連載小説
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第三章 まだ知らない事
「悪魔の証明、知ってるか?」
俺のその言葉に来夏は。
「はぁ?」
素っ頓狂な声を上げた、知らないらしい。
恥かいたわ、色んな意味で。
「あーそーだな、昨日の事なんだが。」

〜〜〜〜〜

「と言うわけでな印丁が腰抜かした時に俺が必死で元の山道まで助けを呼びにいったものの、寒空の下で一時間野ざらしだったからな流石に印丁の体に響いたらしい。」
「元々体強い方の魔物でもないですからね・・・。」
風邪というよりは単に調子崩しただけだろう、病は気からだ。
そもそも俺が無事なのだから外的要因はあまり関係ないと思う。
「ふーん、幽霊、ねぇ・・・。」
いかにも胡散臭そうな表情だな。
「言っちゃうけどさ、それ何かの見間違いじゃない?」
「そんなはずはない、なんて言えないな、だが赤い光の話は本当だ。」
実際問題、幽霊関連の噂話が出る時は俺達の様な、雰囲気に流された奴らからなんだろうな。
100%が雰囲気に流されたとは言わないがな、傾向は多いだろう。
「だからこそ検証するぞ、幽霊だか気のせいだか、その辺はしっかりと区別すべきだ。」
印丁が復活するにはとにかく問題を取り除く事が必要なわけで。
「悪魔の証明かーデーモンの知り合いならいるけど。」
「いやそう言う話じゃなくてな、そもそもその幽霊がどう見てもゴーストじゃないのが問題なんだよ。」
あの光はなんか人魂的な何かだろう、そう俺達の脳が判断したらしい。
でも何か妙な訳で、それを調べるのが今回の目的だ。
「とにかく人員として来夏を連れてきた、光源として。」
「光源・・・ですか?」
「あぁ、ちょうどなんか帯電してたし。」
「うん?なんかさ、私もその・・・幽霊観察についてく流れ?」
「そりゃあ、もちろん。」
うわ、すごい嫌そうな顔しやがった。
だって一人で印丁運ぶの大変だったんだぞ、森だし俺の背と同じくらいの草生えてたし。
前全く見えない中必死に助け呼んだっての。
「いやいやいやいや!このご時世に幽霊とか!」
「お前、完全に対岸の火事だったろ。」
「ヤダー!幽霊とか!ホントヤダ!」
こいつ、引きずってでも連れてこう。
とにかくもう一人くらい人集めるか、となると誰だろうか。

〜〜〜〜〜

一旦解散してそれぞれ夜の準備をする事になった。
とにかく虫除けグッツと明かりだな、全員分買わないと。
何を用意するか確認してホームセンターに入ると何故か春彦を見かけた。
買い物をしているらしい、カゴに数個の品物が入っていた。
若林に抱きつかれたまま慣れた様子で、だ。
「おーす、春彦。」
「はい?あー藻城先輩、どうかしましたか?」
「お前この後暇?」
「えーまーはい。」
「じゃ肝試しに付き合え。」
春彦は数秒停止して。
「はい?」
素っ頓狂な声を上げた。
春彦にこれまでの事を説明する、見る見るうちに春彦の顔は苦渋に染まり。
「いやいやいや!嫌っすよ!そんな幽霊なんて今時!」
「面白いくらい来夏と同じ反応してんな。」
「俺絶対行きませんからね!肝試しなら夏やってくださいよ夏!」
夏にやったらお前行くのかよ、その言い方だとそう聞こえるな。
「諦めろ春彦、お前はそう言う奴だ・・・。」
「どう言う意味っすか!行きませんからね!」
「若林はどうする?来るか?」
「聞いてます!?」
ナマケモノを彷彿とさせる動きでのそっと若林はこちらを見てきた。
やる気の無いのが顔を見て分かる、と言うかこんな人形前見たな。
「めんどい。」
「そっか、春彦お前は来いよ。」
「扱い!扱いに差が!遺憾!」
だって春彦だし。
とにかくこれで男女比もマシになったな、人を増やせばいいと言うものでもないかもしれんが、多いに越した事はない。
「んでお前は何してんだ?買い物は分かるが生徒会の札着けたままだぞ。」
生徒会役員が仕事をする時に付ける札を着けたまま買い物をしていた、外し忘れたのだろうか。
「まだ生徒会の仕事してますから、とは言っても備品買ったらもう帰りますけどね。」
「そりゃ余計な事言ったな、ん?」
若林が視界に映ったのだが、なんだか何時もと表情が違う気がした。
やる気ないのはいつもなんだが、なんだこの不機嫌な顔は。
「俺は行きませんからね!」
「あー分かった分かった、分かったから集合場所は・・・。」
少しばかり違和感を覚えながら、俺は話を進めた。
気にし過ぎか。

