まもむす相談所-運のなかったラミア-
「はぁ〜」
今日もダメだったなぁ…と思いながら、私はいつもの場所で丸テーブルに突っ伏して深いため息を吐いた。
「はい今1つ逃げた。旦那さん候補が1人逃げたよ」
「……はぁ〜」
受付にいるハーピーの子に言葉を返す余裕も今の私にはなかった。だって仕方ない。今月これで3度目だもの。今更ため息1つで旦那様候補が1人逃げるジンクスなんて言われたって、どうにでもなれという気分だった。
「アーミンさん、相当まいっていますねー。さすがに今月3人にもなればそうなりますか」
「そうなのよぉ……私ってば、ちょっとタイミング悪すぎなんじゃないかしら」
「確かにそんな気はしますねー。何というかこう、ある種運命的な? 今はまだその時ではない的な?」
「そうは言うけどねぇ。私はいつ来るのかわからない彼よりも、今手の届く彼をモノにしたいわけよ」
顔だけハーピーの子へ向けて、私は気落ちした声で話す。
私が今いる場所は、結婚相談所だった。魔物娘と人間の男性をマッチングさせる、魔物娘の積極性をもってすれば必要ないのではと囁かれる場所だ。ただ何かと忙しい現代社会において、少しでも理想の彼を見つける可能性を増やそうとする魔物娘は多く、私もその1人だった。
「やっぱりただのラミアっていうのは、インパクトに欠けるのかしら」
尻尾の先をブラブラ遊ばせていた私は、手元にあったパンフレットを手に取って眺める。ここへ訪れた男性向けになるべく性欲を刺激するよう作られているそれは、魔物娘から見ても納得の完成度だった。
カマイタチの子は無邪気な仕草で3倍の快感をアピールしているし、サハギンの子は庇護欲と性欲をそそられるポーズをしている。一方でデーモンやサテュロスといったお姉さん勢は、大人の魅力全開で男性を悩殺しにかかっていた。
「私が思うにですね、アーミンさんはがっつきすぎなんですよ。昔じゃないんですから、もっとゆっくり関係を深めていくことを覚えないといけません」
「えー。魔物娘がガンガンいかなくてどうするのよ。旦那様と結ばれないじゃない」
「でも正直、アーミンさんうちで失敗の記録保持者ですよ? 他の方は皆、多くても3回目のマッチングではゴールインされてますもん」
「うっ……だ、だって仕方ないじゃない」
私は今までここで紹介された男性達とのできごとを思い出して苦い顔になった。因みに今までマッチングに成功しなかった数は6回…泣きたい。
ちなみに今月の成果としては、こんな感じだ。
1人目の時は、紹介所の伝達ミスで私がラミアだと知らない男がやってきた。私がラミアだとわかるやいなや、怯えた顔をして逃げ出したのを今でも覚えている。そして逃げてる途中でぶつかったホルスタウロスの子と結ばれたのを覚えている。
2人目の時は、ラミア種でも年下ツンデレメドゥーサ希望の男だった。いや、そこまで希望がはっきりしてるならちゃんと紹介しなさいよと思った。そして案の定、男の希望する子が見つかってそっちへ行ってしまった。
3人目の時は、ラミア種にあまり知識がない男だった。「俺はいろんな魔物娘の娘に囲まれて暮らしたいんだ。ラミア種ならそれができるんだろ」とか言っていたので、たまたま出ていた超レアなエキドナさんを紹介してあげた。
魔物娘でこんなに失敗続きなのは、やっぱり自分だけなのかもしれない。そう思うとどんどん憂鬱になっていった。というか、やっぱり蛇プラスアルファが無いと弱いのかしら。
「あの……すみません」
男だ! 私はさっきまでだらけていた背筋をピンと伸ばした。入り口に背を向けて座っていたから、どんな男かはわからないけど、自然と期待に胸が膨らんでしまう。
「申請をしたいんですけど、ここって違いますよね」
「申請ですか! いいえ、何も違いませんよ。ささっ、こちらへどうぞどうぞ」
「えっ!? でもここって結婚相談所ですよね。僕がしたいのは違う申請なんですけど」
「ですから申請ですよね? 大丈夫、こちらへこちらへ」
魔物娘らしい強引さで、ハーピーの子は男を素早く案内していった。羽を大きく広げることで出入り口を塞ぎ、見事に退路を絶っていた。
あの子が案内している間、私の頭はあの人を紹介所してもらうことでいっぱいだった。どんな人なんだろう。声の感じから、少し頼りなさそうな印象を受けたけど。今からトイレに行って、お化粧を直してきた方がいいわね。第一印象が大丈夫だもの。
この結婚相談所は、ビルの中にある。だから彼が行きたかったのは違う場所で、そこへいく道を教えて欲しかったのだろう。だから偶然、そう偶然ここにいた私が案内してあげてもなんら不自然なことはない。
「あ、アーミンさんちょうどよかった。さっきの彼、うまいこと言っておいたんで行ってきてください。今度こそ成功させてくださいよ」
「ふふっ、ありがとう。今度こそ、旦那様をゲットしてみせるわ」
化粧を直して戻った私に、ハーピーの子がそっと耳打ちしてきた。
「初めまして、私はアーミン。聞いていると思うけどラミアよ」
「あ、どうも初めまして。僕は駒井桂と言います。えっと、それでですね」
「えぇ、わかっているわ。さっそく行きましょう」
「え? あ、ありがとうございます。どうにも場所がわからなくて」
彼…桂はお礼を言いながら席を立つと、私に続いて紹介所を後にした。ラミアの中でも大柄な私と並ぶと、桂は男性の平均身長程だというのに小さく見えた。
歩きながら桂を見ると、彼は所々跳ねた短い髪に少しよれたスーツという、何ともくたびれた格好をしていた。けれど私にとってそれはむしろ、何とかしてあげたいと思える要素でしかなかった。
「あの、気を悪くしないで欲しいんだけど、もしかして今から行く所って…」
「あぁ、はい。その……恥ずかしながら失業してしまって」
「そうだったの。それは大変だったわね」
「男所帯の職場で僕のような仕事のできない人間は、今はすぐクビになっちゃいますからね。方針転換してミノタウロスさんとかを入れるとかって話も出てましたし」
寂しそうに笑うその表情……とても良いわ。守ってあげなきゃって思う。
それから桂が失業の申請を終えた後、私たちはビルにあるカフェでお茶することにした。失業でショックを受けている彼に負担を負わせる訳にはいかないので、ここは当然私の奢りだ。初対面の女性に奢られる気恥ずかしさとか引け目を感じているのはわかっていたので、彼には次回奢ってもらうことで納得してもらった。つまり次回がある。今回で終わりじゃない。やったわ。
