くノ一って、理由もなくなんかイイよね！
蝋燭の炎が、揺れている。
中野石見守兼良（なかの いわみのかみ かねよし）の居室である。
場所は城の二の丸に当たり、主に政務を行う。隣の障子を五枚ばかり過ぎると、兼良の寝室になる。
肘掛に身を預け、平伏する家臣を見下ろした。
「主税、年貢が減ったと申したか？」
「はっ、前年度よりも明らかに減退しております」
右から、杉原主税光成（すぎわら ちから みつなり）。
和良主計静好（わら かずえ しずよし）。
そして、六平刑部重満（ろくひら ぎょうぶ しげみつ）。
「刑部」
「はっ、照らし合わせたところ、拿捕した罪人共とも数は合いません」
三人の報告を受けて、兼良は長く嘆息した。
「魔物共の仕業と見るが自然か」
「仰るとおりかと」
税である年貢が減った。
ということは、人口が減っているということだ。
兼良の統治に、問題はない。その年の作物の実り方で税収を変え、民に無理のない税収を保ち、それらを治水と商業に回して発展させてきた。
弾正（だんじょう）の権限をある程度容認し、非違を見つけたらその場で拘束する権利を与え、それらの情報連結と裁判を刑部に委任した。
事の発端は、主計が報告した前年度の年貢米と、今年度の年貢米の差である。
明らかに減っていた。
年貢米の接収を拒んだ者の報告は上がっていない。
すぐさま税収を司る主税を呼び、確認し、人口の減少だと結論付け、罪人の増加が原因ではないかと証明するために刑部を呼んだ。
そして出た結論は、領内の人口減少の理由は、魔物ではないか。
「人と暮らす魔物ならばある程度容認しよう。が、水神などは住処に人を招き入れる。恥知らずの人外が、私の領土で私の民をかどわかすなど」
兼良は、この島（ジパング）では珍しく反魔物派の人間である。
魔物は、人の精を糧とする。
人を殺すことはないが、人を糧とすることに違いはない。そこは、どんな理屈やお題目を掲げても永遠に変わることはない。
ならば、人とは魔物の糧になるべく生まれるのではないか。
その結論が、兼良は気に入らない。
如何に魔物を嫌う者とて、精を啜られた途端豹変する。快楽による洗脳でなくてなんであろう。強制的な価値観の変質は、個人への冒涜でなくてなんであろう。
兼良は、領内の民を愛するが故に、魔物を嫌っていた。
「かくなるうえは、我が手で斬るか」
兼良の佩刀は、左文字源慶。名刀中の名刀である。
剣の腕も、中条流で目録を得た。剣術家としても秀でている。
厳粛な性格だったが、刃傷沙汰を嫌うので、実戦の経験はない。人を罰するのも死罪はなるべく避け、どうしようもない時にのみ、斬首でなく切腹を命じた。
言うなれば、慈悲深い。
その兼良の癇癪といえば、決まって魔物のことであった。
「と、殿のお手を煩わすことでは･･････。それに、左文字源慶を不浄の血で汚すなど」
刑部が、慌てて止めた。
兼良に忠義を尽くしているこの三人は、反魔物派ではない。
なるほど、政治家としての兼良の手腕や剣術家としての気勢に惚れこんではいる。が、その思想に全て同調しているかと言われると、そうではない。
実際に人間が食い散らかされたとか、不幸になったとかいう話は領内で聞かない。ならばそれもまた個人の幸福の形ではないかと思っている。
この意思は、家臣団の共通の意識である。だからこそ、兼良は未だに大粛清とも言うべき魔物の虐殺に至っていない。
「口惜しいことよ、歯痒いことこの上ない」
三人の家臣は、兼良を不憫に思ってきた。
領内の民を我が子のように愛し、優しく厳しく統治してきた姿には、一生も二生も捧げて悔いなしという思いが沸々と湧き上がってくる。だが、だからこそ差別主義に走っている姿は哀れですらあった。
「殿、敢えて苦言を申し上げます」
「断らず、申せ。そなたらの苦言なら喜んで聞こう」
「大学なぞの言葉に踊らされることのなきよう。軽挙はお控えくだされ」
兼良の家臣、坂野大学鎮成（さかの だいがく しずなり）は、教育機関の長を勤めている。だからであろう。
彼は唯一、兼良の反魔物思想に同調しており、しきりと大粛清を提案している。
もし兼良が粛清に乗り出せば、魔物と共存し、一応の平穏を得ている民の心は瞬く間に離れてしまう。
それは、これほどの統治能力を持つ兼良にとっても、その膝元で安寧を謳歌している民にとっても不幸極まりない。
「･･････判っておる。だが父とは、時に子に憎まれようとやるべきことを完遂せねばならぬ。それは覚悟しておれ」
「はっ、それはもう」
「よし、ならばもう下がれ。遅くに呼び立てしてすまなんだな」
平伏して、三人は下がった。
兼良は灯りを消して、寝室に行った。
「ご苦労」
寝所の隣室で控えている小姓に声を掛けて、敷かれた布団の上で胡坐を掻いた。
（寝酒でも、飲むか）
気が立って眠れそうにない。
棚から酒を引っ張り出すと、杯を舐めるように、ちびりと飲み始めた。
兼良は、未だ独身。
年齢がもう二十八になる頃だから、とうも立ち過ぎている。
それでも、と嫁にやろうとする者は後を絶たないが、どうにも気乗りしない。兼良の魔物嫌いの根幹には、男女の営みを知らない、という部分が関係しているのかもしれない。
半時ほど経っただろうか。
兼良は、ふと杯を置き、傍らに太刀を引き寄せた。
「誰ぞ？」
闇に、声を掛ける。
小姓ならば、入室の際に声を掛けるだろう。
蝋燭の灯りの届かない、部屋の隅。闇に紛れてなにかが、居る。
