異端者と追放者と流浪者と脱獄者
物心ついた時から、村のあり方に疑問を抱いてた。 男を無差別に襲って蹂躙して、自分の配下に置く事が嫌だった。そんな風になりたくなかった。 もっと純粋でいたかった。でも許されない自分の宿命にわたしの心は引き裂かれていった。 ある日、いつものように人間の村を襲いにいった。そこは貧しい村で、村長が男を好きなだけ襲って良いから他の者には手を出さないでくれと地に頭をつけながら頼み込んできた。 わたしは一番がたいの良い男を探し、犯した。その男は抗わなかった。少し離れた物陰で一人の娘と、幼い子供がわたしの事を哀れむ様な目で見ていた。その目は十数年経った今でも覚えてる。 結局わたしはその男を最後まで犯さず、逃げる様にして自分の村へ帰ってきた。そしてその夜、族長に呼び出された。 族長はわたしに追放されるか、次の襲撃で夫を見つけるかの選択を迫ってきた。わたしは泣きながら止めようとする両親を振り払って追放を選んだ。 父は自分の愛用していた剣を投げてよこし、母は何も言わずに家へ籠った。 夫を見つける気もなくて、手当たり次第に他の魔物や時折見かける騎士に喧嘩を売った。結果はいつもわたしの勝利で、勝つたびに世界の色が薄れていった。 もう、なにもかもどうでもよくなってきた時、赤い髪を風に踊らせながらぼーっと空を見上げている褐色肌の女を見つけた。四肢に走る朱色の鱗と長く艶やかな尾、その先にともる煌々とした炎にわたしの心が微かに弾んだ。 すかさず剣を抜いて突進していくわたしを、女は片手でいなした。立ち上がってなおも切り掛かるわたしに対して女は腰に下げた獲物を抜く事無く、ただ避け続けた。 それが最初の敗北だった。戦わずして勝つ、という概念の芽生えは荒んだわたしの心に潤いをもたらした。 女の名前は『ロア』。まぎれも無いサラマンダーだ。 |
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