連載小説
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第二章 知ってしまった事

印丁が帰ったのと時間をずらして教室に戻る。
時間があまりなかったのと話してたから、ペットボトルの中は半分程水が残っている。
いつも通りの喧騒に、印丁から聞いた幽霊番組の話がちらほら混じっていた。
「んばっ。」
「あぶね!」
うっかり若林の席の隣を通ってしまった、なんとか若林の拘束攻撃は避けたが、油断してたな。
若林は椅子ごと倒れこむ、そのまま動かなくなった。
「いけず・・・。」
「若林には春彦って言う彼氏がいるだろうがよ・・・。」
彼氏どうか知らないが、若林は春彦と春彦以外な男が近くにいたら春彦を優先する。
分かりやすく好きなのだろうな。
「はる・・・さいきんかまってくれない・・・。」
生徒会に振り回されてるからな、春彦。
「んー・・・。」
若林は持っていたペットボトルの蓋を開け、中の水をかぶった。
まて、なんでペットボトルなんて持ってる。
「それ俺の・・・。」
「ぷは、うん。」
水をかぶった若林は少し大きくなった、そして椅子を起こして、また机に突っ伏した。
そういや若林には幽霊とかはどう見えてるんだ、興味なさそうだけど。
「なぁ若林、お前は幽霊信じるか?」
返答はあまり期待してなかったが、若林は顔を上げてこっちを見た。
顔には相変わらず惰性の二文字が書いてある様に見えるが、興味はあるらしい。
「寝耳にウォーター・・・。」
「お前水吸うだろ。」
それだけ言って若林はまた机に突っ伏した、なんだったんだ。
「それって昨日の幽霊番組の事?」
若林は突っ伏したまま話す、いつもの体勢に戻ったから話が終わったかと思ったわ。
「まー・・・な、話聞いて興味湧いてな。」
嘘は言っていない、昨今の幽霊番組は幽霊スポットだパワースポットだと人を誘い込んで現地の魔物娘が美味しくいただく悪徳商売めいたモノばかりだ。
だが印丁の話を聞いたらそういうモノとは違うのでは、と考えたから多少は興味が湧いた。
「昨日のやつは正統派の幽霊番組だったよ、ほとんど観光地紹介みたいなやつじゃなくて。」
「そうなのか?そりゃまた珍しい。」
最近の幽霊番組はヤラセというか癒着だからな。
そのあたりでチャイムが鳴った、この休み時間ほとんど話してたな。
「場所が近いのも話題になってる原因じゃない?」
「意外と詳しいんだな、んじゃ俺も席に戻るわ。」
想像以上に詳しく話を聞けた、こいつそう言うの好きなのだろうか。
若林の場合は単純に珍しい物好き、だな。

