第三話 如月と青い刃と金の月
目を開けると、私の視界に映ったのは見知らぬ風景。
ぼんやりと少しの間考えてから、自分がどんな風になったのか思い出す。
皆で魔法陣を書いて、そしてその魔法陣を起動させたと思ったら、いきなり空に投げ出されて。
落下していく途中、皆が私とは違う方向に飛んで行くのが見えた。
私が覚えている限り、私はあのまま町に落下したはずだけど。
「あ、目が覚めたんですね。」
ベッドの隣に、私より一歳か二歳年下だと思う女の子が立っていた。
くすみのない、絹糸を金色にしたような見事な金髪を背中に自然な感じで流して、服装はどこか中世の町人のような格好だった。
その近くには、どこかの狩猟ゲームの太刀みたいなやたら長い剣を背中に負った私より年上の、とても真面目そうな女の人が不機嫌そうな表情で立っている。なんだか怖い。
笑ってれば美人だと思うんだけどな……
髪は昔見た沖縄の海のような青色で、ショートヘア。
「リィレ、目覚めましたよ!」
女の子は女の人に向かって嬉しそうに言う、女の人は固い表情のまま、私のことを見つめている。
「目覚めたのは、おっしゃられなくとも見ればわかります。」
丁寧だがどこか棘のある口調で、リィレと呼ばれた女の人は答える。
「初めまして、わたしはアリアンと申します。」
アリアンと名乗った女の子は、私に向かって恭しくお辞儀をする。
とても綺麗な、お姫様のような仕草だった。
「如月です、平崎如月。」
「キサラギ……それが貴女のお名前ですか?」
「はい。」
アリアンは私に向かって丁寧な言葉遣いで話しかけて来るから、思わず私も丁寧な言葉遣いをしてしまう。
「……王国軍近衛騎士、リィレ・マクワイアだ。階級は大佐。」
リィレさんはあくまで私に向かって警戒したような態度を崩さない。
しかしそんなリィレさんのある意味正道な反応がアリアンは気に入らないらしく、
「リィレ、いけませんよお客さまにそのような態度では。」
子供っぽく頬を膨らませながら、アリアンはリィレさんに文句を言う。
「私は、彼女を客と思っておりませんので。」
リィレさんは本人である私を前にしてあっさりこう言い返す。
「……確かにキサラギさんはいきなりバルコニーの上で寝転がって気を失っていたのですからあなたが警戒するのは仕方ないかもしれませんけど、でもその態度は無礼ですよ。」
「お言葉ですが姫、」
「姫?」
アリアンのことを今確かにリィレさんは「姫」と呼んだ。
「……知らんのか?」
「はい、何のことだか。」
「この方は、ローディアナ王国第二王女アリアンロッド・ローディアナ様だ。」
一瞬私は凍りついた。
魔法が実在していて、それによってわけのわからない世界に飛ばされたまではまだいいとする。
でも、その王族が目の前にいるのはちょっと予想外が過ぎる。
「お姫様ってドレスを着てるものだと思ってました。」
「こちらの姫様は『ドレスは重くて動きづらい』から嫌いだそうだ。」
重くて動きづらいって、またある意味では現実的な理由で……
「社交の場ではさすがに着ますよ?」
「そこで着なければ陛下含めていい笑いものです。」
なんて言うか、姫様に対するリィレさんの態度ってあんまり敬ってるって感じじゃないよ、むしろ姉妹みたいな接し方をしてる。
「ところで、貴様どこから来た?」
「ええっと、私、異世界から来たみたいなんです。」
「だろうな、ある程度予想していた。」
リィレさんは驚くことなく言い返す。
「……やっぱり。」
姫様も当たり前のようにうなずいている。
意外にも私が異世界から来たことは簡単に受け入れられた、ちょっとびっくり。
「見たことのない衣装、突然バルコニーに現れる神出鬼没さ、それに何より自分が置かれている状況に対する理解のなさ、異世界人が妥当ですもんね。」
それから、アリアン姫とリィレさんは顔を見合わせる。
「とりあえず、私たちの知る限りですが情報をお伝えしましょうか。」
姫はそう言って、リィレさんは数冊の本や巻物をとってくる。
私は姫に机まで導かれる。
姫はまず巻物の一つを机の上に広げて見せる。
そこに書かれていたのは地図だった。
その真ん中にある名前を指で指し示す。
読みは……わかんないや。英語式ともドイツ語式ともちょっと違いそうだし。
「ここが、今私たちのいるローディアナ王国、王都スクルドです。」
「正確には、スクルドの王城階層離宮ですね。」
アリアン姫の言葉に、リィレさんが補足で説明する。
王城階層って何? って私の疑問が顔に出てたんだと思う、姫は
「このスクルドは五つの階層に分かれています。下から順に貧困階層、市民階層、兵士階層、貴族階層、そしてこの王城階層です。」
「何でそんな面倒なことを?」
「防衛上の理由だ、貧民階層を除いたすべての階層を城壁で守り、城門からしか行き来ができないようにする。その上で戦えば、安全性が高い。」
