第二の研究!
「あれ? ここどこ? 私、道端に落ちていたおいしそうなケーキを食べてたはずなんだけど……」
鉄の檻の中に、一匹の魔女が捕えられていた!
手足には枷をはめられ、脱出もままならない!
檻の外には一人の男が立っていた!
「フハハハハハハハハ! そうやって余裕でいられるのも今のうちだぞぉ! 神に弓引く下等な悪魔どもよぉ! フハハハハハハハハハ!」
男は、自らの白衣を翻し、魔物に対して威圧的な雰囲気で高らかに笑った!
「ん? あなた誰? 見たことない人だけど、ただの変態さん?」
魔物が男に向かって尋ねる!
「フハハハハハハハハハハハ! ワガハイが変態だとぉ? マヌケめぇ! ワガハイは誇りある教団騎士の、そのうえ上級幹部の一員であるぞぉ! キサマを生かしておいたのは、ワガハイがこの国における教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者であるからだぁ! キサマはワガハイの魔物研究の実験材料になるのだぁ!! ファーッハハハハハハハハハハハハハハハハ! ゲホッ!ゲホッ!……ハハハハハハハハ!」
そう!
何を隠そう、彼こそが教団の魔物研究班!
その責任者に他ならないのだ!
いわば魔物のエキスパート!
魔女の不利は火を見るより明らかだ!
「あー、はいはい。そういえば、旧世代の魔物を研究していた、やたらテンションの高い研究者がいるって聞いたことあったっけ」
魔女は飄々とした調子で納得する!
「フハハハハハハハハハ! どうやら魔物側にもワガハイの威光が伝わっていたようだなぁ! 恐れおののけぇ! ワガハイの研究にひれ伏すがいいぃ!」
デスクワークが基本とはいえ、実地調査も忘れない研究者の鑑!
まさに百戦錬磨のつわもの!
魔物に存在が知られていても不思議ではない!
「しかしぃ! キサマは今日、認識を改めねばならぬぅ! なぜならぁ! ワガハイは旧世代だけでなくぅ! 新世代の魔物にも精通しているからだぁ!」
これは嘘だ!
前回、まだ生態をよく把握してなかったおかげで、魔物相手に手玉にされてしまった!
だが、この嘘も交渉技術の一つ!
ハッタリで相手を萎縮させるのも、立派な戦法なのだ!
「そうなの? それで? いったい私をどうするって言うの?」
魔女は不敵な笑いを浮かべている!
まさか効いていないのか!
なんたる胆力!
だが、ここで引くような教団(略)責任者ではない!
「フッフッフ……キサマにはいろいろと尋問したいことがあるのだぁ……」
男が一歩ずつ檻に近寄る!
「キサマには……この薬の用途をぅ! 洗いざらい吐いてもらおうかぁ!」
男は懐から、小さな小ビンを取り出した!
ビンには、魔物の言葉で書かれたラベルが貼られている!
ビンの中には液体が詰まっている!
どうやら何かの薬のようだ!
「そ、その薬は!?」
魔物も驚く!
「フハハハハハ! やはりその驚きようぅ! これはただの薬では無いなぁ!? これを見つけたのはつい先日ぅ! 誰も乗っていない面妖なイノシシに、荷物として積まれていたのだぁ! しかも、かなり厳重に保管されていたぁ! ワガハイは、これには絶対に何かあると踏んだのだぁ! これが、キサマラにとってどういうものであるのかぁ! じっくり聞かせてもらおうではないかぁ! フッハハハハハハハハハハハハハハ! ゲェッホ! ゲホ! ゲッホ! のど飴のど飴……」
なんということだろうか!
魔物側の物資が、偶然人間側に流れ着いてしまったのだ!
情報は命だ!
この薬の正体がバレてしまえば、魔物の流通事情や生態解明の糸口になってしまう!
「……あなた教団よね? 私たちにいい顔してくれない人に、その薬の正体を話すと思うの?」
当然、魔女のほうも素直に言うわけがない!
見た目は幼いが、彼女もいっぱしの戦士というわけだ!
「ホホーウ? やはり魔物の見た目はアテにならぬなぁ? その幼い外見も、ワガハイたちの同情を買い、騙すためのものというわけかぁ…… そうでなくては面白くないなぁ! やはり魔物は打ち倒すべき存在と再認識できるからなぁ! フハハハハハハハハハハハ! あっ、のど飴落ちちゃった……」
男は満足そうに笑う!
