連載小説
[TOP][目次]
サードミッション〜破滅〜
「そうですか…みつかりませんでしたか…」

アクアスを探しに行った騎士達からは、吉報は入ってこなかった

「お疲れ様でした。…大司教には私から連絡しますので休んでいて下さい」

「…お気遣い、感謝します」

彼らに急速の指示を与え、僕は大司教に連絡をする

「大司教、No.93です」

「…No.17は見つからなかったのだな」

連絡用水晶越しに、彼は僕に言ってくる

「ならば、そこにもう用はない。次の任務にいけ」

「―――は?」

彼は、今何を言った?

「次の任務だが―――」

「お、お待ちください!?No.17の安否がまだ「壊れた兵器にかまける時間などあるわけないだろ?」

大司教は言葉を遮り、続ける

「お前ら白勇者は魔物を殲滅する為の『兵器』だぞ?壊れて見つかれば修理するが―――」

瞬間、僕は聞きたくもない言葉を聞かされた

「見つからない物は、捨てるに決まってるだろ?お前らの代わりなど、また作ればいい」

「そ…んな…」

「まさか、自分が本当の勇者のつもりでいたのか?…おごがましいにもほどがあるわ!!」

大司教は続けて吐き捨てる

「貴様ら人造勇者なんぞ、魔物を殲滅する為の『兵器』に過ぎんわ!!時間をかけてそこまで作り上げてやり、勇者の称号をくれてやったのだぞ!?感謝でもしたらどうなんだ!!」