リィレさんは当たり前のように答えるけど、だったら兵士階層を一番外に置いておいた方が良かったんじゃないのかな。
だってこの配置だと、兵士階層は貴族を守るためにそこにおいてあるようなもの。兵士が市民が襲われているのに気づくことのできないパターンも起こりうるんじゃないだろうか。
「このローディアナ王国は、スクルドの他各地方の大都市におかれた領主それぞれが受け持った土地を治める方法で統治を行っています。」
そんな私の疑問を受けつけずに、姫様は言葉を続ける。
「最大の権力を持つのは一応王だが、実のところそう巧く行っていない。」
「どういうことです?」
「現在、国王フローゼンスを含めた王族のほとんどが、王家の下部組織であるはずの貴族議会によってこの離宮に軟禁されている。」
リィレさんの言った意味を何となくではあるけど理解した。
要するに、権力を求めた貴族たちによって現在の王はその家族もろともここに閉じ込められて、実権を貴族たちに奪われているってこと。
「唯一の例外は、第一王子マウソル様だが……」
「貴族の傀儡となって表向き病気で療養している王に代わり国を治めています。」
「傀儡?」
「操り人形、貴族議会議長ドスカナ候ランバルドの『助言』に従って、貴族に操られるままの最高権力者を気取っている放蕩王子だ。」
「お父様との仲も最悪ですからね……」
つまり、貴族に軟禁された王様に代わって王子が自分が貴族に操られているという意識もなく貴族に言われるまま「政治ごっこ」をしてるって解釈で良いのかな。
「とにかくそういう事情だ。」
リィレさんは話に無理やり結論をつける。
「しかし、放蕩政治にも色々不備があって、民からの不満は噴出しつつある。」
「具体的にいえば市民が許可なく貴族階層に立ち入り、複数回にわたって抗議行動を行ったんです、そのたびに貴族たちは兵士に鎮圧の命を下しましたが……」
「が?」
リィレさんと姫の視線がほとんど同時に泳ぐ。
どちらも言葉を探すようにあちこち視線をさまよわせる。
「勇者ロイド騒ぎの時はそれが原因で有耶無耶になったが……兵士の中にも貴族の専横を良く思わないもの、民を守ることこそ兵士の本文と思うものが多くいる、そう言った兵士が市民を守ろうと動いた結果……」
「兵士は二手に分かれたんです、民を守る『護民派』と貴族に従う『貴族派』に。」
「勇者ロイド騒ぎ?」
またよくわからない表現が飛び出した。
二人は一瞬呆れた顔をしたけど、私が異世界から来た事を思い出したらしくすぐに「しまった」と言う表情に代わる。
「一年と少し前のことだが、王国と敵対する『クルツ自治領』という土地に捕らえられたと思われていた当時の勇者ロイドが、一体の赤いドラゴンを連れて仲間たちを連れだしに王都を訪れたんだ。」
「大騒ぎでしたねあれは。」
「ドラゴンって……」
ファンタジーの代表来ちゃった。
しかもそれを勇者だった男がここまで連れてくるなんて。
「正直裏切られたと思ったんだが……」
「私も、御父様から話を聞くまではそうでした。」
「話?」
「我々は『魔物は敵』と教えられているし、この国で町が滅ぶのも全て魔物の仕業と言うことになっている。『魔物は人を堕落させ、人を滅ぼす悪』これは王国の市民たちや王族の共通認識だった。」
リィレさんはとても苦々しげにそう言う。
「しかし、御父様は『魔物は人を殺さない、この国で町が滅ぶのは土地を治める貴族が略奪するからで、魔物はそれを責任転嫁されているだけ』その事実を握っていたんです。」
アリアン王女は悲しそうな目でそう言う。
「まったく……片腕の父に一言も告げないとはお人が悪い。」
「仕方ありませんよ、もし貴族議会に気付かれていたら離宮に軟禁どころでは済まなかったかもしれませんし。」
怖いことをアリアン姫はさらっと言ってのける。
「結局、貴族の略奪問題奴隷問題解決に当たろうとしてこうなってしまっては一緒ですが……」
言いづらそうにアリアン姫は言う。
確かに、こんなところに閉じ込められた状態じゃ出来ることなんかないのはよくわかる。国のことを考えた王様が自分の利益だけ考える貴族に動きを封じられる。良く似た事例を目の前で見てきた私としては、嘆かずにいられない。
「とりあえず、魔物は敵じゃないんですよね?」
「ああ、そうなる」
「ええ、そうです」
二人はほぼ同時に返事をしてくれた。
「次の説明なのですが……」
「キサラギ、隠れろ。」
そう言うと同時に、リィレさんは私の襟首をひっつかむと乱暴に奥の部屋に運んで行く。
そこは浴室だった。四人くらい同時に入浴できそうなバスタブの中に、いきなり私は放り投げられる。
さぼん
視界が一瞬で水に包まれて、あわてて浮き上がる。
「一体何を」
「静かに。」