「中野石見守様にございますね？」
鈴を鳴らすような声であった。
（女？ 素破か）
要するに、忍者のことだ。
「如何にも。用件は？」
左文字源慶の鯉口を切った。
用件など、首に決まっている。
寝所に素破が紛れ込んでいる。それは即ち死である。逆転があるとするならば、兼良が斬り捨てるくらいだが、それも難しい。
剣術家としての兼良は言っている。
（ここまで来られる者が、よもやこの兼良ごときに斬られはするまい）
そういう確信がある。
だが、だとてむざむざと坐して死を待つわけではない。
武人として、一太刀浴びせねば気がすまなくなっている。
抜いた。
いや、抜こうとした。
だがそれよりも早く、女は兼良の太刀の柄に手を当てていた。
「どうか騒がれませぬよう」
一体どういう仕掛けなのか、残像が僅かに揺らいだかと思うと、既に女は兼良と吐息が掛かるほど近くにいる。蝋燭の火も、消えていない。
「さすが、素破だな。抜かせもせんとは」
「反射でございます。頭で考えてのことではございません。石見守様が抜かれようとした瞬間、この体は私の頭と分離して勝手に動いた次第でございます」
「それほどの修練か。人を鬼にする業よな。伊賀にも斯様な異能者共が居ると聞く。この首に別れを告げる前に、教えよ。誰の回し者か」
そこで、兼良は気づいた。
肉感的に揺れる、先端が三角形の尾に。
「うぬ、よもや･･････！」
「お察しの通りでございます。私、人の子ではございません」
全力の膂力で太刀を引き抜こうとした。が、無理だ。柄を抑えられ、力の方向を抑えられている以上、抜けるものではない。
「順を追って、説明致します。
私は、浦部兵部様のご依頼で伺いました」
「兵部だと！？」
浦部兵部敏輔（うらべ ひょうぶ としすけ）。
兼良の兄である。
「･･････庶腹といえど兄は兄。立ててきた積もりであったが、然程に私が気に入らんか」
敏輔は兼良の父が妾に産ませた子で、正室の腹でないとして跡目を兼良に譲った。その後、兵部の家系である浦部家に養子入りし、兼良の家臣となった。
幼少の頃は仲が良く、敏輔は兼良を弟として、そして将来の主として接してきた。兼良もまた、敏輔の潔さと清廉さによく懐いていた。
その兄の差し金と知っては、最早どんな力も込める気にはなれなかった。
「お心得違いをなさいませぬよう。兵部様は石見守様を大切に思ってらっしゃいます。此度、私を使わせたのも石見守様の将来を案じられてのこと」
「この首を取ることのどこに―――――」
「いえ、石見守様の首など、承ってはおりませぬ」
そう言って、女は兼良の唇に、自分の唇を押し付けた。
「む！」
口中に、なにかが流し込まれた。抵抗したが、体は巧みに女に抑えつけられているため、抗えない。結局、飲み込んでしまった。
「なにを、貴様！」
「お静かに。夜の帳は、無粋を嫌います」
程なく、兼良の手足が痺れた。
手から離れた太刀を、女は優しく受け止め、傍らに置いた。
「な、に･･････」
「兵部様より、お預かりの痺れ薬にございます。末端を麻痺させる程度でございます。どうかお心を安らかに」
ゆっくりと、優しく、女は兼良の体を布団に横たえた。
その間、巧みに帯を解き、着物を脱がせている。
「やは、り、化生のやることか」
「ご免」
晒が、兼良の口に捻じ込まれた。
「舌を噛まれては大事にございます。ご無礼をお許しくださいませ」
口を覆う覆面を外し、籠手を外し、帯は解かず、胸をはだけた。
白く、大きな乳房が弾力を見せて、外気に晒された。
「石見守様の魔物嫌い、よく存じております。このままでは石見守様はご家来衆と民の心を離してしまいます。加えて、聞けば世継ぎもおられぬとのこと。
此度のことは、兵部様からの一風変わった縁組とお考えくださりませ」
言いながら、兼良の胸に自分の乳房を押し付けて、前後に擦る。
白い乳房が潰れ、形を柔軟に変えて、桜色の突起を押し隠す。ぐにぐにと按摩をしながら、力の入った兼良の肉をほぐす。
「事が終わって後、石見守様のお気に召さぬところがあらば、どうかこの首をその手で刎ねられませ。この小枝（さえ）、その覚悟で参りました」
力の抜けた腕を掌で丁寧に按摩して、唇から覗く赤い舌を、兼良の胸に這わせた。
「ああ、汗の香りが致します。女を惑わす魔性の香りにございますね」
兼良は倹約家だから、二日か三日に一回くらいしか風呂には入らない。入浴中は隙を生むという、剣術家としての合理的な考え方もあった。
「湯浴みはお嫌いでございますか？ ならばこの小枝が、舌でお体の汚れを取って差し上げます」
「むぐぐぐ！」
おぞましい、と兼良が声にならぬ声をあげ、自由にならぬ体を僅かによじった。
「ご無礼を。ですが、お体は正直でございますね。女人を知らぬ初心なお体、小枝の無礼で反応されておられるご様子」
真実快楽を覚えたというわけではなかったろうが、刺激に胸に突起が勃っていた。
「少々こそばゆいことと存じますが、ご容赦を」
唾液をたっぷり塗した真っ赤な舌が、兼良の胸を這い、乳輪をなぞった。
二度、三度と回って、不意に突起に吸い付いた。
「ぐ、ぐぐ！」
「不快でございましたか？ ここで感じるには少々慣れが必要のご様子ですね」
言いながら、舌は腹に向かった。
「逞しいお体ですわ。この腕に抱き締められ、この胸とお腹に身を押し付けられた日には、私の蜜壺がはしたなく泣いてしまいます」
