第一の研究!
「まったく、私が捕まっちゃうなんて。一生の不覚だわ……」
鉄の檻の中に、一匹のサキュバスが捕えられていた!
手足には枷をはめられ、脱出もままならない!
檻の外には一人の男が立っていた!
「フハハハハハハハハ! そうやって余裕でいられるのも今のうちだぞぉ! 神に背く下劣な悪魔どもよぉ! フハハハハハハハハハ!」
男は、自らの白衣を翻し、魔物に対して威圧的な雰囲気で高らかに笑った!
「あらそう? でも、そんなこと言うわりには、私のこと生かしておくんだなんて。教団にしてはずいぶんとお優しいんじゃなくって? もしかして、あなた親魔物派?」
対するサキュバスは、男に対して不敵にも聞き返した!
「フハハハハハハハハハハハ!! ワガハイが親魔物派だとぉ? タワケがぁ! ワガハイは誇りある教団騎士の、そのうえ上級幹部の一員であるぞぉ! キサマを生かしておいたのは、ワガハイがこの国における教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者であるからだぁ! キサマはワガハイの魔物研究の実験材料になるのだぁ!!フーッハハハハハハハハハハハハハハハハ ゲホッ!ゲホッ!……ハハハハハハハハ!」
なんということだ!
この男は、教団騎士は教団騎士でも、魔物に対抗する手段を研究するセクションの責任者だというのだ!
いわば魔物対策のエキスパート!
サキュバスの不利は火を見るより明らかだ!
「あらいやだ。まさか、そんなところに捕まっちゃうだなんて。嫌になっちゃうわね」
サキュバスは、なおも軽い調子を崩そうとしない!
「フハハハハハハハ! 無理をするんじゃあなぁい! 口先では強がっていても、手足は震えているではないかぁ。鉄格子を通してもはっきりわかるぞぉ? キサマ、ずいぶんと怯えているようだがなぁ?」
だが、デスクワーカーとはいえ、この男も百戦錬磨のつわもの!
魔物のうわっつらの演技など、楽に看破してみせた!
「……!! ……だったらどうだっていうの?」
自らの恐怖心がバレても、なおサキュバスとしての気高さは崩さない!
この魔物も、負けず劣らずつわものである!
「フハッ! どうなると思う? なぁ、これからどうなるとお・も・う・かぁ? フーッハッハッハッハッハ!! まずキサマには、さっそくやってもらうことが、一つあるのだぁ……フッフッフ……」
男は相手の恐怖を助長しながら、一歩ずつ檻に近づいていく!
「…………!」
危うしサキュバス!
いったいどうなるというのだ!
「キサマには……魔物の弱点をぅ! 洗いざらい吐いてもらおうかぁ!!」
なんと!
この男は、魔物に仲間の弱点を吐けというのだ!
「じゃ、弱点ですって!?」
魔物も驚く!
「そうだぁ! キサマも知っての通り、先日の魔王の代替わりのせいで、今は旧世代の魔物は放逐され、新世代の魔物が闊歩しているではないかぁ…… そして、新世代の魔物は、その全員が女型の魔物となってしまったぁ!!」
そう、この数日前に魔物の王、魔王の代替わりがあった!
魔王の代替わりは、勝者が頂点に立つことによって行われるという実にシンプルなもの!
魔物同士、血で血を洗うという、実に恐ろしい風習なのだ!
その代替わりで、新しい魔王となったのはサキュバス族!
ゆえに、魔王の魔力ですべての魔物が、その姿をサキュバスと似たものに変えた!
つまり、すべての魔物が、人を惑わす妖艶な美女となってしまったのだ!
「この世代交代のおかげで、前線の兵どもは浮足だっているぅ! 急に全ての魔物が醜悪なバケモノから、見目麗しい絶世の美女どもに変わってしまったのだからなぁ! あのような子女を切るなど教団の教義に背くという意見も出ているくらいだぁ!」
見た目がバケモノならいざ知らず、相手はか弱い子女の姿!
