温もりの大地に抱かれ
「師匠〜、また駄目でした〜」
魔道士ギャレスの研究室に入るなり、アイル・ランバートは情けない声を上げる。
「はぁ、ウンディーネでも駄目だったか」
ギャレスはあきれ顔でため息をついた。
「それで、原因は?」
「あの、その……呼び出したウンディーネさんは契約にとても乗り気だったんですけど」
と、アイルは恥ずかしそうにうつむく。
「勃たなかったんです」
「……お前、その若さで」
「違いますっ! でも、今度こそ成功しなきゃとか色々考えて緊張しちゃって」
「ああ、いるよなぁ、そういう奴」
ギャレスは弟子のふがいなさに頭を抱えた。
魔道士ギャレスの一門は、精霊と契約して力を行使する異端の学派である。
ギャレス自身も炎の精霊イグニスの一人と契約し、あまたの戦場で活躍した一級の魔道士だった。
「もうお前、諦めて普通の魔道士になったら?」
「いいえ、諦めません! 僕に精霊使いの才能があるって認めてくれたのは師匠じゃないですか」
「そうは言っても、肝心の精霊と契約できなきゃ話にならんだろうが」
精霊魔法は精霊と交わり、精と魔力を交換する契約を結ぶことで成立する。
それなのに、アイルはいざ契約というときに精霊に気に入られなかったり、焦って失敗ばかりしたりするのであった。
「だっらしねーなー!娼館にでも通って度胸つけてきたらどうだ?」
ギャレスの契約相手であるイグニスが口を挟む。
「主殿がオレと契約したときには、もう百戦錬磨のテクニシャンだったってのに」
「女たらしみたいに言うな。精霊のお前から何かアドバイスないのか?」
そう問われて、イグニスは少し考えてから答える。
「んー、そうだなー。アイルにはノームなんかが合うと思うんだけどな」
「ノーム、ですか」
イグニスの提案に、アイルは眉をひそめた。
自然界の力を司る精霊のうち、土の精霊がノームである。
「土属性ってなんかダサいというか、地味っていうか、不人気っていうか」
「贅沢言える状況でもないだろ。試してないならさっさと行ってこい」
「は、はいー」
師匠に睨まれ、アイルはそそくさと研究室を後にした。
「はい到着っス」
ハーピーの運び屋は足でつかんでいたアイルを地面に降ろした。
「ありがとう、シルクさん」
周りをきょろきょろと見回しながらアイルは礼を述べる。
アイルが住んでいる町から離れた岩山の廃鉱。そこにノームが生息しているとの話だった。
「これでアイルさんを運ぶのも何回目っスかね」
シルクはニヤニヤしながら言った。
「なんならここで待っといたほうがいいスか? 帰りも一人分だったら運べるっスよー」
「今度こそ成功して二人で歩いて帰るよ」
シルクのからかいを無視してアイルは廃鉱へと足を向ける。
打ち棄てられてから長い年月が経っているようで、坑道の設備は大分朽ち果てていた。
しかし、ただの廃鉱とは明らかに違う特徴がある。
異常なまでに周囲を草木が茂っているのだ。明らかに土の精霊の影響である。
精霊がいることを意識したとたん、アイルの腹筋に無意識に力が入った。
入り口から緊張してどうする、と深呼吸を一つ。
意を決してアイルは坑道へと足を踏み入れた。
「もういっそ精霊使いになるより」
と、そんなアイルの後ろでシルクは翼をもじもじと動かして独り言をつぶやく。
「ボクと一緒に運送屋経営なんてどうッスか……なんてね」
しかしその言葉はアイルには届かず、シルクは残念そうな顔をして飛び立っていった。
決して魔物娘に好かれないわけではなく、どうでもいいところでモテるアイルなのであった。
明かりの魔法を周囲に漂わせながら、アイルは鉱山を奥へ奥へと潜っていく。
もっと崩落しているかと思ったが、太い木の根がちょうど地盤の弱いところを固めるように伸びてきていた。
さらに進むと、燐光を放つキノコや不自然に突き出た水晶の柱といった幻想的な様子を呈してくる。
間違いなくノームはこの先にいる。
「・・・!」
急に視界が開け、そこにあった景色にアイルは息をのんだ。
まるで宮殿のごとく水晶の柱がそびえ立ち、天井や壁にちりばめられた色とりどりの宝石が魔法の光を放っている。
そして中心にはふかふかの苔のベッドでお姫様のように眠るノームの姿があった。
「あ、あの、すみません、起きてもらえません?」
おずおずと声をかけてみたが、目覚めそうな気配はない。
アイルは仕方なくノームに近づいて起こそうとする。
(うわ、おっきい)
たわわに実ったむき出しの乳房にたじろぎつつ、ノームの肩を揺り動かす。
「……ふにゃ?」
「寝ていたところをごめんなさい、ノームさんですよね?」
「そうですよ、ふわあ」
ノームは大きくあくびをして、粘土のような手で目頭をこすった。
