硫黄の香りが鼻につく。
昔からこのゆで卵みたいな臭いがどうしても好きになれない。
ここはリュコス山脈のふもとにある温泉街、フモス。
温泉があると聞いて、俺達は旅の疲れを落とす事にしたのだ。

「うえ〜、臭いよ〜。」

セシリアが鼻をつまんでいる。
まぁ、慣れていないとそうだよな。

「どこの宿に泊まろうかしら？もちろん混浴がいいわぁ。」

「・・・勘弁してくれ。ティタンと一緒に入ったら、尽き果てそうな気がする。」

「大丈夫よ、ダーリン。ちゃんと気持ちよくするから。」

「そういう問題じゃねぇ！！」

「でも、この町けっこう魔物が多いから混浴とかもあるんじゃないか？」

その理屈はどうかと思うが・・・。
でも、確かにエフィの言うとおり魔物が多い。
先程から魔物ばかり見かける。
逆に人間をまったくと言っていいほど見ていない。
それに視線が俺に集まっているような・・・。

「ねぇ、人間じゃない？あの人。」

「本当だ。しかも結構な美形じゃないの・・・。」

「これは滅多にないチャンスじゃない？」

何だ？
いきなり背筋が寒くなった気が・・・。
会話から察するにどうやらここに人間が来ることは滅多にないらしい。
あれ？俺、貞操の危機？

「カイさん、デワスの実使います？」

「・・・絶対に嫌だ。」

できることなら、デワスの実は二度と口にしたくない。
舌をえぐる苦味はもう俺のトラウマだ。

「さて、どこに泊まろうかな・・・？」

俺がそう言った瞬間、店の女性達の目が変わる。
あれ、地雷踏んだ・・・？
逃げ出そうとしたときには遅く、囲まれてしまっていた。

「お泊りなら是非うちの宿に！！今なら私がお背中をお流しいたしますよ！！」

「私達の宿なら豪華な料理にふかふかのベッド。更には店員全員でおもてなし致します！！」

『おもてなし』が性的な意味を持つ事を瞬時に理解する。
店員の狂気を帯びた瞳が全て物語っていた。
これは犯られる・・・。
身の危険を感じた俺はティタンに助けを求めた。
微笑みながらティタンは頷いてくれる。

「ワタクシ達はいい宿を探しているんだけど・・・。もしいい条件の場所があるなら、ダーリンも頑張ってくれると思うんだけどなぁ。」

「お、おいっ！！？」

アイツ、俺を売りやがった。
悪魔的な笑みを浮かべるティタンに、言いようのない悪寒が走る。

「私達の宿なら半額で泊まれますよ！！」

「私達だって個室の温泉つきで、なんと銀貨三枚！！」

「押すな！！押すなってーー！！」

押し倒されんばかりの勢いの突撃。
何人分もの体重をかけられ身体が傾く。
ただでさえ温泉街の熱気で暑いのに、おしくらまんじゅう状態で更に暑い。
生き地獄とはこのことだ。
こういう時の仲間は非情で爬虫類娘二人は笑っているし、テテスは俺に向けて合掌している。
唯一、俺の事を心配してくれたのはセシリアだった。
どうかあの二人みたいな鬼畜にならずに、そのまま育ってくれよ。
心底からそう思った。
耐え切れなくなった俺は身体を器用によじらせる。
それからダッシュをして、半ば暴徒と化した温泉宿の人達からなんとか逃れることができた。
ため息とともに疲労感を感じる。

「お兄ちゃん、お疲れ様。はい、お水。」

「サンキュ、セシリア。」

セシリアが水筒を差し出す。
少しぬるめだが、身体中の疲れを癒すには充分だった。
気力がわずかに戻る。
セシリアの優しさに少し涙が出てきた。

「ダーリン、おつかれ〜。大変だったでしょ〜。」

「その状態に叩き込んだ張本人が言うな！！」

のんきにそう言うティタンにツッコミをいれる。
ティタンに悪びれた様子はない。

「そういえばさっき地元の人に聞いたんですけど、リュコス山脈の中腹にとてもいい温泉があると聞きましたよ。」

「ワタシも聞いたな。どんなケガでも治せる効能を持った秘湯らしい。」

何だ、その魔法みたいな温泉は。
そこまで評判高い温泉なら入ってみたくなる。
まして秘湯と聞いたら尚更だ。

「よし、その秘湯に行ってみるか。」

「あ、ボクも行きたーい！！」

「ワタシも入ってみたいな。」

全員、秘湯には興味があるようだ。
意見もまとまっているし、これは行くしかないだろう。
俺達は意気揚々とリュコス山脈へ向けて出発した。





フモスから秘湯への道はなかなか険しかった。
それほど距離はないが、坂道が急で登りづらい。
リュコス山脈は魔物が多く、来る途中に何体も遭遇している。
レッドスライム、ブラックハーピー、ミノタウロス。
秘湯を見たとき思わず歓声が口から出た。