好敵手はやはりこうでなくてはならないという笑いだ!
決して、彼の魔物娘に対する敵意が最近揺らいできており、反発されて安心したとかではない!
あと、落ちたのど飴は汚い!
3秒ルールも適用外だ!
「……フハハ! だが、ワガハイは魔物対策技術研究班第一責任者! この薬がどのような薬であるか、すでに大体の正体はつかめておるわぁ!」
なんだと!
やはり、この男ただものではないのか!
薬の正体とはいったい!
「この薬はぁ……ずばりぃ! 毒薬に違いないぃ!」
なんと毒薬!
何故そう思ったのだろうか!
「!? な、なぜそれを!!」
あぁー!
思わず出てしまった魔女の反応!
これはまさか図星だったのか!
「フハハハハハハハ! やはりそうかぁ! これでようやく合点がいったぁ! 実はすでにぃ……わが研究班はぁ……この薬を試しているのだぁ! 教団内部で、特に素行が悪いと噂の団員をよびつけぇ! 食事に混ぜてぇ! 飲ませたのだぁ! その結果ぁ! ヤツめ、その場でひっくり返って卒倒しぃ! 今でも医務室でうなされているぅ! つまりぃ! この薬はぁ! 飲んだものを無力化ぁ! そしてぇ! 病気にして苦しめることによってぇ! 治療のための人員を割かせてぇ! 騎士団を機能不全にしてぇ! 進軍を止めるというシロモノだろぉ! どうだぁ! 図星だろぉ!」
なんという非人道的な人体実験!
勝つためとは言え、ここまでやるのか教団!
汚いぞ教団!
卑劣だぞ教団!
しかし、これによって薬の効果がバレてしまった!
これは魔物にとって非常にまずい!
「クハハ! しかし、そうとわかればぁ。これは逆にチャンスだぁ! なぜならぁ! 鹵獲した薬でぇ! こちらも同様にしてぇ! キサマラに対抗できるからだぁ! 傷病人を山ほど抱えた軍隊など、恐るるに足りんわぁ! だが、この薬が魔物に効果がなければ骨折り損だぁ……ククク……そこでだぁ。キサマを使ってぇ……魔物にも効果があるのかぁ! 試させてもらうぅ!」
な、なんということを!
この男に慈悲というものはないのだろうか!
「あ、あんた!? それを私に飲ませる気!? やめてよこの変態!」
もっともだ!
魔物とはいえ、見た目は子供だ!
そんな子に毒とわかっているものを飲ませるなんて!
「クハッ! 何、苦しむだけで、死にはせんのだぁ。こちらの心は微塵も傷つかんよぉ! さぁ、ワガハイの手で飲ませてやろう! フフ…… ハハハ…… ハァーッハッハッハッハッハハハハハハハハハハァ!!! ゲッホォ! ゲホォ! ガッ! ガフッ! やっぱり、医者に行くべきかなぁ……」
勝利の笑いを上げながら、魔女に近づく!
そして、男はせき込みながら、身動きの効かない魔女に、薬を一気に飲ませようとする!
「やめてよ! そんな! やだ! 私は、絶対にその薬は飲まな……んんーーー!?」
ああ、哀れ魔物娘!
多少抵抗したものの、やはり両手足の自由が効かなくては満足に抵抗できない!
薬を飲まされてしまった!
「ぷはっ…… あんた、なんてこと……!? カハッ!? あっ、あぁっ!? くぅっ……うあぁ! ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ああ、なすすべなく響き渡る魔女の苦痛の声!
やはり毒薬だったのか!
男は邪悪な笑みを浮かべている!
「フハハハハハハハ! どうやら魔物にも有効なようだなぁ! 科学の発展に犠牲はつきものだぁ! その礎になれたこと、神に感謝するのだなぁ! もちろん、教団の主神にだがなぁ! では、さっそく作戦に取り掛かろうではないかぁ! これで魔王軍もおしまいだぁ! フーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
勝利を確信した高笑いが研究室中に響き渡る!
魔物の苦しむ声と合わさって、おどろおどろしいハーモニーを奏でる!
「……あとでこの子も治療室に送っておこう」
やっぱり良心が痛んだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「食事ですよー。それじゃあ口開けてー。あーん」
治療室にて、騎士団の者が食事をスプーンに乗せて食べさせようとする!
