第四の研究!
「うーん……うーん……ハッ!? あれっ!? 僕はいったい……?」
鉄の檻の中に、一匹のサキュバス?が捕えられていた!
これでは脱出もままならない!
檻の外には一人の男が立っていた!
「フハハハハハハハハ! ようやく目を覚ましたかぁ! 待ちくたびれたぞぉ! フハハハハハハハハハ!」
男は、自らの白衣を翻し、高らかに笑った!
「えっ? あっ!? せ、責任者さん!?」
魔物が男を見て驚く!
「フハハハハハハハハハハハ! ワガハイが責任者さんだとぉ? その通りだぁ! ワガハイは誇りある教団騎士の、そのうえ上級幹部の一員、この国における教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者であるぅ! オマエは、ワガハイの魔物研究の協力者になるのだぁ!! ウワーッハハハハハハハハハハハハハハハハ! ゲホッ!ゲホッ!……ハハハハハハハハ!」
そう、みなさんお馴染みのあの人だ!
教団上級幹部である、教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者だ!
最近は魔研でも通じる、研究班きっての切れ者だ!
サキュバスの不利は火を見るより明らかだ!
「あ、あのっ! どうして僕は魔研の人に捕まってるんですか!? それに協力者って!?」
おっと、これはどうした!
この僕っ娘サキュバス、どうも様子がおかしい!
何故ここにいるのか理解していないようだ!
「フムゥ…… オマエやはり、自分に何が起きたか理解していないようだなぁ! ホレェ! 手鏡があるから、それで自らの姿を確認するのだぁ!」
檻の中のサキュバスに手鏡を渡す!
どうした、今日はわりとやさしいぞ責任者!
「……!? えっ!? 僕っ、魔物に!? 魔物娘になっちゃってる!?」
なんと、魔物が自分の姿を見て驚いている!
そう、実は彼女は元人間なのだ!
魔物化してしまったために、このような姿になってしまったのだ!
「ようやく気付いたかぁ! オマエは、ワガハイの考案した女騎士団の団員だったぁ! そしてぇ……ワガハイにとっては苦い記憶だがぁ……魔王軍と対峙して見事に敗北ぅ……オマエラは女騎士団はぁ……残らず魔物化してしまったぁ……そして、魔物化したオマエラがワガハイの精を搾り取ろうと襲い掛かってきたのだぁ! なんとか逃げおおせたワガハイだが、ただでは帰らぬぅ! 魔物化の貴重なサンプルとしてぇ! オマエを連れ帰ることに成功したのだぁ! さすがワガハイ謹製の精液麻酔ぃ! オマエにはよく効いてくれたぞぉ!分量間違えなくてよかった……」
やはりこの男、踏んできた場数が違う!
あの絶望的状況から見事逃げおおせ、そのうえサンプルの確保も成功するとは!
やはり百戦錬磨のつわものだ!
「さて、聞きたいことは山ほどあるがぁ…… オマエには、まずやらねばならぬことがあるぅ……」
一歩ずつ、サキュバスに近づく責任者!
ま、まさか粛清をしようというのではないだろうか!
「ひっ……!? た、助けて……!」
サキュバスもすっかり怯えている!
彼の魔生はここで終わってしまうのか!
「オマエにはぁ…… 以前の所属部隊と所属番号ぅ! あとは、生年月日を言ってもらおうかぁ!!」
こ、これは単なる身元確認だ!
一体全体どうしたんだ責任者!
なんだか態度がやさしいぞ責任者!
「……えっ? 責任者さん、僕のことをめちゃくちゃに実験するんじゃないんですか……?」
彼女だって当然そうなると思っていた!
なぜなら、彼が魔研の責任者だから!
前世代の魔物にどのような実験をしていたかも、いろいろ噂になっているのだ!
「フハハァ! ワガハイを見くびるなよぉ! ワガハイは教団上級幹部ぅ! 魔に墜ちたとはいえ、かつての同朋を無下にするほど落ちぶれていなぁい! ワガハイ、仲間にはすこぶるやさしいのだぁ!」
なんと紳士的だ!
そういえば、あまり威圧的に笑ったりしていないし、手足に枷をつけていない!
