連載小説
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真人間からの変態過程
いつも通りの4限までの授業は粛々と進み、いよいよ学生にとっての麗しの時「昼休み」が到来した。うちの近所である商店街でもこの時間となればいそいそとスーツや自身の店を象徴するシャツ等の鎧(ふく)を着た戦士(おとな)達が次なる闘いに向けての補給物質(いんしょくてん)を探してパタパタとせわしなく動き回っている辺り、きっと大人になってもこの時間は永遠に憩いの刻となるのだろう。

そんな聖なる時間を頂いた学生達は皆友と食事を、スマホのイベントを、校庭で運動を、それぞれの楽しみを享受しようと若くたぎる血潮をフル稼働し思い思いの欲求を解放している。

まあ、そういった楽しみは人それぞれ、十人十色であって...私の楽しみっていうとね...


ふふ...寝たフリ寝たフリ、お母さんが持たせてくれた昼食のお弁当を食べ終わった後はこうやって昼休みをやり過ごさなきゃねー。
ただ時間をやり過ごすだけなら図書室なり何なりに逃げ込めばいいんだけど、そんな勿体無い事はしないわ。
よいしょ、伏してる顔を少し上げて...んふふ♥


あ、いたいた♥またあの二人組で一緒にスマホの内容についてお話してる♥



「なぁなぁ岩野!見たかよ!?ラタトゥーの超ビッグニュース!」
「おう見た見た!すげぇよな!これなら俺も彼女が出来るかもしんねぇよ!」
「なー、おめぇの顔面偏差値的には女子だって踊り食いだろうに、未だに彼女のカの字も見えねぇもんな」
「うっせ、皆節穴で俺の魅力に気付いてねぇだけだわ」
「気がちっせえのと、でかパイ好きってのがが全部ダメにしてっけどな!」
「バカ、大声でそんなん言うなって!」
ギャッハッハッハッハッハ!!



気付いてる、気付いてるよぉ岩野君♥今日も気弱なジャ○ーズjrみたいな顔立ちで可愛格好いい♥
普段は静かで知的な佇まいを見せているのに池野君とバカ騒ぎする時だけは幼い子供のような無邪気な顔付きになるんだから、その二面性のギャップにときめいちゃう♥はぅっ♥いけない、あの目付きで見つめられた状況を考えただけで切なくなっちゃうよぉ♥岩野君♥いいや、妄想の中くらい名前呼びでもいいよね、練治君♥ああっ、あのしなやかで引き締まった腕の中で練治君の顔を見上げたらどれだけ凛々しく見えるんだろう♥ちょっと気弱そうだし私から押し倒したら驚いちゃうかな♥私のは小さいけどおっぱい見せたら喜んでもらえるかなぁ♥もう練治君♥こんなに恋い焦がれてるのに気付かないなんてもうっもうっ♥ 

一緒に話してる池野君も...今日も爽やかな王子様キャラで格好いい...んだけど...
んー?以前ほどキュウンとときめく感じがなくなったような...何となーく別の影がちらつく「薫り」のようなものがどうにもこう、受け入れがたいなぁ。
前は二人を題材にしたBL落書きノートがあるくらいには(岩攻)お耽美な世界であったというのに、今は岩野君にしか心がイケイケにならないよ。むーん。

ま、そんな時もあるよね。
でもなんだろ、巷の男子達や岩野君がエロチカルな女の子が活躍するソーシャルゲームをほっぽり出してまで見るビッグニュースって?
ラタトゥー、だっけ。せっかくだし少し起き上がってガラケーのブラウザ検索で見てみましょ。


ポチポチ ポチポチ
ふーん、まとめサイトって奴かな?アクセス数も提示してる。他を知らないから何とも言えないけど、日毎5000人程見られてるのはわりと大御所っぽいね。
扱ってる記事は...魔物...娘?なんじゃこりゃ。


今トップに躍り出てるニュースは、これか
〈○○県知事を勤めた阿莉玖氏、任期を終え満面の笑みを浮かべながら退陣!新たに赴任したサンドラ氏の掲げるマニフェスト(人魔総恋愛計画)とは!?〉