〜〜〜〜〜

「なんで俺まで・・・。」
「いやー信じてたぞ春彦。」
待ち合わせの時間少し前だがしっかりと春彦は来てくれた。
ともかく春彦には後でメシくらい奢ってやるとして。
「後は印丁と来夏が来るな、印丁は多分すぐ来ると思うが・・・。」
ちらっと携帯を見る、なんの気無しの行動だがすぐに手の中で携帯が震えた。
「来夏か。」
どうやらメールらしい、開いて見ると。
「『急に用事できたから行けない。』・・・あいつドタキャンしやがった・・・。」
無理矢理誘ったのも事実だが、ダメだ文句を言おうにも言えないな。
しかし来夏の割には異様に端的で飾り気のないメールだな、て言うかなんでメールで伝えてきたんだ。
何か電話越しでも話せない理由があるのか。
「藻城君!」
印丁の声にはっとする、いや来ないなら来ないで別にいいか。
「おー印・・・丁、お前。」
「しっかり用意してきました!」
印丁はまるでこれから南極か何かへ行く人間のように大量の荷物を背負って、そして着込んでいた。
「置いてこい、邪魔だ。」
「えぇ!?」
と言う事で一度印丁の荷物を減らして、もう一度集合場所に戻った。
だが、やはり来夏はいなかった。
「来夏は来れないってよ。」
「そうですか・・・しょうがありません、この面子で行くとしましょう・・・。」
大丈夫だとは思うが、なんだこの落ち着かない気持ちは。
「それにしても島田君はこう言う話題が好きなのですね。」
「いや好きではないですがなんか頼まれた以上こう・・・。」
「うんうん、分からなくはないですが島田は人生損する人ですね。」
「えぇ・・・いきなりエグいですね・・・藻城先輩?」
「ん?あぁ、今行く。」
俺は携帯を閉じて二人の後を追った。
ふと、振り返る。
「・・・なんなんだよ。」
当たり前だが街中だから人だらけだ。
なんで振り返ったか自分でも分からなかった。

〜〜〜〜〜

あの幽霊騒ぎの山の入り口に立つ。
幽霊騒ぎも落ち着いてきたのか前来た時よりも人が少なくなっていた。
「あれ、なんか人多くありません?」
「幽霊騒動でなんか増えたみたいだ、昨日はもっと多かったぞ。」
おおよそ昨日の三分の一程度、しかしそれでもいつもよりは人が集まっていた。
「物好きですねーと言うか暇ですねー。」
「お前もかハルータス。」
似た事言ったやついたな、誰だったかな。
ニヤニヤしつつ印丁の顔を見ると苦笑いを浮かべていた。
「とにかく今回は全員冷静に行くぞ、逸れるな、意思疎通はしっかりしろ、落ち着いて動け、この三つだな。」
「そうですね、今回は前の様な無様な姿は晒しません!」
微妙に話題を逸らしたな。
ともかく覚悟があるのとないのとでは全然違う、昨日の様な事にはならないだろう。
それにしても、印丁は調子が上向いている様だ先ほど印丁の家で会った時よりは顔色が良くなっていた。
「では昨日と同じ所へ行きましょうか。」
「うす、しっかし夜はまた雰囲気ありますねー。」
深いわけじゃないがそれなりに暗いからな、昔は野生の魔物娘も住んでたらしいし。
野生の魔物娘ってなんか妙な響きだなおい。

