転魔の書 ネレイス編
広大な大海原とは、人間が暮らすには適さない土地である。
陸地では当たり前に、その恩恵も感じずに呼吸ができる人間はしかし、ひとたび海に落ちればその大切さを嫌と言うほど思い知る。
それだけではなくそもそも海に落ちた人間は自由に動くことができないのに対し、その海をテリトリーとする魔物たちは実に自在に泳ぎ来て人間たちを翻弄する。
そんな魔の領域でも人間は渡ることを諦めず、船によって自分たちの領域を作り出す。
そして、そんな作り出された人の領域が脆いものである事実を忘れはじめると、作られた領域を娯楽に扱う人間が現れるのもまた当然と言えよう。
真夜中の暗い海を、灯台の光に導かれながら一隻の船が進んでいく。
遊覧船ベルベット号は、多くの貴人たちを乗せ高名なリゾート地バルメ島からラプラタ湾に向かい夜の海を進んでいた。そのパーティホールに面した食堂の一つでビールを飲むラクスと、彼の屋敷の侍女たちの婦長を務めるトゥリーも、そんな貴人たちの一員だった。
「いい景色だ、そう思わないか?」
「そうですね、しかし若様、少々飲み過ぎでは?」
窓の外を眺めながら同意を求めるラクスにトゥリーは賛同してから進言した。
ラクスはもともと貴族らしからぬほどビールが好きだが、今日は特に飲んでいる。顔は赤くなっていて、足元が少し覚束ない、明らかに飲み過ぎの大人の動きだった。
「いつまで……俺のことを若様と呼ぶんだ?」
少し不満そうな、もしくは少し寂しそうな顔で、ラクスはトゥリーに訊ねた、その意図は読み取れないものの、不満なことがあることくらいトゥリーも理解していた。
「この旅行が終わって、私がドレスを着るまでですよ。」
そうにこやかに、トゥリーは答えた。
二人はこの旅行から帰ったら結婚する、屋敷の者たちもみんな祝ってくれた。
つまりこれは婚前旅行で、しかし傍目にはお気に入りのメイドを一人だけともなった行楽旅行にしか見えない。主にトゥリーの続ける「若様」呼称が原因で。
「婚姻前の……けじめのつもりなのか?」
プロポーズしたのはラクスの方からだった、トゥリーの方が少し年上ではあったが、今まで常に主人と従者として共に生きてもう二十年に近い。その関係を突然真っ新にして新しい関係を築くことが難しいことは二人とも理解している。
しかしラクスは同時に、自分の出した無茶な要求でも今までトゥリーが一度も断ったことがないことを覚えていた、童貞を貰ってほしいと言ったときすら嫌な顔一つせずに受け入れたような女性だからこそ、ラクスには不安があった。
本当は彼女は、自分のことを愛してはいないのではないだろうか、ただすべて自分が主人だからこそ従ってくれているだけなのではないのだろうか。そんな疑念はこの旅行の間すら尽きることがなかった、申し訳ないと思いつつも不安で仕方なかった。
だからこそ、酔った勢いでそんな質問を口走ってしまった。
「ええ、けじめです。『今はまだ、今だけはまだ』あなたの使用人でいさせてください。」
そのすべてを見越した上で、トゥリーはそう答えた。
「………ああ、分かった。」
ラクスもそう頷くと、ふらりとよろめいた。
「飲み過ぎたらしい、少し、風に当たってくる。」
「お供します、それと、水を飲まれた方がよろしいかと。」
そう言って、トゥリーはテーブルの上にあったグラスの水を差しだし、ラクスが受け取って飲んでいる最中に他のグラスにもう一杯用意する。
そちらの一杯も受け取って飲み干したラクスは、トゥリーに支えられながら甲板に出る。
「ふぅ………」
甲板の柵に寄りかかったラクスは大きく息をつく。飲み過ぎをあまり反省している様子ではないが、トゥリーは何も言わずその主人の前に立って夜の海を眺めていた。
漆黒に染まった空と、同様に真っ暗な海の境界線は見えない、星も映す夜の海に置いて水平線の彼方に光る灯台だけが目印だ。