「あーん♪」
それに素直に従うのは、この間の魔女っ娘だ!
「きぃぃぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
廊下の端から響き渡ってくる、魔物(略)責任者の叫び!
そして、勢いよく治療室のドアを開け放った!
「よくもよくもよくもぉ!! ワガハイを騙してくれたなぁ……ってなんだぁ!! そのハレンチ極まりない姿はぁ!」
男が魔女の姿を見て驚く!
「ハレンチって……そりゃあ『巨乳化薬』を飲んだんだから、こうなるのは当たり前じゃない」
巨乳化薬だと!
確かに魔女の胸は、その子供らしい姿にはそぐわないほど肥大化している!
その大きさは、彼女の患者着のボタンがとまらず、胸が露出せざるをえないほどだ!
「ふふふ、ふざけるなぁ!! そのような格好、若い女性がするべきではなぁい! 今すぐ隠さないかぁ! この痴女めぇ! ……ではなくぅ! キサマのせいでワガハイは大恥をかいたぁ! うまいこと魔王軍の飲料水となる井戸に、余った薬を混ぜられたのはよかったものの、次の日には魔物どもがみな巨乳となって戦場に来たというぅ! そのせいで、前線の兵どもはホイホイ巨乳の魔力に屈したぁ! またも前線崩壊だぁ! しかも、その敗走の話題のせいで、一部の陣地では巨乳派と微乳派が争い、大論争が勃発して、機能不全に陥ってしまったぁ! キサマ、あの時ワガハイが『毒だ』と断じた時に動揺したではないかぁ! あれはワガハイを騙す演技だったとでも言うのかぁ!」
そうなのだ!
あの時、確かにこの魔女は動揺した!
そして、薬を飲むのを拒んだ!
これをどう説明するというのだ!
「そんなん当たり前じゃん。私からすれば、どんなロリでも巨乳にしてしまう薬なんて毒よ、毒。私、ロリ巨乳は認められない派だったの。やっぱり、幼女はちっぱいじゃなきゃいけないじゃない!」
なんということだろう!
確かに、そういう思想があれば、巨乳化薬を毒だと思っているのも仕方がない!
これは、勝手に早合点してしまった男のミスに他ならない!
魔女に責任はない!
「では、なぜあの兵士は倒れたぁ! やつはあの薬を飲んで倒れたぁ! そして苦しんでいたぞぉ!」
これもまた不思議だ!
巨乳化薬は、男にとってはやはり毒だったのか!
すると、魔女の隣でご飯を食べさせようとしていた男が反応した!
「あー、その節はどうもっス。いやー、確かにあんときは急激な胸の苦しさに襲われて、ぶっ倒れちまったし、そのあと治療室でうんうんうなってましたねぇ。でも、途中で気づいたっス。この苦しみは、体の痛みが原因じゃない。これは俺っちの心が巨乳を欲してやまない苦しみ……そう、恋の苦しみだとね! 今ではこの子のおかげで治ったっス! ロリ巨乳バンザイっス!」
なんと、この男、薬を飲まされた張本人!
しかも、本人直々の白状!
あの薬は、男が飲むと巨乳好きになるだけだったと言うのだ!
またしても、なんたる早とちり!
「ぐぬぬぅ……おのれ、おのれ、おのれぇ!」
自らの不甲斐なさと、またしても一杯くわされた悔しさでいっぱいだ!
こうなれば、ここにいる二人だけでも確保せねば、面目立たぬ!
しかし!
「ま、そういうわけでぇ……私もこのお兄ちゃんと会えたからぁ……巨乳化薬に感謝しなくっちゃ♥ 国に帰ったら、サバトのみんなにロリ巨乳のすばらしさを広めてあげるんだから! それじゃあ、さよなら〜♪」
次の瞬間、魔女が布団を思い切りはねのけた!
なんと、魔女は布団の下に箒を隠し持っていた!
そして、止める間もなく箒にまたがり、病室の窓から飛び去っていった!
「さよならっス! 退職届は代わりに提出してくださいっスー!」
不良騎士のほうも、魔女の後ろに相乗りして一緒に飛び去る!
まんまと逃がしてしまった!
またも失態である!
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおお! もう二度とお前らの言うことなんか信用するかああああああああ! 次こそは負けないからなあああああああああああ! ……退職届……退職届はどこだ……あ、あった」
頑張れ責任者!
