連載小説
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第一部:運び屋と荷の重い仕事1
「あの野郎、物の割に随分な報酬を払うと思ったらこんな危険なところに届けさせるとか冗談じゃねえよ。」
草原を尋常ではない速度で駆け抜けながら男は誰にも聞こえない愚痴をこぼす。
男の名はカマイ・ナギ、ジパング人で元・暗殺者。
現在の職業は運び屋。

袴に羽織、これぞジパング人といった格好で男は走る。
男の腰には鍔のない刀が一本、背中には少し大振りな草刈鎌が二本、それと届ける予定の荷物を入れた袋が一つ。

あの野郎とは今回の依頼人であるバフォメットのこと、結構な頻度で注文を出し、支払いも弾んでくれるため、今ではご贔屓さんといったところのはずなのだが、今回は訳が違う。

いつも通りならば彼女の家やサバトの集会所へ行って、報酬を貰い、適当なヨタ話をして帰ってくればいい。
実に簡単な仕事だ。

「どうして防衛のために出てきた部隊の中央にある司令室に突っ込まなきゃいけないかな」
再び男は愚痴をこぼす。

これが戦闘中の部隊とかならばもっと簡単に事は済んだはずだ、
少なくとも自らの領地の防衛のために気を張り詰めた魔物娘たちで構成される部隊に突っ込むよりは。

さらに、男にとって不運だったのはその防衛が普通ではなかったことだ。
近隣にある教団を中心に成り立つ国家が総力を挙げて攻め入ると大々的に宣伝していたからだ。
教団の本部からは「英雄」や「勇者」といった奴らも派遣されてるらしい。
彼等風に言うと「聖戦」だの「浄化」と言った所なのだが、正直迷惑極まりない。
進行中にケ・セラ・セラを通った時なんか食料や、武具、挙げ句の果てに部隊の寄進まで要求してきた。

さらには、街に住んでいる魔物娘を見てその場で戦闘を始めるところだった。
「全く、俺が止めに入らなかったらどうなっていたことか。」
副団長とか言う奴の鎧を細切れにしてやったけどな。

無論、領主様は怒り心頭に発す、怒髪天を衝くといった感じで、
怒りに任せて教団の兵士を殲滅してしまわないか見ているこっちが心配だった。

街を出てから約一時間、すでに街の影は見えず目的とする部隊が見えてきた。

「さてと、ここからが本番だ。」
そう言って男は気合を入れ直し、気配を消し、さらに速度を上げて疾走する。
音一つ立てず、気配すら感じさせず、名馬よりも早く走る様はまさに暗殺者といったところか。
武の境地に達した人間でも男の姿を捉えるのは不可能だろう。

ただ、男にとって不運だったのは、
防衛に務める部隊が本気だったことだ。

「今日の領主の占い、最悪だったんだよな」
残念なことに彼は、お天道様にも見放されていた。
11/05/22 03:03更新 / おいちゃん
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