夜が明けるころに港につくと船員は言っていた、その言葉を思い出すとこの旅行がもうすぐ終わり、彼女の新しい人生が始まるのだとそればかり期待してしまう。
しかし、主人の足が浮くのが見えた瞬間その期待が吹き飛んだ。
何が起きたのかわからない、波で船が偶然揺れたのかもしれないしへべれけに酔っていたからただバランスを崩しただけなのかもしれない。しかし確かに分かったのは、
「若様!!?」
夜の海に今まさに落下する自分の主人の、幼いころから共に生きてきた未来の夫の手をトゥリーがつかみ損ねたことだけだった。
水面に人が落下した音がして、それからばしゃばしゃと小さな水音が鳴る。
闇ばかりが広がる夜の海に落ちたラクスの姿は船の上からでは窺うこともできない。
誰かいないかと周囲を見渡しても誰もいない、パニックに陥ったトゥリーは、フリフリのメイド服を着たまま海に飛び込み、そして後悔した。
まず、何も見えない。ひたすらに真っ暗な海に飛び込めば当たり前だが海の上の様子など分からない。自分が水中にいるせいで水音もわからない。更にいえば服が重い。
(ダメですっこんな方法じゃぁ!)
気づいたところで今更遅いのだ、もう船の上に上がることも不可能だろう。
「誰かっ! がぼっ 誰か助けっ!! ああっ!」
助けを呼ぼうにも大きな声を出そうと口を開けばそれだけ口内に水が浸入するためにまともに話すこともできない、自分で実行したことながらそのバカさ加減に失望する。
しかしそれ以上にトゥリーは必死だった、ラクスを救いたい一心で夜の海を「こちらの方角の気がする」と泳ぎ、必死に探し回る。
そして、彼女ののばした腕がラクスの腕に触れた。
「若様っ!?」
無我夢中で腕を引き寄せ、彼の体を抱きしめる。
既に危険な状態に入っているのか、ゆすってみても反応がない。
(誰か、誰でもいいから。私はどうなってもいいから若様を助けてください。)
水中で、誰にも気づかれていない今トゥリーにできることと言えば祈ることだけだ。
『どうなってもいい。それは本当?』
そんな声が頭の中に飛び込んできた、優しい母のような、強い姉のような声だ。
トゥリーはその声の主の正体に考えをめぐらせ、そして回答を得た、海神ポセイドンだ。
(本当です、だから、どうか若様を……)
『…いいわ、貴女に彼を助けられる力をあげる。でも、もたもたしたら駄目よ?』
そのポセイドンの言葉と同時に、トゥリーの体に魔力が絡み付く。
その魔力は海水のしみこんだメイド服を通り抜けて彼女の体に付着すると、すさまじい勢いで内部まで浸透しながら体の中を細胞の単位で組み換え強烈な快感を与える。
「はっ!! ゔっ」
余りの快感に立ち泳ぎを維持できなくなりラクスを抱きしめたまま海中に沈んでしまう、すると口や鼻を介して体内にも水が侵入し、内側からも魔力が侵食する。
ごぽりと音がして肺の中からすべての空気が抜けると、声も出せないまま水中でトゥリーは絶頂を迎えるとともにネレイスへと変貌した。
「あ……若様ぁ♥」
視界が変わって見える、暗闇としか思えなかった夜の海が色鮮やかに、ラクスの姿もはっきりとわかる。そして水中でも、トゥリーは全く苦しくなくなっていた。
何より腕の中で気を失っているラクスが、とても「美味しそう」に見えるのだ。
その唇にむしゃぶりつくように自らの唇を合わせ、魔力を体内に送り込みながら逆に内臓に満ちた水を吸いだし、体内から水を取り除くとまた抱きしめたまま海面から顔を出す。
一方で肉棒にヒレ付きの尻尾をからめ扱く、服を脱ぐ余裕はなくメイドの恰好のままだが服を突き破って姿を現した尻尾はその範疇ではない。
肉棒が多少強引な形ながら硬く張りつめてくると、トゥリーはその肉棒を内股で挟み込んでフリルレースのすべすべした白い下着と柔らかな太ももでしごき始める。
