連載小説
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女だらけの遺跡探検。

「本当にすごい所ですねぇ・・・。」

テテスが額に汗を浮かばせながら、そう言う。
ワタシ達はベルメイト地方の古代遺跡の一つであるリースト神殿遺跡に来ていた。
何故今回ワタシ、エフィが進行役なのか。
理由は単純、カイが不在だからだ。
カイにしては珍しく風邪でダウンしている。
熱は下がっていたのでついて行くと言っていたが、大事になっても困るので無理矢理「首都ヨルムンガルド」にいるよう言いつけた。
納得のいかない顔をしていたが、仕方のないことである。
不満そうなカイの顔が可愛かったから、つい意地悪してしまったという事は内緒だ。

「エフィ。今ワタクシ達どこらへんにいるの?」

「今は地下一階だから・・・、ちょうど三分の一くらいじゃないかな。」

「この遺跡まだまだ続くの!?」

ティタンが落胆の声を上げる。
無理もない。
どんなに進んでも先が見えない上に、同じような道が延々と続いてる。
本当ならあまりこういう場所には来たくなかった。
が、今回は珍しくセシリアどうしても寄りたいとワガママを言ったのだ。
たまにはセシリアのワガママも聞いてあげよう。

「ねぇ・・・。エフィお姉ちゃん・・・。ボク、帰ってもいいよ・・・?」

申し訳なさそうに言うセシリア。
その姿はとてもいじらしく可愛い。
ワタシは彼女の頭を軽く撫でてやった。

「大丈夫さ。それにヨルムンガンドに戻ってもカイがあの状態じゃどうしようもないだろ?」

「でも・・・。」

「心配しないで、セシリア。ワタクシはまだまだ元気よ。ホラ、そんな事を言っているなら先に進みましょう。セシリアにできることは早くこの遺跡で探しているものを手に入れて、さっさと遺跡を出ることですわ。」

「う、うんっ!!」

ティタンは優しげな笑みを浮かべ、セシリアの手を引っ張る。
その光景を微笑ましく思いながらワタシ達は歩み始めた。
意気揚々と一歩、踏み出したその時・・・。

カチッ。

「ん?何か音がしなかったか?」

「空耳じゃない?ワタクシにはそんな音、聞こえませんでしたわよ。」

「アタイも聞こえまでんでした。」

「ボクもー。」

「おかしいな。気のせいだったか。」

ドスドスンッ!!!!!

後方の天井から五つ、鉄の塊が落ちてくる。
それは今日、この景色以外に見飽きていた物。
ガシャンガシャンという音が立てて、現れたのは自立型の魔導機だった。
この遺跡には魔物が一体も出てこない。
代わりに古代人が作ったと思われる魔導機が徘徊していた。
おそらくさっきの音は魔導機を出現させるトラップの作動音だろう。

「どうする?いくらなんでも五体は面倒だぞ。」

「決まってるじゃない。作戦は一つしかないわ。」

「せーのっ・・・。全力逃走です!!」

テテスの一声でワタシ達はまっすぐ先へ先へと逃げる。
前に見たゲルメイの魔導機ほどではないが、一体でもてこずる相手だ。
それが五体もいるなんていくらなんでも厳しい。
こんな所であまり体力を消耗したくないのもあるが、何より勝てるかどうかわからないのだ。
カイがいれば秘剣参式 崩で一撃なのに・・・。

「次の曲がり角を右っ!!」

「はいっ!!」

しばらく魔導機との鬼ごっこが続く。
パワーはあるが、スピードはそれほどでもない。
徐々にワタシ達との差が開いていった。
やがて奥に光が見える。
地図によると階段がある広い部屋だ。
そこに行けば地下二階へと行けるらしい。
自然とワタシ達の足が速まった。

「よしっ!!もう少しっ!!」

ワタシ達が部屋へと駆け込んだ瞬間・・・。

ガラガラガラッ!!
ドスンッ!!!

「っ!?」

入り口が板状の岩で塞がれる。
岩を持ち上げようとしてみるが、ビクともしない。
どうやら引き返せなくなったようだ。
他に選択肢のないワタシ達はため息をつき、先に進む。
よく見るとこの部屋、闘技場みたいだな・・・。
背中に嫌な汗がに滲む。
案の定、その予感は的中した。
階段の前で先程の奴等の倍ぐらいある魔導機が待ち構えているではないか。
やっぱりか・・・。

ズシン、ズシン!!

地鳴りとともに近づいてくる魔導機。
この状況では戦うしかない。
魔導機は一度立ち止まると、自分の頭部についている水晶体から青い光線を放出した。

キュインッ・・・、ドゴォォン!!

ワタシ達は呆気にとられる。
光線を受けた場所は削り取られ、バックリとへこんでいた。

「あんなの食らったらひとたまりも無いわよ!!」

ティタンがヒステリック気味にそう叫ぶ。
あれはさすがに反則・・・。
ワタシは意を決し、槍を構えた。
だが魔導機は先程の体勢を崩さない。

キュインッ、キュイン、キュインッ!!

