襲来、紅き翼。
ただ全てが憎い。
俺様が狩るべき魔物という存在も、俺様を産み出したクソッタレ共も。
自分の記憶の始まりは薄汚いフラスコの中だった。
今となってはもう、記憶の片隅だが。
その時はまだ自分の身体などなく、何より自分が清らかな存在に感じた。
甘美な、そして恍惚な時間の中に俺はいた。
あの時ほど神に感謝したことはない。
やがて俺に肉体という檻ができていく。
その時からだ、俺の過ごしていた美しい時の流れが壊されたのは。
自分がどんどん汚されていく錯覚、拷問のように続く苦痛。
優美な時の流れなどない。
命を投げ出せるものなら今すぐ投げ出してしまいたい、そう思った。
苦痛にもがき苦しむ俺様を蔑むかのようにフラスコを覗き込むのはクソッタレ共。
その視線には感情がなく、石ころを見るような目だった。
見るな!!そんな無機質な目で俺様を見るんじゃねぇ!!
急に今まで見ていた光景が消え、早朝の薄暗い部屋でゆっくりと目を開けた。
夢・・・、か。
寝覚めが悪すぎて吐き気がしてくる。
ゆっくりと身体を起こし、自分の背中を見た。
背中には天の使いであること証明する翼がついている。
しかし、俺様のは純白ではない。
例えるなら魔物の臓物を引き裂き、そこから流れ出たようなドス黒い赤。
いや、紅と読んだ方が正しいのかもしれない。
「レザエル様、ご起床の時間でございま・・・。おや、もうすでに起きておられましたか。」
部屋のドアが開き、見飽きた修道服の男が入ってくる。
不機嫌なこちらの表情とは対照的に、修道士は媚びへつらう笑みを浮かべていた。
「おはようございますレザエル様。今日はリザノール粛清の日ですのでご起床ください。」
「ああ・・・、わかっている。」
「ご朝食は今用意させております。今日の献立はガーリックトーストと海草のマリネと・・・。」
「うるさい。用が済んだのなら出て行け。」
俺様の怒声に修道士はたじろぐ。
逃げるように部屋から出ていった。
再び部屋に静寂が戻る。
俺は不快な気分を吹き飛ばそうと大きく背中の翼を広げた。
鏡に映ったその姿は名画などに描かれる天使の姿とそっくりである。
しかし何かが足りない。
何かが違う。
干上がった身体が欠落した何かを欲しがっているのは理解できた。
それが何なのかはわからない事に怒りを覚える。
まあ、いい。
幸い今日は粛正の日だ。
この怒りと枯渇、全てヤツ等の命で償わせよう。
純白のローブを肩にかけ、俺様は部屋を出た。
「このお肉、おいしー!!」
「本当、こんな美味しい料理今まで食べた事ないわ。さすが評判のお店ねぇ。」
全員がテーブルの上にのせられた料理を黙々と食べている。
確かにこんな美味い料理は初めてだ。
テテスがいつも作ってくれる料理もかなり美味い。
だけど、これは格が違う。
一つ一つの料理が芸術品のようだ。
修行時代に師匠が作ってくれた料理とは天と地、いや太陽とチリぐらいの差がある。
信じられるか?
師匠が作るカレーは固形なんだぜ。
食べる時にゴリゴリって音がするし、工業用排水みたいな味が広がる。
生死の境を何度も往復した修行時代の思い出。
思い出したくもない記憶に一人頭を抱えた。
「皆いい食べっぷりだねぇ。こりゃ作った私も嬉しくなるよ・・・って、お兄さん顔青いけど大丈夫?食べ過ぎた?」
「い、いや。思い出したくもない記憶が蘇ってきただけさ。」
この若い妖狐は俺達が今食事している『銀のナイフ食堂』の店主で、名前はシアさん。
現在、俺達はリザノールという町にいる。
カルカロス王国への道から外れてるので本当なら来る必要の無い場所だが、魔物達の間でこの『銀のナイフ食堂』は評判が良いらしく半ば強制的に連れてこられた。
「そうかいそうかい、何ともないなら安心ね。それじゃ・・・。」
シアさんはそう言って、ストンと俺の隣に腰をおろす。
それから彼女はエプロンを外し服のボタンに手をかけた。
「・・・何をしている?」
「いやぁ。私の料理を食べてもらったから次はお兄さんの味をみてみようかな、と。あてっ!? 」
無言で頭頂部に手刀を打ち込む。
やれやれ、またこのパターンかよ。
ここリザノールは魔物だらけの町だから、こういう事があるんだろうなと薄々予期していたが・・・。
胸の奥から湧き出るため息を禁じえない。
「いいじゃない!!もう一ヶ月もご無沙汰なのよ!!
