連載小説
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本編
…おや、今年も来てくれたのかい?
それは本当にありがたい

それじゃあ今年は…


※※※

毎日毎日同じ事の繰り返しだ
働けど働けど、生活も楽にならない
更には持病や税金や…考えるだけでも気が滅入り始めた

―――なぜそうまでして生きなければならないのか

そんな思いを持ちながらも何とか必死にやってきた
やってきたが、もう心が折れた

何が原因か、なんて聞かれたら解らない
解らないが、もう疲れたのだ

だから、終わらせよう
これで、楽になれる


―――そう思っていた時だった


「ちょぉーっと待ったあぁぁぁ!」


鳴り響く轟音、それと共に聞こえたのは可憐な少女のような声

そして、また轟音
近くに墜落しただろう『ソレ』を見に、恐る恐る向かう

色んなものの残骸から、『ソレ』は姿を現した

「いたた…加速術式の型間違えたかなぁ…」

そこには、とても瀟洒な姿の女性がいた
どの位の衝撃だったかは解らないが、それでも彼女には怪我等は見当たらない

「…あ」

と、女性と眼が合う

「あぁーっ!貴方!」

凄まじい声と共にその場からこちらに物凄い速度で来て―――

「なぁに自殺しようとしてるんですか!もうエロス様にお願いして音速超えて来ちゃったじゃないですか!」

掴みかかられた

「全く!ここまで疲れるまで頑張ったのに!何も喜びもなく死んじゃえる訳ないでしょう!」

なんかよく解らないが、怒られているらしい

「これから貴方は、私と幸せになるんです!」

なんかドヤ顔と満面の笑みを見たが、正直よく解らなかった

・・・

「私達フーリーは天から貴方達人間を見て、善き人の下へ遣わされるのです」

近くの喫茶店に行き、話を聞く
彼女―――名前は知らないが、フーリーという天使の一人らしい彼女は、そこで紅茶を飲みながら説明を始めてくれた

この世界にはまだ人間には観測できないものがあり、その一つとして天界なる物があるらしい
そこには何人もの神々がおり、その中でも愛に関する神がエロス、その遣いとしてここに来たのだそうだ

「私は貴方の善行をずっと見てきました。見てきたからこそ、貴方は幸せになるべきだと思ったのです」

そう言いながら瀟洒に紅茶を飲む彼女を見ながらふと思う
―――ならば、なぜこの世はこんなにも苦しいのだろう
なぜこんなにも不平等なのだ?なぜこんなにも理不尽なのだ?
なぜ、なぜ、なぜ…
延々と繰り返される怨念のような感情が渦巻く中、彼女は言う

「確かに…この世は不平等で、歪で、不公平で…その中でも善行をした人が報われるのは殆どないかもしれません」

悲しそうにしながら、言葉を続ける

「だからこそ、少しでもそんな人たちが救われるようにと私達は動いているのです。遅くなってごめんなさい、もし今からでも許されるなら…貴方を幸せに出来ないでしょうか?」

畏まって言われている内容だが、正直どう返していいのかわからなかった
これは宝くじが当たったと思っていいのか?新手の壷の勧誘か?新興宗教の勧誘なのか?
いずれにしても、彼女には悪意は感じられない

いっそ捨てた命なんだし、刹那的に生きる事を考えるか?

そんな事を考えていたら、彼女から提案があった

「直ぐに信用なんて出来ないですよね…ですから、もし良かったら…」

―――これから、一緒にデートしませんか?

・・・

彼女からでてきたデート案、まぁ悪くはないと思いながらもそれをハイ良いですよと言うのも躊躇われた
正直、いきなり人の自殺を妨害して『貴方を幸せにする為に来ました』などと言われて信用できるほど、疲れ切ってはいない
しかし、彼女が人間以外の可能性もあるんだし…と頭の中がループしている中、彼女からもう一つ申し出があった

「少しでもつまらないと思われたのなら、その場で終了で構いません。良かったら、私に時間を頂けないでしょうか?」

なんていうか、ここまで言わせてしまった事自体が申し訳ないし、素直に楽しみにくい気もするが…正直ここまで言ってくれているのを無碍にするのも嫌だし…


と、言う訳で承諾したのだが…


その瞬間、彼女は満面の笑みを浮かべながら大はしゃぎし始めた
それまで瀟洒な女性のイメージだったのだが、瀟洒なだけではなく、可憐にも感じる
だが少々そのはしゃぎっぷりが大きかったのか、周りから注目され、彼女は赤くなり縮こまる