「嘘っ!?連射っ!?」

「この軌道だとアタイ達に当たりますよ、どうしましょう!?」

「セシリア、任せた!!」

「うんっ!!」

セシリアが両手をかざし、魔法壁を作り出した。
魔法壁が甲高い金属音を響かせて、光線を受け止める。
そして光線を別の方向に弾いた。
さすがセシリア、防御魔法の扱いでセシリアの才能の右に出るものはいない。
よし、反撃のチャンスだ。

「行くわよ、エフィ!!」

「ああ!!任せろ、ティタン!!」

ピキピキという音をたてて、ティタンの氷魔法をワタシの槍がまとう。
これはアラクネに敗北したときから、共に練習してきた技。
その名も・・・。

「「氷槍フレイル!!」」

元は氷剣であったが、ワタシが槍を再び使うようになったので技名が変わった。
実戦ではまだ使ったことがなくて、更には槍でこの技を使うのは全くの初めてである。
槍は見事、魔導機の水晶体を砕いた。
パキィ・・・、ピキッ、ビキビキビキッ。
水晶体の部分が凍り付いていき、氷塊ができる。
これで心配ない。
ホッとため息をついた。

キュインッ!!

「へ?」

魔導機の光線で自分達がこの技を選んだのは失敗だったと気付く。
よくよく考えてみたら当然の事だ。
今までは水晶体をレンズにしていたのだが、現在あるのは澄んだ氷塊。
これで勘のいい人はわかるよな。
そう・・・。

「うわぁっ!?」

「ちょっと、えっ!?」

光線は何本にも分散され、さらには右に左に飛んでいく。
完全に乱反射してしまっていた。
もはや軌道も何もあったものではない。
乱反射した一本がテテスへ向かっていく。

「テテス、危ない!!!」

「キャアアアッ!!」

ものの見事に彼女の胸部に命中、そのまま彼女の身体が吹き飛んだ。
ワタシ達の顔から血の気が引いていく。
最悪の想像が頭を駆け巡った。

「大丈夫!!??」

ワタシ達がテテスに近づく。
彼女の胸にはケガはない。
最悪の想像だけはまぬがれて、ほっと安堵の息が漏れた。
が・・・。

「大丈夫みたいで・・・へ?あ・・・、キャアアアアアア!!!!!」

テテスの絶叫がこだまする。
もちろんテテスの命の別状はない。
問題なのは光線が被弾した場所。
彼女の服が破れ、どーんとその凶悪すぎるシロモノが出てしまっていた。
テテスが動く度にボヨンボヨン震えている。
光線の一本一本が細くなったため、威力が弱まったようだ。
服が脱げる攻撃もワタシ達にとっては充分脅威なのだが・・・。
魔導機は狂ったように光線を放ち続ける。

「キャ!?ワタクシの右胸出ちゃってる!?」

「ふぇぇ〜、ボクのパンツがぁ!!」

仲間達の悲鳴が聞こえる。
どんどん服を脱がされていく仲間達。
ワタシの服ももはやボロボロだ。

「・・・っ!!いい加減にしろぉぉぉ!!」

渾身の力をこめ、槍を氷塊に突き刺す。
穂先が氷を突きぬけて魔導機の後頭部まで貫通した。
魔導機がゴォン・・・と音を立ててピクリとも動かなくなる。
完全に機能が停止したようだ。

ガラガラッ!!

入り口をふさいでいた岩板が上へと持ち上がっていく。
ワタシ達は身構えたが、そこに魔導機達の姿はない。

「いない・・・、みたいだな。先に進もうか。」

「ちょっとエフィ。・・・その格好で進むの?」

「え?」

クイクイッと下を指差すティタン。
自分の格好を見て、ワタシは小さな悲鳴をあげた。
・・・服が、もう服じゃなくなっている。
ほぼ全裸だ。

「キャアッ!!??」

「ワタクシ達の服も同じよ。テテス、魔導機のパーツを少しいただきましょう。」

「・・・?パーツですか?」

「ええ。必要最低限の服を作るのよ。ほら、セシリアも手伝って。」

「うん!!」

ワタシ達は魔導機のパーツ(装甲)と服の断片を使って服を作り始める。
これでどんな服ができるのか・・・。





「ふぁ〜あ・・・。」

俺はあくびをしながらヨルムンガルドの街を歩く。
エフィ達がいないこんなにヒマなのか・・・。
どうせなら俺も連れて行ってくれればいいのに。
熱があったのはすでに昨日の話。
今日の朝の時点では下がっていたから、もう身体は何ともない。
だが、エフィに

「カイはまだ病み上がりなんだから、おとなしくしていろ。」

と怒られてしまった。
心配してくれるのは嬉しいが、少し行きすぎな気がしないでもない。
半ばふてくされている俺はブラブラと街を散策することにした。
さすがこの地方で魔王軍最大の首都。
歩けば魔物と多くすれ違う。
それに人間も普通に歩いているではないか。
極めつけは所々に立ててある看板。
そこにはしっかり「指定区画以外での性交は禁止」と明記されている。
すごい街だなと感心してしまう、色んな意味で。

「お兄さん、人間よね?」

いきなり肩を叩かれ、ビクンと身体が跳ねる。
まず感じたのは尋常じゃない魔力。
おそるおそる後ろを振り向くと、目のやり場に困る服装をした魔物の女性が立っていた。
彼女にはとがった耳と九本の尻尾がついている。
間違いない、九尾だ。
尻尾を中心に魔力の渦が、逆巻いている。
何故こんな街中に九尾が・・・?