〜〜〜〜〜

草むらをわさわさ進む、相変わらず前が見えん。
春彦も印丁も、少し息を潜めて進んで行く。
「どうだ?いそうか?」
「ざっくりした質問すね・・・藻城先輩も見張ってくださいよ。」
「見えねーよ、見張りは任せた。」
さっきからずっと印丁のケツしか見えてない。
あんまり嬉しくない役得だな。
「・・・ちなみに先輩のツボはどこっすか。」
「腿。」
今印丁はジーパンを履いている、少し余裕を持ったサイズらしく体のラインはあまり出ていない。
つまり微妙に萌えない。
「お前は?」
「そりゃもう胸っす。」
「よし戦争だこの野郎。」
芸の無い、視点の狭い、童貞の頃より成長できない馬鹿野郎が。
「でかいに越した事はないでしょうが!」
「あ?でかけりゃいいってもんじゃねーだろ、だからお前は副会長なんだよ。」
「いや関係ないでしょうが!つーか先輩こそ愚者です!母性の象徴の良さが分からないとは!」
「お前なぁそんな堂々と晒してるものよりかはたまにちらっと見える方がいいだろ。」
「何頭悪い会話してるんですか・・・。」
呆れられた、いやだってそりゃ喧嘩する話題だろこれ。
この話題をチョイスした春彦側に責任はある、俺は無罪。
「じゃあ印丁はどこ見るんだよ、つーかこの話題魔物娘の大好物だろ。」
「私は白澤ですので、まぁ私は男子の鎖骨とか良く見ますけど、はっ!?」
やっぱり好物じゃないか。
鎖骨か、女子の感性は良く分からん。
「何を言わせるんですか!」
「自爆だばーか、やーいむっつり。」
「鎖骨・・・鎖骨ですか。」
春彦は妙に印丁の言葉を反芻していた、何故そんなに鎖骨を気にする。
「藻城君!やめてください!」
「はは、悪い悪い。」
と話していたらようやく草むらから出た、そしてすぐ昨日と同じ獣道が見えた。
昨日と変わった点はない、たった1日では変わらんか。
「それでは今日も張り込みましょうか、しばらくお口にチャックで。」
うわ、そんな事言う奴初めて見たわ。
そしてその台詞似合うな、流石は白澤だ。
「ふぅ一息つけます、んで先輩達が見た幽霊ってどんなのでしたっけ。」
「なんか五、六個くらいの赤い光だな、それがこの道通て行った。」
今考えても良く分かんないよな、人魂なんだか幽霊なんだか、もしくは鬼火とか。
だが狐火も見たことないしな、この辺は稲荷とか妖狐はあんまりいないし。
「赤い光・・・それ本当に幽霊なんすか?」
「分かんないから調べてんだよ、昨日も逃げるみたいに帰っちまったしな。」
言えば言う程、聞けば聞く程、冷静さを無くしてたのを実感する。
しかし実際何がなんだか分からない奴に目の前横切られても見ろ、そりゃ混乱するだろう。
「そこ!おしゃべりしない!幽霊は警戒心が強いんですから!」
いや何を根拠に警戒心が強いと言ってるんだよ。
「へいへい、黙りますよ。」
やれやれ、随分とやる気満々だな。
自分の知らない、つまり先祖の誰も知らない事を調べる。
こいつにとっては先祖への挑戦状みたいなもんなのだろうか。
「本当に幽霊なんて出るんですか・・・?」
「さーな。」
だからそれを調べるんだっての。
もう一々説明すんのも面倒になってきた、俺は今日もまた星を眺めていた。

