暗い夜空と小さな出会い(下)
―――最初に目にしたのは、彼が倒れる瞬間だった
誰かと争っていたのか、目の前で傷だらけで倒れる彼
最初は怖かったが、よく見ると、彼が死にそうだった
気がついたら、彼のことを助けるのに夢中になっていた
体が勝手に動き、気がついたら救急車も呼び終わっていた
そんな彼を見ていたら、あるビジョンが見えてきた
―――それは、幼馴染達が幸せそうにしているのを眺めている彼の視点
彼の視点でみた二人は、とても幸せそうで、嬉しい反面、悲しくもあった
そんな彼は他の女性の事も見ていた
が、恋愛感情を抱かないようにしていたようだ
それは願掛け
自分の友人の恋が実るための、ただの自己満足
彼はそれを理解した上で、その願掛けに拘った
―――なんで、そんな悲しい事をするんだろう
わたしは、彼に疑問を持った
そして、興味を持った
そうしたら―――
気がついたら、姿が変わっていた
彼が恋焦がれた、幼馴染の姿に―――
と、そこでまた変化が起きた
それは、髪が黒くなり、服も普段のわたしのものと同じになり―――
彼女とわたしを足した姿に変貌した
―――そっか、無意識に見てくれたんだ
わたしは嬉しくなる反面、なんとなく悲しくもなった
―――こんな地味な子、貴方には本当はふさわしくないよ
わたしはそう思いながら、救急車がきたのを見計らって、この場を後にした
・・・
彼が運ばれた後、わたしはその病院に行ってみた
なんとなくだが、道が分かった
なぜだかは知らないが
と、彼が運ばれた病院にきたはいいが、どうしよう
わたしはふと、そんな事を考えながら近くに隠れていた
そうしたら、誰か二人が走って入っていった
―――彼の友達だ
片方は彼の幼馴染、もう片方は古い記憶で3人でよくいた人の片方だ
二人とも顔が真っ青な状態で病院に走って入っていく
わたしもついていく事にした
そうしたら、彼の病室がわかるかもしれないから
・・・
結果として、それは大成功だった
彼が入院している部屋、彼の状態、彼の名前…
あげたらキリがない位の収穫だった
彼―――川崎宗弥の部屋は302号室
彼がここに入院するのは1週間
それまでに、彼に会って―――
そこでふと考える
―――彼に会って、どうしよう
恐らく彼は失恋したとさえ思っていないはずだ
彼はそれ位表面は強い
が、内面はとても悲しみにくれていた
自分が好きになって、人との関係を壊したくない
自分が我慢すれば、みんな解決する
そんな、自己満足と自己犠牲が、彼の無意識の中を支配していたのだ
そんな彼を、わたしはどうしたい?
わたしは―――
「埋めてあげたい…」
それはわたしの口からでた言葉
彼の心を埋めてあげたい
彼のことを癒したい
わたしは決心した
彼の都合に振り回されてもいいから、彼の心を満たすんだ、と…
・・・
「だれ?」
彼が目を覚ました
わたしはそのまま彼に近づいた
彼が驚きながらわたしを見る
仕方ないだろう
彼の思い人に似た女が突然現れたのだ
「あんた、だれだよ…」
「…貴方の隙間を埋めてあげる」
そう、彼の隙間を埋めるんだ
そう思ったが―――
月が隠れてしまった
―――不味い!
そう思ったわたしは、そのまま部屋を飛び出した
―――彼に本当の姿を見られたら嫌われる
だって、わたしは―――可愛くないんだもの
・・・
結局あれ以降彼が起きている間には、彼の病室には行けていな
天候が悪く、本当の姿を見られそうだから
だから、寝ている彼を見に行く位しかできなかった
―――起きている彼を満たしたいのに、何をやっているんだろう
そう思いながら、やはりわたしはいく事が出来なかった
・・・
彼が退院した日、わたしは影から彼の事を見送っていた
彼は元気そうにしながら色んな人に挨拶をしている
―――わたしも、彼に
そう思ったが、わたしは出ていく勇気がなかった
やっぱり、彼には―――
・・・
その後、何気なしに彼の行く方をみていたら、図書館へ行ったようだ
わたしも久しぶりに図書館に―――
と、ふと思う
―――わたし、いつ図書館に行ったんだっけ?