体を勢いよく水から出して抗議しようとした私にそう言いながらリィレさんも服が濡れることにも構わずバスタブに入ってきて、私の口を抑える。
『やぁ我が麗しのアリアン! ご機嫌は如何だい?』
『貴方に呼び捨てにされる覚えはありませんけど? 貴方が来てくださったおかげで少し前まで最高だったのが今は最悪です。』
キザったらしい口調の男の声と、明らかな怒気を孕んだアリアン姫の声がする。
「えっと……」
「現在の勇者、ドスカナ公子ライドンだ、半ば無理やり貴族議会が決めたことながら、姫の婚約者にあたる。貴族議会議長ランバルドの嫡男でもある」
リィレさんが小さな声で私に伝える。
婚約者にしては、姫の態度はびっくりするほど刺々しい。
『君と僕の仲じゃないか! どうしてそんなに冷たくするんだ我が妻よ!』
『貴方の父親が無理やり決めさせたことでしょう?』
『僕は君を愛している! ならそれで充分じゃないか!』
『言葉に気をつけてください。』
声だけでもアリアン姫がライドンと言う人をどれだけ嫌ってるのかが良くわかる。
確かに私も、ライドンの口調はかなり気に入らない。
『ところでリィレはどこにいるんだい? 勇者として重要な話があるんだが。』
『今はお風呂に入っています。』
『そうか、ありがとう』
カツカツと靴が鳴る音が、よりにも寄って浴室のドアに近付いてくる。
『待ちなさい。』
あとちょっとで浴室のドアに手が届いただろうところで、アリアン姫が呼び止める。
『何だい?』
アリアン姫は一度大きなため息をつくと、
『デリカシーのない方だとは常々思っていましたが、女性が入浴中の浴室に上がり込むのはデリカシー以前に男性として最低限のマナーを無視した行為でしょう?』
きついことを言う。たぶん眉間にしわが寄っている。
『別に僕は気にしないが』
『リィレは嫁入り前の女の子ですよ? 異性に肌を見られることは望ましくありません。』
明らかにピントのずれたことを言うライドンに、アリアン姫はさらに言葉を続ける。ピントがずれてるというよりも、自分の主観だけですべて解決すると思っているかのような言い方だった。
『勇者として、彼女のような人材をこんなところで腐らせることはできないんだよ、彼女を連れていきたい。』
『ふざけたことを言わないで、今すぐ独りで帰りなさい。』
まるで人の話を聞いていないかのような態度のライドンに対して、不機嫌をあらわにしたアリアン姫が言う。
『はいはい、今日は帰らせてもらうよ。』
言葉が通じないのかと思ったら、どうやら一応通じはするらしい。
ただ単に中途半端にしか聞いていなかっただけみたい。
少し経ってから、アリアン姫が浴室に入ってくる。
「あらあら、大胆な格好ですね。」
笑顔で言うアリアン姫の言葉に反応して、私は自分の格好を見る。
制服の夏服だった薄手のシャツは濡れて透け、私のそこまで大きくない胸を覆うブラジャーの形や柄がはっきりわかるようになっている。
下のプリーツスカートもぐしょぐしょに濡れて、肌にへばりついてそのシルエットを浮き出させている。
「あっわぁっ!」
女性同士とはいえマニアックないやらしさのあるこの格好は恥ずかしくて、思わず隠す。
リィレさんもずぶ濡れで服が透けて白い地味な下着が露わになっている。しかしどう言うわけなのか、リィレさんは恥ずかしがることなく堂々としている。
「お風呂にしましょうか♪」
「少しお待ちを。」
アリアン姫が笑顔で言いながら服を脱ぐのとほぼ同時、リィレさんは湯船から出るとすぐに壁に張り付くようにあった謎の機械を作動させる。
「もしかしてそれ、ボイラーですか?」
「湯沸かし器だ。」
似たようなものだ。
けど、こんなファンタジー世界での燃料となるとちょっと気になる、まさかプロパンガスとか使ってるとは思えないし。
興味深く見つめる私の耳元に近寄ってきたアリアン姫が
「あの中には、魔物化した炎の精霊さんが閉じ込められてるんです。」
と言った。
驚いて振り向くと、きれいすぎるほどきれいな肌を惜しげもなくさらした全裸の姫がにこやかにほほ笑みながら立っていた。
「機械によってまさに機械的に精と快感を与え続けられる精霊さんの魔力によって、半永久的に作動することが可能な優れ物です♪」
非人道的なことをそんな良い笑顔で言ってのける姫様に私が戦慄したのとほぼ同時、
「にこやかにウソを教えないでください。」
戻ってきたリィレさんがすぐさま姫の発言を否定する。
「事実は魔術機構を組み込んだ自動温熱装置だ、私は専門家ではないからよく分らんのだが、大気中の魔力を取り込んで内部の魔術陣を起動させることで熱を生むらしい。」
リィレさんが全然わからない説明をしてくれる、誰か私に分かる様に翻訳プリーズ。
リィレさんが服を脱ぎ始める。
私もあわてて着ていた服を脱ぐ。
しゅるしゅるするぴちゃ
たまに水音が混じってなんだかやらしい感じがするけど、気にしない!
