転魔の書 ダークプリースト編
魔界からも大都市からもかなり離れた地に、ぽつんと名もない小さな村がある。
村人の大部分は顔見知りで、主な産業は農業と畜産業。家畜は百頭ほどの山羊と十頭の馬しかおらず、村を取り囲むように広がる広大な畑では果実類や麦を産出している。
都会に訊ねていく若者は少なくないが、都会から訪ねてくるものは少ない典型的な田舎村。
そんな田舎にも、教会がある。
もともとこの土地で祀られていたような豊穣を祈る神ではなく、ある日突然やってきた王国の偉い人が勝手に建てた教会だからあまり真面目に信仰している人もいない。
ただ一人、この教会の修道女ジェレを除けば、だが。
彼女はそもそもこの村の出身ですらなく、血縁からしてもこの村とのゆかりなどない。
「どこそこのこういう村に教会建てたからお前行って来い」とかつての上司に命令されて、たった一人でこの村にやってきた。
最初こそ「これも神の与え給うた試練。主神の教えをこの村に広めよう、自分こそが伝道師となるのだ」と息巻いていたジェレだが、その後の三年で嫌と言うほどこの村の人々が主神の教えに否定的と言う事実を思い知らされた。
自然が多い地域には必ずと言っていいほど生息している魔物たちすら、年寄りの多いこの村に積極的な興味を示すことはなかったほどなのだからなおさらである。
そうしてジェレの仕事は主に布教活動ではなく、地域の人々との交流や、昔得た知識を生かしての病気の治療、薬の調合に費やされるようになった。
「ふぁあ………んー…おはようございます、神よ。」
朝起きてすぐに着替えると、まずは礼拝堂に向かう。
それほど広いとは言えない礼拝堂で、並んだ木製の椅子一脚ごとに無理をして三人座ったとしても十二人しか座れない、その小さな礼拝堂で一時間ほど祈りをささげるのがジェレの日課だった。
聞いていると心地よい目覚めの朝でもすやすや寝れると評判の神への祈りの言葉を唱えながら、朝日の差し込む礼拝堂で一人祈る姿はどこか神聖で冒しがたいものを感じさせる。
その途中で奇妙な物音を聞いた気がしたが、ジェレは祈りを優先した。
そして祈りの時間が終わると立ち上がり、厨房に向かう。
近くの農家から分けてもらった野菜を使った質素なスープと、自分の手で焼きあげたパンだけのつつましい食卓につき、また感謝の言葉を述べながら食事をとる。
食事を終えたら食器を綺麗に洗ってから、必要な手荷物を持って扉を開けて村に出ていく。
「おやおやジェレさん、おはようございます。」
「おはようございますエルマさん。」
牛車に荷物を載せた年配の女性とあいさつを交わし、村の人たちと今日も交流が始まる。
牛たちが引く鋤が畑の土を掘り起こし、男たちが肥料をまいて女たちが的確に畝を彫り上げていく。
「ジェレお姉ちゃーん」「お姉ちゃーん!」
幼い男女の双子がジェレの腰に飛びついてくる。
「おはようございます、マリーちゃん、ミシェル君。」
彼女は人柄なのかそれとも大人たちが仕事で忙しい間に構ってくれる相手だからなのか妙にジェレに懐いており、こうやって遊んでほしそうに向かってくる。
「ねぇねぇ遊んでお姉ちゃん!」「遊んでよお姉ちゃん!!」
修道服をぐいぐいと引っ張りながらねだる子供たちだったが、今日はジェレにも割と急ぐ用事がある。
「すいません、今日は遊んであげられないんです、ロドキお爺さんがご病気なので、そのお薬を届けて差し上げなくてはいけないんです。」
「えー!」「ええ―――っ!!?」
ジェレが断っても双子は折れる姿勢を見せない、それどころか一緒にお見舞いに行くと言い出す始末だ。老いて病床に伏せるロドキ爺さんは今すぐ薬を届けなくては死んでしまうほどではないと言え、この煩い双子を今連れて行くのは間違いなく健康を損なう。
「おらチビども、ジェレさんが困ってるだろ。」
二人の首根っこを摑まえて持ち上げたのは村の若者であり双子にとっては兄にあたるコーヒー色の髪の青年マイルだった、彼は双子を持ち上げた姿勢のままジェレに会釈をする。
「どうもすいません、うちのチビが。」
