彷徨う幽霊船。
「うわ、まだ霧の中か。」
朝、目を覚まし窓の外を見ると一面が真っ白だった。
それもそのはず。
ここは『霧の海』と呼ばれる海域。
俺達の乗る『ノルディック号』は既に丸一日、この霧の中を彷徨っていた。
気分が少し陰鬱になりながら、甲板へ上がる。
何やら楽しそうな声が聞こえてくるではないか。
「キャー、怖いよー!!」
「そうして井戸の中へズイッと!!」
「井戸っ!?」
まさかのトラウマワードに腰が少し引けてしまう。
甲板ではセシリア達が円になって話をしていた。
意味ありげに円の中心にはろうそくなんか置いてある。
という事はまさか・・・。
「あ、ダーリン。おはよう。今ね、セシリアの怪談話を聞いていたの。」
「セシリアの怪談ね、すっごく怖いの!!レイレイ、ちょっと鳥肌立ってるもん!!」
「お兄ちゃんも聞く!?まだとっておきが残ってるよ!!」
「え、いや。俺は・・・。」
冗談じゃない。
何が楽しくて、怖い思いをしなければならんのだ。
俺は微妙に引きつった笑顔で断る。
それを見たエフィがニヤニヤ笑いながら、俺の弱点をばらした。
「カイはダメだよ。お化けとか怪談とか子供みたいに苦手だしね。」
「ぷっ。まさかカイ兄ぃ怖い話ダメなの?」
レイレイはにやけた顔でそんな事を言う。
彼女はもうすっかりこの船に溶け込み、いつの間にか俺のことを「カイ兄ぃ」と呼んでいた。
セシリアがおとなしい分、レイレイがとてもおてんばに見える。
昨日なんか昼寝をしている俺の顔にラクガキされてしまった。
おかげで船中の笑い者になってしまうし・・・。
他にも昼飯をとっていくわ、俺の剣を隠すわ。
あ、思い出しただけでちょっとイラッとしてしまった。
エフィと同じく俺が怪談に弱いことを知っているテテスはクスクス笑っているのだが、セシリアとティタンは「まさか〜」とか言っている。
そうか、二人は知らないんだよな。
このままバレずに・・・。
「ほらっ!!カイ兄ぃの肩に白い手がっ!!」
「うわぁっ!!??」
「キャッ!?も、もうダーリンったら・・・。」
「お兄ちゃん、本当に怖い話ダメだったんだ。ちょっと意外だな。」
俺は必死でティタンにしがみついていた。
おそるおそる肩を見てみるが、もちろんそこには手なんかあるはずもない。
くぅ・・・、だまされた・・・。
この姿を見て、腹を抱えて笑うレイレイ。
少し殺意がわく。
「でも、怯えるダーリン可愛いわ。よ〜しよし。」
「そうだな、ティタン。この時のカイはいつもと違って小動物みたいになるよな。」
「カイさん、好感度アップですね。」
テテス、そういう問題じゃない。
子供扱いされいるようでとても居心地が悪かった。
頭を撫でるティタンの手をどけて、俺はこの場から逃げるように離れる。
ドンッ。
ん、何かにぶつかったか?
「兄さん、前を見て歩かないと危ないですぜ。」
「ひぃっ!!??」
「うぇっへっへっへ。どうしたんですか?人を幽霊みたいに。」
気付くと俺はエフィに抱きついていた。
よく見ると船長じゃないか。
まったく驚かせやがって・・・。
レイレイはツボに入ったのか、涙まで流して笑っていた。
セシリアの目も少し弧を描いてる。
頼むからそんな目で俺を見ないでくれ。
「お、お兄ちゃん、くすっ。本当にこわ、怖い話・・・プッ。アハハハハハハハ。」
地面を叩きながら、大笑いをするセシリア。
セシリアにまで・・・、笑われた・・・だと・・・。
もう泣きそうだった。
おそらく今の俺の顔は人の顔とは思えないほど真っ赤だろうな。
顔がものすごく熱い。
「何だい、兄さん?怖い話が苦手なのかい?うぇっへっへっへ。なんなら、ここは俺が一つ話をしてやろうか。」
「結構ですっ!!」
俺は全速力で逃げ出す。
しかしティタンに肩を掴まれて、止められてしまった。
どうやら俺を逃がす気はないらしい。
「ダーリン。怖いならワタクシにしがみついていいから、ね?」
「う、うう・・・。」
ティタンがしっかりと俺の右腕を掴む。
俺の左隣にはテテスが座り、エフィは俺の後ろに立って背中によしかかった。
何だ、この包囲網。
「じゃ、ボクはここー。」
「あ、ずるい!!レイレイもここに座る!!」
