いきなり異世界なんて言われても byクレス
「・・・ス、・・・レス、ク・・・ス。」
ゆさゆさと揺らされる俺の身体。
その振動でぼやぁっとした俺の意識が徐々にまとまっていく。
あれ・・・?俺、何していたんだっけ?
確か帝国との戦争に出て・・・。
そうか、俺は戦場にいるんだ。
キュリアスと一緒に帝国のリザードマン部隊と交戦しているんだ。
その真ん中でこうやって寝ている俺って・・・。
やばいぞ!!
このままだとすぐに刺し殺されるか、切り殺されてしまう。
リザードマンの鱗まみれの肌と鋭い牙、ギョロっとした鋭い目を思い出してしまった俺は焦りながら自分の意識を叩き起こしてハルバードを構えた。
「くっ!?・・・あれ?」
「あ、クレス起きた。大丈夫?」
勢い良く起きたのはいいが、眼前に広がる光景に肩透かしを食らう。
広がっているのは血生臭い戦場じゃなく、のどかな森。
鳥がヒヨヒヨ鳴き、涼やかな風が吹き通る。
ここは・・・、どこだ・・・。
「どしたのクレス?」
俺の横にはブカブカの白いローブを身につけた青い髪の少女がいた。
背は俺より小さくて、顔立ちは幼い、とても可愛らしい女の子である。
「君が・・・。俺を助けてくれたのか?」
「何を言っているの?当たり前だよー。頭でも打った?」
「ありがとう。お陰で助かった。」
「むぅ・・・。面と向かって言われると恥ずかしいな。ボクとクレスの仲じゃないか。」
・・・あれ?
俺一回か名乗ったっけ?
それに俺との仲って・・・。
「失礼だけど、どっかで会ったことある?」
「ひどい冗談だなぁ、いっつも一緒に行動してたじゃん。」
・・・ますますわからない。
でも、さすがにこれ以上聞くのは失礼かな。
そう思った俺は話題を変える。
何にせよ、他の会話をしていれば思い出すかもしれない。
「俺と一緒に青いドラゴンを見なかったか?キュアリスって名前なんだが・・・。」
「はぁ?ここにいるじゃん。」
「どこ?」
「こ〜こ。」
そう言って自分を指さす少女。
おいおい、冗談きついぜ。
「俺が探しているのは女の子じゃなくて、ドラゴンだ。」
「どうかしたの、何かおかしいよ?やっぱり頭でも打ったんじゃない?」
俺はふと彼女の首元を首元を見る。
どこかで見たことのある形状のアクセサリーだ。
彼女の首には大きすぎて、胸元までダラリと垂れ下がっている。
それに『キュアリス』としっかり彫られていた。
間違いない、俺がキュアリスにつけてやったネームタグである。
それにあの純白色のローブ。
最初見たときはローブに見えたが、よく見るとマントのようになっており、それを首にグルグルと巻きつけていた。
しかもそれは、キュアリスが巻いていたパルフィン(竜の首に巻きつける大きな布、戦場で所属を判別するためのもの)だ。
その証拠にしっかりと連合のマークがついている。
まさか・・・。
「ちょっとゴメン。君の名前教えてくれないか?」
「クレス、そろそろ怒るよ。」
「いいから頼む。」
「・・・もしかして記憶喪失?ボクだよ、キュアリスだよ。覚えているよね?・・・って何でそんなにビックリしてるの?」
「あれ、お前って♂じゃ・・・?」
「何言ってるの、そうだよ。」
「自分の姿見てみたか?」
「へ?」
彼女は自分の姿を触って確認する。
手は竜のそれと同じだが、身体は人間の女の子。
少女はサラサラの青い髪、白くもちもちした頬、控えめな胸という順で触り始める。
何かに気付いて慌てた少女はパルフィンをたくし上げ、つるつるした自分の恥部を覗き込んだ。
おいおい・・・、俺にも見えてるぞ。
というか、ノーパン。あの下は裸なのか・・・。
「え、え?ええええええええっ!!!」
少女の驚愕の悲鳴が響き渡る。
俺はその瞬間確信した。
この少女はつまり・・・。
「ク、ククククレス!!ボクの(自主規制1)がっ!!ボクの(自主規制1)がないっ!!それに(自主規制2)もないよっ!!」
「落ち着け、見せるな、広げるなっ!!それに女の子が(自主規制1)とか、(自主規制2)とか言うんじゃない!!つーか、驚くのそこ!?」
「ボクは男だって!!ふえぇえーーーっ!!ボクの(自主規制1)がないよぉーーーーっ!!」
どうやらコイツは俺の親y・・・、親竜のキュアリスのようだ。
何で人間の姿をしているのかわからんが、ドラゴンが人間の姿になるなんて聞いたことがない。
取り乱すキュアリスを落ち着けて、話し合う。
「さて、まず一回状況を整理しよう。」
「うん。」
「俺達は帝国のリザードマン部隊と戦っていた。そして奇妙な裂け目のようなものに吸い込まれた。ここまでは覚えている。それ以降は全く思い出せないんだ。キュアリスは何か覚えているか?」
「全くない。」
キッパリそう言いきるキュアリス。
いや、そんな清々しいどや顔されても・・・。
「じゃあ、目を覚ましたらここにいて、お前はその姿だったんだな?」
「うん。」
「ここはどこだかお前にもまったく、さっぱりわからないのか?」
「さっぱりわからない。」
だから、そんなに自信満々に言うなと。
というか、何故コイツは正座してるんだ・・・?