〜〜〜〜〜

夜も深まり少し肌寒くなってきた。
夏前とは言えまだ冷えるな、もう少し着込んでくればよかった。
ぐぁ、と大口を開けてあくびをする、ぼちぼち退屈になってきたな、座ってるってだけは暇だぜ。
「暇だな、春彦滑らない話をしろ。」
「櫂って醤油で大きくすると黒くなるのかなって思って醤油かけたらすごい嫌な顔されました、ちなみに普通の色のままでした。」
滑らないと言うかただの馬鹿やった話じゃねぇか。
誰でも醤油かけられたら嫌な顔するだろ。
「ふふっ。」
印丁が少し笑いをこぼした、どうやら印丁にはウケたらしい。
「しかし何も起きないですね。」
「調査は根気です、とは言え流石に時間かかる様なら帰りましょう。」
なんだろうか、この既視感。
確か昨日も、帰ろうとした時に。
「ひぃぁぁぁぁぁあ!?」
悲鳴、悲鳴だ。
誰かがこの森で、近くで悲鳴を上げている。
「なんだ!?」
悲鳴が止まる、方向がイマイチ分からん。
しかしそう遠くはないのが分かる。
「印丁!ライト!」
「分かってます!」
これじゃ幽霊どころじゃないぞ。
俺は明かりを点けて辺りを照らす、だが人影らしきものは見当たらなかった。
「印丁先輩!悲鳴はどっちか分かりますか!」
「えぇ、恐らく真後ろです。」
「さっさと行くぞ、物好きな奴が穴か何かに引っかかって転んだのかもしれない。」
なんでだ、なんでなんだ。
なんでこんな時に森姫の顔が浮かぶんだ。
嫌な予感がする、途方もなく、嫌な予感が。
俺達は悲鳴のあった方へと走る、しかし草むらがまたもや邪魔をする。
背の高い草、俺はその中々にまっすぐ突っ込んだ。
「くっそ見えねぇ!」
草に遮られて光も通らない、視界は全て草で覆われた。
「先輩!大丈夫ですか!」
それでも俺はまっすぐ必死に走った、どうにか草むらをかき分ける。
ともかくまっすぐ走る、俺は頭の中で森姫の事を考えていた。
「抜けた!印丁!悲鳴ってどこに・・・。」
草むらを抜け、背後を向く。
そこには大量の草が生えてるだけで誰もいなかった。
要するに俺だけ、孤立してしまったのだ。
「やっ!?ちまったぁぁ!」
クソ、最悪な事をしてしまった。
冷静さをまた失ってた、先陣切って走ってたからな、春彦達もまた俺の事を見失ったんだろう。
この歳で迷子かよ、凹むわ。
「ひぃぃい!?」
また悲鳴だ、俺は今の悲鳴で確信した。
少し近づいたから、先程よりは聞き分けできた。
「森姫!?」
多分この悲鳴は森姫のものだ、俺はそう判断した。
あいつがなんでここにいるのかは知らないが、森姫は俺達の後ろにいた。
そして幽霊に会った、のだろうか、分からない。
「こっちか・・・それともこっちか?森姫!どこだ!」
どこから悲鳴が聞こえたかは分からない。
俺は闇雲に走り出した。
森姫だったら尚更放っておけん、あいつは幽霊とか大の苦手なんだ。
それなのにオカルト好きだから、今回も噂を聞いてきたのだろう。
要するに幽霊は嫌いなのにパワースポットとか占いとか大好きなんだよあいつ。
「馬鹿、野郎!」
その後も悲鳴は断続的に聞こえた。
しかしあんまり近くなってる気がしない、こちらも走ってるって言うのに。
「止まった・・・。」
どころか悲鳴が止まった、代わりにすすり泣く声が聞こえる。
完全に勘だけで行動していたが当たりらしい、この声が聞こえると言うことは近くにいるみたいだ。
周りを目を凝らして見渡す、ライトの明かりで周りを照らす。
しかし森の中は死角だらけだ、木の陰とかは全く見えない。
「森姫!いるか!」
立ち止まり、叫ぶ。
見えない以上声を頼りに探すしかない、森姫ならば俺の事を気付いてくれるはず。
「ひぐっ!?も、もも・・・ちゃん?」
やはり、反応があった、どこだ、どこにいる。
目を凝らすと、白い脚が木の陰からはみ出していた。
近くの木の陰、そこに森姫はいた、あの脚は森姫のものだ、見間違えるはずはない。
でかいから見つけやすくて助かった。
「森姫・・・怪我したのか?」
森姫は座り込んでいたのだが左足首を押さえていた。
やはり何かから逃げていた、そしてその拍子に転んだのか。
「見せてみろ応急処置くらいはできる・・・ぐねったか。」
見た目は問題ない様に見える、が多分内側にかなりダメージがある。
森姫は身長とかの関係から重いから、その分ダメージも多いだろう、今すぐどうにかしないとしばらく違和感を引きずりそうだな。
「氷か何か・・・全くお前はなんでこんな所にいるんだよ。」
とりあえず持っていたペットボトルのジュースで代用する、少しぬるいがないよりはマシだ。