「逆ギレするな。ここは食堂だぞ。いいのかよ、そんな事して。不衛生だぜ。」
「ここは料理も私も食べられるお店ですっ!!」
何だその営業理念は。
シアさんの息が徐々に荒くなっていく。
すっかり発情しているようだ。
目が正気のものじゃない。
俺はテーブルにいる仲間に助けを求める。
「誰か助けてくれ・・・。」
「あ、このサラダおいしいぞ。ティタンも食べてみなよ。」
「頂こうかしら。・・・ん。ドレッシングにスパイス効いてるわ、最高ね。」
「ボクにもちょーだい!!」
「セシリアちゃん、こっちに同じのありますから食べていいですよ。」
「わーい!!」
誰も助けてくれないようだ。
な、泣いてなんかいないだからねっ。
シアさんは六つの尾っぽを器用に絡みつけ、俺の手足を抑える。
生暖かい息を荒げながら、艶っぽい目元を細くして俺の上に跨った。
やばい、犯られる・・・。
「きゃああああああああああっ!!!」
店の外から女性の甲高い断末魔が響いた。
その声は恐怖の色に彩られている。
明らかに緊急事態だ。
俺達はテーブルを立ち上がり、店の外へ転がり出る。
ボトッ!!
「ッ!?セシリア見るな!!」
店から出てきた俺の足下に赤黒い何かが飛んできた。
俺は慌ててセシリアの瞳を手で隠す。
今俺の足下に転がってきたものは、血で染まったハーピーの頭。
おそらく先程、断末魔を上げたのはこの人だろう。
あまりにも惨い光景に吐き気を憶えた。
首と離れた胴体は、教団の白いローブを肩にかけた男の前に転がっている。
その男の背中からは血のような赤い翼が・・・。
魔物・・・、ではないみたいだ。
男はハーピーの身体を足で踏みつける。
「弱い。弱い弱い弱い!!やっぱ汚物はこの程度かよ。」
何度も何度もハーピーの身体を踏みにじった。
期待はずれ、とでも言わんばかりに腹立たしげな表情をする。
「あいつ・・・、魔物か?」
「わからん。だが、ただ一つだけわかった事がある。ヤツは俺達とわかり合えそうな人種じゃないって事を。」
すると、不満そうな白いローブの男の隣に一人の修道士が立った。
オッホンと大袈裟な咳払いをして、左手を高らかにあげる。
「この方は主よりつかわされた使徒、レザエル様であらせられる。この穢れた世界を憂い、我々人間を救うためにこの世に顕現なされた正義の断罪者である!!我々は主の命に従いこの町の粛清に参った!!」
「・・・粛清?」
「魔物に加担するものには死あるのみ!!天に代わって罰を与えよう!!」
わかっていた事だが、どうやら話し合いで解決しなさそうだ。
あちらは準備万端とばかりに剣や杖を構えている。
レザエルっていう奴を含めて・・・7人か。
勝てない戦いじゃなさそうだ。
「よし、ティタンは魔法で援護!!俺とテテスとエフィは前へ行く!!」
「了解っ!!」
「わかりましたっ!!」
「任せてダーリン!!」
「ボクもティタンお姉ちゃんと一緒に魔法での援護をするよっ!!」
セシリアがティタンの横で杖を掲げる。
ティタンと一緒なら多少なりとも体術の心得があるから安心だ。
「ほう、戦う気か?数は我々の方が上だぞ。更にこちらはレザエル様がいらっしゃる。ちょうどいい見せしめだな。」
その言葉を皮切りに教団の騎士が俺達に襲ってくる。
鋼と鋼がぶつかる音が響きあうまでに数十秒とかからなかった。
「これで6人っ!!!」
俺は6人目の騎士の腹に剣の柄を叩き込む。
騎士の身体は崩れるように倒れた。
これでレザエル以外の敵は全員ノックアウト。
