本当の強さ
ライカさんに言われ、自警団の所にまで僕らは行く
ここで訓練に参加すると貰えるらしい
「訓練に参加してって、変だねゲヘナ」
「確かに。普通訓練を付けたら、とかなのにね」
だが、僕らにはお金があまりない
いくらかあれば滞在費と生活に当てる分が出てくるだろう
と、自警団の入り口のところに誰か立っている
あれは…天使?
親魔物領に天使がいるのは珍しい
そう思いながら見ていると…
「貴方達がライカに言われてきた人達?」
と、声を掛けられた
「はい。私はゲヘナ=クレッセント。彼はナナイ=クレッセントです」
ゲヘナが自己紹介をしてくれる
「…うん。中々強そうね貴方」
と、天使は僕に言ってきた
「私はデューナ=ダラン。今回訓練の依頼をしたのは私よ」
と、今回の趣旨を聞く
「今回は自警団のみんなに、貴方と私の戦闘の経緯をみてもらう事が依頼になるわ」
続けて彼女は言う
「その内容次第では、追加報酬がでるから、頑張ってね」
そう、楽しそうに彼女は言っていた
「…未熟者ですが、よろしくお願いします」
僕も、なぜだろう
自然と、武者震いがした
・・・
「これより、実戦訓練を開始する!」
自警団の偉い人が宣言する
「ナナイー!頑張ってー!」
遠くからゲヘナの声が聞こえる
目の前には、先ほど話をした天使のデューナさんがいた
僕は目の前の相手に集中する
「試合開始!」
僕は開始の号令と共に、彼女に斬りかかる
大抵は、これだけで終わってしまうからだ
そもそも、ほぼゼロ距離での回避なんてーーー
「ん〜、まず奇襲を仕掛けるのは正解。そうすれば、大抵の人はそれだけで倒せるからね」
と、あろう事か避けきっていた
「よっと!」
さらに、僕の追撃に合わせて、そのままミドルキックまでして来ている!
とっさの事なので、僕は極限までダメージを受けないよう、自分から後ろに飛ぶ
が、それでもーーー
「グッ…」
かなりのダメージだった
彼女は、へぇ、と笑いながらこっちを見る
「あの一撃をそこまで抑えるんだ…。中々ねぇ〜」
でも、と彼女は続ける
「自ら突進っていうのは微妙かしらね。まずは砂で目潰しをしたり、相手の行動を制限しなきゃ」
「…」
僕は無言で刀を鞘にいれ…
再び走り出す!
そしてーーー
「セイッ!」
抜きはなった刀を、何回も、振り抜く!
「うん、太刀筋は実践向き。威力も申し分なし。スキルを使わないと止めきれないかぁ……『利剣乱舞』」
と、彼女がボソッと言った瞬間だった
なにかーーー
そう、なにか『斬撃』のような物が、僕の斬撃を防ぎきった
ーーー意味がわからない
こうも、容易くかわされさまう
ーーー我慢、出来ないじゃないか
と、彼女が後ろに飛び、体制を整える
「ふぅ…そしたら、今度は私からも攻め始めるわよ」
僕は刀を収め、防御の構えをとった
「まずは牽制……『シングルショット』!」
そう、彼女が規格外の衝撃を飛ばしてきた
僕もすかさずかわしてーーー
「からのぉ、『剛殺斬』!」
彼女の策通り、一撃をもらう場所にいた
「させ…るかぁ!」
が、僕も応戦し、刀を抜き放つ
一瞬、いやな感覚がした気がするが、気にしないで受け止める!
が、桁違いのパワーで、僕は後ろに吹き飛ばされてしまった
「うん、反応がいいね。こっちも体が温まってくるわ」
「…ハ」
「?」
こんな強い人、久しぶりに出会えた
「ハ、ハハ」
ゲヘナに怒られるけど、気にしない
「ハハハハ…」
だって
「ハハハハハハハハ!」
父さんみたいに、本気で戦える相手がいるんだから!
「ようやくだ!ようやく、本気で戦える!」
まるで取り付かれたように、僕は叫んだ
「戦う、か…」
彼女が遠い目をしながら、僕に聞いてくる
「ねぇ、あなた、ナナイ君、だったわね。あなた、たしか教団で働いてたのよね?一つ、訊いていいかしら?」
「なんでしょう?」
「…あなたは、いったいなんのために戦うの?」
彼女が怪訝そうな顔をしながら、僕に聞いてくる
僕が戦う理由?