事情は分からんが森姫は突然走り出して俺が森姫を追う形になったらしい、そして森姫が転んで止まった訳だ。
いや事情の察しは大体つくけどな。
「ももちゃんが・・・。」
「俺が?」
なんでそこで俺が出て来るんだ。
森姫は黙り込んでしまった、俺と森姫がここに来た理由に何の関係があるのだろう。
「なんだよ、気になるだろうが。」
「ももちゃんは!印丁さんとどう言う関係なの!?」
「はぁ?印丁?」
なんでそこで俺の話が出て、その上印丁に繋がるんだ。
どう言う関係も何も、唯の同級生だ。
「別に何もねーよ、唯の同級生それ以上は決して無い、色々あってここでとある調査してただけだ。」
「嘘!嘘ウソうそ!だったらなんで昨日二人きりで歩いてたの!?」
確かに二人きりで森に入ったが。
いやまて、もしかして昨日から見てたのか、となると説明が面倒だな。
見てたなら印丁が腰抜かした助けてくれりゃよかったのに。
「何もない正真正銘な、印丁に手を出してないし出されてもない、それに・・・まだそう言う事考えてねぇし。」
俺は恋愛に関しては子供の頃からずっと棚上げしている。
一度、恋愛関係で大きな傷を負った、そして負わせてしまったから、だから俺はまだ恋愛については考えない。
「ももちゃん・・・ももちゃん、は、はひ?」
大声を出すかと構えたが、森姫は急に表情を強張らせた。
そして何かに怯える様に、座ったまま後ずさった。
「森姫?どうした。」
「も、ももも、もももちゃん、う、しろ、後ろ!」
森姫は蒼白な顔のまま叫ぶ、ただ事じゃない顔だった。
何かに恐怖している、そしてその視線の先は俺の背後。
「後ろ?」
俺は完全に幽霊の事など忘れていた、森姫が転んだと言う事実だけが俺の頭の中にあったからだ。
後ろを振り向いて、自分の浅はかな行動に後悔した。
俺の背後には、車程の大きさの蜘蛛がいた。
「な、あ、はぁ!?」
ライトの光でその顔がはっきりと見えた、赤く光る目は複数ありどう数えても8個どころの騒ぎじゃない。
そしてアラクネとは比べものにならない迫力を持つ、それこそどう見ても魔物の様な蜘蛛の顔が俺たちを睨んでいた。
ぐちゃりと頭にピンク色の口、だろうか妙な器官を備えていた。
「流石に・・・これは・・・。」
予想外も良いところだ、幽霊どころの話じゃない。
エイリアンとかそんな所の問題だろ、ジャパニーズホラーよりアメリカンホラーな代物だ。
いや、むしろパニック物か。
いやそんな事考えてる暇じゃないだろう。
「おい森姫・・・立てるか?」
森姫を連れてこいつから逃げる、そんな事は俺はできない。
身長が二倍くらいある奴を連れて走る事なんてできるわけがないのだ。
「ひっ、ひぐ、うん、いっ!?」
森姫が立とうとして足に力を入れた、その瞬間森姫は表情を一転させ再び座り込む。
さらに顔を青くして森姫はそのまま黙り込んで俯いた。
「はぁ・・・。」
ついついため息が出る、いや森姫を責めているつもりは少しも無い。
ただ懐かしくなっただけだ、昔似た様な事があった。
俺はあの時と同じく森姫の頭を撫でた。
「ふぇ・・・?」
そして森姫を置いて前に進む。
歳食っても変わらない事もあるんだな。
「ちょっといいか?言葉が・・・通じるかこれ。」
恥も外聞もなく、俺は対話を試みた。
言葉が通じないエイリアンか攻撃的な異常生物だったら最悪死ぬかもな、俺。
「ええっと・・・実はそこの友達が怪我してしまいましてね、できれば氷か何か頂けるととても助かるのですが・・・。」
我ながら情けない事この上ないぞこの行動。
なんでこの明らかに地球上の生物とは思えない奴に交渉持ちかけてんだ俺は。
「ももちゃん・・・。」
皆まで言うな、俺だってこんな事したくはないんだ。
なんか俺の行動が映画で最初に死ぬ間抜けだな。
大蜘蛛は少し身じろぎをする、これだけの大きさなのに動いてもほとんど音を立てない。
だから気づけなかったのか。
大蜘蛛は後ろに下がった、そのまま振り返って森の中へ戻って行った。
特に俺たちに何もせずに。
「・・・なんだったんだ。」
本当に、なんだったんだアレ。
普通に帰ったぞ、すごく普通に、まるで様子を見に来た爺ちゃんの様に。
俺たちは愕然としたままの表情で数分固まっていた。
「森姫さん!って藻城君?」
「藻城先輩!ちょっと!何があったんですか!」
「春彦・・・何が起きたか俺にも分からん。」
でかい蜘蛛が来て帰った、そうとしか言えない。
「UMAにあった気分だ・・・。」
「未確認生命体!?本当に何があったんですか!」
俺にはもう先ほどの生物に対して考察する事はできなさそうだ。
いくらなんでも唐突過ぎる、なんの前触れもなかったのだ。