「君は・・・?」

「いやだ、そんなに警戒しないで。私の名前はルイスよ。」

「俺の名前はカイ。・・・で、何の用だ?」

「いやねぇ。友達が少し前に婿候補を手に入れたって言ってたから、私も探してみようかなって思ったのよ。そこで貴方に目をつけたわ。」

「はぁ・・・。」

「でも、やーめた。あなたから他の魔物のにおいがするもの、それも何人も。よっぽどモテるのねぇ。」

ルイスと名乗る魔物はクスクスと笑う。
見たところ敵意はないようだ。
が、強大な魔力がヒシヒシ伝わってくる。
手を振った後、俺はそのまま逃げるように去った。
若干、歩幅が広くなる。
これが九尾のプレッシャー・・・。
彼女の姿は遠ざかり、人ごみに消えた。
あれだけ強大な魔力を感じたのはティタン以来。
いや、ティタンよりも幾分か上である。
ほぅっとため息がもれ出た。
ふと周囲を見回すと、街の喧騒が薄れている。
どうやら外れの方まで来てしまったらしい。
人通りが極端に少ない。
プレッシャーを感じなくなったことに安堵の息が出る。

「お前、人間だな。」

またポンと肩を叩かれる。
おいおい・・・、最近は知らない人の肩を叩くのがブームなのか・・・?
魔力はそれほど感じられないから、おそらくそれほど強くないだろう。
ゆっくりと振り返ると、胸に教会のシンボルをいれた甲冑を着た騎士が二人いた。

「何だ?」

「いや、すまない。このような者達を見なかったか?」

そう言って、紙を二枚見せてくる。
手配書・・・?

アルト=V=ラグナロック 銀貨50枚
アイリス=フランベルジュ 金貨200枚

アルトと呼ばれる少年の方はそれほどでもないが、アイリスと呼ばれるバフォメットの方はとんでもない額だ。
さすがバフォメット、実力も桁違いだろう。
できる事なら一度、手合わせしたいものだな。

「いや、見てないな。」

「そうか。今度見かけたら我々に・・・。」

「ズブランジュ隊長!!」

俺が来た方向からもう一人、騎士が息を荒げて駆けてくる。
そいつもしっかりと教団の紋章をつけて。
もうそのエンブレムは見たくないんだけどなぁ・・・。

「どうした?」

「はいっ!!二人の目撃情報がありました!どうやらここより西方のリースト神殿遺跡に向かったようです!!」

「はぁっ!!??」

俺が一番大声を上げてしまった。
リースト神殿遺跡って・・・、エフィ達が向かった所ではないか。
サァッと血の気が引いていく。

「どうした?」

「リースト神殿遺跡には・・・、仲間がいるんだ。」

「何とっ!?」

慌てて駆け出そうとする俺。
一人の騎士が俺を呼び止める。
何だ、こんな時に・・・。

「よければ、この馬を使え!!」

三頭いる茶色い馬のうち、一頭を俺に渡してくれる。
多分、騎士達が乗ってきたものであろう。

「いいのか!?」

「人間なら同胞だ!!助けるのは当然だろう!!」

「助かった、恩に着る!!」

馬の手綱を引っ張り、駆け出す。
やはりスピードは段違い。
無我夢中でリースト神殿遺跡へと足を急がせた。





「うぅ・・・、何故ワタシがこんな格好を・・・。」

ワタシ達が魔導機のパーツと服の布から作った服はとても簡易的だった。
なんとか自分達の恥部を隠せている状態。
確かこういうのをビキニアーマーって言うんだっけ?

「ほら、セシリア。ずれてるわよ。」

「だってー、ボクはお姉ちゃん達みたいにたゆんたゆんじゃないからずれちゃうんだもん!!」

先程からしきりにセシリアの胸を押さえているパーツがずれている。
まあ、年齢の問題だ。仕方ないだろう。
テテスやティタンのはしっかりと抑えられている。
おれに引き換え、ワタシのは・・・。
・・・これ以上言うのはやめておこう、悲しくなってくる。

「今どこらへんですかー、エフィ?」

「ん・・・、お。三分の二まで来ている。もう少しだな。」

ワタシが現在いるであろう位置を指差すとワァッという声が漏れてくる。
あと少しだ・・・。
全員の進む足が少し軽くなったような気がする。
この階層は魔導機がいないので、順調に進んでいくワタシ達。

「ん・・・?皆、止まって!!!」

ティタンがいきなり足を止める。
彼女は大声で指さすと、ワタシ達が来た方向を指差した。
耳をすますと、カツンカツンと足音が聞こえてくる。


「来るわよ・・・。」

ゴクリと唾を飲み込む。
小さくぼやぁっとした影が見えて、段々形がはっきりと見える。
現れたのは魔物の中でも強大な魔力を持つバフォメットだった。
鱗が少し逆立つのを感じる。
ワタシ達はゆっくりと武器を構えた。

「む?どうやら魔物のようじゃな。ちょっと聞きたいことがあるんじゃが・・・。」

「何?」

「そんなに警戒しないでくれないかの?さすがにこの人数だとワシだってタダじゃ済まないしのう。戦闘の意思はない、約束しよう。」

威風堂々とした態度は上位種である気品を感じさせる。
彼女の澄んだ瞳はまっすぐワタシ達を捕らえていた。
カリスマとはこの事を言うんだな・・・。
危険はないようなので、ゆっくりとワタシ達は武器をしまった。

「・・・で、ワタシ達に何の用?」

「ワシと同じぐらいの身長の男を見なかったか?」

「見てないな。どんな外見なの?」

「銀色の髪の毛の男・・・、少年じゃ。13歳ぐらいじゃが。」

「ずいぶん幼いね。あなたの子供?」

「一応、婿候補じゃ。名はアルトと言う。そこそこ強いはずじゃから、生きてるとは思うが・・・。」

「婿候補、ねぇ・・・。残念だけど見てない。おそらくもう片方の道を進んだんじゃない?」

「もう片方・・・?」

バフォメットは丸っこい瞳を更に丸くさせる。
ワタシは地図を広げ、指でなぞってみせた。

「あなたとワタシ達はここの道をずーっと進んで来たの。地下一階の闘技場みたいな部屋を通ってきたよね?」

「うむ。あの壊れたデカブツがいた所じゃな。」

「そこを通るルートともう一つ、こっちをこうやって進むルートがあるの。」

ワタシの指は大きく弧を描くように、記された道をなぞる。
その道はここ以外の全ての道とつながっていて、ワタシ達の選んだルート以外を通ると必然的にそっちへつながるようになっていた。