「なんの、ようじ?」
ペリドット色の瞳がきょとんとアイルを見つめる。
際だった美女というよりは、純朴そうな穏やかな顔立ち。
褐色の身体の肉付きもほどほどによく、健康的な色気に包まれていた。
そんな肉感的な少女を前にして、アイルの鼓動は早まり、手がかすかに震え始める。
ゴクリと生唾を飲み込んで、どうにかアイルは契約の交渉に入った。
「え、ええっと。わ、我が名はアイル・ランバート。汝といにしえの契りを結ばんと……」
「契約?いいよ、しよう」
「はやっ」
様式に従った文句を言い終わらないうちに、あっさりとノームは承諾する。
「わたしは、ハーヴェ。よろしくね」
ハーヴェと名乗ったノームは、両腕をアイルの方へと開いてふわっと微笑んだ。
しかし、アイルは固まったまま動かない。
「どうしたの?」
「ええと、その、上手く出来るかちょっと不安で」
「だいじょうぶ。硬くならないで」
ハーヴェはアイルの頭を優しく抱いて自分の胸にうずめさせる。
柔らかい感触と温かな肌のぬくもりに触れて、アイルは干したての布団に飛び込んだような気持ちを覚えた。
「契約はね、わたしとあなたが、素直なキモチ、つたえあうだけ」
子猫を撫でるような手つきでアイルの髪を撫でる。
「アイルは、今、なにをしたい?」
「僕は・・・君と契約して、精霊使いに」
「そうじゃないよ。私のしたいことは、こうしてアイルをぎゅってしたい」
そう言って、ハーヴェはアイルの頭を抱きしめた。
「過去も、未来も、ぜーんぶ忘れて、今したいことはなあに?」
問われてアイルは考える。
可愛らしいハーヴェの色んなところをもっと見たい。
甘く脳髄に染み渡るような彼女の香りをもっと嗅いでいたい。
クラリネットのような深く柔らかい声をもっと聞きたい。
ハーヴェの肌と、唇と、あそこと、体液を味わってみたい。
全身でお互いの身体を触り合いたい。
「君を感じたい。君の全てを」
「わたしもだよ、アイル」
アイルの答えにハーヴェは心の底からの笑みを見せた。
裸で仰向けになったアイルに、ハーヴェが横から寄り添うように抱きつく。
脚同士も絡め合い、互いに楽な姿勢で密着する。
そうしてすることと言えば──ただのおしゃべりだった。
「それで召喚したシルフさんは『えー、マジ童貞?キモーイ!』とか言ってどっかいっちゃたんだよ」
「ふふ。わたしは、アイルがしたことなくて、うれしいよ?」
「そ、そう?でも女の子って熟練の男にリードされたいって聞くけど」
「わたしとアイル、二人だけのやり方を、一からつくればいいの」
「……うん」
語り合う中で、アイルの緊張はほぐれていく。
精霊は、女の子は、ハーヴェは、あたたかくてやわらかい。
アイルの中で、ハーヴェと結びつきたい気持ちがどんどん強くなってくる。
でもそれは、激しい衝動ではなく、徐々に満ちてくる潮のような感情だった。
二人の視線が交差する。
アイルは自然に唇をハーヴェの唇と重ね合わせた。
最初は唇の柔らかさを確かめるように。
ハーヴェの舌が、ノックするようにチョンチョンとアイルの唇に触れる。
アイルも舌先同士で挨拶を返す。
すると、お邪魔しますとばかりにハーヴェの舌が礼儀正しく口内へ入ってきた。
良いお部屋ですね、と探索するように、頬の内側や舌の裏を舐め回される。
それに併せて、案内するようにアイルの舌はハーヴェのそれに追従する。
次は、ハーヴェの方への訪問。もてなしのドリンクは二人の唾液。
「不思議だな。出会ったばかりなのに、何年も前から恋人だったみたいな気持ちだ」
「わたしも、ずっと前から、アイルのことをうっすら感じてたの」
「運命の赤い糸とかいうやつ?」
「そうなのかな? アイルを見て、『この人だ』ってすぐ分かったよ」
この繋がりが精霊との契約に必要なものだったのだろうか。
でも、まだ足りない。理屈ではないが、アイルはそう思った。
情熱に浮かされるまま、アイルとハーヴェは互いの身体を愛撫し合う。
ハーヴェの背骨に沿って指を這わせると、ハーヴェはかすかに声を上げた。
「これ、いいの?」
少し恥ずかしげにうなずくハーヴェを見て、アイルは女体の探索をはじめる。
耳、脇腹、腰椎とハーヴェが感じるところを発見していく。
一方のハーヴェも、粘土のようでいてしっとり温かい手でアイルの身体を撫でてゆく。
「アイルはどこが気持ちいい?ここ?それともこっちかな?」
「うわっ、なんかゾクッてきた・・・」
「おへそかあ。ふふ、こちょこちょ」
「ふひゃあ」
ハーヴェに攻められてはじめて、アイルは自分のへその周りが性感帯と気づいた。
互いの身体を探り合っていると、自分の中でもつれた糸がほぐれ、相手の糸と絡まり合うような錯覚を感じる。