「ゲヘナを守る為」
決まりきった事だ
ゲヘナを守る為、僕は父さんから学んだんだ
「いまの僕は、おそらく戦いに魅入られてます…。でも、根底はそれだけです」
だからーーー
「貴女を倒せたら、よりゲヘナを守れる!だから貴女と戦えて、嬉しいんだ!」
ーーーカラン!
僕は鞘を落とし、刀を両手で持ち始める
「久しぶりに…僕は戦える!」
「そう、いい答えね。」
けど、と彼女は僕に告げる
「80点よ。100点じゃあ、ないわ。回答そのものは100点だけど、その前提じゃダメよ。今回は勝負であって戦いじゃない。勝つことだけが強さじゃないわよ。」
瞬間、空気が変わる
冷たく、周りを否定し、己のみを肯定する空気
「……でも、その答えは好きね。いいわ。さっきの二倍くらい、強くなってあげる。」
纏っていた空気が変わり、気配すら変貌する
「……ちゃんと相手を見て、学びなさい。それも強さよ」
自然と、彼女から殺気が放たれる
―――心地よい
これだけの強者と戦って勝てたら、僕はよりゲヘナを守れる
だから―――取って置きを使おう
「…黒ノ太刀、一ノ型から十三ノ型迄」
呼吸を整え、身体の感覚を整える
後十三回
僕の全てを…掛ける
「一ノ型!」
黒ノ太刀ーーー
父さんから継承した斬撃術である、殺人の為だけの魔技
ただただ人を一撃で沈める為だけに作られたこの技術は、僕以外継承出来なかったらしい
まぁ、僕が継承出来たのも偶然だ
だってーーー
「うわっ!」
足運びと呼吸のテンポ以外
「二ノ型!」
「な!」
決まりきった型がないのだから
「三ノ型!」
「くっ!」
三ノ型まで避けられるのはよくある事
けどーーー
四ノ型からが本当の勝負だ
「四ノ型ッ!」
相手もなんとか避けている
「五ノ型ッ!」
次も苦い顔でよける
「もう、厄介だなぁ……」
ふと、彼女が漏らす
が、気にせず僕は打ち込み続ける
これだけの強者相手に、本気で挑まないなんて、弱者である僕がしてはならないことだ
六ノ型
次は難なく避けている
ーーー呼吸が、読まれてる?
こんな事、父さん以外なかったのに…
「こんなに殺す気でこられたら…」
続けて、七ノ型を打ち込む
最も得意なこの型を、見破られた事は少ない
「間違って殺しちゃうじゃない……」
が、彼女も反撃してきた
その華奢な腕から、信じられない位重い斬撃が飛んできたのだ
黒ノ太刀が、相殺された
信じられなかった
まさか、黒ノ太刀が相殺されるなんて…
あれは、一撃必殺の斬撃なのだ
つまり、いまの僕は無防備で…
「まだ手加減はしてるけど……」
彼女から、濃度の濃い殺気が放たれる
「下手したら、死ぬわよ?……『烈風波』!『マッドアサルト』!」
もはや規格外で、更に異常な威力の攻撃に慣れてきたが、あたれば彼女のいう通り、死ぬ
僕は咄嗟に後ろに下がった
「お見通しよ!」
と、更に追撃する彼女
それに合わせるように、僕は八ノ型を打ち込む!
ーーーまた、相殺
が、構わず九ノ型、十ノ型と打ち込んでいく
それに合わせて、刀から異音が響き始める
「十一ノ型!」
後二発、それで全てを打ち切る!
彼女も余裕がないのか、直ぐにカウンターを打ち込んでくる
「十二ノ型!」
次が、最後だ
彼女も相殺しつつ、僕に攻撃するがーーー
「十三ノ型!」
先に、打つ!
…その時だった
ーーーパキィィン!