「あっちの道はトラップの数も、魔導機も数もこちらの比じゃないみたい。地図を売ってくれた商人が、ここだけは通るな、と念を押していた。」

「なるほどのう・・・。」

ワタシの話をうんうん頷きながら聞く姿は、想像していたバフォメットの姿とは程遠い。
バフォメットは悪逆無道で人を堕落させて精を貪り取る暴君、と昔から言われてきた。
しかし目の前に立っている魔物は暴君とは言いがたい。
むしろ真逆。
やはり偏見というものは目を曇らせるものだ。

「どうする?ええと・・・。名前、教えてもらっていい?」

「うむ、ワシの名はアイリス=フランベルジュじゃ。オヌシ等は?」

「ワタシはエフィ。エフィ=メルグドーズよ。」

「ワタクシはティタン=ヨレイドル。で、こっちがセシリア。」

「アタイはテテス=コルモットです。よろしくお願いします。」

「よろしくのう。」

「それで、どうする?一緒に一階まで戻る?」

アイリスは少し考えるような素振りを見せた。
しかし、すぐにこちらを向き・・・。

「よし、先に進むのじゃ。」

「いいの?」

「うむ。地図を見ると、どうやら最後の部屋でつながってるみたいじゃ。そこで待っていれば会えるじゃろう。アルトなら強いから心配ないしの。」

腕を組んでうんうん頷くアイリス。
彼女はそのまま道の先を進んでいく。
アルトという人物はよほど信頼されているらしい。
バフォメットがあれだけ信頼できるって一体どんな人物なのだろう。

「ねぇ、エフィお姉ちゃん。」

「ん?」

「ここ、行き止まりみたいだよ。」

「え!?」

「だって、ほら。」

セシリアが道の先を指さす。
地図では通路になっているはずなのだが、目の前には壁がそびえていた。
おかしい、道を間違えたかな・・・・。
ワタシ達は急いで壁に駆け寄る。

「ここに何か書いてあるのじゃ。どれどれ・・・?」

「アイリス、読める?」

「任せるのじゃ。えと・・・ふちぬぬす めあいのわすへ すれもふわ これふ=E・・?」

「どこの復活の呪文ですか、それ?」

テテスが冷静にツッコミをいれる。
そこにセシリアが駆け寄っていった。

「違うよ〜。これはオレバン表記じゃなくて、メルホスサ表記だよ。」

「なるほどのう。それだと・・・12個の石を使って6本の直線を作れ、それが我等の盟約の証となろう。1本の線には4個の石を使うこと=E・・?」

その文字の下には台座があり、薄青く光る石が12個乗っている。
これで6本の直線を作ればいいのか・・・。
ワタシ達は台座を囲んで考える。
思ったよりも難しい・・・。

「どう?わかる、ティタン?」

「うぅん・・・、あ!!これならどう?」

ティタンは台座に石を並べていく。

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ティタンは上のように石を並べる。
縦に2本、横に2本、合計4本。
これでもまだ2本足りない。

「どうやら違うみたいじゃの。」

「あ!!ボク、わかった!!」

セシリアが嬉々として石を並べていく。
まず出来上がったのは一辺四個の正三角形。

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「なるほどのぅ・・・。」

感心したようにアイリスが呟いた。
どうやら彼女もわかったようである。
ワタシとティタンはまださっぱりわからない。
テテスに関しては、うつらうつらと眠りかけていた。

「で、ここでこうして・・・。こう・・・、と。」

セシリアが残り3つの石を置く。
それは魔法陣などでは比較的ポピュラーな六芒星の形になった。

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ワタシ達3人からへぇという歓声が上がる。
1,2,3・・・。ちゃんと4個ずつの直線が6本あるじゃないか。
ゴゴゴゴッ!!!
重苦しい音を立てて、岩の壁が地へと沈んだ。
相変わらず不思議な仕掛けが満載だな、この遺跡は・・・。

「これで先にすすめるのじゃ。」

アイリスはそのままテコテコ奥へと歩いていく。
ワタシ達も彼女の後を追って、終点に向かう道を進んだ。





「くっそ、どこだエフィ!?」

俺が遺跡に入ってからどれぐらいの時間が経っただろうか。
行けども行けどもゴールは見えない。
代わりに道中に現れるのはずいぶんと古くさい魔導機ばかり。
しかも尋常じゃない数。
こんな中をエフィ達は進んだのか・・・。
それほど強くないとは言え、数が集まると厄介なものになる。
荒削りだが集団戦法まで使ってくるのは予想外だった。

「邪魔だぁ!!道を開けろ!!」

いくら倒しても魔導機の数は増えていく一方。
これじゃキリがない。
秘剣参式 崩は剣に大きく負荷をかけるのであまり連続使用できない。
こんな所でもしも剣が折れるようなことがあれば・・・。
不安になるだけなので、これ以上深く考えるのはよそう。
何にせよ、まずはエフィ達と合流しなければ。

「一回、こいつ等を振り切ろう。このままだと囲まれてしまう。」

俺は来た道を逆走して、先程とは違う分岐点を進んでいく。
もう進んでいるのか後退しているのかすらわからない。
ただ道に沿って走り続けていた。

「・・・ん?」

奥に光が差し込んでいる。
道の先に大きな部屋の入口が見えた。
おいおい・・・、何か嫌な予感しかしないぞ。
それでも引き返せない俺はそのまま部屋へと飛び込む。

ガラガラッ!!