なぜだろう、思い出せないのに、覚えている
そうこうしているうちに、彼が本を読み始めた
彼が読んでいるのは魔物に関する学術書
―――勉強家なんだ
わたしはそう思いながら、近くにあった恋愛小説を読み始めた
「!?」
その内容は、恋愛小説には少々過激すぎる内容が載っていた
―――え!?おしりはちょっと!
―――うわ!ロープとか!?
わたしは気が動転しそうになっていた
「君、大丈夫?」
と、誰かが声をかけてくれた
「あ、だいじょうぶで…」
―――彼が、目の前にいた
・・・
「…で、君はだれなの?」
「その…」
あの後、逃げようにも彼に捕まってしまい、彼に連れられカフェにいる
正直、逃げようとした反面、彼に捕まったことをなぜか嬉しく思う自分がいる
「言っとくけど、俺こう見えてもあった人間の事は覚えてるんだ。でも君の名前はわからないんだよね」
「…あの、その…」
彼は呆れているのだろうか?
見たところなにか浮かれているように見えるが…
「…んじゃぁさ、単刀直入にきくよ?―――君が助けてくれたドッペルさん?」
「!?!?」
なんで、彼が覚えてるの!?
「やっぱそうか!?」
彼は大声を出す
周りがその声に反応してこちらを見てくるが、彼は気にしない
「ありがとう!ホント、ありがとうな!?」
「あ、えと、その…」
わたしは恥ずかしくなり、下を向いてしまう
―――彼に喜んでもらえるのは嬉しいのだが、気恥ずかしい
「んじゃぁさ、どこ行きたい?」
「はぇ?」
「お礼にどこでも荷物持ちでついてっちゃうよ〜」
と、彼は心底嬉しそうに言ってくる
それはわたしもたまらなく嬉しいが―――
「いえ、特にないので大丈夫ですよ…」
わたしは遠慮した
もし、夜また月が出なかったら…
そう考えるだけで、わたしは恐怖した
「…そうですか」
彼が悲しそうに答える
彼を悲しませたくないのに…
「だったら、俺のワガママに付き合ってもらえませんか?」
そう、彼は提案してきた
・・・
「いえ、特にないので大丈夫ですよ…」
これは正直予想通りの回答だった
まず、彼女がドッペルゲンガーと分かった時点で、彼女があの場から去った理由も予測できてたし
―――彼女は、自分の本当の姿を誰にも見られたくないのだろう
ふと、俺はある事を思いついた
なんで思いついたのかわからないが、これは彼女の事を知る唯一のチャンスかもしれない
「だったら、俺のワガママに付き合ってもらえませんか?」
さて、どうなるかな
・・・
わたしは彼に連れられて、ついて行く
彼のワガママ、それは一緒に来てほしい所があるという事だった
わたしは躊躇ったが、彼に強引についてきてほしいと手を握られ―――
気がついたら、一緒に歩いていた
手を繋いだまま
「「…」」
お互い無言
わたしは恥ずかしくて声が出せないが、彼はどうなんだろう
ふと、彼を見てみる
「…///」
彼もなんだか照れているみたいだ
「フフッ」
ふと、漏れてしまう嬉しさ
「ん?どうかしたの」
「あ、その…なんでもないです」
彼もわたしのことを意識してくれている
それが溜まらず嬉しいが…
どこか悲しくなった
なぜなのか、わからないが…
「っと。つきましたよ」
と、そこは公園
どこかで見た覚えがあるのだが…
「あの、ここは?」
「貴方が俺を助けてくれた場所ですよ」
あぁ、だから見覚えがあったのか
あの時は夜だったからわからなかったが、こんな場所だったのか
「ここ、昔よく遊びに来てた公園なんだ」
今じゃ寂れてるけどね、と、彼が呟く
確かに寂れているが、いい場所だと思う
落ち着いていて、綺麗で―――
「んじゃ、俺のワガママいいますね」
唐突に言い始める彼
「俺のワガママなんですが…あの時助けてくれた『彼女』に会わせてください」
「え…?」
何を言い出すのだろう
わたしが助けたのだから、今わたしと会って―――
と、そこで気付く
「ごめんなさい、それは…」
つまり、彼は『本当のわたし』に会いたいのだ
だが、それだけは駄目だ
彼に嫌われてしまう