まるでガラスが砕けるように
「な…」
僕の刀が…砕け散ったのだ
ーーー未だに、信じられなかった
何年も使い続けていた、愛刀が砕けたのが、信じられなかった
「そこで余所見したら」
不意に聞こえる、勝者の声
「戦じゃ死ぬわよね?『刹那五月雨撃』!」
ーーーまるで、向かってくる雨だった
一つ一つの威力は少ないが、量が酷い
「クッ…!」
折れた刀で、蹴りでーーー
かわし、弾きーーー
なんとかやり過ごす
「で、どうする?」
不意に、声を掛けてきた彼女
「刀も折れて、もう戦えない?」
それはまるで試すように、僕に聞いてくる
「…だ…てな」
「ん?」
「まだ、負けてない…!」
僕は、折れた刀を構え、彼女に告げる
「僕は…負けられないんだ…負けたら…ゲヘナを、守れない…」
ふぅん、と彼女は言う
「なら、今から倒してあげる。…とっておきで、ね」
そういうと彼女の雰囲気がまた変わる
「……先に言っておくけど…………動かないでよ?」
突然、力を抜いてその場に立つ
「動いたら死ぬから」
その言葉の瞬間ーーー
溢れんばかりの殺気を、辺りに散りばめ始めた
「『空間殺法……“操”』!」
ーーー気がついたら、そこは荒地だった
自分の足場以外、全てがグチャグチャになっていた
まるで、元からそこは荒地だと言わんばかりに…
「…」
格が、違う
あの攻撃はまるで―――
「うーん!楽しかった!やっぱり強い子との勝負はいいわね!」
と、彼女から声が響く
「はしゃぎ過ぎて久しぶりに半分も本気だしちゃったわよ。ありがとね、ナナイ君。楽しかったわよ」
―――え?
今、彼女はなんていった?
半分の本気、と言わなかったか?
「さて、じゃあ総合評価。満点よ。攻撃の威力、移動の的確さ、どれも良かったわ!」
彼女は続けて言う
「これから気をつけて欲しいことは……まぁ、戦うこと自体には関係ないけど、自分よりも強い人と戦う時も、ちゃんと周りに注意することかしら?あなた、言ってたわよね?戦う理由は守るためだって。だったらなおさら周囲に気をつけなさい。もしかしたら戦いの最中に守りたい人が襲われちゃうかもしれないからね」
そう言いながら、彼女は微笑んだ
その、勝者の笑みを浮かべながら
「負け、た」
負けてしまった
例え訓練とはいえ、負けたのだ
しかも、半分の実力で
「また…」
「ん?」
「また、ゲヘナを守れないの?」
ーーーゲヘナを失う
世界が消えようが、滅ぼうが知らない
けどーーー
「また、ゲヘナを守れないのか…僕は…!」
僕が弱かったから、ゲヘナを守れなかったのに
また、僕は弱い、のか
そう言いながら、僕は膝をついてしまった
そう、僕は負けたのだ
―――また、失う
それしか、僕の頭にはなかった
・・・
ナナイが膝をついて泣き始めると、天使の方は怒りながらナナイに言う
「いくらなんでも落ち込み過ぎ!だから言ったじゃない、“その前提じゃダメよ”って!」
彼女が言うのは最もだ
それ位、ナナイが自分にかけた呪いは重く、辛い物だ
「あのね、負けたから全て終わったって顔してるけど、人がずっと勝ち続けるなんて、無理なのよ?人は必ず壁にぶつかる。壁にぶつからないと、成長しないわ。むしろ良かったじゃない、負けたのが今回で。負けられない時に負けるより、ずっとマシなのよ!」
と、彼女がナナイにげんこつをしようとした時だった
「ナナイ、私はここにいるよ…」
自分でも驚いた
彼女より、私の方が早く動けるなんて
「ナナイ…」
声を掛けながら、ナナイを抱きしめる
ーーーわかってるつもりだった
ナナイが戦闘で勝利に執着する理由を
もう一度私が死ぬのが、怖いのを
でも、ここまでだなんて…
「デューナさん…失礼を承知でお願いします」
「…なに?」
「ナナイに、もう一度戦いの評価を言ってあげて頂けませんか?…本当の意味が、きっと伝わってないから」
例え失礼でも、彼女から聞けないと、ナナイには伝わらない
私は、懇願するしかないのだ
「……わかったわ。今度は正しく伝わるように、よね」
深呼吸して、彼女は言う
「もう一度いうけど、評価は満点。半分って言っても、今回出せる限りの実力を出したわ。あとちょっとで、試合なのにあなたを殺しかねないところまで行ったのよ」
真剣に、伝えようと、彼女は告げる
「……だから、実力は申し分ない」
きっぱりと、そう宣言する
「だからあなたは…………いいえ、ここから先は、私じゃなくて、あなたが言うべき……よね?」
「ありがとうございます」
彼女に礼を言い、私は告げる
「ナナイ…」
多分、父が言うしかないのかもしれない
でも、それは叶わないのだ
父は、まだあの街にいるだろうし、何より、ここにいない
「貴方は、弱くない」
「…でも」