「でもまさか、魔物娘用の結婚相談所があるなんて思っていませんでした。てっきり近所にいる身近な男性をすぐに捕まえているのかと思ってましたから」
「まぁね。確かにそういう子が大半だわ。田舎からこっちにきてる子も、大半が故郷で男を捕まえた状態で来てる子ばっかりだし。でも種族柄なかなか巡り会い辛い子とか、いろんな事情を抱えている子とかもいるからね。そういう子達にとっては必要な場所なのよ」
私みたいなちっとも男を捕まえられなかった女とかね。
彼から視線を外して店内に目を向けると、人魔問わずカップルが多かった。アリスの子を膝の上に乗せてケーキを食べさせている男の人や、ぬれおなごの恋人にパンケーキを食べさせてもらっている人もいて、皆幸せそうだ。
「ねぇ、これからどうするの? もしよかったら教えてくれないかしら。何か力になれることがあったら協力したいわ。せっかくの巡り合わせですもの」
「えっ、でもそんな。悪いですよ」
「いいからいいから、辛い時は誰かに頼りなさい。それとも、私じゃ力になれないかしら」
「いえその……そんなことは……」
腰まであるサラサラの金髪をかきあげ、私は声に少しだけ魅了を乗せて話を持ちかける。今までは使う間も無く逃げられてしまっていたけれど、桂は絶対にものにしたい。ハーピーの子が言っていたように慎重に事を運ぶつもりだけど、このくらいは許されると思う。
「というかあなた……桂でいいわよね。桂、ちゃんと私の目を見て話しなさいよ。私ただのラミアよ。バジリスクじゃないんだから」
「え、あ、すみません。どうにも前から人の目を見て話すのが苦手になってしまって」
私に言われて恐る恐る目を見るけど、桂はすぐに視線を下に外してしまった。ヤバい、超かわいい。
「まぁいいわ。それも一緒に練習していきましょ。これから長い付き合いになるんだし……ね」
本気で魅了をかければ、桂はたぶんすぐに私のものになると思う。しかしそれが許された、というか見過ごされていたのは中世とかそれくらいまでの話で、現代でそんなことしようとすれば、どこからかアヌビスとデュラハンの警察が飛んできて酷い仕打ちにあってしまう。聞いた話では、男の匂いがする狭い部屋で延々と夫婦の惚気話を聞かされるのだとか。勿論その時、勝手にオナニーしてはいけない。
「それじゃあ今日のところはこれで解散にしましょうか。次は……そうね。来週にでも会いましょう」
「わ、わかりました」
会計を済ませて、私と桂は別れることにした。今日のところは連絡先の交換程度に留めて、これからじっくりと関係を深めていこうと思う。本当はもうこのままホテルへ直行したい気分だけど、今はまだ慌てるような時間じゃない。ハーピーの教えを思いだすのよ。
「やりましたねアーミンさん、順調そのものじゃないですか」
桂と出会って数週間後、いつもの相談所で私はハーピーの子と椅子に座って話していた。
「ありがとう。というかね、やっぱり今までがおかしかったのよ。実はここに来るまでに恋人ができたとか、いきなり不思議の国の入り口が開いたとか、迷っていたけどやっぱりアルプになることにしたとか、そういうトンデモ展開にならなきゃこれが普通だったのよ。いや改めて思い出すと私運悪すぎじゃない!?」
「でも不思議とそう言われても、すぐに諦めることができたんですよね」
「まぁね。自分でも不思議だとは思うけど。まぁ初対面だったからっていうのもあったかもしれないわね」
「でも今回は違うんですよね。ホラやっぱり私が言った通り、今までは違ったんですよ」
「それは認めるわ。でもやっぱり、運命の出会いってあるのよね。今までここで出会って結婚した子達も、こんな気持ちだったのかしら」
「そうだと思いますよ。それで、今日はこの後どこへ行くんですか。またデートなんですよね」
「そうなの。やっぱり桂には私がついていないとダメでね。この前だって私が手を繋いでいないと人混みではぐれそうだったんだから」
まだデートまでには時間がある。出会ってから見つけた桂の素敵なところ自慢は、デートに行く頃まで続けられそうで、彼女はそれをいつもにこやかに聞いてくれるから嬉しかった。
あれから桂についてわかったことは、とにかく自信を無くしてしまっているということだった。私と初めて会った時に目を合わせられなかったように、何をするにしても機嫌を伺うような目をしていた。そういう態度は、気弱な男が好みの私みたいな魔物娘に狙われてしまう。だから彼が1人になりたい時以外は極力一緒にいることを心がけていた。本当は同棲したいけど、まだそこまでは踏み込めていない。だから外でデートする時には、なるべく密着して私の匂いをつけておかなきゃいけなかった。
「あっ、もうこんな時間。それじゃあ行ってくるわ」
「はい。楽しんできてくださいね」
「えぇ」
ハーピーの子に挨拶をして、私は相談所を後にした。
魔物娘が闊歩するこのご時世、セックスもしてないし魔物娘避けを持たせていないのに外で待ち合わせするのは非常に危険だ。だからいつもは私が桂の家へ迎えに行っている。
「桂、来たわ」
「アーミンさんですね。今開けます」
アパートのドアを開けた桂は、デートだというのに部屋着のままだった。けれど今日はそれで良い。なんたって今日は『お家デート』とかいうビッグイベントなんだから。
スルスルと慣れた動きで蛇体を這わせると、私は桂の家に入る。
桂の家はシンプルなワンルームで、いかにも男の1人暮らしといった感じだった。折り畳まれたベッドマットと、部屋の中央にある小さなテーブルの上に乗ったノートパソコン、それに部屋の隅に積み上げられたいろいろな本くらいしか目立った物はない。クローゼットもあるが、きっとそこに服や掃除用具が入っているのだろう。
私が入ると、2人で並ぶには少し狭いと感じる程度の広さだった。女なのに体が大きくて、申し訳ないと同時に少しショックだ。
「簡単なものですがすぐ作りますので、動画でも見ていてください」
桂はそう言うと、ノートパソコンを立ち上げて廊下の横にあるコンロへ向かっていった。
大事なパソコンの中身を見ても良いくらいには信用されていることに嬉しさを感じながら、私は系のパソコンを触る。デスクトップのファイルを一瞥した感じでは、どうやら再就職に向けて頑張っているようだった。
私はインターネットを開くと、彼の検索履歴を見たい衝動を堪え、動画サイトに飛んで適当な動画を立ち上げた。これで動画を見ている風を装って、彼の様子を見ることもできるし、もっとよく部屋を観察できる。
「普段から自炊しているのかしら」
「あーいえ。前はそうでもなかったんですが、今はまぁ……節約ということで」
