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エピソードファイナル〜LAY-T〜
「ば、バカな…」

大司教が、その知らせに戸惑い、焦りを見せている

「こちら側の白勇者の一部も、敵の白勇者の言葉により、離反する者が続出!形勢は悪くなる一方です!!」

その言葉に、大司教は―――

「は、ハハハハ」


突然笑い出し―――


「ならば、『ここごと』消し飛ばせば問題ないな」

そういうと、何か小箱を取り出した

「兵達、ならびに白勇者共。これまで良く働いた」

小箱を開くと、小さな出っ張りがあり―――

「褒美だ!あの世で楽になれ!!」

それを思いっきり押した
瞬間、地面が揺れだす

「黒勇者!いい事を教えてやろう!!」

大司教が声高らかに言う

「この地下には!魔力を溜めて作った炉がある!これはそれのリミッターを外すボタンだ!」

「・・・!!貴方、自分のしたことがわかってるの!?ここら辺一体が消えるのよ!?」

その言葉に、兵達もざわめく

「この施設がなくなるのは惜しいが構わん!!どうせ貴様らに捕まる位なら、貴様らをまとめて滅ぼし!白勇者共も道連れにしてくれるわ!!」

そう言うと、兵達が瓦礫に巻き込まれそうになる

「危ない!!」

―――気が付いたら、僕はその人達も、大司教も守っていた

「…地下へはどうやって?」

僕は剣を大司教に向け、彼に聞く

「…この階段を下に向かえばいける。今更言っても仕方ないだろう。止まらんよ」

ニタニタしながら言う彼に―――

「誰も死なせない方法くらい、僕にはある」

そう言って、彼を気絶させた

「黒勇者!!お願いがあるんだ!!」

そう言って、彼女の拘束を解く

「いいけど…今、殆ど役に立てないわよ…」

倒れそうな彼女を抱き止め、僕はお願いする

「逃げてくれ。出来るだけ遠くに皆を連れて」

瞬間、彼女が呆けた顔をし―――

「なに、言ってるのよ…君を置いて…「僕も後から行くから、先に、ね?」

そう言って、彼女に逃げるよう頼む

「貴方達も出来るだけ遠くに逃げてください!その男を捕らえた状態で!!」

そういうと、僕は地下へ向かい始めた

・・・

地下へ向かう途中、僕は心の中で謝る

―――黒勇者、ごめん

解っていた
誰も犠牲にしない方法―――

僕が犠牲になって、みんなの盾になる方法だ

CounterReflect(カウンターリフレクト)は、元々防御用の魔術
これを使えば、魔力の暴走も最小限に留まるだろう

だが、これを使うって事は―――

考えないようにした

今更なぜ死を怖がる?
僕がしようとしてきたのはそういうことだ

考えず、僕は―――

皆を守ることだけを意識すればいいんだ

・・・

「施設内には、もう誰も居ないかと…」

教団の兵士達が協力して、私達はなんとか遠くまで移動している

教団の実験の被害者達はかなり大怪我を負っている者が多く、移動は困難ではあった

が、それ以上に―――

「あの子、まだ…」

そう、キュー君がまだ出てこないのだ

「どういうことだ!?クソ爺!!」

突然の大声に、私は驚き近付く

そこには、アクアスと先程の男がいた

「No.93も考えた物だ。自分ひとりを生贄に、他を助けようとするんだからな」

「んな訳「あの規模の魔力を防ぐには、自分のCounterReflectを全て自分以外の者を守るのに使わないといかんだろう」

男が話を続ける

「そもそも、アレは魔力を弾く防御用の魔術だ。確かにそれは可能だろう。しかし―――」

笑いながら、彼は言った

「そんないつ暴走するかわからない膨大な量の魔力の中で、自分を防御しないんだぞ?焼け死ぬだろうに。もしくは自分を犠牲にして、爆発を小さくするか。どっちにせよ、アレはもう終わりだ」