その姿を前に、騎士団の剣が鈍るのは必定!
か弱き者を守り、隣人を愛し、その身をもって民衆の盾となるのが教団騎士団の掟だからだ!
これはしょうがない!
「そこでぇ! ワガハイの研究室がぁ! 新世代どもの弱点を見つけだせばぁ! キサマラはなすすべなく撤退しぃ! 騎士団は魔物と直接剣を交えることなくぅ! いともたやすく勝利できるぅ! 命を奪うこともないからぁ! 前線の兵どもの心理障壁も問題ないぃ! どうだぁ! まいったかぁ! フフ……フッハッハ……フーッハハハハハハハハハハハハハハ! ウェーッホ!ゲッホゲッホゲッホ!カハッ!あーのど痛い……」
さすが魔物対策技術研究班だ!
現騎士団の問題を的確に見抜き、そのうえでの魔物の対処を瞬時に提案する!
これが第一責任者の手腕!
見事である!
あと、のど飴が必要だ!
「……無理して笑わなければいいじゃない」
さすがにツッコむ!
相手の弱みに付け込むのは、戦いの常套手段だ!
「むむむ、無理などしているわけないだろうがぁ!! 相手より心理的優位に立つためとか、狂気を見せつけてビビらせるだとか、そんなことは一切考えてないぞぉ!!」
いかに強者と言っても、弱みを突かれれば動揺もする!
だがそんなことでひるむ程度では、魔物対策技術研究班第一責任者は名乗れない!
すぐに持ち直した!
「ん゛ん゛! とにかくぅ! 痛めつけられたくなかったらぁ! 一刻も早くぅ! 魔物の弱点をバラシてしまうのだぁ! これはキサマの同胞を守るためでもあるのだぞぉ? んん? 前線の兵どもが紳士であるがゆえ、キサマラを切れんという、教団騎士達のやさしさに感謝しなければならんのだぞぉ? さあ、言うのだぁ。キサマラ魔物どもがぁ。一目見ただけで戦意を喪失してしまうようなぁ。決定的な弱点をぅ。さっさとはいてしまうのだぁ!フーッハハハハハハハハハ……やっぱのど痛い……今度飴買おう……」
自らの弱点はすかさず補強する!
やはり、頭がいい!
そして、相手の譲歩点を提供して、まんまと情報を引き出そうという気だ!
サキュバスは、この言葉の上でのやさしさに負けて、まんまと情報を渡してしまうのか!
「……わかった……弱点を教えるわ……」
あぁー!
なんということだ!
屈してしまったのか!
しかし無理もない!
断れば彼女自身の命だって危ないのだから!
「フハハハハ! それでいいのだぁ! 素直じゃないかぁ! それでは、ワガハイに教えるのだぁ! 魔物どもの弱点とやらをぅ!」
勝利を確信し、男は上機嫌だ!
一言一句漏らすまいと、檻の中のサキュバスに耳を近づける!
このまま魔物は無様に負けてしまうというのか!
「魔物の弱点は……男の精液よ!」
な、なんだってー!
まさかの衝撃の事実!
サキュバス族だというのに、その実精液に弱いというのか!
「何ぃ? サキュバスなのに精液に弱いのかぁ?」
当然、男の方も疑問に思った!
あまりに不自然だからだ!
「ええ、そうよ。実はサキュバスが吸精するのは、この世からすべての精液を絞りつくすため。でも、口やアソコなら大丈夫けど、それ以外のところで精液を受けようものなら体内の魔力と精が反応しあって、よくて戦意喪失……最悪の場合、いってしまうわ!」
な、なんという驚愕の事実!
サキュバスの吸精が、実際には彼女達が命がけで行っていた人間の無力化だったとは!
弱点を弱点と思わせないためのカモフラージュ!
まさに灯台下暗しだ!