「デューナさんも言ってたでしょ?…試合を殺し合いにしかねない位、強かったって」
彼は俯く
「刀だって、ナナイの事を守ってくれたんだよ?…もう、何年も」
わたしは、彼に伝えなければならない
「それにね、試合を見てて私も思ったの…。ナナイは、世界一の騎士だよ」
私が感じた、本当の気持ちを
「これからも、私を守ってくれる?」
「…うん」
泣きながらだけど、彼は言ってくれた
私は、いや、私たちはーーー
強く抱きしめあった
・・・
抱き締めあって、直ぐの事だった
ナナイが、意識を失い倒れたのは
「え!?ちょ、ちょっとナナイ君!?」
と、デューナさんが慌てている
「…大丈夫です。黒ノ太刀の、代償ですから」
「え?」
黒ノ太刀は、その呼吸法と足捌き、そして殺意を高めた極度の緊張状態から打ち出される、十三回の死だ
それを打つのだから、当然過度なまでに体へ負担がかかり、倒れてしまう
十三回以内に相手を倒さなければならない必殺技
それがこの黒ノ太刀なのだと、デューナさんに説明する
「なるほど、ね…。そんな危険な技まで使って…道理で強いわけだ、ナナイ君」
と、軽く微笑みながら、他の自警団の人に医者を呼ぶ様声をかけてくれていた。
・・・
「しばらく安静に、だって」
目を覚ますと、ジト目で見てくるゲヘナと、苦笑しているデューナさんがいた
「ナナイ君、少ーしばかりやりすぎちゃったみたいねぇ」
と、苦笑というか呆れというか、そんな感じの顔を僕に向けてくる
「ナナイ。どうしても聞きたいんだけど、いいかな?」
と、ゲヘナから声が掛けられる
あれ、おかしい?
なんでか、ゲヘナの笑顔が怖い
「ナナイ、正直に答えてね?」
「はい…」
さっきの訓練で黒ノ太刀を使ったことを怒ってるのだろうか?
怒ってる理由が僕には全く思い当たらない
「ナナイ…自己鍛錬の内容、減らしてなかったの?」
「…な、何のこと?」
「さっきお医者さんに聞いたんだ…」
僕は嫌な汗をかく
今までの人生で、これに似た緊張感があっただろうか
―――父さんに怒られる時か、ゲヘナに怒られる時
これほど、緊張する瞬間は、恐らくない
「ナナイ!」
「ご、ごめん!でも僕弱いんだし!」
「それで鍛錬で体壊したら元も子もないでしょ!」
「それにナナイ君、弱くないしね〜」
と、怒られている横から口を挟むデューナさん
「実際、私の半分の実力まで出させたのなんて、ナナイ君が初だしね」
「…でも、僕は「ナナイの悪いところだよ?」
僕の言葉を遮るゲヘナ
「人に認められても、それを自分で認めない所」
と、拗ねたように言ってくる
そんな彼女をみて、僕は思う
あぁ、やっぱり彼女を守りたいから、僕は戦うんだ
「コホン!…いいかしら?」
と、ゲヘナに見入っている僕に、デューナさんは言う
「はい、今回のギルドからの報酬ね」
と、分厚い封筒を渡される
「?こんなに報酬ありましたっけ?」
と、僕とゲヘナは不思議そうに封筒を見る
「あ、もともとの金額に色々つけてねぇ〜30倍位になったから」
「「は?」」
僕らは同時に声に出す
サンジュウバイ
「って!そんな大金いt「さっきも言ったけど、初なのよナナイ君?」
と、僕の言葉がまた遮られる
「どういうことですか?」
「ゲヘナちゃん、私とあそこまで戦えた人何人いると思う?」
と、デューナさんがゲヘナに聞いてくる
「え〜と…」
「答えは0人。ナナイ君を除けば、ね」
と、なぜか自分の事のように嬉しそうにいうデューナさん
「それに自警団の皆も、いい勉強になったらしいし。そういった諸々でそこまで増えたのよ〜」
と、言う訳で、と彼女はその分厚い封筒をもう一度渡してくる
「だから、これは正当な報酬よ」
そこまで言われ、でも僕は受け取るべきか悩んでいた
僕がそこまで評価されていいものなのか、不安があるからだ
「…では、確かに受け取らせて頂きます」
と、ゲヘナが僕の代わりに受け取っていた
「ナナイ?ここまですごいって言われてるのに、それを無下にするのは失礼だと思うよ?」
と、ゲヘナが嬉しそうに笑いながら、僕に言う
「そう、だね…」
その評価に僕が相応しいか解らないけど、それを無下にするのは確かによくないことだと思う
「…この評価に恥じぬ様、精進します」
と、自然とそう言い、デューナさんにお辞儀をする
「うん。でもその前に少し体を休めてほしいかな?」
そうデューナさんが言うと、自然と笑い合えたような気がした
ここで訓練に参加すると貰えるらしい
「訓練に参加してって、変だねゲヘナ」
「確かに。普通訓練を付けたら、とかなのにね」
だが、僕らにはお金があまりない
いくらかあれば滞在費と生活に当てる分が出てくるだろう
と、自警団の入り口のところに誰か立っている
あれは…天使?