「おそらく帝国の転移魔法、もしくは兵器だろう。あんなのが連合の作戦にあるなんて俺達はまったく聞いてないからな。」
「うん、ボクも知らない。クレスの言うとおり帝国の仕業だろうね。」
「まったく・・・、俺がいくら脅威だからってあんなモノを使わなくてもいいのにな。リザードマン部隊は俺をおびき寄せる作戦だったのか。」
「それはない。」
だからそんなにハッキリと(ry
まあ、冗談はこれくらいにして。
「これからどうする?」
「とりあえず町や村を探そうよ。ここがどこなのか、まず知らないと。」
「そうだな。それにお前もいつまでもその格好でいられないし。まずは人のいるところを探してみるか。」
―――――――――――――――――――――――――
森の中で馬車の荷車の車輪跡を発見した俺達は、それを辿って進んでいった。
おそらくこれで町に出られるはず、という予想は的中。
結構大きい町が見えた。
どこの町かは知らんがかなり発展している。
「クレスクレス。」
「ん?」
「その鎧脱いだほうがいいんじゃないかなぁ?」
「どうしてだ?」
「だって、もしかすると帝国の支配下かもしれないんだよ。そんなの着てたら捕まっちゃうよ。」
「・・・それもそうだな。」
確かにこんな連合のマークがでかでかとついている鎧を着ていたら、「自分は連合の人間です。」と公言しているようなものだ。
脱いでいったほうが無難かもしれない。
「じゃ、俺が先に様子を見てくる。それで帝国の町かどうかを確認してくるよ。もし帝国の支配下なら、お前もそのパルフィンを着て町に入れないだろ?」
「そうだね。じゃあ、ボクが鎧を預かっておくから先に見てきてよ。」
「おう。」
俺は鎧を脱ぎキュアリスに預ける。
キュアリスは鎧を受け取り、大きく「いってらっしゃーい。」と手を振った。
「さて・・・。まずはここが連合の都市なのか帝国の占領都市なのかを知らないとな。」
町に入った俺はウロウロと大きい通りを歩き回る。
しかし平和な町だな、とても戦時中とは思えない程に。
俺達がいたグレノーダ連合の首都ミルフーリアだってこれほど活気付いてはいない。
よほど戦場から離れてるのか?
キョロキョロともう一度周囲を見回してみる、
どこにも帝国旗がかかっていない事から、おそらく帝国の支配下ではないらしい。
念には念を入れて、近くを通りかかった女性に話を聞いてみる。
「あの〜、すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが・・・。」
「はい、何でしょうか?」
女性の頭には猫の耳がピコピコ動いている。
下半身には尻尾もついていた。
おそらく亜人なのだろう。
今まで亜人を見たことがない俺は驚いて半歩後ずさりしまう。
「俺は現在旅をしているのですが、地図をなくして迷ってしまいここがどこだかわかりません。ここはなんていう町ですか?」
「ああ、旅の方ですか。ここはエフレーム大陸で一番大きい学芸都市、フォルヘストですよ。」
エフレーム大陸・・・?