〜〜〜〜〜

午後も過ぎ、帰りの時間、俺は今日何をするかぼんやりと考えていた。
今日のバイトはもう少し後だから多少は時間がある。
「藻城くん、少しいい?」
惚けていると田辺から声をかけられた。
何かあるのだろうか。
「何だ?」
「台車知らないかな?沙奈ちゃん運ばないといけないんだけど・・・。」
台車か、あったかな。
見覚えないな。
「悪いが、見てないな、誰か持って行ったんじゃないか?」
「うーん・・・そっか。」
「探すんなら手伝うぞ、バイトまで暇だしな。」
俺は荷物を持って立ち上がる、田辺は頷いた。
「そうしてくれると助かるよ。」
「じゃあまず心当たりはあるか?」
田辺は腕を組んで思考する、そして絞り出す様に呟く。
「校門まではあった、けどその後は・・・。」
「ともかく鮎川の所行ってみるか?」
田辺はもう一度頷いた、俺達は鮎川の所、つまり森姫の教室へ行く事になった。
森姫の教室は一階下の少し俺達の教室から教室二つ分離れた所にある。
「沙奈ちゃーん?いますかー?」
森姫達の教室の前に立ち、扉を開けた田辺は、そのまま固まった。
俺がその隣から教室の中を覗き込むと。
「げへへ・・・その馬鹿力もいつまで持つかな?」
「よくもあゆちゃんを・・・厳密に言うとあゆちゃんの胸部を・・・私は!変態なんかに!絶対!負けない!」
台車を持って校長に対峙している森姫とその側で顔を抑えてしくしくと泣いている鮎川がいた。
なんだこの状況は。
「沙奈・・・ちゃん?」
「台車、あったな・・・。」
あの校長、ついに生徒に手を出す様になったのか、前々からおかしいと思っていたが。
「ふははは!はは!はげっほ!げっほげっほ!」
校長は無理して威厳ある笑いをして、喉を詰まらせていた。
「え、えっと・・・大丈夫か?校長。」
「げほ!だ、大丈夫・・・。」
何がしたいんだ、この校長は。
頼むから暴れないでくれよ、ただでさえ森姫は流されやすいんだからよ。
「すー・・・はぁ・・・ともかく!そのでかい乳を揉ませろー!今日はペンしか握ってないんじゃー!」
これが校長という事実が一番に怖い部分だ。
特にこれが今日に限った事ではないのが二番目に怖い部分だな、よくあるのがな。
俺は教卓の中に対策として置いてあるトランプを手に取った。
「田辺ちょっと時間稼げ。」
「はい?」
校長は俺の行動に気づいて標的を変えた。
このトランプはまさしく教頭を呼び出すものだ。
教頭は校長のストッパーとして働いているので校長が暴れた時用、校長が逃げ出した時用にこのトランプは各所に置いてある。
呼び出すにはトランプに話せばいいのだが。
「うぉぉ!『サイレント』!」
校長がいきなり魔法を放つ、その瞬間に周りが異様な空気に包まれた。
大人気ない。
言葉を発そうとするが音が断絶されたらしく音だけが出ない。
そんな中校長が田辺を押しのけて俺に、正確には俺の持っているトランプに向かって跳んできた。
本当に大人気ないな、この校長。
そう言ってやりたいのは山々だが声が出ない、校長の飛び込み攻撃をなんとか避ける。
背が小さくて良かった。
少し校長から離れる、そして窓にぴたりと背中をつける。
こうなれば窓の外に飛び出す様誘導してやる、俺は後ろ手で窓の鍵を開けた。
すると何かの力でいきなり窓が開き、水が窓から飛び込んで来た。
「がぼば!?」
その水を正面から被った校長が、魔法を解除した。
いったい何が起きたんだ。
「わたくしの力にかかれば、プールの水を操る事位容易いです!」
鮎川が校長を睨みながら言う、器用な事するよな。
校長は水の中に閉じ込められたのだ。
その反動で魔法も解けたのか、詠唱も無しの大した魔法じゃなかったらしい。
「おいおい、程々にしとけよ、シャレにならないから。」
自業自得だが。
「はぁ・・・それでは。」
鮎川は俺からカードを奪い取った。
「教頭さん、校長を回収していただける?」
そう言うとトランプから鎖が飛び出した、その先端には首輪が付いていて。
「がぼ!?」
その首輪が校長の首をしっかりと捕まえた。
そのまま水の中から引っ張り出された校長はトランプにホラー映画さながらの図で吸い込まれていった。
血しぶきこそ出ていないが、見る者によってはトラウマモノだろう。
「たすけてー!」
小さなトランプにねじ込められる、実際にねじ込まれていたらミンチなのだが。
教頭はクローバーのトランパート、今みたいにトランプの中から魔法を放つのは得意分野なのだ。
おかげで警備員要らずなのだが。
「ご協力ありがとう。」
トランプがそう話した、正しくはトランプ越しに教頭がそう言ったのだが。
教頭である以上きちんと仕事をしている、校長の代理で講話したり。
ただトランプが喋って、トランプが飛んで、トランプが魔法を放つ姿はかなりシュールだ。
教頭は種族の関係上、不思議の国を離れる訳にもいかないので二足のわらじを履いている。
かなり珍しいケースなのではないだろうか。
「ももちゃん見ちゃダメ!」
「ぐべら!?」
いきなり森姫が俺の頭の向きを無理やり変えた、その衝撃で俺は首を痛めた。
「何なんだよ・・・いきなり・・・。」
「ちょっと今、田辺先輩がひっくり返ってて・・・。」
そう言う事か、と言うか口で言えば聞いたのに。
海和尚の特性で倒れた海和尚を男性が見ると少しまずいんだな、だが少し過剰反応だろ。
「甲、台車忘れてったわよ、全く。」
「ごめんなさい沙奈ちゃん・・・できれば起こしてくれませんか・・・。」
どうやら一件落着らしい、拍子抜けだがそこら中探しまわらずに済んで良かったと考えるか。
「俺もう行くぞー田辺、台車も見つかったしな。」
首を曲げられた体勢でそう言う、そろそろバイトの時間だ。
「ありがとうございました・・・。」
「重・・・ちょっと甲!あんた食べ過ぎじゃない?」
「違うます!甲羅です!甲羅が重いんです!」
鮎川、中々に図星を突いたか、魔物娘の体重管理は大変らしいからな。
俺はあまり関係ないが。
「んじゃ、森姫手伝ってやれ。」
「あいあい!じゃ!またね〜ももちゃん。」
体を捻って、教室から出て行く。
ま、森姫いるから大丈夫だろ。