「若様……若様……♥」
体内から水を吸いだすためではなく、単純に愛情を示すために意識の戻らないラクスに対してキスを繰り返し魔力も送り込んで強制的に体を発情させる。
「う……トゥリー?」
不意に目を開いたラクスと目が合う、一瞬だけわけのわからない顔をしたがすぐに彼も状況を理解したらしい
「…そうか、俺のためか。……す」
「謝らないでください若様、いえラクスさん。私はこうなったことを後悔などしていません。だから、笑ってください。」
謝罪の言葉などと無粋なものを述べようとするラクスを制し、そう促すとともに素股を続行する。
「笑え…と言うのは無理だが、くぅっ! これは気持ちいいな。」
「嬉しいです♪ 私も気持ち良くて わかっていただけますか?」
体全てを押し付けるように彼を抱きしめると彼も首を縦に振る、股の間では肉棒が強く震え、その情欲がはちきれんばかりに高まっていることを如実に示す。
「はぁ……♥ 熱いです」
きゅっと股を締めて腰を前後に揺り動かす、ただそれだけでも熱く火照った肉棒をこすり、同時に敏感な陰唇の入り口を愛撫することになるために二人に快感が刻まれる。
「なぁ、入れて、いいか?」
「はい、でもこの通り手が使えませんから、ラクスさん、お願いします。」
勿論嘘だ、尻尾を使ってお互いを固定さえすれば別に手を空けることはできる、ただ単にラクスに下着を脱がせて、挿入してほしかったからだ。
「わかった、少し待て。」
そう言ってごそごそとトゥリーの下着をラクスがいじり始める、ガーターベルトの上にあるからそこまで難しくはないといえまったく見えないし肉棒が若干引っかかる。
四苦八苦しているラクスのためにトゥリーも腰の動きは極力小さくしていたが、それでもやはり見えないものは苦労するらしい
『手伝ってあげようかしら?』
(デバガメは止してください)
頭に介入してくるポセイドンの声をにべもなく拒否して、少し体をずらして調整するとようやくラクスの指が下着の布地をずらすことに成功した。
「入れるぞ。」
「はい、んっ♥ ああああっ!」
ぐぷぷぷぷぷっ ずぶん どぷどぷどぷッ!
ラクスのいきり立った肉棒は海水に冷やされながらもそれでもまだトゥリーを悶えさせるには十分すぎるほど熱く滾り、中に入った瞬間にどくどくと彼女の体内に精液を漏らしてしまった。
「んんんっ!? もう……ラクスさんったら♥」
「す、すまん、あまりに気持ちよくてだな……」
「いえいえ♪ もっと感じてください、もっともっと、溶け合う悦びを味わいたいのです。それに私も入れていただいた途端にイってしまったのですからおあいこですよ。」
申し訳なさそうなラクスにそう言うと、トゥリーは抱き合った姿勢のまま腰を左右に振り始めた、さざ波のような細やかなしかし確かな刺激をラクスに与え続ける。
「はぁ……んぁあっ もう…水の中なのに、燃えてしまいそうです。」
「ああそうだな、トゥリーの体も、すごく熱い……」
その言葉を交わした直後に二人はどちらともなく唇を合わせた、お互いの唇を吸い合い、食べてしまおうとするかのような熱く甘い口づけを何度も繰り返す。
抱きしめあう両手には自然とより強く力がこもり、不思議と体が感じる快感も徐々に大きくなっていく、体中で絡み合い、ひたすらに愛情を示しあう。
徐々に徐々に、その愛情よりももっと強く幸福な快感を求めて二人は腰の動きを激しくしていく、海水中で水上に音こそ漏れないものの、水中に流れ出た淫液のせいで周囲に隠れ潜んで見物していた魔物たちまでも発情させ、自慰に耽らせている。
「ぷぁっ! ラクスさん、ラクスさんっ!! イきますっ!!」
「俺もだ、出すから俺のすべてを受け止めてくれっ!!」
その言葉と同時にラクスはトゥリーの膣内置く深くまで一気に肉棒をねじ込み、
どぷっどぷどぷびゅぐううううううううううううっ!!