あら、うちん所じゃない。そういえば少し前に選挙カーがあっちに行ったりこっちに行ったりしてたわね。一人すっごい綺麗な女性の立候補者がいたのが印象的だったなぁ。


ポチ

〈「○○県の未来を必ず変えて見せる!輝かしい幸福の未来へと!」
その謳い文句と共に彗星の如く現れた女傑、無所属・サンドラ・ファナー氏。当選後の慌ただしい状況に関わらず我々の取材に快く応じてくれたその心意気に敬服の念を禁じ得ない。
以下に記すは録音音声をそのまま綴った書記である。断っておくが、これは魔物娘という存在を偽り無く報道する為何一つ、本当に一切脚色を加えずそのままを書き連ねたということを予め記しておく。〉



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記者(以下:記):では早速ですが、今回掲げた(人魔総恋愛計画)の全貌を簡潔に御説明頂いてもよろしいですか?

サンドラ氏(以下:サ):ええ。簡単に言うと、私達のような俗に言う魔物娘達が皆自由に人間さんと恋愛出来るようになる為の条例を作ろうと思ってるの。

記:確かに一部地域に「ゲート」が開いて、向こう側の女性のような魔物がやってきていますね。

サ:そうよ。でも急に姿形が違う女の子がこぞってこっちに来ちゃうと皆ビックリして不要ないさかいが生まれてしまうかもしれないでしょう?だから現状、魔物娘達は少しずつ少しずつこちらに来て、奥地でひっそり隠れるようにとか人化の術で本来の自分をひた隠して暮らしていたりするのだけれど、それをとても歯痒く思ってたの。
...そう、貴女のようにね。可愛らしいラタトスクさん?

記:あははー...やっぱりリリム様には敵いませんね。で、では私達の為に掲げて下さったそのマニフェストの実現は如何様な方法で?

サ:そうね、今はまだ前任の方の引き継ぎ案件で手一杯だけど、落ち着いてきたら...そうねぇ、県内のラブホテル増設に魔界産の野菜や魔界豚等々の第一次産業の改編。
自治体によるセックス推進委員会の設立と...後は見るだけでエッチしたくなるようなデザインの女性服を作るリャナ・ラクネブランドをこちらの世界で売り込んで新たな収益を確立していく事も視野に入れてるわ。

記:な、なるほど。具体案がもう色々と...ぅう、あるのですね。

サ:まだそれこそ机上の空論だけどね。
まずやるべきは、魔物娘の偏見を無くしていかなくちゃ。人間の女の子も魔物の快楽に酔いしれてもらい、男の人をみぃんな虜にしちゃうの。それが私の目指していく未来よ。

記:わ、私達の為にリリム様自ら尽力を...あふぁ...ありがとうございますぅ...

サ:いいのいいの、同じ魔物娘でしょ。
それよりさっきからずっともじもじしている様子だけど、大丈夫かしら?

記:い、いやぁ...先程からリリム様の強力な魔力に当てられてますから、もう男の人が欲しくて欲しくて堪らないんです...

サ:あ、ごめんなさい!選挙活動中はずっと魔力抑えてたからつい執務室だと開放的になっちゃうの!御免なさいね、今は私の手と尻尾で我慢してちょうだい。いつかきっと好きな男の人を好きに出来る夢の未来を作り上げるから。

記:光栄ですぅ...あっ...ひぁ...
〜〜〜〜〜〜(書記不能)〜〜〜ゃああ!

サ:あらあらそんな獣みたいな声を出しちゃって、よっぽど溜まってたのね。私も乗って来ちゃったわ。よぅし、行くわよぉー!


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〈この先は私情が大いに関わってくるので書き記さないが、すごく良かった、とだけ記しておこう。

魔物娘と人が手を取り合い交わり合う世界。実現は、もう目の前にまで来ているのかもしれない。〉



ピッ
パタン

...うっはー...知らなかった...魔物娘っていう方々がいるのね...うわぁー...うぁはー…

冷や汗が止まらない、知らないで週刊誌にたれ込んだ時を想像したら益々タラリと吹き出してくる。何が宇宙人よ!何が未知との遭遇よ!!一人で勝手に舞い上がっちゃって危うく赤っ恥のこんちきちになるとこだったわ!もう!