負けるな責任者!
明日はきっといいことある!
鉄の檻の中に、一匹の魔女が捕えられていた!
手足には枷をはめられ、脱出もままならない!
檻の外には一人の男が立っていた!
「フハハハハハハハハ! そうやって余裕でいられるのも今のうちだぞぉ! 神に弓引く下等な悪魔どもよぉ! フハハハハハハハハハ!」
男は、自らの白衣を翻し、魔物に対して威圧的な雰囲気で高らかに笑った!
「ん? あなた誰? 見たことない人だけど、ただの変態さん?」
魔物が男に向かって尋ねる!
「フハハハハハハハハハハハ! ワガハイが変態だとぉ? マヌケめぇ! ワガハイは誇りある教団騎士の、そのうえ上級幹部の一員であるぞぉ! キサマを生かしておいたのは、ワガハイがこの国における教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者であるからだぁ! キサマはワガハイの魔物研究の実験材料になるのだぁ!! ファーッハハハハハハハハハハハハハハハハ! ゲホッ!ゲホッ!……ハハハハハハハハ!」
そう!
何を隠そう、彼こそが教団の魔物研究班!
その責任者に他ならないのだ!
いわば魔物のエキスパート!
魔女の不利は火を見るより明らかだ!
「あー、はいはい。そういえば、旧世代の魔物を研究していた、やたらテンションの高い研究者がいるって聞いたことあったっけ」
魔女は飄々とした調子で納得する!
「フハハハハハハハハハ! どうやら魔物側にもワガハイの威光が伝わっていたようだなぁ! 恐れおののけぇ! ワガハイの研究にひれ伏すがいいぃ!」
デスクワークが基本とはいえ、実地調査も忘れない研究者の鑑!
まさに百戦錬磨のつわもの!
魔物に存在が知られていても不思議ではない!
「しかしぃ! キサマは今日、認識を改めねばならぬぅ! なぜならぁ! ワガハイは旧世代だけでなくぅ! 新世代の魔物にも精通しているからだぁ!」
これは嘘だ!
前回、まだ生態をよく把握してなかったおかげで、魔物相手に手玉にされてしまった!
だが、この嘘も交渉技術の一つ!
ハッタリで相手を萎縮させるのも、立派な戦法なのだ!
「そうなの? それで? いったい私をどうするって言うの?」
魔女は不敵な笑いを浮かべている!
まさか効いていないのか!
なんたる胆力!
だが、ここで引くような教団(略)責任者ではない!
「フッフッフ……キサマにはいろいろと尋問したいことがあるのだぁ……」
男が一歩ずつ檻に近寄る!
「キサマには……この薬の用途をぅ! 洗いざらい吐いてもらおうかぁ!」
男は懐から、小さな小ビンを取り出した!
ビンには、魔物の言葉で書かれたラベルが貼られている!
ビンの中には液体が詰まっている!
どうやら何かの薬のようだ!
「そ、その薬は!?」
魔物も驚く!
「フハハハハハ! やはりその驚きようぅ! これはただの薬では無いなぁ!? これを見つけたのはつい先日ぅ! 誰も乗っていない面妖なイノシシに、荷物として積まれていたのだぁ! しかも、かなり厳重に保管されていたぁ! ワガハイは、これには絶対に何かあると踏んだのだぁ! これが、キサマラにとってどういうものであるのかぁ! じっくり聞かせてもらおうではないかぁ! フッハハハハハハハハハハハハハハ! ゲェッホ! ゲホ! ゲッホ! のど飴のど飴……」
なんということだろうか!
魔物側の物資が、偶然人間側に流れ着いてしまったのだ!
情報は命だ!
この薬の正体がバレてしまえば、魔物の流通事情や生態解明の糸口になってしまう!
「……あなた教団よね? 私たちにいい顔してくれない人に、その薬の正体を話すと思うの?」
当然、魔女のほうも素直に言うわけがない!
見た目は幼いが、彼女もいっぱしの戦士というわけだ!
「ホホーウ? やはり魔物の見た目はアテにならぬなぁ? その幼い外見も、ワガハイたちの同情を買い、騙すためのものというわけかぁ…… そうでなくては面白くないなぁ! やはり魔物は打ち倒すべき存在と再認識できるからなぁ! フハハハハハハハハハハハ! あっ、のど飴落ちちゃった……」
男は満足そうに笑う!