同じ教団のよしみで、便宜していたというのか!
しかし、この言葉には一つの疑問が生じる!
「でも……このあいだ、他の騎士で人体実験したって聞いてますよ……?」
そう、彼は巨乳化薬の騒動の際に、人体実験を行っている!
それにはどう言い訳するつもりだ!
「聞いていないのかぁ? ヤツは確かに、素行がよろしくなかったという理由でワガハイの実験に選ばれたがぁ! ちゃんと、実験に協力することで特別手当を出すという条件で、実験に参加することへの同意を得ていたぞぉ! 危険手当だぞぉ! 念書だって残っているぅ! それにぃ! ちゃんと、どのようなことが起きても対応できるようにぃ! 万全を期したうえでの実験だったぁ! その証拠に、すぐさま治療室に運んで治療行為を開始しているぅ!」
なんと、意外に常識的!
まさかちゃんと契約したうえでの実験だったとは!
仲間すら利用するという悪名は、単なる脅しのためのポーズだったようだ!
見直したぞ責任者!
それでも、やっぱり人体実験はドン引きだがな!
「そ、そうだったんですか……すいません、怯えたりなんかして……」
しかし、彼女は申し訳なさそうだ!
「ムゥ。気にするなぁ。普段の振る舞いからよく勘違いされるからなぁ! もう慣れっこよぉ! フーッハッハッハッハッハハハハハハハハハハ!! ゲホォ! ゲホゲホ! ゲッホォ! ……部下の前でまた咳き込んじゃった……恥ずかしい……」
懐深いぞ上級幹部!
意外と人間できている!
あと、咳のこと気にしていた!
「だ、大丈夫ですか? あ、そういえば身元確認ですよね? 僕は、教団騎士団特別女性部隊に配属される前は、東部方面補給班第8分隊に所属していました。所属番号は801です。生年月日は春の宵の月、25日の生まれです」
すらすらと身元確認の必要事項を述べる!
軍隊では身元確認はあらゆる意味で重要だ!
「フムゥ…… しばしまてぇい。特別部隊編成時の資料がここにあるぅ…… どれどれぇ……東部ぅ……801ぃ……宵の月ぃ……おっと、あったぞぉ! オマエの名前は、エリック・パネトーネぇ! 年齢はぁ……んぅ? エリックぅ? …………って待てぇ!? オマエ男ではないかぁ!? どどど、どういうことだぁ!?」
なんと!
これは不可解な事態だ!
女性騎士部隊の者なのに、書類の上では男になっている!
これはどういうことなのだろうか!
「いやぁ……実は、僕すごい童顔というか中性的な顔立ちなんです……そのせいで、たぶん間違われたんじゃないかと……」
しっかりしろ、教団騎士団!
管理が全然なっていないぞ!
しかし、今問題なのはそこだけではない!
「し、しかしぃ……! オマエは男なのにぃ……魔物娘になっているぅ……! 何故だぁ!? 魔物化というのは女だけの現象ではぁ……! ハッ!? まさかキサマ、教団騎士を騙った魔物なのかぁ!? おのれぇ! ワガハイは騙されんぅ! 騙されんぞぉ! ゲェーッホ! ゲッホ! ゲッホ!のど飴舐めなきゃ……ん!? のど飴がない!?」
魔物化は女性特有の現象ではないのか!
またもや謎が深まった!
あと責任者は、騙されすぎて疑心暗鬼だ!
大半が自業自得なのに!
「お、落ち着いてください責任者さん! 僕はれっきとした教団騎士ですよ!? ちゃんと所属部隊も番号も生年月日も言ったじゃないですか! それに僕だって、いきなり女の子になって意味がわかりませんよぉ……ふぇ……グスッ……」
思わず泣き出すサキュバス!
元男とはいえ、女の子を泣かせるだなんて!
責任者は人でなしだ!
「ムゥ!? わ、悪かったぁ! 確かにオマエの言う通りだぁ! 疑ってすまなかったぁ! しかしぃ……フムゥ……そうなると、魔物化現象にも例外があるということになるのだろうかぁ……よもや、男が魔物娘になってしまうとはぁ……ハッ!? 閃いたぞぉ! エリックぅ!!」
突然立ち上がって叫びだした!