「あっあ゙―――――――――――――――――ッ!!!」
濃厚かつ多量の精液を一気に膣内に流し込んだ、はるか遠くに移動してしまったベルベット号の乗員たちにも聞こえてしまいそうなほどの大音声で喘ぎながらトゥリーも強烈な快感の津波に悲鳴を上げる。
「はぁ……♥ 幸せです……」
「幸せだ、これからもずっと一緒にいよう。」
もう一度強く抱きしめあい、二人は愛を誓う。
「うふふ……そう言えば、もうウエディングドレスは着れませんね。」
「そうでもないさ、少ししたら二人で帰って、もっと綺麗になったお前を皆に見せてやる。」
「楽しみに待ってます、私の愛しい旦那様。」
言葉を交わした後、二人はもう一度キスをした。
屋敷の跡取りと婦長を同時に失ったラクスの実家は混乱に見舞われた。
跡取りのラクスがいなくては家が途絶えてしまう。そうしたら屋敷に仕えるすべての使用人がお役御免となる。
そんな恐怖から屋敷を去る者もいた、しかし強欲な遠い縁故者により財産は奪われんとしても、たとえ帰ってくる世継ぎもいないと思われるような状況の中でも、屋敷の主といくらかの使用人たちは二人の帰りを待ち続けた。
その努力が報われる日の話は、また別の機会に。
陸地では当たり前に、その恩恵も感じずに呼吸ができる人間はしかし、ひとたび海に落ちればその大切さを嫌と言うほど思い知る。
それだけではなくそもそも海に落ちた人間は自由に動くことができないのに対し、その海をテリトリーとする魔物たちは実に自在に泳ぎ来て人間たちを翻弄する。
そんな魔の領域でも人間は渡ることを諦めず、船によって自分たちの領域を作り出す。
そして、そんな作り出された人の領域が脆いものである事実を忘れはじめると、作られた領域を娯楽に扱う人間が現れるのもまた当然と言えよう。
真夜中の暗い海を、灯台の光に導かれながら一隻の船が進んでいく。
遊覧船ベルベット号は、多くの貴人たちを乗せ高名なリゾート地バルメ島からラプラタ湾に向かい夜の海を進んでいた。そのパーティホールに面した食堂の一つでビールを飲むラクスと、彼の屋敷の侍女たちの婦長を務めるトゥリーも、そんな貴人たちの一員だった。
「いい景色だ、そう思わないか?」
「そうですね、しかし若様、少々飲み過ぎでは?」
窓の外を眺めながら同意を求めるラクスにトゥリーは賛同してから進言した。
ラクスはもともと貴族らしからぬほどビールが好きだが、今日は特に飲んでいる。顔は赤くなっていて、足元が少し覚束ない、明らかに飲み過ぎの大人の動きだった。
「いつまで……俺のことを若様と呼ぶんだ?」
少し不満そうな、もしくは少し寂しそうな顔で、ラクスはトゥリーに訊ねた、その意図は読み取れないものの、不満なことがあることくらいトゥリーも理解していた。
「この旅行が終わって、私がドレスを着るまでですよ。」
そうにこやかに、トゥリーは答えた。
二人はこの旅行から帰ったら結婚する、屋敷の者たちもみんな祝ってくれた。
つまりこれは婚前旅行で、しかし傍目にはお気に入りのメイドを一人だけともなった行楽旅行にしか見えない。主にトゥリーの続ける「若様」呼称が原因で。