つつつ、と蝸牛のように軌跡を描きながら、舌が下腹部へと向かっていく。
「まだこの目には映っておりませんが、乳房で感ずる限り、石見守様も猛っていらっしゃいますね」
乳房を押し付けると、独特の熱さと硬さが伝わってくる。どくどく、と荒々しい脈動が乳房を襲い、小枝の体はまた強く火照った。
「はぁ、石見守様の剛直、拝見してもよろしゅうございますか？」
息を荒げて問うくせに、返事は待たない。
剛直にわざと乳房を擦り付けて感触を味わい、谷間に導いて少し蒸れさせて、そのまま体をずらして谷間を抜けさせる。
びん、と跳ね上がった剛直が小枝の小鼻をたたいた。
「なんと精強なご尊顔。真っ赤に腫れた先端が熟れた果実のように美しゅうございます。それに、なんと濃厚なこの香り。すぐにでもむしゃぶりついてしまいたい」
はぁ、と色気の溢れた吐息を漏らして、臭いを嗅ぐ。
饐えた獣の臭いが、そこにあった。
「脳髄が蕩けてしまいそうです。是非ともこの舌で味わいたいところでございますが、同じ刺激ではお飽きになられることでしょう」
刺激は同じでも、与えられる部位によって感覚は変わる。そういう細かな考えに及ばないほど、小枝は昂奮している。
小枝は、下帯を解き、不意に蜜壺に自分の指を捻じ込んだ。
「ふっ、ん、ぐ･･････は、ぁ。
ああ、やはり濡れそぼっております。石見守様のお体に無礼を働くだけで、この女陰（ほと）はこんなにもいやらしく泣いております」
三本の指を捻じ込んで、膣内できりきりと回す。根元まで指を入れると、指をわずかに曲げ、掻き回し、そのまま引き抜いた。
「ふむぅ！
･･････ん、ぐ。あ、危うく果ててしまうところでした」
べっとりと、愛液の絡みついた手を目の前まで持ってきて、にちゃにちゃと絡め出した。
「少々お待ちくださいませ、石見守様」
透明で粘度の薄い液と、白濁のねばりとした汁が絡み合っている。
それを、兼良の陰茎に塗りつけた。
「ああ、私の女陰の涎と石見守様がまぐわっております。聞こえますか、この淫らな水音が」
「ぐ、ぐぐ！」
兼良にすれば、未知の快楽である。
反射的に身をよじってしまう様は、小枝から見るととても愛らしい。
「はい、根元まで充分に絡みついたようにございます。これで滑りがよくなりました」
小枝は、自分の乳房を下から持ち上げ、寄せて、陰茎を挟み込んだ。
ぐちゃり、と生々しい水音が響き、白い乳房が淫らに形を変えた。
「如何ですか、私の乳房は。殿方に、いえ、石見守様に奉仕するためだけのものにございます。ご賞味くださいませ」
最初はゆっくりと、重さを持て余すように持ち上げて落とす。肌のぶつかり合う音が響いて、音だけ聞けば激しい情交のようでもある。
雁首までは擦らない。密着させた柔らかさと弾力は、あくまでも茎の部分にだけで、先端には一切触れない。
実際、突起もなく、圧迫感も筋肉の発達した掌に及ばない乳房による奉仕では、然程の快楽は得られない。だがこうして感触的、視覚的な淫猥さを演出するのに優れている。
もどかしいくらいが丁度いい。
小枝は、男の感じ方まで心得ている。
「この程度では、物足りないことと存じます。
ん、は、先端から透明な、雫が溢れて、おります」
息が弾んでいる。上下動だけでも、緩急や強弱をつけるとそれなりに息が荒くなるのだろう。
小枝自身が非常な興奮状態にあることも、理由の一つではあろう。
「乳房の奉仕は、これだけで終わる、ものでは、ございません。
寧ろこれから･･････ちゅっ」
そう言うと、おもむろに露出した亀頭部に口付けた。
「ぐぐ！」
「ちゅっ･･････ちゅっ･･････ちゅぷ」
胸の律動に合わせて、ぱっくりと開いた先端部に接吻する。刺激を待ちわびた肉棒は嬉しげに脈動し、先端から雫を溢れさせた。
それを丁寧に吸い、溢れたら舌を使って掬い、口内に導いた。あまり味のない、粘りの強い雫を舌に絡めて、味わって飲み込む。
「んむ、ん、こくん。
ちゅっ･･････感じておられるのですね、石見守様。光栄でございます」
乳房の律動を激しく、左右で動きを分け、唇は吸い付いたまま離さない。
「ちゅうぅぅッ！」
口内の空気を抜き、吸い付き、乳房で擦る。
「むう、ぐう！」
兼良の、腰が震える。
絶頂の兆しを感じ取った小枝は、
「ちゅっぽんっ！」
吸い付きの強さが如実に表れる間抜けな音を立てて口を離し、乳房による拘束も解いた。
射精し損ねた肉棒が切なげに震えた。
「まだ、でございますよ、石見守様。情交とは性器の結合を意味します。まだ小枝の女陰が残っております」
小枝は、そのまま兼良に跨り、胸に手を置いた。
「さあ、どうぞ存分にご賞味くださいませ。これよりこの小枝の女陰は石見守様のもの」
ゆっくりと腰を下ろし、亀頭部に陰唇が触れる。
「んっ、は、ぁ。この刺激だけで、小枝は無様に気をやってしまいそうです」
片手を兼良の陰茎に沿え、陰唇を開いて膣に先端が飲み込まれた瞬間、
「んふううう！！ んあぁぁぁ！」
一気に奥まで、咥え込んだ。
刹那、小枝に電流が走る。全身がぴん、とはりつめて、断末魔のように震えた。
「ひぐ！ ふむっ、ん、んは、は、あぁぁ。
も、申し訳ございません、さ、小枝はぁ、はしたなく気をやってしまいました」
喜悦に目を細め、口元を歪ませる。
「先に気をやってしまった償いを、させていただきとうございます」
腰を動かす。
奥深くまで飲み込んだ肉棒を、膣内で味わうように前後左右に揺さぶる。膣壁の襞で肉棒に奉仕する。