「そうだったのかぁ! これは知らなかったぁ! サキュバス族なぞ、旧世代の場合、人死にが出ないから無害だとか言って研究室には回ってこなかったからなぁ……上の連中が自分で楽しむために回収してたもんなぁ。……だがキサマのおかげでようやく弱点を掴んだぁ! 早速前線の兵どもに伝達だぁ! これで人間の勝利は揺るがないぃ! フッハッハッハッハッハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!」
研究室内に男の勝利の笑いがこだまする!
魔物たち、絶対絶命か!
「ゲェーッホ! ゲッホ! ウェーッホ! ゲッハァ!」
のどがやられた!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あら、魔物たいさく……なんだっけ? とにかく責任者じゃない。どうしたの?」
研究室の中には、檻から出て、ソファーに腰掛け、自らの爪を整えているサキュバス!
そして、部屋に入って来るやいなや、サキュバスに向って指を指し叫ぶ魔物(中略)責任者!
「キサマぁ……ワガハイを騙したなぁ!?」
何っ!
騙したとはいったいどういうことなのか!
「騙したとは何よ。ちゃんと弱点は教えたじゃない」
対して騙していないと主張するサキュバス!
いったいどちらが本当なのか!
「キサマの言う通りに、前線の兵士どもに精液が弱点だと通達したぁ! そして、早速魔物たちに、騎士団兵士たちは、ヤツラ自身の精液を瓶に詰めて魔物たちに投げつけてやったぁ! するとどうだぁ! 確かに魔物たちは戦意喪失してしまったぁ!」
ここまではサキュバスの言う通りだ!
どこにもおかしい点はない!
やはり弱点だったのではないだろうか!
「だが、騎士団が魔物どもを拘束しようと近づいた瞬間、魔物たちはすさまじい勢いで兵士どもに飛びついたぁ! そしてそのまま兵士どもは魔物に逆レイプされてしまったというではないかぁ! その勢いは筆舌に尽くしがたく、あっという間に前線は陥落してしまったぁ! 精液は弱点などではなく、逆に魔物を強化してしまったではないかぁ!」
な、なんということだろう!
確かにそれでは話がおかしい!
狂暴化したのでは、弱点とは到底言えない!
サキュバスはどう弁明するのか!
「あらぁ、別にどこもおかしくないもん。私たちは精液を浴びちゃうと、その素敵な香りのせいで、オスとのまぐわいしか考えられなくなっちゃって、戦いなんてできなくなっちゃうの♪ それに、男の人の精液なんて浴びたら発情しちゃって、近づいてくる男の人を一発で夫にしちゃうの。 そうしたら、あとはセックス三昧、いつでもよがり狂って、イキっぱなしになっちゃうのよ? どんな力の強い魔物でも攻略可能なんだから。弱点以外の何物でもないじゃない?」
なんという言い訳だ!
確かに、彼女は前回言ったことで嘘をついていたわけではない!
ただし、求める事実が男が想定していたものとズレていただけのことだ!
これは相手の勘違いを利用した見事なミスディレクションだ!
「ぐぬぬぅ……なんと卑怯なりぃ……」
確かに卑怯かもしれない!
だが、命と引き換えに情報を強要したのも事実だ!
むしろこの場合、事前に事実確認を怠ったこの男の怠慢である!
彼女が責められる謂れはない!
「ま、私たち魔王軍の前線も、その教団騎士たちをお持ち帰りして夫にしちゃっただろうから、みんな寿退社で家に帰っちゃったと思うわ。もう二度と前線に出てくることはないはずよ? よかったじゃない。貴重な相手の前線兵力を削ることができたじゃない」
これもまた偽りなき事実!
お持ち帰りされたであろう教団の騎士たちは、その身を削って相手の前線を無力化したのだ!
だがしかし!
「それだけではなぁい! その光景を見た後詰の兵士たちも魔物の夫になると言って、次々相手の軍門に下っていったのだぁ! キサマこれも予見していたのだろぉ!」
目の前で同僚たちが幸せそうに交わっていたのだ!
