閉ざされた城にて
ヘリオがルナの住む城に連れてこられてから、三日が経った。献身的な治療のおかげで、少しずつ身体の傷が癒えてきた。
彼女が根城にしている石造りの古城は、ラーディリアの西に十数キロ離れた山の断崖絶壁に建っている。とてもではないが、今のヘリオが逃げ出すことは出来ない。
最初こそ魔物に対する忌避感と勇者としてのプライドから壁を作っていたヘリオだったが、ルナとの語らいを経て少しずつ心を開いていった。
「……それじゃあ、教団の言っていたことは。全部、嘘だったということですか?」
「そうさ。我を含めた魔物は、旧魔王時代から大きく変わった。人間を殺すことも、喰らうこともしない。むしろ、愛すべき存在だと考えているのさ」
反魔物領で生まれ育ったヘリオにとって、ルナの語った内容はまさに青天の霹靂だった。主神教団からは、魔物は人々を堕落させ、貪り喰らう邪悪な存在だと教えられてきた。
だが、たった三日とはいえルナと共に生活したヘリオは、その教えが間違ったものだということを嫌ほど理解させられた。……のと同時に、一つの疑問が生まれる。
「あの……どうして、ルナさんは僕を助けてくれたんですか? 一つも使命を果たせずに、無様に死ぬだけだった僕を」
何故、ルナが自分を助けたのか。ヘリオには、それが分からなかった。ベッドに横たわる少年のすぐ側に置いた椅子に座っていたルナは、微笑みを浮かべる。
「そうだな。理由など一つしかない。我が君を欲したからさ。身も心も、全てを。我の物にしたいと、そう願ったからだ」
そう答えた後、ルナはそっとヘリオの髪を撫でる。サラサラとした手触りを楽しみながら、何故ヘリオを欲したのか……理由を語る。
「三日前のことを、覚えているかい? ラーディリアでのことを」
「……忘れられるわけ、ないじゃないですか。あの日のことは、全部覚えています」
「あの日、君だけが。最後まで誰かを守るために戦っていた。我が身可愛さに仲間を見捨てることなくね。その気高さに、我は心を奪われたんだよ」
ラーディリア攻防戦は当初、ヘリオたちが優勢だった。『特別な洗礼』を施されたヘリオやエリックたちの手で、街に入り込もうとする魔物たちは撃退されていた。
……彼らの仲間である、女性勇者の一人がレッサーサキュバスになってしまうまでは。一人魔物化すれば、もう止められない。
次々と女性の魔物化が引き起こされ、防衛軍は総崩れとなった。その結果、起きたのは……。
「……仕方なかったんです。みんな、魔物に捕まれば喰い殺されると教わっていましたから」
戦意を喪失した男たちは、我先にと逃げ出した。恐ろしい魔物に捕まりたくない一心で、仲間を見捨て、裏切ってでも。
ある者はエリックがしたように仲間を攻撃し、動けなくして囮に使い。またある者は、自分だけが助かるために仲間を魔物に差し出したり。
そこかしこで、裏切りの連鎖が起きていたのだ。そんな中、ただ一人希望を捨てず抗っていたのがヘリオだった。
「でも、君は違った。狂気の熱に呑まれることなく、氷のような冷静さを保ち……我の同胞たちを退け、仲間を助け続けた。まさに、勇者と呼ばれるに相応しい行いだ。だから……」
「……僕を、助けたんですか?」
「そうだ。我はこれまで、数多の宝を手に入れ、コレクションしてきた。煌めく宝石、魔術師たちが生み出した魔法のアイテム、神秘の薬。だが、今となってはそんなものはどうでもいい。君という至宝を見つけたのだから」
ヘリオをそっと抱き起こし、ルナは微笑む。それに対し、ヘリオはどう答えていいのか分からなかった。それだけの価値が自分にあるとは、到底思えなかったのだ。
「さて、話は一旦終わりにして。そろそろ食事にしよう。君も、お腹がすいただろう? いつものように、我が食べさせてあげよう」