ねばねばとした腰使いである。
「い、如何、で、ございますか、いわみ、の、かみさま。
小枝の女陰を、お、お楽しみいただけて、おりますか、ぁ」
兼良は、それどころではない。
今まで味わったことのない快楽を連続でぶつけられて、息も絶え絶えである。初めてにも関わらず未だ暴発していないのは、小枝の手管による絶妙の加減も然ることながら、魔物に屈服してなるかという敵愾心の為せる業である。
「この、襞の、一枚一枚が、石見守様に、奉仕するためのもの、にございます。
ああ、また、小枝の全身に稲妻が。これは、気を抜くとまた、果ててしまいそう」
この動きを執拗に続けると、兼良も限界を迎える。そう遠いことではない。
が、やはり肉棒への刺激は抽送が最も適している。
小枝は前後左右の律動を止め、上下の抽送に切り替えた。
「そ、それでは、そろそろ最高潮、と参ります」
腰を振る。
時にくねらせながら、リズミカルに腰を振る。
膣内が嬉しげに収縮して肉棒を締め上げる。
「ん、んん、んはっ！ はっ、んぐ、んんんっ！ んは、はあっ！」
肌と肌のぶつかり合う音が響く。水音が激しさを増す。
抽送の速度は高まり続ける。
「あ、あっ、ああっ！ ん、ん、んぐっ、あ、あああ！」
先端部が、子宮口に触れた。
「んああああああっ！！」
こつん、こつん、と肉棒が子宮口をノックして、その度に小枝の体は絶頂寸前の喜悦に震えた。
「ふ、ふあ、も、もう小枝、も、限界に、ふああっ！」
雁首が膣内に引っかかって、内臓を引っ張り出すように戻り、
「ふ、ふはっ、あ、ああっ！ んむあああああああッ！！」
パン、と腰を打ちつけた瞬間、絶頂した。
と、同時に、兼良も弾けた。
「むぐぐ、ぐぐうう！！」
膣内で激しく暴れながら射精する。濃厚な白濁が、子宮口にぶつかって弾ける。
膣内を満たす熱い感触に、初めて味わう女の充足感に、小枝の体がまた震えた。
「う、はあぁぁ！ み、満たされております。小枝は、この瞬間のために生まれてきたのです･･････」
細かい絶頂が続いているらしい。
また、小枝の体が小刻みに震えた。
事の後始末は、全て小枝が済ませた。
未だ手足の痺れる兼良の汗を拭い、着物を着せた。その様は、まるで百年を共にした妻のようであった。
「石見守様、我ら魔物は、人から精を貰えなければ子を作れません。生きていくことはかろうじて出来ますが、子を為さぬのに生きる理由がございましょうか」
「･･････」
轡から解放され、五体を濡れた布団に投げ出して、兼良は思案する。
（考えは、変わらぬ。だが嫌悪感は少しなくなったように思う。これが、洗脳か？）
そう思えなくもない。
不思議だ。
魔物の生態を肌で感じたためであろうか。精を啜る魔物は人を糧にしている。その考えは変わらないのに、それに対する嫌悪感だけが、すっぽり失せていた。
「問おう、小枝」
いつの間にか、兼良は小枝を名で呼んでいた。
「なんなりと」
「魔物は、人をどう思っておる？」
「･･････大切に、思っております」
ありきたりな言葉である。
だが、浦部兵部敏輔のように、兼良の兄のように、“大切”という言葉にはいろんな感情が込められている。様々な意味が込められている。
小枝の放った“大切”という言葉の重みは、兼良の胸に伝わった。
「左様か。だが私も、私の民を大切に思っている。私の領で生まれた子は私の子だ。私は子らの父なのだ」
「･･････充分に、存じ上げております」
小枝は、布団から僅かに離れて平伏している。
このまま兼良が首を刎ねようとしても、抗う積もりはなかった。いや、そのための姿勢であっただろう。
「その子らを傷つける真似は許さぬ。況して無理矢理かどわかすなど言外のことよ」
「はっ」
「小枝。使いを出せ。魔物との婚姻を望む者にのみ、そなたらの干渉を認める。人を襲うことはまかりならん。
そのことだけ守れと」
「い、石見守様･･････」
顔をあげた。
兼良が、起き上がって小枝を見ていた。
「毒も抜けたわ。兄も気の利いた薬を渡しよる。
魔物とは、そういう生物なのだな。人が稲と麦を食むように、人が水を飲むように、魔物には精が必要なのだな。
人の尊厳さえ奪わねば、双方の合意の上ならば、魔物の干渉を認めよう」
「あ、ありがたき幸せ」
畳を頭に擦り付けた。どういう心境か、小枝にも判らない。
ただ、雫が、畳を濡らしていることに気づいた。
「早速、郷里に使いを出し、領内の全ての魔物に報せます」
「小枝よ」
立ち上がった小枝を、制した。
「郷里に戻るか？」
「はっ、一時は。なにか、他に存念が？」
「いや･･････むう、なんと言おうか。ここには、もう来ぬのか？」
小枝は、全て察した。
察して、微笑した。
「石見守様･･････いえ、兼良様の命をいただけるなら。この小枝、どこにでも」
聞いて、兼良は少しばかり狼狽した。
言い難そうにもごもごと言葉にならぬ声をだしたが、やがて、覚悟して。
「小枝、私の傍におれ。死ぬまで離れること許さぬ」
照れくさそうに、言った。
「はい。死んでも、兼良様のお傍を離れませぬ」
小枝は、また微笑して去った。
この後、兼良の治める地方は親魔物寄りの中立領となった。魔物は交渉を経て人の精を得る。人も、魔物の交渉と言う名の愛に応えて精を与えた。
繁栄は、然程にしなかったが、領内での魔物による諍いはほとんどなくなった。
兼良は名君として慕われた。
その傍らに、覆面をした、変わった内室が控えていたという。
