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エピソードファイナル〜目覚め〜
「ここは…」

「カリム、じっとして…」

騎士団長の人が、目を覚ました

それを眺めながら、私は考える


何で彼は、あんなにまで皆を逃がそうとしたのだろう


実際、ここ最近の彼は可笑しい所が多かった

まるでわざと私が間に合うように、任務をこなしている
そして、失敗する

こんな繰り返しをすれば、自分自身が辛いのは解っている筈だ

なぜ…

「あんた!黒勇者だよな!?」

と、先程の騎士団長が、私に声を掛けてくる

「大将は!?大将は連れて来れたんだよな!?」

「カリム落ち着いて!!勇者様は…」

「んな訳ないよな!?大将も、救ってくれたんだよな!?そうだよな!?」

彼の言葉に、気になる言葉があった

「キュー君を、救う?」

「アンタ、救ってくれたんだろ!あの子を、無理矢理でも連れてきてくれたんだよな!?」

その言葉に、私は心が痛む
彼を、連れて来れなかった、自分自身の弱さに

「…なんで」

無言が、答えと解った彼は、私の胸倉を掴んで言う

「なんであの子を助けないんだよ!!あの子は、アンタを信じてたんだぞ!!」

「え…?」

「自分を犠牲にして、他の勇者や俺たちを助けようとして!俺たち以外も救えるからって!!なんでアンタがあの子を救ってくれないんだよ!?」

泣きながら、私の胸倉を掴みながら崩れる彼の言葉に、私は冷や水を浴びせられた気分だ

―――キュー君が、私を信頼して、る?