女日照りの騎士団の目に、それがどれだけうらやましく思えたかは想像に難くない!
「フフッ♪ でも、いいんじゃない? きっとその子たちも、新しい魔物の嫁を見つけて幸せい暮らしていると思うわよ?」
だがそれは教団からの離反、魔の手に堕ちてしまったことに他ならない!
教団の権威はガタ落ちだ!
このサキュバス、なんという策士なのだろうか!
「認めんぞぉ! キサマに一杯喰わされたなどとぉ……ハッ!? そういえばキサマぁ! 何故檻から出ているのだぁ!」
この男、今頃気づいた!
だが、鉄格子に、そのうえ枷までしていたのを脱出しているのだ!
いったいどういうことなのだろうか!
「フフン♪ ちょっと見張りの兵士を誘惑したら、快く拘束を解いてくれたうえ、檻から出してもらえたわ♪ ついでに、この子をつまみ食いしてぇ……メロメロにさせちゃったぁ♪」
ソファーの上には、搾り取られて干物になりかけた裸の騎士団兵士!
先ほどまでお楽しみだったというわけなのだ!
「しゅごいぃ……こんなのはじめてぇ……まものむすめのおっとになっちゃうぅ……」
すっかり堕落してしまっている!
魔物の力、恐るべし!
「ということで、私、この子と一緒に魔界に帰りまーす。じゃあねー♪」
次の瞬間、魔物はその場から煙のように消えた!
一種の転移魔法である!
残されたのは、無様にも魔物に騙された責任者(笑)の男だけである!
「ちくしょおおおおおおおおおお! おのれ魔物娘ぇぇぇぇぇぇぇ! 次はこうはいかないからなぁ! 覚えていろよおおおおおお! ゲェーッホゲッホ!! ウェーッホ!! のど飴……持ってきたのど飴はどこだ……」
頑張れ、研究室のえらいやつ!
教団の未来のために!
鉄の檻の中に、一匹のサキュバスが捕えられていた!
手足には枷をはめられ、脱出もままならない!
檻の外には一人の男が立っていた!
「フハハハハハハハハ! そうやって余裕でいられるのも今のうちだぞぉ! 神に背く下劣な悪魔どもよぉ! フハハハハハハハハハ!」
男は、自らの白衣を翻し、魔物に対して威圧的な雰囲気で高らかに笑った!
「あらそう? でも、そんなこと言うわりには、私のこと生かしておくんだなんて。教団にしてはずいぶんとお優しいんじゃなくって? もしかして、あなた親魔物派?」
対するサキュバスは、男に対して不敵にも聞き返した!
「フハハハハハハハハハハハ!! ワガハイが親魔物派だとぉ? タワケがぁ! ワガハイは誇りある教団騎士の、そのうえ上級幹部の一員であるぞぉ! キサマを生かしておいたのは、ワガハイがこの国における教団騎士団魔物対策技術研究班第一責任者であるからだぁ! キサマはワガハイの魔物研究の実験材料になるのだぁ!!フーッハハハハハハハハハハハハハハハハ ゲホッ!ゲホッ!……ハハハハハハハハ!」
なんということだ!
この男は、教団騎士は教団騎士でも、魔物に対抗する手段を研究するセクションの責任者だというのだ!
いわば魔物対策のエキスパート!
サキュバスの不利は火を見るより明らかだ!
「あらいやだ。まさか、そんなところに捕まっちゃうだなんて。嫌になっちゃうわね」
サキュバスは、なおも軽い調子を崩そうとしない!
「フハハハハハハハ! 無理をするんじゃあなぁい! 口先では強がっていても、手足は震えているではないかぁ。鉄格子を通してもはっきりわかるぞぉ? キサマ、ずいぶんと怯えているようだがなぁ?」
だが、デスクワーカーとはいえ、この男も百戦錬磨のつわもの!