中野石見守兼良（なかの いわみのかみ かねよし）の居室である。
場所は城の二の丸に当たり、主に政務を行う。隣の障子を五枚ばかり過ぎると、兼良の寝室になる。
肘掛に身を預け、平伏する家臣を見下ろした。
「主税、年貢が減ったと申したか？」
「はっ、前年度よりも明らかに減退しております」
右から、杉原主税光成（すぎわら ちから みつなり）。
和良主計静好（わら かずえ しずよし）。
そして、六平刑部重満（ろくひら ぎょうぶ しげみつ）。
「刑部」
「はっ、照らし合わせたところ、拿捕した罪人共とも数は合いません」
三人の報告を受けて、兼良は長く嘆息した。
「魔物共の仕業と見るが自然か」
「仰るとおりかと」
税である年貢が減った。
ということは、人口が減っているということだ。
兼良の統治に、問題はない。その年の作物の実り方で税収を変え、民に無理のない税収を保ち、それらを治水と商業に回して発展させてきた。
弾正（だんじょう）の権限をある程度容認し、非違を見つけたらその場で拘束する権利を与え、それらの情報連結と裁判を刑部に委任した。
事の発端は、主計が報告した前年度の年貢米と、今年度の年貢米の差である。
明らかに減っていた。
年貢米の接収を拒んだ者の報告は上がっていない。
すぐさま税収を司る主税を呼び、確認し、人口の減少だと結論付け、罪人の増加が原因ではないかと証明するために刑部を呼んだ。
そして出た結論は、領内の人口減少の理由は、魔物ではないか。
「人と暮らす魔物ならばある程度容認しよう。が、水神などは住処に人を招き入れる。恥知らずの人外が、私の領土で私の民をかどわかすなど」
兼良は、この島（ジパング）では珍しく反魔物派の人間である。
魔物は、人の精を糧とする。
人を殺すことはないが、人を糧とすることに違いはない。そこは、どんな理屈やお題目を掲げても永遠に変わることはない。
ならば、人とは魔物の糧になるべく生まれるのではないか。
その結論が、兼良は気に入らない。
如何に魔物を嫌う者とて、精を啜られた途端豹変する。快楽による洗脳でなくてなんであろう。強制的な価値観の変質は、個人への冒涜でなくてなんであろう。
兼良は、領内の民を愛するが故に、魔物を嫌っていた。
「かくなるうえは、我が手で斬るか」
兼良の佩刀は、左文字源慶。名刀中の名刀である。
剣の腕も、中条流で目録を得た。剣術家としても秀でている。
厳粛な性格だったが、刃傷沙汰を嫌うので、実戦の経験はない。人を罰するのも死罪はなるべく避け、どうしようもない時にのみ、斬首でなく切腹を命じた。
言うなれば、慈悲深い。
その兼良の癇癪といえば、決まって魔物のことであった。
「と、殿のお手を煩わすことでは･･････。それに、左文字源慶を不浄の血で汚すなど」
刑部が、慌てて止めた。
兼良に忠義を尽くしているこの三人は、反魔物派ではない。
なるほど、政治家としての兼良の手腕や剣術家としての気勢に惚れこんではいる。が、その思想に全て同調しているかと言われると、そうではない。
実際に人間が食い散らかされたとか、不幸になったとかいう話は領内で聞かない。ならばそれもまた個人の幸福の形ではないかと思っている。
この意思は、家臣団の共通の意識である。だからこそ、兼良は未だに大粛清とも言うべき魔物の虐殺に至っていない。
「口惜しいことよ、歯痒いことこの上ない」
三人の家臣は、兼良を不憫に思ってきた。
領内の民を我が子のように愛し、優しく厳しく統治してきた姿には、一生も二生も捧げて悔いなしという思いが沸々と湧き上がってくる。だが、だからこそ差別主義に走っている姿は哀れですらあった。
「殿、敢えて苦言を申し上げます」
「断らず、申せ。そなたらの苦言なら喜んで聞こう」
「大学なぞの言葉に踊らされることのなきよう。軽挙はお控えくだされ」
兼良の家臣、坂野大学鎮成（さかの だいがく しずなり）は、教育機関の長を勤めている。だからであろう。
彼は唯一、兼良の反魔物思想に同調しており、しきりと大粛清を提案している。
もし兼良が粛清に乗り出せば、魔物と共存し、一応の平穏を得ている民の心は瞬く間に離れてしまう。
それは、これほどの統治能力を持つ兼良にとっても、その膝元で安寧を謳歌している民にとっても不幸極まりない。
「･･････判っておる。だが父とは、時に子に憎まれようとやるべきことを完遂せねばならぬ。それは覚悟しておれ」
「はっ、それはもう」
「よし、ならばもう下がれ。遅くに呼び立てしてすまなんだな」
平伏して、三人は下がった。
兼良は灯りを消して、寝室に行った。
「ご苦労」
寝所の隣室で控えている小姓に声を掛けて、敷かれた布団の上で胡坐を掻いた。
（寝酒でも、飲むか）
気が立って眠れそうにない。
棚から酒を引っ張り出すと、杯を舐めるように、ちびりと飲み始めた。
兼良は、未だ独身。
年齢がもう二十八になる頃だから、とうも立ち過ぎている。
それでも、と嫁にやろうとする者は後を絶たないが、どうにも気乗りしない。兼良の魔物嫌いの根幹には、男女の営みを知らない、という部分が関係しているのかもしれない。
半時ほど経っただろうか。
兼良は、ふと杯を置き、傍らに太刀を引き寄せた。
「誰ぞ？」
闇に、声を掛ける。
小姓ならば、入室の際に声を掛けるだろう。
蝋燭の灯りの届かない、部屋の隅。闇に紛れてなにかが、居る。
「中野石見守様にございますね？」
鈴を鳴らすような声であった。