「あれ?なんか増えやがってるです。」
印丁達の背後の暗闇に赤い光が並んでいる、その様子を見て少し驚く。
しかし暗闇から出て来たのは蜘蛛の足を背中から生やした女の子だった。
「このちびっ子もおねーさん方のお仲間ですか?」
印丁は肯定の意味で頷いた。
そして印丁は苦笑いを浮かべていた。
「ちびっ子か、言ってくれるねぇ。」
大した身長は変わりなさそうな少女、その頭の光をじっと見て、気付く。
この頭光の並びは昨日の光に似ている、と言う事は。
そう言う事かよ。
「お前昨日、この森から町の方に出たり・・・した?」
「いきなりご挨拶でごぜーますね、小宵は学生ですので登校くらいしやがるですよ。」
「あーあの高校の夜間授業通ってんのか。」
魔物娘には人にも、事情や生態があり昼間に通えない人の為に夜にも授業をしている。
この少女も、よく見ればウチの高校の制服を着ていた。
「印丁・・・幽霊って・・・。」
「はい、この子です・・・。」
つまりこの少女が登校している所を俺たちが幽霊と勘違いした、という事。
思わずため息が出る、若気の至りでの笑い話にもならんな。
睨みつける様に少女を見て、やるせない気持ちになった。
「はぁ・・・下らねぇ結末だな。」
「なんでごぜーますかこの野郎、揃いも揃って小宵の事を見てそんな反応を晒してございまして。」
なんだこの変に話し方に癖付きまくってるこの子は。
と言うか本当に何の種族だ。
「ん?大蜘蛛?小さい?蜘蛛の足・・・。」
これってもしかして、こいつの種族って。
「お前・・・アトラク=ナクア・・・か?」
いやアトラク=ナクアってそもそも地上に出るような魔物娘だっただろうか。
地下で永遠に巣を広げ続ける、そう図鑑に書いてあった様な気がする。
だがこの蜘蛛娘は思いっきり表を歩いていた。
「アトラク=ナクアなのでやがるです、はい。」
「ん?ちょっと待て、夫持ちのアトラク=ナクアって・・・。」
「大蜘蛛、夫持ち・・・あーパパに会ったですか?」
パパ、パパ、あれで、パパ。
子供産めるんだな、いやそれはそうか、一応魔物娘も生物だしな。
アトラク=ナクアでも子供くらい産むよな、うん。
「何でやがいますかその納得のいっていない素っ頓狂を絵に描いたような間抜けな顔は。」
「何でもねーよ存在が不思議生物野郎。」
分からんし、納得できんし、想像もできん。
アトラク=ナクアの生態はマインドフレイア並に謎だ。
考えるだけ無駄な様な気もするな。
「じゃああの化け物蜘蛛ってお前の親父か。」
「まー間違いないと思いやがります、そこのゴリラさんの悲鳴で様子見にきやがったのでしょう。」
「ゴリ!?ええ!?」
うむ、どうやら既確認生命体だったらしい、よかったUMAじゃなくて。
そうなるともう一つの疑問が。
「その前に一体全体何があったんだよ・・・森姫は逃げるしお前はさりげなく印丁達と会ってるし・・・。」
明らかに森姫は逃走していた、多分俺にビビってたんだと思うのだが、森姫は逃げ始めた時は俺達は森姫から恐らく離れていた。
大体想像はつくがはっきりとさせたいのだ。
「小宵はそこのゴリラの人とバッタリと会ってしまいました。」
やっぱりか、森姫とこの小宵と言う娘が会って、それで森姫は逃げたのか。
「そしたらゴリラの人は逃げるわ騒ぎを聞きつけた見た目年齢二十代後半の人は来るわでこっちもよく分かんねーです。」
「見た目年齢二十代後半・・・。」
だろうな、としか思えない、その逃げた森姫を俺が追って途中で森姫が転んだのか。
そんでその騒ぎを聞きつけたこいつの父親が様子を見にきたと。
「ウチのゴリラが迷惑かけたな、後親父さんにお礼言っておいてくれ。」
「ゴ!?お!あ!ももちょん!?」
いや誰だよももちょんって。
「直接言えですこのチキン、後ろにいるですよ。」
「誰がチキンだよ・・・って後ろ?うぉ!?」
後ろを振り返ると例の親父さんが佇んでいた。
一切気配がないから気づかなかった、これは体の構造の問題じゃないな、生前忍者か何かだったんじゃないか。
「あ・・・どうも・・・。」
親父さんは袋に氷を詰めた物を渡してきた、頭の部分から無数に生えている触手の一本で。
その触手って手みたいなものなのか。
そして親父さんは蜘蛛の娘を見る。
「『若えのはやんちゃすんのが一番だ、が怪我しない程度にしとけよお前ら。』って言ってるです。」
あ、意外と気さくな人だな。
「た、確かにUMAじみた人?ですね・・・。」
親父さんはそのまま踵を返して帰って行った。
「・・・森姫、大丈夫か?」
ずっと座り込んでいた森姫を見る。
そこに、森姫はいなかった。

