嘆きと争い
「嗚呼・・・・・・。」嘆く。
「糞野郎が・・・・・・。」嘆く。
理不尽だ。理不尽だ。
誰だ教本に「妖を懐柔するには名前を教えること」って書いたのは。
頭領に「名前を教える事は愛の告白」だと云う事を聞いた後、教本を確認してみたら、やはり書いてあった。しかも、「妖ニ名ヲ聞カス事無カレ」の項の真下に、訂正として。
「はぁ。」
締め切った部屋にため息が響く。嗚呼、悲しい。
「玉砕は確実じゃないか・・・・・・。」
頭領の言った通り、彼女は超のつく美人である。実は彼女をパートナーにしようとしていた術師は少なくない。
切れ長の目、少し妖しい口元、筋の通った鼻、それでいてそれらに似つかわしくない子供っぽい言動。そして、稲穂の様な輝きを実らせた毛並み。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいて、とてもスタイルがいい。
そんな彼女と俺は、猫に小判であろう。
しかも、彼女と俺は種族が違う。それは、命の長さの違いをも表わすのである。
せいぜい八十年の命と、無限に等しい命を持つ妖。老いていく自分とそのままの如月。そして自分に最期、待っているのは死だ。
・・・・・・まあ、こんなこと考えても無駄なのだが。どうせ玉砕だし。
「・・・・・・はぁ。」また、溜息を吐く。
実は、嘆きの根本に巣食っている原因はこれではないのだ。
「・・・・・・『ナマリクニ』の侵略かぁ・・・・・・」
隣国、「ナマリクニ」。主に鉛や金属の生産が盛んであり、それを使ってその他の国と貿易をしている。
兵の数はこの国「邪馬台国」程ではないものの、物資の量はそれをはるかに上回るので、侮れない。
特に危険な物は、遠隔攻撃を得意とした派閥である『縛鎖式』という派閥である。
縛鎖式はこちらの派閥とは違い、全ての技術を口頭で受け継ぎ、秘密を守る密教式の派閥だ。
人数は少ないものの、今迄の彼らの術の被害者である人間三十人全ての死亡が確認された。どれも即死だったらしい。
これだけを聞くと、『縛鎖式』独断の行動だと思われるが、現在『縛鎖式』はナマリクニ軍隊の呪術隊にすべて組み込まれている事が先日明らかになった。
そして、『縛鎖式』の殺めた人間、及び術によって戦闘行動が不可能になった「式」(従えた妖)は女王である卑弥呼と呼ばれる人間を警護していた経歴のある者たちだ。
よって頭領は、この殺戮行為を『戦争の下準備』であると称し、有能である呪術師を呼び集め、戦闘に備えさせたのだ。
・・・つまり、「愛の告白」についてはそこに自分が呼ばれたから、ついでに聞いてきた事にすぎないのだ。
「・・・・・・どうしたもんかなぁ・・・。」
愛の告白(仮)の後から、如月は俺の顔を見ると、とたんに顔を真っ赤にして逃げ出すようになってしまった。これでは共に行動をして、この国の女王を守ることなど不可能だ。
それなのに、あの腐ったジャガイモの出した命令は、「中央ノ宮」近辺の「ナマリクニ」に通じていると考えられている賊の処分と、その頭の公開処刑である。しかも、他の術者は他の賊討伐や、「中央ノ宮」の警護で忙しく、この作戦で出撃するのはおれと如月の二人だけである。
「依代もいないのに、どうしろってんだ。」
呪術師は、戦となれば一騎当千の戦闘力を誇る。だが、魔力の苗床である「狐」がいなければそれは成立しない。特にこちらの派閥はそれが酷い。
「・・・・・・はぁ」
作戦を練ろうにも、練れない。どうしたものか。
自室に籠って三日、頭を悩ませる。飯は・・・食ってないような気がする。
そろそろ自分のCPUが限界に来ていた。
「・・・・・・もう一人したがえるってことはできるのかな。」
自分の算術論理演算装置がそんな答えをはじき出す。ダメダコリャ。
だけど、ダメモトで「逓信ノ札」(電話の様なもの)を取り出して、頭領につなぐ。
「・・・・・・おい、ジャガイモか?」
「おう、サツマイモだ。」
なかなかのノリだ。
「狐を二匹以上従える事は出来るのか?」
「・・・・・・出来ない事はない。」
「なんか問題でもあるのか?」
「有る。」
「なんだ?」追及をしてみる。
「・・・・・・。」
黙秘。それほど何かがやばいのだろうか。
「・・・・・・その、だな。」
「・・・・・・?」
「今、狐舎(使役される狐になるための訓練所の様な所にある寮)に居る狐だが・・・・・・。」
「だが?」
「・・・・・・とんでもない変態どもだぞ?」
「は?」
一瞬、何を言っているのかが分からなかった。
「あのだな、稲荷の出生率が減っているのは知っているか?」