〜〜〜〜〜

バイトが終わり開放感と共に町に繰り出す。
スーパーにでも寄るか と考えている所、大通りに印丁の姿を見た気がする。
「印丁?」
大通りにはそんなに人がいるわけでもない、そうそう見間違えるものでもないはずだ。
いつもなら見過ごすのだが、今朝の印丁の事を思い出して、何となく見過ごす気分でもなくなった。
追いかけるか、俺はすぐに行動を起こし大通りを足早に進む。
「おい、おい!印丁。」
「はい?え・・・?藻城君?」
印丁はパンパンに膨らんだカバンを背負っていた、もう暗いと言うのに今から山登りでもしようかと言う装備だった。
「何してんだ、そんな大荷物でよ。」
「こんばんわ、決して・・・やましい事ではないですよ。」
そこを気にした訳じゃないんだがな。
だが普通とは違う、そう俺は感じていた。
まさか、とは思うが。
「夜逃げ?」
「違います!」
だよな、理由も度胸も無いはず。
「だとしたら何なんだその荷物は、これから登山でもするのか?」
そう言うと印丁は露骨に視線を逸らす。
答えにくい事らしい。
「そうです・・・近場の山に行くんですよ。」
「この時間にか?なんでそんな事するんだよ。」
森、夜、大荷物、この三つからはあまりいい想像はできなかった。
印丁はぐぬと言った風に渋い表情を浮かべる。
俺が印丁を問い詰める形になってしまった、そんなつもりはないんだがな。
だが単純に気になるし、場合によっては印丁を止めなくてはならない。
「その・・・。」
印丁は言いづらそうに小さく呟く。
「近場に・・・幽霊スポットがあるんです・・・。」
幽霊スポットと聞いて、今朝の印丁との話を思い出す。
幽霊はいるのかいないのか分からない、そんな話。
まさか、まさかとは思うが。
「幽霊、探す気か?」
印丁は体の向きを変え、俺に背中を向けた。
おそらく顔を見せない様にだな、図星らしい。
「印丁お前・・・。」
どこまで自分自身の知らない事が気に食わなかったんだよ。
そう言いたかったのを飲み込んだ、俺は印丁程の行動力は無いにしろ納得がいかないのは同じだからだ。
「危ない事はしませんよ、唯噂の白黒をつけたいだけです。」
魔物娘なら夜中に歩いても大丈夫、なんて事はない。
それは人間よりも頑丈で色々と人間以上の能力を持っている魔物娘だが、不意に車に轢かれれば普通に重傷を負う。
たまに車『が』轢かれる事があるが。
「はぁ・・・。」
印丁への心配、それに対抗する怠惰の気持ち。
天秤に数秒その二つを乗せたが、比べるべくもなく。
「藻城君に迷惑はかけられません・・・私は一人で大丈夫、大丈夫、ですから。」
先を越される、大丈夫って言ったってな。
印丁は軽く会釈をして、俺に背を向けて歩き出した。
軽く、聞こえない様にため息を吐いた。
そして印丁の隣を少し足早で歩く。
「藻城・・・君?」
歩幅的に差があり、結構足早に歩かないと追いつかない。
森姫程じゃないが印丁もかなり背が高い方でそれに比例して足が長いんだよ。
「急に山登りしたくなった。」
印丁は立ち止まり、頭を抑える。
少しだけ、笑いながら。
「森姫さんと言う人がいながら、あなたは・・・。」
と呟いた、気がした。
「なんだよ。」
「・・・なんでもありませんよ。」
印丁がもう一度歩き出す、今度は歩幅を合わせてくれている。
魔物娘とか関係なく、友達がこう言う事してる時には着いて行くべきだろ。
「・・・ん?」
少し振り返る。
誰か、いた気がする、気がするのだが、よく分からない感覚だ。
気のせい、か。

