連載小説
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三時限目: デビューってなんだろう?
ガラガラ!

ラミア「あ! ヴァンパイアちゃん、今年も同じクラスだね! 春休みどうだった?」

ヴァンパイア「え? ああ、暫く授業が無いなと思ってたら春休みだったのか。なら仕方ないな!」

ゴースト「春休みの自覚無しで一ヶ月も休んでたの!?」

インプ「あんた、ホント相変わらずね〜」

ヴァンパイア「おお、なんだ、また皆同じクラスか。よく見れば、リャナンシーにフーリーに……殆どメンツも変わらないな。あんまり面識無いけど!
 ……あれ? オーガは別のクラスか?」

ゴブリン「姉御も一応は同じクラスっすよ。ただ……」

ゴースト「オーガさん、家出してるんだって」

ヴァンパイア「家出!?」

インプ「前回の白澤先生の授業の後、あいつ学校フケてたじゃん? 実は家にも帰ってないらしくてさ」

ヴァンパイア「前回の授業って、もう一ヶ月以上前だろう? また随分と気合の入った家出だな」

ラミア「それ、家出じゃなくて失踪なんじゃ……」

ヴァンパイア「ところでラミア、髪型変えたんだな」

ラミア「あ、気付いた? ちょっとイメチェンしてみたの。似合う〜?」

ヴァンパイア「ああ、似合ってるよ。女の子らしくなった」

ラミア「え……///(ドキッ)。そ、そうかな。ありがと///」

ヴァンパイア「よくよく見渡してみると、結構雰囲気の変わった奴も多いな」

インプ「長期休暇明けだからねー。所謂デビューってやつでしょ」

ゴブリン「あー、いるっスよね。夏休み明けとかに雰囲気ガラッと変わる人!」

ラミア「夏休みデビューってやつだよね。他にも高校デビューとか、大学デビューとか……なんか、ドラマを感じるよね!」

インプ「そう? アタシはミーハーだなって思うけど」

キーンコーンカーンコーン

ゴースト「あ、もうこんな時間! ほら皆、席について。授業始まるよ!」

ざわざわ
ざわざわざわ
ざわざわざわざわ

ガラガラ!
|=
|=

一同「「「!?」」」

「はい、みなさん今年度もよろしくお願いします。委員長、挨拶を」

ヴァルキリー「えっ!? あ、いや、その……えぇ!? は、白澤先生? なんか雰囲気変わりました……?」

「はい? ああ、実は眼鏡をフレームの赤いものに変えたんです」

ヴァルキリー「いや、そういう話じゃなくて! なんか表現が変わったというか、根本的に在り方が変わったというか……」

ヴァンパイア「すごいな。挨拶マシーンこと委員長が挨拶もせずにツッコミに回っているぞ」

ラミア「でも、ホントに絵に描いたように雰囲気変わったね先生。先生も新学期デビューってことかな?」

リャナンシー「ふふふ、実は私が助言したのです。一ヶ月ぶりの投稿、とりあえず春休みという事で誤魔化しましたが、念には念を入れるべき……。『ドットを打っていたから遅れた』という建前を用意しました! しかもコレ、指し棒が付いてるからマウスポインタにも流用できるんです! 流石私、出来るリャナンシー! たった一話でvote27稼ぐ妖精!」

ゴースト「またリャナンシーさんが訳わかんないこと言ってる……」

ゴブリン「ありゃもう病気っスよ……」

「さて、皆さんと会うのは一ヶ月ぶりですが……休み明けだけあって、雰囲気が変わった人も沢山いますね」

ヴァンパイア「いや、どう考えても一番変わったのは先生だと思うがな」

「今日は授業の前に、皆さんに新しいお友達を紹介します。入ってきてください」

ガラガラ!

ダークエルフ「……」

「はい、今学期から当クラスに転入してきました、ダークエルフさんです。皆さん、仲良くしてくださいね」

ヴァンパイア「おいおい、黒ギャルだぞ。初めて見た」

ラミア「ちょ、ちょっとヴァンパイアちゃん。人に指差しちゃ駄目だよ」

ヴァンパイア「いやいや、だがよく見てみろ。制服は改造しまくりでヘソ出しモモ出し谷間出し! 髪は脱色してるし、ルーズソックスにネイル盛り盛りで、ここまでコテコテだと逆に反応しないのが失礼だと……」

ダークエルフ「……」ギロッ!