「ふぃ〜、気持ちいい。何だ、これ。休まるなぁ・・・。」

お湯の中で大きく伸びをする。
確かにこの温泉は尋常じゃないほど気持ちいい。気持ち良すぎる。
身体中に何かが染み渡っていくようだ。
このまま溶けていいかもしれない・・・。
自然と鼻歌が出てくる。

「お湯加減はどう？ダーリン。」

「わー、あったかいねー。」

「本当にいいお湯ですね、エフィ。」

「ああ。カイのほうも・・・ってどうした？」

声がしたからまさかとは思ったが。
予感は的中。
４人ともタオルすら巻かないで、入ってくる。
いくら男湯、女湯の区別がないからって少しは恥じらいを持って欲しい。
俺はすぐさま岩の裏に隠れた。

「お兄ちゃーん？どうして隠れるのー？」

「カイさん？アタイ達の裸、見慣れているんじゃないんですか？」

「慣れるかっ！！」

「大丈夫よ。ここにはワタクシ達しかいないもの。」

そういう問題じゃない。
せめてタオルだけは巻いてほしい、と思うのは俺だけだろうか。

「カイ、もう諦めて出て来い。」

「わーっ！！わーっ！？こっちへ来るなぁー！！」

もう一つ後ろにある岩陰に回り込んだ。
後ろには岩がない。
やばい、このままだとまた・・・。
じりじりと距離を詰められる。
もうダメだ・・・。

「カイ、後ろ！！後ろを見ろ！！」

「へ？」

エフィの慌てた声がする。
恐る恐る後ろを見ると、そこには・・・。

「ミノタウロス！？」

後ろにはミノタウロスが立っていた。
しかも、息を荒げている。
すっかり発情しちゃっていますね。
身の危険を感じた俺は逃げ出そうとする。
時すでに遅く、もう押し倒されていた。

「・・・え？このミノタウロスもしかして・・・。」

「お、おやびんじゃないですか！？」

覚えている人はいるだろうか？
ヴェルキスの近くで猛威を奮ったあの盗賊団の首領だったミノタウロスを。
ちなみにテテスの元親分である。
確か名前がスエン=グランブル・・・、だったっけ？
よくよく顔を見ると、間違いなくあのミノタウロスだ。

「おやびん、どうしてここにいるんですか！？」

「おお・・・。ハアハア、テテスじゃないか。理由は後で説明する。も、もう我慢できないんだっ！？」

「へ？」

強引に俺のモノを握ると上下にさする。
こんな状態なのに、臨戦態勢になる節操の無さが恨めしい。
スエンの荒い息が更に俺の息子をいきり立たせた。
肉棒を食らいつくように咥え、自分の秘部を横たわっている俺の鼻あたりに押しつけてくる。
女性特有のにおいが鼻を突き抜けた。

「んっ、ちゅぷっ・・・。うんっ・・・、くっちゅっ、はぁ・・・。」

「ちょっ、待て。くぅっ、そこ舌で・・・。」

亀頭を舌でなじられる快感に身悶える。
ドクンドクンと心臓の音が大きく聞こえた。

「あ、ワタクシにもしてよぁ。ダーリン。」

「お兄ちゃんが女の人の股を舐めてる・・・。おいしいのかな・・・？」

じぃっと俺達の様子を凝視するセシリア。
なんか恥ずかしい。
そんなに見つめないでくれ。

「ふぅ・・・、そろそろいいかな？」

そう言って俺の肉棒を掴み、自分の秘所へと持っていく。
彼女のはもう既に濡れていた。
だから何の抵抗もなくモノを受け入れる。
ズチュッという音ともに飲み込まれてしまった。

「ふぁっ、はぁっ、んああっ・・・。」

「そんなにっ、上下っしないでくれっ。」

「わぁ・・・、せっくすってこうやるんだぁ・・・。」

セシリアにまじまじと見つめられる。
なんか悪影響を与えている気が・・・。

「んっ、んっ、んぁっ。くぅあんっ、んあぁっ。」

腰を回転させるようにして、肉壁が俺のをしごいている。
うねうねとした中は的確に俺の性感帯を刺激した。
まずい、何も考えられねぇ・・・。

「うくぅっ、出るっ・・・。」

「出してぇっ、んくぅ。真っ白になるくらいに・・・。」

腰に熱いものがたまっていく。
俺はその欲望に従って、精液を彼女の膣内で吐き散らした。

「くぅあああっ！！」

「んっ、熱いいぃぃ！！」

ようやくスエンから解放される。
俺はぐだっと温泉につかりこんだ。

「お疲れ様、ダーリン。ハイ、これ。」

裸のまま、水を渡してくるティタン。
風呂でするのは身体が尋常じゃないくらい火照る。
俺はその水をありがたく頂くことにした。
口に水を流し込む。
あぁ・・・、うめ・・・ん？
苦っ！！半端じゃないほど苦いぞ、これはっ！！
この味はまさか・・・。
彼女はニヤリと笑う。
やっぱりか。
この味はデワスの実だ。
その証拠に俺の息子が再度やる気になっている。