服を脱ぎ終えて気付いたけど、リィレさんの体は色々意外性がある。
綺麗な肌だと思ったんだけどさすがに騎士、服に隠れていた部分はあちこち切り傷の跡があって、それぞれほとんど癒えているものやまだ生々しいものまである。
よく引き締まって程よく脂肪もあるスタイルの良い体に綺麗な肌だったのが、ちょっともったいない感じがする。
そして、何よりの驚きは他にあった。
「生えてない……!」
股間、全く陰毛が生えていない、産毛すら見えない。
ちょっと驚愕。
「そんなところを凝視するな!」
股間を手で隠しながら顔を真っ赤にしてリィレさんが怒鳴る。
「すいません。」
剣でぶった切られても困るから素直に謝る。
「キサラギさん、リィレの本当に凄いのはこっちですよ?」
いつの間にか何ら音も立てずに姫様がリィレさんの背後に回り込んでいた。
リィレさんも声を聞いてやっと移動したことに気づいたらしい。
逃げようとしたリィレさんより速く、アリアン姫はリィレさんのそこそこ大きなおっぱいを鷲掴みにして揉んでいた。
「ふやぁっ」
語尾にハートマークでもついてそうな甘い声でリィレさんは反応する。
「リィレのおっぱいは人の体温にとっても敏感なんです。」
そう言いながら姫は何の遠慮もなくリィレさんの胸を揉む、うわぁ男性が揉んでるのよりどこが弱いか知りつくしてる分ずっと卑猥……
もみゅむにゅぎゅむぐにゅ くりっ
「うあ…ァはぅっ……姫様…おやめくヒィっ!」
腰から力が抜けてアリアン姫にもたれかかるようになったリィレさんを、アリアン姫はとても楽しそうな笑顔で苛める。
柔らかそうなおっぱいを優しく揉みほぐしながら、たまに乳首を指ではじく。
半分とろけたリィレさんの瞳が助けを求めるように私を見ている。
「あの姫様、そろそろやめてあげてください。」
「そうですね。」
しっかり揉んでいたおっぱいを姫が放すと、リィレさんはそのまま床にへたり込んでしまう。
「はぁ……はぁ………」
ちょっと揉まれただけなのに頬は紅潮し、口からは涎の筋が流れ、目は潤んでいる。
女性の私から見ても興奮させられそうなくらい、なんかエロい。
「さてと、お風呂につかりながらお話の続きをしましょうか。」
そう言って姫はリィレさんを置いて先にお風呂に入る。
私がリィレさんに手を貸そうとすると、
「要らん……一人で…立てる……」
フラフラと立ち上がり、湯船に入ろうとする。
つるっ どぼん!
足を滑らせて、顔面から湯船に突っ込んだ。
「あらあら、リィレったら豪快ですね♪」
けらけら笑いながらすべての元凶が言う。
ざぷんとリィレさんが水面から頭だけ出す。
アリアン姫のことをジト目で見ている気がするけど気にしない。
「次の説明をしましょうか、あなた達が教会の手で呼び出された理由。」
「呼び出された? あれでも私たちは自分の意志で」
「そう、『あなた達のいた世界からの逃避』というあなた達の明確な意思を利用して、『異世界から神の使徒を呼び出した』んです。」
アリアン姫は機嫌悪そうに言う。
神の使徒はたぶん私たちのことだろう、つまりあの魔法陣は異世界の人間を『神の使徒』と言う名目でこの世界に呼び出すための魔法陣だった。
私たちのところに来たのが偶然か必然かまでは分からないけど、それに対して生きていた世界に不満があった私たちは誘引されてしまった。
たぶん私がいなくなっても、あの人たちは気にしないんだろうなと思った。
切なくなるので考えるのをやめたけど。
「どうしてそんなことを?」
「貴族が、魔物を自分たちの良いように利用している話はさっきしましたよね?」
思い返してみると、確かに早いうちに聞いていたと思う。
「はい、聞きました。」
「ですけど、近年になって事情を知る人間が増えて来て、貴族たちの押し通している『言い訳』は苦しくなる一方です、何より王国には貴族の奴隷以外にはクルツにしかまとまった魔物がいませんからね。」
一度アリアン姫は言葉を切る。
リィレさんはまだちょっとぼんやりした感じで、言葉を喋るにはなんだか頼りない。
「クルツ自治領と言う貴族たちが自分の無能さや魔物との共存の可能性を隠すために隠蔽された土地に大半が集っている魔物が、民を襲っていることにすると不合理なのは簡単にわかるでしょう。」
「民にはクルツのことは隠されてるんですか?」
一度もそんな話は聞いていないんだけど。
けどそんなものなのかな、魔物が敵だと言い張る王国にとって魔物と共存するクルツの存在は目の上のこぶだろうし。
「ああ、言い忘れましたごめんなさい。」
アリアン姫は冷静に頭を下げる。
「とにかく、言い訳が限度に近付いた貴族はその言い訳の寿命を長引かせるために一つの策を講じました、それがあなた達です。」
「……よく意味が…」
「要するに異世界から人を呼び出してその人を『神の使徒』とでっちあげることで、民を欺き自分たちの正当性を主張するんです。」
ずいぶんと穴だらけの計画の気がする。
「本物の神の使徒が来ることは?」
わざわざ異世界から偽物を呼び出すよりもその方が確実そうだけど。
「あったら便利なのでしょうが、それを待っているには彼らに時間がないんです、それに信仰心など彼らの物は建前に過ぎませんので……」
本物に来られてはむしろ迷惑ですらあるってことだろうか。
「けど良いんですか?」
「何がです?」
「その話によると私は『神の使徒』ってことになりますよね? それなのにこんなところにいるのは……」
「むしろ好都合だとも。」
リィレさんが口を開く。
「さっきも言ったように、王族と貴族議会は一部例外を除き対立関係にある、腐った貴族を止めるためには、その鍵になり得る君がここにいてくれた方が良い。」
「そう言うことです♪ では、これからのお話をしましょうか。」
アリアン姫はどこか奥底に底知れない雰囲気を感じさせるような綺麗な笑顔で言う。