「喜べエリックぅ! ワガハイの理論が正しければ、オマエは人間に戻れるかもしれんぞぉ!! やはりワガハイは天才だぁ! フフ…… ハハハ…… ハァーッハッハッハッハッハハハハハハハハハハァ!!! ゲッホォ! ウエッホ! ゲッホゲホ!……すまんがのど飴を持っていないかぁ?」
この哀れにも性転換してしまった教団騎士を、助けられるかもしれないだと!
一体、なにをするというのだろうか!
どうなる若き教団騎士!
「あ、すいません。のど飴、持ってないです」
そして、のど飴は補給できなかった!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……で? 『ワガハイの理論』が……なんでしたっけ?」
研究室の中!
腕を組んで仁王立ちしている、サキュバス、いや、アルプの元教団騎士!
その目の前で、責任者が正座をしている!
「フハハハハァ! 魔物娘になった体に、精液を注ぎ続けぇ! 体に精が充ちればぁ! 元の男性に戻るのではないかとぉ! ワガハイはそう推測したぁ! 理論上は完璧だったぁ!」
なんという理論だろうか!
魔物化によって、体から追い出されてしまった精を補給して男に戻そうというのだ!
確かに、字面だけを見ればもっともな理論に聞こえる!
「で? 実際に精液を飲んで、精を体に補給し続けた結果、どうなりました?」
アルプがさらに尋ねる!
「以前の中性的な体つきからぁ! 胸も膨らみ、骨格もやわらかくなりぃ! 顔立ちも美しくなったぁ! つまりぃ! より一層女らしい体つきになったなぁ! より魔物娘らしくなった、とも言えるなぁ!」
この数日、寝る間も惜しんで、研究用の精を注入し続けたのだ!
その結果、若き元教団騎士の体は完全に女性らしいものになったのだ!
なんという変貌ぶりだろうか!
「そうですよ! 何が『人間に戻れるかも』ですかぁ!! むしろ、もう言い訳が効かないくらい魔物になっちゃったじゃないですかぁ! どうしてくれるんですかぁ!」
これは彼女にとっては大問題だ!
せっかくもとに戻れると喜んでいたら、むしろ後戻りできないくらいに変化してしまったのだ!
助かったと思った瞬間、また崖に突き落とされたかのような心境だろう!
「フハハァ! しょうがあるまいぃ! 研究に失敗はつきものだぁ! こういうこともあろうぅ! それにぃ! ワガハイとしては、魔物化とその経過に関する貴重なサンプルデータが取れたぁ! 魔物化した人間は、どうあがいても人間に戻れんという実証にもなったぁ! これからは一切手心を加える必要はないとわかったのだからなぁ! フハハハハハハハハハハハハハハ!!」
なんという開き直りだろうか!
一切悪びれる様子もなく、研究だからしょうがないと言い切った!
そのうえ、今後は一切容赦しないとも言った!
やはり教団騎士!
魔物に対する態度は変わらないというのか!
「これからはぁ……キサマには、さまざまな実験の被験体になってもらうのだぁ! 覚悟しろよぉ! ワガハイの実験は苛烈を極めるのだからなぁ! フハハハハハハハハハハハハ!」
責任者は臆面もなく言い放った!
もうお前のことを教団騎士として扱わないと、そう宣言したようなものだ!
「……っ! 僕は……あなたの玩具になんかならないんだから!」
アルプの方も、実験台なぞごめんである!
かくなるうえは責任者と一戦交えるしかない!
魔物になってしまった今、なんとかして逃げ出すつもりなのだ!
「フハハハハハハハ! このワガハイとやりあうつもりかぁ! いいともぉ! 相手になってやるぅ! 教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者を舐めるなよぉ!」
責任者もやりあうつもりだ!
彼もそう簡単に逃がすつもりはないようだ!
ゆらりと正座を解いて立ち上がろうとした!
だが、その時である!
「グワアアアアアアアアアアアアア!? 足がぁ! 足がぁ! しびれるぅ! 馬鹿なぁ!? しまったぁ! 立ち上がれぬぅ!」
や、やってしまった!