残るはレザエルだけ。
ところが、ヤツは一度も戦いに参加していない。
ずっと俺達が戦っているのを見ていた。
「レ、レザエル様・・・。どうか、どうか貴方様のお力を我々にお貸しください・・・。」
修道士の一人がボロボロの身体を引きずりながら、レザエルに縋りつく。
レザエルは修道士に目を向け、ポツリと一言口を開いた。
「うぜぇよ。」
「はい?・・・ぃ、ぎゃあああああ!!??」
ヤツの言葉と同時に修道士の左手は鮮血を散らしながら胴体を離れた。
何が起こったかわからず、オドオドする修道士。
レザエルは右手に血に塗れた剣を握り締めている。
再度剣を振り上げ・・・。
「弱い生物に興味はない。」
レザエルの振り下ろした剣はそのまま修道士の首をはねた。
右手と首から上をなくした胴体は力なく倒れる。
しかしヤツは表情一つ変えない。
「何て奴だ・・・、自分の仲間を・・・。」
エフィの奥歯がギリリと音を立てる。
レザエルは背中の翼をバサッと広げて、俺達と向き合った。
「この役立たず共よりは強いようだ。せめて三分ぐらいはもたせてくれないと面白くないぞ。」
紅蓮の翼に紫炎が宿る。
高濃度の魔力が肌を焼くように伝わってきた。
何故かヤツは剣をそのまま先程の男の死体めがけて突き刺す。
翼と同じ色の鮮血が飛び散る。
その光景を見ないよう反射的にギュッと目をつぶってしまった。
すると、すぐに剣を突き刺した部分から白い光球が飛び出す。
光球はしばらくぷかぷかと宙を彷徨った後、レザエルの剣に吸い込まれた。
レザエルの剣が薄い紫光を放つ。
「やはりこいつじゃこんなもんだろうな。次はこのゴミだ。」
剣を男の死体から引き抜くと、次はハーピーの屍に突き刺し光球を取り込んだ。
先程より若干だが紫炎の勢いが強くなっている。
何が起きているんだ・・・?
「やはり魔力はこの汚物の方が上だな。」
「・・・一体、何をしている?」
「答える義務はない。が、今は機嫌がいいから答えてやるよ。こいつ等の魂を再利用しているのさ。」
「・・・再利用?」
「どんな生物にも多かれ少なかれ魂に魔力を持っている。そんなクズみたいな魔力を魂ごと吸い込んで、俺の魔力の一部にする。すぐにお前達も同じように俺様が再利用してやるよ。」
あまりの残虐さに俺の怒りがボコボコと沸き立つ。
剣をギュッと握りしめレザエルに向けた。
ヤツはそんな俺の様子を見て、好戦的な笑みを浮かべる。
背中にゾクリと嫌な悪寒が走った。
レザエルは翼で羽ばたくように切りかかってくる。
速いッッ!!!
一瞬で間合いを詰められた。
そのままヤツは思い切り剣を振り下ろす。
ガードしてカウンターと思ったが、あまりにも重い剣撃にガードするのが精一杯だ。
基本に忠実で研ぎ澄まされた一撃。
狂気に満ちた瞳と対称的で、そして何よりも人を殺すのになれた一撃。
そこにためらいや迷い、温情などが入る隙間はない。
ヤツは素早く二撃目を振り下ろし、そこから三、四と技を繰り出した。
「どうしたぁ、その程度か!?」
「・・・くっ!?」
これだけ縦横無尽に剣を振っているのにまったく隙がない。
一瞬でも気を抜くと俺の首が飛ぶ。
俺は息を整え、機を待ち続けた。
「カイ、大丈夫か!?今行く!!」
「来るな!!コイツ口だけじゃないぞ!!」
「なんだ、もう命を諦めたのか?ならおとなしく死ぬんだな!!」
今だっ!!
口を開いた瞬間、わずかな隙が出来た。
まさに攻守逆転のチャンス。
この一撃で勝負を決める!!