〜〜〜〜〜

私は無意識にあの場所から逃げていた。
印丁さんの顔を見て、すごくいたたまれない気持ちになったからだ。
「いっ・・・。」
無理に動いた為足がまた痛んだ、しかしこれは自業自得。
と、納得できる私ではなかった。
「あぁぁぁぁあ!もぉぉぉぉお!」
何に対しての怒りか、それは私にも分からなかった。
でも、イラつく、ムカムカする、すごく腹立たしい。
なんなんだこの感情は、しかもその対象はももちゃんと来た。
嫉妬、その二言が私の頭で尾を引いていた。
ももちゃんと印丁さん、あの二人が昨日歩いている姿を見て、私は逃げた。
そこで抱いた感情は、未だに私の中で燻っている。
到底抑えられそうにない、その為印丁さんと、ももちゃんにすら顔を合わせる事ができなさそうだ。
「はぁ・・・バカみたい、私。」
あの告白の後、強くなるって決めて十数年。
強くはなったが、精神は全くもって成長してはいなかった。
むしろ、より不安定になっている気がする。
「そりゃあないでしょ・・・森姫さん。」
「うわ!?島田くん!?」
いつの間にか追跡してたのだろうか、島田くんが私の目の前に立っていた。
そして島田くんは私に目線を合わせる様に座り込んだ。
「森姫さんの気持ち、俺もちょっとだけ分かるよ、俺も好きな人がいてさ。」
島田くんの好きな人、それってもしかして生徒会長さんだろうか。
結構な頻度で一緒にいて、そして楽しそうに話している。
「でも俺の事好きなのか、それとも眼中にないのかよく分からないんだ・・・色んな人と話してるし、もしかしたら片思い・・・なのかもしれなくてさ。」
確かに、生徒会長さんはかなり広い範囲で色んな人と絡んでいる。
その中の一人、副会長とは言え相手にされていない確率は十分にある。
生徒会長の小原さん、あの人はよく分からない。
「はぁ・・・。」
お互い気分が重くなります、場所も相まってすごく陰鬱な気分です。
「ももちゃんは・・・多分まだ・・・。」
いや、違うももちゃんじゃなくて、約束を守れなかったのは。
「森姫、お前話の途中でどっか行くなよな・・・。」
ももちゃんが暗闇から顔を出した、印丁さんも一緒だ。
流石に多少は腹の虫も収まっている、私はやるせないままにももちゃんを見た。
「あ 藻城先輩、森姫さん・・・今の話秘密で。」
島田くんはそう言う、勿論そんな口は軽くないつもりだ。
「う、うん分かった・・・。」
結局私の中の暗い気持ちはまだ消えてはいなかった。
やっぱり、約束を守れなかったのは、私、なのかな。