魔物のうわっつらの演技など、楽に看破してみせた!
「……!! ……だったらどうだっていうの?」
自らの恐怖心がバレても、なおサキュバスとしての気高さは崩さない!
この魔物も、負けず劣らずつわものである!
「フハッ! どうなると思う? なぁ、これからどうなるとお・も・う・かぁ? フーッハッハッハッハッハ!! まずキサマには、さっそくやってもらうことが、一つあるのだぁ……フッフッフ……」
男は相手の恐怖を助長しながら、一歩ずつ檻に近づいていく!
「…………!」
危うしサキュバス!
いったいどうなるというのだ!
「キサマには……魔物の弱点をぅ! 洗いざらい吐いてもらおうかぁ!!」
なんと!
この男は、魔物に仲間の弱点を吐けというのだ!
「じゃ、弱点ですって!?」
魔物も驚く!
「そうだぁ! キサマも知っての通り、先日の魔王の代替わりのせいで、今は旧世代の魔物は放逐され、新世代の魔物が闊歩しているではないかぁ…… そして、新世代の魔物は、その全員が女型の魔物となってしまったぁ!!」
そう、この数日前に魔物の王、魔王の代替わりがあった!
魔王の代替わりは、勝者が頂点に立つことによって行われるという実にシンプルなもの!
魔物同士、血で血を洗うという、実に恐ろしい風習なのだ!
その代替わりで、新しい魔王となったのはサキュバス族!
ゆえに、魔王の魔力ですべての魔物が、その姿をサキュバスと似たものに変えた!
つまり、すべての魔物が、人を惑わす妖艶な美女となってしまったのだ!
「この世代交代のおかげで、前線の兵どもは浮足だっているぅ! 急に全ての魔物が醜悪なバケモノから、見目麗しい絶世の美女どもに変わってしまったのだからなぁ! あのような子女を切るなど教団の教義に背くという意見も出ているくらいだぁ!」
見た目がバケモノならいざ知らず、相手はか弱い子女の姿!
その姿を前に、騎士団の剣が鈍るのは必定!
か弱き者を守り、隣人を愛し、その身をもって民衆の盾となるのが教団騎士団の掟だからだ!
これはしょうがない!
「そこでぇ! ワガハイの研究室がぁ! 新世代どもの弱点を見つけだせばぁ! キサマラはなすすべなく撤退しぃ! 騎士団は魔物と直接剣を交えることなくぅ! いともたやすく勝利できるぅ! 命を奪うこともないからぁ! 前線の兵どもの心理障壁も問題ないぃ! どうだぁ! まいったかぁ! フフ……フッハッハ……フーッハハハハハハハハハハハハハハ! ウェーッホ!ゲッホゲッホゲッホ!カハッ!あーのど痛い……」
さすが魔物対策技術研究班だ!
現騎士団の問題を的確に見抜き、そのうえでの魔物の対処を瞬時に提案する!
これが第一責任者の手腕!
見事である!
あと、のど飴が必要だ!
「……無理して笑わなければいいじゃない」
さすがにツッコむ!
相手の弱みに付け込むのは、戦いの常套手段だ!
「むむむ、無理などしているわけないだろうがぁ!! 相手より心理的優位に立つためとか、狂気を見せつけてビビらせるだとか、そんなことは一切考えてないぞぉ!!」
いかに強者と言っても、弱みを突かれれば動揺もする!
だがそんなことでひるむ程度では、魔物対策技術研究班第一責任者は名乗れない!
すぐに持ち直した!
「ん゛ん゛! とにかくぅ! 痛めつけられたくなかったらぁ! 一刻も早くぅ! 魔物の弱点をバラシてしまうのだぁ! これはキサマの同胞を守るためでもあるのだぞぉ? んん? 前線の兵どもが紳士であるがゆえ、キサマラを切れんという、教団騎士達のやさしさに感謝しなければならんのだぞぉ? さあ、言うのだぁ。キサマラ魔物どもがぁ。一目見ただけで戦意を喪失してしまうようなぁ。決定的な弱点をぅ。さっさとはいてしまうのだぁ!フーッハハハハハハハハハ……やっぱのど痛い……今度飴買おう……」
自らの弱点はすかさず補強する!