取り込み、取り込まれるような不思議な感覚。
魔法学的には触覚神経を介した魔力の同調現象、とアイルは書物では知っていたが、実際に体験すると想像以上に結びつきを感じるものであった。
「ね、ここは触らないの?」
ハーヴェが自らのおっぱいを下から抱えて示す。
ヘタレなアイルにはいきなりおっぱいはハードルが高かったのだが、深く触れ合った今では抵抗なく手が伸びた。
手のひらで包んだ軟らかい肉の感触は、他にたとえようがない柔らかさだ。
男としての本能に訴えかけてくる揉み心地。
間違いなく、ボインは赤ちゃんのためだけにあるのではない。
そんな謎な悟りを開いて、アイルはおっぱいにむしゃぶりつく。
「んあっ、ん、ああっ」
磁器のようになめらかだが、ふんわりとした舌触り。
乳首を唇で挟み、舌で転がす。反対側の乳首をつまみ、指の腹で弾く。
大きく口を開き、限界まで乳房に吸いつき、もにゅもにゅと食む。
アイルは豊穣の果実を味わい尽くすようにおっぱいを堪能していった。
「ん、ふ、はあっ。なんか、かわいい」
喘ぎながらも愛おしそうにハーヴェがアイルの頭を撫でる。
恵みの精霊、いや、女性にとっては男も赤ちゃんも大差ないのかもしれなかった。
「アイルのおちんちん、すっごくカチカチだね」
と、 アイルの頭にお尻を向けて伏せているハーヴェの声だけが聞こえる。
今アイルの視界にあるのは熟して割れたアケビのようなハーヴェの女性器だけだった。
「ハーヴェのあそこも、ひくひくしてる」
割れ目からは肉厚の花びらが少しだけはみ出ており、そのさらに奥からは甘く痺れるような蜜の香りが漂ってくる。
「触っていいよ。五感で感じて、感じさせて」
その言葉に、アイルはゴクリとつばを飲み込むと、おっかなびっくり割れ目を両手でかき分ける。
濃い桃色の襞の中心に、ハーヴェの胎内へ続く穴があった。
指が触れるたび、ひくっ、と穴が窄まる。
その様子に、本当に女の子の敏感なところに触れているんだ、とアイルの頭は沸騰しそうなほど興奮した。
「ん、あ、ふう、アイルのおちんちんから、おつゆ出てきたよ」
ハーヴェはアイルの男性器を手に取り、指先を鈴口につける。そして、先走り汁を絡め取り、亀頭に塗りたくってきた。
「はうっ」
アイルはたまらず声を漏らす。
さらに、竿がなにやら温かく湿ったもので触れられる。
ハーヴェの唇、と理解したとたん、アイルの男性器はびくんと跳ねるように大きさを増した。
竿の根元から先の方へとハーヴェはキスの雨を降らせてくる。
キスは亀頭へとたどり着き、ついに先端へと到達した。
そこでなぜかハーヴェは動きを止め、じっと鈴口に唇を押しつけるだけになる。
「その先」を期待していたアイルは、じれるように少しだけ腰を浮かせてみた。
ぷっくりとした唇が押しつけられた亀頭を受け止める。
その感触が気に入り、アイルは腰をわずかに上下させてみた。
ぷに、ぷに、ぷにと何度も何度も唇と亀頭が触れては離れる。
唾液と先走りが潤滑油となり、ついににゅるんとハーヴェの口内へ亀頭が滑り込んだ。
「うわぁ・・・」
一旦入ってしまうと、ハーヴェは積極的に男性器へ攻勢を仕掛けてきた。
お返しとばかりに、アイルも眼前の割れ目に舌をねじ込んだ。
膣口から蜜を書き出すように舌を出し入れする。
ハーヴェの愛液は大地の精霊だからなのか、南国の果物のようにねっとりと甘く、アイルを虜にしていった。
アイルはハーヴェのモチモチしたお尻を両手で抱え、より深いところまで舌が届くよう顔面を押しつける。
顎と鼻まで陰唇に埋もれさせて、ひたすらに口で女性器を愛撫していった。
「くうっ、ちゅぷ、ん、んふ、じゅる、ふあ、んんーっ」
「んんっ、んちゅっ、ちゅぷっ、んんんっ、んあああっ」
坑道内に二人のあえぎと粘液が擦れ合う音が響き渡っていく。
時が経つのも忘れ、アイルとハーヴェは互いを、手で、舌で、性器で、全身で感じ合う。
感覚も精神も溶けて混じり合い、かつ純化されてさらなる高みへと。
ハーヴェはアイルの上にまたがり、膣口に亀頭をあてがった。
合図も何も要らない。既に二人は一つになっているのだから。
「ん、く、ああああっ」
「う、んんっ」
パズルのピースがかみ合うように、アイルの陰茎はハーヴェの膣に収まる。
地熱のごとく温かい膣肉は隙間無く陰茎を包み込んできて、アイルは快感よりもむしろ安らぎを感じた。
ハーヴェが腰を水平に回すようにゆっくり動かす。
上下運動ではないのは、自分の胎内からアイルのそれを少しも外に出したくなかったから。
ぐちゅり、ぐちゅり、と腰が回されるたび、膣壁はうごめき陰茎と擦れ合う。