親魔物領に天使がいるのは珍しい
そう思いながら見ていると…
「貴方達がライカに言われてきた人達?」
と、声を掛けられた
「はい。私はゲヘナ=クレッセント。彼はナナイ=クレッセントです」
ゲヘナが自己紹介をしてくれる
「…うん。中々強そうね貴方」
と、天使は僕に言ってきた
「私はデューナ=ダラン。今回訓練の依頼をしたのは私よ」
と、今回の趣旨を聞く
「今回は自警団のみんなに、貴方と私の戦闘の経緯をみてもらう事が依頼になるわ」
続けて彼女は言う
「その内容次第では、追加報酬がでるから、頑張ってね」
そう、楽しそうに彼女は言っていた
「…未熟者ですが、よろしくお願いします」
僕も、なぜだろう
自然と、武者震いがした
・・・
「これより、実戦訓練を開始する!」
自警団の偉い人が宣言する
「ナナイー!頑張ってー!」
遠くからゲヘナの声が聞こえる
目の前には、先ほど話をした天使のデューナさんがいた
僕は目の前の相手に集中する
「試合開始!」
僕は開始の号令と共に、彼女に斬りかかる
大抵は、これだけで終わってしまうからだ
そもそも、ほぼゼロ距離での回避なんてーーー
「ん〜、まず奇襲を仕掛けるのは正解。そうすれば、大抵の人はそれだけで倒せるからね」
と、あろう事か避けきっていた
「よっと!」
さらに、僕の追撃に合わせて、そのままミドルキックまでして来ている!
とっさの事なので、僕は極限までダメージを受けないよう、自分から後ろに飛ぶ
が、それでもーーー
「グッ…」
かなりのダメージだった
彼女は、へぇ、と笑いながらこっちを見る
「あの一撃をそこまで抑えるんだ…。中々ねぇ〜」
でも、と彼女は続ける
「自ら突進っていうのは微妙かしらね。まずは砂で目潰しをしたり、相手の行動を制限しなきゃ」
「…」
僕は無言で刀を鞘にいれ…
再び走り出す!
そしてーーー
「セイッ!」
抜きはなった刀を、何回も、振り抜く!
「うん、太刀筋は実践向き。威力も申し分なし。スキルを使わないと止めきれないかぁ……『利剣乱舞』」
と、彼女がボソッと言った瞬間だった
なにかーーー
そう、なにか『斬撃』のような物が、僕の斬撃を防ぎきった
ーーー意味がわからない
こうも、容易くかわされさまう
ーーー我慢、出来ないじゃないか
と、彼女が後ろに飛び、体制を整える
「ふぅ…そしたら、今度は私からも攻め始めるわよ」
僕は刀を収め、防御の構えをとった
「まずは牽制……『シングルショット』!」
そう、彼女が規格外の衝撃を飛ばしてきた
僕もすかさずかわしてーーー
「からのぉ、『剛殺斬』!」
彼女の策通り、一撃をもらう場所にいた
「させ…るかぁ!」
が、僕も応戦し、刀を抜き放つ
一瞬、いやな感覚がした気がするが、気にしないで受け止める!
が、桁違いのパワーで、僕は後ろに吹き飛ばされてしまった
「うん、反応がいいね。こっちも体が温まってくるわ」
「…ハ」
「?」
こんな強い人、久しぶりに出会えた
「ハ、ハハ」
ゲヘナに怒られるけど、気にしない
「ハハハハ…」
だって
「ハハハハハハハハ!」
父さんみたいに、本気で戦える相手がいるんだから!
「ようやくだ!ようやく、本気で戦える!」
まるで取り付かれたように、僕は叫んだ
「戦う、か…」
彼女が遠い目をしながら、僕に聞いてくる
「ねぇ、あなた、ナナイ君、だったわね。あなた、たしか教団で働いてたのよね?一つ、訊いていいかしら?」
「なんでしょう?」
「…あなたは、いったいなんのために戦うの?」
彼女が怪訝そうな顔をしながら、僕に聞いてくる
僕が戦う理由?