やはり、頭がいい!
そして、相手の譲歩点を提供して、まんまと情報を引き出そうという気だ!
サキュバスは、この言葉の上でのやさしさに負けて、まんまと情報を渡してしまうのか!
「……わかった……弱点を教えるわ……」
あぁー!
なんということだ!
屈してしまったのか!
しかし無理もない!
断れば彼女自身の命だって危ないのだから!
「フハハハハ! それでいいのだぁ! 素直じゃないかぁ! それでは、ワガハイに教えるのだぁ! 魔物どもの弱点とやらをぅ!」
勝利を確信し、男は上機嫌だ!
一言一句漏らすまいと、檻の中のサキュバスに耳を近づける!
このまま魔物は無様に負けてしまうというのか!
「魔物の弱点は……男の精液よ!」
な、なんだってー!
まさかの衝撃の事実!
サキュバス族だというのに、その実精液に弱いというのか!
「何ぃ? サキュバスなのに精液に弱いのかぁ?」
当然、男の方も疑問に思った!
あまりに不自然だからだ!
「ええ、そうよ。実はサキュバスが吸精するのは、この世からすべての精液を絞りつくすため。でも、口やアソコなら大丈夫けど、それ以外のところで精液を受けようものなら体内の魔力と精が反応しあって、よくて戦意喪失……最悪の場合、いってしまうわ!」
な、なんという驚愕の事実!
サキュバスの吸精が、実際には彼女達が命がけで行っていた人間の無力化だったとは!
弱点を弱点と思わせないためのカモフラージュ!
まさに灯台下暗しだ!
「そうだったのかぁ! これは知らなかったぁ! サキュバス族なぞ、旧世代の場合、人死にが出ないから無害だとか言って研究室には回ってこなかったからなぁ……上の連中が自分で楽しむために回収してたもんなぁ。……だがキサマのおかげでようやく弱点を掴んだぁ! 早速前線の兵どもに伝達だぁ! これで人間の勝利は揺るがないぃ! フッハッハッハッハッハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!」
研究室内に男の勝利の笑いがこだまする!
魔物たち、絶対絶命か!
「ゲェーッホ! ゲッホ! ウェーッホ! ゲッハァ!」
のどがやられた!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あら、魔物たいさく……なんだっけ? とにかく責任者じゃない。どうしたの?」
研究室の中には、檻から出て、ソファーに腰掛け、自らの爪を整えているサキュバス!
そして、部屋に入って来るやいなや、サキュバスに向って指を指し叫ぶ魔物(中略)責任者!
「キサマぁ……ワガハイを騙したなぁ!?」
何っ!
騙したとはいったいどういうことなのか!
「騙したとは何よ。ちゃんと弱点は教えたじゃない」
対して騙していないと主張するサキュバス!
いったいどちらが本当なのか!
「キサマの言う通りに、前線の兵士どもに精液が弱点だと通達したぁ! そして、早速魔物たちに、騎士団兵士たちは、ヤツラ自身の精液を瓶に詰めて魔物たちに投げつけてやったぁ! するとどうだぁ! 確かに魔物たちは戦意喪失してしまったぁ!」
ここまではサキュバスの言う通りだ!
どこにもおかしい点はない!
やはり弱点だったのではないだろうか!
「だが、騎士団が魔物どもを拘束しようと近づいた瞬間、魔物たちはすさまじい勢いで兵士どもに飛びついたぁ! そしてそのまま兵士どもは魔物に逆レイプされてしまったというではないかぁ! その勢いは筆舌に尽くしがたく、あっという間に前線は陥落してしまったぁ! 精液は弱点などではなく、逆に魔物を強化してしまったではないかぁ!」
な、なんということだろう!