「なるほどね。でも料理ができる男はポイント高いから、そのまま続けた方が良いわよ」
「そうですかね。なら続けてみようかな」
静かに深く深呼吸をして、部屋に充満した桂の匂いを堪能する。動画は終わっても次の動画が勝手に再生されている。もちろん視線は彼に釘付けだから、見ちゃいない。
今日初めて家に招待されたわけだけど、私としてはもうここで勝負をかけるつもりだった。というか、家に呼んだということは桂もそのつもりなんだろうと思っている。だからこの日の為に鱗もバッチリ磨いてきたし、髪の手入れもいつもより入念にしてきた。しかも予定では、明日あたり脱皮の日だと思う。会社に連絡も入れてあるし、3日は休みを貰っているので少なくともその間はずっとエッチできる。
「おまたせしました。簡単なものですが」
「あら、ありがとう」
少しして出された昼ご飯は、冷蔵庫のものを駆使して作られたんだろうと思われる炒飯とスープだった。でも味はとてもおいしく、量も申し分なかった。
「どうでしょうか」
「うん、おいしいわ。料理上手じゃない」
「いえ別に…これくらいなら誰でもできますよ」
「そんなことないわ。私料理教室に通ってたことあるんだけどね、お米を洗剤で洗おうとしてた子何人も見たことあるわ。いや本当に」
その後も他愛ない話をしながら、私と桂は食べ終えると、パソコンに私が持ってきたDVDを入れてそれを一緒に観ることにした。
私が桂を後ろから抱くあすなろ抱きになり、体全体に蛇体を巻きつけなければ一緒に観るスペースを確保できなかったので、部屋の狭さには感謝だった。
「あ、これってアーミンさんと同じラミアが主役なんですね」
「そうよ。結構探すのに苦労したわ」
「だと思います。だいたいこういうのって、白蛇さんが多いですからね」
今観ているのは、ラミアが意中の男を振り向かせようと奮闘する恋愛映画で、確かにそういったものはラミア種の中では白蛇が主役になることが多かった。そしてその大半はヤンデレ物で、一時期はヤンデレブームが起こり、白蛇を始めとした嫉妬しやすい子の婚姻率が急上昇したこともあった程だ。
ただ作品としては、やっぱり白蛇程インパクトがない為か、ラミアが取り上げられることは少なかった。
「あの……アーミンさん」
「何かしら」
「いえ……何でもないです」
桂は顔を赤らめて下を向いた。それもそうだ。桂を抱いてから、私は一気に襲いたい衝動を我慢しながらずっと彼の耳元で呼吸をしながら時折ぎゅっと抱く力を強めたり弱めたりしているんだから。桂にとっては刺激が強いに違いない。
映画のシーンに連動するようにして、桂の体を締め付けたり緩めたりする。そうしていると、時折桂の口から押し殺したような声が聞こえ始めた。
私の方も、段々と高まってきて、息も荒く、抱き方もより密着したものになっていく。
「ねぇ……いいでしょ」
もう2人共映画なんて観ていない。私は吐息を桂の耳元に吹きかけるようにして誘った。
「でもアーミンさん……僕は」
何か気になることでもあるのか、消え入りそうな声で桂が抵抗する。でも私に体を預けるに任せている時点で、体は拒否していない様子だった。
「何かしら。あなたの体は嫌がってないようだけど。何か気がかりでもあるの? 知っているでしょう。ラミアに嘘はダメ。ちゃんと言いなさい」
「……わかりました」
観念したように桂は言う。実はさっきから桂のペニスが私を挑発してしかたないのだけど、セックスにはメンタルも重要。愛する男の不安を取ってあげるのが、できる魔物娘というものだ。
「僕って今、無職じゃないですか。だから今アーミンさんと結ばれて、幸せにしてあげられる自信がなくて……」
「そうなのね。確かに、そういう気概は大切だと思うわ。でも桂、あなた少し勘違いしているわね」
「どういうことですか」
「魔物娘はね、好きな男の人と一緒にいる時が2番目に幸せなのよ。で、一番幸せなのはね」
下半身をくねらせ、桂を正面に向かせると、私は彼に唇を重ねた。
「……ん。こうやって……キスしたり……後は……ね」
「いいんでしょうか」
「いいのよ。桂だって私を家に連れてくるってことは、そういうことだったんでしょ」
「それは……まぁ、確かに。全くそういう気がなかったかと言われれば嘘になりますけど」
じわじわ。じわじわ。私は少しづつ締め付けを強くしていく。額同士をくっつけ、そらされても構わず目を見続ける。
いつの間にか、桂の手は私の腰に回されていた。
「大丈夫。安心して。私に全部任せて。ただ気持ちよくなることだけを考えなさい」
魅了を乗せて、優しく囁くと、桂を小さく頷いた。
「じゃあ、入れるわね」
「は、はい。よろしくお願いします」
位置を調整すると、高さの関係で桂は私の胸に顔を埋めることになった。
手でズボンを脱がし、ゆっくりと挿入する。桂に抱きつき始めた時から私の下半身は濡れっぱなしだったから、準備なんて不要だった。
「んっ、あっ」
「わっ」
2人揃って体をビクリとさせ、深くまでペニスを受け入れると、暫くその余韻に浸るように動きを止めた。
こんなの動いたら、絶対何も考えられなくなる。そう直感した私は、まだ理性があるうちに魔法で部屋全体に防音結界を張った。
桂は私の胸に顔をうずめて、快感に耐えながらペニスを震わせていた。私の中で、ピクピクと小刻みに震え、それが私に快感をもたらせる。
「ねぇ桂。そろそろ動いてもいいかしら。私もう、我慢できそうにないの」
「ぼっ、僕もです」
「じゃあ、一緒に気持ちよくなりましょう」
桂の頭を撫でると、私は抽送を開始した。
クチュクチュ
クチュクチュ
「んっ、これっ、すごっ、んぁ!」
もっと欲しい。もっと欲しい。私の理性は桂から与えられる快感で完全に溶けてしまった。
「アーミンさん! アーミンさん!」
桂も腰を振り出して、一突き毎に卑猥な音が出る。普段の頼りない姿とは違い、その腰振りは男らしく力強いもので、私はそういう普段と違う桂の姿にもっと好きになっていく。
快感の渦にのまれているうちに、自然と私は桂にピッタリくっつくように巻きついていた。
「気持ちいい! 気持ちいい! 好き好き! あっ、あっ」
もう気持ちよすぎて喘ぐことしかできない。
桂はぷっくりと突き出た私の乳首に吸い付くと、赤ちゃんみたいに吸い始めた。それは新しい快感となって私を襲い、理性をもっとトロトロにしてしまう。
「ああああ、アーミンさんもうダメですっ! 出ちゃう、出ちゃいます!」
「いいわ! ちょうだい! わたしのなかにせーえきちょうだい!」