アルプに反省のポーズとして、長時間正座をさせられたのだ!
足がしびれるのも当然だ!
「し、しめた! 今のうちに脱出しちゃえ! もう教団なんて知らないんだから! 僕は魔物として自由に生きるんだ! それじゃあ責任者さん、さよなら!」
素早く戦線離脱して、研究室から飛び出すアルプ!
追いすがろうとしても、もう遅い!
またもや取り逃がしてしまった!
「くそおおおおおおおおおお! 待たぬかあああああああああ! 次に会うときは敵同士だからなああああああ! 覚悟するのだぞおおおおおおおおおお!」
重ねての失態である!
あまりの醜態に、叫ぶことしかできない!
やっぱり無様だ責任者!
次は頑張れ責任者!
教団は魔物に屈してはいけないのだから!
「…………フン。演技はこんなものでいいかぁ」
ななな、なんということか!
足がしびれて立てなかったはずの責任者が普通に立ち上がった!
これはいったい!
「感謝するがいい、若き元教団騎士よぉ。オマエを見逃してやるのは、今までの働きに対する恩赦なのだからなぁ」
なんと、わざと見逃したというのか!
やはり、同朋に対して非情になり切ることができなかった!
この男、やはり侮りがたし!
「無論、次に会うときは敵同士だぁ! せいぜい逃げおおせてみせるのだぁ! にっくき魔物よぉ! フーッハハハハハハハハハハハハハッハ! フハハハハハハハハハハハハハァ!! ファーッハッハッハッハッハッハッハッハッハハハハハハハハハハハハハハ!!」
研究室に響く、負け惜しみの高笑い!
だが、その表情はどこか満足そうだ!
かっこいいぞ責任者!
見直したぞ責任者!
情けは人の為ならず!
次はきっと魔物に勝てるぞ!
「あ、責任者さん。あなたのとこから逃げ出した魔物が、さっき、補給隊の連中を根こそぎさらっていったんですが……」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!また始末書かああああああああああああああああああああああ!!ウッ……胃が……胃が痛いよぉ……」
やっぱりだめかもしれない!
鉄の檻の中に、一匹のサキュバス?が捕えられていた!
これでは脱出もままならない!
檻の外には一人の男が立っていた!
「フハハハハハハハハ! ようやく目を覚ましたかぁ! 待ちくたびれたぞぉ! フハハハハハハハハハ!」
男は、自らの白衣を翻し、高らかに笑った!
「えっ? あっ!? せ、責任者さん!?」
魔物が男を見て驚く!
「フハハハハハハハハハハハ! ワガハイが責任者さんだとぉ? その通りだぁ! ワガハイは誇りある教団騎士の、そのうえ上級幹部の一員、この国における教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者であるぅ! オマエは、ワガハイの魔物研究の協力者になるのだぁ!! ウワーッハハハハハハハハハハハハハハハハ! ゲホッ!ゲホッ!……ハハハハハハハハ!」
そう、みなさんお馴染みのあの人だ!
教団上級幹部である、教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者だ!
最近は魔研でも通じる、研究班きっての切れ者だ!
サキュバスの不利は火を見るより明らかだ!
「あ、あのっ! どうして僕は魔研の人に捕まってるんですか!? それに協力者って!?」
おっと、これはどうした!
この僕っ娘サキュバス、どうも様子がおかしい!
何故ここにいるのか理解していないようだ!
「フムゥ…… オマエやはり、自分に何が起きたか理解していないようだなぁ! ホレェ! 手鏡があるから、それで自らの姿を確認するのだぁ!」
檻の中のサキュバスに手鏡を渡す!
どうした、今日はわりとやさしいぞ責任者!
「……!? えっ!? 僕っ、魔物に!? 魔物娘になっちゃってる!?」
なんと、魔物が自分の姿を見て驚いている!
そう、実は彼女は元人間なのだ!
魔物化してしまったために、このような姿になってしまったのだ!