確かにそれでは話がおかしい!
狂暴化したのでは、弱点とは到底言えない!
サキュバスはどう弁明するのか!
「あらぁ、別にどこもおかしくないもん。私たちは精液を浴びちゃうと、その素敵な香りのせいで、オスとのまぐわいしか考えられなくなっちゃって、戦いなんてできなくなっちゃうの♪ それに、男の人の精液なんて浴びたら発情しちゃって、近づいてくる男の人を一発で夫にしちゃうの。 そうしたら、あとはセックス三昧、いつでもよがり狂って、イキっぱなしになっちゃうのよ? どんな力の強い魔物でも攻略可能なんだから。弱点以外の何物でもないじゃない?」
なんという言い訳だ!
確かに、彼女は前回言ったことで嘘をついていたわけではない!
ただし、求める事実が男が想定していたものとズレていただけのことだ!
これは相手の勘違いを利用した見事なミスディレクションだ!
「ぐぬぬぅ……なんと卑怯なりぃ……」
確かに卑怯かもしれない!
だが、命と引き換えに情報を強要したのも事実だ!
むしろこの場合、事前に事実確認を怠ったこの男の怠慢である!
彼女が責められる謂れはない!
「ま、私たち魔王軍の前線も、その教団騎士たちをお持ち帰りして夫にしちゃっただろうから、みんな寿退社で家に帰っちゃったと思うわ。もう二度と前線に出てくることはないはずよ? よかったじゃない。貴重な相手の前線兵力を削ることができたじゃない」
これもまた偽りなき事実!
お持ち帰りされたであろう教団の騎士たちは、その身を削って相手の前線を無力化したのだ!
だがしかし!
「それだけではなぁい! その光景を見た後詰の兵士たちも魔物の夫になると言って、次々相手の軍門に下っていったのだぁ! キサマこれも予見していたのだろぉ!」
目の前で同僚たちが幸せそうに交わっていたのだ!
女日照りの騎士団の目に、それがどれだけうらやましく思えたかは想像に難くない!
「フフッ♪ でも、いいんじゃない? きっとその子たちも、新しい魔物の嫁を見つけて幸せい暮らしていると思うわよ?」
だがそれは教団からの離反、魔の手に堕ちてしまったことに他ならない!
教団の権威はガタ落ちだ!
このサキュバス、なんという策士なのだろうか!
「認めんぞぉ! キサマに一杯喰わされたなどとぉ……ハッ!? そういえばキサマぁ! 何故檻から出ているのだぁ!」
この男、今頃気づいた!
だが、鉄格子に、そのうえ枷までしていたのを脱出しているのだ!
いったいどういうことなのだろうか!
「フフン♪ ちょっと見張りの兵士を誘惑したら、快く拘束を解いてくれたうえ、檻から出してもらえたわ♪ ついでに、この子をつまみ食いしてぇ……メロメロにさせちゃったぁ♪」
ソファーの上には、搾り取られて干物になりかけた裸の騎士団兵士!
先ほどまでお楽しみだったというわけなのだ!
「しゅごいぃ……こんなのはじめてぇ……まものむすめのおっとになっちゃうぅ……」
すっかり堕落してしまっている!
魔物の力、恐るべし!
「ということで、私、この子と一緒に魔界に帰りまーす。じゃあねー♪」
次の瞬間、魔物はその場から煙のように消えた!
一種の転移魔法である!
残されたのは、無様にも魔物に騙された責任者(笑)の男だけである!
「ちくしょおおおおおおおおおお! おのれ魔物娘ぇぇぇぇぇぇぇ! 次はこうはいかないからなぁ! 覚えていろよおおおおおお! ゲェーッホゲッホ!! ウェーッホ!! のど飴……持ってきたのど飴はどこだ……」
頑張れ、研究室のえらいやつ!
教団の未来のために!
13/12/05 05:29更新 / ねこなべ
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