〜〜〜〜〜

夜の森は静寂に満ち満ちている、のが定石だが。
俺の定石を裏切って森の入り口は喧騒に満ちていた。
なんだこいつら。
「やはり・・・ですか。」
「予測できたもんなのか?これ。」
この山はそれほど大きい山でもない、人によっては丘と勘違いする事だろう。
そんなこの山に、妙に人が集まっていた。
不自然に、だ。
「先日の心霊番組の影響でしょう、物好きですね。」
「おーおーブーメランが飛んでおる、と言うかこの事も計算済みか。」
だったら言うほど心配する事なかったな。
とか考えつつ人の流れに乗って二人で森に入る。
基本の山道は人だらけだな、これじゃ幽霊どころじゃないな。
「藻城君、こっち。」
印丁は山道から外れた道、山の頂上ではなく森の深くに続く道だった。
つまり登らずに山肌をぐるっと回る道だな。
「人の少ない所のアタリは付けてきました、この通りに張り込みます。」
「何をどうやって人がいない所のアタリなんぞ付けたんだよ・・・。」
相当本気だなこいつ、本当に着いて来なくてもよかったかもな。
印丁に着いて行くと最早道でなく草むらになっていった。
「幽霊って人気がない所好きだよな。」
「どうでしょう確かに人の少ない墓場、森、廃墟などに目撃証言が多い傾向がありますが・・・。」
どうなんだろうな、確かに今挙げた例は多いが、胡散臭いのも多い。
それに幽霊は町にもいる奴はいる。
「うぐ・・・印丁、悪いゆっくり歩いてくれ・・・。」
草の背が高くなり始めて歩くのが辛くなってきた。
もう既に草の高さが首あたりまでに来ている。
「あ、大丈夫ですか藻城君。」
かえって足を引っ張ってる気がする。
草を掻き分けて進むと、草が道の様に生えていない所に出た。
「獣道か?こんな山にも獣いるんだな。」
印丁は獣道から少し外れた草むらにカバンからシートを取り出して、座る。
虫除けスプレーを差し出して、印丁は隣に座る様に促した。
多少は狭いが俺も隣に、少し体をくっつけて座った。
「いるのかね、幽霊。」
「それを調べるのが、今回の目的です。」
印丁は明かりを消した、真っ暗闇が静寂を包み込む。
「星だけは綺麗だな・・・。」
特に話す事もせずひたすらに二人で、星を見ていた。
星くらいしか見るものがないからな。
小一時間、何も言わずに唯座り続けていたが印丁はずっと難しい顔をしていた。
特に何も言わず付き合ってやる、こういう時に茶々を入れるのは野暮って物だ。
とかぐるぐる思考を回していたら印丁がため息を吐いた。
限界か、そう考えていたら何か光った。
観光客か、そう一瞬考えたがどんな観光客が赤い光の明かりを五、六本も付けるんだ。
幽霊、幽霊だ、噂の奴かどうかは分からんが。
「本物・・・。」
印丁は唖然とした表情で、目を見開いていた。
立ち上がろうとしていたらしく中腰の中途半端な状態、そこから崩れた表情で座り込んだ。
「はわ、はわわ・・・。」
「お前・・・まさか・・・。」
出た時のこと、考えてなかったのか、そう言おうとして飲み込む、そんな事言っている場合ではない。
俺はすぐに印丁の口を塞いだ、このままだと大声をあげそうだからだ。
幽霊に音とか関係あるのかは棚上げするとして今この状況で下手に騒ぎ立てる事はしない方がいい、確実にだ。
ガタガタ震える印丁の焦り具合がはっきり分かる、耐えろお願いだから耐えてくれ。
赤い複数の光は少しづつ揺れながら俺たちの近く、獣道を通る様に動いていた。
つまり草むらに座っていた俺たちの数メートル先を赤い光は進んで行って、ある一点で光は消えていった。
「ん!?んぐ!?」
「まだだ、頼むから落ち着け印丁。」
印丁が暴れ出した、話したら即座に叫び声を上げる事だろう。
とりあえず幽霊が人間と同じ感覚器官を持っているとして、大声を上げたら気づかれるだろう。
その後は何をされるか分かったものではない。
俺は光が行った方向を見つめる。
暗闇には目はあまり慣れていないが何か見えないか試したのだ。
突然に、赤い光がまた現れた。
「ーっ!?」
印丁が更に大きな反応を見せる、俺も心臓を掴まれた様な感覚を覚えた。
その光をじっと見る、何かの影が映ったような気がした。
しかしその正体を知る前に光は消え去ってしまった。
その後数分、俺達は呆けた様にじっとしていた。
事態を飲み込み、落ち着くまでに時間がかかったのだ。
「ひっ・・・ひっ!?」
印丁は数回に分けて悲鳴を上げる。
「ひぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
そして最後に一回、耳を劈く様な悲鳴を上げた。