あぐらをかいている俺の脚の上にチョコンとセシリアとレイレイが座る。
レイレイが強引に入ってくるものだから、正直痛い。
もう逃がしてくれ。
その言葉をこめた視線を送るが、船長には届かなかった。
「さて、怪談ってのは他でもねぇ。この『霧の海』に現れる幽霊船の話だ。」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない・・・。
船長の話し方で、全員に緊張が走った。
「昔な。この海域で一隻の船が沈んだんだ。噂によると海賊に襲われたらしいんだが。それ以来この海でその沈んだ船を見かけたってヤツがたくさんいる。その船は・・・。」
「船長!!船が近づいてきやす!!」
「そうそう。ちょうどあんな・・・え?」
見張りは一隻の船を指さして大声を上げる。
彼の示した方向を見ると、そこには今にも沈没しそうな船がいた。
帆はボロボロで穴だらけ。
船の外壁はカビが繁殖していて、ところどころ砲撃を受けたような痕がある。
極めつけはマスト、前の一本が根元を残して折れているではないか。
間違いない、あれは・・・。
「幽霊船・・・ガクッ。」
「ちょっとダーリン!?しっかりしてぇ!!」
[おい、誰か!!兄さんをベッドへ!!」
船長さんの怒鳴り声とティタンの心配する声が耳の奥で聞こえる。
逃げられない状況と過度の恐怖で気を失ったみたいだ。
皆の声が遠くに聞こえる。
それに何だかとても心地いい・・・。
自分でも驚くほど冷静だった。
「カイ、泡吹いてるぞ!?」
「カイさんの身体がビクンビクン痙攣してます!!誰かぁ〜!!!」
薄れゆく意識の中で目に焼きついたのは廃船と呼んでもおかしくないオンボロな船だった。
「・・・うわぁっ!!?」
ベッドから飛び起きる俺。
辺りを見て、ホッと一息つく。
何だ・・・、俺の船室じゃないか・・・。
全ての不安を振り払うために窓の外を見てみるが、あの幽霊船の姿はない。
どうやら夢だったようだ。
身体中から力が抜け、安堵感に包まれる。
俺は少し軽い足取りで、甲板へ上がるとそこには・・・。
「あ、お兄ちゃん。目が覚め・・・って、キャア!?」
「なななななな何で、ゆゆゆ幽霊船が!!??」
船の後方にはあの幽霊船がピッタリついてきているではないか。
何でっ!?夢じゃなかったのか!?
俺はパニクりながらセシリアを抱きしめる。
「やっ、お兄ちゃあっ!?そ、そこひゃうっ!?ダ、ダメだよぉ、そんなとこぉっ!!」
「何で!?あの船が何でここにっ!?」
「いい加減にしろぉっ!!レイレイキーック!!」
「ぐぼぁっ!!?」
レイレイがラ○ダーキックさながらの蹴りを打ち込む。
足が何本もある分、衝撃は強いように思えた。
そのおかげで(そのせいで?)俺は正気を取り戻す。
おお、自分を見失っていた・・・。
「で、何であの船は俺達の後をついてきているんだ?」
「それがわからないの、お兄ちゃん。」
「さっきからずっとついてきてるよー。」
「ずっとついてきてる?ということは何か目的があるんじゃないのか?」
「もしかして道連れを望んでたり・・・。」
「ひぃっ!!??」
「冗談よ、お兄ちゃん。」
心なしかセシリアが俺のリアクションを楽しんでいるような気がする。
いらない所がティタンに似てきたな。
そんな事を考えていたら、本人(ティタン)が現れた。
「ダーリン、起きたのね?じゃあ、あの船へ行くわよ。」
「あの船?」
「決まってるじゃない、幽霊船よ。」
「は!?」
ありえない。
見ただけでも足がすくむのに、入るなんて・・・。
ティタンの顔が優しげな顔に変わる。
「大丈夫。皆で行けば平気よ。だから、行きましょう?」
「う・・・、わかったよ。」
「セシリア達はここにいてね。ワタクシとエフィとテテスは行ってくるわ。」
「ボク達はダメなの!?」
「ええ。セシリア達にはもしかするとトラウマになるような状況かもしれないわ。あんなにボロボロだもの。それにあの船をこのままにしておくと、私達の船が沈められてしまうかもしれないわ。」
「レイレイも行く!!」
「ダーメ。今回はお留守番してて、ね?」
「「えー。」」
確かにティタンの言うとおりである。
あんな気味の悪い船の中だ。