「ようやく気付いたかぁ! オマエは、ワガハイの考案した女騎士団の団員だったぁ! そしてぇ……ワガハイにとっては苦い記憶だがぁ……魔王軍と対峙して見事に敗北ぅ……オマエラは女騎士団はぁ……残らず魔物化してしまったぁ……そして、魔物化したオマエラがワガハイの精を搾り取ろうと襲い掛かってきたのだぁ! なんとか逃げおおせたワガハイだが、ただでは帰らぬぅ! 魔物化の貴重なサンプルとしてぇ! オマエを連れ帰ることに成功したのだぁ! さすがワガハイ謹製の精液麻酔ぃ! オマエにはよく効いてくれたぞぉ!分量間違えなくてよかった……」
やはりこの男、踏んできた場数が違う!
あの絶望的状況から見事逃げおおせ、そのうえサンプルの確保も成功するとは!
やはり百戦錬磨のつわものだ!
「さて、聞きたいことは山ほどあるがぁ…… オマエには、まずやらねばならぬことがあるぅ……」
一歩ずつ、サキュバスに近づく責任者!
ま、まさか粛清をしようというのではないだろうか!
「ひっ……!? た、助けて……!」
サキュバスもすっかり怯えている!
彼の魔生はここで終わってしまうのか!
「オマエにはぁ…… 以前の所属部隊と所属番号ぅ! あとは、生年月日を言ってもらおうかぁ!!」
こ、これは単なる身元確認だ!
一体全体どうしたんだ責任者!
なんだか態度がやさしいぞ責任者!
「……えっ? 責任者さん、僕のことをめちゃくちゃに実験するんじゃないんですか……?」
彼女だって当然そうなると思っていた!
なぜなら、彼が魔研の責任者だから!
前世代の魔物にどのような実験をしていたかも、いろいろ噂になっているのだ!
「フハハァ! ワガハイを見くびるなよぉ! ワガハイは教団上級幹部ぅ! 魔に墜ちたとはいえ、かつての同朋を無下にするほど落ちぶれていなぁい! ワガハイ、仲間にはすこぶるやさしいのだぁ!」
なんと紳士的だ!
そういえば、あまり威圧的に笑ったりしていないし、手足に枷をつけていない!
同じ教団のよしみで、便宜していたというのか!
しかし、この言葉には一つの疑問が生じる!
「でも……このあいだ、他の騎士で人体実験したって聞いてますよ……?」
そう、彼は巨乳化薬の騒動の際に、人体実験を行っている!
それにはどう言い訳するつもりだ!
「聞いていないのかぁ? ヤツは確かに、素行がよろしくなかったという理由でワガハイの実験に選ばれたがぁ! ちゃんと、実験に協力することで特別手当を出すという条件で、実験に参加することへの同意を得ていたぞぉ! 危険手当だぞぉ! 念書だって残っているぅ! それにぃ! ちゃんと、どのようなことが起きても対応できるようにぃ! 万全を期したうえでの実験だったぁ! その証拠に、すぐさま治療室に運んで治療行為を開始しているぅ!」
なんと、意外に常識的!
まさかちゃんと契約したうえでの実験だったとは!
仲間すら利用するという悪名は、単なる脅しのためのポーズだったようだ!
見直したぞ責任者!
それでも、やっぱり人体実験はドン引きだがな!
「そ、そうだったんですか……すいません、怯えたりなんかして……」
しかし、彼女は申し訳なさそうだ!
「ムゥ。気にするなぁ。普段の振る舞いからよく勘違いされるからなぁ! もう慣れっこよぉ! フーッハッハッハッハッハハハハハハハハハハ!! ゲホォ! ゲホゲホ! ゲッホォ! ……部下の前でまた咳き込んじゃった……恥ずかしい……」
懐深いぞ上級幹部!
意外と人間できている!
あと、咳のこと気にしていた!
「だ、大丈夫ですか? あ、そういえば身元確認ですよね? 僕は、教団騎士団特別女性部隊に配属される前は、東部方面補給班第8分隊に所属していました。所属番号は801です。生年月日は春の宵の月、25日の生まれです」
すらすらと身元確認の必要事項を述べる!
軍隊では身元確認はあらゆる意味で重要だ!