〜〜〜〜〜

次の日、印丁は学校へと来なかった。
風邪をこじらせたと担任は歌詞で言っていた、印丁の事だ相当でないと学校など休まないだろう。
つまり本当に体を壊したのだ、印丁は。
「どうしたものかね・・・。」
知らなくていい事を知ってしまった、パンドラの箱か聖櫃か、はたまた鶴の襖か。
どれにせよ起きた、起きてしまった、心霊現象が。
起きないだろうと決めつけていたものが起きてしまった。
放課後の教室でぼんやり考える、このまま と言う訳にはいかないだろう。
「かーんーがーえーごーとー?」
「そうだが・・・どうした若林そんな間延びして。」
「なーんーかーやーるーきーでーなーいー。」
「そうか。」
若林は俺の机の隣で床に倒れこんでいた。
確かにやる気なさそうだな、いつにも増して縮んでいる。
ただ帰ろうとはしたらしい カバンは握っていた、中身をぶちまけてはいるが。
「あーるーぷーすーいーちーまーんーじゃーく。」
「何を始める気だよ・・・と言うか普通に話せ普通に。」
話し辛い事この上ない、一々時間を食う。
やる気ないにせよ話すくらいは普通にしてくれ。
「だるち。」
「アイスみたいに言うな。」
「かるろ。」
「宗教画家だな。」
妙にマイナーな所攻めてきたな。
てかなんだこの会話、何か意味があるのか。
「きょーいんちょが休んだのって、昨日いんちょともしろくんが自販機の前で話してたのと関係ある?」
図星。
まさしく図星だ、不意打ち気味のその一言で俺は動揺を隠せなかった。
「やっぱり。」
「なんつーか、負けた。」
油断してたな、若林は意外と鋭いらしい。
「じゃあ状況は分かるのか?」
「だいたいそうぞーつくよ、あんな露骨にユーレイ怖がってたら、ね。」
だろうな、そこまで聞いておいて分からないわけない、か。
となるとどうだ、若林は信頼できるか、この事を誰かに話したりはしないか。
印丁もあまり言いふらされたくはないだろう、幽霊が怖いなんてな。
ま、答えは出ているか。
「若林はどう思う?あるわけないって決めつけてた物が存在したら、あんまり認めたくねぇけどさ。」
幽霊云々の話は飛ばしてもいいだろ、人が人に語る以上は話には脚色と言うものが入り誇張に聞こえるものだからな。
「うーん?そだねーそれ、本当にあったの?」
「本当に?まぁ本当に、だ 現実に俺たちは幽霊と対面した。」
少し意外な返しだった、本当になど若林が聞くとは思わなかったからだ。
「うーん?多分認識の違いだね、私は事実がどうだったかを聞いてるんじゃなくてそれが本当に、100%ユーレイだって言える自信があるのかきーてるの。」
もう一度、図星を突かれた。
100%なんて言えたものではなかったからだ。
ただ明かりが通り、それに危険を感じたから身を隠しただけ、ただそれだった。
「100%、なんて言えないな、完全に感情的に、要するに幽霊だと思い込んで考えてたな、少なくとも俺は。」
「多分いんちょもユーレイだって思い込んでた、ちがうかな?」
ぐぅの音も出ない、あの時の印丁は確実に混乱し切っていた。
それに、やはりあの光の動き方、違和感がある。
「いんちょは嵌り込んだら抜けれなくなる所あるからね。」
「そうだな・・・。」
それは俺も知ってる。
そして、次にどうするか。
明日は休みか、俺は携帯を取り出した。
「ありがとよ、若林。」
相手が電話に出る前にお礼を言う。
若林は地面に寝転んだまま片手を上げた。