ほら、やっぱりな。
大きな岩の板が落ちてきて、俺の退路を塞ぐ。
容易に予測がついたので乾いた笑いしか出てこない。

「あああああっ!!何て事してくれたんだよっ!!」

「へ?」

部屋に人がいるとは思わなかった俺はその声の主に向かって剣を構えた。
そいつは先程、手配書で見た顔・・・。
アルト=V=ラグナロック本人だった。

「まったく・・・、人がせっかくクロックアウトして退路を潰さないようにしていたのに・・・。君のせいで僕の努力が水の泡だよ。」

「お前は・・・、アルト=V=ラグナロックだな?」

「あれ?何で僕の名前を知ってるの?」

「手配書を見たんだ。幼い顔立ちとは思っていたが、まさか本当にこんな子供だったとは・・・。」

アルトはその白銀色の髪をいじりながら、「やれやれ。」と呟く。
気だるそうな表情をしながら、手に持った何本ものナイフを握りしめた。
あっちも戦闘準備って訳か。
ならば、先手必勝。
俺は剣を持ち直し少年に斬りかかる。
本来ならこんな幼い少年を斬るなどしたくないのだが、相手は一応賞金首。
下手をすると俺のほうがやられてしまうかもしれないからな。
しかし、彼に動くような気配はない。
彼は小さく息を吸い込んだ後、静かに口を開いた。

「・・・クロックアウト。」

っ!!??
その言葉と同時にいきなり少年の姿が消えた。
いや、消えたんじゃない。
瞬時に俺の背後へと移動したのだ。
代わりに俺を取り囲むようにして、大量のナイフが刃先を向けている。
一体、何が!?

「くっ・・・。」

俺はすぐさま海王の指輪のついた指でルーンを描く。
これはセシリアが教えてくれた水の防御魔法。
俺の身体は厚い水の壁で覆われた。
ナイフは壁を突き抜けることができず、勢いをなくし水中を漂う。

「思った以上にやるなぁ。でも、これで最後。バイバイ。」

彼は右腕を突き出し、俺に手のひらを向けていた。
よく見ると手のひらには魔力が集合している。
本能が「やばい」と告げた。

「S波動砲っっ!!」

俺は前転で攻撃を避ける。
彼の右手から図太い光線が飛び出し、俺の背中ギリギリをかすめていった。

ドゴォン!!!

壁をえぐり取るほどのパワー・・・。
こいつ、ただの子供じゃないぞ。

「うわぁ、これも避けられるなんて。ちょっとビックリ・・・。」

「おい。今の何だ?」

「今のって?」

「とぼけるな。いきなり俺の目の前から姿を消しただろ、煙のように。幻影魔法か?」

「ああ、あれね。時を止めたんだよ。」

「時・・・?時間を止めたって事か?」

「ピンポン、そういう事。」

このアルトという少年・・・、底が見えない。
弱そうな外見とは裏腹に、使ってくる魔法は尋常じゃないものばかり。
あげくの果てには時を止める魔法も使えると言っている。
そんな反則魔法、聞いた事ないんだが・・・。

「そういう君こそ、教会の回し者としてはかなり強いんじゃない?」

「教会の回し者・・・?俺はそんなんじゃないぞ。」

「じゃあ、腕の立つ賞金稼ぎかな?何にせよ、本気でいかなきゃ殺されてしまいそうだね。」

「一つ尋ねていいか?」

「ん?」

「リザードマンとエキドナ、オークとエルフの四人組を見なかったか?」

「さあ、見てないよ。あいにく僕も人を探しているから。」

「バフォメットのアイリス=フランベルジュか?」

「え、どうしてそれを?」

どうやらお互いに戦闘をする意味は無さそうだ。
俺は剣を鞘にしまう。

「どうやら俺達二人とも迷子らしい。どうだ?ここは一緒に仲間を探そうじゃないか。」

「僕もその方がいいな。こんな所で疲れたくないし・・・。」

「交渉成立、と。」

アルトも自分の懐にナイフをしまいながら、肩をすくめた。
彼はそのまま後ろを向く。
やはり気づいていたか。
俺もなるべく視線を合わないよう無視していた。
そこには馬鹿でかい魔導機がいる。
まだ起動していないのか、先程から仰向けに寝そべったままだ。

「やれやれ・・・、こんなのもいるんだね・・・。。」

「ああ。お前ならどれぐらいで倒せる?」

「ん〜・・・。5分ぐらいかなぁ?」

「遅いな。遅すぎる。」

「じゃあ君ならどれぐらいで倒せるんだい?」

指を一本ピンと立てて、アルトに向ける。
彼はまさかという表情を浮かべた。

「一分で・・・?すごい自信だね。」

「何を言っているんだ?一撃さ。」

俺はそのまま魔導機の巨躯に近づく。
頭部についた水晶体に赤い光が灯った。
やっと起動したか、でももう遅い。

「秘剣参式・・・、崩(くずす)」

ギンッ!!!