膣口から止めどなくあふれ出る愛液は、アイルの股間をもびしょびしょに濡らしていた。
アイルはもっとハーヴェの奥を知ろうと、腰を突き上げてみる。
「ああああああぅぅーっ!」
亀頭の先端が子宮口へと当たり、ハーヴェは天を仰いで悶えた。
それでも腰の動きは止めず、子宮口がぐりぐりとアイルの亀頭に押しつけられる。
二人は調子を合わせるように下半身を動かし、互いが一番気持ちいい動作へと落ち着いていった。
ちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐ、と男性器と女性器がハーモニーを奏でる。
「ふ、はぁっ、もう、僕のチンチン、んんっ、ハーヴェの中で溶けちゃったみたいだ」
「ああふ、んふぅ、そうだね。わたしとアイルの境目、もう分からないよ。んはあっ、ただただ、気持ちいいだけ」
快感と喜びと幸福を生み出すだけの一つの存在となったアイルとハーヴェは、やがて極限へと上り詰めていく。
「ああっ、あん、あん、はあっ、アイル、アイル、アイルッ!」
「ハーヴェ、ううっ、ハーヴェ、くはあっ、ハーヴェェッ!」
限界まで膣に締め上げられ、アイルは堰を切ったように精を放つ。
自分の全てがハーヴェの子宮へと吸い込まれるような、激しく長い射精。
ハーヴェもまた、アイルの全てを受け取り、自分の魂と強固に結びつくのを感じる。
最初の射精が終わっても、二人はまだ愛を交わし続ける。
これからは、物理的に離れる事があっても、二人の絆は永遠に繋がったままだ。
ここに、契約は成立した。
──数ヶ月後。
「あれが敵国の本隊ですか?」
アイルは遠眼鏡を降ろして師匠に尋ねた。その側には、もちろんハーヴェが寄り添っている。
「そうだ。自国の飢饉と経済の失敗を、全て我が国のせいだとして制裁を加えるとかどうとか」
眼前の平野はびっしりと鎧姿の軍勢で埋め尽くされていた。
「ふぅん、だとしたら相当不満がたまってそうですね」
「陛下からは出来るだけ進軍を妨害しろとの命令が下っているが、時間稼ぎくらいにしかならんだろう」
「なんだよギャレス!ようはあいつらをふっ飛ばせばいいんだろ?」
ギャレスの炎の精霊は今にも飛びださんとする勢いで言う。
「落ち着け。いくらお前でもあの数は・・・」
「いえ、僕とハーヴェならやれます。だよな」
「うん、大丈夫」
アイルはハーヴェと視線を交わしうなずいた。
「お前さあ、この戦争どう思うよ」
野営地でたき火を囲んでいた兵士が同僚に尋ねた。
「よくわからん。でも、給料が出るのは確かだ。家で待ってるお袋のためにも稼がないと」
「だよなあ、ウチもガキを食わせてやらにゃならんし・・・」
──それが、ほんとうに、したいことだね
「ん?何か言ったか?」
「いいや・・・おい、そこに何か落ちてるぞ」
兵士は足下で光ったものを拾い上げる。
「こ、こりゃ宝石じゃないか!」
「ここにも、そこにも落ちてるぞ!?」
「ひゃっはあ、こいつを売れば金持ちだ!」
「あの国の女どもっていやあ、色白で美人が多いらしいじぇねえか」
「ああ。戦の楽しみっていやあ、アレしかねえよな。男どもは皆殺しにして・・・」
──えっちなこと、したいの?
「あ?なんだあ?」
かすかな声を聞いて、傭兵達が振り返るとそこにはいつの間にか魔物達の姿があった。
「あらぁ?何となくこっちに来てみたらたくましそうなオトコが沢山じゃない」
「うふふ、私達といいことしましょう」
「ア、アルラウネの群れだと?」
「ほおら、捕まえた。もう逃がさない♪」
「し、指揮官殿!大変です。部隊の士気があちこちでもう崩壊しまくって・・・」
「んひゃあ?参謀かぁ?ヒック」
「うあ、酒臭ッ」
「水樽がぜぇんぶ酒になっちまっててなぁ。ぐぇーっぷ。不思議だなぁ。まあお前も飲め飲め」
「ちょっ、指揮官殿、んぐんぐ」
「・・・おっそろしいな」
ハーヴェの『大地の恵み』を与える力によって、一軍団が完全に無力化されていく光景を見てギャレスは身震いする。
自分の弟子がここまで大規模な魔法を行使できるとは想像だにしていなかった。
「これくらいでいい?アイル」
「上出来だよ、ハーヴェ」
「ごほうび、くれる?」
「もちろん」
アイルとハーヴェは人目を気にせずいちゃつき始める。
以前のアイルなら考えられない行為だが、これもハーヴェと出会ったせいなのか。
「そうだハーヴェ。戦争の原因が飢饉なら、作物を実らせてあげるのはどうだろう」
「うん、できるよ。アイルのしたい事ならなんでも。・・・魔力さえあれば」
「じゃあ、今夜もまた」
「うん、ラブラブしようね」
かくして、ある意味で最強のバカップルが世に放たれたのであった。
おわり