〜〜〜〜〜

電話をした相手とは来夏だ、来夏なら印丁の家の場所を分かると思ったから。
来夏は基本ほとんどの女子と仲良いからな。
と言うわけでアポも取れたから来夏の家に寄ったのだが。
「よ、来夏。」
「・・・うす。」
来夏はなんだか弱々しく挨拶する。
少しだけだが来夏は帯電している様な気がした。
確か雷獣が帯電する時って、アレだよな。
「・・・なんか、ごめんな、来夏。」
「何そのいらない気遣い!ほっとけ!」
いや、だって明らかにいたしていた所みたいだし。
来夏は人間から雷獣になった口なのだが、親が雷獣になってその影響で雷獣になった。
だからほとんど事故の様なものだったので人間寄りの思考を持っているが。
「そうだよな、お前も雷獣だもんな、いや邪魔したな。」
「うっせ!そしてほっとけ!だって親が今日早上がりで暴れまわってるもん!ベットで!」
「おい、だったら俺早くここから離れたいんだが。」
雷獣の雷はあまり人間には良くない、魔物は喜んで浴びるが。
雷獣の雷も一種の魔力だから場合によってはアルプ化もするし。
「はー、もーいーや、歩きながら話そう、家じゃゆっくりできなさそうだし。」
「あぁ、ゆっくり致せないしな。」
「せい。」
流石にチョップをくらった、痛い。
かなり手加減してるのは分かるがな、森姫よりかはマシか。
少し街中を歩く、まだ日が出てるし急ぎの用って訳でもない。
「んで急にどうしたの?なんかあった?」
「印丁の見舞いに行こうかと思ってな、印丁の家の場所知らないか?」
「いんちょの?意外だね。」
色々と責任って物があるからな、焚きつけた分終いまで面倒見るべきだ。
「色々あってな、それに心配だし。」
「確かにね、あのいんちょが学校休むなんてさ。」
来夏は数歩俺より前に歩みでた、着いて来いって事か。
「来夏は今日部活なかったのか?」
「あー昨日ライブやったんだけどさ、サンダーバードの顧問がテンション上がりすぎて漏電して大惨事。」
「うーわ、そりゃ酷い。」
「いやーあれはすごい事になったね、もう色んな意味で凄かった。」
と言うか来夏はそんな所にいて平気だったのか、たまに思うが変わってるよな。
雷獣の特徴の尻尾と耳隠せば人間として暮らせるレベルだ。
「お?加持、奇遇だな。」
道を二人で歩いているとジャージを着た加持が走ってきた。
「・・・よう。」
加持は妙に不機嫌な表情を浮かべていた。
どうしたってんだ。
「お前部活は?」
「今日は外周りだよ。」
そりゃそうか、走ってたもんな。
やはりどこか不機嫌に加持は言う、よく分からんな。
いつもの妙な軽さは無く、ひたすらに角が立っている印象だ。
「邪魔したな。」
じとっとした目でちらと来夏を見た後に走り去った。
来夏も加持の背中はよく分からない感情で見送った。
なんだ、何があったんだ。
「来夏お前、加持と喧嘩でもしたか?」
「・・・知らない。」
来夏は急に不機嫌になり、先に歩いて行ってしまった。
なんなんだよ、本当に。