「いえいえ、懐いてくれることは純粋に嬉しいので。ところでマイルさんは畑仕事は良いのですか? ムラードさんたちは元気に働いていましたけれど。」
畑仕事を続行する三人の親や親戚の姿を思い出しながら訊ねる。
「俺は水汲みです、畑にまく分とみんなが飲む分と洗濯の分。一人で全部運んでくれって言われたもんだから必死ですよ。」
「うそつきー」「兄ちゃんいつも軽い軽いって言ってるくせにー。」
「そうなのですか?」
マイルの言葉に対する双子の指摘にジェレも首を傾げる。確かに必死と言っている割には汗一つかいていない、近くに置かれている水がなみなみと汲まれた桶もジェレが持てば一杯も持ち上がらないだろう大きさのものだが、二杯ある。
何より子供とはいえ人間二人を当然のように持ち上げているのだからその力は相当だろう。
「あーいや、何度も往復するのがきついんですよ、川まで近くないから。」
マイルもあわてて言いなおすがほんのわずかに双子が顔をしかめたところを見ると「要らんことを言うな」と言う意味で首を強く握ったのだろう。
「それよりジェレさん、急がなくていいんですか?」
「あ、そうでした、ではマイルさんまた後で。」
年の割に気の抜ける足音を立てて去っていくジェレの背中を、マイルは目で追う。
「はぁ………ジェレさん、いつも通り綺麗だな。」
うっとりした声を上げる兄を見上げながら、双子はやれやれと力なく首を振っていた。
「はい、今日の診療は終わりです。まだ安静にしててくださいね。」
「ありがとうね、ジェレちゃん。」
老人ロドキのところに薬を届け、それから村のお年寄りのところを回っては診療を行い最後のイェルー婆さんの診察を終えると教会に向けて歩き出した。
村は隣家との距離がかなり開いていることもあるために人口のわりにかなり広く、そのなかで年寄りのいる家家を一軒ずつ回っていると日が暮れてしまう。
「あ! ………あの、ジェレさん。教会まで送ってくよ。」
しばらく道なりに歩いていくと道端でうろうろしていた顔がなんだか泥だらけのマイルがジェレに気付いて声をかけてくる。
「あらマイルさん。どうかされたのです?」
「いや、村の中に誰も知らない怪しいやつがいたらしいんだ、うちのチビ達より少し背が低いくらいで、変な色の肌をしてたって。」
マイルの説明に首を傾げた、マリーやミシェルよりさらに小柄となると相当若い、むしろ幼いと言っていいだろう、そんな子供がこの田舎村に一人で訪れるだろうか。
もしかすると危険な魔物の可能性がある、幼い少女の姿であろうと、時としてこの田舎村で過ごしている人間の想像もつかないような怪物であることもあり得るのが魔物だということはジェレも知識の上で理解していた。
「それは………確かに不安ですね。」
「だろ? だから一緒に行くよ。」
そう言ったマイルはジェレが答える前にジェレの隣に並ぶ、ジェレがこの村に来た時にはマイルの方が少し背は低かったのに、今ではもうマイルの方が背が高くなってしまった。
真っ暗な夜道を歩くときには必須と言っていい松明の明かりに照らされながら二人は並んで道を歩く。
「ところでさ………あの…ジェレさんには、恋人とかいるのか?」
暗闇の中でその表情は良くうかがえないが、マイルはそう尋ねた。
「いいえ。」
即座に口から出た回答はもちろんそれだった、実際いないのに嘘をつく気にはならないし問われた以上のことを推察するのは相手に失礼だと判断したからだった。
そこからはまた沈黙が続いた、夜の闇の中で詳しい道は分からなかったが二人は確実にジェレの教会まで近づき、そしてその白い壁が闇の中から姿を現した。
意を決したように表情を変えたマイルが、また口を開く。
「………ジェレさん……俺の、俺の恋人になってくれないか?」
放たれたマイルにその発言に、ジェレの歩みが止まる。
「あの………それは」
「今すぐ答えを出してほしいとは言わない、でも、待ってる。じゃあ。」
言いたいことをすべて言い切ってから、マイルは足早に立ちさろうとして一度転んだ。
裾についた泥を払ってから、今度こそマイルは大急ぎで走り出し、見えなくなる。
「…………私は………」
教会の扉を開け、中に入る。