魔道士ギャレスの研究室に入るなり、アイル・ランバートは情けない声を上げる。
「はぁ、ウンディーネでも駄目だったか」
ギャレスはあきれ顔でため息をついた。
「それで、原因は?」
「あの、その……呼び出したウンディーネさんは契約にとても乗り気だったんですけど」
と、アイルは恥ずかしそうにうつむく。
「勃たなかったんです」
「……お前、その若さで」
「違いますっ! でも、今度こそ成功しなきゃとか色々考えて緊張しちゃって」
「ああ、いるよなぁ、そういう奴」
ギャレスは弟子のふがいなさに頭を抱えた。
魔道士ギャレスの一門は、精霊と契約して力を行使する異端の学派である。
ギャレス自身も炎の精霊イグニスの一人と契約し、あまたの戦場で活躍した一級の魔道士だった。
「もうお前、諦めて普通の魔道士になったら?」
「いいえ、諦めません! 僕に精霊使いの才能があるって認めてくれたのは師匠じゃないですか」
「そうは言っても、肝心の精霊と契約できなきゃ話にならんだろうが」
精霊魔法は精霊と交わり、精と魔力を交換する契約を結ぶことで成立する。
それなのに、アイルはいざ契約というときに精霊に気に入られなかったり、焦って失敗ばかりしたりするのであった。
「だっらしねーなー!娼館にでも通って度胸つけてきたらどうだ?」
ギャレスの契約相手であるイグニスが口を挟む。
「主殿がオレと契約したときには、もう百戦錬磨のテクニシャンだったってのに」
「女たらしみたいに言うな。精霊のお前から何かアドバイスないのか?」
そう問われて、イグニスは少し考えてから答える。
「んー、そうだなー。アイルにはノームなんかが合うと思うんだけどな」
「ノーム、ですか」
イグニスの提案に、アイルは眉をひそめた。
自然界の力を司る精霊のうち、土の精霊がノームである。
「土属性ってなんかダサいというか、地味っていうか、不人気っていうか」
「贅沢言える状況でもないだろ。試してないならさっさと行ってこい」
「は、はいー」
師匠に睨まれ、アイルはそそくさと研究室を後にした。
「はい到着っス」
ハーピーの運び屋は足でつかんでいたアイルを地面に降ろした。
「ありがとう、シルクさん」
周りをきょろきょろと見回しながらアイルは礼を述べる。
アイルが住んでいる町から離れた岩山の廃鉱。そこにノームが生息しているとの話だった。
「これでアイルさんを運ぶのも何回目っスかね」
シルクはニヤニヤしながら言った。
「なんならここで待っといたほうがいいスか? 帰りも一人分だったら運べるっスよー」
「今度こそ成功して二人で歩いて帰るよ」
シルクのからかいを無視してアイルは廃鉱へと足を向ける。
打ち棄てられてから長い年月が経っているようで、坑道の設備は大分朽ち果てていた。
しかし、ただの廃鉱とは明らかに違う特徴がある。
異常なまでに周囲を草木が茂っているのだ。明らかに土の精霊の影響である。
精霊がいることを意識したとたん、アイルの腹筋に無意識に力が入った。
入り口から緊張してどうする、と深呼吸を一つ。
意を決してアイルは坑道へと足を踏み入れた。
「もういっそ精霊使いになるより」
と、そんなアイルの後ろでシルクは翼をもじもじと動かして独り言をつぶやく。
「ボクと一緒に運送屋経営なんてどうッスか……なんてね」
しかしその言葉はアイルには届かず、シルクは残念そうな顔をして飛び立っていった。
決して魔物娘に好かれないわけではなく、どうでもいいところでモテるアイルなのであった。
明かりの魔法を周囲に漂わせながら、アイルは鉱山を奥へ奥へと潜っていく。
もっと崩落しているかと思ったが、太い木の根がちょうど地盤の弱いところを固めるように伸びてきていた。
さらに進むと、燐光を放つキノコや不自然に突き出た水晶の柱といった幻想的な様子を呈してくる。
間違いなくノームはこの先にいる。
「・・・!」
急に視界が開け、そこにあった景色にアイルは息をのんだ。
まるで宮殿のごとく水晶の柱がそびえ立ち、天井や壁にちりばめられた色とりどりの宝石が魔法の光を放っている。
そして中心にはふかふかの苔のベッドでお姫様のように眠るノームの姿があった。
「あ、あの、すみません、起きてもらえません?」
おずおずと声をかけてみたが、目覚めそうな気配はない。
アイルは仕方なくノームに近づいて起こそうとする。
(うわ、おっきい)
たわわに実ったむき出しの乳房にたじろぎつつ、ノームの肩を揺り動かす。
「……ふにゃ?」
「寝ていたところをごめんなさい、ノームさんですよね?」
「そうですよ、ふわあ」
ノームは大きくあくびをして、粘土のような手で目頭をこすった。
「なんの、ようじ?」
