連載小説
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前菜とお酒(サテュロス)
―――あー、あー、これでいいのかい?

しっかし、このクリスマスに取材なんて、お兄さんも仕事熱心だねぇ

あー、はいはい
このバーの設立についてね

まぁうちのバー、傍から見たらいつ潰れてもおかしくない成り立ちだもんね

ここ『1day night The"Lovers"(ワンデイナイトザ"ラヴァーズ")』は…まぁ言ってしまえばご新規さん獲得の為に作られたバーみたいなもんなんだよね

ここで出会ったカップルが系列の店で飲んでくれたり遊んでくれたり…後は出資者達がなんていうか大物でね

―――え?ならそこまでここの施設を充実させる意味が解らない?
まぁ…傍からみたらそうだろうねぇ
下手な遊園地なんかよりも施設は充実してるからね

温泉完備、娯楽施設完備で食べ飲み放題
しかも従業員とコイビトになれちゃう

でも二度とこれない

ご新規さんにしか使えないサービスの方が多いって思う人もいる位だからね

お兄さん、飲む?

え?取材中だから飲まない?

良いじゃん一杯くらい…
あー、弱いから飲まないのね

おっけーおっけー、なら取材終わらせちゃおうか

んで、なんでご新規さんしか使えない施設が一番充実してるのかだよね?
ダイレクトに言っちゃうと、初代オーナーの店だからなんだよね

ここって、元々はバーじゃなかったんだ

―――お、食いついてきたねぇ
まぁ、元々バーじゃなかったら何だって話なんだけどさ

元々は初代オーナーが傭兵だった頃にグランマたちを拾って育てる為に買った家だったんだけどさ

―――あぁ、グランマって言うのは…まぁ初代オーナーが最初に拾った孤児たちで…まぁ、初代オーナーの奥さん達、だね
なんて言うか直ぐネタバレしちゃってる感があって困るねホント

まぁグランマと初代オーナーも直ぐには結ばれなかったんだけどさ

ん?不思議に思うかい?
まぁ初代オーナーはさ、戦争屋と変わんない生活をずっとしてた訳
んでグランマ達は戦災孤児…後は言わなくてもわかるだろ?初代オーナーの辛さって言うかなんていうかってやつがさ

最初は初代オーナーも孤児院なんて作る気もなかったし、グランマ達の事を気にもかけてなかったんだって
でもね、そんな初代オーナーを助けたのがグランマ達だったんだよね

傭兵稼業じゃ良くある話らしいけど、優秀な傭兵を他の傭兵と組んで殺してしまうってやつ
あれにあったんだって

まぁそんな中返り討ちにしたのが初代オーナーの凄いところでさ
返り討ちにしたはいいけど今度は出血やなんかが多すぎて動けない

そこをグランマ達が助けたって訳

最初は初代オーナーもすっごい抵抗したらしいよ

―――うん、そう
初代オーナーは、いろんな人も、魔物も、平等に殺してたんだって

それは、故郷が魔界にされて、教団に滅ぼされて、教団の人たちから迫害されて、魔物から狙われて・・・
そんな事があったから、初代オーナーはみんな憎んでた
だから、誰かに助けられるのも嫌だったし、誰かを助ける事もしなかった

けどね、グランマ達が自分を助けようとしてた時にみえたんだって

―――何が、か
実は私もわかんないんだ
何回もお酒造るの教わりながら聞いても、教えてもらえなかった

まぁ、そんな事があって初代オーナーはまずグランマ達が暮らせる家を買った
そして、教育も出来る限りしていった

そして―――そう、変わっていったの!
孤児を見つけたら、迷わず助けるようになっていって…

ジパングだったかな?この国にもある言葉でさ、「一期一会」ってあるじゃない?
そんな出会いが自分を変えた、って言わんばかりでさ

―――そっから、なんでバーの経営に変わっていったか

ある日ね、孤児院にきた旅人が言ったらしいの

「これだけ人数がいるなら、一つのお店が出来そうだね」って

それを聞いたときに初代オーナーがボソッと言ったらしいの

『なら、バーでもやりたいもんだ』って

昔からバーに憧れてたんだって、初代オーナー
それが理由でバーを開こうって話になって…

―――え?孤児院?
今でもやってるよ

ここや他のバーの収入は孤児院の維持費にも当てられてるし

何を隠そう、私もそこの出身なのさ

―――こらこら、雰囲気を暗くしないで
親にもなんか事情があったのかわかんないけど、私はここに預けられた

でもね、グランマや先生、姉妹達や兄妹達に囲まれて暮らせて
それに初代オーナー仕込みでお酒も振舞える
これってなんかすっごい主人公みたいな人生じゃない?
だから、私はこうやってバーテンダーとして取材受けるのも楽しいよ

まぁ…結構な古株になっちゃってきてるから、そろそろコイビトが欲しい所ではあるんだけどねぇ…

―――え?肝心なご新規さん限定な理由がまだ話されてない?

んー…まぁ簡単に言っちゃえば『一期一会』を大事にするってだけ、かな?

初代オーナーはさ、グランマ達に会えたから変われた
たった一度の出会いが、人生を大きく変える

だから一晩限りの恋人、なんだって

なんかポカーンとする内容で申し訳ないんだけどさ

―――これで取材はおわりね
ま、お兄さんも気に入った相手と楽しんでいきなよ

今日は聖なる夜、それ位しても罰は当たらないって
んん〜?お目当ての相手はいるんだろ?
その子を誘っちゃってコイビトに―――

え?私?

え、私をコイビト指名?
え?ちょ、ちょっと待って?

え?

ま、またまたお兄さん冗談上手いんだからぁ〜

…えーっと、ごめん、ホントに私?
いや、嫌じゃないの!ただ、なんて言うか…

う、うるさい!にやけたくなる位嬉しいに決まってるじゃん!
今までずっとここいてさ!妹達がコイビトになるの見てたんだから!
…嬉しい、んですよぉ!

あー!もう!さっさと一緒に部屋行って飲もう!
私が最高のカクテル作ってあげるから、さ!


18/01/04 15:19更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
最後の一味をだしたかったのです

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