社会的殺し屋と社会的暗殺者
――某会場――
大勢の人達が食べて、話て、着飾っている。
人間や魔物娘が一同に会しているのは、このパーティを主催した男の仕業であった。
「佐田 次郎 オーシャンビューの社長か……。」
そんな会場の端っこに1人の男が佇みながら呟く。
この男、名は無い。
仕事上様々な偽名を使っている為、本名は明かさない事をしている“殺し屋”である。
もっとも、このご時世に殺人なんぞ洒落にならない。
よってこの男の“殺す”は社会的に殺すと同義である。
この男に殺された者達は、田舎に行ったり山奥に住んだり海外に行ったりして暮らしている。
もっとも、高確率で魔物娘と結婚する奴等が殆どではあるが。
しかしこの男、モテそうな容姿をしているのだが未だ未経験である。
何故なら―――
「ふぅ、しかし一夫多妻制を支持してくれない物かねぇ…。」
こんな願望を持っているのである。
一応、一夫多妻制度はあるのだが規約がある。
1 当人達の同意
2 無理やりは駄目 (魔物娘にも当てはまる)
3 幸せにする・なる事
と言う規約があり、半数はそれで上手くいっているのだが、もう半数はそうではないと言う事である。
男も魔物娘に告白された事があるのだが、一夫多妻を口にすると難色を示す者や諦める者が殆どであった。
稀に自分だけの物にしようと、実力行使しようとした者も居たが、対魔物娘犯罪課に駆け込み何とか逃げ遂せたのは良い思い出である。
その魔物娘は軽犯罪者と一緒になったとかならなかったとか。
そして今回、彼の目的は社長の暗殺であった。(社会的に)
社長の悪事をネット上に流せば終わりと言う事である。
会社は良い人材が引き継ぐ事になるらしい。
「依頼人はまともな奴だったからな、気兼ね無くやれるな。」
ポリシーとして、依頼人の身元を確認して裏づけ取ってから仕事をするのである。
……何度か裏切られた事がそれであったからである。
(さて、お仕事しましょうかねぇ。)
宴もたけなわ、お開きの時間であった。
しかし、社長を狙っていたのは男だけでは無かった。
天井に張り付いている“何か”もまた、社長を見ていた。
――港倉庫――
黒い車が何台も並んでいる。
男は倉庫の荷物が置かれている場所から覗いていた。
「魔物娘の売買ね……腐ってやがるなぁ。とりあえず、社長の悪事の撮影が終わったら、犯罪課に連絡して被害にあった魔物娘達を救出して貰うか。」
その後、船に細工を施し社長の会社に向った。
後日、売買に関わっていた者達が捕まった記事が出たのは言うまでも無い。
――社長室――
佐田は社長室に取り付けられているベッドに寝ていた。
「ちょろいな。」
男は警備システムを無力化し、部屋を漁る。
(ここら辺に売買したリストがある筈……!?)
気配を感じた。
すぐさまナイフを抜き、気配の主を探す。
「誰だ……?」
返事は無い。
しかし、姿を見せた。
「女……?」
その格好は“くのいち”と呼ばれた姿だった。
違うのは耳が長く、尻尾がある事だ。
「……魔物娘か。悪いが仕事中だ、あの社長が目的なら好きにして良いが、悪事を世間に公表してからにして貰えないか?」
一応仕事ではある。
女は何も言わず、ただ佇む。
「……まぁ、目的は一緒みたいだし邪魔はしないでくれ。」
男は再び漁る。
女はしばらく男を見ていたが、男と同じく漁り始める。
「手伝ってくれんのか?」
「………。」
無言。
「まぁ、良いけど。」
その後、リストは見つかり男と女はその場を脱した。
男は自分の拠点に戻り、仕事に取り掛かろうとしたのだが……。
「いや、何でついてきたし?」
「………。」
女は何故かついてきた。
男はまいった顔をしながらも、警戒する。
「俺は一夫多妻制派なんだ、あんたの気持ちにゃ答えられない。」
自惚れてたら恥ずかしいと承知して、否定の言葉を放つ。
しかし、女は表情を出さない。
男は携帯電話を取り出す。
「悪いが、対魔物娘犯罪課辺りに連絡をさせて貰うぞ。」
「………。」
女は未だ無表情だが、何処か動揺したように感じる。
そして、初めて男は“声”を聞いた。
「……だって……だって……。」
「……だって何だ?」
男は尋ねる。
「私は……あの社長を“社会的”に暗殺する筈だったのに……なのに……!」
感情が零れ始める。
それは塞き止めていた思いだった。
「貴方の事が……好きになった……!」
「……だが、俺は一夫多妻とかを目的にしてる奴だ、そんな男であんたは良いと言うのか?」
言うなれば“死刑宣告”である。
男はそうやって魔物娘を振ってきた。
実力行使に出た者も、全て返り討ちにして。
心を傷つけて来た。
彼は―――罪人だ。
それでも、彼女は―――
「でも……それでも!」
ビュンッ!
