらしいので、手伝わせた。「ご主人様、どうして、こんなに洗濯物がたまってるんですにゃ。本当に面倒臭がりなんですにゃあ」メイは呆れたようにそう言った。「最近仕事が忙しくってな、そう思うなら、メイ、お前が代わりにやってくれよ」「まったぁ、そんな事面倒臭いこと私がやるわけにゃいじゃないですか?無理無理」ペットは飼い主に似るとはよく言ったものだと昇太郎は思った。
そこへ、田辺さんがやってきた。
「にっしっし、これはこれは、昇太郎殿と、メイちゃんではないか!」
「あ、田辺さん、おはようございます」
「おはようだにゃ!」
田辺さんは「蕎麦を茹でたんじゃが、お二方も召し上がらんか?実は茹ですぎてしまってのぉ」と言ってきた。昇太郎は小腹も減ってきたので、快諾した。「かけ蕎麦だったら、200円、天かす入りだったら250円じゃ。どうじゃ、この価格破壊!地域最安値じゃぞ!市場調査はもう済んでおる。他店より一円でも高い場合は、なんなりといってくれい!」
結局は金をとるんかい!と思った昇太郎だったが、それも、仕方がない。彼女は商いをすることが生きがいなのだ。おそらく端から商売をするつもりだったのだろう。とはいえ、そろそろ昼飯の時間ではある。昇太郎達はごちそうになることにした。干し終わった洗濯物が気持ちよさそうに風に揺れている。
「田辺さん、ざる蕎麦もあるにゃ?メイは熱いの食べられないにゃ」
「お客様のニーズを事前に把握するのが、営業人の勤め。用意してあるゆえ、安心なのじゃ!」
「にゃー!」
メイは二つに分かれた尻尾を垂直に立てた。
12/04/24 23:14更新 / やまなし
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