「婚姻前の……けじめのつもりなのか?」
プロポーズしたのはラクスの方からだった、トゥリーの方が少し年上ではあったが、今まで常に主人と従者として共に生きてもう二十年に近い。その関係を突然真っ新にして新しい関係を築くことが難しいことは二人とも理解している。
しかしラクスは同時に、自分の出した無茶な要求でも今までトゥリーが一度も断ったことがないことを覚えていた、童貞を貰ってほしいと言ったときすら嫌な顔一つせずに受け入れたような女性だからこそ、ラクスには不安があった。
本当は彼女は、自分のことを愛してはいないのではないだろうか、ただすべて自分が主人だからこそ従ってくれているだけなのではないのだろうか。そんな疑念はこの旅行の間すら尽きることがなかった、申し訳ないと思いつつも不安で仕方なかった。
だからこそ、酔った勢いでそんな質問を口走ってしまった。
「ええ、けじめです。『今はまだ、今だけはまだ』あなたの使用人でいさせてください。」
そのすべてを見越した上で、トゥリーはそう答えた。
「………ああ、分かった。」
ラクスもそう頷くと、ふらりとよろめいた。
「飲み過ぎたらしい、少し、風に当たってくる。」
「お供します、それと、水を飲まれた方がよろしいかと。」
そう言って、トゥリーはテーブルの上にあったグラスの水を差しだし、ラクスが受け取って飲んでいる最中に他のグラスにもう一杯用意する。
そちらの一杯も受け取って飲み干したラクスは、トゥリーに支えられながら甲板に出る。
「ふぅ………」
甲板の柵に寄りかかったラクスは大きく息をつく。飲み過ぎをあまり反省している様子ではないが、トゥリーは何も言わずその主人の前に立って夜の海を眺めていた。
漆黒に染まった空と、同様に真っ暗な海の境界線は見えない、星も映す夜の海に置いて水平線の彼方に光る灯台だけが目印だ。
夜が明けるころに港につくと船員は言っていた、その言葉を思い出すとこの旅行がもうすぐ終わり、彼女の新しい人生が始まるのだとそればかり期待してしまう。
しかし、主人の足が浮くのが見えた瞬間その期待が吹き飛んだ。
何が起きたのかわからない、波で船が偶然揺れたのかもしれないしへべれけに酔っていたからただバランスを崩しただけなのかもしれない。しかし確かに分かったのは、
「若様!!?」
夜の海に今まさに落下する自分の主人の、幼いころから共に生きてきた未来の夫の手をトゥリーがつかみ損ねたことだけだった。
水面に人が落下した音がして、それからばしゃばしゃと小さな水音が鳴る。
闇ばかりが広がる夜の海に落ちたラクスの姿は船の上からでは窺うこともできない。
誰かいないかと周囲を見渡しても誰もいない、パニックに陥ったトゥリーは、フリフリのメイド服を着たまま海に飛び込み、そして後悔した。
まず、何も見えない。ひたすらに真っ暗な海に飛び込めば当たり前だが海の上の様子など分からない。自分が水中にいるせいで水音もわからない。更にいえば服が重い。
(ダメですっこんな方法じゃぁ!)