月光に照らされた主神を象る石像を見た瞬間にジェレの心に罪悪感が宿る。
「神よ………お許しください 私は貴方に身をささげたものでありながら…一人の人を愛しいと思ってしまっています……私は………どうすればいいのでしょう………」
主神の信者の中で特に熱心な一部の教義にのっとる人間は、人間同士の愛情を性欲の延長線上にあるものとして否定的に見る。ジェレもそのタイプの人間で、自らも神と同様にあらゆる人間にただ無償の差別なき愛を人々に施すべきだと、そう教えられてきた。
『愛し合えばいいんじゃないのかな? 神様は許してくれるよ?』
悩むジェレに向かいどこかお気楽で、嘲りを含んだからかうような声が語りかけてくる。
「誰………ですか?」
『誰だっていいじゃない、神様は何も禁止なんかしてないのよ? みんなまじめに自分に厳しくいることが大事だなんて言い聞かせてるけど神様はそんなことは望んでないわ。』
「黙りなさい! 姿を見せなさい!」
思わず大きな声が出てしまった、迷っている心をさらに揺さぶられ、信仰心という柱がそれを止めようと軋んだ悲鳴だった。
何処から声がするかもわからない、もしかしたら幻聴かもしれないとすら思いながら虚空に叫ぶと、その声は本当に楽しそうな笑い声をあげてから
「はーい、ここでーす♪」
と姿を現した。
ジェレはその姿に愕然とした。そのシルエットは紛れもなく天使、しかし白く清らかなはずの翼は黒く濁り、愛らしく瑞々しくあるはずの肌は青く染まり。それはまさに堕天使そのものだった。
「――」
声を上げようとした口をふさがれ、堕天使はそのままジェレを押し倒す。
「気持ちいいこと、大好きだって体で示すことがどのくらい気持ちよくて幸せになれるのか、教えてあげる。」
堕天使の手がジェレの法衣の下に滑り込む、構造を詳しく把握しているのかその手に迷いや無駄はなく、下着をはがし取り法衣を無理なく脱がせていく。
「ふふ、可愛い………ん〜、ちゅ。」
抵抗する余地もなく唇を奪われると、体がかっと熱くなる。
何をされているのかはわからなかったが、少なくとも危険であることだけは察知できた。しかし抵抗できなかった、体に力が入らないのもあったし、なぜか抵抗したくなかった。
(頭。ぼーっとして……だめ、駄目なのに………)
「んふふふ、ほらほら、気持ちいいでしょ?」
キスを中断した堕天使はそのままジェレの豊かな胸を揉み、乳房の先端に向け搾るようにして刺激する。
「んぁっ ダメ……やめなさいっ!」
そう反論しながらも、腰をもじもじとさせ切なげな吐息を漏らす。肌も薄紅がさしておりその姿はどう見ても興奮して誘っているようにしか見えない。
「やーだよ♪ それにお姉さんもほんとは足りないんでしょ? もうここ、濡れてるよ?」
「ひぁっ!? こっこれはっ!」
堕天使が指で撫でたのは既に愛液がシミを作っていたジェレのショーツだった、修道士の家系に生まれてこの方性的なものを忌避して過ごしてきたからこそ、皮肉にも新鮮な性的刺激をジェレの体は進んで受け入れていた。
そのことに羞恥を覚えて隠そうとしても、黒い何かが腕を縛り付け動かすことができない。
「恥ずかしがることないよ? 神様の作ってくれた体に汚い所なんかないの、それを使ったどんな行為もやっぱり汚いなんてことはないんだから、ね?」
「ひぅっ! そんなことはっ……」
「あるよ? だからほら、素直になって?」
ショーツの中に堕天使の指が滑り込み、直接表面を撫でる。
そしてあろうことか、今まで何者の侵入も許したことのないまっさら純潔のジェレの膣内に指が滑り込む。
「止め……なさいぃ……♥」
「やめ、ないぃ♪」
ジェレの制止を心底楽しそうに振り切り、侵入した指は膣壁をかき回し、ぬちゃぬちゃといやらしい音を立てて愛液を撹拌させる。そしてあろうことか、処女膜を軽く撫でる。
「ほら、大好きな人のこと思い浮かべて? その人のおちんちんを受け入れるためにこの穴はあるんだよ? 体の前部が満たされて幸せな気持ちになれるよ? 神様もきっと喜んでくれるから。」
耳元で堕天使が甘く囁きかける、それはジェレが今まで拒んできた堕落への誘いだった。