瞬間、私は―――

「リート、ゴメン」

「リリス様?」

「もし帰れなかったら、貴女が代わりにお願いね」

飛び立って―――

彼の元へ向かった

・・・

魔力炉に向かう度、どんどん熱くなっていく

この熱を遮断するのも、今の僕には厳しい

そもそも、大司教に振るわれた暴力のお陰で、体中がボロボロなのだ

それに、先程の戦い


もはや殆ど体力が残っていない


でも、それでも―――

「せめて、最後くらい…いい事したい、から」

自分にそう言い聞かせ、震える足を前へ進める
怖いという感情を、無理矢理押さえ込み、炉の前まで向かう

が、限界がきた


―――ドサッ


軽く聞こえる、自身が倒れる音

実際、もう目の前だから、ここからでも爆発を最小限に食い止めることは出来るだろう

「せめて…最後まで立って…」

そういうが、立つこともままならない

「最後まで…僕は…情け…ない、な…」

「そんな事、ないよ」

その声は―――

「ここまで来るだけで、私も疲れちゃった」

ここで聞こえちゃいけない―――

「な、なんで…」

「うそつきの勇者を助けようとした、んだけど…体力、もうなくなっちゃって…」

聞こえてほしくない―――

「貴女まで死んじゃう…」

「私は、君が死ぬのが嫌だから」

黒勇者の声

・・・

「貴女は逃げてよ…」

ボロボロの体で、自分だけを犠牲にしてでも守ろうとする勇者が、私に言う

「いやだよ…もう…離したくない」

辛うじて残った体力で、彼を引き寄せ、彼を抱き締める

「君の名前だってわからないのに、君を見殺しにしたくないよ」

「でも…貴女は…」

「もう、いいんだよ…」

彼を抱き締めて、彼に言う

「自分を犠牲にしないで、いいんだよ?誰も、君を責めない。私が…責めさせない」

「…だ」

彼は―――

「こんなところで、貴女を殺させない」

私の腕の中で―――

「もう、僕が大切な物を傷つけさせない。貴女が生きてくれるなら、僕の命なんて「そんな怖いこと言わないでよ!!」

怒鳴ってしまった
彼に、思い切り怒鳴った

「もう、君が傷つくの見たくないよ!!君だって幸せになってよ!!私は、君の…幸せを願いたいんだよ!!」

続けて、言う

「一緒に生きてよ!!いっぱい綺麗な物や美味しい物知ろうよ!!悲しいことも、半分こしようよ!!」

「僕は…ぼくは!」

『君は、どうしたかったんだい?』

その声が聞こえた瞬間、私と彼は―――光に包まれた

・・・

僕は黒勇者と共に、白い空間にいた

『…君は、彼女を守りたい?』

声がする

「守りたい」

僕は、言う

「彼女は、僕に希望をくれたから…」

『なら、なんで『自分』を大事にしないんだい?』

言っている意味が解らなかった

『貴女は、彼が好き?』

「好き…」

黒勇者が、僕を見て言う

「彼に…幸せになってほしい」

『そう、君達は互いを思いあっている』

声は続ける

『でも、君は『自分』を蔑ろにしている。―――彼女が大切にしたい『君自身』を、ね』

黒勇者を見る

彼女は悲しそうだ

『君は、どんな意味の名前をもらったんだっけ?』

僕の名前…

『邪魔な物は、外してあげるよ。…思い出して、『君自身』を―――』

〜〜〜〜〜〜

「ほぉら!―――!」

お父さんがぼくを持ち上げてくれている

「太陽がまぶしいな!お前もこんな『光』になれよ!」

「そうね」

お母さん!

「あなたは、優しい『光』のように、皆に優しくしてね」

わかった

「暗いだけの時代は、いつか消える。闇は消えて、光が世界に戻るんだ」

どういうこと、お父さん?

「みんなが明るく、楽しく出来る世界だ」

やみがかわいそう…

「え?」

お父さんの話だと、やみが一人ぼっちだから…

「…そうだな。でも、光も闇も、おんなじなんだ」

そうなの?

「でも、暗いとみんな怖い。だから闇は光になって、みんなに笑顔を与えるんだ。そして、夜には落ち着ける闇を皆に上げるんだ」

よくわかんない

「いつかわかる時がくる。こんな時代を照らしてくれよ―――」


『レイト』


〜〜〜〜〜〜

『思い出してくれたんだね、レイト』

「僕にも…あったんだ」

瞬間、記憶の濁流に飲まれる

―――幼い日、母は僕を預かってほしいと頼んだだけだった
―――それを無理矢理教団が買い取って…

―――父さんもそうだ
―――村の為、僕の生活の為
―――ホーネットの元にいったんだ

―――あのホーネットも、何度も謝ってくれていたのに!