ヴァンパイア「ヒィッ!?」

ダークエルフ「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

ヴァンパイア「……へ、へへっ、すいませんでした……。靴とか舐めましょうか?」

ダークエルフ「……」プイッ

ヴァンパイア「へへ、どうも……」

ラミア「ヴァンパイアちゃん……」

ゴブリン「かつて無いかっこ悪さっスね……」

「では、ダークエルフさんはどこか空いてる席……そうですね、ヴァンパイアさんの隣に座ってください」

ヴァンパイア「えぇ!?」

ダークエルフ「……」ギロッ!

ヴァンパイア「よ、よろしくお願いします……」

「さて、授業の方ですが……特にネタも無いですし、なんちゃらデビューとかについてでも話しましょうか」

ゴースト「なんちゃらデビュー!?」

ゴブリン「授業の内容ってそんなノリで決まってたんスか!?」

【デビューってなんだろう?】

「えー、よく長期休暇明けや新生活が始まるという時に、雰囲気が変わる人がいますよね?これを夏休みデビューとか、高校デビューとかいいます」

ラミア「えぇ……、流石にそのくらいは知ってますよ」

インプ「さっき丁度その話してたしね」

「ほう? では、魔物にはもう一つ、人生においてとても大きなデビューがある人がいます。なんだか分かりますか?」

ゴースト「人生において大きなデビュー?」

ラミア「も、もしかして大人の階段的な……!?」

「近いですが、ちょっと違います。一生来ない人もいますよ」

インプ「あー、あたし、分かっちゃった。あたし、もうそのデビュー済ましたわ」

ラミア「えっウソ!? なになに?」

インプ「答えは……魔物デビュー!」

「素晴らしい、正解です」

一同「「「魔物デビュー?」」」

インプ「普通の人間がさ、魔王様の魔力を受けて、魔物化すること。実はあたし、元人間なんだ。3歳の時に魔物化したんだって」

ラミア「そ、そうだったの!?」

ヴァンパイア「成る程、一生来ない人もいるというのはそういうことか。母親が魔物である二代目以降の魔物娘は、デビューのしようが無いからな」

「その通りです。まあ、例外はありますけどね。稀ですが、後天的に別種族に変化する魔物もいますので。因みに、先生も昔は人間でした」

ゴースト「そうだったんですか!?」

ヴァンパイア「昔っていったいどれ程昔なんだ……」

「お黙りなさい!!」チョークナゲ!

ヴァンパイア「ぎゃ!!」スコーン

リャナンシー「ああ、表情差分が無いから怒ってるのが伝わりにくい……」

ヴァンパイア「な、なんだいなんだい! 私はあくまで知的好奇心に則って……」

ダークエルフ「……」ジロリ

ヴァンパイア「ぐ、ぐぅ。今回は止めとこう。授業中だしな……」

ラミア「先生! 魔物化した時ってどんな感じでした?」

インプ「あ、それ気になる! あたしは人間の頃の記憶とか無いし。やっぱりこう、魔物としての使命に目覚めたりするの?」

「いや、特に変わりませんでしたよ。先生に限らず、魔物化による性格の変化はあまり大きくないのが一般的です」

ゴースト「そうなんですか? ちょっと意外です」

「魔物化の要因は、外的なものと内的なものの二通りに分けられます。
 外的要因とは、例えば何者かに魔物に魔力を注入される、魔力の濃い土地に長時間滞在するなど、外部由来の魔力に身体を侵されることによる魔物化です。
 内的要因とは、例えば魔術や妖術でもって自ら魔物と化したりすることです。魔術師が延命のため自らリッチになったりするのはコレですね。他にも魔法の使い過ぎや術式事故による魔物化も内的要因として分類されます。総じて自身の魔力に由来する魔物化であることが特徴です。ちなみに先生もこのタイプですね。人間だった頃は学者兼妖術師でした。
 他にも死に瀕したり何かしらの激情に起因して魔物化する事例は多くありますが、基本的に魔物化は自分の適性に合った種族に変じるものだとされています。
 例えば元の人間が剣士ならばリザードマン、魔術師ならば魔女、音楽が好きならガンダルヴァ、嫉妬深く執着心の強い性格ならラミア、といった具合ですね」