ペリドット色の瞳がきょとんとアイルを見つめる。
際だった美女というよりは、純朴そうな穏やかな顔立ち。
褐色の身体の肉付きもほどほどによく、健康的な色気に包まれていた。
そんな肉感的な少女を前にして、アイルの鼓動は早まり、手がかすかに震え始める。
ゴクリと生唾を飲み込んで、どうにかアイルは契約の交渉に入った。
「え、ええっと。わ、我が名はアイル・ランバート。汝といにしえの契りを結ばんと……」
「契約?いいよ、しよう」
「はやっ」
様式に従った文句を言い終わらないうちに、あっさりとノームは承諾する。
「わたしは、ハーヴェ。よろしくね」
ハーヴェと名乗ったノームは、両腕をアイルの方へと開いてふわっと微笑んだ。
しかし、アイルは固まったまま動かない。
「どうしたの?」
「ええと、その、上手く出来るかちょっと不安で」
「だいじょうぶ。硬くならないで」
ハーヴェはアイルの頭を優しく抱いて自分の胸にうずめさせる。
柔らかい感触と温かな肌のぬくもりに触れて、アイルは干したての布団に飛び込んだような気持ちを覚えた。
「契約はね、わたしとあなたが、素直なキモチ、つたえあうだけ」
子猫を撫でるような手つきでアイルの髪を撫でる。
「アイルは、今、なにをしたい?」
「僕は・・・君と契約して、精霊使いに」
「そうじゃないよ。私のしたいことは、こうしてアイルをぎゅってしたい」
そう言って、ハーヴェはアイルの頭を抱きしめた。
「過去も、未来も、ぜーんぶ忘れて、今したいことはなあに?」
問われてアイルは考える。
可愛らしいハーヴェの色んなところをもっと見たい。
甘く脳髄に染み渡るような彼女の香りをもっと嗅いでいたい。
クラリネットのような深く柔らかい声をもっと聞きたい。
ハーヴェの肌と、唇と、あそこと、体液を味わってみたい。
全身でお互いの身体を触り合いたい。
「君を感じたい。君の全てを」
「わたしもだよ、アイル」
アイルの答えにハーヴェは心の底からの笑みを見せた。
裸で仰向けになったアイルに、ハーヴェが横から寄り添うように抱きつく。
脚同士も絡め合い、互いに楽な姿勢で密着する。
そうしてすることと言えば──ただのおしゃべりだった。
「それで召喚したシルフさんは『えー、マジ童貞?キモーイ!』とか言ってどっかいっちゃたんだよ」
「ふふ。わたしは、アイルがしたことなくて、うれしいよ?」
「そ、そう?でも女の子って熟練の男にリードされたいって聞くけど」
「わたしとアイル、二人だけのやり方を、一からつくればいいの」
「……うん」
語り合う中で、アイルの緊張はほぐれていく。
精霊は、女の子は、ハーヴェは、あたたかくてやわらかい。
アイルの中で、ハーヴェと結びつきたい気持ちがどんどん強くなってくる。
でもそれは、激しい衝動ではなく、徐々に満ちてくる潮のような感情だった。
二人の視線が交差する。
アイルは自然に唇をハーヴェの唇と重ね合わせた。
最初は唇の柔らかさを確かめるように。
ハーヴェの舌が、ノックするようにチョンチョンとアイルの唇に触れる。
アイルも舌先同士で挨拶を返す。
すると、お邪魔しますとばかりにハーヴェの舌が礼儀正しく口内へ入ってきた。
良いお部屋ですね、と探索するように、頬の内側や舌の裏を舐め回される。
それに併せて、案内するようにアイルの舌はハーヴェのそれに追従する。
次は、ハーヴェの方への訪問。もてなしのドリンクは二人の唾液。
「不思議だな。出会ったばかりなのに、何年も前から恋人だったみたいな気持ちだ」
「わたしも、ずっと前から、アイルのことをうっすら感じてたの」
「運命の赤い糸とかいうやつ?」
「そうなのかな? アイルを見て、『この人だ』ってすぐ分かったよ」
この繋がりが精霊との契約に必要なものだったのだろうか。
でも、まだ足りない。理屈ではないが、アイルはそう思った。
情熱に浮かされるまま、アイルとハーヴェは互いの身体を愛撫し合う。
ハーヴェの背骨に沿って指を這わせると、ハーヴェはかすかに声を上げた。
「これ、いいの?」
少し恥ずかしげにうなずくハーヴェを見て、アイルは女体の探索をはじめる。
耳、脇腹、腰椎とハーヴェが感じるところを発見していく。
一方のハーヴェも、粘土のようでいてしっとり温かい手でアイルの身体を撫でてゆく。
「アイルはどこが気持ちいい?ここ?それともこっちかな?」
「うわっ、なんかゾクッてきた・・・」
「おへそかあ。ふふ、こちょこちょ」
「ふひゃあ」
ハーヴェに攻められてはじめて、アイルは自分のへその周りが性感帯と気づいた。
互いの身体を探り合っていると、自分の中でもつれた糸がほぐれ、相手の糸と絡まり合うような錯覚を感じる。