（女？ 素破か）
要するに、忍者のことだ。
「如何にも。用件は？」
左文字源慶の鯉口を切った。
用件など、首に決まっている。
寝所に素破が紛れ込んでいる。それは即ち死である。逆転があるとするならば、兼良が斬り捨てるくらいだが、それも難しい。
剣術家としての兼良は言っている。
（ここまで来られる者が、よもやこの兼良ごときに斬られはするまい）
そういう確信がある。
だが、だとてむざむざと坐して死を待つわけではない。
武人として、一太刀浴びせねば気がすまなくなっている。
抜いた。
いや、抜こうとした。
だがそれよりも早く、女は兼良の太刀の柄に手を当てていた。
「どうか騒がれませぬよう」
一体どういう仕掛けなのか、残像が僅かに揺らいだかと思うと、既に女は兼良と吐息が掛かるほど近くにいる。蝋燭の火も、消えていない。
「さすが、素破だな。抜かせもせんとは」
「反射でございます。頭で考えてのことではございません。石見守様が抜かれようとした瞬間、この体は私の頭と分離して勝手に動いた次第でございます」
「それほどの修練か。人を鬼にする業よな。伊賀にも斯様な異能者共が居ると聞く。この首に別れを告げる前に、教えよ。誰の回し者か」
そこで、兼良は気づいた。
肉感的に揺れる、先端が三角形の尾に。
「うぬ、よもや･･････！」
「お察しの通りでございます。私、人の子ではございません」
全力の膂力で太刀を引き抜こうとした。が、無理だ。柄を抑えられ、力の方向を抑えられている以上、抜けるものではない。
「順を追って、説明致します。
私は、浦部兵部様のご依頼で伺いました」
「兵部だと！？」
浦部兵部敏輔（うらべ ひょうぶ としすけ）。
兼良の兄である。
「･･････庶腹といえど兄は兄。立ててきた積もりであったが、然程に私が気に入らんか」
敏輔は兼良の父が妾に産ませた子で、正室の腹でないとして跡目を兼良に譲った。その後、兵部の家系である浦部家に養子入りし、兼良の家臣となった。
幼少の頃は仲が良く、敏輔は兼良を弟として、そして将来の主として接してきた。兼良もまた、敏輔の潔さと清廉さによく懐いていた。
その兄の差し金と知っては、最早どんな力も込める気にはなれなかった。
「お心得違いをなさいませぬよう。兵部様は石見守様を大切に思ってらっしゃいます。此度、私を使わせたのも石見守様の将来を案じられてのこと」
「この首を取ることのどこに―――――」
「いえ、石見守様の首など、承ってはおりませぬ」
そう言って、女は兼良の唇に、自分の唇を押し付けた。
「む！」
口中に、なにかが流し込まれた。抵抗したが、体は巧みに女に抑えつけられているため、抗えない。結局、飲み込んでしまった。
「なにを、貴様！」
「お静かに。夜の帳は、無粋を嫌います」
程なく、兼良の手足が痺れた。
手から離れた太刀を、女は優しく受け止め、傍らに置いた。
「な、に･･････」
「兵部様より、お預かりの痺れ薬にございます。末端を麻痺させる程度でございます。どうかお心を安らかに」
ゆっくりと、優しく、女は兼良の体を布団に横たえた。
その間、巧みに帯を解き、着物を脱がせている。
「やは、り、化生のやることか」
「ご免」
晒が、兼良の口に捻じ込まれた。
「舌を噛まれては大事にございます。ご無礼をお許しくださいませ」
口を覆う覆面を外し、籠手を外し、帯は解かず、胸をはだけた。
白く、大きな乳房が弾力を見せて、外気に晒された。
「石見守様の魔物嫌い、よく存じております。このままでは石見守様はご家来衆と民の心を離してしまいます。加えて、聞けば世継ぎもおられぬとのこと。
此度のことは、兵部様からの一風変わった縁組とお考えくださりませ」
言いながら、兼良の胸に自分の乳房を押し付けて、前後に擦る。
白い乳房が潰れ、形を柔軟に変えて、桜色の突起を押し隠す。ぐにぐにと按摩をしながら、力の入った兼良の肉をほぐす。
「事が終わって後、石見守様のお気に召さぬところがあらば、どうかこの首をその手で刎ねられませ。この小枝（さえ）、その覚悟で参りました」
力の抜けた腕を掌で丁寧に按摩して、唇から覗く赤い舌を、兼良の胸に這わせた。
「ああ、汗の香りが致します。女を惑わす魔性の香りにございますね」
兼良は倹約家だから、二日か三日に一回くらいしか風呂には入らない。入浴中は隙を生むという、剣術家としての合理的な考え方もあった。
「湯浴みはお嫌いでございますか？ ならばこの小枝が、舌でお体の汚れを取って差し上げます」
「むぐぐぐ！」
おぞましい、と兼良が声にならぬ声をあげ、自由にならぬ体を僅かによじった。
「ご無礼を。ですが、お体は正直でございますね。女人を知らぬ初心なお体、小枝の無礼で反応されておられるご様子」
真実快楽を覚えたというわけではなかったろうが、刺激に胸に突起が勃っていた。
「少々こそばゆいことと存じますが、ご容赦を」
唾液をたっぷり塗した真っ赤な舌が、兼良の胸を這い、乳輪をなぞった。
二度、三度と回って、不意に突起に吸い付いた。
「ぐ、ぐぐ！」
「不快でございましたか？ ここで感じるには少々慣れが必要のご様子ですね」
言いながら、舌は腹に向かった。
「逞しいお体ですわ。この腕に抱き締められ、この胸とお腹に身を押し付けられた日には、私の蜜壺がはしたなく泣いてしまいます」
つつつ、と蝸牛のように軌跡を描きながら、舌が下腹部へと向かっていく。