気づいたところで今更遅いのだ、もう船の上に上がることも不可能だろう。
「誰かっ! がぼっ 誰か助けっ!! ああっ!」
助けを呼ぼうにも大きな声を出そうと口を開けばそれだけ口内に水が浸入するためにまともに話すこともできない、自分で実行したことながらそのバカさ加減に失望する。
しかしそれ以上にトゥリーは必死だった、ラクスを救いたい一心で夜の海を「こちらの方角の気がする」と泳ぎ、必死に探し回る。
そして、彼女ののばした腕がラクスの腕に触れた。
「若様っ!?」
無我夢中で腕を引き寄せ、彼の体を抱きしめる。
既に危険な状態に入っているのか、ゆすってみても反応がない。
(誰か、誰でもいいから。私はどうなってもいいから若様を助けてください。)
水中で、誰にも気づかれていない今トゥリーにできることと言えば祈ることだけだ。
『どうなってもいい。それは本当?』
そんな声が頭の中に飛び込んできた、優しい母のような、強い姉のような声だ。
トゥリーはその声の主の正体に考えをめぐらせ、そして回答を得た、海神ポセイドンだ。
(本当です、だから、どうか若様を……)
『…いいわ、貴女に彼を助けられる力をあげる。でも、もたもたしたら駄目よ?』
そのポセイドンの言葉と同時に、トゥリーの体に魔力が絡み付く。
その魔力は海水のしみこんだメイド服を通り抜けて彼女の体に付着すると、すさまじい勢いで内部まで浸透しながら体の中を細胞の単位で組み換え強烈な快感を与える。
「はっ!! ゔっ」
余りの快感に立ち泳ぎを維持できなくなりラクスを抱きしめたまま海中に沈んでしまう、すると口や鼻を介して体内にも水が侵入し、内側からも魔力が侵食する。
ごぽりと音がして肺の中からすべての空気が抜けると、声も出せないまま水中でトゥリーは絶頂を迎えるとともにネレイスへと変貌した。
「あ……若様ぁ♥」
視界が変わって見える、暗闇としか思えなかった夜の海が色鮮やかに、ラクスの姿もはっきりとわかる。そして水中でも、トゥリーは全く苦しくなくなっていた。
何より腕の中で気を失っているラクスが、とても「美味しそう」に見えるのだ。
その唇にむしゃぶりつくように自らの唇を合わせ、魔力を体内に送り込みながら逆に内臓に満ちた水を吸いだし、体内から水を取り除くとまた抱きしめたまま海面から顔を出す。
一方で肉棒にヒレ付きの尻尾をからめ扱く、服を脱ぐ余裕はなくメイドの恰好のままだが服を突き破って姿を現した尻尾はその範疇ではない。
肉棒が多少強引な形ながら硬く張りつめてくると、トゥリーはその肉棒を内股で挟み込んでフリルレースのすべすべした白い下着と柔らかな太ももでしごき始める。
「若様……若様……♥」
体内から水を吸いだすためではなく、単純に愛情を示すために意識の戻らないラクスに対してキスを繰り返し魔力も送り込んで強制的に体を発情させる。
「う……トゥリー?」
不意に目を開いたラクスと目が合う、一瞬だけわけのわからない顔をしたがすぐに彼も状況を理解したらしい
「…そうか、俺のためか。……す」
「謝らないでください若様、いえラクスさん。私はこうなったことを後悔などしていません。だから、笑ってください。」
謝罪の言葉などと無粋なものを述べようとするラクスを制し、そう促すとともに素股を続行する。
「笑え…と言うのは無理だが、くぅっ! これは気持ちいいな。」
「嬉しいです♪ 私も気持ち良くて わかっていただけますか?」
体全てを押し付けるように彼を抱きしめると彼も首を縦に振る、股の間では肉棒が強く震え、その情欲がはちきれんばかりに高まっていることを如実に示す。
「はぁ……♥ 熱いです」
きゅっと股を締めて腰を前後に揺り動かす、ただそれだけでも熱く火照った肉棒をこすり、同時に敏感な陰唇の入り口を愛撫することになるために二人に快感が刻まれる。
「なぁ、入れて、いいか?」
「はい、でもこの通り手が使えませんから、ラクスさん、お願いします。」
勿論嘘だ、尻尾を使ってお互いを固定さえすれば別に手を空けることはできる、ただ単にラクスに下着を脱がせて、挿入してほしかったからだ。
「わかった、少し待て。」
そう言ってごそごそとトゥリーの下着をラクスがいじり始める、ガーターベルトの上にあるからそこまで難しくはないといえまったく見えないし肉棒が若干引っかかる。
四苦八苦しているラクスのためにトゥリーも腰の動きは極力小さくしていたが、それでもやはり見えないものは苦労するらしい
『手伝ってあげようかしら?』
(デバガメは止してください)
頭に介入してくるポセイドンの声をにべもなく拒否して、少し体をずらして調整するとようやくラクスの指が下着の布地をずらすことに成功した。
「入れるぞ。」
「はい、んっ♥ ああああっ!」
ぐぷぷぷぷぷっ ずぶん どぷどぷどぷッ!