そして判断力が鈍りに鈍りただの売りに快楽だけが染みついた今のジェレに、それを聞いてなお抵抗を続けようとする意志などある筈もなかった。
「かみさまも……あはは♥」
朝目が覚めたマイルは、自分が知らないどこかにいることに気が付いた。
しかも、全裸で。そして、誰かが自分の股間にとり付いていた。
誰なのかすぐに理解できたが信じられなかったといった方が正しいか、なぜならその女性は、嬉しそうにビキビキに勃起した自分の肉棒をしゃぶっているのは昨晩自分が告白した女性だったのだから。
「ジェレさんっ!? はぅっ!」
何をしてるんですか? と問おうと口を開いても、ぢゅ と音を立てて先端を吸われた瞬間意思とは関係なく情けない声が漏れる。
「おはようございます、マイルさん♥ あんまりよく眠っていらっしゃるので待ちきれずに、こんな無節操ですいません。」
「じゃなくて、何で俺裸? いやそれ以前に………」
マイルの体の上に乗るジェレも裸、その裸身は異様なほど艶めかしく見える。
「ひとつになるのは、起きているときの方が素敵でしょう?」
「一つに? アっ! うぁああっ!!」
ずぶぶぶぶぅ ぷちん
マイルがその言葉の意味を理解するより早く、ジェレは腰を下ろしてマイルの肉棒を準備万端の膣に挿入した、ぬめり、絡み付く膣肉が今までにマイルが味わったこともないような甘美な刺激を伝える。
「アっ! ほぁああああああああああっ!!」
どぷどぷどぶぅっ!
それに耐えきれずマイルは射精してしまった、童貞喪失から射精までわずか二秒。世界でもここまで早い男はそうそう居ないだろう。
「もう、せっかちさんなんですから。 でも大丈夫ですよ? 時間はいくらでもありますので。」
そう言ってジェレはまた腰を振り始めた。
村一つが完全に堕落し、魔界と縁とゆかりもなかった土地に突如魔界が出現した稀有な事例としてこの村は記録されている。発見が遅れたため魔界の浸食を抑えることはできず、王国の地図から消されこの村は忘れられた。
時の止まった世界の中で、住民たちは今日も堕落神に熱心に祈っている。
村人の大部分は顔見知りで、主な産業は農業と畜産業。家畜は百頭ほどの山羊と十頭の馬しかおらず、村を取り囲むように広がる広大な畑では果実類や麦を産出している。
都会に訊ねていく若者は少なくないが、都会から訪ねてくるものは少ない典型的な田舎村。
そんな田舎にも、教会がある。
もともとこの土地で祀られていたような豊穣を祈る神ではなく、ある日突然やってきた王国の偉い人が勝手に建てた教会だからあまり真面目に信仰している人もいない。
ただ一人、この教会の修道女ジェレを除けば、だが。
彼女はそもそもこの村の出身ですらなく、血縁からしてもこの村とのゆかりなどない。
「どこそこのこういう村に教会建てたからお前行って来い」とかつての上司に命令されて、たった一人でこの村にやってきた。
最初こそ「これも神の与え給うた試練。主神の教えをこの村に広めよう、自分こそが伝道師となるのだ」と息巻いていたジェレだが、その後の三年で嫌と言うほどこの村の人々が主神の教えに否定的と言う事実を思い知らされた。
自然が多い地域には必ずと言っていいほど生息している魔物たちすら、年寄りの多いこの村に積極的な興味を示すことはなかったほどなのだからなおさらである。
そうしてジェレの仕事は主に布教活動ではなく、地域の人々との交流や、昔得た知識を生かしての病気の治療、薬の調合に費やされるようになった。
「ふぁあ………んー…おはようございます、神よ。」
朝起きてすぐに着替えると、まずは礼拝堂に向かう。
それほど広いとは言えない礼拝堂で、並んだ木製の椅子一脚ごとに無理をして三人座ったとしても十二人しか座れない、その小さな礼拝堂で一時間ほど祈りをささげるのがジェレの日課だった。
聞いていると心地よい目覚めの朝でもすやすや寝れると評判の神への祈りの言葉を唱えながら、朝日の差し込む礼拝堂で一人祈る姿はどこか神聖で冒しがたいものを感じさせる。
その途中で奇妙な物音を聞いた気がしたが、ジェレは祈りを優先した。
そして祈りの時間が終わると立ち上がり、厨房に向かう。