「はい、教えて頂きました。」
原因は不明。確か、どこかの術師団の妨害だとか、魔力の使いすぎとか、いろいろなデマが流されて、一時期受動式の術師たちが混乱状態に陥ったらしい。
「それで、なんだが・・・稲荷の代替として妖狐を教育するテストした。そしたら、魔力の制御の出来る個体も現れた。そして、お前には、そのテストの一環の内の実戦訓練を行ってほしい。」
頭領のいつものボンクラ口調は一億光年かなたに飛び去って、頼み込む口調になっていた。
「一回だけだから、一回。」
「・・・・・・はぁ。」
「・・・・・・分かりました。何時そちらにその「彼女」を引き取りに行けばいいんですか?」
「今すぐ。」
「・・・・・・は?」
「だから、今すぐだって。」
「え、なんでそんなに都合よく準備できてるんですか?」
「え、だって、如月から『哲也さまに告白されちゃいましたぁ〜どうしましょう、もう顔を合わせるだけで恥ずかしくて顔から火が出そうですぅ〜』って連絡が来て、『もしかしたら作戦中に押し倒してしまうかもしれないのでぇ〜、次の作戦は他の狐と組ませて下さい〜』って言われたから、そろそろ頃合いだと思って。」
「はぁぁぁぁぁ!?」驚愕。
「あれ、もしかして聞いてない?ワシ、てっきり如月に頼んでハーレ・・・」
「違うッッ!!ハーレムを構築しようとはしてないッッ!!」
何を考えてやがりますか、あのクズは。
「でも、テストは行ってもらうから。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「じゃあ山賊に切られて死ねよ(笑)」
「ちょっ、それは・・・・・・。」
「じゃあ決まり。今から恋。」
「漢字違いますよッッ!!」
「あ、でも如月の恋は叶ったんだってね、よかったよかった。(棒読み)」
「はぁぁぁぁぁ!?」
「お前に恋してたんだぜ、あいつ。一目ぼれだって。それで惚れたから今お前に仕えてるんだよ。」
「・・・・・・え?」
「まあいいや。早く来い。」
「ちょ、待て、こっちの話を・・・・・・。」
「うるせー、こいやーぼけー。(笑)」
「くそやるぉぉぉぉぉぉ!!」
そんな激昂の中、ある疑問が渦を巻いた。
「糞野郎が・・・・・・。」嘆く。
理不尽だ。理不尽だ。
誰だ教本に「妖を懐柔するには名前を教えること」って書いたのは。
頭領に「名前を教える事は愛の告白」だと云う事を聞いた後、教本を確認してみたら、やはり書いてあった。しかも、「妖ニ名ヲ聞カス事無カレ」の項の真下に、訂正として。
「はぁ。」
締め切った部屋にため息が響く。嗚呼、悲しい。
「玉砕は確実じゃないか・・・・・・。」
頭領の言った通り、彼女は超のつく美人である。実は彼女をパートナーにしようとしていた術師は少なくない。
切れ長の目、少し妖しい口元、筋の通った鼻、それでいてそれらに似つかわしくない子供っぽい言動。そして、稲穂の様な輝きを実らせた毛並み。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいて、とてもスタイルがいい。
そんな彼女と俺は、猫に小判であろう。
しかも、彼女と俺は種族が違う。それは、命の長さの違いをも表わすのである。
せいぜい八十年の命と、無限に等しい命を持つ妖。老いていく自分とそのままの如月。そして自分に最期、待っているのは死だ。
・・・・・・まあ、こんなこと考えても無駄なのだが。どうせ玉砕だし。
「・・・・・・はぁ。」また、溜息を吐く。
実は、嘆きの根本に巣食っている原因はこれではないのだ。
「・・・・・・『ナマリクニ』の侵略かぁ・・・・・・」
隣国、「ナマリクニ」。主に鉛や金属の生産が盛んであり、それを使ってその他の国と貿易をしている。
兵の数はこの国「邪馬台国」程ではないものの、物資の量はそれをはるかに上回るので、侮れない。
特に危険な物は、遠隔攻撃を得意とした派閥である『縛鎖式』という派閥である。
縛鎖式はこちらの派閥とは違い、全ての技術を口頭で受け継ぎ、秘密を守る密教式の派閥だ。
人数は少ないものの、今迄の彼らの術の被害者である人間三十人全ての死亡が確認された。どれも即死だったらしい。
これだけを聞くと、『縛鎖式』独断の行動だと思われるが、現在『縛鎖式』はナマリクニ軍隊の呪術隊にすべて組み込まれている事が先日明らかになった。
そして、『縛鎖式』の殺めた人間、及び術によって戦闘行動が不可能になった「式」(従えた妖)は女王である卑弥呼と呼ばれる人間を警護していた経歴のある者たちだ。