「秘剣壱式 鳴!!!!」
「・・・ッ!!?」
レザエルは急に立ち止まる。
剣は完璧にヤツの左腕にダメージを与えていた。
ティタンの時はかすっただけだったが、今回は完璧にヒットしている。
おそらくあの時の何倍もの威力だ。
勝負あったな。
「くっ、うぉぉぉぉああぁぁぁ!!??」
左肩、右腕、右脇腹、の順にレザエルの身体から血が噴き出す。
下手をすると死んでしまうかもしれないが、相応の報いというものだ。
悲痛な叫びがあたりに響き渡る。
「うっ、くうっ!!・・・ふ。」
ニヤリと笑うレザエル。
嘘だろ・・・?
まさか『鳴』を耐え切ったのか・・・?
「ふ、ふははははははははッッ!!やっと、やっと出会えた!!俺を満足させられる敵!!そこらへんのゴミ共とは違うヤツに!!」
レザエルは楽しそうに笑う。
まるで心待ちにしていた玩具が自分の手に入った時の子供のように。
「これだ、この感覚だッッ!!背中をゾクゾクと這い回るような緊張感!!俺様が殺されるんじゃないかという恐怖!!ここまで抗ったのはお前が初めてだ!!やっと・・・、やっとあの技で殺すに値するヤツが出てきたぞ!!」
ナイフのように鋭利な殺気が強くなった。
それにさっき以上の魔力が両翼に込められている。
背中に流れる汗が冷たい。
「お前の名前を聞かせろ。」
「名前・・・?何故だ。」
「理由などない。ただ聞きたいだけだ。」
「カイ・・・。カイ=シュターゼンだ。」
「覚えておこう。俺様の渇き、貴様の血で満たしてやる。」
魔力が翼に集まっていく。
紫色の炎がゆらめきながら燃え上がった。
ハッタリなんかじゃない、本当の全力。
レザエルは狂気の笑みを浮かべる。
「漆黒の世界(the world of black)=v
膨大な魔力が両翼から放たれる。
俺の視界はその光景を焼き付けたままブラックアウトした。
「どうしたの、ダーリン・・・?」
「一切倒れて動かなくなった・・・?死んだのか・・・?」
「死んではいない。だがもうすぐ死ぬ。視覚や聴覚などの五感、それらを全て魔力で制限した。直に心臓も動きを止めるだろうさ。」
カイの身体はピクリとも動かない。
もしかしてもう・・・。
最悪な結末が頭をよぎる。
「こ、このぉっ!!!」
ワタシは怒りの衝動のまま、槍をレザエルに向けて突き出す。
しかしヤツはワタシの槍をヒョイと避け、剣を思い切り振り下ろした。
「弱いくせに。汚物共には力の差というものがわからないのか?」
「ひっ・・・!?」
「あぶない!!」
セシリアの声とともに目の前に防御魔法が展開される。
レザエルは腹立たしげに大きく舌打ちをした。
助かった・・・。
「まあ、いい。アイツのトドメは俺様がさす。」
そう言って、レザエルは剣を構えて倒れているカイに近づいていく。
ドゴッ!!
ティタンが軽い身のこなしでヤツに攻撃を仕掛けた。
いきなりの奇襲にレザエルの身体は軽くよろける。
よろけた隙にテテスが大振りした槌を叩き込んだ。
「ダーリンには指一本触れさせないわ!!」
「そうですよ。アタイ達がカイさんを守ります!!」
体勢を立て直したレザエルはワタシ達に向かって怒りを露にする。
なんて殺気なの・・・?
瞳孔が開いた鋭い目で睨みつけられ、足がピクリとも動かない。
憎々しげに翼を大きく震わせ、魔力のこもった突風を生み出した。
「ゴミ共が邪魔をするんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!!」
「キャッ!!?」
「くっ!!」
テテスの小さな悲鳴。
突風が生み出したかまいたちにより身体中がズタボロになる。
深紅の血が身体の各部位から滲み出した。
これが力の差・・・。
絶望するワタシ達の身体は突風で吹き飛ばされ、民家の壁に叩きつけられた。
「さあ、これで最後だ。お前の魂頂くぞ。」
歪んだ笑みでカイの横に立ち、刃を真っ直ぐカイの身体へと振り下ろす。
それから全てがスローモーションに見えた・・・。
一体、ここはどこだ・・・?