「確かに貴女の種族は本当の姿を見られるのを怖がってるかもしれません。けど、俺は『本当の貴女』にもお礼が言いたいんですよ」
彼の目は真剣だ
「それに…いや、これはまだいいか。とにかく、お願いします!」
そういって頭を下げる彼
彼がそこまでするのは一体何なんだろう
「…わかりました」
わたしは、答えた
「そのかわり、お願いがあります」
「なんです?」
わたしは、震えそうな声を震えさせないように、はっきり彼に頼んだ
「手を、握ってもらえますか?…変身し終っても」
彼は微笑みながら、わたしの手を握ってくれた
・・・
わたしは、自分から変身を解いた
出てくるのは、黒い小さな地味な『わたし』
さっきまでのわたしと違って、良い所がなにもない『わたし』
手を握って貰っているが、今すぐにでも逃げ出したい位だ
だって、彼に嫌われるに決まってるから
「どう、ですか…」
わたしは震えていた
彼にも気付かれているだろう
「…えぇ、とても綺麗ですよ」
「え…?」
今、なんて…
「ホント、綺麗だ」
顔を上げて、彼を見ると、彼は本当にわたしに見惚れているようで…
「じゃあ、ワガママの続きです。今からする質問に正直に答えてくださいね」
と、また唐突に言ってきた
気のせいか、若干声が震えているような…
「俺は貴女が好きになってしまいました。結婚を前提に付き合ってください」
…彼の言っている事が、わからなかった
彼は、イッタイナニヲイッテルンダ?
「貴女に助けられた時に一目ぼれしました。貴女を他の姿に変身させてしまったのは俺の一生の不覚です。だから一生掛けて貴女を愛します!」
「でも…私地味だし…」
「どこが!?めっちゃ可愛いから!?」
「服黒いし…」
「それが貴女の白い肌を際立たせるから問題ない!?」
「…冴えない、地味な女だよ?」
「俺には世界一可愛い女の子にしか見えない」
そう言って、彼は握っている手を放し―――
「まだ名前も知らないけど、俺は貴女以外もう見えないんだ。だから、付き合ってもらえませんか?」
彼はまた、頭を下げ始めた
・・・
「まだ名前も知らないけど、俺は貴女以外もう見えないんだ。だから、付き合ってもらえませんか?」
ハタからみたら気持ち悪い光景だろう
が、関係ない
俺は、本当に彼女しか見えてないようだから
彼女たちドッペルゲンガーは、自分の本当の姿を嫌っていると本にあった
が、俺にはなぜ嫌うのかわからない位、可憐で、綺麗で、俺に勿体無い位の女性が目の前にいた
―――助けられてる時みた、儚くも美しい少女
その彼女が現実に、目の前にいる
それが俺の思考を停止させ、本能がこう叫んだ
―――彼女といたい
俺は、改めて決意した
彼女に告白しようと
後は、彼女の返答次第だ
・・・
わたしは彼を見た
彼は真剣そのものだ
私も、彼に答えたい
でも、私は―――
「こんな地味な女より、きっと素敵な人がいますよ?…それでも私なんですか」
こんな酷い質問しか出来なかった
「…なら、もう一度あの姿に戻ってみて」
彼は頭をあげ、私に言う
もう一度、その姿になろうとした
「え?」
―――が、なれなかった
「ドッペルゲンガーって、自分には変身できないんだよね?変身出来ないってことは、俺の気持ちが本気だって証明にならないかな?」
彼ははっきり言う
「…私でいいの?」
「貴女じゃなきゃやだ」
泣きながら言う私に、きっぱりと言い放つ彼
近づいて来て、涙を拭ってくれた
「返事、聞けるかな?」
彼は不安そうに聞いてきた
「…浮気しちゃ、いやだからね」
泣きながらだけど、私は嬉しくて仕方なかった
・・・
わたしたちは、今公園のベンチにいる
そこでお互いの事を改めて話し合っている所だ
「じゃあ、名前ないんだ」
「うん…」
わたしは、ドッペルゲンガーという事と、いくつかのデジャビュがある事位しか話せなかったが
「なら、さ。家来てくれよ」
「でも、家の人に迷惑じゃ…」
と、彼はニシシと笑いながら言う
「大丈夫。両親の説得はもう済んでるから」