「まだこの目には映っておりませんが、乳房で感ずる限り、石見守様も猛っていらっしゃいますね」
乳房を押し付けると、独特の熱さと硬さが伝わってくる。どくどく、と荒々しい脈動が乳房を襲い、小枝の体はまた強く火照った。
「はぁ、石見守様の剛直、拝見してもよろしゅうございますか？」
息を荒げて問うくせに、返事は待たない。
剛直にわざと乳房を擦り付けて感触を味わい、谷間に導いて少し蒸れさせて、そのまま体をずらして谷間を抜けさせる。
びん、と跳ね上がった剛直が小枝の小鼻をたたいた。
「なんと精強なご尊顔。真っ赤に腫れた先端が熟れた果実のように美しゅうございます。それに、なんと濃厚なこの香り。すぐにでもむしゃぶりついてしまいたい」
はぁ、と色気の溢れた吐息を漏らして、臭いを嗅ぐ。
饐えた獣の臭いが、そこにあった。
「脳髄が蕩けてしまいそうです。是非ともこの舌で味わいたいところでございますが、同じ刺激ではお飽きになられることでしょう」
刺激は同じでも、与えられる部位によって感覚は変わる。そういう細かな考えに及ばないほど、小枝は昂奮している。
小枝は、下帯を解き、不意に蜜壺に自分の指を捻じ込んだ。
「ふっ、ん、ぐ･･････は、ぁ。
ああ、やはり濡れそぼっております。石見守様のお体に無礼を働くだけで、この女陰（ほと）はこんなにもいやらしく泣いております」
三本の指を捻じ込んで、膣内できりきりと回す。根元まで指を入れると、指をわずかに曲げ、掻き回し、そのまま引き抜いた。
「ふむぅ！
･･････ん、ぐ。あ、危うく果ててしまうところでした」
べっとりと、愛液の絡みついた手を目の前まで持ってきて、にちゃにちゃと絡め出した。
「少々お待ちくださいませ、石見守様」
透明で粘度の薄い液と、白濁のねばりとした汁が絡み合っている。
それを、兼良の陰茎に塗りつけた。
「ああ、私の女陰の涎と石見守様がまぐわっております。聞こえますか、この淫らな水音が」
「ぐ、ぐぐ！」
兼良にすれば、未知の快楽である。
反射的に身をよじってしまう様は、小枝から見るととても愛らしい。
「はい、根元まで充分に絡みついたようにございます。これで滑りがよくなりました」
小枝は、自分の乳房を下から持ち上げ、寄せて、陰茎を挟み込んだ。
ぐちゃり、と生々しい水音が響き、白い乳房が淫らに形を変えた。
「如何ですか、私の乳房は。殿方に、いえ、石見守様に奉仕するためだけのものにございます。ご賞味くださいませ」
最初はゆっくりと、重さを持て余すように持ち上げて落とす。肌のぶつかり合う音が響いて、音だけ聞けば激しい情交のようでもある。
雁首までは擦らない。密着させた柔らかさと弾力は、あくまでも茎の部分にだけで、先端には一切触れない。
実際、突起もなく、圧迫感も筋肉の発達した掌に及ばない乳房による奉仕では、然程の快楽は得られない。だがこうして感触的、視覚的な淫猥さを演出するのに優れている。
もどかしいくらいが丁度いい。
小枝は、男の感じ方まで心得ている。
「この程度では、物足りないことと存じます。
ん、は、先端から透明な、雫が溢れて、おります」
息が弾んでいる。上下動だけでも、緩急や強弱をつけるとそれなりに息が荒くなるのだろう。
小枝自身が非常な興奮状態にあることも、理由の一つではあろう。
「乳房の奉仕は、これだけで終わる、ものでは、ございません。
寧ろこれから･･････ちゅっ」
そう言うと、おもむろに露出した亀頭部に口付けた。
「ぐぐ！」
「ちゅっ･･････ちゅっ･･････ちゅぷ」
胸の律動に合わせて、ぱっくりと開いた先端部に接吻する。刺激を待ちわびた肉棒は嬉しげに脈動し、先端から雫を溢れさせた。
それを丁寧に吸い、溢れたら舌を使って掬い、口内に導いた。あまり味のない、粘りの強い雫を舌に絡めて、味わって飲み込む。
「んむ、ん、こくん。
ちゅっ･･････感じておられるのですね、石見守様。光栄でございます」
乳房の律動を激しく、左右で動きを分け、唇は吸い付いたまま離さない。
「ちゅうぅぅッ！」
口内の空気を抜き、吸い付き、乳房で擦る。
「むう、ぐう！」
兼良の、腰が震える。
絶頂の兆しを感じ取った小枝は、
「ちゅっぽんっ！」
吸い付きの強さが如実に表れる間抜けな音を立てて口を離し、乳房による拘束も解いた。
射精し損ねた肉棒が切なげに震えた。
「まだ、でございますよ、石見守様。情交とは性器の結合を意味します。まだ小枝の女陰が残っております」
小枝は、そのまま兼良に跨り、胸に手を置いた。
「さあ、どうぞ存分にご賞味くださいませ。これよりこの小枝の女陰は石見守様のもの」
ゆっくりと腰を下ろし、亀頭部に陰唇が触れる。
「んっ、は、ぁ。この刺激だけで、小枝は無様に気をやってしまいそうです」
片手を兼良の陰茎に沿え、陰唇を開いて膣に先端が飲み込まれた瞬間、
「んふううう！！ んあぁぁぁ！」
一気に奥まで、咥え込んだ。
刹那、小枝に電流が走る。全身がぴん、とはりつめて、断末魔のように震えた。
「ひぐ！ ふむっ、ん、んは、は、あぁぁ。
も、申し訳ございません、さ、小枝はぁ、はしたなく気をやってしまいました」
喜悦に目を細め、口元を歪ませる。
「先に気をやってしまった償いを、させていただきとうございます」
腰を動かす。
奥深くまで飲み込んだ肉棒を、膣内で味わうように前後左右に揺さぶる。膣壁の襞で肉棒に奉仕する。
ねばねばとした腰使いである。
「い、如何、で、ございますか、いわみ、の、かみさま。