下手をすると、一生消えない心のキズをつくるかもしれない。
グチャグチャな死体とか、思わず吐きたくなるような凄惨な光景とか。
それだけは何としても回避しなければ。
セシリアやレイレイの笑顔が消えるようなことは絶対にあってはならない。
申し訳ないが今回だけは我慢してもらおう。
「わかったよー。レイレイ、ちゃんとお留守番してるよー。」
「お兄ちゃん達、気をつけてね。」
「ああ、ちょっと行ってくる。」
カッコつけてそう言ったのは良かったが、もう足はガクガク震えていた。
俺達はエフィ達と合流した後、帆の縄を利用して幽霊船へと飛び移る。
着地した途端、メシメシという音が響いた。
結構、ガタが来てるな。
それと同時にカビくさい臭いが鼻をつく。
「ここ、かなりカビくさいわね。うわぁ、見て。こんなにホコリが・・・。」
「油断するなよ、テテス。武器は構えてて。」
「わかったです、エフィ。アタイだって戦えるんだ。」
俺達は自分の武器を構えながら甲板を進んで行き、錆びたドアに手をかけた。
ギィィィという音を立ててドアが開く。
その瞬間、俺達は異常に気付いた。
全然ホコリが舞い上がっていない。
甲板はまったくといって良いほど手入れされていないのに、船の中は驚くほどキレイに掃除されている。
間違いない、誰かいるのだ。
俺達はアイコンタクトをとり、慎重に船の中を探索していく。
俺はもう恐怖で気が狂いそうだ。
頭の中で「幽霊なんていない、幽霊なんていない」と繰り返し自分に言い聞かせて、何とか平静を保っている。
ギシ・・・、ギシ・・・。
俺達の足音が更に緊張感を高める。
「う・・・、うぁ・・・。」
どこかから誰かのうめき声がした。
俺達は慌てて後ろを振り返る。
そこには・・・。
「うぁ・・・、うぅ・・・。」
「ゾ、ゾゾゾゾンビーーーーー!!??」
ゾンビが二体こちらに向かってくるではないか。
やはりここは幽霊船だったのか!?
俺は驚いて腰を抜かせてしまう。
やばい、こんな時に・・・。
「このぉっ!!」
ティタンが火球をゾンビに向けて放った。
するとその後ろからスケルトンが盾を持って火球を防御する。
ゾンビだけじゃなかったのかよ!!
更にスケルトンはそのままティタンに斬りかかる。
「私が相手よっ!!」
キィンッ!!
刃と刃がぶつかる音。
俺も腰を抜かしてなきゃ、戦うのにっ!!
自分の不甲斐なさに腹が立つ。
テテスはゾンビと格闘をしているし、ティタンはもう一体のゾンビの相手で精一杯。
剣術の腕は俺も認めるエフィはスケルトンの剣術に押され気味だ。
「ふふふっ、私達の勝ちねっ!!」
天井からゴーストが一匹、顔を出した。
まだいたのかっ!?
ゴーストはエフィたちに向かって薬品をばら撒く。
それは煙のように彼女達の上にかぶさると、力なくパタリと倒れてしまった。
まさか・・・、毒!?
俺は這いずりながら、彼女達に駆け寄る。
息はしてる・・・、どうやら眠っているだけのようだ。
「うぁ・・・、うぁぁ・・・。」
「ひぃっ!!??」
ゾンビの一体が俺に襲い掛かってくる。
俺・・・、お化けに殺されるのか・・・?
目をつぶり覚悟を決める。
・・・が、いつまで経っても何も起こらない。
「・・・え?」
「うぅ・・・、うぁあ・・・。」
ゾンビは俺に頬ずりをしているではないか。
何だ、一体・・・。
それから他の奴等も近づいてくる。
どうやら敵意はないようだ。
「うふふふ・・・、久しぶりの男よぉ。」
「ああ、そうだな。」
「お、俺にっ、何の用だっ!?」
「怯えた表情もいいわぁ。でも、安心してぇ。命をとる気はないからぁ。」
「うぅ・・・。」
唇が震えて言葉をうまく紡げない。
もう俺は気を失う寸前だった。
「安心してくれ。私達は貴方に危害を加えない。約束する。」
スケルトンが持っていた剣を下に置く。
どうやら本当に命をとる気はないようだな。
少し心が楽になる。
「お願いとは他でもないわぁ。貴方の精を分けて欲しいのぉ。」
「はい・・・?」
「だから、私達4人に貴方の精を分けて欲しいのぉ。」
ゴーストは笑顔でそう言う。
「ううぅぁ・・・。」
「あぁぁぅ・・・。」
ゾンビ達も頭を下げ始めた。
お願いします、という意味だろうか?