「で、でも!」
「いいの! だいじょうぶ! だいじょうぶだから! だからちょうだい!」
中に出すことを躊躇って動きを止める桂を許さないように、私は腰をくっつけて、亀頭を刺激するように膣内でペニスを撫でる。するとペニス全体がだんだんと膨らんできて、射精が近いことを感じさせた。
「あっ……くぁぁぁ!」
体を一度大きく震わせると桂のペニスからビュクビュクと激しい勢いで私の中に精液が注ぎ込まれるのを感じた。
「あっ……ごめんなさい……僕の方が先にイってしまって」
「いいのよ。だってまだするんだから」
申し訳なさそうな顔をする桂にそう答えると、桂は驚いた顔になった。
「魔物娘とエッチして、1回で終わりだなんて思ってないでしょ? ね?」
「で、でもあの……いつも僕は1人でする時は1回で……」
「大丈夫。私に任せて。安心してって言ったでしょう」
私は彼をあやすように頭を撫でると、顔を向けさせてキスをした。
チュッ……
…チュッ
始めはついばむように何度も唇同士を触れ合わせ、次第に深く、長いキスになっていく。しばらくそうしていると、桂の方から求めるように口を開けたので、許しが出たと思った私の舌は桂の口腔内を堪能していった。
桂がくれる唾液は甘く、自分の下に絡めて味わう度に私を溶かしてしまう。それは桂にとっても同じことなんだろう。薄く目を開いて桂の顔を見ると、頬は上気しとろけきった顔をしているのがわかった。
キスしながら私が蛇の下半身で桂の体全体を愛撫してあげると、萎んでいたペニスが徐々に大きくなっていくのを感じた。
「ほら、もう元気になった。これでもっとエッチできるわね」
「す、すごい……」
にっこり微笑みかける私に、蕩けた表情で桂は答える。
「あのね。私、3日休みを取っているの。さすがにまだ桂に負担が大きすぎるから、ずっとくっついたままとまではいかないけど、3日間の間、たっぷり楽しみましょう」
「……はい」
くっついたまま折り畳みベッドを広げた私は、横になり正常位になると、腰を振りやすいように脚の束縛を解いてあげた。
「ねぇ、今度は桂が動いて。桂の好きなように私を犯して。わかるでしょう? 私もうすっかりあなたの虜なの。だから安心して、思いっきりして」
「アーミンさん」
私が甘えた声で囁くと、桂はゆっくりとおま○この入り口までペニスを引き抜くと、一気に奥まで突き入れた。
「んあっ! そう! いい! これいいぃ! してぇ! 種付けプレスしてぇ!」
パンッ! パンッ! と打ち込むように、刻み込むように打ち付けられるペニスに、私は完全に堕ちていた。深く突き入れられるペニスが子宮の入り口に当たる度、目の前がチカチカして愛液が溢れる。
「好きです! アーミンさん! 好きです!」
「あっ、だめぇ! いまそんなこといわれたらぁ……だめなのぉ!」
パンッ!
「わたしもすきぃ! だいすきだからぁ」
パンッ!
「だからいて。ずっとそばにいてぇ!」
パンッ!
「ま、また出るっ!」
「わた、わたしも! わたしももうげんかい! イク! イクゥゥゥ!」
最奥までねじ込むように突かれた亀頭の先からさっきと同じかそれを上回るくらいの精液が出る。それはイってキュンキュンしている子宮を直撃して私の頭を真っ白にするだけではなく、ゴポリという音と共におま○こから溢れ出ていた。
「ご、ごめんなさい……ついやってしまいました」
「いいのよ。私も気持ちよかったから」
「あ、いえそれもなんですが。ゴム……しませんでしたよね」
「なんだそのこと。それこそ気にしなくていいわよ。まあ確かに、ゴムに溜まった精液をいやらしく飲むところを見せられなかったのは残念だとは思うけどね」
余韻に浸りながら一緒に横になっていた私が窓から外を見ると、暗くなり始めていた。
「ねぇ桂聞いて」
「なんでしょう」
「やっぱりあなたには、責任をとってもらおうと思うの」
「それは……はい」
「あ、勘違いしないで。そんな責めるつもりなんてないの。たださっきのエッチでわかったんだけどね、やっぱり私にはあなたが必要なの。だってあんなに気持ちいいこと知ったら、もう離れられないし、それにあなたのこと好きだもの。愛しているの」
「アーミンさん、それは僕も同じです。で」
「待って聞いて」
桂が次に言うことはわかっている。だから私はキスをして彼の言葉を封じた。
「あのね、私の実家って、こんな都会じゃないの。もっと田舎の方にあるのよ。だからそこで一緒に暮らしましょう。そこならきっと良い仕事も見つかると思うし、のんびり暮らせると思うの。どうしても仕事をする自信がなくてもいいわ。近くにアマゾネスの集落があるから、そこにいる男の人からいろいろ聞けばいいと思うし。というかむしろ、私としてはずっと家にいて欲しいわ。外に出て欲しくないの。だからそうしましょうよ、ね?」
「……」
つい勢いに任せて言いすぎてしまったと思った時には遅かった。桂はじっと考える仕草をしたまま黙ってしまった。
そうよ。彼にだって生活も人生もある。身体を重ねたからといって、調子に乗りすぎたかもしれない。ハーピーの教えを思い出すべきだった。
「アーミンさん」
「な、何?」
後悔している私の目を見て、桂がしっかりした口調で言った。
「わかりました。アーミンさんの言う通り、一緒に暮らしましょう。どれだけできるかわかりませんが、僕も男です」
「ーーっ!」
嬉しすぎる! 言葉にならないとはまさにこのことだった。
私は尻尾の先で自分の鞄からスマホを取り出すと、急いで会社に電話をかけた。
「もしもしっ! はい、アーミンです……あっ、社長! 私退職します! 彼と帰って暮らすことになりました。はい! ありがとうございます!」
「え……アーミンさんそんな簡単にやめちゃっていいの」
「いいのよっ! だって魔物娘が経営している会社だもの。こんなこと日常茶飯事だったんだから。それがようやく私の番ってことよ。それに向こうに帰っても仕事なんていくらでもあるわ。心配しないで」
心配そうな桂に構わず、私はスマホを鞄に戻すと桂の頭を胸に埋めさせた。
「ねぇ桂、今日はまだ週の半ばだし、帰るのは週末にするわ。だから……これからいっぱい愛し合いましょ」
「これからって……今からですか!?」
「そうよ、まだ足りないもの。帰るには外に出なきゃいけないもの。だからそれまでに、他の女が近づかないよう私の匂いをきっちり刷り込ませてあげるわ」
「お……お手柔らかにお願いします」
やっと掴んだ幸せ。だけどこの先ずっと彼と幸せの道を歩んでいくことを確信しながら、私達は行為を再開した。