ラミア「嫉妬深いって言われた……」

「おっと失礼。まあ、あくまでこれは例えばの話です。魔物は他にもたくさんいますから、それまでの人生や経歴から、最も近しい性質の魔物になる訳です。
 例外として、魔物による魔力注入は魔力を注入してきた魔物になる確率が高いですね。その場合でも根本の人格は変わることはありません。ただ、変身先の魔物の生態に合わせて徐々に本人の性格も変化していくことはあるでしょうが……、これは生活様式の変化による価値観の変化でしかありません。
 偶に、魔物化をまるで魔王様による洗脳のように言う人間がいますが、大きな誤解ですね。
 確かに自分の欲求に素直になり、結果的に恋愛に積極的になる方が多いのは事実ですが、好みのタイプが変化する訳ではありませんので、アプローチが苛烈になるだけです」

インプ「成程、結局は魔物化しても何も変わらないってことね」

ラミア「てことは、魔物化してもしなくても、結婚相手は変わらないってこと?」

「まあ、結婚はさておき、好きになる相手は変わらないでしょうね。飽くまで女性側の視点から見ればの話ですが」

ラミア「へー、なんか運命的でロマンチック!」

ヴァンパイア「ところで先生はいつ結婚するつもりなんだ?」


ダークエルフ「うっ、うっ、うっ……」

ゴブリン「え、え〜〜!?」

ゴースト「ダークエルフさんが……」

インプ「泣いてる!?」

ラミア「ちょっと、何やったのヴァンパイアちゃん!」

ヴァンパイア「え!? わ、私は何もしてないぞ!?」

ダークエルフ「だ、だって、魔物化しても何も変わらないって……。私、前の学校で、上手く馴染めなくて、地味だって馬鹿にされて、それで転校してきて……。今度は馬鹿にされないように、転校デビューで思い切ってエルフからダークエルフになったのに……」シクシク

ゴブリン「そうだったんスか……」

インプ「目付きがキツかったのはナメられないようにするためだったのね……」

ヴァンパイア「まあ、どう考えてもイメチェンの方向間違えてるけどな」

ラミア「余計なこと言わない!」ゲシッ

「……今日の授業の最初に、魔物化には例外があると話しましたね? 彼女、ダークエルフはその例外です。
 本来エルフとダークエルフは近縁とはいえ別種。ですが魔物化した個体の場合、本人の強い意志や思想の変化によって、種が入れ替わることがある……つまり、既に魔物でありながら再度魔物化する可能性があるのです」

インプ「なるほど、せっかくエルフからダークエルフになってやり直そうとしたのに、転校先の学校でいきなり全否定されちゃったわけか……」

ダークエルフ「……」コクン

ヴァンパイア「あー、なんだ、そんなに気にすることはない。このクラスに、地味だなんだで人を馬鹿にするやつなんていないからな! 現に私は居眠りばかりしているが、馬鹿にされたことなど一度もない! なあ皆!」

ラミア「!! うん、そうだよ!」

インプ「ま、そうかもね。みんな口は悪いけど、なんだかんだ上手くやってるし」

ゴブリン「一番馬鹿にされてそうな人が言うと説得力が違うっスね!」

ヴァンパイア「どういう意味だ! ……まぁ、こんな感じで、みんな多少のことは気にしない。もし、誰かがお前をいじめるようなら、私に言え。私がそいつをやっつけてやる。こう見えてもヴァンパイアだからな、それなりに強いぞ!」

ダークエルフ「でも、なんでそんな……」グスグス

ヴァンパイア「それはな、私とお前が友達だからだよ」

ダークエルフ「と、友達?」

ヴァンパイア「ああ、出会って早々、ヴァンパイアにガンつけてくるようなやつ、初めて見た。 私は面白いやつが大好きなんだ。もし嫌じゃないなら、友達になってくれ」

ダークエルフ「ヴァ、ヴァンパイアさん!」ヒシッ

「やれやれ、どうやら一件落着のようですね」

ラミア「え、ええ。そうですね。
 ……あの女いきなりヴァンパイアちゃんに馴れ馴れしい感じだけど、まぁ、あれもヴァンパイアちゃんの優しさだし、あくまで情によるものだから……」