鋼鉄の身体に一太刀いれ、俺は魔導機の先にある階段へと向かった。
魔導機は身体を起こして俺と対峙する。
−−−−その瞬間には全てが遅い。
魔導機の身体が異様な音を立て始める。
パーツがボロボロと崩れ始めた。
もう勝負は決している。
最後の抵抗とばかりに腕を大きく振り上げるのだが、その拳を振り下ろす前に崩れ去ってしまった。
一瞬で瓦礫の山と化す魔導機。

「まだこんなのを隠していたんだ。僕じゃ適わないよ。」

「嘘を言うな、まだ何かを隠しているという目をしてるぞ。」

「・・・。君の名前は?」

「俺はカイ=シュターゼン。どこにでもいるただの冒険者さ。」





「エフィ。今ワシ達はどこにいるのじゃ?」

「次で最後の部屋よ。ようやくここまで来たわ・・・。」

「もうすぐゴールなの!?」

セシリアの目が輝き始める。
他の皆の声も明るくなったような気がした。
ワタシは疲弊した身体に喝を入れる。
若干の緊張を感じながら、最後の部屋へ足を踏み入れるとそこは・・・。

「何、ここ・・・?」

「うむぅ、これは見事じゃな。」

広がるのは全く場違いな光景。
どこから差し込んでいるのかわからない陽光を受け、多くの花々が色鮮やかに咲き誇っている。
その美しさは、ワタシ達は死んでしまったのかと疑うほどだ。
まさに天国とはこの事だろう。

「わぁ、ここに秘術書『崩天の刻印』があるのかぁ・・・。」

「む?オヌシも秘術書を求めて来たのか?」

「も≠チてことはアイリスさんも?」

「うむ。ワシもそれを手に入れるために来たんだがの・・・。そうじゃ!!屋敷に戻ったらすぐにイル達に写本してもらおう!!」

「写本ですか・・・?」

「そうじゃ。写本が終わったら、書はオヌシに返すぞ。」

「ありがとう、アイリスさん。ボクはその本にあるアルジールの秘薬が欲しかったの。」

「アルジールの秘薬・・・?何故オヌシがそのような薬を・・・?」

「えと、それは・・・。」

キィィィィィィィンッ!!!!

耳障りな高音が響き渡った。
それと同時に先程の景色が崩れていく。
花は灰のように朽ち果て、やがて静かにその存在を消した。
先程の光景が天国とするなら、こちらは地獄。
今までの楽園のような景色はすでにない。
言いようのない悪寒が背中を這い上がってくる。
ひび割れた地の隙間からゼリー状の物体が現れた。

「こっちからも出てきますよ!!」

「スライム・・・、じゃなさそうね。そんなんじゃないわ、というか魔物でもないみたい。」

「うむぅ・・・、さすがのワシでも見たことないのぉ。」

無数に現れるゼリー状の物質は集合し、巨大な塊へと変化していく。
ワタシ達が見上げてしまうような大きさになるまで3分とかからなかった。
やがてその巨大な濃灰色のゼリーに大きな目玉ができる。
刺すような視線を帯びたまなこがワタシ達を見つめた。

「どうやらそう簡単に倒せそうにないな。ティタン、まず凍らせるよ!!」

「OK!!」

ティタンは大きく息を吸い込んで両手を広げる。
彼女の手から放出された魔力はすぐに魔物の身体を凍らせた。
そこにワタシは槍を突き入れる。

「氷槍フレイルッ!!!」

ゼリーの身体は脆く崩れ去った。
何だ、あっけない・・・。
そう思った瞬間、ヤツの身体はすぐさま再生を始める。
凍りついた部分もまるで何事もなかったかのように溶けていった。
そのままワタシに向かって、鞭のようにしならせた身体を振り下ろす。

「キャッ!!!」

ワタシの身体は激しく地面に叩きつけられた。
一瞬、呼吸が止まってしまう。
それでも容赦なく、攻撃を仕掛けてくる敵。
―――――これはまずい。
ワタシがなすすべなく両腕を前に出し身構える。
するとヤツのゼリー状の身体に巨大な炎の渦が襲い掛かった。
炎には異常なまでの魔力が感じられる、これは一体・・・。

「ケガはなかったかの?」

「アイリス!?助かった、ありがとう!!」

「礼はいいぞ。・・・それより、コイツは厄介じゃの。スライムのようにある程度の形が決まっていれば良いのじゃが、コイツには形がない。」

「コアみたいなのもないみたいだ。アイリス、どうすればいいと思う?」

「ふぅむ、そうじゃな。答えは一つしかないのう。そのスライム状の身体をカラカラにしてやればいい。」

ニヤリと笑うアイリス。
彼女の手に獄炎が宿っていく。

「これでお終いじゃ。」

アイリスが放った炎弾はヤツの身体を焼き尽くした。
これがバフォメットの力・・・。
敵じゃなくて本当に良かった、そう思ってしまう。
ゼリー状の身体から水分が抜け、無残なまでに干からびた。
あまりにあっけない幕切れに肩透かしを食らってしまう。

「これで終わりかの?期待はずれもいいところじゃ。もっと骨のあ・・・。」

ゾクゾクッ!!!
背中にさっきと同質の悪寒を感じる。
悪寒の正体は・・・、こいつじゃないの・・・?
やがてドクンドクンと鼓動の音が部屋中に響き渡る。
無論、それはワタシ達の鼓動ではない。
どこからか湧き出てきた光の粒が一点に集まり、人の形をなしていく。
コイツが・・・、本当の敵・・・。

「・・・ふん、誰が出てこようと同じことじゃ。」

アイリスは再び獄炎を光の集合体に向けて撃ち出す。
・・・が、あろうことか獄炎は光の身体にぶつかる前に消えた。
いや、消えたのではない。
炎も光の粒へと姿を変え、敵に吸収されたのだ。