「ゲヘナを守る為」
決まりきった事だ
ゲヘナを守る為、僕は父さんから学んだんだ
「いまの僕は、おそらく戦いに魅入られてます…。でも、根底はそれだけです」
だからーーー
「貴女を倒せたら、よりゲヘナを守れる!だから貴女と戦えて、嬉しいんだ!」
ーーーカラン!
僕は鞘を落とし、刀を両手で持ち始める
「久しぶりに…僕は戦える!」
「そう、いい答えね。」
けど、と彼女は僕に告げる
「80点よ。100点じゃあ、ないわ。回答そのものは100点だけど、その前提じゃダメよ。今回は勝負であって戦いじゃない。勝つことだけが強さじゃないわよ。」
瞬間、空気が変わる
冷たく、周りを否定し、己のみを肯定する空気
「……でも、その答えは好きね。いいわ。さっきの二倍くらい、強くなってあげる。」
纏っていた空気が変わり、気配すら変貌する
「……ちゃんと相手を見て、学びなさい。それも強さよ」
自然と、彼女から殺気が放たれる
―――心地よい
これだけの強者と戦って勝てたら、僕はよりゲヘナを守れる
だから―――取って置きを使おう
「…黒ノ太刀、一ノ型から十三ノ型迄」
呼吸を整え、身体の感覚を整える
後十三回
僕の全てを…掛ける
「一ノ型!」
黒ノ太刀ーーー
父さんから継承した斬撃術である、殺人の為だけの魔技
ただただ人を一撃で沈める為だけに作られたこの技術は、僕以外継承出来なかったらしい
まぁ、僕が継承出来たのも偶然だ
だってーーー
「うわっ!」
足運びと呼吸のテンポ以外
「二ノ型!」
「な!」
決まりきった型がないのだから
「三ノ型!」
「くっ!」
三ノ型まで避けられるのはよくある事
けどーーー
四ノ型からが本当の勝負だ
「四ノ型ッ!」
相手もなんとか避けている
「五ノ型ッ!」
次も苦い顔でよける
「もう、厄介だなぁ……」
ふと、彼女が漏らす
が、気にせず僕は打ち込み続ける
これだけの強者相手に、本気で挑まないなんて、弱者である僕がしてはならないことだ
六ノ型
次は難なく避けている
ーーー呼吸が、読まれてる?
こんな事、父さん以外なかったのに…
「こんなに殺す気でこられたら…」
続けて、七ノ型を打ち込む
最も得意なこの型を、見破られた事は少ない
「間違って殺しちゃうじゃない……」
が、彼女も反撃してきた
その華奢な腕から、信じられない位重い斬撃が飛んできたのだ
黒ノ太刀が、相殺された
信じられなかった
まさか、黒ノ太刀が相殺されるなんて…
あれは、一撃必殺の斬撃なのだ
つまり、いまの僕は無防備で…
「まだ手加減はしてるけど……」
彼女から、濃度の濃い殺気が放たれる
「下手したら、死ぬわよ?……『烈風波』!『マッドアサルト』!」
もはや規格外で、更に異常な威力の攻撃に慣れてきたが、あたれば彼女のいう通り、死ぬ
僕は咄嗟に後ろに下がった
「お見通しよ!」
と、更に追撃する彼女
それに合わせるように、僕は八ノ型を打ち込む!
ーーーまた、相殺
が、構わず九ノ型、十ノ型と打ち込んでいく
それに合わせて、刀から異音が響き始める
「十一ノ型!」
後二発、それで全てを打ち切る!
彼女も余裕がないのか、直ぐにカウンターを打ち込んでくる
「十二ノ型!」
次が、最後だ
彼女も相殺しつつ、僕に攻撃するがーーー
「十三ノ型!」
先に、打つ!
…その時だった
ーーーパキィィン!
まるでガラスが砕けるように
「な…」
僕の刀が…砕け散ったのだ
ーーー未だに、信じられなかった
何年も使い続けていた、愛刀が砕けたのが、信じられなかった
「そこで余所見したら」
不意に聞こえる、勝者の声
「戦じゃ死ぬわよね?『刹那五月雨撃』!」
ーーーまるで、向かってくる雨だった
一つ一つの威力は少ないが、量が酷い
「クッ…!」
折れた刀で、蹴りでーーー
かわし、弾きーーー
なんとかやり過ごす
「で、どうする?」
不意に、声を掛けてきた彼女
「刀も折れて、もう戦えない?」
それはまるで試すように、僕に聞いてくる
「…だ…てな」
「ん?」
「まだ、負けてない…!」
僕は、折れた刀を構え、彼女に告げる
「僕は…負けられないんだ…負けたら…ゲヘナを、守れない…」
ふぅん、と彼女は言う
「なら、今から倒してあげる。…とっておきで、ね」
そういうと彼女の雰囲気がまた変わる
「……先に言っておくけど…………動かないでよ?」
突然、力を抜いてその場に立つ
「動いたら死ぬから」
その言葉の瞬間ーーー
溢れんばかりの殺気を、辺りに散りばめ始めた
「『空間殺法……“操”』!」
ーーー気がついたら、そこは荒地だった
自分の足場以外、全てがグチャグチャになっていた
まるで、元からそこは荒地だと言わんばかりに…
「…」
格が、違う
あの攻撃はまるで―――
「うーん!楽しかった!やっぱり強い子との勝負はいいわね!」
と、彼女から声が響く
「はしゃぎ過ぎて久しぶりに半分も本気だしちゃったわよ。ありがとね、ナナイ君。楽しかったわよ」
―――え?