今日もダメだったなぁ…と思いながら、私はいつもの場所で丸テーブルに突っ伏して深いため息を吐いた。
「はい今1つ逃げた。旦那さん候補が1人逃げたよ」
「……はぁ〜」
受付にいるハーピーの子に言葉を返す余裕も今の私にはなかった。だって仕方ない。今月これで3度目だもの。今更ため息1つで旦那様候補が1人逃げるジンクスなんて言われたって、どうにでもなれという気分だった。
「アーミンさん、相当まいっていますねー。さすがに今月3人にもなればそうなりますか」
「そうなのよぉ……私ってば、ちょっとタイミング悪すぎなんじゃないかしら」
「確かにそんな気はしますねー。何というかこう、ある種運命的な? 今はまだその時ではない的な?」
「そうは言うけどねぇ。私はいつ来るのかわからない彼よりも、今手の届く彼をモノにしたいわけよ」
顔だけハーピーの子へ向けて、私は気落ちした声で話す。
私が今いる場所は、結婚相談所だった。魔物娘と人間の男性をマッチングさせる、魔物娘の積極性をもってすれば必要ないのではと囁かれる場所だ。ただ何かと忙しい現代社会において、少しでも理想の彼を見つける可能性を増やそうとする魔物娘は多く、私もその1人だった。
「やっぱりただのラミアっていうのは、インパクトに欠けるのかしら」
尻尾の先をブラブラ遊ばせていた私は、手元にあったパンフレットを手に取って眺める。ここへ訪れた男性向けになるべく性欲を刺激するよう作られているそれは、魔物娘から見ても納得の完成度だった。
カマイタチの子は無邪気な仕草で3倍の快感をアピールしているし、サハギンの子は庇護欲と性欲をそそられるポーズをしている。一方でデーモンやサテュロスといったお姉さん勢は、大人の魅力全開で男性を悩殺しにかかっていた。
「私が思うにですね、アーミンさんはがっつきすぎなんですよ。昔じゃないんですから、もっとゆっくり関係を深めていくことを覚えないといけません」
「えー。魔物娘がガンガンいかなくてどうするのよ。旦那様と結ばれないじゃない」
「でも正直、アーミンさんうちで失敗の記録保持者ですよ? 他の方は皆、多くても3回目のマッチングではゴールインされてますもん」
「うっ……だ、だって仕方ないじゃない」
私は今までここで紹介された男性達とのできごとを思い出して苦い顔になった。因みに今までマッチングに成功しなかった数は6回…泣きたい。
ちなみに今月の成果としては、こんな感じだ。
1人目の時は、紹介所の伝達ミスで私がラミアだと知らない男がやってきた。私がラミアだとわかるやいなや、怯えた顔をして逃げ出したのを今でも覚えている。そして逃げてる途中でぶつかったホルスタウロスの子と結ばれたのを覚えている。
2人目の時は、ラミア種でも年下ツンデレメドゥーサ希望の男だった。いや、そこまで希望がはっきりしてるならちゃんと紹介しなさいよと思った。そして案の定、男の希望する子が見つかってそっちへ行ってしまった。
3人目の時は、ラミア種にあまり知識がない男だった。「俺はいろんな魔物娘の娘に囲まれて暮らしたいんだ。ラミア種ならそれができるんだろ」とか言っていたので、たまたま出ていた超レアなエキドナさんを紹介してあげた。
魔物娘でこんなに失敗続きなのは、やっぱり自分だけなのかもしれない。そう思うとどんどん憂鬱になっていった。というか、やっぱり蛇プラスアルファが無いと弱いのかしら。
「あの……すみません」
男だ! 私はさっきまでだらけていた背筋をピンと伸ばした。入り口に背を向けて座っていたから、どんな男かはわからないけど、自然と期待に胸が膨らんでしまう。
「申請をしたいんですけど、ここって違いますよね」
「申請ですか! いいえ、何も違いませんよ。ささっ、こちらへどうぞどうぞ」
「えっ!? でもここって結婚相談所ですよね。僕がしたいのは違う申請なんですけど」
「ですから申請ですよね? 大丈夫、こちらへこちらへ」
魔物娘らしい強引さで、ハーピーの子は男を素早く案内していった。羽を大きく広げることで出入り口を塞ぎ、見事に退路を絶っていた。
あの子が案内している間、私の頭はあの人を紹介所してもらうことでいっぱいだった。どんな人なんだろう。声の感じから、少し頼りなさそうな印象を受けたけど。今からトイレに行って、お化粧を直してきた方がいいわね。第一印象が大丈夫だもの。
この結婚相談所は、ビルの中にある。だから彼が行きたかったのは違う場所で、そこへいく道を教えて欲しかったのだろう。だから偶然、そう偶然ここにいた私が案内してあげてもなんら不自然なことはない。
「あ、アーミンさんちょうどよかった。さっきの彼、うまいこと言っておいたんで行ってきてください。今度こそ成功させてくださいよ」
「ふふっ、ありがとう。今度こそ、旦那様をゲットしてみせるわ」
化粧を直して戻った私に、ハーピーの子がそっと耳打ちしてきた。
「初めまして、私はアーミン。聞いていると思うけどラミアよ」
「あ、どうも初めまして。僕は駒井桂と言います。えっと、それでですね」
「えぇ、わかっているわ。さっそく行きましょう」
「え? あ、ありがとうございます。どうにも場所がわからなくて」
彼…桂はお礼を言いながら席を立つと、私に続いて紹介所を後にした。ラミアの中でも大柄な私と並ぶと、桂は男性の平均身長程だというのに小さく見えた。
歩きながら桂を見ると、彼は所々跳ねた短い髪に少しよれたスーツという、何ともくたびれた格好をしていた。けれど私にとってそれはむしろ、何とかしてあげたいと思える要素でしかなかった。
「あの、気を悪くしないで欲しいんだけど、もしかして今から行く所って…」
「あぁ、はい。その……恥ずかしながら失業してしまって」
「そうだったの。それは大変だったわね」
「男所帯の職場で僕のような仕事のできない人間は、今はすぐクビになっちゃいますからね。方針転換してミノタウロスさんとかを入れるとかって話も出てましたし」
寂しそうに笑うその表情……とても良いわ。守ってあげなきゃって思う。
それから桂が失業の申請を終えた後、私たちはビルにあるカフェでお茶することにした。失業でショックを受けている彼に負担を負わせる訳にはいかないので、ここは当然私の奢りだ。初対面の女性に奢られる気恥ずかしさとか引け目を感じているのはわかっていたので、彼には次回奢ってもらうことで納得してもらった。つまり次回がある。今回で終わりじゃない。やったわ。
「でもまさか、魔物娘用の結婚相談所があるなんて思っていませんでした。てっきり近所にいる身近な男性をすぐに捕まえているのかと思ってましたから」