「これは・・・、やばいかもしれぬの。」

アイリスの額から汗が一筋、流れ落ちる。
ワタシの精神も全力で警鐘を鳴らした。
おそらく・・・、こいつには何があっても勝てない。
きわめて直感的だが、確実にわかることである。
胸に湧き上がってくる不安感を誤魔化しながらワタシは槍をヤツに向けて投げつけた。
槍はダメージを与えないまま、ヤツの頭部を通過していく。
打つ手なし、なのか・・・。
魔法攻撃もきかない、直接攻撃も無意味。
こんなのとどう戦えばいいんだろうか。

「エフィ。これはワシ達では無理かもしれんの。」

「そうね・・・。」

「なら、決まっているのじゃ。ここは・・・。」

「逃げるが勝ち、だな。」

ワタシ達はさっき入ってきた入口へ後退するために後ろを向く。
しかし・・・、そこには・・・。

「え?」

振り向いた瞬間、もう光の集合体が目の前に立っている。
ヤツは大きく腕を振り上げていた。
まさかこんなに早く動けるの・・・!?
そのままワタシ達はヤツの攻撃で反対側の壁へと叩きつけられる。
まさか一撃で5人も殴りとばすなんて・・・。
異常なまでの強さにワタシは絶望していた。
頭を乱暴に振って、ふらつく意識を正常に戻してやる。
ワタシ達が体勢を立て直す前に、すでにヤツはアイリスの目の前に立っていた。
そのまま右手でアイリスの身体を持ち上げ、首をしめあげる。

「う、うぐぅ・・・。」

苦悶の声がワタシの耳に響いてきた。
まずい、このままだとアイリスが死んでしまう・・・。
ワタシが唇についた血をぬぐい、立ち上がろうとしたその時―――――。

「クロックアウトォッ!!」

「・・・え?」

叫ぶような言葉が耳に届いた瞬間、ヤツの右手からアイリスが消えていた。
ワタシの隣にはアイリスを抱えた少年が立っている。

「カイ!!あとはお願い!!」

「任せておけ、秘剣弐式・・・」

敵の半透明な身体の向こう側に見えるのは見慣れた影。
ワタシ達の仲間、カイ=シュターゼンだ。
カイはそのまま剣を振りかぶる。

「飛ッ!!!!!!!!」

かまいたちが光の集合体を分散させた。
まるで砂のように光の粒子が飛び散っていく。
ワタシ達を守るようにカイと、アイリスを抱えた少年が並んだ。

「うむ・・・、遅いではないかアルト。」

「ごめんね。ちょっと遅れちゃった。」

少年は舌をペロッと出す。
この人がアイリスの婿候補のアルト・・・。
幼い外見とはまったく違い、沸き立つような魔力を感じる。
アイリスが信頼を置くのも頷けた。

「で、アルト。これからどうする?あいつ、相当やっかいだぞ。」

「任せて。僕にいいアイテムがあるから。」

アルトはゴソゴソとポケットを漁る。
カイは再生していく集合体に剣を向けながら、アルトの方を見た。
彼はポケットから液体の入った一本のビンを取り出し、光の集合体に振りかける。
わずかばかり輝きが薄くなったように見えた。

「これで大丈夫?」

「それ、何の薬だ?」

「教会ご自慢の聖水だよ。おそらくあれは魔力の集合体のようなものだから、魔力の流れを悪くする聖水なら効くんじゃないかと思って。」

「どうやらビンゴだったみたいだな。アルト、これで決めるぞ。」

「うん。」

アルトは大きく息を吸い込み、カイに広げた両手を向ける。
圧縮された膨大な魔力がカイの剣に宿った。
カイはそのまま剣を振り上げる。

「S波動砲、装填完了。いつでもいけるよ。」

「秘剣 壱式改――――」

「「響(ひびく)!!!!!」」

刀身にこもった魔力が剣を中心に渦巻いた。
剣撃と魔力が溶け合っていく。
そこから生み出されたのは剣撃でも、魔法でもない。
「魔力と剣撃が響きあっている」状態だった。
敵の身体は無残に散っていく。
先程の散り方ではない、肉片が削げ落ちていくような散り方。
這いずりまわる背中の悪寒がフッと消えた。

「何だ、あっけない。もう少し戦えると思ったんだがな。」

「僕もちょっと期待ハズレだな。」

あっけらかんとそう言う二人の背中が頼もしく見える。
ヤツの身体はすでに空へと消えていた。

ボトンッ!!

「あだっ!!??」

カイの頭に分厚い本が落ちてくる。
角が当たったのか、頭を抱えて虫のようにもがいていた。
あれはまさか・・・。

「何だ、この本。随分と古くさい本だな。」

痛む部分を押さえながらカイは本に目を向ける。
ところどころ傷だらけの革表紙をむんずと持ち上げた。
間違いない、それはワタシ達が求めていた・・・。

「『崩天の刻印』じゃな、それは。」

「ほうてんの・・・、何だって?」

「あれ?カイはこの本目当てで来たんじゃなかったの?僕はてっきり・・・。」

「俺はエフィ達を助けに来ただけだ。」

「とりあえずこれでワシ等全員の目標は達成じゃな。よし、帰るとするかの。」

「お、おい!!誰か、その本いついて教えてくれ!!」

「お兄ちゃん。帰ったら教えてあげるから、ね。」

不満そうな顔をするカイを連れて、ワタシ達は出口へと戻っていく。
帰りの道には驚くことに魔導機が一体もおらず、全て残骸と化していた。
どうやら全部カイとアルトがなぎ倒してきたらしい。
行きに比べ、帰りの道がとても短く感じた。





「お世話になりましたぁ!!」

ペコリと頭を下げるセシリア。
俺達はアイリスの部下である魔女達が写本を終えるまでの三日間、俺達は彼女の屋敷に泊まった。
とりあえずこの三日間で思い出すことは・・・。

・俺とアルトで買い物。
・俺とアルトで部屋の掃除。
・俺とアルトで晩御飯の用意。
・俺とアルトで朝食の準備。
・俺とアルトで全員分の洗たk・・・。

あれ、俺って客人じゃなかったっけ?
この三日間の行動日程のほとんどがアルトと一緒っておかしくね?
元はといえば、何故他の奴等は手伝いに来なかったんだ?
セシリアは魔女達の手伝いを1日中してたから仕方ないとして・・・。
他の奴等は何をしていたんだ・・・?