好敵手はやはりこうでなくてはならないという笑いだ!
決して、彼の魔物娘に対する敵意が最近揺らいできており、反発されて安心したとかではない!
あと、落ちたのど飴は汚い!
3秒ルールも適用外だ!
「……フハハ! だが、ワガハイは魔物対策技術研究班第一責任者! この薬がどのような薬であるか、すでに大体の正体はつかめておるわぁ!」
なんだと!
やはり、この男ただものではないのか!
薬の正体とはいったい!
「この薬はぁ……ずばりぃ! 毒薬に違いないぃ!」
なんと毒薬!
何故そう思ったのだろうか!
「!? な、なぜそれを!!」
あぁー!
思わず出てしまった魔女の反応!
これはまさか図星だったのか!
「フハハハハハハハ! やはりそうかぁ! これでようやく合点がいったぁ! 実はすでにぃ……わが研究班はぁ……この薬を試しているのだぁ! 教団内部で、特に素行が悪いと噂の団員をよびつけぇ! 食事に混ぜてぇ! 飲ませたのだぁ! その結果ぁ! ヤツめ、その場でひっくり返って卒倒しぃ! 今でも医務室でうなされているぅ! つまりぃ! この薬はぁ! 飲んだものを無力化ぁ! そしてぇ! 病気にして苦しめることによってぇ! 治療のための人員を割かせてぇ! 騎士団を機能不全にしてぇ! 進軍を止めるというシロモノだろぉ! どうだぁ! 図星だろぉ!」
なんという非人道的な人体実験!
勝つためとは言え、ここまでやるのか教団!
汚いぞ教団!
卑劣だぞ教団!
しかし、これによって薬の効果がバレてしまった!
これは魔物にとって非常にまずい!
「クハハ! しかし、そうとわかればぁ。これは逆にチャンスだぁ! なぜならぁ! 鹵獲した薬でぇ! こちらも同様にしてぇ! キサマラに対抗できるからだぁ! 傷病人を山ほど抱えた軍隊など、恐るるに足りんわぁ! だが、この薬が魔物に効果がなければ骨折り損だぁ……ククク……そこでだぁ。キサマを使ってぇ……魔物にも効果があるのかぁ! 試させてもらうぅ!」
な、なんということを!
この男に慈悲というものはないのだろうか!
「あ、あんた!? それを私に飲ませる気!? やめてよこの変態!」
もっともだ!
魔物とはいえ、見た目は子供だ!
そんな子に毒とわかっているものを飲ませるなんて!
「クハッ! 何、苦しむだけで、死にはせんのだぁ。こちらの心は微塵も傷つかんよぉ! さぁ、ワガハイの手で飲ませてやろう! フフ…… ハハハ…… ハァーッハッハッハッハッハハハハハハハハハハァ!!! ゲッホォ! ゲホォ! ガッ! ガフッ! やっぱり、医者に行くべきかなぁ……」
勝利の笑いを上げながら、魔女に近づく!
そして、男はせき込みながら、身動きの効かない魔女に、薬を一気に飲ませようとする!
「やめてよ! そんな! やだ! 私は、絶対にその薬は飲まな……んんーーー!?」
ああ、哀れ魔物娘!
多少抵抗したものの、やはり両手足の自由が効かなくては満足に抵抗できない!
薬を飲まされてしまった!
「ぷはっ…… あんた、なんてこと……!? カハッ!? あっ、あぁっ!? くぅっ……うあぁ! ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ああ、なすすべなく響き渡る魔女の苦痛の声!
やはり毒薬だったのか!
男は邪悪な笑みを浮かべている!
「フハハハハハハハ! どうやら魔物にも有効なようだなぁ! 科学の発展に犠牲はつきものだぁ! その礎になれたこと、神に感謝するのだなぁ! もちろん、教団の主神にだがなぁ! では、さっそく作戦に取り掛かろうではないかぁ! これで魔王軍もおしまいだぁ! フーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
勝利を確信した高笑いが研究室中に響き渡る!
魔物の苦しむ声と合わさって、おどろおどろしいハーモニーを奏でる!
「……あとでこの子も治療室に送っておこう」
やっぱり良心が痛んだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「食事ですよー。それじゃあ口開けてー。あーん」
治療室にて、騎士団の者が食事をスプーンに乗せて食べさせようとする!
「あーん♪」
それに素直に従うのは、この間の魔女っ娘だ!
「きぃぃぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
廊下の端から響き渡ってくる、魔物(略)責任者の叫び!
そして、勢いよく治療室のドアを開け放った!
「よくもよくもよくもぉ!! ワガハイを騙してくれたなぁ……ってなんだぁ!! そのハレンチ極まりない姿はぁ!」
男が魔女の姿を見て驚く!
「ハレンチって……そりゃあ『巨乳化薬』を飲んだんだから、こうなるのは当たり前じゃない」
巨乳化薬だと!
確かに魔女の胸は、その子供らしい姿にはそぐわないほど肥大化している!
その大きさは、彼女の患者着のボタンがとまらず、胸が露出せざるをえないほどだ!
「ふふふ、ふざけるなぁ!! そのような格好、若い女性がするべきではなぁい! 今すぐ隠さないかぁ! この痴女めぇ! ……ではなくぅ! キサマのせいでワガハイは大恥をかいたぁ! うまいこと魔王軍の飲料水となる井戸に、余った薬を混ぜられたのはよかったものの、次の日には魔物どもがみな巨乳となって戦場に来たというぅ! そのせいで、前線の兵どもはホイホイ巨乳の魔力に屈したぁ! またも前線崩壊だぁ! しかも、その敗走の話題のせいで、一部の陣地では巨乳派と微乳派が争い、大論争が勃発して、機能不全に陥ってしまったぁ! キサマ、あの時ワガハイが『毒だ』と断じた時に動揺したではないかぁ! あれはワガハイを騙す演技だったとでも言うのかぁ!」
そうなのだ!
あの時、確かにこの魔女は動揺した!
そして、薬を飲むのを拒んだ!
これをどう説明するというのだ!
「そんなん当たり前じゃん。私からすれば、どんなロリでも巨乳にしてしまう薬なんて毒よ、毒。私、ロリ巨乳は認められない派だったの。やっぱり、幼女はちっぱいじゃなきゃいけないじゃない!」
なんということだろう!
確かに、そういう思想があれば、巨乳化薬を毒だと思っているのも仕方がない!
これは、勝手に早合点してしまった男のミスに他ならない!
魔女に責任はない!
「では、なぜあの兵士は倒れたぁ! やつはあの薬を飲んで倒れたぁ! そして苦しんでいたぞぉ!」
これもまた不思議だ!
巨乳化薬は、男にとってはやはり毒だったのか!
すると、魔女の隣でご飯を食べさせようとしていた男が反応した!
「あー、その節はどうもっス。いやー、確かにあんときは急激な胸の苦しさに襲われて、ぶっ倒れちまったし、そのあと治療室でうんうんうなってましたねぇ。でも、途中で気づいたっス。この苦しみは、体の痛みが原因じゃない。これは俺っちの心が巨乳を欲してやまない苦しみ……そう、恋の苦しみだとね! 今ではこの子のおかげで治ったっス! ロリ巨乳バンザイっス!」
なんと、この男、薬を飲まされた張本人!
しかも、本人直々の白状!
あの薬は、男が飲むと巨乳好きになるだけだったと言うのだ!
またしても、なんたる早とちり!
「ぐぬぬぅ……おのれ、おのれ、おのれぇ!」
自らの不甲斐なさと、またしても一杯くわされた悔しさでいっぱいだ!
こうなれば、ここにいる二人だけでも確保せねば、面目立たぬ!
しかし!
「ま、そういうわけでぇ……私もこのお兄ちゃんと会えたからぁ……巨乳化薬に感謝しなくっちゃ♥ 国に帰ったら、サバトのみんなにロリ巨乳のすばらしさを広めてあげるんだから! それじゃあ、さよなら〜♪」
次の瞬間、魔女が布団を思い切りはねのけた!
なんと、魔女は布団の下に箒を隠し持っていた!
そして、止める間もなく箒にまたがり、病室の窓から飛び去っていった!
「さよならっス! 退職届は代わりに提出してくださいっスー!」
不良騎士のほうも、魔女の後ろに相乗りして一緒に飛び去る!
まんまと逃がしてしまった!
またも失態である!
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおお! もう二度とお前らの言うことなんか信用するかああああああああ! 次こそは負けないからなあああああああああああ! ……退職届……退職届はどこだ……あ、あった」
頑張れ責任者!
負けるな責任者!
明日はきっといいことある!
13/12/06 01:34更新 / ねこなべ
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