近くの農家から分けてもらった野菜を使った質素なスープと、自分の手で焼きあげたパンだけのつつましい食卓につき、また感謝の言葉を述べながら食事をとる。
食事を終えたら食器を綺麗に洗ってから、必要な手荷物を持って扉を開けて村に出ていく。
「おやおやジェレさん、おはようございます。」
「おはようございますエルマさん。」
牛車に荷物を載せた年配の女性とあいさつを交わし、村の人たちと今日も交流が始まる。
牛たちが引く鋤が畑の土を掘り起こし、男たちが肥料をまいて女たちが的確に畝を彫り上げていく。
「ジェレお姉ちゃーん」「お姉ちゃーん!」
幼い男女の双子がジェレの腰に飛びついてくる。
「おはようございます、マリーちゃん、ミシェル君。」
彼女は人柄なのかそれとも大人たちが仕事で忙しい間に構ってくれる相手だからなのか妙にジェレに懐いており、こうやって遊んでほしそうに向かってくる。
「ねぇねぇ遊んでお姉ちゃん!」「遊んでよお姉ちゃん!!」
修道服をぐいぐいと引っ張りながらねだる子供たちだったが、今日はジェレにも割と急ぐ用事がある。
「すいません、今日は遊んであげられないんです、ロドキお爺さんがご病気なので、そのお薬を届けて差し上げなくてはいけないんです。」
「えー!」「ええ―――っ!!?」
ジェレが断っても双子は折れる姿勢を見せない、それどころか一緒にお見舞いに行くと言い出す始末だ。老いて病床に伏せるロドキ爺さんは今すぐ薬を届けなくては死んでしまうほどではないと言え、この煩い双子を今連れて行くのは間違いなく健康を損なう。
「おらチビども、ジェレさんが困ってるだろ。」
二人の首根っこを摑まえて持ち上げたのは村の若者であり双子にとっては兄にあたるコーヒー色の髪の青年マイルだった、彼は双子を持ち上げた姿勢のままジェレに会釈をする。
「どうもすいません、うちのチビが。」
「いえいえ、懐いてくれることは純粋に嬉しいので。ところでマイルさんは畑仕事は良いのですか? ムラードさんたちは元気に働いていましたけれど。」
畑仕事を続行する三人の親や親戚の姿を思い出しながら訊ねる。
「俺は水汲みです、畑にまく分とみんなが飲む分と洗濯の分。一人で全部運んでくれって言われたもんだから必死ですよ。」
「うそつきー」「兄ちゃんいつも軽い軽いって言ってるくせにー。」
「そうなのですか?」
マイルの言葉に対する双子の指摘にジェレも首を傾げる。確かに必死と言っている割には汗一つかいていない、近くに置かれている水がなみなみと汲まれた桶もジェレが持てば一杯も持ち上がらないだろう大きさのものだが、二杯ある。
何より子供とはいえ人間二人を当然のように持ち上げているのだからその力は相当だろう。
「あーいや、何度も往復するのがきついんですよ、川まで近くないから。」
マイルもあわてて言いなおすがほんのわずかに双子が顔をしかめたところを見ると「要らんことを言うな」と言う意味で首を強く握ったのだろう。
「それよりジェレさん、急がなくていいんですか?」
「あ、そうでした、ではマイルさんまた後で。」
年の割に気の抜ける足音を立てて去っていくジェレの背中を、マイルは目で追う。
「はぁ………ジェレさん、いつも通り綺麗だな。」
うっとりした声を上げる兄を見上げながら、双子はやれやれと力なく首を振っていた。
「はい、今日の診療は終わりです。まだ安静にしててくださいね。」
「ありがとうね、ジェレちゃん。」
老人ロドキのところに薬を届け、それから村のお年寄りのところを回っては診療を行い最後のイェルー婆さんの診察を終えると教会に向けて歩き出した。
村は隣家との距離がかなり開いていることもあるために人口のわりにかなり広く、そのなかで年寄りのいる家家を一軒ずつ回っていると日が暮れてしまう。
「あ! ………あの、ジェレさん。教会まで送ってくよ。」
しばらく道なりに歩いていくと道端でうろうろしていた顔がなんだか泥だらけのマイルがジェレに気付いて声をかけてくる。
「あらマイルさん。どうかされたのです?」