取り込み、取り込まれるような不思議な感覚。
魔法学的には触覚神経を介した魔力の同調現象、とアイルは書物では知っていたが、実際に体験すると想像以上に結びつきを感じるものであった。
「ね、ここは触らないの?」
ハーヴェが自らのおっぱいを下から抱えて示す。
ヘタレなアイルにはいきなりおっぱいはハードルが高かったのだが、深く触れ合った今では抵抗なく手が伸びた。
手のひらで包んだ軟らかい肉の感触は、他にたとえようがない柔らかさだ。
男としての本能に訴えかけてくる揉み心地。
間違いなく、ボインは赤ちゃんのためだけにあるのではない。
そんな謎な悟りを開いて、アイルはおっぱいにむしゃぶりつく。
「んあっ、ん、ああっ」
磁器のようになめらかだが、ふんわりとした舌触り。
乳首を唇で挟み、舌で転がす。反対側の乳首をつまみ、指の腹で弾く。
大きく口を開き、限界まで乳房に吸いつき、もにゅもにゅと食む。
アイルは豊穣の果実を味わい尽くすようにおっぱいを堪能していった。
「ん、ふ、はあっ。なんか、かわいい」
喘ぎながらも愛おしそうにハーヴェがアイルの頭を撫でる。
恵みの精霊、いや、女性にとっては男も赤ちゃんも大差ないのかもしれなかった。
「アイルのおちんちん、すっごくカチカチだね」
と、 アイルの頭にお尻を向けて伏せているハーヴェの声だけが聞こえる。
今アイルの視界にあるのは熟して割れたアケビのようなハーヴェの女性器だけだった。
「ハーヴェのあそこも、ひくひくしてる」
割れ目からは肉厚の花びらが少しだけはみ出ており、そのさらに奥からは甘く痺れるような蜜の香りが漂ってくる。
「触っていいよ。五感で感じて、感じさせて」
その言葉に、アイルはゴクリとつばを飲み込むと、おっかなびっくり割れ目を両手でかき分ける。
濃い桃色の襞の中心に、ハーヴェの胎内へ続く穴があった。
指が触れるたび、ひくっ、と穴が窄まる。
その様子に、本当に女の子の敏感なところに触れているんだ、とアイルの頭は沸騰しそうなほど興奮した。
「ん、あ、ふう、アイルのおちんちんから、おつゆ出てきたよ」
ハーヴェはアイルの男性器を手に取り、指先を鈴口につける。そして、先走り汁を絡め取り、亀頭に塗りたくってきた。
「はうっ」
アイルはたまらず声を漏らす。
さらに、竿がなにやら温かく湿ったもので触れられる。
ハーヴェの唇、と理解したとたん、アイルの男性器はびくんと跳ねるように大きさを増した。
竿の根元から先の方へとハーヴェはキスの雨を降らせてくる。
キスは亀頭へとたどり着き、ついに先端へと到達した。
そこでなぜかハーヴェは動きを止め、じっと鈴口に唇を押しつけるだけになる。
「その先」を期待していたアイルは、じれるように少しだけ腰を浮かせてみた。
ぷっくりとした唇が押しつけられた亀頭を受け止める。
その感触が気に入り、アイルは腰をわずかに上下させてみた。
ぷに、ぷに、ぷにと何度も何度も唇と亀頭が触れては離れる。
唾液と先走りが潤滑油となり、ついににゅるんとハーヴェの口内へ亀頭が滑り込んだ。
「うわぁ・・・」
一旦入ってしまうと、ハーヴェは積極的に男性器へ攻勢を仕掛けてきた。
お返しとばかりに、アイルも眼前の割れ目に舌をねじ込んだ。
膣口から蜜を書き出すように舌を出し入れする。
ハーヴェの愛液は大地の精霊だからなのか、南国の果物のようにねっとりと甘く、アイルを虜にしていった。
アイルはハーヴェのモチモチしたお尻を両手で抱え、より深いところまで舌が届くよう顔面を押しつける。
顎と鼻まで陰唇に埋もれさせて、ひたすらに口で女性器を愛撫していった。
「くうっ、ちゅぷ、ん、んふ、じゅる、ふあ、んんーっ」
「んんっ、んちゅっ、ちゅぷっ、んんんっ、んあああっ」
坑道内に二人のあえぎと粘液が擦れ合う音が響き渡っていく。
時が経つのも忘れ、アイルとハーヴェは互いを、手で、舌で、性器で、全身で感じ合う。
感覚も精神も溶けて混じり合い、かつ純化されてさらなる高みへと。
ハーヴェはアイルの上にまたがり、膣口に亀頭をあてがった。
合図も何も要らない。既に二人は一つになっているのだから。
「ん、く、ああああっ」
「う、んんっ」
パズルのピースがかみ合うように、アイルの陰茎はハーヴェの膣に収まる。
地熱のごとく温かい膣肉は隙間無く陰茎を包み込んできて、アイルは快感よりもむしろ安らぎを感じた。
ハーヴェが腰を水平に回すようにゆっくり動かす。
上下運動ではないのは、自分の胎内からアイルのそれを少しも外に出したくなかったから。
ぐちゅり、ぐちゅり、と腰が回されるたび、膣壁はうごめき陰茎と擦れ合う。
膣口から止めどなくあふれ出る愛液は、アイルの股間をもびしょびしょに濡らしていた。