「キサラギさんは、これからどうしたいですか?」
あくまで笑顔のままアリアン姫は私に尋ねる。
もちろん私の答えは一つ。
「一緒にこの世界に来た友達に会いたいです、今はどこに居るのかすらわからないですけど、きっと会えると思ってます。」
リィレさんは「ふむ」と言い、アリアン姫は「あらあら」と笑って見せる。
「私たちとしても…そうですね、キサラギさんのお手伝いをして差し上げたいです、何より私たちの所為で皆さんははぐれてしまわれたんですから。」
「姫が協力するのだから、無論私も手伝う、大船とまではいかないが、頼りにしてくれ。」
そう言って、私たちは握手を交わした。
ぼんやりと少しの間考えてから、自分がどんな風になったのか思い出す。
皆で魔法陣を書いて、そしてその魔法陣を起動させたと思ったら、いきなり空に投げ出されて。
落下していく途中、皆が私とは違う方向に飛んで行くのが見えた。
私が覚えている限り、私はあのまま町に落下したはずだけど。
「あ、目が覚めたんですね。」
ベッドの隣に、私より一歳か二歳年下だと思う女の子が立っていた。
くすみのない、絹糸を金色にしたような見事な金髪を背中に自然な感じで流して、服装はどこか中世の町人のような格好だった。
その近くには、どこかの狩猟ゲームの太刀みたいなやたら長い剣を背中に負った私より年上の、とても真面目そうな女の人が不機嫌そうな表情で立っている。なんだか怖い。
笑ってれば美人だと思うんだけどな……
髪は昔見た沖縄の海のような青色で、ショートヘア。
「リィレ、目覚めましたよ!」
女の子は女の人に向かって嬉しそうに言う、女の人は固い表情のまま、私のことを見つめている。
「目覚めたのは、おっしゃられなくとも見ればわかります。」
丁寧だがどこか棘のある口調で、リィレと呼ばれた女の人は答える。
「初めまして、わたしはアリアンと申します。」
アリアンと名乗った女の子は、私に向かって恭しくお辞儀をする。
とても綺麗な、お姫様のような仕草だった。
「如月です、平崎如月。」
「キサラギ……それが貴女のお名前ですか?」
「はい。」
アリアンは私に向かって丁寧な言葉遣いで話しかけて来るから、思わず私も丁寧な言葉遣いをしてしまう。
「……王国軍近衛騎士、リィレ・マクワイアだ。階級は大佐。」
リィレさんはあくまで私に向かって警戒したような態度を崩さない。
しかしそんなリィレさんのある意味正道な反応がアリアンは気に入らないらしく、
「リィレ、いけませんよお客さまにそのような態度では。」
子供っぽく頬を膨らませながら、アリアンはリィレさんに文句を言う。
「私は、彼女を客と思っておりませんので。」
リィレさんは本人である私を前にしてあっさりこう言い返す。
「……確かにキサラギさんはいきなりバルコニーの上で寝転がって気を失っていたのですからあなたが警戒するのは仕方ないかもしれませんけど、でもその態度は無礼ですよ。」
「お言葉ですが姫、」
「姫?」
アリアンのことを今確かにリィレさんは「姫」と呼んだ。
「……知らんのか?」
「はい、何のことだか。」
「この方は、ローディアナ王国第二王女アリアンロッド・ローディアナ様だ。」
一瞬私は凍りついた。
魔法が実在していて、それによってわけのわからない世界に飛ばされたまではまだいいとする。
でも、その王族が目の前にいるのはちょっと予想外が過ぎる。
「お姫様ってドレスを着てるものだと思ってました。」
「こちらの姫様は『ドレスは重くて動きづらい』から嫌いだそうだ。」
重くて動きづらいって、またある意味では現実的な理由で……
「社交の場ではさすがに着ますよ?」
「そこで着なければ陛下含めていい笑いものです。」
なんて言うか、姫様に対するリィレさんの態度ってあんまり敬ってるって感じじゃないよ、むしろ姉妹みたいな接し方をしてる。
「ところで、貴様どこから来た?」
「ええっと、私、異世界から来たみたいなんです。」
「だろうな、ある程度予想していた。」
リィレさんは驚くことなく言い返す。
「……やっぱり。」
姫様も当たり前のようにうなずいている。
意外にも私が異世界から来たことは簡単に受け入れられた、ちょっとびっくり。
「見たことのない衣装、突然バルコニーに現れる神出鬼没さ、それに何より自分が置かれている状況に対する理解のなさ、異世界人が妥当ですもんね。」
それから、アリアン姫とリィレさんは顔を見合わせる。
「とりあえず、私たちの知る限りですが情報をお伝えしましょうか。」
姫はそう言って、リィレさんは数冊の本や巻物をとってくる。
私は姫に机まで導かれる。
姫はまず巻物の一つを机の上に広げて見せる。
そこに書かれていたのは地図だった。
その真ん中にある名前を指で指し示す。
読みは……わかんないや。英語式ともドイツ語式ともちょっと違いそうだし。
「ここが、今私たちのいるローディアナ王国、王都スクルドです。」
「正確には、スクルドの王城階層離宮ですね。」
アリアン姫の言葉に、リィレさんが補足で説明する。
王城階層って何? って私の疑問が顔に出てたんだと思う、姫は
「このスクルドは五つの階層に分かれています。下から順に貧困階層、市民階層、兵士階層、貴族階層、そしてこの王城階層です。」
「何でそんな面倒なことを?」
「防衛上の理由だ、貧民階層を除いたすべての階層を城壁で守り、城門からしか行き来ができないようにする。その上で戦えば、安全性が高い。」
リィレさんは当たり前のように答えるけど、だったら兵士階層を一番外に置いておいた方が良かったんじゃないのかな。
だってこの配置だと、兵士階層は貴族を守るためにそこにおいてあるようなもの。兵士が市民が襲われているのに気づくことのできないパターンも起こりうるんじゃないだろうか。