うー、一先ず落ち着いて...ステイステイ...
あのカエルのお姉さんは魔物娘というのかぁ。魔物って言っても女性がベースの感じで普通に喋れたりもしたし、怖くはないのかな?唐突にキッスはされたけど...
それに、じ、人化の術...?とやらで隠してるってのも書いてあったわね...つまるところあんな感じの女の人がそこかしこに化けているかもしれない...て事?前にテレビゲームでやってた、知らぬ間に宇宙人が潜んですり変わっていく話があったわね...えーと...スンバラ○ア星人...?だっけ?やっぱりちょっと怖くなってきた!

後は...人間の女の子は魔物の快楽に酔いしれて男の人を虜にする?これってここに明記されてる通りのままなら、まさか人間も魔物に変えちゃう存在だというの?もしそうだとしたら、あのカエルのお姉さんのキスの意図って...

まさか...まさかね。そんな...ねぇ。


ま、まぁ岩野君や男子達が浮かれる理由はすごくわかったわ。文面と一緒に載ってたサンドラさんの写真もすごく綺麗な人だったし、こんな色事があった記事を見たのならこぞって魔物娘ちゃんを探したくなるわよね。

...待って、それじゃあ岩野君は...いずれあのカエルお姉さんや他の魔物娘ちゃんを見つけちゃうんじゃない!?
あんな鋭い目付きでありながらもちょっと気弱な部分を見せ付けられちゃったら魔物だってイチコロになっちゃう!てか私が現イチコロ中だわ!
他の人に取られちゃうなんてやだー!絶対にやだー!!岩野君は私とお付き合いしてもらうのー!そうだねぇ、私から告白して、御近所のカフェでデートとかして、それから夜のちょめちょめもしちゃって、子供は何人がいいかなぁ...とにかく幸せな家庭を...


...あれぇ!?どうしちゃったんだ私!?
前はあの整ったマスクを遠巻きに眺めてBLとか妄想するのが好きだった筈なのに!!今は...今は男でも女でも誰かの腕に抱かれたりする所を想像すると堪らなく悔しい気持ちになっちゃう...
岩野君の彼女になりたい、片時も離れたくない。何て大それた事昔なら考えたこともなかったのに、今ではもう彼の伴侶となる事に恋い焦がれ身を焼くような思いが止まらな...
キーンコーンカーンコーン



...はっ!?よ、予鈴が鳴ったのね。バカな事は考えてないで授業に向けて頭を切り替えていきましょ!あーもう、恋愛脳バリバリで恥ずかしーったらありゃしない!
えっと、体育か。うぇーやだなぁ...体育は嫌いだよう...親睦を深めてもらおうと気遣いしてくれるのは嬉しいけど、二人組作ってーって言われたときの絶望はさながら死刑判決を下される裁判の様...
...暗いこと考えてないで早く行こ。体操着を取り出して...よいしょっ...      ンヌルン



へ?何、これ?

すごいヌメヌメとした何かが...机や...体に...

...水?おもちゃのスライム等々の男子達のイタズラとか...じゃないわよね。外から何か振りかけたとかじゃない。それなら下着の内側とかにも少しこの粘液がある事に説明がつかないし、つまりもっと内々の方から湧き出てきたって訳になる。

となると...これは汗?朝ご飯に納豆(大粒)を食べたからかしら?○豆印のタレは今日も絶品だったなぁ...
いやいやいや!!今まで生きてきた中で納豆はいっぱい食べたけど、こんなネトネトした汗かいたこと無いわよ!納豆に罪はない!


でも...この現象は汗の他に考えられない...これは...つまり...私が...

か、か、カェ...
いーや!!考えないようにしようか!!私はなぁんにも!なぁんにも見てない!!
私は!フツーの!女子高生!!ね!!

何も見てない、何も見てないけどとりあえずハンカチで拭って!!なーにーもーなーいーけーどー!!
あーあー、なーんにも見テナーイ!
拭い去るこの液体もなーんでーもなーい!!
さっ、ちゃっちゃと行きましょーそーしましょー!!!