今、彼女はなんていった?
半分の本気、と言わなかったか?
「さて、じゃあ総合評価。満点よ。攻撃の威力、移動の的確さ、どれも良かったわ!」
彼女は続けて言う
「これから気をつけて欲しいことは……まぁ、戦うこと自体には関係ないけど、自分よりも強い人と戦う時も、ちゃんと周りに注意することかしら?あなた、言ってたわよね?戦う理由は守るためだって。だったらなおさら周囲に気をつけなさい。もしかしたら戦いの最中に守りたい人が襲われちゃうかもしれないからね」
そう言いながら、彼女は微笑んだ
その、勝者の笑みを浮かべながら
「負け、た」
負けてしまった
例え訓練とはいえ、負けたのだ
しかも、半分の実力で
「また…」
「ん?」
「また、ゲヘナを守れないの?」
ーーーゲヘナを失う
世界が消えようが、滅ぼうが知らない
けどーーー
「また、ゲヘナを守れないのか…僕は…!」
僕が弱かったから、ゲヘナを守れなかったのに
また、僕は弱い、のか
そう言いながら、僕は膝をついてしまった
そう、僕は負けたのだ
―――また、失う
それしか、僕の頭にはなかった
・・・
ナナイが膝をついて泣き始めると、天使の方は怒りながらナナイに言う
「いくらなんでも落ち込み過ぎ!だから言ったじゃない、“その前提じゃダメよ”って!」
彼女が言うのは最もだ
それ位、ナナイが自分にかけた呪いは重く、辛い物だ
「あのね、負けたから全て終わったって顔してるけど、人がずっと勝ち続けるなんて、無理なのよ?人は必ず壁にぶつかる。壁にぶつからないと、成長しないわ。むしろ良かったじゃない、負けたのが今回で。負けられない時に負けるより、ずっとマシなのよ!」
と、彼女がナナイにげんこつをしようとした時だった
「ナナイ、私はここにいるよ…」
自分でも驚いた
彼女より、私の方が早く動けるなんて
「ナナイ…」
声を掛けながら、ナナイを抱きしめる
ーーーわかってるつもりだった
ナナイが戦闘で勝利に執着する理由を
もう一度私が死ぬのが、怖いのを
でも、ここまでだなんて…
「デューナさん…失礼を承知でお願いします」
「…なに?」
「ナナイに、もう一度戦いの評価を言ってあげて頂けませんか?…本当の意味が、きっと伝わってないから」
例え失礼でも、彼女から聞けないと、ナナイには伝わらない
私は、懇願するしかないのだ
「……わかったわ。今度は正しく伝わるように、よね」
深呼吸して、彼女は言う
「もう一度いうけど、評価は満点。半分って言っても、今回出せる限りの実力を出したわ。あとちょっとで、試合なのにあなたを殺しかねないところまで行ったのよ」
真剣に、伝えようと、彼女は告げる
「……だから、実力は申し分ない」
きっぱりと、そう宣言する
「だからあなたは…………いいえ、ここから先は、私じゃなくて、あなたが言うべき……よね?」
「ありがとうございます」
彼女に礼を言い、私は告げる
「ナナイ…」
多分、父が言うしかないのかもしれない
でも、それは叶わないのだ
父は、まだあの街にいるだろうし、何より、ここにいない
「貴方は、弱くない」
「…でも」
「デューナさんも言ってたでしょ?…試合を殺し合いにしかねない位、強かったって」
彼は俯く
「刀だって、ナナイの事を守ってくれたんだよ?…もう、何年も」
わたしは、彼に伝えなければならない
「それにね、試合を見てて私も思ったの…。ナナイは、世界一の騎士だよ」
私が感じた、本当の気持ちを
「これからも、私を守ってくれる?」
「…うん」
泣きながらだけど、彼は言ってくれた
私は、いや、私たちはーーー
強く抱きしめあった
・・・
抱き締めあって、直ぐの事だった
ナナイが、意識を失い倒れたのは
「え!?ちょ、ちょっとナナイ君!?」
と、デューナさんが慌てている
「…大丈夫です。黒ノ太刀の、代償ですから」
「え?」