「このローディアナ王国は、スクルドの他各地方の大都市におかれた領主それぞれが受け持った土地を治める方法で統治を行っています。」
そんな私の疑問を受けつけずに、姫様は言葉を続ける。
「最大の権力を持つのは一応王だが、実のところそう巧く行っていない。」
「どういうことです?」
「現在、国王フローゼンスを含めた王族のほとんどが、王家の下部組織であるはずの貴族議会によってこの離宮に軟禁されている。」
リィレさんの言った意味を何となくではあるけど理解した。
要するに、権力を求めた貴族たちによって現在の王はその家族もろともここに閉じ込められて、実権を貴族たちに奪われているってこと。
「唯一の例外は、第一王子マウソル様だが……」
「貴族の傀儡となって表向き病気で療養している王に代わり国を治めています。」
「傀儡?」
「操り人形、貴族議会議長ドスカナ候ランバルドの『助言』に従って、貴族に操られるままの最高権力者を気取っている放蕩王子だ。」
「お父様との仲も最悪ですからね……」
つまり、貴族に軟禁された王様に代わって王子が自分が貴族に操られているという意識もなく貴族に言われるまま「政治ごっこ」をしてるって解釈で良いのかな。
「とにかくそういう事情だ。」
リィレさんは話に無理やり結論をつける。
「しかし、放蕩政治にも色々不備があって、民からの不満は噴出しつつある。」
「具体的にいえば市民が許可なく貴族階層に立ち入り、複数回にわたって抗議行動を行ったんです、そのたびに貴族たちは兵士に鎮圧の命を下しましたが……」
「が?」
リィレさんと姫の視線がほとんど同時に泳ぐ。
どちらも言葉を探すようにあちこち視線をさまよわせる。
「勇者ロイド騒ぎの時はそれが原因で有耶無耶になったが……兵士の中にも貴族の専横を良く思わないもの、民を守ることこそ兵士の本文と思うものが多くいる、そう言った兵士が市民を守ろうと動いた結果……」
「兵士は二手に分かれたんです、民を守る『護民派』と貴族に従う『貴族派』に。」
「勇者ロイド騒ぎ?」
またよくわからない表現が飛び出した。
二人は一瞬呆れた顔をしたけど、私が異世界から来た事を思い出したらしくすぐに「しまった」と言う表情に代わる。
「一年と少し前のことだが、王国と敵対する『クルツ自治領』という土地に捕らえられたと思われていた当時の勇者ロイドが、一体の赤いドラゴンを連れて仲間たちを連れだしに王都を訪れたんだ。」
「大騒ぎでしたねあれは。」
「ドラゴンって……」
ファンタジーの代表来ちゃった。
しかもそれを勇者だった男がここまで連れてくるなんて。
「正直裏切られたと思ったんだが……」
「私も、御父様から話を聞くまではそうでした。」
「話?」
「我々は『魔物は敵』と教えられているし、この国で町が滅ぶのも全て魔物の仕業と言うことになっている。『魔物は人を堕落させ、人を滅ぼす悪』これは王国の市民たちや王族の共通認識だった。」
リィレさんはとても苦々しげにそう言う。
「しかし、御父様は『魔物は人を殺さない、この国で町が滅ぶのは土地を治める貴族が略奪するからで、魔物はそれを責任転嫁されているだけ』その事実を握っていたんです。」
アリアン王女は悲しそうな目でそう言う。
「まったく……片腕の父に一言も告げないとはお人が悪い。」
「仕方ありませんよ、もし貴族議会に気付かれていたら離宮に軟禁どころでは済まなかったかもしれませんし。」
怖いことをアリアン姫はさらっと言ってのける。
「結局、貴族の略奪問題奴隷問題解決に当たろうとしてこうなってしまっては一緒ですが……」
言いづらそうにアリアン姫は言う。
確かに、こんなところに閉じ込められた状態じゃ出来ることなんかないのはよくわかる。国のことを考えた王様が自分の利益だけ考える貴族に動きを封じられる。良く似た事例を目の前で見てきた私としては、嘆かずにいられない。
「とりあえず、魔物は敵じゃないんですよね?」
「ああ、そうなる」
「ええ、そうです」
二人はほぼ同時に返事をしてくれた。
「次の説明なのですが……」
「キサラギ、隠れろ。」
そう言うと同時に、リィレさんは私の襟首をひっつかむと乱暴に奥の部屋に運んで行く。
そこは浴室だった。四人くらい同時に入浴できそうなバスタブの中に、いきなり私は放り投げられる。
さぼん
視界が一瞬で水に包まれて、あわてて浮き上がる。
「一体何を」
「静かに。」
体を勢いよく水から出して抗議しようとした私にそう言いながらリィレさんも服が濡れることにも構わずバスタブに入ってきて、私の口を抑える。
『やぁ我が麗しのアリアン! ご機嫌は如何だい?』
『貴方に呼び捨てにされる覚えはありませんけど? 貴方が来てくださったおかげで少し前まで最高だったのが今は最悪です。』
キザったらしい口調の男の声と、明らかな怒気を孕んだアリアン姫の声がする。
「えっと……」
「現在の勇者、ドスカナ公子ライドンだ、半ば無理やり貴族議会が決めたことながら、姫の婚約者にあたる。貴族議会議長ランバルドの嫡男でもある」
リィレさんが小さな声で私に伝える。
婚約者にしては、姫の態度はびっくりするほど刺々しい。
『君と僕の仲じゃないか! どうしてそんなに冷たくするんだ我が妻よ!』
『貴方の父親が無理やり決めさせたことでしょう?』
『僕は君を愛している! ならそれで充分じゃないか!』
『言葉に気をつけてください。』
声だけでもアリアン姫がライドンと言う人をどれだけ嫌ってるのかが良くわかる。
確かに私も、ライドンの口調はかなり気に入らない。
『ところでリィレはどこにいるんだい? 勇者として重要な話があるんだが。』
『今はお風呂に入っています。』
『そうか、ありがとう』
カツカツと靴が鳴る音が、よりにも寄って浴室のドアに近付いてくる。
『待ちなさい。』
あとちょっとで浴室のドアに手が届いただろうところで、アリアン姫が呼び止める。