「精を渡せば、俺達を帰してくれるのか?」
「もちろん。約束しよう。」
男っぽい喋り方がスケルトン。
ほわほわした喋り方がゴースト。
うめき声しか出せないのがゾンビ達。
よくよく聞けば、彼女達にも個性がある。
それを知ると少しだけ恐怖心が薄れた。
「うぅぁ・・・。」
「お、おいっ!!??」
ゾンビの一体が俺のズボンを脱がす。
それに群がるように他の子達も俺のを覗き込んだ。
じっと見つめられるとさすがに恥ずかしいんだが・・・。
俺の羞恥心に反応して息子が立ち上がった。
「ううぅぁ・・・。」
ズボンを脱がしたゾンビはすぐさま自分の服を脱ぎ、俺のモノを中に入れようとする。
嘘だろ、全然濡れてないじゃないか!?
ゴリっとした感触とともに彼女の秘所が俺の肉棒を飲み込んだ。
生きている人間と違い、彼女の中はひんやり冷たい。
潤滑させる愛液がそれほど出ていないせいか、彼女が腰を振るたび俺の肉棒が引っ張られるような感触があった。
少し痛いが、気持ちいい。
「うぁ、うぁ、うう、うぁっ・・・。」
「そ、それ。きつい、うっ。」
ゴリゴリッ。
いつもの挿入の音とは違う音。
だんだん愛液がにじみ始め、滑りが良くなる。
こうなればもういつも通りだ。
俺は本気で腰を振る。
ゾンビのうめき声は徐々に柔らかくなっていった。
腰に何かが溜まっていく。
射精が近いということを教えてくれた。
「出すぞぉ!!」
「うっ、うぅぁぁぁぁ・・・。」
プシャアという音とともにゾンビの秘部から水が噴出す。
彼女もイってしまったようだ。
足がぴくぴくしている。
相当気持ちよかったのか、彼女の顔はニッコリ笑顔のまま白目をむいていた。
「じゃあ、次は私だ・・・。」
「ずるいわよぉ、今度は私よぉ。」
「うぁ・・・。」
自分の秘所を広げて待つ三人。
全員もう結構濡れているではないか。
まだまだやらなきゃならないな。
頬を叩いて気分を入れなおす。
薄気味悪い船の中に魔物達の嬌声が響きわたった。
自分の船へと戻ってきた俺は去っていく幽霊船を眺めていた。
エフィ、ティタン、テテスはまだ眠っている。
彼女達をこの船までゴーストが運んでくれたのだ。
もう俺のモノは元気をなくしており、全てを使い果たしたと実感させる。
まさか自分がお化けとする日が来るとは・・・。
「お兄ちゃーん!!大丈夫ー!?」
「カイ兄ぃ!!生きてるか!?」
セシリアとレイレイが心配そうに駆け寄ってくる。
大丈夫だという意味をこめて頭を撫でてやった。
船で起こったことを全て(エッチの部分は話し合いとごまかしたが)教えてやると、彼女達はホッとため息をつく。
どうやらセシリア達にとても心配をかけたようだ。
『私達、もう死にたいんです。』
頭によぎったのは、別れ際に言ったお化け達の一言。
俺はした後に彼女達の話を聞いた。
元は全員が人間で、海賊に襲われた時に死んでしまったらしい。
自分達を殺した海賊達を追って、何百年とこの『霧の海』を彷徨い続けていたのだ。
彼女の頭では既に海賊達が生きていないということはわかっている。
しかし自分が魔物として生まれ変わったときの願いが満たされなければ、アンデット種が天に召されることはないのだ。
いわば永遠に続く拷問。
自分達を殺した海賊達≠ノ復讐しなければ、一生彼女達は成仏できないのだ。
が、肝心の海賊達はすでにこの世にいない。
つまり死ぬことも生まれ変わることも許されないのだ。
どれだけの苦しみなのだろうか?
永遠とも思える時間をただひたすら、することもなく過ごすのは。
達成できるはずのない目標を追い続けるだけの生。
まだ20年も生きていない自分にはとても想像できない。
だから、去っていく船の姿はとても物悲しげに・・・。
とても切なく見えたのだ。
10/06/18 01:53更新 / アカフネ
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