〜〜〜〜〜

森姫がいなくなって探し出したが。
後輩組二人きりで話していたらしい。
随分と仲良さそうだな、こいつら。
俺は少し腹立たしい気持ちを抱いた。
が、そんな気持ちに振り回される俺ではない。
「なーにしてんだよ、無茶してんじゃねぇよ森姫。」
全然、全然腹立ってないから、うん。
「う・・・ごめん・・・ももちゃん。」
「ほら足出せ、まだ痛むんだろ。」
珍しくしおらしい森姫に、昔の事を思い出した。
あの頃よりかは少し位、大人になれたのかね。
「藻城くん、私が森姫さんに肩を貸すのでライトを持って先行ってください。」
「分かった、島田印丁の事手伝ってやれ。」
「分かりました。」
大人になんてなれてないな、俺は昔からガキのままだ。
だから、まだ俺はあの約束に答えられないでいるんだからな。
〜〜〜〜〜

時は過ぎ週明け、それなりに憂鬱になる朝。
森姫を緊急外来に連れて行ったが、大事には至らなかった。
医者には散々文句言われたけどな、こんな事で緊急外来使うなよとか。
週末にも一回様子を見に行ったが、特に問題はなかった。
森姫は少しばかり元気がなかったがな。
「はぁ・・・あーあっと。」
ため息を吐きつつ体を引きずる、やれやれ今週も頑張りますかね。
そんな事を考えながら登校していると、ガタイの良い背中が目に映る。
なんだか普段より歩くのが遅い気がするが、加持だろう。
「よぉ加持、加持?」
いつもなら一度呼べば振り向くが、今日の加持は妙に反応が鈍かった。
二度呼んだら、ようやく気付いて振り向いた。
「藻城・・・。」
「あ?お前どうしたその顔、それに朝練は?」
加持の顔は腫れていた、色々な所に絆創膏やらガーゼやらを貼り付けていたのだ。
それにいつもなら加持と朝会う事はあまりない、基本加持は部活の朝練で早いからだ。
「あぁ・・・。」
加持はぼんやりと視線を前に戻して歩き出した。
俺の質問も届いていないらしい、俺を意に介さずに加持はぼんやり進んで行った。
「な、なんなんだ・・・。」

〜〜〜〜〜

週明け、それはそれは絶望の響き。
「はぁぁぁぁぁあ・・・。」
私は正直、学校へはあまり行きたくなかった。
ももちゃんや印丁さんと顔を合わせたくないから。
あれだけ色々とあれば顔を合わせたくなくなると言うもの、それは普通の反応だと思う。
「はぁぁぁぁぁあ、あ?」
その背中、と言うか髪の色。
相当パンクな色をしているが地毛と言う、黄色の混じった緑色。
その背中は端本さんのものだった、のだが。
「な、なんかすごいバチバチしてる・・・。」
明らかにいつもより光っていた、雷光をまとっていると言うの方が合うかもしれない。
確か雷獣が帯電する時っていわゆるムラムラしてる時な訳だけど。
「は、端本さー・・・ん?」
声をかけた、そして振り向いた端本さんの顔は。
「あ゛?」
まるで般若のそれだった。
怖い。
バチバチ言ってる雷も合わせてその手のヤバい人にしか見えないよ。
なんだろうすごく機嫌が悪いみたいだ。
「お、おはよう・・・ございます・・・。」
話しかけてそのままって訳にもいかなかったから挨拶をした、端本さんはその表情のまま。
「おは。」
と、それだけ言って歩き去ってしまった。
「だ、大丈夫・・・かな。」
いつもなら色々と話しながら一緒に登校するのだが、先に行ってしまった。
それに端本さん、いつも背負ってるギターを持っていなかった。
「もしや・・・音楽性の違いで解散・・・?」
ごめんなさい、言ってみたかっただけです。
17/08/19 22:36更新 / ノエル=ローヒツ
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■作者メッセージ
どうも、最近アレもしかして説明文詐欺になってる?と考え始めている人です。
ぐだぐだと書いていますが、この回を書いている途中に別の作品の構想がが二作ほど立ち上がりました。
まぁ収集が付けられないので両方は書きませんが、気付いたら書いている作品が増えてる事、ありますよね。
ありませんかね。
それでは、この駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

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