―――彼は、わたしと暮らす為に、両親にもはや説得をしていたらしい
わたしが断ったらどうするつもりだったんだろう…
「だから、一緒に住もう」
「うん…」
彼の隣で、わたしは心地よいあたたかさに包まれていた
・・・
「ヘレンちゃーん!あのヴァカ起こしてきて〜」
「は〜い!」
ここは川崎家
彼の家であり、わたしの家だ
彼の両親はわたしをあたたかく迎えてくれて、さらには一時的にこの家の養子になる事になった
―――自然発生した魔物は、戸籍とかがないため、一時的にどなたかの家のお世話になる事ができるらしい
そんなこんなで、彼の両親にも気に入られ、わたしは新しい名前をもらった
川崎ヘレン
それがわたしの名前だ
「ンガー…」
彼は気持ちよさそうに眠っている
起こすのが可愛そうだが、彼が遅刻して卒業できなくなってはこまる
彼のお嫁になれないのだから
「起きて…あ・な・た」
彼の耳元でこう囁く
とても恥ずかしいが
「キタコレ!…って、あれ?」
彼はすぐに起きてくれるのだ
「おはようシュウ君。もう朝ごはん出来てるよ」
わたしは彼に微笑みかける
「…おはようヘレン、今すぐ襲っていい?」
「だめ♪」
彼は真剣な顔で、とんでもない事を言ってくる
が、それにももう慣れた
「そろそろ起きないとお義母さんに怒られるよ?」
そういって、彼のほっぺに軽くキスをする
「へ、ヘレン!?」
「…続きは夜に、ね」
そう言って、わたしは部屋を出て行った
さて、今日も彼の為に、花嫁修業だ!
誰かと争っていたのか、目の前で傷だらけで倒れる彼
最初は怖かったが、よく見ると、彼が死にそうだった
気がついたら、彼のことを助けるのに夢中になっていた
体が勝手に動き、気がついたら救急車も呼び終わっていた
そんな彼を見ていたら、あるビジョンが見えてきた
―――それは、幼馴染達が幸せそうにしているのを眺めている彼の視点
彼の視点でみた二人は、とても幸せそうで、嬉しい反面、悲しくもあった
そんな彼は他の女性の事も見ていた
が、恋愛感情を抱かないようにしていたようだ
それは願掛け
自分の友人の恋が実るための、ただの自己満足
彼はそれを理解した上で、その願掛けに拘った
―――なんで、そんな悲しい事をするんだろう
わたしは、彼に疑問を持った
そして、興味を持った
そうしたら―――
気がついたら、姿が変わっていた
彼が恋焦がれた、幼馴染の姿に―――
と、そこでまた変化が起きた
それは、髪が黒くなり、服も普段のわたしのものと同じになり―――
彼女とわたしを足した姿に変貌した
―――そっか、無意識に見てくれたんだ
わたしは嬉しくなる反面、なんとなく悲しくもなった
―――こんな地味な子、貴方には本当はふさわしくないよ
わたしはそう思いながら、救急車がきたのを見計らって、この場を後にした
・・・
彼が運ばれた後、わたしはその病院に行ってみた
なんとなくだが、道が分かった
なぜだかは知らないが
と、彼が運ばれた病院にきたはいいが、どうしよう
わたしはふと、そんな事を考えながら近くに隠れていた
そうしたら、誰か二人が走って入っていった
―――彼の友達だ
片方は彼の幼馴染、もう片方は古い記憶で3人でよくいた人の片方だ
二人とも顔が真っ青な状態で病院に走って入っていく
わたしもついていく事にした
そうしたら、彼の病室がわかるかもしれないから
・・・
結果として、それは大成功だった
彼が入院している部屋、彼の状態、彼の名前…
あげたらキリがない位の収穫だった
彼―――川崎宗弥の部屋は302号室
彼がここに入院するのは1週間
それまでに、彼に会って―――
そこでふと考える
―――彼に会って、どうしよう
恐らく彼は失恋したとさえ思っていないはずだ
彼はそれ位表面は強い
が、内面はとても悲しみにくれていた
自分が好きになって、人との関係を壊したくない
自分が我慢すれば、みんな解決する
そんな、自己満足と自己犠牲が、彼の無意識の中を支配していたのだ
そんな彼を、わたしはどうしたい?