『何だい?』
アリアン姫は一度大きなため息をつくと、
『デリカシーのない方だとは常々思っていましたが、女性が入浴中の浴室に上がり込むのはデリカシー以前に男性として最低限のマナーを無視した行為でしょう?』
きついことを言う。たぶん眉間にしわが寄っている。
『別に僕は気にしないが』
『リィレは嫁入り前の女の子ですよ? 異性に肌を見られることは望ましくありません。』
明らかにピントのずれたことを言うライドンに、アリアン姫はさらに言葉を続ける。ピントがずれてるというよりも、自分の主観だけですべて解決すると思っているかのような言い方だった。
『勇者として、彼女のような人材をこんなところで腐らせることはできないんだよ、彼女を連れていきたい。』
『ふざけたことを言わないで、今すぐ独りで帰りなさい。』
まるで人の話を聞いていないかのような態度のライドンに対して、不機嫌をあらわにしたアリアン姫が言う。
『はいはい、今日は帰らせてもらうよ。』
言葉が通じないのかと思ったら、どうやら一応通じはするらしい。
ただ単に中途半端にしか聞いていなかっただけみたい。
少し経ってから、アリアン姫が浴室に入ってくる。
「あらあら、大胆な格好ですね。」
笑顔で言うアリアン姫の言葉に反応して、私は自分の格好を見る。
制服の夏服だった薄手のシャツは濡れて透け、私のそこまで大きくない胸を覆うブラジャーの形や柄がはっきりわかるようになっている。
下のプリーツスカートもぐしょぐしょに濡れて、肌にへばりついてそのシルエットを浮き出させている。
「あっわぁっ!」
女性同士とはいえマニアックないやらしさのあるこの格好は恥ずかしくて、思わず隠す。
リィレさんもずぶ濡れで服が透けて白い地味な下着が露わになっている。しかしどう言うわけなのか、リィレさんは恥ずかしがることなく堂々としている。
「お風呂にしましょうか♪」
「少しお待ちを。」
アリアン姫が笑顔で言いながら服を脱ぐのとほぼ同時、リィレさんは湯船から出るとすぐに壁に張り付くようにあった謎の機械を作動させる。
「もしかしてそれ、ボイラーですか?」
「湯沸かし器だ。」
似たようなものだ。
けど、こんなファンタジー世界での燃料となるとちょっと気になる、まさかプロパンガスとか使ってるとは思えないし。
興味深く見つめる私の耳元に近寄ってきたアリアン姫が
「あの中には、魔物化した炎の精霊さんが閉じ込められてるんです。」
と言った。
驚いて振り向くと、きれいすぎるほどきれいな肌を惜しげもなくさらした全裸の姫がにこやかにほほ笑みながら立っていた。
「機械によってまさに機械的に精と快感を与え続けられる精霊さんの魔力によって、半永久的に作動することが可能な優れ物です♪」
非人道的なことをそんな良い笑顔で言ってのける姫様に私が戦慄したのとほぼ同時、
「にこやかにウソを教えないでください。」
戻ってきたリィレさんがすぐさま姫の発言を否定する。
「事実は魔術機構を組み込んだ自動温熱装置だ、私は専門家ではないからよく分らんのだが、大気中の魔力を取り込んで内部の魔術陣を起動させることで熱を生むらしい。」
リィレさんが全然わからない説明をしてくれる、誰か私に分かる様に翻訳プリーズ。
リィレさんが服を脱ぎ始める。
私もあわてて着ていた服を脱ぐ。
しゅるしゅるするぴちゃ
たまに水音が混じってなんだかやらしい感じがするけど、気にしない!
服を脱ぎ終えて気付いたけど、リィレさんの体は色々意外性がある。
綺麗な肌だと思ったんだけどさすがに騎士、服に隠れていた部分はあちこち切り傷の跡があって、それぞれほとんど癒えているものやまだ生々しいものまである。
よく引き締まって程よく脂肪もあるスタイルの良い体に綺麗な肌だったのが、ちょっともったいない感じがする。
そして、何よりの驚きは他にあった。
「生えてない……!」
股間、全く陰毛が生えていない、産毛すら見えない。
ちょっと驚愕。
「そんなところを凝視するな!」
股間を手で隠しながら顔を真っ赤にしてリィレさんが怒鳴る。
「すいません。」
剣でぶった切られても困るから素直に謝る。
「キサラギさん、リィレの本当に凄いのはこっちですよ?」
いつの間にか何ら音も立てずに姫様がリィレさんの背後に回り込んでいた。
リィレさんも声を聞いてやっと移動したことに気づいたらしい。
逃げようとしたリィレさんより速く、アリアン姫はリィレさんのそこそこ大きなおっぱいを鷲掴みにして揉んでいた。
「ふやぁっ」
語尾にハートマークでもついてそうな甘い声でリィレさんは反応する。
「リィレのおっぱいは人の体温にとっても敏感なんです。」
そう言いながら姫は何の遠慮もなくリィレさんの胸を揉む、うわぁ男性が揉んでるのよりどこが弱いか知りつくしてる分ずっと卑猥……
もみゅむにゅぎゅむぐにゅ くりっ
「うあ…ァはぅっ……姫様…おやめくヒィっ!」
腰から力が抜けてアリアン姫にもたれかかるようになったリィレさんを、アリアン姫はとても楽しそうな笑顔で苛める。
柔らかそうなおっぱいを優しく揉みほぐしながら、たまに乳首を指ではじく。
半分とろけたリィレさんの瞳が助けを求めるように私を見ている。
「あの姫様、そろそろやめてあげてください。」
「そうですね。」
しっかり揉んでいたおっぱいを姫が放すと、リィレさんはそのまま床にへたり込んでしまう。
「はぁ……はぁ………」
ちょっと揉まれただけなのに頬は紅潮し、口からは涎の筋が流れ、目は潤んでいる。
女性の私から見ても興奮させられそうなくらい、なんかエロい。
「さてと、お風呂につかりながらお話の続きをしましょうか。」
そう言って姫はリィレさんを置いて先にお風呂に入る。
私がリィレさんに手を貸そうとすると、
「要らん……一人で…立てる……」
フラフラと立ち上がり、湯船に入ろうとする。
つるっ どぼん!
