読切小説
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クッキーの老婆の旅
「やれやれ、この年になっての旅は堪えるねぇ。」

1人の老婆がそう呟きました。

白髪が生えており、青い眼鏡を掛けて歩いておりました。

荷物の様な物は見当たりません

彼女は旅をしていました。



彼女の名前は“グランマ”

もっとも彼女がそう言っているだけで本当かどうかなんて定かではありません。

そんなこんなで街に着きます。

親魔物領の様です。

「活気があって良いねぇ。」

のんきなグランマはそう呟きます。

「あの辺りにしようかねぇ。」

大きな木を囲んだ石に座ります。

そして、掌にクッキーが現れます。

「うん、今回も良い仕上がりだ。」

彼女がどうしてこんな言葉を言うのか解りません。

さて彼女がクッキーを口に入れようとした時、小さな少女達が見ていました。

「………。」

グランマは少し考えて、また掌にクッキーを出します。

そしてそれを、少女達に差し出します。

「え、えっと……。」

「なに、気にしないでお食べなさい。まだあるから。」

その言葉を聞いた少女達―――魔物娘のアリス・ゴブリン・ラージマウスがクッキーを貰い食べると美味しいと言わんばかりの顔を浮かべます。

「美味しい!」
「これは売れる!」
「もっと頂戴!」

強請ってくる3人の勢いに負けず、グランマもクッキーをあげます。

「ほら、ゆっくり食べなさい。」

そう優しく諭します。



そんな時、辺りが騒がしくなりました。

1人の男の人が慌てて走って来ます。

「た、大変だー!勇者が単身で来たぞー!」

勇者、それは魔物を排除しようと教団が送り込んだ殺人鬼の様な存在です。

もっとも大抵は魔物娘の嫁になるのが多いのですが。

ただ、今回の勇者は違ったみたいです。

「殺す……殺す……。」

物騒な言葉を吐きながら、青年が歩いてきます。

どうやら何かの防御壁が彼を護っている様です。

しかも何処をどうしたのか彼自身も解けない様です。

だから精神が既に限界なんでしょう。

空腹が彼を狂わせた―――



「やれやれ、とんだ日になったねぇ。」

そう呟くと、グランマは腰を上げ青年の下に歩いていきます。

「おばあちゃん!?」
「危ないよ!」

アリスとラージマウスは止めます。

「せめてレシピ教えて欲しかったなー。」

ゴブリンが何故か白状なのは置いておきましょう。



青年はグランマを見て

「………どけ、魔物を殺さないと此方が空腹で死ぬ。」

「まるで奴隷だね。同じ人間がするとは思いたくないねぇ。」

普通に会話をしているグランマ

「……二度は言わんぞ。」

青年に殺気が篭った

「そうかい。」

グランマはなんでも無い様に呟く。

その瞬間、青年の剣がなぎ払われグランマを横一線切り裂いた―――かに見えた。

パラパラッ

「なんだ……それは……!?」

青年は驚いた。

周りも驚いた。

何故なら子供の大きさのクッキーが“剣を防いだ”のだから。

しかも、ヒビ一つ入っていない。

「最近の若いもんはなってないねぇ。」

パァンッ!

クッキーを破壊した衝撃で青年の剣が弾け跳んだ

「うわっ!?」

「そんなにお腹が減っているなら……。」

グランマは両腕をだらりとふりこの様にして

「たんと食べさせてあげるよ!」

青年に向って腕を突き出した!

ヒュパパッッッ!

何も無い空間から大量のクッキーが青年の口に殺到した!

「………!!!!」

青年は口が詰まって息が出来ない。

「さぁ?お味は如何か?」

グランマは指を鳴らす

パチンッ!

青年の口が光り出す……!

コオオオオッッッ!



―――グランマ直伝 弾ける美味しさ!―――



ドッゴオオオオオオオオオオオ!!!!!





爆発が起きた



気がつくと、グランマはその場に居なかった。

ただ、青年が幸せそうな顔で倒れていたと言う事だった。



後に、青年の呪縛が解けていた事を考えるとあのクッキーは食べ物だけれど食べ物じゃない可能性が浮上し、グランマを探す魔王軍が結成されたが未だに見つかってはいない。

ただ一つ言える事、それは彼女の焼いたクッキーは美味しくて、食べた人の笑顔が見られると言う事だろう。

この空の下で今日も彼女はクッキーを焼き続ける……。



「さて、今日は何処に行こうかねぇ。」




グランマの旅 完
13/10/05 16:02更新 / 宵闇の道化師

■作者メッセージ
2番ぜんじるです。

今も焼き続けるんだよ俺は……眠い。

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