わたしは―――
「埋めてあげたい…」
それはわたしの口からでた言葉
彼の心を埋めてあげたい
彼のことを癒したい
わたしは決心した
彼の都合に振り回されてもいいから、彼の心を満たすんだ、と…
・・・
「だれ?」
彼が目を覚ました
わたしはそのまま彼に近づいた
彼が驚きながらわたしを見る
仕方ないだろう
彼の思い人に似た女が突然現れたのだ
「あんた、だれだよ…」
「…貴方の隙間を埋めてあげる」
そう、彼の隙間を埋めるんだ
そう思ったが―――
月が隠れてしまった
―――不味い!
そう思ったわたしは、そのまま部屋を飛び出した
―――彼に本当の姿を見られたら嫌われる
だって、わたしは―――可愛くないんだもの
・・・
結局あれ以降彼が起きている間には、彼の病室には行けていな
天候が悪く、本当の姿を見られそうだから
だから、寝ている彼を見に行く位しかできなかった
―――起きている彼を満たしたいのに、何をやっているんだろう
そう思いながら、やはりわたしはいく事が出来なかった
・・・
彼が退院した日、わたしは影から彼の事を見送っていた
彼は元気そうにしながら色んな人に挨拶をしている
―――わたしも、彼に
そう思ったが、わたしは出ていく勇気がなかった
やっぱり、彼には―――
・・・
その後、何気なしに彼の行く方をみていたら、図書館へ行ったようだ
わたしも久しぶりに図書館に―――
と、ふと思う
―――わたし、いつ図書館に行ったんだっけ?
なぜだろう、思い出せないのに、覚えている
そうこうしているうちに、彼が本を読み始めた
彼が読んでいるのは魔物に関する学術書
―――勉強家なんだ
わたしはそう思いながら、近くにあった恋愛小説を読み始めた
「!?」
その内容は、恋愛小説には少々過激すぎる内容が載っていた
―――え!?おしりはちょっと!
―――うわ!ロープとか!?
わたしは気が動転しそうになっていた
「君、大丈夫?」
と、誰かが声をかけてくれた
「あ、だいじょうぶで…」
―――彼が、目の前にいた
・・・
「…で、君はだれなの?」
「その…」
あの後、逃げようにも彼に捕まってしまい、彼に連れられカフェにいる
正直、逃げようとした反面、彼に捕まったことをなぜか嬉しく思う自分がいる
「言っとくけど、俺こう見えてもあった人間の事は覚えてるんだ。でも君の名前はわからないんだよね」
「…あの、その…」
彼は呆れているのだろうか?
見たところなにか浮かれているように見えるが…
「…んじゃぁさ、単刀直入にきくよ?―――君が助けてくれたドッペルさん?」
「!?!?」
なんで、彼が覚えてるの!?