「アイリス、また今度一緒にベルメイト地方のアイス食べ歩きやろうよ。」

「うむ。またクレナイ屋のアイス食べに行くのじゃ。」

「あら、ワタクシはモッツァレ亭のパフェがいいなぁ。」

「もちろんそこも行くのじゃ。あとは金の古時計亭の苺のショート、アルブム屋のクリームバニラ・・・。」

「あ!!リストランテ ホルムスのキャラメルマキアートも忘れちゃいけませんよ。アタイの大好物です!!」

「おい!!人に家事を任せて、4人そんな事やってたのか!?」

「僕達はこの三日間、家事しかやってない・・・。」

アルトがとほほ、という顔でがっくりうなだれる。
まったく・・・、人を何だと思っているのだろうか。

「まあまあ。もう過ぎた事じゃから、寛大に許してくれるとありがたいのう。」

「アイリスが言えるセリフじゃないと思うよ。」

「む?アルトはこちらの肩を持ってくれぬのか?」

「僕達家事ばっかで疲れたよ。」

「まあまあ。アタイ達はアルトさんとカイさんのお陰で色々おいしい思いできましたし。」

「色々?」

その言葉が若干、心に引っかかった。
しかしすぐにテテスは話題を変える。

「それでセシリアちゃん、何ができたんですか?」

「そう!!これだよ!!アルジールの秘薬!!」

嬉々としてセシリアが透明な液体の入った試験管を見せてくる。
おそらく秘薬というからには絶大な効果があるのだろう。
何故か胸から嫌な不安感が消えない。

「で、セシリア。それはどんな薬なの?」

「えへへ・・・、きっとエフィお姉ちゃん達は喜んでくれると思うよ。」

「へえ・・・、どんなのだろう?」

「お姉ちゃん達がいつも使ってるデワスの実ってあるよね?その倍ぐらいの効き目がある精力剤だよ。作るの少し大変だったけど。」

・・・精力剤?デワスの実?
おいおい、ちょっと待て。
セシリア、お前まさか・・・。

「じゃ、ダーリン。あ〜んして。」

「早速効果を試してみないとな・・・、カイおとなしくしろ〜。」

「アルト、ワシもその薬作ってもらったぞ。ほら、口を開けるのじゃ。」

「え、僕も!?」

「待って・・・、待てお前ら!?落ち着け、落ち着け!!」

「ちゃんとオチはついてるよ、お兄ちゃん。」

「お、うまい事言った・・・っておい!!・・・はぁ。アルト、俺に一つ提案があるんだが。」

「奇遇だね。おそらく僕もカイと同じことを考えたよ。」

「「三十六計、逃げるにしかず!!!」」

「あ、逃げた!!」

「追うのじゃ、イル、ルナ、リナ!!」

「「「は〜い♪」」」

俺とアルトはそのまま走り出す。
どこでもいい、遠くへ。
このままだと俺達二人とも魔物娘達のエサになってしまう。
半ば泣きながら俺達は屋敷から大急ぎで逃げていった。
俺達のこれから深夜までの大逃走劇は、また別の話で―――――。










        お ま け

「そういえば、テテス。その右手に持ってるメモ帳って何?」

「これですか。中身を見てみれば早いと思いますよ。きっとエフィも気にいると思います。」

「どれどれ・・・。」

ワタシはメモ帳の表紙をペラリとめくる。

『そんなっ・・・、ダメだよカイ。僕達男同士なんだよっ。それにまだ洗濯物取り込んでないし・・・。』
『アルトごめんな。俺、もう我慢できな・・・。』
『ふぇっ、そこはぁ・・・。やぁっ・・・。』

「テテス、アンタさっき言った色々と≠ィいしい思いって・・・。」

「ごちそうさまでした。もうお腹いっぱいです、フフ・・・。」




10/08/06 19:24更新 / アカフネ
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■作者メッセージ
こんなに遅れてしまいまして申し訳ございません。
楽しみにしていただいていた方々には深くお詫びを申し上げます。
白い黒猫様の魅力溢れるキャラクターを自分ができる最大限で、魅力的に書こうと努力したと思いますがどうでしょうか?
なお、かなり遅れましたが一万VIEW記念もやりたいと考えております。
またコラボをしたいと考えているのですがどうでしょうか?
自分の小説のこのキャラを出して欲しいなどがあれば、どんどん書いてくださいね。
なお”小説に出したいのだけど、自分の世界観を崩されるのは嫌”という方はお気軽にご相談ください。
そちらの世界になるべく準拠させて頂きたいと思います。
この度は白い黒猫様、本当にありがとうございました。


PS

リヒター様。
コメントありがとうございます&いつもお世話になっています。
主人公が精力剤に頼るのは、某エロゲを参考にさせて頂きました。
作者的に大助かりアイテムですwww

zeno様
コメントありがとうございます。
そう言って頂けると作者としてこれ以上の幸せはございません。
これからも頑張りますので、また見ていただけたら幸いです。

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