「...相変わらずパタパタしてるわねぇ鷲川さん...」
「いっつも一人にしてるから、同じクラスメートとして声掛けたいんだけど、あの独特な雰囲気が、ちょっと声かけづらいのよね...」
「でも今日の彼女...」「普段より...」
「「綺麗に...なってたね」」


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「はーい、それじゃ体力測定やるんで、プリント配りまーす」

こじんまりとした体育館に様々なテープや測定器具が各場所に置かれてる様子を見て、普段行ってるスポーツや運動じゃあないと遊びたい一心の生徒達から口々にブーイングの声が上がる。
ただまぁ、私としては体力測定なら基本個人で行うものだし、下手にしない限りは目立たないからやり過ごしやすくて良かったよ...


目立たないし...

目立たないはずなのに...


おかしい...
絶対におかしい!
どの種目でどんなに頑張ろうと
平均値を抜け出せない私が
垂直跳びでトップの記録を叩き出すなんて!

測定していた先生は勿論、記録し終えて暇を持て余した生徒数人が目を丸くしてこちらを見つめる。何でこんなめちゃんこ目立つ事になってるのか。
私自身、体がフワリと浮かび皆を見下ろすような高さまで跳び上がった感覚が今でも信じられない。
98cmて、私も目を疑ったわ。女子どころか男子だってブッチ抜ける記録じゃないのよ。


「す、すごーい鷲川さん!急にそんな跳べるなんて!前のバスケットの時なんてあまり跳べなかったのに!どしたの!?鍛えたの!?」

...目を丸くしてた同級生から黄色い声援と共に当然の疑問を投げ掛けられた。気味悪がって声掛けなければ良かったのに、皆人当たりがすごくいいのが逆に仇となった...!
私だってわからんよ!何でこんな跳べたのか!思い当たりは1つあるけど信じたくない!!
んむ、かといって無視するのも、そっけなく知らないと突っぱねるのも、鍛えたと嘘をつくのもばつが悪い。

となればぁ…ここは1つ漫画チックに誤魔化そう!所謂(わかんなーい、てへペロ☆)を現実に落とし込む!微妙な空気になればそれはそれではぐらかせるから良しとする、隙の生じぬ二段構えの作戦よ!


えーと...ちょ、ちょっと手を頬に添えぶりっ子みたいな可愛い素振りしてから...

「わっ...わかんなーい、朝食に納豆を食べてきたからかなぁ」テヘベロォォン!






...え

「...え?」


いひゃああああああああああ!?!?!!?
舌が、舌がペロンて!!!?瞼のとこまでぇぇぇぇぇ!!!?

「鷲川さん...今、舌が」
「あー!錯ふぁふ錯ふぁふ!!目の錯ふぁふらから!!!」

ヤバイ!!咄嗟に後ろ振り向いて手で隠してるけど、これどうやったら引っ込むのよぉっ!!!

「そ、そう...目の錯覚、だよね。うん。きっとそうだよね。
でも...言いたくないのかもしれないけど、何か辛かったり、悩み事を抱えてたりしたら無理しないで相談してね。」

本当にもうこのクラスあったか過ぎるよ!!人情で人溶かせる程暖かいよ!!
でも言えない!私は先程から粘液なり跳躍力なりのカエルに似た症状が出続けておりますなんて言ったらきっといよいよクラスから迫害の対象だわ!!

「ありあふぉう!ひょっほほへんひふにいっへふう!」

「え、えっと、保健室?やっぱり舌が悪くなったんじゃ...?」

「いーほいーほ、ひにひあいえ!」

ううー!ごめんなさい!事情説明出来る気がしないので無断で保健室までダッシュします!
こんな舌を出した状態で授業なんか出てらんない!体育の先生も何か言ってるみたいだけど振り切らざるを得ない!ごめん先生!後で説明出来る体になったら菓子折り持って謝りにいくから!
ひーん!やっぱり私どんどんおかしくなってってるー!
18/08/28 20:31更新 / もにもとに
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■作者メッセージ
主観視点だと使える言葉が少なくなってただでさえ大したことない語彙量がより削られた文面に…!
でもあたふた動き回る鷲川さん書いてて楽しい!

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