「フムゥ…… しばしまてぇい。特別部隊編成時の資料がここにあるぅ…… どれどれぇ……東部ぅ……801ぃ……宵の月ぃ……おっと、あったぞぉ! オマエの名前は、エリック・パネトーネぇ! 年齢はぁ……んぅ? エリックぅ? …………って待てぇ!? オマエ男ではないかぁ!? どどど、どういうことだぁ!?」
なんと!
これは不可解な事態だ!
女性騎士部隊の者なのに、書類の上では男になっている!
これはどういうことなのだろうか!
「いやぁ……実は、僕すごい童顔というか中性的な顔立ちなんです……そのせいで、たぶん間違われたんじゃないかと……」
しっかりしろ、教団騎士団!
管理が全然なっていないぞ!
しかし、今問題なのはそこだけではない!
「し、しかしぃ……! オマエは男なのにぃ……魔物娘になっているぅ……! 何故だぁ!? 魔物化というのは女だけの現象ではぁ……! ハッ!? まさかキサマ、教団騎士を騙った魔物なのかぁ!? おのれぇ! ワガハイは騙されんぅ! 騙されんぞぉ! ゲェーッホ! ゲッホ! ゲッホ!のど飴舐めなきゃ……ん!? のど飴がない!?」
魔物化は女性特有の現象ではないのか!
またもや謎が深まった!
あと責任者は、騙されすぎて疑心暗鬼だ!
大半が自業自得なのに!
「お、落ち着いてください責任者さん! 僕はれっきとした教団騎士ですよ!? ちゃんと所属部隊も番号も生年月日も言ったじゃないですか! それに僕だって、いきなり女の子になって意味がわかりませんよぉ……ふぇ……グスッ……」
思わず泣き出すサキュバス!
元男とはいえ、女の子を泣かせるだなんて!
責任者は人でなしだ!
「ムゥ!? わ、悪かったぁ! 確かにオマエの言う通りだぁ! 疑ってすまなかったぁ! しかしぃ……フムゥ……そうなると、魔物化現象にも例外があるということになるのだろうかぁ……よもや、男が魔物娘になってしまうとはぁ……ハッ!? 閃いたぞぉ! エリックぅ!!」
突然立ち上がって叫びだした!
「喜べエリックぅ! ワガハイの理論が正しければ、オマエは人間に戻れるかもしれんぞぉ!! やはりワガハイは天才だぁ! フフ…… ハハハ…… ハァーッハッハッハッハッハハハハハハハハハハァ!!! ゲッホォ! ウエッホ! ゲッホゲホ!……すまんがのど飴を持っていないかぁ?」
この哀れにも性転換してしまった教団騎士を、助けられるかもしれないだと!
一体、なにをするというのだろうか!
どうなる若き教団騎士!
「あ、すいません。のど飴、持ってないです」
そして、のど飴は補給できなかった!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……で? 『ワガハイの理論』が……なんでしたっけ?」
研究室の中!
腕を組んで仁王立ちしている、サキュバス、いや、アルプの元教団騎士!
その目の前で、責任者が正座をしている!
「フハハハハァ! 魔物娘になった体に、精液を注ぎ続けぇ! 体に精が充ちればぁ! 元の男性に戻るのではないかとぉ! ワガハイはそう推測したぁ! 理論上は完璧だったぁ!」
なんという理論だろうか!
魔物化によって、体から追い出されてしまった精を補給して男に戻そうというのだ!
確かに、字面だけを見ればもっともな理論に聞こえる!
「で? 実際に精液を飲んで、精を体に補給し続けた結果、どうなりました?」
アルプがさらに尋ねる!
「以前の中性的な体つきからぁ! 胸も膨らみ、骨格もやわらかくなりぃ! 顔立ちも美しくなったぁ! つまりぃ! より一層女らしい体つきになったなぁ! より魔物娘らしくなった、とも言えるなぁ!」
この数日、寝る間も惜しんで、研究用の精を注入し続けたのだ!
その結果、若き元教団騎士の体は完全に女性らしいものになったのだ!
なんという変貌ぶりだろうか!
「そうですよ! 何が『人間に戻れるかも』ですかぁ!! むしろ、もう言い訳が効かないくらい魔物になっちゃったじゃないですかぁ! どうしてくれるんですかぁ!」
これは彼女にとっては大問題だ!