何かが伸びてきた。
「ふっ!」
避ける。
しかし。
ギュンッ!
「ぐっ!?」
それは彼女の尻尾だった。
「私の尻尾は……伸縮可能よ……。」
「そうかい、でもな……!」
男は尻尾を掴み、引っ張った。
グォンッ!
「!?」
横に引っ張られ、ソファーにぶつかる。
尻尾が解かれ、男は反対のソファーに座る。
「どうする?俺は一夫多妻派だ。諦めるか、妥協するか。」
女は何も答えない。
しばらくして、女が尋ねる。
「何で……一夫多妻を……?」
「………ただのロマンだよ。」
「嘘……でしょう?」
「さぁな、どうだろうな?」
女は男の“瞳”を見る。
―――黒い瞳なのに“生気”が感じられなかった―――
そう、それは―――
「1人が……嫌なの……?」
「………。」
男は答えない。
図星だからだ。
男はある時、孤独になった。
師匠以外に心を許した者は少ない。
「だから?同情でもしてくれるとでも?」
「違う!」
力強く否定する女。
「だって……貴方は……!」
その先を、男は聞きたくなかった。
「寂しいんでしょう……。」
「黙れ……。」
男は感情を爆発させる。
「あんたに何が解る!?全てを失い地べたを這いずり回り必死に生きていかなくちゃいけない俺の……!」
その先は言わなかった。
男は解っていた、自分の気持ちを棚に上げると言う行為が最低な事だと言う事を。
けれど――女はその先を聞かずとも理解した。
「何も……解らないよ……、でもね……一生感情を出さずに……生きていくつもり……?」
「………あんたはどうなんだよ?忍者って奴なんだろ?そんな感情を露にして良いのか?」
その言葉を聞いた時、女は微笑んだ。
「私達クノイチは……愛する男以外……感情を出さない……よ……。」
男は理解した、彼女達が感情を見せると言う事は、その男を信頼し愛すからだと。
「……俺は、考えを改めないぞ?」
「良いよ……最悪……正妻……で良い……から……。」
「……適わないなぁ……。」
男は天を煽った。
しかしながら、いざ事を始めようとした時に男は言った。
「セックスはしたいが、今は仕事を片付けさせてくれ。その後、な?」
「……早く……終わらせて……。」
真夜中の出来事であった。
大勢の人達が食べて、話て、着飾っている。
人間や魔物娘が一同に会しているのは、このパーティを主催した男の仕業であった。
「佐田 次郎 オーシャンビューの社長か……。」
そんな会場の端っこに1人の男が佇みながら呟く。
この男、名は無い。
仕事上様々な偽名を使っている為、本名は明かさない事をしている“殺し屋”である。
もっとも、このご時世に殺人なんぞ洒落にならない。
よってこの男の“殺す”は社会的に殺すと同義である。
この男に殺された者達は、田舎に行ったり山奥に住んだり海外に行ったりして暮らしている。
もっとも、高確率で魔物娘と結婚する奴等が殆どではあるが。
しかしこの男、モテそうな容姿をしているのだが未だ未経験である。
何故なら―――
「ふぅ、しかし一夫多妻制を支持してくれない物かねぇ…。」
こんな願望を持っているのである。
一応、一夫多妻制度はあるのだが規約がある。
1 当人達の同意
2 無理やりは駄目 (魔物娘にも当てはまる)
3 幸せにする・なる事
と言う規約があり、半数はそれで上手くいっているのだが、もう半数はそうではないと言う事である。
男も魔物娘に告白された事があるのだが、一夫多妻を口にすると難色を示す者や諦める者が殆どであった。
稀に自分だけの物にしようと、実力行使しようとした者も居たが、対魔物娘犯罪課に駆け込み何とか逃げ遂せたのは良い思い出である。
その魔物娘は軽犯罪者と一緒になったとかならなかったとか。
そして今回、彼の目的は社長の暗殺であった。(社会的に)
社長の悪事をネット上に流せば終わりと言う事である。
会社は良い人材が引き継ぐ事になるらしい。
「依頼人はまともな奴だったからな、気兼ね無くやれるな。」
ポリシーとして、依頼人の身元を確認して裏づけ取ってから仕事をするのである。
……何度か裏切られた事がそれであったからである。
(さて、お仕事しましょうかねぇ。)
宴もたけなわ、お開きの時間であった。
しかし、社長を狙っていたのは男だけでは無かった。
天井に張り付いている“何か”もまた、社長を見ていた。
――港倉庫――
黒い車が何台も並んでいる。
男は倉庫の荷物が置かれている場所から覗いていた。
「魔物娘の売買ね……腐ってやがるなぁ。とりあえず、社長の悪事の撮影が終わったら、犯罪課に連絡して被害にあった魔物娘達を救出して貰うか。」
その後、船に細工を施し社長の会社に向った。
後日、売買に関わっていた者達が捕まった記事が出たのは言うまでも無い。
――社長室――
佐田は社長室に取り付けられているベッドに寝ていた。
「ちょろいな。」
男は警備システムを無力化し、部屋を漁る。
(ここら辺に売買したリストがある筈……!?)