ラクスのいきり立った肉棒は海水に冷やされながらもそれでもまだトゥリーを悶えさせるには十分すぎるほど熱く滾り、中に入った瞬間にどくどくと彼女の体内に精液を漏らしてしまった。
「んんんっ!? もう……ラクスさんったら♥」
「す、すまん、あまりに気持ちよくてだな……」
「いえいえ♪ もっと感じてください、もっともっと、溶け合う悦びを味わいたいのです。それに私も入れていただいた途端にイってしまったのですからおあいこですよ。」
申し訳なさそうなラクスにそう言うと、トゥリーは抱き合った姿勢のまま腰を左右に振り始めた、さざ波のような細やかなしかし確かな刺激をラクスに与え続ける。
「はぁ……んぁあっ もう…水の中なのに、燃えてしまいそうです。」
「ああそうだな、トゥリーの体も、すごく熱い……」
その言葉を交わした直後に二人はどちらともなく唇を合わせた、お互いの唇を吸い合い、食べてしまおうとするかのような熱く甘い口づけを何度も繰り返す。
抱きしめあう両手には自然とより強く力がこもり、不思議と体が感じる快感も徐々に大きくなっていく、体中で絡み合い、ひたすらに愛情を示しあう。
徐々に徐々に、その愛情よりももっと強く幸福な快感を求めて二人は腰の動きを激しくしていく、海水中で水上に音こそ漏れないものの、水中に流れ出た淫液のせいで周囲に隠れ潜んで見物していた魔物たちまでも発情させ、自慰に耽らせている。
「ぷぁっ! ラクスさん、ラクスさんっ!! イきますっ!!」
「俺もだ、出すから俺のすべてを受け止めてくれっ!!」
その言葉と同時にラクスはトゥリーの膣内置く深くまで一気に肉棒をねじ込み、
どぷっどぷどぷびゅぐううううううううううううっ!!
「あっあ゙―――――――――――――――――ッ!!!」
濃厚かつ多量の精液を一気に膣内に流し込んだ、はるか遠くに移動してしまったベルベット号の乗員たちにも聞こえてしまいそうなほどの大音声で喘ぎながらトゥリーも強烈な快感の津波に悲鳴を上げる。
「はぁ……♥ 幸せです……」
「幸せだ、これからもずっと一緒にいよう。」
もう一度強く抱きしめあい、二人は愛を誓う。
「うふふ……そう言えば、もうウエディングドレスは着れませんね。」
「そうでもないさ、少ししたら二人で帰って、もっと綺麗になったお前を皆に見せてやる。」
「楽しみに待ってます、私の愛しい旦那様。」
言葉を交わした後、二人はもう一度キスをした。
屋敷の跡取りと婦長を同時に失ったラクスの実家は混乱に見舞われた。
跡取りのラクスがいなくては家が途絶えてしまう。そうしたら屋敷に仕えるすべての使用人がお役御免となる。
そんな恐怖から屋敷を去る者もいた、しかし強欲な遠い縁故者により財産は奪われんとしても、たとえ帰ってくる世継ぎもいないと思われるような状況の中でも、屋敷の主といくらかの使用人たちは二人の帰りを待ち続けた。
その努力が報われる日の話は、また別の機会に。
12/12/25 18:31更新 / なるつき