「まぁね。確かにそういう子が大半だわ。田舎からこっちにきてる子も、大半が故郷で男を捕まえた状態で来てる子ばっかりだし。でも種族柄なかなか巡り会い辛い子とか、いろんな事情を抱えている子とかもいるからね。そういう子達にとっては必要な場所なのよ」
私みたいなちっとも男を捕まえられなかった女とかね。
彼から視線を外して店内に目を向けると、人魔問わずカップルが多かった。アリスの子を膝の上に乗せてケーキを食べさせている男の人や、ぬれおなごの恋人にパンケーキを食べさせてもらっている人もいて、皆幸せそうだ。
「ねぇ、これからどうするの? もしよかったら教えてくれないかしら。何か力になれることがあったら協力したいわ。せっかくの巡り合わせですもの」
「えっ、でもそんな。悪いですよ」
「いいからいいから、辛い時は誰かに頼りなさい。それとも、私じゃ力になれないかしら」
「いえその……そんなことは……」
腰まであるサラサラの金髪をかきあげ、私は声に少しだけ魅了を乗せて話を持ちかける。今までは使う間も無く逃げられてしまっていたけれど、桂は絶対にものにしたい。ハーピーの子が言っていたように慎重に事を運ぶつもりだけど、このくらいは許されると思う。
「というかあなた……桂でいいわよね。桂、ちゃんと私の目を見て話しなさいよ。私ただのラミアよ。バジリスクじゃないんだから」
「え、あ、すみません。どうにも前から人の目を見て話すのが苦手になってしまって」
私に言われて恐る恐る目を見るけど、桂はすぐに視線を下に外してしまった。ヤバい、超かわいい。
「まぁいいわ。それも一緒に練習していきましょ。これから長い付き合いになるんだし……ね」
本気で魅了をかければ、桂はたぶんすぐに私のものになると思う。しかしそれが許された、というか見過ごされていたのは中世とかそれくらいまでの話で、現代でそんなことしようとすれば、どこからかアヌビスとデュラハンの警察が飛んできて酷い仕打ちにあってしまう。聞いた話では、男の匂いがする狭い部屋で延々と夫婦の惚気話を聞かされるのだとか。勿論その時、勝手にオナニーしてはいけない。
「それじゃあ今日のところはこれで解散にしましょうか。次は……そうね。来週にでも会いましょう」
「わ、わかりました」
会計を済ませて、私と桂は別れることにした。今日のところは連絡先の交換程度に留めて、これからじっくりと関係を深めていこうと思う。本当はもうこのままホテルへ直行したい気分だけど、今はまだ慌てるような時間じゃない。ハーピーの教えを思いだすのよ。
「やりましたねアーミンさん、順調そのものじゃないですか」
桂と出会って数週間後、いつもの相談所で私はハーピーの子と椅子に座って話していた。
「ありがとう。というかね、やっぱり今までがおかしかったのよ。実はここに来るまでに恋人ができたとか、いきなり不思議の国の入り口が開いたとか、迷っていたけどやっぱりアルプになることにしたとか、そういうトンデモ展開にならなきゃこれが普通だったのよ。いや改めて思い出すと私運悪すぎじゃない!?」
「でも不思議とそう言われても、すぐに諦めることができたんですよね」
「まぁね。自分でも不思議だとは思うけど。まぁ初対面だったからっていうのもあったかもしれないわね」
「でも今回は違うんですよね。ホラやっぱり私が言った通り、今までは違ったんですよ」
「それは認めるわ。でもやっぱり、運命の出会いってあるのよね。今までここで出会って結婚した子達も、こんな気持ちだったのかしら」
「そうだと思いますよ。それで、今日はこの後どこへ行くんですか。またデートなんですよね」
「そうなの。やっぱり桂には私がついていないとダメでね。この前だって私が手を繋いでいないと人混みではぐれそうだったんだから」
まだデートまでには時間がある。出会ってから見つけた桂の素敵なところ自慢は、デートに行く頃まで続けられそうで、彼女はそれをいつもにこやかに聞いてくれるから嬉しかった。
あれから桂についてわかったことは、とにかく自信を無くしてしまっているということだった。私と初めて会った時に目を合わせられなかったように、何をするにしても機嫌を伺うような目をしていた。そういう態度は、気弱な男が好みの私みたいな魔物娘に狙われてしまう。だから彼が1人になりたい時以外は極力一緒にいることを心がけていた。本当は同棲したいけど、まだそこまでは踏み込めていない。だから外でデートする時には、なるべく密着して私の匂いをつけておかなきゃいけなかった。
「あっ、もうこんな時間。それじゃあ行ってくるわ」
「はい。楽しんできてくださいね」
「えぇ」
ハーピーの子に挨拶をして、私は相談所を後にした。
魔物娘が闊歩するこのご時世、セックスもしてないし魔物娘避けを持たせていないのに外で待ち合わせするのは非常に危険だ。だからいつもは私が桂の家へ迎えに行っている。
「桂、来たわ」
「アーミンさんですね。今開けます」
アパートのドアを開けた桂は、デートだというのに部屋着のままだった。けれど今日はそれで良い。なんたって今日は『お家デート』とかいうビッグイベントなんだから。
スルスルと慣れた動きで蛇体を這わせると、私は桂の家に入る。
桂の家はシンプルなワンルームで、いかにも男の1人暮らしといった感じだった。折り畳まれたベッドマットと、部屋の中央にある小さなテーブルの上に乗ったノートパソコン、それに部屋の隅に積み上げられたいろいろな本くらいしか目立った物はない。クローゼットもあるが、きっとそこに服や掃除用具が入っているのだろう。
私が入ると、2人で並ぶには少し狭いと感じる程度の広さだった。女なのに体が大きくて、申し訳ないと同時に少しショックだ。
「簡単なものですがすぐ作りますので、動画でも見ていてください」
桂はそう言うと、ノートパソコンを立ち上げて廊下の横にあるコンロへ向かっていった。
大事なパソコンの中身を見ても良いくらいには信用されていることに嬉しさを感じながら、私は系のパソコンを触る。デスクトップのファイルを一瞥した感じでは、どうやら再就職に向けて頑張っているようだった。
私はインターネットを開くと、彼の検索履歴を見たい衝動を堪え、動画サイトに飛んで適当な動画を立ち上げた。これで動画を見ている風を装って、彼の様子を見ることもできるし、もっとよく部屋を観察できる。
「普段から自炊しているのかしら」
「あーいえ。前はそうでもなかったんですが、今はまぁ……節約ということで」