「いえ、大丈夫ですよ。もう、自分で食べられますから」
「だめだめ。まだ君の左目は癒えていないんだ。だから、完治するまでは我が食べさせる。いいね?」
ルナはそう言った後、魔法を使って食べ物を載せたワゴンを呼び出す。ふわふわのパンと暖かいスープ、ホルスタウロスのミルクが入ったビンが載っている。
パンを一口サイズにちぎり、この三日そうしてきたようにヘリオに与えようとするルナ。……が、何を思ったのか途中でその手を止めた。
「ああ、そうだ。君の傷も癒えてきたことだし……そろそろ、我のモノになったということを自覚してもらおうかな」
「え、それってどういう……む、んむうっ!?」
意地悪な笑みを浮かべ、ルナはパンのカケラを自分の口に放り込む。数回噛んだ後、疑問符を浮かべるヘリオに口付けをした。
「ん、じゅる、むちゅっ……」
「むう、むうううう!!」
舌でヘリオの唇をこじ開け、柔らかくなったパンのカケラを流し込む。親鳥がヒナにするような、口移しでの給餌。
当然、ヘリオにとっては……これが、はじめてのキスであった。ヘリオがパンを飲み込んだ後も、ルナはしばらくの間少年の口内を舌で蹂躙する。
二人の唇が離れたのは、十分も経った後だった。
「あ、ふあ、ふあああああ……♥️」
「ふふ、どうだったかな? って、聞くまでもなさそうだね。ほら、まだパンもスープもたっぷり残っているよ。全部食べさせてあげる。もちろん、口移しでね♥️」
生まれてはじめての、それも圧倒的な力に組み伏せられ蹂躙されながらのキス。あまりにも激しすぎたソレに、ヘリオが耐えられるはずもない。
完全に力が抜け、抵抗する気力を失ってしまった。そんなヘリオに、ルナは淫らな笑みを見せる。今度はスープを口に含み、もう一度口付けを行う。
その日、食事が終わるまで……ヘリオはずっと、口内を蹂躙されることになるのだった。
彼女が根城にしている石造りの古城は、ラーディリアの西に十数キロ離れた山の断崖絶壁に建っている。とてもではないが、今のヘリオが逃げ出すことは出来ない。
最初こそ魔物に対する忌避感と勇者としてのプライドから壁を作っていたヘリオだったが、ルナとの語らいを経て少しずつ心を開いていった。
「……それじゃあ、教団の言っていたことは。全部、嘘だったということですか?」
「そうさ。我を含めた魔物は、旧魔王時代から大きく変わった。人間を殺すことも、喰らうこともしない。むしろ、愛すべき存在だと考えているのさ」
反魔物領で生まれ育ったヘリオにとって、ルナの語った内容はまさに青天の霹靂だった。主神教団からは、魔物は人々を堕落させ、貪り喰らう邪悪な存在だと教えられてきた。
だが、たった三日とはいえルナと共に生活したヘリオは、その教えが間違ったものだということを嫌ほど理解させられた。……のと同時に、一つの疑問が生まれる。
「あの……どうして、ルナさんは僕を助けてくれたんですか? 一つも使命を果たせずに、無様に死ぬだけだった僕を」
何故、ルナが自分を助けたのか。ヘリオには、それが分からなかった。ベッドに横たわる少年のすぐ側に置いた椅子に座っていたルナは、微笑みを浮かべる。
「そうだな。理由など一つしかない。我が君を欲したからさ。身も心も、全てを。我の物にしたいと、そう願ったからだ」
そう答えた後、ルナはそっとヘリオの髪を撫でる。サラサラとした手触りを楽しみながら、何故ヘリオを欲したのか……理由を語る。
「三日前のことを、覚えているかい? ラーディリアでのことを」
「……忘れられるわけ、ないじゃないですか。あの日のことは、全部覚えています」
「あの日、君だけが。最後まで誰かを守るために戦っていた。我が身可愛さに仲間を見捨てることなくね。その気高さに、我は心を奪われたんだよ」