よって頭領は、この殺戮行為を『戦争の下準備』であると称し、有能である呪術師を呼び集め、戦闘に備えさせたのだ。
・・・つまり、「愛の告白」についてはそこに自分が呼ばれたから、ついでに聞いてきた事にすぎないのだ。
「・・・・・・どうしたもんかなぁ・・・。」
愛の告白(仮)の後から、如月は俺の顔を見ると、とたんに顔を真っ赤にして逃げ出すようになってしまった。これでは共に行動をして、この国の女王を守ることなど不可能だ。
それなのに、あの腐ったジャガイモの出した命令は、「中央ノ宮」近辺の「ナマリクニ」に通じていると考えられている賊の処分と、その頭の公開処刑である。しかも、他の術者は他の賊討伐や、「中央ノ宮」の警護で忙しく、この作戦で出撃するのはおれと如月の二人だけである。
「依代もいないのに、どうしろってんだ。」
呪術師は、戦となれば一騎当千の戦闘力を誇る。だが、魔力の苗床である「狐」がいなければそれは成立しない。特にこちらの派閥はそれが酷い。
「・・・・・・はぁ」
作戦を練ろうにも、練れない。どうしたものか。
自室に籠って三日、頭を悩ませる。飯は・・・食ってないような気がする。
そろそろ自分のCPUが限界に来ていた。
「・・・・・・もう一人したがえるってことはできるのかな。」
自分の算術論理演算装置がそんな答えをはじき出す。ダメダコリャ。
だけど、ダメモトで「逓信ノ札」(電話の様なもの)を取り出して、頭領につなぐ。
「・・・・・・おい、ジャガイモか?」
「おう、サツマイモだ。」
なかなかのノリだ。
「狐を二匹以上従える事は出来るのか?」
「・・・・・・出来ない事はない。」
「なんか問題でもあるのか?」
「有る。」
「なんだ?」追及をしてみる。
「・・・・・・。」
黙秘。それほど何かがやばいのだろうか。
「・・・・・・その、だな。」
「・・・・・・?」
「今、狐舎(使役される狐になるための訓練所の様な所にある寮)に居る狐だが・・・・・・。」
「だが?」
「・・・・・・とんでもない変態どもだぞ?」
「は?」
一瞬、何を言っているのかが分からなかった。
「あのだな、稲荷の出生率が減っているのは知っているか?」
「はい、教えて頂きました。」
原因は不明。確か、どこかの術師団の妨害だとか、魔力の使いすぎとか、いろいろなデマが流されて、一時期受動式の術師たちが混乱状態に陥ったらしい。
「それで、なんだが・・・稲荷の代替として妖狐を教育するテストした。そしたら、魔力の制御の出来る個体も現れた。そして、お前には、そのテストの一環の内の実戦訓練を行ってほしい。」
頭領のいつものボンクラ口調は一億光年かなたに飛び去って、頼み込む口調になっていた。
「一回だけだから、一回。」
「・・・・・・はぁ。」
「・・・・・・分かりました。何時そちらにその「彼女」を引き取りに行けばいいんですか?」
「今すぐ。」
「・・・・・・は?」
「だから、今すぐだって。」
「え、なんでそんなに都合よく準備できてるんですか?」
「え、だって、如月から『哲也さまに告白されちゃいましたぁ〜どうしましょう、もう顔を合わせるだけで恥ずかしくて顔から火が出そうですぅ〜』って連絡が来て、『もしかしたら作戦中に押し倒してしまうかもしれないのでぇ〜、次の作戦は他の狐と組ませて下さい〜』って言われたから、そろそろ頃合いだと思って。」
「はぁぁぁぁぁ!?」驚愕。
「あれ、もしかして聞いてない?ワシ、てっきり如月に頼んでハーレ・・・」
「違うッッ!!ハーレムを構築しようとはしてないッッ!!」
何を考えてやがりますか、あのクズは。
「でも、テストは行ってもらうから。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「じゃあ山賊に切られて死ねよ(笑)」
「ちょっ、それは・・・・・・。」
「じゃあ決まり。今から恋。」
「漢字違いますよッッ!!」
「あ、でも如月の恋は叶ったんだってね、よかったよかった。(棒読み)」
「はぁぁぁぁぁ!?」
「お前に恋してたんだぜ、あいつ。一目ぼれだって。それで惚れたから今お前に仕えてるんだよ。」
「・・・・・・え?」
「まあいいや。早く来い。」
「ちょ、待て、こっちの話を・・・・・・。」
「うるせー、こいやーぼけー。(笑)」
「くそやるぉぉぉぉぉぉ!!」
そんな激昂の中、ある疑問が渦を巻いた。
12/07/10 18:11更新 / M1911A1
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