「なるほどね。でも料理ができる男はポイント高いから、そのまま続けた方が良いわよ」
「そうですかね。なら続けてみようかな」
静かに深く深呼吸をして、部屋に充満した桂の匂いを堪能する。動画は終わっても次の動画が勝手に再生されている。もちろん視線は彼に釘付けだから、見ちゃいない。
今日初めて家に招待されたわけだけど、私としてはもうここで勝負をかけるつもりだった。というか、家に呼んだということは桂もそのつもりなんだろうと思っている。だからこの日の為に鱗もバッチリ磨いてきたし、髪の手入れもいつもより入念にしてきた。しかも予定では、明日あたり脱皮の日だと思う。会社に連絡も入れてあるし、3日は休みを貰っているので少なくともその間はずっとエッチできる。
「おまたせしました。簡単なものですが」
「あら、ありがとう」
少しして出された昼ご飯は、冷蔵庫のものを駆使して作られたんだろうと思われる炒飯とスープだった。でも味はとてもおいしく、量も申し分なかった。
「どうでしょうか」
「うん、おいしいわ。料理上手じゃない」
「いえ別に…これくらいなら誰でもできますよ」
「そんなことないわ。私料理教室に通ってたことあるんだけどね、お米を洗剤で洗おうとしてた子何人も見たことあるわ。いや本当に」
その後も他愛ない話をしながら、私と桂は食べ終えると、パソコンに私が持ってきたDVDを入れてそれを一緒に観ることにした。
私が桂を後ろから抱くあすなろ抱きになり、体全体に蛇体を巻きつけなければ一緒に観るスペースを確保できなかったので、部屋の狭さには感謝だった。
「あ、これってアーミンさんと同じラミアが主役なんですね」
「そうよ。結構探すのに苦労したわ」
「だと思います。だいたいこういうのって、白蛇さんが多いですからね」
今観ているのは、ラミアが意中の男を振り向かせようと奮闘する恋愛映画で、確かにそういったものはラミア種の中では白蛇が主役になることが多かった。そしてその大半はヤンデレ物で、一時期はヤンデレブームが起こり、白蛇を始めとした嫉妬しやすい子の婚姻率が急上昇したこともあった程だ。
ただ作品としては、やっぱり白蛇程インパクトがない為か、ラミアが取り上げられることは少なかった。
「あの……アーミンさん」
「何かしら」
「いえ……何でもないです」
桂は顔を赤らめて下を向いた。それもそうだ。桂を抱いてから、私は一気に襲いたい衝動を我慢しながらずっと彼の耳元で呼吸をしながら時折ぎゅっと抱く力を強めたり弱めたりしているんだから。桂にとっては刺激が強いに違いない。
映画のシーンに連動するようにして、桂の体を締め付けたり緩めたりする。そうしていると、時折桂の口から押し殺したような声が聞こえ始めた。
私の方も、段々と高まってきて、息も荒く、抱き方もより密着したものになっていく。
「ねぇ……いいでしょ」
もう2人共映画なんて観ていない。私は吐息を桂の耳元に吹きかけるようにして誘った。
「でもアーミンさん……僕は」
何か気になることでもあるのか、消え入りそうな声で桂が抵抗する。でも私に体を預けるに任せている時点で、体は拒否していない様子だった。
「何かしら。あなたの体は嫌がってないようだけど。何か気がかりでもあるの? 知っているでしょう。ラミアに嘘はダメ。ちゃんと言いなさい」
「……わかりました」
観念したように桂は言う。実はさっきから桂のペニスが私を挑発してしかたないのだけど、セックスにはメンタルも重要。愛する男の不安を取ってあげるのが、できる魔物娘というものだ。
「僕って今、無職じゃないですか。だから今アーミンさんと結ばれて、幸せにしてあげられる自信がなくて……」
「そうなのね。確かに、そういう気概は大切だと思うわ。でも桂、あなた少し勘違いしているわね」
「どういうことですか」
「魔物娘はね、好きな男の人と一緒にいる時が2番目に幸せなのよ。で、一番幸せなのはね」
下半身をくねらせ、桂を正面に向かせると、私は彼に唇を重ねた。
「……ん。こうやって……キスしたり……後は……ね」
「いいんでしょうか」
「いいのよ。桂だって私を家に連れてくるってことは、そういうことだったんでしょ」
「それは……まぁ、確かに。全くそういう気がなかったかと言われれば嘘になりますけど」
じわじわ。じわじわ。私は少しづつ締め付けを強くしていく。額同士をくっつけ、そらされても構わず目を見続ける。
いつの間にか、桂の手は私の腰に回されていた。
「大丈夫。安心して。私に全部任せて。ただ気持ちよくなることだけを考えなさい」
魅了を乗せて、優しく囁くと、桂を小さく頷いた。
「じゃあ、入れるわね」
「は、はい。よろしくお願いします」
位置を調整すると、高さの関係で桂は私の胸に顔を埋めることになった。
手でズボンを脱がし、ゆっくりと挿入する。桂に抱きつき始めた時から私の下半身は濡れっぱなしだったから、準備なんて不要だった。
「んっ、あっ」
「わっ」
2人揃って体をビクリとさせ、深くまでペニスを受け入れると、暫くその余韻に浸るように動きを止めた。
こんなの動いたら、絶対何も考えられなくなる。そう直感した私は、まだ理性があるうちに魔法で部屋全体に防音結界を張った。
桂は私の胸に顔をうずめて、快感に耐えながらペニスを震わせていた。私の中で、ピクピクと小刻みに震え、それが私に快感をもたらせる。
「ねぇ桂。そろそろ動いてもいいかしら。私もう、我慢できそうにないの」
「ぼっ、僕もです」
「じゃあ、一緒に気持ちよくなりましょう」
桂の頭を撫でると、私は抽送を開始した。
クチュクチュ
クチュクチュ
「んっ、これっ、すごっ、んぁ!」
もっと欲しい。もっと欲しい。私の理性は桂から与えられる快感で完全に溶けてしまった。
「アーミンさん! アーミンさん!」
桂も腰を振り出して、一突き毎に卑猥な音が出る。普段の頼りない姿とは違い、その腰振りは男らしく力強いもので、私はそういう普段と違う桂の姿にもっと好きになっていく。
快感の渦にのまれているうちに、自然と私は桂にピッタリくっつくように巻きついていた。
「気持ちいい! 気持ちいい! 好き好き! あっ、あっ」
もう気持ちよすぎて喘ぐことしかできない。
桂はぷっくりと突き出た私の乳首に吸い付くと、赤ちゃんみたいに吸い始めた。それは新しい快感となって私を襲い、理性をもっとトロトロにしてしまう。
「ああああ、アーミンさんもうダメですっ! 出ちゃう、出ちゃいます!」
「いいわ! ちょうだい! わたしのなかにせーえきちょうだい!」
「で、でも!」
「いいの! だいじょうぶ! だいじょうぶだから! だからちょうだい!」