アイルはもっとハーヴェの奥を知ろうと、腰を突き上げてみる。
「ああああああぅぅーっ!」
亀頭の先端が子宮口へと当たり、ハーヴェは天を仰いで悶えた。
それでも腰の動きは止めず、子宮口がぐりぐりとアイルの亀頭に押しつけられる。
二人は調子を合わせるように下半身を動かし、互いが一番気持ちいい動作へと落ち着いていった。
ちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐ、と男性器と女性器がハーモニーを奏でる。
「ふ、はぁっ、もう、僕のチンチン、んんっ、ハーヴェの中で溶けちゃったみたいだ」
「ああふ、んふぅ、そうだね。わたしとアイルの境目、もう分からないよ。んはあっ、ただただ、気持ちいいだけ」
快感と喜びと幸福を生み出すだけの一つの存在となったアイルとハーヴェは、やがて極限へと上り詰めていく。
「ああっ、あん、あん、はあっ、アイル、アイル、アイルッ!」
「ハーヴェ、ううっ、ハーヴェ、くはあっ、ハーヴェェッ!」
限界まで膣に締め上げられ、アイルは堰を切ったように精を放つ。
自分の全てがハーヴェの子宮へと吸い込まれるような、激しく長い射精。
ハーヴェもまた、アイルの全てを受け取り、自分の魂と強固に結びつくのを感じる。
最初の射精が終わっても、二人はまだ愛を交わし続ける。
これからは、物理的に離れる事があっても、二人の絆は永遠に繋がったままだ。
ここに、契約は成立した。
──数ヶ月後。
「あれが敵国の本隊ですか?」
アイルは遠眼鏡を降ろして師匠に尋ねた。その側には、もちろんハーヴェが寄り添っている。
「そうだ。自国の飢饉と経済の失敗を、全て我が国のせいだとして制裁を加えるとかどうとか」
眼前の平野はびっしりと鎧姿の軍勢で埋め尽くされていた。
「ふぅん、だとしたら相当不満がたまってそうですね」
「陛下からは出来るだけ進軍を妨害しろとの命令が下っているが、時間稼ぎくらいにしかならんだろう」
「なんだよギャレス!ようはあいつらをふっ飛ばせばいいんだろ?」
ギャレスの炎の精霊は今にも飛びださんとする勢いで言う。
「落ち着け。いくらお前でもあの数は・・・」
「いえ、僕とハーヴェならやれます。だよな」
「うん、大丈夫」
アイルはハーヴェと視線を交わしうなずいた。
「お前さあ、この戦争どう思うよ」
野営地でたき火を囲んでいた兵士が同僚に尋ねた。
「よくわからん。でも、給料が出るのは確かだ。家で待ってるお袋のためにも稼がないと」
「だよなあ、ウチもガキを食わせてやらにゃならんし・・・」
──それが、ほんとうに、したいことだね
「ん?何か言ったか?」
「いいや・・・おい、そこに何か落ちてるぞ」
兵士は足下で光ったものを拾い上げる。
「こ、こりゃ宝石じゃないか!」
「ここにも、そこにも落ちてるぞ!?」
「ひゃっはあ、こいつを売れば金持ちだ!」
「あの国の女どもっていやあ、色白で美人が多いらしいじぇねえか」
「ああ。戦の楽しみっていやあ、アレしかねえよな。男どもは皆殺しにして・・・」
──えっちなこと、したいの?
「あ?なんだあ?」
かすかな声を聞いて、傭兵達が振り返るとそこにはいつの間にか魔物達の姿があった。
「あらぁ?何となくこっちに来てみたらたくましそうなオトコが沢山じゃない」
「うふふ、私達といいことしましょう」
「ア、アルラウネの群れだと?」
「ほおら、捕まえた。もう逃がさない♪」
「し、指揮官殿!大変です。部隊の士気があちこちでもう崩壊しまくって・・・」
「んひゃあ?参謀かぁ?ヒック」
「うあ、酒臭ッ」
「水樽がぜぇんぶ酒になっちまっててなぁ。ぐぇーっぷ。不思議だなぁ。まあお前も飲め飲め」
「ちょっ、指揮官殿、んぐんぐ」
「・・・おっそろしいな」
ハーヴェの『大地の恵み』を与える力によって、一軍団が完全に無力化されていく光景を見てギャレスは身震いする。
自分の弟子がここまで大規模な魔法を行使できるとは想像だにしていなかった。
「これくらいでいい?アイル」
「上出来だよ、ハーヴェ」
「ごほうび、くれる?」
「もちろん」
アイルとハーヴェは人目を気にせずいちゃつき始める。
以前のアイルなら考えられない行為だが、これもハーヴェと出会ったせいなのか。
「そうだハーヴェ。戦争の原因が飢饉なら、作物を実らせてあげるのはどうだろう」
「うん、できるよ。アイルのしたい事ならなんでも。・・・魔力さえあれば」
「じゃあ、今夜もまた」
「うん、ラブラブしようね」
かくして、ある意味で最強のバカップルが世に放たれたのであった。
おわり
12/03/31 16:44更新 / スノッリ