聞きなれない地名に首をかしげてしまう。
・・・俺が聞いたこと無いだけなのかもしれない。
ったく、こんな事になるなら騎士団学校でちゃんと地理の授業を受けておくんだった。
「ここって帝国の都市なんですかね?」
「帝国?」
「デル・アランジ帝国ですよ。ほら、世界の3分の2を手中に収めている・・・。」
「ごめんなさい。そんな国、聞いたこと無いです・・・。」
申し訳なさそうにうつむく女性。
帝国を知らないって、そんな馬鹿な・・・。
あれだけ猛威を振るっているんだぞ、知らないわけがない。
かと言って、この女性が嘘を言っているようには見えないし・・・。
しばらくうつむいていた彼女がいきなり顔を上げて手をパンと叩く。
何かいい案が思い浮かんだようだ。
「そうだ!!クルッコス王立図書館へ行ってみればいかがでしょうか!?そこになら地図もありますし、その帝国とやらがわかるかもしれませんよ!!」
「図書館・・・?」
「はい。この大陸で一番大きい図書館です。そこになら世界地図もありますし、その帝国のこともわかるかもしれません!!」
なるほど。行ってみる価値はありそうだ。
ここらへんで話を聞くより図書館のほうが効率はいいだろう。
とりあえずそのクルッコス王立図書館という場所に行ってみるか。
何か手がかりが掴めるかもしれない。
「ありがとうございました。」
「こちらこそお役に立てなくて申し訳ないです・・・。」
「いえいえ、助かりましたよ。では、俺はこれからその図書館へ行ってみたいと思います。」
俺はペコリと頭を下げて女性から離れる。
亜人の女性も一礼した後、スタスタと去っていった。
どうやらここは帝国の支配下ではないようだ。
町中が驚くほど平和である。
この世界にもまだ戦火のない町があるのか、と思うと不思議と嬉しくなった。
よし。キュアリスを連れて図書館へ行ってみよう。
そう思い歩き始めた瞬間、俺は無意識に鼻歌を歌いだした。
―――――――――――――――――――――――――
「うわ〜、広ーい!!」
あまりの広さに自然と大声で驚くキュアリス。
ポカンと口を開けて驚く姿に一瞬、目を奪われる。
落ち着け俺、アイツは♂だ。
読書にふけっていた数人が、ぱっと顔を上げてこちらをにらみ付けた。
真っ赤になりながらキュアリスは頭を下げる。
まあ無理もない。
確かにこんな大きい図書館見たことないよな。
騎士団学校にも図書館はあったがこれほど大きくはない。
「クレス。何を探しに来たの?」
「地図だ。全大陸が乗っている世界地図。とりあえずここエフレーム大陸がどこにあるのか調べなきゃ。」
「エフレーム大陸?聞いたことがないよー。」
「俺もだ。だからこうして図書館に来たんじゃないか。」
俺は本棚の本を指でなぞるように探す。
地図・年表と書かれた本棚なのでおそらく世界地図はここにあるはずだ。
オルストス皇王国歴史年表、世界歴史年表、ガルジャッダ反乱秘録・・・。
・・・お、あったあった。
「世界地図辞典」、これならのっているはずだ。
俺はパラパラッとページをめくり、世界地図が大きく掲載されているページを開く。
キュアリスも俺と本の間に入り、覗き込んだ。
・・・が、その瞬間俺達は凍りつく。
「おい・・・、嘘だろ・・・?」
「え?え・・・、え?これ、どこの地図・・・?」
ページを開いた瞬間に気付く。
俺達が見知った世界地図とは全く異なることに。
センギア・ベルド大陸もグルテンソーズ大陸も、一番大きいフェルスット大陸もこの地図には載っていない。
俺達は慌てて他の本も見てみる。
どれだけ調べても「世界地図辞典」と同じ世界地図ばかりで、俺達が見知った世界地図が出てこない。
「おいおいおい、どうなってんだ?」
「ボクにもサッパリ・・・。」
頬をつねってみるが、痛みが残るだけで目が覚める気配はない。
夢じゃない・・・のか・・・。
「おかしいぞ・・・。どこを探しても帝国の事も連合の事も書いていない。」
「ねぇ、もしかしてボク達・・・。」
キュアリスが目を丸くして言う。
おそらく俺の考えていることとキュアリスの考えていることは同じ。
だが、それを口に出すのが怖い。
それを認めてしまったら俺はこれから先、どうしていいのかわからなくなる。
「ボク達・・・、もしかして違う世界にいるのかな・・・?」
何故だろう。
キュアリスのその一言がとても遠くに聞こえたような気がした。
10/08/26 23:49更新 / アカフネ
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