「―――そいつはおかしいんじゃありませんか?」

水晶で連絡を取っている後ろから、フォーエンバッハさんの声がした

「彼らだって生きてるんですよ?それをそんな言葉で「黙れ、没落騎士が」

遮られた瞬間、フォーエンバッハから怒気が放たれる

「魔物も討ち取れず、無駄死にした弟を出すような没落騎士の家系如きが、口を出すでないわ!!」

「弟は…ミハエルは無駄死になんかs「魔物と相打ちしか出来ん弱者が、誇り高き教団騎士の名を語ること自体がおごがましいだろうが」

「てめえ…」

大司教はニンマリとした嫌な笑みを浮べながら、彼に言う

「なんだ、その口の利き方は?…貴様ら第七自由騎士団は戦果も挙げられん軟弱者どもだろうが!」

「貴様ら二人とも!!戦果も挙げれないなら…その命無いと思え!!」

そう言って、通信は切られた

・・・

僕とフォーエンバッハさんは、お互い無言だった

「…すみません、私の為に」

「なんであんたが謝るんだ?」

フォーエンバッハさんは、軽く怒気を含みながら僕に言う

「あんたは現場で頑張ってくれている。あんたが謝る理由なんてないだろうが」

「でも…」

「少なくとも、踏ん反り返ってるおっさんとは違うんだ」

彼はそういうと、腰からなにかを取り出した

「弟がいた時には吸わなかったんだが…」

それは、薬草を紙か何かで包んだ物だった

「…体に害が出ますよ」

フォーエンバッハさんはなにも答えない

「ジパングに、遠征に行く話しがあったんだ」

彼は独白のように続ける

「その地方では、魔物と人間が共存しててよ…弟はそこに布教と、ある化け物の討伐にいったんだ」

「その化け物とは?」

ウシオニさ―――そうフォーエンバッハさんは吐き捨てるように言う

「再生力も異常、戦闘能力も下手な魔物以上…おまけに他の騎士共は弟を置いて逃げてきたんだ」

悔しそうに、しかしはっきりという

「そんな化け物を、自分の命張ってあいつは撃退したんだ…!なんであんな事言われなきゃいけねぇんだよ…」

と、彼が顔を上げて僕を見て言う

「すまねぇな、こんな話してよ…」

「いえ…」

この人の弟は、自分の命を他人の為に使えた人なのか…

僕はそう思うと、悲しくもあり―――

同時に、僕が出来なければならない事だと思えた

「凄い弟さんですね…」

「そう言ってくれて嬉しいぜ…大将」

「え?」

フォーエンバッハさんが、聞きなれない言い方で僕を呼ぶ

「俺たちのリーダー格なんだから、大将であってるだろ?」

「…そう、なのでしょうか?」

「そうだと思うぜ」

笑いながら、僕の頭を軽く撫でてくれる

「ただ、間違っても―――自分の命は蔑ろにしないでくれよ」

「え?」

「大将までいなくなっちまったら、俺は耐えられないから、よ…」

そう言って、彼は出発の準備に戻っていった

・・・

次の任務地は、ここから少し離れたところにある拠点だった
そこにいる他の白勇者の増援として、僕達は呼ばれた事になる


が、ついた瞬間に僕ら全員が感じた

「こりゃ…ひでぇ…」

増援なんて、本当に必要なのだろうか、と…

「こんなの…人間に出来るのかよ…」

騎士団の誰かがこぼす

そう―――それ位酷い物だった

「建物が…溶けてる?」

そこにある全てが、なにかに溶かされているみたいだった

と、その溶けた瓦礫の影から、人影が出てきた

「…」

―――大きい

背が高く、体格もしっかりしている彼は、正に戦う為に生まれてきたかのような体格だった

「貴方が…No.30」

その巨漢―――No.30は首を縦に振る

「増援部隊の第7自由騎士団、及び白勇者のNo.93です」

握手の為に手を出すが、彼は首を横に振る
そして、近くの瓦礫を持つと―――

「これが…貴方の力…」

―――その瓦礫は、音も立てずに溶けていってしまったのだった

・・・

彼、No.30の話によると、魔物達は現在近くの森に避難しているとの事だ

街を襲ったものの、魔物達はほぼ無傷で、家などを破壊することしか出来なかったとの事だ

それを聞いて、残念な反面―――ホッとした自分に、自己嫌悪する

「あんた…アッシュ=ガルダードじゃないか」

No.30を見て、フォーエンバッハさんがそう呼ぶ
彼は、ただ頷くだけだった

「やっぱりか…。英雄のあんたが、なんでこんな…」

「英雄?」

「大将はしらねえだろうが、この人はすっげえ騎士だった人さ!」

まるで自分の事のように、嬉しそうに説明をしてくれる

「弱気を助け、悪しきを挫く!本に書いたような本物の騎士だったのが、アッシュ=ガルダードなんだよ」

そう言われ、No.30―――いや、アッシュさんは地面に文字を書き始める

[そう呼ばれてたのは、昔の話だ]

[昔、無抵抗な敵を逃がし、今では罪を償う為に戦っている、ただの刑務者だ]

彼はそう書くと、また動きを止めた

「貴方は、喋れないのですか?」

[実験の影響で、俺の舌は溶けてしまったよ。今はコントロールできるが、な]

そう書くと、彼は立ち上がり、森へ向かおうとする

「…れでも」

後ろからする声に、アッシュさんは振り向き―――

「それでも!あんたは俺が憧れた英雄なんだ!!」

フォーエンバッハさんは、堂々と宣言した

それに答えるように…アッシュさんは、軽く笑いかけた

・・・

僕とアッシュさんはそのまま森へ入っていく

第7自由騎士団は、そのまま待機してもらい、逃げてきた敵を倒してもらうことにした
理由はきわめて単純

森は、魔物の活動範囲だからだ

人と共存で居ている魔物は、特に森の魔物であることが多い
つまり、ここは奴らの縄張りなのだ

そうでなくても、水生の魔物がいた場合、そこは湿地であることが殆どであるし、なにより―――

「私達二人に襲ってこないで、隠れてやり過ごし、か…」

隠れた魔物に、仲間が囚われては元も子もない

と、歩いていく最中の事だった

「…久しぶり、ね」

目の前に現れたのは―――

「No.30、先に先行してください」

僕が憎むべき敵

「アレは、私の獲物です」

黒勇者の姿だった

・・・

「この間は、逃げてごめんなさい」

頭をさげ、僕に謝る黒勇者

「貴方を救済しようとしておきながら、貴方から逃げてしまったわ」

僕はなにも返さない

「だから、今回は逃げないわ」

彼女は、そのまっすぐな瞳で僕を見て言う

「改めて、貴方達に言うわ」

彼女は呼吸を整えるかのようにし、言い放つ


「私は黒勇者。自由の為、共存の為、そして…救済の為に戦う、一人の魔物の勇者よ」


その言葉に、彼女の感情が、気品が詰まっていた

「…とを」

けど、僕には

「戯言を言うなぁ!!」

その感情を、優しさを、信じることなんて出来なかった

「お前ら魔物が救済なんて口にするな!!」

背中から剣を取り出し、僕は構える

少し離れたところで、アッシュさんが戦闘準備をするが―――

「アレは私が仕留めます!!早く先に行って下さい!!」

僕は構わず制止した

「…貴方一人で戦えると思ってるの?」

「私から逃げてしかいないくせに強気ですね」

勝機は、恐らく半々―――

僕には決定打はないし、黒勇者の攻撃は僕には通じない

まさに、コインの表裏と同じなのだろう

「今度こそ…今度こそ!」

僕は構えた剣を向け、彼女に宣言する

「今度こそ、貴方を浄化してみせる!!」

「なら私は…今度こそ、貴方を助ける!!」

言い終わると同時に、彼女が動き出した
13/04/03 12:15更新 / ネームレス
戻る 次へ

■作者メッセージ
〜〜次回予告〜〜

黒勇者と白勇者の対峙は始まってしまった

交差する二人の思い

「貴方達と私達は!分かり合えるのよ!!」

「だったらなんで!!貴様らは奪っていくんだ!!」

しかし、その中で、黒勇者はある行動に出る


その行動を見て、勇者とは、守るとは何かを考え始めるNo.93

そして、彼の中に…ある感情が芽生え始めるのだった

次回、「望まぬ戦い、勇者であること、届いた思い」

「私達にだって…感情はあるのよ!!」

―――

どうも、ネームレスです

さてさて…

そろそろ中盤に差し掛かってきたこの物語ですが…


一体、どう進んでいくのでしょうね

と、言うのも…当初は読みきりと同じ流れにするつもりでしたが、いかんせんそうならなくなりつつあります

とは言っても、きちんと黒勇者は白勇者を助けてくれますので、そこはご安心を


それでは、今回もここまで読んで頂きありがとうございました!
次回もお楽しみに!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33