『おめでとう、レイト。君なら到達できると思っていたよ』

「貴方は?」

『CounterReflect、そのものさ』

声は、嬉しそうに僕に告げる

『元々、僕自体は『護る』事を騎士に覚えさせる為の、抑制の魔法だったんだ。僕と対話して、初めて騎士になれる』

けど、と彼が続ける

『そんな古いやり方は入らないって、僕自体改造されていった。反射と反撃をして、相手を殺す物に、ね。代わりに彼らは失ったんだ』

「何を、失ったんですか?」

『本当の、CounterReflectの向こうにある力』

彼は、黒勇者を見て言う

『愛する人を護りたい、それが最低限の条件。そして―――愛する者を護るという事が、自分も護らなきゃいけないのに気付くのが合格。でも、君はある意味それ以前だった。』

「どういうこと?」

黒勇者が尋ねる

『教団のせいで、名前を無くしてしまっていたんだ。アクアスみたいな例は殆ど無いんだよ、本当は』

「でも、アッシュさんは…」

『彼らみたいに大人になってからなら覚えてられる。子供のうちは消しやすいんだ』

「酷い…」

黒勇者が悲しそうに嘆く

『でも、君は思い出せた。だから新しい力をあげよう』

それは温かい、光の塊だった

『それに名前を付けてあげて。君だけの、君の力なんだから』


この光―――

「レイト」

『それはダメだ』

瞬間、否定される

『それにレイトって付けたら、君の名前がなくなってしまうよ!』

―――グオォォン!

声がそういった瞬間、ゆれがきた

『まずいな…もう時間がないのか…』

「…僕の名前はなくなっても良い。だから…」

「良くないわよ!!やっと君の名前がレイトって解ったんだよ!?」

『そうだよ!やっと取り戻した名前を捨てるのかい?』

「捨てるんじゃない!託すんだ!!」

力に念じながら、僕は言う

「希望を、光を!皆に届ける力」

僕は続けて言う

「みんなを護る、一対の羽!悪を断ち切る、光の剣!」

「僕に希望をくれた、貴女の大切な物を…僕に護らせてくれ!!」


「LAY-T(レイト)!」

瞬間、僕は光に包まれ―――


光が収まり、私の目に最初に入ったのは、また光だった

光が形を作り、レイトくん―――いや、彼の周りで形を作る

まず、持っていた剣が変わった
ギロチンを思わせる太い剣から、細身の長剣へ

次に光は、羽を形どった

その羽は―――

「私のと、同じ?」

サキュバス種特有の、蝙蝠の羽
それを、白い光が形作ってる

「貴女が、僕の希望だから」

そういうと、彼は―――

魔力炉を持って、飛び立った

・・・

LAY-T―――

僕が手にした、新しい力

光を形に変換して、思いのままのすることが出来るこの力は、僕に翼と、結界を張る力をくれた

結界で魔力炉を持ち上げ、そのまま空高くまで持って行く

空高く、高く、もっと高く―――


そして―――

「こんな理不尽は、要らないよ」

結界を上に投げつけ―――

「僕は理不尽の絶望になってやる。お前ら理不尽が来るなら―――」

落ちてきたそれを―――

「僕はお前らが何も出来なくなるくらい、お前らの絶望になってやる!!」

剣で思いっきり斬りつける!

「みんなから笑顔を…うばうなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

剣で斬りつけた瞬間、結界もなくなり―――



―――ドゥオオオオォォォッォォン!



それは、爆発した

爆風を受けても、LAY-Tで護られている為か、全く、無傷だった
が、その直後―――

なぜか、僕の体は落下し始めた

―――LAY-Tの効果が切れたのか!?

こんな高いところから落ちたら、流石に死ぬだろう

そんな風に呑気に考えながら、僕は―――

「―――!!」

下から僕を抱き抱えてくれる、愛しい温もりに身を任せた

11/11/26 05:10更新 / ネームレス
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