「私…そんな…」

あの子が辛い選択をしたのは気付いていた

けど、それがなんなのか気付こうとしなかった

「…あの子はよ」

騎士団長が言う

「あの子はよ、人として見られてないんだよ…」

その言葉に、近くにいた魔物達も耳を傾ける

「白勇者は兵器で、替えが効く。だから戦果をあげて壊れろ。…そんな事を平気で言われていたんだよ…」

「そんな…」

私はつい声を漏らしてしまう
そこまで酷いことに、嘆きながら…

「自分はどうなってもいいから、みんなが笑える世界ならって自分を壊してでも…そんな中、アンタが希望だって言ってたんだぞ!!」

「なら、貴様らはなにかしたのか?」

横から、リートが口を出す

「リリス様を責めるのは勝手だが、貴様らはあの勇者を助けれるよう努力したのか!?」

「あぁしたさ!!あの子が少しでも苦しまないように、誰も傷つけないようになんとかしようとしたさ!!でもな、あの子にとって、それすら自分の罪にしちまうんだよ!!」

リートと、騎士団長が睨みあう

「…良いのよ、リート」

「リリス様!しかし…」

「騎士団長さん」

私は、彼に頼んだ

「彼の行く場所、教えて」

今度こそ―――

「今度こそ、彼を助けるから」

・・・

「この…役立たずが!!」

「うぐっ!!」

大司教の蹴りが、僕の鳩尾に入る

吐きそうになるが、そんな暇はなく、また暴力を振るわれる

「魔物を逃がしたばかりか、戦力を相手に取られるとは何事だ!!この屑が!!」

「も、申し訳…」

言葉を発する度、痛がる度、その暴力は追加されていく
周りにいる人達も、見て見ぬ振りだった

「貴様に!DespairLance(ディスペアランス)の称号も与え!番号もくれてやった私に、恩を感じないのか!?」

体中が痛む

大司教が暴力という制裁をする時だけ、白勇者の術は解かれる
結果、体は弱くなり、体の痛みを堪えられなくなる

「CounterReflect(カウンターリフレクト)も!!貴様にくれてやったのに!!恩義も感じず、恩も返さんのか!?」

もう、声も上げられない
それ位痛めつけても、彼はやめない

「貴様に魔物への復讐のチャンスをくれてやって!結果がこれか!?これなのか!?」

最後に、思い切りお腹に蹴りを入れ、僕は動けなくなっている

「これを懲罰房へ!!朝一番に意識調整を行う!!」

「お言葉ですが、No.93にこれ以上の実験をすると、自我崩壊が「構わん!こんな使えん屑に、自我なんて高等な物必要ない!!」

僕は…

・・・

「う…うぅ…」

体中が痛む
その痛みのお陰で、僕は眼が覚めた

見えるのは、懲罰房の壁

―――あぁ、僕もここまでか

懲罰房に入ったら、次は実験用の部屋で実験の繰り返しだろう

今度こそ僕は、完璧な兵器になるのだろう


そう思った時、鍵が開き―――


「な、なんで貴女が…」

「今度こそ、助けに来たわよ」

そこには、ここでは出会えない筈の、黒勇者が立っていた

・・・

目の前の光景が、理解できなかった

「なんで貴女がこんなところに来るんだ!?ここに来たら「言ったでしょ、貴方を助ける為よ」

僕の言葉を遮り、彼女は言う

「時間が無いわ。急がないと大司教が来るわ」

そう言って、僕に手を伸ばす

「貴方の事を、口先だけで救いたいんじゃないの、今度こそ、絶対に―――」


「黙れ、魔物が」


瞬間、黒勇者の体が、何かに拘束されていく

「ああああああ!?」

「黒勇者!!」

その直後、まるで電流のような物が、彼女を襲う

「全く…神聖なる教団の施設に上がりこむとは…汚らしい」

そう言いながら、大司教が近づいてくる

「No.93。それを殺せ」

彼は、虫けらを見るように、黒勇者を見て言う

「そんな汚らしい生き物、生きているだけで害悪だ。殺せ」

息も絶え絶えで、弱りきっている黒勇者を見る

僕の視線に気付き、無理矢理作った笑顔で僕に返す

「だ…大丈夫…き…っと…助けるから」

「これを助ける?バカか貴様は」

鼻を鳴らし、黒勇者に言う

「これはただの兵器に過ぎん。これに感情などいら「ふざけないで!!」

大司教の言葉を遮り、彼女は言う

「アンタみたいな腐った人間が、神を説くな!!この子みたいに、皆を助けたいって思い、あなたにはないの!?」

「魔物如きがよく言う。貴様らはオスを生まず、最終的に魔物だけの世界にしようとしてるではないか」

「そんな事無い!!お母様が理想としてる世界は、そんな物じゃない!!」

弱っているはずなのに、辛いはずなのに、彼女は声を上げて言う

「貴方達人間と手を取り合っていけば、きっとよりよい世界が完成する!!私達は、それを願ってるだけなの!!」

「そう言って人間を襲い、無理矢理伴侶にしているくせにか?バカらしい」

「それは確かに問題だけど!貴方達みたいに!命を、消耗品にしたりはしない!」

「貴様ら魔物が居なくなれば、そんな事はしないさ」

黒勇者の言葉を、嘲笑いながら返す大司教

「もう良い。貴様ら魔物如きと話をしていたら…穢れてしまう」

そう言いながら、手には魔力の塊があった

「塵も残さず殺してやろう…シネェ!!!」


・・・

拘束魔法で拘束され、更には魔力を無理矢理流し込まれて、ボロボロの私には、もう避ける力が残っていなかった

この男には、慈悲もなにも無い

あるのは、自分が認められようとする欲だけ
その為に、この子や他の人間を平気に道具以下として見れる

魔物は、的当てゲームの的程度

自分の点数を上げる、道具でしかないのだ
そんなやつから、彼を助けられないなんて…

―――ごめんね

そう、そっと謝って、目を閉じた


ガキィン!


耳鳴りを起こしそうになる、ガラスが割れたような、鉄が砕けたような―――でも、聞き慣れた音が、耳に届く

「どういうつもりだ―――」

目を開いて、目の前を見る

「なぜ、魔物を庇う、No93!!」

目の前には、ボロボロだけど、剣をしっかり握って、構えて、私を庇うように前に立っている彼の姿だった

「…は失わせない」

「は?」

「この世界の希望は、失わせない!」

彼は、はっきりと言い放った

「黒勇者は、世界の希望だ!!彼女を…失っちゃダメなんだ!!」

「貴様…何をバカなことを!?」

「敵も愛せよ、というのが本当の教えのはずだ」

彼は、剣を構えて、言う

「それなのに、僕は…敵を憎んで、壊そうとして…」

かすれそうな声で、でもはっきり言う

「でも、彼女は!彼女は僕達を助けようとしてくれた!僕に温かさをくれた!!」

だから、と言うと少しこちらをみて、彼は宣言する

「だから、彼女は希望なんだ!希望は…これ以上消させない!!」

「ほざけ絶望が!!貴様如きが希望を容易く語るでないわ!!」

その眼に、狂気といえる位の憎悪を滾らせ、男は言う

「貴様らが言う事を私が考えなかったと思うか!?考えても、どう実験しても出来なかったわ!!出来ていれば、妻は…妻は!!」

そういうと、男は合図をし、それに合わせて兵士が出てきた

「貴様らまとめて処分してくれる!!やれ!!」

そういうと、5人はいるだろう兵士達が襲い掛かってきた

「そんな程度で―――」

一人目の剣を弾き、二人目の剣に当て、三人目と四人目の剣を防ぎ、五人目の剣ごと吹き飛ばし―――

「僕の『絶望』は砕けない」

それを、一瞬といって良い、僅かな時間でこなしてしまっていた

「僕は、黒勇者を守る!!」

そう言いながら、彼は敵を捌き始めていた

・・・

「はぁ…はぁ…」

あれから10分―――

倒した兵の数はもう100を超えていると思える
が、それでも兵が途切れない

ここが教団の本部だから当たり前だ

けど、ここであきらめたら―――

「ぐあぁ!」

黒勇者が、殺されてしまう

だから僕は―――
引かない、倒れない、疲れない

今の自分が、少しでも、贖罪できていると信じて―――

だけど…

「もっと兵を投入しろ!!奴はもう少しで倒れるのだぞ!!」

そう指示を出す大司教のお陰で、限界が近付きそうだった
もっとも、限界が来ても死守するつもりだから、問題はない

死んででも、彼女だけは守りきるつもりだった


「だ、大司教!!大変です!!」


そんな中、伝令の兵が、僕らにとって、吉報を持ってきた

「ま、魔物の兵が押し寄せてきました!!」

「そんな物、白勇者にでも―――」

だが、次の言葉だけは、僕も予想外だった

「相手の中には、No.17、No.30、No.96の三名が確認されました!!」


11/12/03 00:07更新 / ネームレス
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