「やっぱそうか!?」
彼は大声を出す
周りがその声に反応してこちらを見てくるが、彼は気にしない
「ありがとう!ホント、ありがとうな!?」
「あ、えと、その…」
わたしは恥ずかしくなり、下を向いてしまう
―――彼に喜んでもらえるのは嬉しいのだが、気恥ずかしい
「んじゃぁさ、どこ行きたい?」
「はぇ?」
「お礼にどこでも荷物持ちでついてっちゃうよ〜」
と、彼は心底嬉しそうに言ってくる
それはわたしもたまらなく嬉しいが―――
「いえ、特にないので大丈夫ですよ…」
わたしは遠慮した
もし、夜また月が出なかったら…
そう考えるだけで、わたしは恐怖した
「…そうですか」
彼が悲しそうに答える
彼を悲しませたくないのに…
「だったら、俺のワガママに付き合ってもらえませんか?」
そう、彼は提案してきた
・・・
「いえ、特にないので大丈夫ですよ…」
これは正直予想通りの回答だった
まず、彼女がドッペルゲンガーと分かった時点で、彼女があの場から去った理由も予測できてたし
―――彼女は、自分の本当の姿を誰にも見られたくないのだろう
ふと、俺はある事を思いついた
なんで思いついたのかわからないが、これは彼女の事を知る唯一のチャンスかもしれない
「だったら、俺のワガママに付き合ってもらえませんか?」
さて、どうなるかな
・・・
わたしは彼に連れられて、ついて行く
彼のワガママ、それは一緒に来てほしい所があるという事だった
わたしは躊躇ったが、彼に強引についてきてほしいと手を握られ―――
気がついたら、一緒に歩いていた
手を繋いだまま
「「…」」
お互い無言
わたしは恥ずかしくて声が出せないが、彼はどうなんだろう
ふと、彼を見てみる
「…///」
彼もなんだか照れているみたいだ
「フフッ」
ふと、漏れてしまう嬉しさ
「ん?どうかしたの」
「あ、その…なんでもないです」
彼もわたしのことを意識してくれている
それが溜まらず嬉しいが…
どこか悲しくなった
なぜなのか、わからないが…
「っと。つきましたよ」
と、そこは公園
どこかで見た覚えがあるのだが…
「あの、ここは?」
「貴方が俺を助けてくれた場所ですよ」
あぁ、だから見覚えがあったのか
あの時は夜だったからわからなかったが、こんな場所だったのか
「ここ、昔よく遊びに来てた公園なんだ」
今じゃ寂れてるけどね、と、彼が呟く
確かに寂れているが、いい場所だと思う
落ち着いていて、綺麗で―――
「んじゃ、俺のワガママいいますね」
唐突に言い始める彼
「俺のワガママなんですが…あの時助けてくれた『彼女』に会わせてください」
「え…?」
何を言い出すのだろう
わたしが助けたのだから、今わたしと会って―――
と、そこで気付く
「ごめんなさい、それは…」
つまり、彼は『本当のわたし』に会いたいのだ
だが、それだけは駄目だ
彼に嫌われてしまう
「確かに貴女の種族は本当の姿を見られるのを怖がってるかもしれません。けど、俺は『本当の貴女』にもお礼が言いたいんですよ」
彼の目は真剣だ
「それに…いや、これはまだいいか。とにかく、お願いします!」
そういって頭を下げる彼
彼がそこまでするのは一体何なんだろう
「…わかりました」
わたしは、答えた
「そのかわり、お願いがあります」
「なんです?」
わたしは、震えそうな声を震えさせないように、はっきり彼に頼んだ
「手を、握ってもらえますか?…変身し終っても」
彼は微笑みながら、わたしの手を握ってくれた
・・・
わたしは、自分から変身を解いた
出てくるのは、黒い小さな地味な『わたし』
さっきまでのわたしと違って、良い所がなにもない『わたし』
手を握って貰っているが、今すぐにでも逃げ出したい位だ
だって、彼に嫌われるに決まってるから
「どう、ですか…」
わたしは震えていた
彼にも気付かれているだろう
「…えぇ、とても綺麗ですよ」
「え…?」
今、なんて…
「ホント、綺麗だ」
顔を上げて、彼を見ると、彼は本当にわたしに見惚れているようで…
「じゃあ、ワガママの続きです。今からする質問に正直に答えてくださいね」
と、また唐突に言ってきた
気のせいか、若干声が震えているような…
「俺は貴女が好きになってしまいました。結婚を前提に付き合ってください」
…彼の言っている事が、わからなかった
彼は、イッタイナニヲイッテルンダ?