小枝の女陰を、お、お楽しみいただけて、おりますか、ぁ」
兼良は、それどころではない。
今まで味わったことのない快楽を連続でぶつけられて、息も絶え絶えである。初めてにも関わらず未だ暴発していないのは、小枝の手管による絶妙の加減も然ることながら、魔物に屈服してなるかという敵愾心の為せる業である。
「この、襞の、一枚一枚が、石見守様に、奉仕するためのもの、にございます。
ああ、また、小枝の全身に稲妻が。これは、気を抜くとまた、果ててしまいそう」
この動きを執拗に続けると、兼良も限界を迎える。そう遠いことではない。
が、やはり肉棒への刺激は抽送が最も適している。
小枝は前後左右の律動を止め、上下の抽送に切り替えた。
「そ、それでは、そろそろ最高潮、と参ります」
腰を振る。
時にくねらせながら、リズミカルに腰を振る。
膣内が嬉しげに収縮して肉棒を締め上げる。
「ん、んん、んはっ！ はっ、んぐ、んんんっ！ んは、はあっ！」
肌と肌のぶつかり合う音が響く。水音が激しさを増す。
抽送の速度は高まり続ける。
「あ、あっ、ああっ！ ん、ん、んぐっ、あ、あああ！」
先端部が、子宮口に触れた。
「んああああああっ！！」
こつん、こつん、と肉棒が子宮口をノックして、その度に小枝の体は絶頂寸前の喜悦に震えた。
「ふ、ふあ、も、もう小枝、も、限界に、ふああっ！」
雁首が膣内に引っかかって、内臓を引っ張り出すように戻り、
「ふ、ふはっ、あ、ああっ！ んむあああああああッ！！」
パン、と腰を打ちつけた瞬間、絶頂した。
と、同時に、兼良も弾けた。
「むぐぐ、ぐぐうう！！」
膣内で激しく暴れながら射精する。濃厚な白濁が、子宮口にぶつかって弾ける。
膣内を満たす熱い感触に、初めて味わう女の充足感に、小枝の体がまた震えた。
「う、はあぁぁ！ み、満たされております。小枝は、この瞬間のために生まれてきたのです･･････」
細かい絶頂が続いているらしい。
また、小枝の体が小刻みに震えた。
事の後始末は、全て小枝が済ませた。
未だ手足の痺れる兼良の汗を拭い、着物を着せた。その様は、まるで百年を共にした妻のようであった。
「石見守様、我ら魔物は、人から精を貰えなければ子を作れません。生きていくことはかろうじて出来ますが、子を為さぬのに生きる理由がございましょうか」
「･･････」
轡から解放され、五体を濡れた布団に投げ出して、兼良は思案する。
（考えは、変わらぬ。だが嫌悪感は少しなくなったように思う。これが、洗脳か？）
そう思えなくもない。
不思議だ。
魔物の生態を肌で感じたためであろうか。精を啜る魔物は人を糧にしている。その考えは変わらないのに、それに対する嫌悪感だけが、すっぽり失せていた。
「問おう、小枝」
いつの間にか、兼良は小枝を名で呼んでいた。
「なんなりと」
「魔物は、人をどう思っておる？」
「･･････大切に、思っております」
ありきたりな言葉である。
だが、浦部兵部敏輔のように、兼良の兄のように、“大切”という言葉にはいろんな感情が込められている。様々な意味が込められている。
小枝の放った“大切”という言葉の重みは、兼良の胸に伝わった。
「左様か。だが私も、私の民を大切に思っている。私の領で生まれた子は私の子だ。私は子らの父なのだ」
「･･････充分に、存じ上げております」
小枝は、布団から僅かに離れて平伏している。
このまま兼良が首を刎ねようとしても、抗う積もりはなかった。いや、そのための姿勢であっただろう。
「その子らを傷つける真似は許さぬ。況して無理矢理かどわかすなど言外のことよ」
「はっ」
「小枝。使いを出せ。魔物との婚姻を望む者にのみ、そなたらの干渉を認める。人を襲うことはまかりならん。
そのことだけ守れと」
「い、石見守様･･････」
顔をあげた。
兼良が、起き上がって小枝を見ていた。
「毒も抜けたわ。兄も気の利いた薬を渡しよる。
魔物とは、そういう生物なのだな。人が稲と麦を食むように、人が水を飲むように、魔物には精が必要なのだな。
人の尊厳さえ奪わねば、双方の合意の上ならば、魔物の干渉を認めよう」
「あ、ありがたき幸せ」
畳を頭に擦り付けた。どういう心境か、小枝にも判らない。
ただ、雫が、畳を濡らしていることに気づいた。
「早速、郷里に使いを出し、領内の全ての魔物に報せます」
「小枝よ」
立ち上がった小枝を、制した。
「郷里に戻るか？」
「はっ、一時は。なにか、他に存念が？」
「いや･･････むう、なんと言おうか。ここには、もう来ぬのか？」
小枝は、全て察した。
察して、微笑した。
「石見守様･･････いえ、兼良様の命をいただけるなら。この小枝、どこにでも」
聞いて、兼良は少しばかり狼狽した。
言い難そうにもごもごと言葉にならぬ声をだしたが、やがて、覚悟して。
「小枝、私の傍におれ。死ぬまで離れること許さぬ」
照れくさそうに、言った。
「はい。死んでも、兼良様のお傍を離れませぬ」
小枝は、また微笑して去った。
この後、兼良の治める地方は親魔物寄りの中立領となった。魔物は交渉を経て人の精を得る。人も、魔物の交渉と言う名の愛に応えて精を与えた。
繁栄は、然程にしなかったが、領内での魔物による諍いはほとんどなくなった。
兼良は名君として慕われた。
その傍らに、覆面をした、変わった内室が控えていたという。
14/02/14 14:01更新 / 一