俺はどこにいる?
真っ暗な闇の中、俺は一人だった。
「もしかして俺は死んだのか・・・?」
『お前はまだ死んでないぜ。まだ、な。』
「ッ!?誰だ!?」
『俺か?』
暗闇の奥の方からコツコツと足音がする。
そこに現れたのは・・・、俺。
鏡の中の自分だった。
「ッ!!??」
『おや、驚いているのか?ここはお前の中だぞ。』
「何故・・・?」
『何故って・・・、お前はもうすぐ死ぬんだよ。』
「は!?」
『レザエルがお前に向けて、剣を振り下ろしている。お前はそれで死ぬんだ。』
「嘘・・・、だろ・・・?」
『嘘じゃない。ここでお前の人生は終了だ、お疲れ様。』
自分から告げられたあまりに無情な一言。
言葉がうまく出てこない。
ただ言えたのは二文字の言葉だけ。
「ヤダ・・・。」
『諦めろ、お前に希望はない。もっともお前がこんな所で寝ている限り、な。』
「起こしてくれ・・・、頼む・・・。」
そうしてもう一人の自分は姿をフッと消す。
涙を流して自分の過去を振り返った。
辛かった修行の日々、師匠の無理難題、免許皆伝の日・・・。
これが走馬灯・・・。
俺、もうすぐ死ぬんだな。
そう悟った俺はそのまま流れ続ける走馬灯を見続ける。
エフィとの出会い。
テテスがいた盗賊団。
ティタンとの死闘。
セシリアの裁判。
全てが流れて、消えていく。
「カイ。」
「カイさん。」
「ダーリン。」
「お兄ちゃん。」
ふと走馬灯の中に四人の笑顔が見えた。
今、俺が一番守りたいもの。
そして、一番愛おしいもの。
気がつくと俺は涙をぬぐって立ち上がっていた。
そうだ、俺はまだ死ねない!!
死ぬわけにはいかないんだ!!
ギィンッ!!!!
甲高い鋼が交わる音。
垂直に振り下ろされる剣を、思い切り俺の剣で横になぎ払った。
剣は俺の横の地面に突き刺さる。
「何っ!!!??」
「うおおおおおおおおおおっ!!」
面食らった表情のまま、レザエルは動きを止めた。
周囲の音はまったく聞こえない。
自分の鼓動の音がうるさいぐらいはっきり聞こえる。
剣の先がまるで自分の一部に感じた。
「秘剣肆式 歪(ゆがむ)!!!!!!」
思い切り剣をレザエルの頭目掛けて振り下ろす。
ヤツは右腕につけたガントレットで剣を受け止め、頭への直撃を回避した。
「外した・・・っ!!!ガハッ!!!」
俺は全ての力を使い尽くし地面に倒れる。
『漆黒の世界』のダメージが全身にきているらしい。
指一本動かす余力もない。
「くそ・・・、起き上がるとは予想外だった。でも、これでっ!!!」
レザエルはトドメをさそうと、右手を振り上げる。
が、いつまで経っても振り下ろされない。
ヤツは不審に思い、自分の右腕を見た。
そして悲鳴を上げる。
剣を受け止めたレザエルの右腕は肘から上が原型をとどめていない。
関節ではないところが曲がり、ところどころ骨が出てバックリと裂けている。
秘剣肆式は残虐な技。
剣の当たった部位を容赦なく破壊しつくす、外道の技だ。
「うがぁあああああぁぁぁああっ!!!痛ぇ・・・!!痛ぇ・・・。」
レザエルは右腕をかばいながら、後ずさりする。
もはや最初の余裕の表情はどこにもない。
憎悪に満ちた瞳で倒れている俺の身体を見た。
「許さねぇ、許さねぇぞ!!」
ヤツは震える声でそう言う。
狂気に満ちた表情を浮かべていた表情が、今は苦痛に歪んでいた。
「次会ったときには覚えていろ!!お前の首を刈り取ってやるからな!!」
紅く染まったローブを引きずり、教団の騎士を蹴り起こす。
教団の馬車に乗り込み去っていくレザエル。
俺はその光景を見届けた後、地面に這いつくばったまま力尽きた。
10/08/29 01:01更新 / アカフネ
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