中に出すことを躊躇って動きを止める桂を許さないように、私は腰をくっつけて、亀頭を刺激するように膣内でペニスを撫でる。するとペニス全体がだんだんと膨らんできて、射精が近いことを感じさせた。
「あっ……くぁぁぁ!」
体を一度大きく震わせると桂のペニスからビュクビュクと激しい勢いで私の中に精液が注ぎ込まれるのを感じた。
「あっ……ごめんなさい……僕の方が先にイってしまって」
「いいのよ。だってまだするんだから」
申し訳なさそうな顔をする桂にそう答えると、桂は驚いた顔になった。
「魔物娘とエッチして、1回で終わりだなんて思ってないでしょ? ね?」
「で、でもあの……いつも僕は1人でする時は1回で……」
「大丈夫。私に任せて。安心してって言ったでしょう」
私は彼をあやすように頭を撫でると、顔を向けさせてキスをした。
チュッ……
…チュッ
始めはついばむように何度も唇同士を触れ合わせ、次第に深く、長いキスになっていく。しばらくそうしていると、桂の方から求めるように口を開けたので、許しが出たと思った私の舌は桂の口腔内を堪能していった。
桂がくれる唾液は甘く、自分の下に絡めて味わう度に私を溶かしてしまう。それは桂にとっても同じことなんだろう。薄く目を開いて桂の顔を見ると、頬は上気しとろけきった顔をしているのがわかった。
キスしながら私が蛇の下半身で桂の体全体を愛撫してあげると、萎んでいたペニスが徐々に大きくなっていくのを感じた。
「ほら、もう元気になった。これでもっとエッチできるわね」
「す、すごい……」
にっこり微笑みかける私に、蕩けた表情で桂は答える。
「あのね。私、3日休みを取っているの。さすがにまだ桂に負担が大きすぎるから、ずっとくっついたままとまではいかないけど、3日間の間、たっぷり楽しみましょう」
「……はい」
くっついたまま折り畳みベッドを広げた私は、横になり正常位になると、腰を振りやすいように脚の束縛を解いてあげた。
「ねぇ、今度は桂が動いて。桂の好きなように私を犯して。わかるでしょう? 私もうすっかりあなたの虜なの。だから安心して、思いっきりして」
「アーミンさん」
私が甘えた声で囁くと、桂はゆっくりとおま○この入り口までペニスを引き抜くと、一気に奥まで突き入れた。
「んあっ! そう! いい! これいいぃ! してぇ! 種付けプレスしてぇ!」
パンッ! パンッ! と打ち込むように、刻み込むように打ち付けられるペニスに、私は完全に堕ちていた。深く突き入れられるペニスが子宮の入り口に当たる度、目の前がチカチカして愛液が溢れる。
「好きです! アーミンさん! 好きです!」
「あっ、だめぇ! いまそんなこといわれたらぁ……だめなのぉ!」
パンッ!
「わたしもすきぃ! だいすきだからぁ」
パンッ!
「だからいて。ずっとそばにいてぇ!」
パンッ!
「ま、また出るっ!」
「わた、わたしも! わたしももうげんかい! イク! イクゥゥゥ!」
最奥までねじ込むように突かれた亀頭の先からさっきと同じかそれを上回るくらいの精液が出る。それはイってキュンキュンしている子宮を直撃して私の頭を真っ白にするだけではなく、ゴポリという音と共におま○こから溢れ出ていた。
「ご、ごめんなさい……ついやってしまいました」
「いいのよ。私も気持ちよかったから」
「あ、いえそれもなんですが。ゴム……しませんでしたよね」
「なんだそのこと。それこそ気にしなくていいわよ。まあ確かに、ゴムに溜まった精液をいやらしく飲むところを見せられなかったのは残念だとは思うけどね」
余韻に浸りながら一緒に横になっていた私が窓から外を見ると、暗くなり始めていた。
「ねぇ桂聞いて」
「なんでしょう」
「やっぱりあなたには、責任をとってもらおうと思うの」
「それは……はい」
「あ、勘違いしないで。そんな責めるつもりなんてないの。たださっきのエッチでわかったんだけどね、やっぱり私にはあなたが必要なの。だってあんなに気持ちいいこと知ったら、もう離れられないし、それにあなたのこと好きだもの。愛しているの」
「アーミンさん、それは僕も同じです。で」
「待って聞いて」
桂が次に言うことはわかっている。だから私はキスをして彼の言葉を封じた。
「あのね、私の実家って、こんな都会じゃないの。もっと田舎の方にあるのよ。だからそこで一緒に暮らしましょう。そこならきっと良い仕事も見つかると思うし、のんびり暮らせると思うの。どうしても仕事をする自信がなくてもいいわ。近くにアマゾネスの集落があるから、そこにいる男の人からいろいろ聞けばいいと思うし。というかむしろ、私としてはずっと家にいて欲しいわ。外に出て欲しくないの。だからそうしましょうよ、ね?」
「……」
つい勢いに任せて言いすぎてしまったと思った時には遅かった。桂はじっと考える仕草をしたまま黙ってしまった。
そうよ。彼にだって生活も人生もある。身体を重ねたからといって、調子に乗りすぎたかもしれない。ハーピーの教えを思い出すべきだった。
「アーミンさん」
「な、何?」
後悔している私の目を見て、桂がしっかりした口調で言った。
「わかりました。アーミンさんの言う通り、一緒に暮らしましょう。どれだけできるかわかりませんが、僕も男です」
「ーーっ!」
嬉しすぎる! 言葉にならないとはまさにこのことだった。
私は尻尾の先で自分の鞄からスマホを取り出すと、急いで会社に電話をかけた。
「もしもしっ! はい、アーミンです……あっ、社長! 私退職します! 彼と帰って暮らすことになりました。はい! ありがとうございます!」
「え……アーミンさんそんな簡単にやめちゃっていいの」
「いいのよっ! だって魔物娘が経営している会社だもの。こんなこと日常茶飯事だったんだから。それがようやく私の番ってことよ。それに向こうに帰っても仕事なんていくらでもあるわ。心配しないで」
心配そうな桂に構わず、私はスマホを鞄に戻すと桂の頭を胸に埋めさせた。
「ねぇ桂、今日はまだ週の半ばだし、帰るのは週末にするわ。だから……これからいっぱい愛し合いましょ」
「これからって……今からですか!?」
「そうよ、まだ足りないもの。帰るには外に出なきゃいけないもの。だからそれまでに、他の女が近づかないよう私の匂いをきっちり刷り込ませてあげるわ」
「お……お手柔らかにお願いします」
やっと掴んだ幸せ。だけどこの先ずっと彼と幸せの道を歩んでいくことを確信しながら、私達は行為を再開した。
17/12/08 15:42更新 / NEEDLE