連載小説
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ひーくんダイアリー
ひーくんはノートを書いていた。そのノートは何度も使ったのかとてもくたびれていて汗や涙の臭いがした。ひーくんは日誌をつけない。面倒だからとか、三日坊主になるからっていう理由を私に言った。でも、ひーくんは何故か私が死んでしまった──心中未遂で私が死んでしまった日を境に、少なくとも一番古い日付は私の命日だということは見たらわかった。


11月2日
冷苗は亡くなった。落下した際の衝撃による脳挫傷か何かだろう。元々地雷と友人達からも言われていたのだが、きっとその原因の9割9分9厘は俺のせいだろう。
しかし、大切な人が結婚を申し出る前日に亡くなったのにもかかわらず、全く泣けてこないのは何故だろうか。
もう二度と君には会えないのに。全然、これっぽっちも悲しくない。
わからない。そして、今俺の心を支配しているのは他でもない安堵なのだから。

酷い。ひどい!ひどい!ひどい!ひどい!ひどいよ!なんで何も思わないの!?
すこし位悲しんでくれても良いじゃんっ!なんで…安心したの?地雷女だから?行き過ぎた愛着だったから?
────
11月8日
葬式に行くことになった。親御さんのお願いだったらしく、親にも上司にも行くように奨められた。正直、行くのが辛い。この歳で幽霊を語るのはどうなのかと自分でも変だと思うが実際のところ冷苗が出てくるのではと怖くて仕様がなかった。

居たけど…なんで怖いと思うの?コワクナイヨー?
────
11月10日
冷苗がいない。

えっ?
────
11月11日
冷苗。俺を振り回した女は何処に行った?

・・・・。
────
11月14日
夢精した。冷苗に殺される夢だった。
アイツは笑顔で俺の首を締めて脳味噌を舌でかき回して挙げ句朦朧とした俺の腸を取り出して小腸で縄跳びをして大腸で一緒に首をくくって死んだあともアイツは動いておれがほねになるまで愛撫をやめなイ。
怖い。怖かった。とっても気持ち良かった。
くびをしめられるとあたまがきもちよくなる。
はらわたをくりぬかれるとせすじがぞくぞくする。
のうみそかきまわされるとなにもかもどうでもよくなる。
はやくかえってきて。さみしい。
ヒとリハいヤダ。

ひ、ひーくん?でも、アハハ…スゴいや。ひーくんもおんなじだったんだ。
────
日付がぐちゃぐちゃになっている。
死者が蘇る事件があった。
帰ってくる。
冷苗がかえっくるんだ。
殺される。俺はアイツに殺される。あぁ、あぁぁぁ。なんと甘美なことか。
早く帰ってきてくれ。そして、その狂気を孕んだ笑顔でおれを殺してくれ。
大好きだ。愛してる。

え、えぇ…怖いよ?ひーくん?ねぇ、怖いからやめよう?私はもう君を傷付けたくないの。この檻は君を守るために有るんだよ?だから─だからお願い──
────
早く帰ってきて。
君はどんな風に俺を殺してくれるのかい?
君に噛みついて一緒にゾンビのように亡者のダンスをしよう。
君に憑かれて一生解けない呪いの中で君の声と息遣いだけを聞いてトリップを起こそう。
君が入っている棺桶に入れられて一生淫らな夢を見続けよう。
君が望むのなら、君の望む死をくれてやろう。
だから、だから、許してくれ…。一緒に死んでやれなかった俺を。
死してなお寂しい思いをさせてしまった俺を許してくれ。

あ、いや…だめ…あたま……いたい…。ひーくん…だめ…だよ…勝手に…他人の…アタま…かキマワシたらぁ……ぁぁぁぁ…
───



ひーくん、もうやめて。
私…さっきからおかしいの…。なにか込み上げてくる。

冷苗が帰ってきた!
その炎で俺を焼いてくれ!

嫌…嫌だ…折角掴んだチャンスを─

愛してる。冷苗、君が好きだ。
だから、はやく、おれを、ころしてくれ。
君と違う生き物に─こんな、ナマモノはもう耐えられない。
はやくもやして。はやくころして。いっしょになりたい。ひとつになって君の中で延々ともやされつづけたいから。

ぁ…ぁ…あ!
──プツッ




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深い愛情が込み上げる。
愛しい人を、これまで以上に壊したくなるこの衝動
結局、私が病んだ原因は彼にある。私は至って正常で、普通の彼のお嫁さん。
だから、帰ってきたら、うんと、愛してあげる。
ひーくん、きみのお陰だよ。

込み上げてくる、吐き気さえも愛しく感じる。
これが、この吐き気が私が彼に狂わされた感情だから。
18/06/18 23:22更新 / Mr.A
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