「いや、村の中に誰も知らない怪しいやつがいたらしいんだ、うちのチビ達より少し背が低いくらいで、変な色の肌をしてたって。」
マイルの説明に首を傾げた、マリーやミシェルよりさらに小柄となると相当若い、むしろ幼いと言っていいだろう、そんな子供がこの田舎村に一人で訪れるだろうか。
もしかすると危険な魔物の可能性がある、幼い少女の姿であろうと、時としてこの田舎村で過ごしている人間の想像もつかないような怪物であることもあり得るのが魔物だということはジェレも知識の上で理解していた。
「それは………確かに不安ですね。」
「だろ? だから一緒に行くよ。」
そう言ったマイルはジェレが答える前にジェレの隣に並ぶ、ジェレがこの村に来た時にはマイルの方が少し背は低かったのに、今ではもうマイルの方が背が高くなってしまった。
真っ暗な夜道を歩くときには必須と言っていい松明の明かりに照らされながら二人は並んで道を歩く。
「ところでさ………あの…ジェレさんには、恋人とかいるのか?」
暗闇の中でその表情は良くうかがえないが、マイルはそう尋ねた。
「いいえ。」
即座に口から出た回答はもちろんそれだった、実際いないのに嘘をつく気にはならないし問われた以上のことを推察するのは相手に失礼だと判断したからだった。
そこからはまた沈黙が続いた、夜の闇の中で詳しい道は分からなかったが二人は確実にジェレの教会まで近づき、そしてその白い壁が闇の中から姿を現した。
意を決したように表情を変えたマイルが、また口を開く。
「………ジェレさん……俺の、俺の恋人になってくれないか?」
放たれたマイルにその発言に、ジェレの歩みが止まる。
「あの………それは」
「今すぐ答えを出してほしいとは言わない、でも、待ってる。じゃあ。」
言いたいことをすべて言い切ってから、マイルは足早に立ちさろうとして一度転んだ。
裾についた泥を払ってから、今度こそマイルは大急ぎで走り出し、見えなくなる。
「…………私は………」
教会の扉を開け、中に入る。
月光に照らされた主神を象る石像を見た瞬間にジェレの心に罪悪感が宿る。
「神よ………お許しください 私は貴方に身をささげたものでありながら…一人の人を愛しいと思ってしまっています……私は………どうすればいいのでしょう………」
主神の信者の中で特に熱心な一部の教義にのっとる人間は、人間同士の愛情を性欲の延長線上にあるものとして否定的に見る。ジェレもそのタイプの人間で、自らも神と同様にあらゆる人間にただ無償の差別なき愛を人々に施すべきだと、そう教えられてきた。
『愛し合えばいいんじゃないのかな? 神様は許してくれるよ?』
悩むジェレに向かいどこかお気楽で、嘲りを含んだからかうような声が語りかけてくる。
「誰………ですか?」
『誰だっていいじゃない、神様は何も禁止なんかしてないのよ? みんなまじめに自分に厳しくいることが大事だなんて言い聞かせてるけど神様はそんなことは望んでないわ。』
「黙りなさい! 姿を見せなさい!」
思わず大きな声が出てしまった、迷っている心をさらに揺さぶられ、信仰心という柱がそれを止めようと軋んだ悲鳴だった。
何処から声がするかもわからない、もしかしたら幻聴かもしれないとすら思いながら虚空に叫ぶと、その声は本当に楽しそうな笑い声をあげてから
「はーい、ここでーす♪」
と姿を現した。
ジェレはその姿に愕然とした。そのシルエットは紛れもなく天使、しかし白く清らかなはずの翼は黒く濁り、愛らしく瑞々しくあるはずの肌は青く染まり。それはまさに堕天使そのものだった。
「――」
声を上げようとした口をふさがれ、堕天使はそのままジェレを押し倒す。
「気持ちいいこと、大好きだって体で示すことがどのくらい気持ちよくて幸せになれるのか、教えてあげる。」
堕天使の手がジェレの法衣の下に滑り込む、構造を詳しく把握しているのかその手に迷いや無駄はなく、下着をはがし取り法衣を無理なく脱がせていく。
「ふふ、可愛い………ん〜、ちゅ。」
抵抗する余地もなく唇を奪われると、体がかっと熱くなる。
何をされているのかはわからなかったが、少なくとも危険であることだけは察知できた。しかし抵抗できなかった、体に力が入らないのもあったし、なぜか抵抗したくなかった。