ゴースト「ラ、ラミアさん? なんかどす黒いオーラが……」

ゴブリン「漫画みたいな青筋が浮かんでるっスよ……」

ダークエルフ「ヴァンパイアさん、その、お友達にしてくれるなら……これから『お姉さま』って呼んでもいいですか?」

ラミア「!?」

ヴァンパイア「ああ、いいとも!」

ラミア「ちょ、ちょっとヴァンパイアちゃん!? だめだって、女の子同士でそんな……とにかくその女から離れて!」

ヴァンパイア「おいおいラミア、そんな言い方ないだろ。ダークエルフが怖がってるじゃないか」

ダークエルフ「お姉さま、あの人怖い……♥」

ヴァンパイア「よしよし、私が守ってやるからな? ああ、妹分が出来るっていいものだなぁ!」

ラミア「あの女、ヴァンパイアちゃんの善意を利用して……! ヴァンパイアちゃんもヴァンパイアちゃんよ! 今朝、私に可愛いって言ってくれたばっかりじゃない!」

ヴヴヴヴヴヴ

ゴースト「な、何の音?」

リャナンシー「こ、これはまさかメタ世界の――!」


オーガ「どわーーーーー!!??」

ドンガラガッシャーン!!

ダークエルフ「きゃあ!?」ギュム!

ゴブリン「あ、姉御が空から降ってきたー!?」

ゴースト「い、今どこから現れたの!? ていうかダークエルフさんが下敷きに!」

ラミア「オーガちゃんナイス!」

オーガ「うう、ここはいったい……教室? 先生? みんな……?
 お、お、お、いやったーー!! 帰って来れた、帰って来れたぞー!! あの文字ばかりの世界から、帰ってこれたんだー!!」

ヴァンパイア「オーガ、其処を退け! ダークエルフがお前の下敷きに……」

オーガ「おおお、ヴァンパイア! 会いたかった、会いたかったぞー!!」ダキッ

ヴァンパイア「く、離せ、抱き着くな暑苦しい!」

ラミア「そ、そんな! まさかオーガちゃんまで、ヴァンパイアちゃんを狙ってるっていうの……!?」

「ちょっとオーガさん、一応今は授業中ですので、もう少し静かに……」

オーガ「おお、先生! お会いできてなんて光栄な! ああ、補修、お説教、日常って素晴らしい! さあ授業の続きを! 私は先生の授業を受けたくてウズウズしてるんです!」

ゴブリン「ひ、人が変わってる……!」

インプ「これが本物の新学期デビューってワケ……?」

ラミア「なんでもいいから、ヴァンパイアちゃんから離れて! この泥棒猫! ヴァンパイアちゃんも、このスケコマシ!!」

ゴースト「ああ、もう授業がめちゃくちゃだよー!」



【廊下】

ワーワーギャーギャー!
コノドロボウネコー! アイシテルゾミンナー!
オネェサマタスケ・・・ゴフッ。 ダ、ダークエルフー!

???「やれやれ、騒がしいクラスがあると聞き駆けつけてみれば、このような現場に出くわすとは……。
 女同士でイチャコライチャコラ、魔王様の理想に大いに反している。我が校には、かような非模範的な魔物は不要です……。『修正』しないといけませんねぇ。
 ふふふふふ、ははははは、ハァーッハッハッハッハッ!」



リャナンシー「平和なクラスを見つめる謎の影! その正体は一体!? 次回、教えて! 白澤先生!『教頭襲来! 恐るべき特別授業!』 震えて待て!!」

ゴースト「リャナンシーさん、独り言言ってないでラミアさん止めて―!」
16/04/03 17:04更新 / 万事休ス
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■作者メッセージ
お久しぶりです。万事休スです。
社会人になると春休みは繁忙期という名前に変わります。

最近ドット始めました! とりあえず何か題材はないかなということで……最近好調だった白澤先生を打ってみました!
一応過去にラミアのマウスポインタを自作したことはありますが、ちゃんとしたドット絵は初めてです。思ってたよりだいぶうまく出来たので使ってみましたが……画像ってこう何枚も張って大丈夫なのかな? 一応規約は目を通したつもりですが、問題があるようなら指摘いただけると在り難いです!

加えまして、作中でリャナンシーが「ドット絵をマウスポインタに出来る」と言っていますが、大変申し訳ございませんが『できません』。
使ってみたい方は、ポインタ作成のフリーソフトをダウンロードして、上手いこと変換するか、打ち直すかしてください。

その他にも、ご意見ご感想はどんなものでも頂けるだけ嬉しいです! 是非是非、お待ちしております!

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