「貴女に助けられた時に一目ぼれしました。貴女を他の姿に変身させてしまったのは俺の一生の不覚です。だから一生掛けて貴女を愛します!」
「でも…私地味だし…」
「どこが!?めっちゃ可愛いから!?」
「服黒いし…」
「それが貴女の白い肌を際立たせるから問題ない!?」
「…冴えない、地味な女だよ?」
「俺には世界一可愛い女の子にしか見えない」
そう言って、彼は握っている手を放し―――
「まだ名前も知らないけど、俺は貴女以外もう見えないんだ。だから、付き合ってもらえませんか?」
彼はまた、頭を下げ始めた
・・・
「まだ名前も知らないけど、俺は貴女以外もう見えないんだ。だから、付き合ってもらえませんか?」
ハタからみたら気持ち悪い光景だろう
が、関係ない
俺は、本当に彼女しか見えてないようだから
彼女たちドッペルゲンガーは、自分の本当の姿を嫌っていると本にあった
が、俺にはなぜ嫌うのかわからない位、可憐で、綺麗で、俺に勿体無い位の女性が目の前にいた
―――助けられてる時みた、儚くも美しい少女
その彼女が現実に、目の前にいる
それが俺の思考を停止させ、本能がこう叫んだ
―――彼女といたい
俺は、改めて決意した
彼女に告白しようと
後は、彼女の返答次第だ
・・・
わたしは彼を見た
彼は真剣そのものだ
私も、彼に答えたい
でも、私は―――
「こんな地味な女より、きっと素敵な人がいますよ?…それでも私なんですか」
こんな酷い質問しか出来なかった
「…なら、もう一度あの姿に戻ってみて」
彼は頭をあげ、私に言う
もう一度、その姿になろうとした
「え?」
―――が、なれなかった
「ドッペルゲンガーって、自分には変身できないんだよね?変身出来ないってことは、俺の気持ちが本気だって証明にならないかな?」
彼ははっきり言う
「…私でいいの?」
「貴女じゃなきゃやだ」
泣きながら言う私に、きっぱりと言い放つ彼
近づいて来て、涙を拭ってくれた
「返事、聞けるかな?」
彼は不安そうに聞いてきた
「…浮気しちゃ、いやだからね」
泣きながらだけど、私は嬉しくて仕方なかった
・・・
わたしたちは、今公園のベンチにいる
そこでお互いの事を改めて話し合っている所だ
「じゃあ、名前ないんだ」
「うん…」
わたしは、ドッペルゲンガーという事と、いくつかのデジャビュがある事位しか話せなかったが
「なら、さ。家来てくれよ」
「でも、家の人に迷惑じゃ…」
と、彼はニシシと笑いながら言う
「大丈夫。両親の説得はもう済んでるから」
―――彼は、わたしと暮らす為に、両親にもはや説得をしていたらしい
わたしが断ったらどうするつもりだったんだろう…
「だから、一緒に住もう」
「うん…」
彼の隣で、わたしは心地よいあたたかさに包まれていた
・・・
「ヘレンちゃーん!あのヴァカ起こしてきて〜」
「は〜い!」
ここは川崎家
彼の家であり、わたしの家だ
彼の両親はわたしをあたたかく迎えてくれて、さらには一時的にこの家の養子になる事になった
―――自然発生した魔物は、戸籍とかがないため、一時的にどなたかの家のお世話になる事ができるらしい
そんなこんなで、彼の両親にも気に入られ、わたしは新しい名前をもらった
川崎ヘレン
それがわたしの名前だ
「ンガー…」
彼は気持ちよさそうに眠っている
起こすのが可愛そうだが、彼が遅刻して卒業できなくなってはこまる
彼のお嫁になれないのだから
「起きて…あ・な・た」
彼の耳元でこう囁く
とても恥ずかしいが
「キタコレ!…って、あれ?」
彼はすぐに起きてくれるのだ
「おはようシュウ君。もう朝ごはん出来てるよ」
わたしは彼に微笑みかける
「…おはようヘレン、今すぐ襲っていい?」
「だめ♪」
彼は真剣な顔で、とんでもない事を言ってくる
が、それにももう慣れた
「そろそろ起きないとお義母さんに怒られるよ?」
そういって、彼のほっぺに軽くキスをする
「へ、ヘレン!?」
「…続きは夜に、ね」
そう言って、わたしは部屋を出て行った
さて、今日も彼の為に、花嫁修業だ!
11/05/26 13:11更新 / ネームレス
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