足を滑らせて、顔面から湯船に突っ込んだ。
「あらあら、リィレったら豪快ですね♪」
けらけら笑いながらすべての元凶が言う。
ざぷんとリィレさんが水面から頭だけ出す。
アリアン姫のことをジト目で見ている気がするけど気にしない。
「次の説明をしましょうか、あなた達が教会の手で呼び出された理由。」
「呼び出された? あれでも私たちは自分の意志で」
「そう、『あなた達のいた世界からの逃避』というあなた達の明確な意思を利用して、『異世界から神の使徒を呼び出した』んです。」
アリアン姫は機嫌悪そうに言う。
神の使徒はたぶん私たちのことだろう、つまりあの魔法陣は異世界の人間を『神の使徒』と言う名目でこの世界に呼び出すための魔法陣だった。
私たちのところに来たのが偶然か必然かまでは分からないけど、それに対して生きていた世界に不満があった私たちは誘引されてしまった。
たぶん私がいなくなっても、あの人たちは気にしないんだろうなと思った。
切なくなるので考えるのをやめたけど。
「どうしてそんなことを?」
「貴族が、魔物を自分たちの良いように利用している話はさっきしましたよね?」
思い返してみると、確かに早いうちに聞いていたと思う。
「はい、聞きました。」
「ですけど、近年になって事情を知る人間が増えて来て、貴族たちの押し通している『言い訳』は苦しくなる一方です、何より王国には貴族の奴隷以外にはクルツにしかまとまった魔物がいませんからね。」
一度アリアン姫は言葉を切る。
リィレさんはまだちょっとぼんやりした感じで、言葉を喋るにはなんだか頼りない。
「クルツ自治領と言う貴族たちが自分の無能さや魔物との共存の可能性を隠すために隠蔽された土地に大半が集っている魔物が、民を襲っていることにすると不合理なのは簡単にわかるでしょう。」
「民にはクルツのことは隠されてるんですか?」
一度もそんな話は聞いていないんだけど。
けどそんなものなのかな、魔物が敵だと言い張る王国にとって魔物と共存するクルツの存在は目の上のこぶだろうし。
「ああ、言い忘れましたごめんなさい。」
アリアン姫は冷静に頭を下げる。
「とにかく、言い訳が限度に近付いた貴族はその言い訳の寿命を長引かせるために一つの策を講じました、それがあなた達です。」
「……よく意味が…」
「要するに異世界から人を呼び出してその人を『神の使徒』とでっちあげることで、民を欺き自分たちの正当性を主張するんです。」
ずいぶんと穴だらけの計画の気がする。
「本物の神の使徒が来ることは?」
わざわざ異世界から偽物を呼び出すよりもその方が確実そうだけど。
「あったら便利なのでしょうが、それを待っているには彼らに時間がないんです、それに信仰心など彼らの物は建前に過ぎませんので……」
本物に来られてはむしろ迷惑ですらあるってことだろうか。
「けど良いんですか?」
「何がです?」
「その話によると私は『神の使徒』ってことになりますよね? それなのにこんなところにいるのは……」
「むしろ好都合だとも。」
リィレさんが口を開く。
「さっきも言ったように、王族と貴族議会は一部例外を除き対立関係にある、腐った貴族を止めるためには、その鍵になり得る君がここにいてくれた方が良い。」
「そう言うことです♪ では、これからのお話をしましょうか。」
アリアン姫はどこか奥底に底知れない雰囲気を感じさせるような綺麗な笑顔で言う。
「キサラギさんは、これからどうしたいですか?」
あくまで笑顔のままアリアン姫は私に尋ねる。
もちろん私の答えは一つ。
「一緒にこの世界に来た友達に会いたいです、今はどこに居るのかすらわからないですけど、きっと会えると思ってます。」
リィレさんは「ふむ」と言い、アリアン姫は「あらあら」と笑って見せる。
「私たちとしても…そうですね、キサラギさんのお手伝いをして差し上げたいです、何より私たちの所為で皆さんははぐれてしまわれたんですから。」
「姫が協力するのだから、無論私も手伝う、大船とまではいかないが、頼りにしてくれ。」
そう言って、私たちは握手を交わした。
11/11/10 14:18更新 / なるつき
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