せっかくもとに戻れると喜んでいたら、むしろ後戻りできないくらいに変化してしまったのだ!
助かったと思った瞬間、また崖に突き落とされたかのような心境だろう!
「フハハァ! しょうがあるまいぃ! 研究に失敗はつきものだぁ! こういうこともあろうぅ! それにぃ! ワガハイとしては、魔物化とその経過に関する貴重なサンプルデータが取れたぁ! 魔物化した人間は、どうあがいても人間に戻れんという実証にもなったぁ! これからは一切手心を加える必要はないとわかったのだからなぁ! フハハハハハハハハハハハハハハ!!」
なんという開き直りだろうか!
一切悪びれる様子もなく、研究だからしょうがないと言い切った!
そのうえ、今後は一切容赦しないとも言った!
やはり教団騎士!
魔物に対する態度は変わらないというのか!
「これからはぁ……キサマには、さまざまな実験の被験体になってもらうのだぁ! 覚悟しろよぉ! ワガハイの実験は苛烈を極めるのだからなぁ! フハハハハハハハハハハハハ!」
責任者は臆面もなく言い放った!
もうお前のことを教団騎士として扱わないと、そう宣言したようなものだ!
「……っ! 僕は……あなたの玩具になんかならないんだから!」
アルプの方も、実験台なぞごめんである!
かくなるうえは責任者と一戦交えるしかない!
魔物になってしまった今、なんとかして逃げ出すつもりなのだ!
「フハハハハハハハ! このワガハイとやりあうつもりかぁ! いいともぉ! 相手になってやるぅ! 教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者を舐めるなよぉ!」
責任者もやりあうつもりだ!
彼もそう簡単に逃がすつもりはないようだ!
ゆらりと正座を解いて立ち上がろうとした!
だが、その時である!
「グワアアアアアアアアアアアアア!? 足がぁ! 足がぁ! しびれるぅ! 馬鹿なぁ!? しまったぁ! 立ち上がれぬぅ!」
や、やってしまった!
アルプに反省のポーズとして、長時間正座をさせられたのだ!
足がしびれるのも当然だ!
「し、しめた! 今のうちに脱出しちゃえ! もう教団なんて知らないんだから! 僕は魔物として自由に生きるんだ! それじゃあ責任者さん、さよなら!」
素早く戦線離脱して、研究室から飛び出すアルプ!
追いすがろうとしても、もう遅い!
またもや取り逃がしてしまった!
「くそおおおおおおおおおお! 待たぬかあああああああああ! 次に会うときは敵同士だからなああああああ! 覚悟するのだぞおおおおおおおおおお!」
重ねての失態である!
あまりの醜態に、叫ぶことしかできない!
やっぱり無様だ責任者!
次は頑張れ責任者!
教団は魔物に屈してはいけないのだから!
「…………フン。演技はこんなものでいいかぁ」
ななな、なんということか!
足がしびれて立てなかったはずの責任者が普通に立ち上がった!
これはいったい!
「感謝するがいい、若き元教団騎士よぉ。オマエを見逃してやるのは、今までの働きに対する恩赦なのだからなぁ」
なんと、わざと見逃したというのか!
やはり、同朋に対して非情になり切ることができなかった!
この男、やはり侮りがたし!
「無論、次に会うときは敵同士だぁ! せいぜい逃げおおせてみせるのだぁ! にっくき魔物よぉ! フーッハハハハハハハハハハハハハッハ! フハハハハハハハハハハハハハァ!! ファーッハッハッハッハッハッハッハッハッハハハハハハハハハハハハハハ!!」
研究室に響く、負け惜しみの高笑い!
だが、その表情はどこか満足そうだ!
かっこいいぞ責任者!
見直したぞ責任者!
情けは人の為ならず!
次はきっと魔物に勝てるぞ!
「あ、責任者さん。あなたのとこから逃げ出した魔物が、さっき、補給隊の連中を根こそぎさらっていったんですが……」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!また始末書かああああああああああああああああああああああ!!ウッ……胃が……胃が痛いよぉ……」
やっぱりだめかもしれない!
13/12/14 00:24更新 / ねこなべ
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