気配を感じた。
すぐさまナイフを抜き、気配の主を探す。
「誰だ……?」
返事は無い。
しかし、姿を見せた。
「女……?」
その格好は“くのいち”と呼ばれた姿だった。
違うのは耳が長く、尻尾がある事だ。
「……魔物娘か。悪いが仕事中だ、あの社長が目的なら好きにして良いが、悪事を世間に公表してからにして貰えないか?」
一応仕事ではある。
女は何も言わず、ただ佇む。
「……まぁ、目的は一緒みたいだし邪魔はしないでくれ。」
男は再び漁る。
女はしばらく男を見ていたが、男と同じく漁り始める。
「手伝ってくれんのか?」
「………。」
無言。
「まぁ、良いけど。」
その後、リストは見つかり男と女はその場を脱した。
男は自分の拠点に戻り、仕事に取り掛かろうとしたのだが……。
「いや、何でついてきたし?」
「………。」
女は何故かついてきた。
男はまいった顔をしながらも、警戒する。
「俺は一夫多妻制派なんだ、あんたの気持ちにゃ答えられない。」
自惚れてたら恥ずかしいと承知して、否定の言葉を放つ。
しかし、女は表情を出さない。
男は携帯電話を取り出す。
「悪いが、対魔物娘犯罪課辺りに連絡をさせて貰うぞ。」
「………。」
女は未だ無表情だが、何処か動揺したように感じる。
そして、初めて男は“声”を聞いた。
「……だって……だって……。」
「……だって何だ?」
男は尋ねる。
「私は……あの社長を“社会的”に暗殺する筈だったのに……なのに……!」
感情が零れ始める。
それは塞き止めていた思いだった。
「貴方の事が……好きになった……!」
「……だが、俺は一夫多妻とかを目的にしてる奴だ、そんな男であんたは良いと言うのか?」
言うなれば“死刑宣告”である。
男はそうやって魔物娘を振ってきた。
実力行使に出た者も、全て返り討ちにして。
心を傷つけて来た。
彼は―――罪人だ。
それでも、彼女は―――
「でも……それでも!」
ビュンッ!
何かが伸びてきた。
「ふっ!」
避ける。
しかし。
ギュンッ!
「ぐっ!?」
それは彼女の尻尾だった。
「私の尻尾は……伸縮可能よ……。」
「そうかい、でもな……!」
男は尻尾を掴み、引っ張った。
グォンッ!
「!?」
横に引っ張られ、ソファーにぶつかる。
尻尾が解かれ、男は反対のソファーに座る。
「どうする?俺は一夫多妻派だ。諦めるか、妥協するか。」
女は何も答えない。
しばらくして、女が尋ねる。
「何で……一夫多妻を……?」
「………ただのロマンだよ。」
「嘘……でしょう?」
「さぁな、どうだろうな?」
女は男の“瞳”を見る。
―――黒い瞳なのに“生気”が感じられなかった―――
そう、それは―――
「1人が……嫌なの……?」
「………。」
男は答えない。
図星だからだ。
男はある時、孤独になった。
師匠以外に心を許した者は少ない。
「だから?同情でもしてくれるとでも?」
「違う!」
力強く否定する女。
「だって……貴方は……!」
その先を、男は聞きたくなかった。
「寂しいんでしょう……。」
「黙れ……。」
男は感情を爆発させる。
「あんたに何が解る!?全てを失い地べたを這いずり回り必死に生きていかなくちゃいけない俺の……!」
その先は言わなかった。
男は解っていた、自分の気持ちを棚に上げると言う行為が最低な事だと言う事を。
けれど――女はその先を聞かずとも理解した。
「何も……解らないよ……、でもね……一生感情を出さずに……生きていくつもり……?」
「………あんたはどうなんだよ?忍者って奴なんだろ?そんな感情を露にして良いのか?」
その言葉を聞いた時、女は微笑んだ。
「私達クノイチは……愛する男以外……感情を出さない……よ……。」
男は理解した、彼女達が感情を見せると言う事は、その男を信頼し愛すからだと。
「……俺は、考えを改めないぞ?」
「良いよ……最悪……正妻……で良い……から……。」
「……適わないなぁ……。」
男は天を煽った。
しかしながら、いざ事を始めようとした時に男は言った。
「セックスはしたいが、今は仕事を片付けさせてくれ。その後、な?」
「……早く……終わらせて……。」
真夜中の出来事であった。
12/02/28 21:16更新 / 宵闇の道化師