ラーディリア攻防戦は当初、ヘリオたちが優勢だった。『特別な洗礼』を施されたヘリオやエリックたちの手で、街に入り込もうとする魔物たちは撃退されていた。
……彼らの仲間である、女性勇者の一人がレッサーサキュバスになってしまうまでは。一人魔物化すれば、もう止められない。
次々と女性の魔物化が引き起こされ、防衛軍は総崩れとなった。その結果、起きたのは……。
「……仕方なかったんです。みんな、魔物に捕まれば喰い殺されると教わっていましたから」
戦意を喪失した男たちは、我先にと逃げ出した。恐ろしい魔物に捕まりたくない一心で、仲間を見捨て、裏切ってでも。
ある者はエリックがしたように仲間を攻撃し、動けなくして囮に使い。またある者は、自分だけが助かるために仲間を魔物に差し出したり。
そこかしこで、裏切りの連鎖が起きていたのだ。そんな中、ただ一人希望を捨てず抗っていたのがヘリオだった。
「でも、君は違った。狂気の熱に呑まれることなく、氷のような冷静さを保ち……我の同胞たちを退け、仲間を助け続けた。まさに、勇者と呼ばれるに相応しい行いだ。だから……」
「……僕を、助けたんですか?」
「そうだ。我はこれまで、数多の宝を手に入れ、コレクションしてきた。煌めく宝石、魔術師たちが生み出した魔法のアイテム、神秘の薬。だが、今となってはそんなものはどうでもいい。君という至宝を見つけたのだから」
ヘリオをそっと抱き起こし、ルナは微笑む。それに対し、ヘリオはどう答えていいのか分からなかった。それだけの価値が自分にあるとは、到底思えなかったのだ。
「さて、話は一旦終わりにして。そろそろ食事にしよう。君も、お腹がすいただろう? いつものように、我が食べさせてあげよう」
「いえ、大丈夫ですよ。もう、自分で食べられますから」
「だめだめ。まだ君の左目は癒えていないんだ。だから、完治するまでは我が食べさせる。いいね?」
ルナはそう言った後、魔法を使って食べ物を載せたワゴンを呼び出す。ふわふわのパンと暖かいスープ、ホルスタウロスのミルクが入ったビンが載っている。
パンを一口サイズにちぎり、この三日そうしてきたようにヘリオに与えようとするルナ。……が、何を思ったのか途中でその手を止めた。
「ああ、そうだ。君の傷も癒えてきたことだし……そろそろ、我のモノになったということを自覚してもらおうかな」
「え、それってどういう……む、んむうっ!?」
意地悪な笑みを浮かべ、ルナはパンのカケラを自分の口に放り込む。数回噛んだ後、疑問符を浮かべるヘリオに口付けをした。
「ん、じゅる、むちゅっ……」
「むう、むうううう!!」
舌でヘリオの唇をこじ開け、柔らかくなったパンのカケラを流し込む。親鳥がヒナにするような、口移しでの給餌。
当然、ヘリオにとっては……これが、はじめてのキスであった。ヘリオがパンを飲み込んだ後も、ルナはしばらくの間少年の口内を舌で蹂躙する。
二人の唇が離れたのは、十分も経った後だった。
「あ、ふあ、ふあああああ……♥️」
「ふふ、どうだったかな? って、聞くまでもなさそうだね。ほら、まだパンもスープもたっぷり残っているよ。全部食べさせてあげる。もちろん、口移しでね♥️」
生まれてはじめての、それも圧倒的な力に組み伏せられ蹂躙されながらのキス。あまりにも激しすぎたソレに、ヘリオが耐えられるはずもない。
完全に力が抜け、抵抗する気力を失ってしまった。そんなヘリオに、ルナは淫らな笑みを見せる。今度はスープを口に含み、もう一度口付けを行う。
その日、食事が終わるまで……ヘリオはずっと、口内を蹂躙されることになるのだった。
21/11/27 18:15更新 / 青い盾の人
戻る
次へ