〜〜〜〜〜

俺たちは少し歩いた後、印丁と表札の下げられたよ家の前に立っていた。
俺はとりあえずインターホンを鳴らす、昼間さんとは言え少なくとも印丁は中にいるだろう。
「ところであんたが見舞いなんて珍しいじゃんホント、そんなあんたら仲良かったっけ?」
「ちょっと、な。」
扉が開かれてお互い話すのを止める、出て来たのは森姫程じゃないが高身長の白澤の女性。
印丁の母親だろうか。
「おや、どちら様で?」
「ども、お宅のHさんの同級生の藻城と。」
「端本です。」
無難に挨拶を済ませる。
印丁母は白澤らしく理知的な印象を受ける人だった、似てるな。
「Hの・・・これは失礼、私はHの姉です。」
「おねーさん?おかーさんかと思った。」
確かに、印丁姉の眉間に青筋が立つのが見えた。
これは触れない方がいい話題だな、うん。
しかし姉いたのか印丁、少し意外だ。
「魔物娘の姉妹とは珍しいですね。」
「ええ、そうですね、年は少し離れてはいますが・・・。」
「へーおねーさんってなんさぐぇ!?」
俺は来夏の太ももをつねる、多分触れたらいけない話題だ。
年が離れている、どれくらい離れているか推察できない以上は触れない方がいい。
「それでHさんはいますかね?」
「いますよ、H!てーい!お友達よー!」

〜〜〜〜〜

と言うわけで印丁家の居間に招かれた、本があちらこちらに転がっていたり整理されていたり。
書斎に無理やり居間を作った、そんな印象の部屋だ。
羨ましいが管理大変そうだな、零したら大変だから迂闊に飲み水も置けなさそうだ。
「すごい家じゃん。」
「来夏も入った事ないのか。」
「まーねーたまに押しかけるくらい。」
ほんとお前はほとんどの奴と仲いいな、羨ましい事で。
いや、言うほど羨ましくもないな、うっとおしそうだ。
「ごほ、藻城君・・・端本さん・・・どうも。」
印丁妹が奥の部屋から顔を出した、顔色は少し悪いものの想像していたよりは元気そうだった。
「良かった、思ったよりいくらかは元気そうだな。」
「峠は越しました、明日は必ず登校します。」
うむ、本調子ではないらしい。
「明日は土曜だよ、いんちょはゆっくり休みな。」
印丁妹は数秒停止し、壁のカレンダーを見た。
そしてがっくり肩を落とす、やる気満々だったもんな。
「とりあえずは元気は戻ったらしいな。」
なら、本題を話そう。
印丁は俺の顔から何かを悟ったらしく俺たちの対面に座った。
俺なりに、今回の件には責任を取る、そう決めた。
「率直に聞いてしまうが、印丁お前が体調崩したのは昨日の件が響いたんだろ。」
印丁が申し訳なさそうに顔を伏せる。
申し訳ない、俺に対して親に対してそう思ってるだろう。
馬鹿野郎、焚きつけた俺にも非があるだろ。
「何?何の話?」
来夏を連れてきた理由、それもちゃんとある。
ある程度の準備はしてきた。
「悪魔の証明、知ってるか?」
後は実行するのみ。
17/06/11 14:05更新 / ノエル=ローヒツ
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■作者メッセージ
どうも、お久しぶりですローヒツさんに見えなくもない人です。
なんだか書こうと思って書けない状態が続いた結果物書きの宿命、執筆中に別の物語書きたくなる病が発病していました。
でも書くならちゃんと書きたいので元々書いていた小説に戻る、でもなんだかんだ書けない。
そんな悪循環たまにありますよね、と言うわけで遅れました。
あ、ちなみにようやくネットは繋がりましたよ、多少トラブルがありましたが。

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