「で、では行きましょうか」

照れながらそそくさと店から出る彼女をみて、なんとなく笑みが込み上げてきた

・・・

「さて、どこに行きましょうか!」

先ほどまでの恥ずかしさは何処へやら、彼女は満面の笑みで聞いてくる
とりあえず歩きながら考えたいと思ったのでそこ等辺を歩くことにする

歩きながら、改めてフーリーという天使について聞いてみようと思った

「ふぇ?私達のことですか?…そうですねぇ…」

何を話そうか悩みながら、彼女は言葉を少しずつ紡いでくれる

「まず私達フーリーは善行を積んだ人の下へ向かうといいましたが、その善行の基準はフーリーそれぞれで変わるかと思います。
と、言うのも、私達フーリーは善行を積んだ人々を観察しているんです。なのでその意味では私達も自分で見つけた人たちしか幸せに出来ないですね…
確か昔72人のフーリーを娶った方もいましたね…えっと…ソ…ソー、ソロ、ソロモン?だったかな?」

なんか大物の名前が聞こえた気がしたが彼女の言葉に耳を傾ける

「フーリー自体にも、愛を持ちながら死んでしまった方や愛する人と死別した方など、色々な方がいますね。あ、ちなみに私は天界によくいるフーリーだと思います」

なんて会話を続けていたら、ふと眼に入ったのは―――よく趣味で入ってたお店だった

「どうかしました?…あ、よく行ってたお店ですよね?良かったら久々に入りませんか?」

入りたい反面、デートで行く場所だろうかと考えていたら

「私、もっと貴方の事知りたいです!」

曇り一つない笑みをこちらに向けながら、そんな事を言ってくれた

・・・

それから色々なお店を一緒にみて回った

「へぇ〜!遠くから見るのと一緒に回るのとだと、ぜんぜん違いますね!」

趣味でよく行ってたお店から、いつの間にか行かなくなったゲーセン、普段見向きもしなかった小物店や服の店…
上げたらキリがないが、とにかく色々なお店を見て回った

―――正直、凄く楽しい
今まで出来なかった新発見は勿論、人と行くのがこんなに楽しいとは知らなかった

趣味でよく行っていた店では色々なものを見たり買ったり、ゲーセンでは新しいゲームに翻弄されつつも楽しみ、初めて入った小物店では彼女に似合いそうなアクセサリーを見つけたり…
本当に、充実した一日だった

「次はどこ行きましょうか!」

そして、とても楽しそうに微笑みながら、一緒に歩いてくれる彼女の存在感が、とても大きくなってきていた
彼女とイルミネーションを見ながら歩く
毎年仕事帰りに見かけるだけだったイルミネーションとは違い、とても美しく、そして楽しい

―――あぁ、ようやく理解した
これが、フーリーが来るという事、幸せになるって事なのだ

正直今までの事が全て解決した訳ではない
むしろこれから現実に戻るのが怖くて仕方ない

でも、それでも―――彼女が一緒に歩んでくれるという事実は

紛れもなく、今自分を勇気付けてくれている

「綺麗なイルミネーションですねー!ホットココアも美味しいです」

一緒に歩いてくれる彼女を見ながら、一つ決断した

※※※


と、この先は語るだけ野暮、と言うものじゃあないかな?
今日は聖なる日、そんな日なんだ、少しくらいは奇跡の大安売りがあってもいいんじゃあないかな?
そんな訳で、常套句で〆させてもらうとしよう

We wish you a Merry Christmas,
And a Happy New Year!


18/12/25 00:38更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
始めましての方は始めまして
お久しぶりの方はお久しぶりです
どうも、性なる夜…じゃなかった
聖なる夜にしか現れてない男、ネームレスです

さてさて、今年のクリスマスはどうでしょうか?
今年も皆さんが楽しめたら幸いです

趣味等特定描写を避けたのも皆さんがイメージできたらと思いましたが、大丈夫でしょうか?

これからも図鑑世界が発展していきますように…

それではこの辺りで…
改めて、Merry Christmas!


あ、よかったらオマケどぞ

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