黒ノ太刀は、その呼吸法と足捌き、そして殺意を高めた極度の緊張状態から打ち出される、十三回の死だ
それを打つのだから、当然過度なまでに体へ負担がかかり、倒れてしまう
十三回以内に相手を倒さなければならない必殺技
それがこの黒ノ太刀なのだと、デューナさんに説明する
「なるほど、ね…。そんな危険な技まで使って…道理で強いわけだ、ナナイ君」
と、軽く微笑みながら、他の自警団の人に医者を呼ぶ様声をかけてくれていた。
・・・
「しばらく安静に、だって」
目を覚ますと、ジト目で見てくるゲヘナと、苦笑しているデューナさんがいた
「ナナイ君、少ーしばかりやりすぎちゃったみたいねぇ」
と、苦笑というか呆れというか、そんな感じの顔を僕に向けてくる
「ナナイ。どうしても聞きたいんだけど、いいかな?」
と、ゲヘナから声が掛けられる
あれ、おかしい?
なんでか、ゲヘナの笑顔が怖い
「ナナイ、正直に答えてね?」
「はい…」
さっきの訓練で黒ノ太刀を使ったことを怒ってるのだろうか?
怒ってる理由が僕には全く思い当たらない
「ナナイ…自己鍛錬の内容、減らしてなかったの?」
「…な、何のこと?」
「さっきお医者さんに聞いたんだ…」
僕は嫌な汗をかく
今までの人生で、これに似た緊張感があっただろうか
―――父さんに怒られる時か、ゲヘナに怒られる時
これほど、緊張する瞬間は、恐らくない
「ナナイ!」
「ご、ごめん!でも僕弱いんだし!」
「それで鍛錬で体壊したら元も子もないでしょ!」
「それにナナイ君、弱くないしね〜」
と、怒られている横から口を挟むデューナさん
「実際、私の半分の実力まで出させたのなんて、ナナイ君が初だしね」
「…でも、僕は「ナナイの悪いところだよ?」
僕の言葉を遮るゲヘナ
「人に認められても、それを自分で認めない所」
と、拗ねたように言ってくる
そんな彼女をみて、僕は思う
あぁ、やっぱり彼女を守りたいから、僕は戦うんだ
「コホン!…いいかしら?」
と、ゲヘナに見入っている僕に、デューナさんは言う
「はい、今回のギルドからの報酬ね」
と、分厚い封筒を渡される
「?こんなに報酬ありましたっけ?」
と、僕とゲヘナは不思議そうに封筒を見る
「あ、もともとの金額に色々つけてねぇ〜30倍位になったから」
「「は?」」
僕らは同時に声に出す
サンジュウバイ
「って!そんな大金いt「さっきも言ったけど、初なのよナナイ君?」
と、僕の言葉がまた遮られる
「どういうことですか?」
「ゲヘナちゃん、私とあそこまで戦えた人何人いると思う?」
と、デューナさんがゲヘナに聞いてくる
「え〜と…」
「答えは0人。ナナイ君を除けば、ね」
と、なぜか自分の事のように嬉しそうにいうデューナさん
「それに自警団の皆も、いい勉強になったらしいし。そういった諸々でそこまで増えたのよ〜」
と、言う訳で、と彼女はその分厚い封筒をもう一度渡してくる
「だから、これは正当な報酬よ」
そこまで言われ、でも僕は受け取るべきか悩んでいた
僕がそこまで評価されていいものなのか、不安があるからだ
「…では、確かに受け取らせて頂きます」
と、ゲヘナが僕の代わりに受け取っていた
「ナナイ?ここまですごいって言われてるのに、それを無下にするのは失礼だと思うよ?」
と、ゲヘナが嬉しそうに笑いながら、僕に言う
「そう、だね…」
その評価に僕が相応しいか解らないけど、それを無下にするのは確かによくないことだと思う
「…この評価に恥じぬ様、精進します」
と、自然とそう言い、デューナさんにお辞儀をする
「うん。でもその前に少し体を休めてほしいかな?」
そうデューナさんが言うと、自然と笑い合えたような気がした
11/07/23 01:47更新 / ネームレス
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