「これでできるわねぇ、ダーリン。」

「アタイも我慢の限界です・・・。カイさん、気持ちよくしてあげますからね。」

「いいなぁ、ボクもしていい？」

「セシリアはダ〜メ。もうちょっと大きくなったらね〜。」

「え〜。ティタンお姉ちゃん、ずるい〜。」

「さあ、カイ。はじめようか。」

「お、お手柔らかにお願いします・・・。」






「干からびるかと・・・、思った・・・。」

俺は半そでの服を着て、近くの岩場によりかかる。
あの後、俺達は文字通り精も根も尽き果てるほど貪りあった。
再びスエンも再び参加したため、一気に四人を相手にしなければならない。
よく俺生きてたな・・・。
自分の事ながらそう感心する。

「さてテテス。私達にあの後、何があったのか教えよう。」

岩に腰掛けたスエンがそう言った。
前にあったときのようなおちゃらけた顔ではなく、真剣そのもの。
怒りを抱いているのが伝わる表情だった。

「最初に結論から言おう。他の皆は生きているよ。全員、集落に戻ると言っていたがな。」

「ほぅ・・・、良かった・・・。」

ヘナヘナと崩れ落ちるテテス。
仲間の安否が知れて、ホッとしたようだ。
だが、スエンの堅い表情は変わらない。

「しかしな、あいつらは全員負傷してしまった。ひどいのはクトロのヤツで右腕をざっくりいってしまった。」

「誰にっ！？」

「教団の魔物討伐軍だ。教団信仰のないエルフレーム大陸だからと言ってすっかり油断しきっていた。出会いがしらに襲いかかってきて、私達はあえなく全滅。私達は命からがら逃げ出してきた。」

「教団の魔物討伐軍・・・。」

「ああ、そこには『土竜（もぐら）』もいたぞ。」

テテスの顔がよりいっそう険しくなる。
俺は思った疑問をそのまま口にした。

「もぐら？もぐらって何だ・・・？」

「ああ。教団でトップクラスの土の魔法使いです。そして・・・。」

「そして・・・？」

「いえ、何でもありません。」

そのままどこか遠くを見つめるテテス。
何か因縁でもあるのだろうか？
聞きたい衝動に駆られたが、理性がそれを止めた。
なんというか、触れちゃいけない壁のような気がする。

「これから私はウェルンゼム公のいるシャラトーズ地方を目指そうと思っている。」

「ウェルンゼム公？」

俺がスエンにそう聞くと、かわりにティタンが教えてくれる。

「ウェルンゼム公は魔王軍の貴族であるヴァンパイアよ。このグルベン大陸において魔物の軍隊を率いているわ。」

「何故、そんなところに？」

「決まっている。仇を討つためだ。」

スエンが両手をギュウッと握りしめる。
気合をいれたのか、更に鋭い顔つきに変わった。
よほど仲間を傷つけられたのがショックだったのだろう。

「それで、テテス。私と一緒にシャラトーズ地方へ行かないか？」

「えっ・・・。」

俺はバッグから地図を取り出し、場所を調べる。
シャラトーズ地方はここから見て、カルカロス王国とは直角になっていた。
もしシャラトーズ地方へ行くならば、テテスとここで別れなければならない。
しかし、彼女は迷うような素振りを見せずにこう言った。

「せっかくのお誘いですが・・・、アタイは行けません・・・。」

「・・・そうか。」

「アタイ、カイさん達と一緒に旅を続けます。本当にごめんなｓ・・・。」

「謝るな、テテス。お前の選択はお前の物だ。」

ポンポン頭を軽く叩くスエン。
彼女は笑みを崩さぬままこう言った。

「では、私はこれで失礼するよ。カイだったか？本当にありがとうな。」

「ああ、気にするな。」

「じゃあな。」

スエンは手を大きく上げると、そのまま去っていく。
背中に決意と悲哀が見えた気がした。

「良かったのか、テテス？」

「はい。今のアタイの居場所はここですから。」

「そうか。」

これ以上は俺も何も言わない。
テテスが決めたことだ、俺が口出しできるわけもない。
彼女の瞳はまっすぐと前を向いている。
俺はテテスの決断が間違っていなかったと信じることにした。

「よし、行こうか。」

「はい。」

「ええ。」

「わかりました。」

「うん。」

俺達は静かに、それでもしっかりと歩き始める。
秘湯から立ち上る湯気が俺達の前を通り、風に乗って消えた。

■作者メッセージ
温泉ネタかけました。
温泉ならミノタウロスより、アカオニのほうが似合うと思ったのですがどうしてもスエンを再登場させたかったのでミノタウロスにしました。

今回、３日もかけてしまいまして申し訳ありません。
実は結構重要ワード連発してます。
物語的に今回は結構、重要な話です。



ＰＳ

次回は番外編「女だらけの遺跡探検。」です。
思ったよりも長編になってしまっています。
もうアルトとアイリスが可愛すぎて・・・。
長編なので少しお時間を頂きますが、今しばらくお待ちください。