(頭。ぼーっとして……だめ、駄目なのに………)
「んふふふ、ほらほら、気持ちいいでしょ?」
キスを中断した堕天使はそのままジェレの豊かな胸を揉み、乳房の先端に向け搾るようにして刺激する。
「んぁっ ダメ……やめなさいっ!」
そう反論しながらも、腰をもじもじとさせ切なげな吐息を漏らす。肌も薄紅がさしておりその姿はどう見ても興奮して誘っているようにしか見えない。
「やーだよ♪ それにお姉さんもほんとは足りないんでしょ? もうここ、濡れてるよ?」
「ひぁっ!? こっこれはっ!」
堕天使が指で撫でたのは既に愛液がシミを作っていたジェレのショーツだった、修道士の家系に生まれてこの方性的なものを忌避して過ごしてきたからこそ、皮肉にも新鮮な性的刺激をジェレの体は進んで受け入れていた。
そのことに羞恥を覚えて隠そうとしても、黒い何かが腕を縛り付け動かすことができない。
「恥ずかしがることないよ? 神様の作ってくれた体に汚い所なんかないの、それを使ったどんな行為もやっぱり汚いなんてことはないんだから、ね?」
「ひぅっ! そんなことはっ……」
「あるよ? だからほら、素直になって?」
ショーツの中に堕天使の指が滑り込み、直接表面を撫でる。
そしてあろうことか、今まで何者の侵入も許したことのないまっさら純潔のジェレの膣内に指が滑り込む。
「止め……なさいぃ……♥」
「やめ、ないぃ♪」
ジェレの制止を心底楽しそうに振り切り、侵入した指は膣壁をかき回し、ぬちゃぬちゃといやらしい音を立てて愛液を撹拌させる。そしてあろうことか、処女膜を軽く撫でる。
「ほら、大好きな人のこと思い浮かべて? その人のおちんちんを受け入れるためにこの穴はあるんだよ? 体の前部が満たされて幸せな気持ちになれるよ? 神様もきっと喜んでくれるから。」
耳元で堕天使が甘く囁きかける、それはジェレが今まで拒んできた堕落への誘いだった。
そして判断力が鈍りに鈍りただの売りに快楽だけが染みついた今のジェレに、それを聞いてなお抵抗を続けようとする意志などある筈もなかった。
「かみさまも……あはは♥」
朝目が覚めたマイルは、自分が知らないどこかにいることに気が付いた。
しかも、全裸で。そして、誰かが自分の股間にとり付いていた。
誰なのかすぐに理解できたが信じられなかったといった方が正しいか、なぜならその女性は、嬉しそうにビキビキに勃起した自分の肉棒をしゃぶっているのは昨晩自分が告白した女性だったのだから。
「ジェレさんっ!? はぅっ!」
何をしてるんですか? と問おうと口を開いても、ぢゅ と音を立てて先端を吸われた瞬間意思とは関係なく情けない声が漏れる。
「おはようございます、マイルさん♥ あんまりよく眠っていらっしゃるので待ちきれずに、こんな無節操ですいません。」
「じゃなくて、何で俺裸? いやそれ以前に………」
マイルの体の上に乗るジェレも裸、その裸身は異様なほど艶めかしく見える。
「ひとつになるのは、起きているときの方が素敵でしょう?」
「一つに? アっ! うぁああっ!!」
ずぶぶぶぶぅ ぷちん
マイルがその言葉の意味を理解するより早く、ジェレは腰を下ろしてマイルの肉棒を準備万端の膣に挿入した、ぬめり、絡み付く膣肉が今までにマイルが味わったこともないような甘美な刺激を伝える。
「アっ! ほぁああああああああああっ!!」
どぷどぷどぶぅっ!
それに耐えきれずマイルは射精してしまった、童貞喪失から射精までわずか二秒。世界でもここまで早い男はそうそう居ないだろう。
「もう、せっかちさんなんですから。 でも大丈夫ですよ? 時間はいくらでもありますので。」
そう言ってジェレはまた腰を振り始めた。
村一つが完全に堕落し、魔界と縁とゆかりもなかった土地に突如魔界が出現した稀有な事例としてこの村は記録されている。発見が遅れたため魔界の浸食を抑えることはできず、王国の地図から消されこの村は忘れられた。
時の止まった世界の中で、住民たちは今日も堕落神に熱心に祈っている。
13/03/10 19:41更新 / なるつき