連載小説
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少年と竜の出会い
 ある日のこと。少年――ヘリオは反魔物領にある城塞都市、ラーディリアを守護する主神教団の勇者部隊の一員として戦に身を投じていた。

 街を陥落させ、性の悦びに満ちた堕落の都へ作り替えんとする魔物たちの軍勢と。

「うわあああ、助けてくれぇ!」

「そんなに怖がらないで、お兄さん。あたしとイイコトしましょ? ほら、おちんぽもこんなにビンビンになってる♥️」

「や、やめ……ああああ♥️」

 城壁の外、そこかしこで主神教団に属する騎士や街を守る兵士たちが戦っている。だが、人間よりも圧倒的な強さを持つ魔物に勝つのは不可能。

 一人、また一人とサキュバスやアラクネなどの魔物に捕まり、愛の巣へと連れ去られる。もはや敗北は避けられない。そう悟った者たちは、使命を捨て逃げ出す。

 そうした者たちの中に、とある勇者の一団もいた。ヘリオ少年が属する部隊だ。街から数キロほど離れた荒野で、何やら揉めている。

「待ってください、エリック隊長! 街には多くの民が残っています。彼らを見捨てるのですか!?」

 十二歳ほどの、まだ幼い少年が声を荒げた。可愛らしい顔や栗色の髪、教団から授かった青色の鎧のあちこちに付着した泥が、彼のこれまでの奮闘ぶりを物語っている。

「黙れ、ヘリオ! ガキの分際で、隊長である俺に逆らうつもりか! ラーディリアはもう終わりだ、さっさと逃げるんだよ!」

 街で暮らす者たちのために、最後まで戦うべきだと主張するヘリオ。それに対し、赤色の鎧を着た青年……エリックはそう吐き捨てる。

 我が身可愛さに、無辜の民を見捨てるつもりなのだ。他の勇者たちもみな、隊長と同意見らしく異を唱える者はヘリオしかいない。

「……そう、ですか。隊長たちには失望しましたよ。なら、僕一人で戦いますから」

「本気か? 敵はサキュバスだけじゃないぞ。リリムやドラゴンのような危険極まりない魔物もいるんだ。生還など不可能だぞ!」

「それでも! 僕は戦います。故郷を守れるのなら、この命を主神様に捧げる覚悟です」

 ヘリオはすでに、死を覚悟していた。愛すべき故郷を守るために、殉死する決意を固めている。そんな彼に対し、エリックが取った行動は……。

「そうか、分かったよ。なら、お前に最後の使命を与える。……俺たちが逃げ延びるための、捨て駒になれ。お前ら、ヘリオを斬れ!」

「なにを……うわああ!」

「悪く思うな。魔物は人間の血の匂いに敏感だ。お前を貪り喰らっている間、逃げるための時間が稼げる。安心しろ、教団本部にはお前が立派に戦って死んだと報告してやるからよ。お前たち、行くぞ」

 エリックは自分が逃げ延びるために、ヘリオを裏切ったのだ。滅多斬りにされ倒れ伏したヘリオを置いて、部下と共に逃げていく。

「そん、な……。どう、して。僕は……故郷を、みんなを……守りたかった、だけ……なの、に」

 血だまりが広がるなか、ヘリオは絶望の呟きを漏らす。何一つ成し遂げられず、裏切りの果てに死んでいく。その事実が、たまらなく悔しかった。

 ……だが、天は――いや、魔は彼を見捨てなかった。命の灯火が消えゆくヘリオの元に、羽ばたきの音が近付いてくる。

 最後の力を振り絞り、ヘリオが音のする方へ振り向くと……そこには、金色の鱗を鎧のように纏う、絶世の美女が立っていた。

 背に生えた一対の大きな翼、腰から垂れる太く長い尾。あまたの魔物の中でも、最上位に近い存在。ドラゴンが現れたのだ。

(あは、は……。僕も、ここで終わり、かあ。短い、人生だったなぁ……)

 心の中でそう呟いた後、ヘリオの意識は途切れた。そんな彼を、竜の乙女は抱き上げる。慈愛に満ちた視線を向け、ささやいた。

「……空から、全てを見ていた。少年、君を死なせはしない。我が、君を救おう。その命、潰えさせはしない」

 強い決意の元、竜は翼を広げ空へ飛び立つ。ヘリオの命を救うために。

「……う。ここは……? 僕は、まだ……生きてるの?」

 数時間後、ヘリオの意識がゆっくりと微睡みの中から戻ってきた。それと同時に、自分の視界が半分しかないことに気付く。

 頭の左半分に包帯が巻かれていることを、数分経ってからようやく理解した。痛みを我慢しながら身体を起こし、周囲を見渡す。

 王族が住む宮殿のような、豪華な調度品で飾り立てられた部屋に鎮座する大きなベッドに、ヘリオは寝かされていた。

「ここはどこだろう? 凄く豪華なお部屋だけど……教団の本部じゃなさそうだし。それに、誰が手当てしてくれたんだろう?」

 ヘリオは着ていた鎧を脱がされ、上半身を裸にされていた。全身に包帯が巻かれており、何者かが手当てをしたのが見て取れる。

 だが、あの状態から街の人間が自分を救い出したとヘリオは思えなかった。魔物たちの襲撃を避け、重い鎧を着た自分を担いで街に戻る。

 あの戦乱の最中でそんなことを実行出来る『人間』はいない。だが……。

「目が覚めたか。どうだ、痛みはマシになったかな?」

「! お前は……ド、ドラゴン!?」

「そうだ。我の名はルナ。空を支配する、偉大なる黄金の竜。よろしくな、ヘリオ」

 部屋の扉が開き、竜の魔物……ルナが入ってきた。ベッドの側に立ち、鱗の同じ金色に輝く瞳をヘリオに向けて笑みを浮かべる。

 一方、ヘリオの方は脂汗をダラダラ流していた。何せ、主神教団の司教からドラゴンの恐ろしさを嫌というほど聞かされていたのだ。

「ぼ、僕を……食べるのか? その爪で、僕を引き裂くつもりなんだな!」

「ふむ、何か勘違いしているようだね。そんな野蛮なこと、我はしないさ。主神教団は、そういうふうに我の種族について教えたのかな?」

「え!? なんで、それを」

「見ていたからさ。戦いが始まってからずっと。ヘリオ、君だけを見ていた」

 微笑むルナに言葉をかけようとするヘリオだったが、途端に力が抜けてしまう。治療してもらったとはいえ、まだ完治とはほど遠い。

 ルナはヘリオの身体を優しく抱き、そっとベッドに寝かせる。大きな爪で器用にヘリオの頭を撫でながら、慈愛に満ちた声でささやく。

「今は眠るといい。傷を癒すのが最優先だからね。親睦を深めるのは、次に君が起きてから。おやすみ、ヘリオ」

 これまで会った大人たちの誰とも違う、純粋な優しさに触れたヘリオはそれまで抱いていた恐怖や敵意が急速に消えていくのを感じた。

 微睡みの中に落ちていきながら、心の内で呟く。

(もし、僕にお母さんがいたら……こんなふうに、優しくしてくれたのかな)

 直後、ヘリオの意識が闇に沈む。ルナに見守られながら、ヘリオは再び眠りに落ちていった。
21/11/27 00:46更新 / 青い盾の人
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■作者メッセージ
皆様はじめまして。みょんみょんシールドと申します。はじめてのSSを書かせていただきました。先輩の方々に読んでいただければ幸いです。

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