読切小説
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恋する甘噛み
 「主よ、少女の迷える魂をどうかお救い給え……」

 日の光が西から差し込んでいる夕方前。俺は男の祈りの言葉を聞きながらせっせとスコップで穴を掘っていた。喪に服した者や泣きながら死を悲しむ者も大勢居た。穴を掘る俺と本を音読しながら祈りの言葉を捧げている同僚のカイルはただ何も考えず、受けた依頼を遂行するだけだ。

 「……少女の招き給える主は少女を受け取り、天使は天国に少女を導き給わん事を……」

 今も黒い棺桶で眠っている少女はまだ若かった。何の罪もなく、ただ少女は不幸な目に遭っただけなのだ。
 出かけると言って出て行った少女の帰りが遅い事に心配した両親は捜索の依頼を出し、街の警備などをやっているゴブリンたちによって捜索された。そして後に、崖下に少女の元気な姿とはかけ離れた姿で発見されたという。
 他殺の可能性も考えられたが街中に聞き込みをしても少女の消えた日に崖近くへ行った者は居らず、事故死と断定された。
 まだ若いと言うのに、これから先どんな未来が待っているかわからない可能性が消えてしまった事。少女の先に待っていたかもしれない幸せが消えてしまった。

 「……主よ、永遠の安息を少女に与え、絶えざる光を少女の上に照らし給え……」

 かつてこの街がまだ老人達しか居らずいずれ死に行く村だった頃、村唯一の薬屋である男が独自に作った薬を輸出して村を発展させたという。道を行く商人をゴブリンが悉く襲い、いつの間にか村にルートが出来上がっていたそうだ。商人が行き来する村へと変わった村は周囲にある資源などを使用し発展していった。
 何よりも最大の特徴は人間と魔物たちが共存している所であろう。
 それは村唯一の薬屋が娶ったのがホブゴブリンなのである。そして後にわかったのだが商人を襲っていたゴブリンがそのホブゴブリンの部下であった事。老人しか居なかった村は魔物の手によって発展していったと言っても過言ではない。
 噂が噂を呼び、そして時は流れ今に至る。
 
 「……主よ、世を去りたるこの霊魂を主の御手に委せ奉る……」

 このような例はあまりないのか、ある時教会の連中がやってきたのだ。悪しき魔物と共存する罪深き人間を粛清するだとか何とか。
 しかしその連中もある者によって追い払われた。
 その時居合わせた者曰く、晴天だったというのに空が一瞬暗くなったのだという。そして空を見ればそこには蒼穹の竜が居たそうだ。
 そして教会の連中へ向けられたたった一度だけの咆哮で逃げていったらしい。それはそうだ。ドラゴンが相手なんて人間などちっぽけなもの。
 そこで話は終わり、という訳ではない。なんと薬屋の妻であるホブゴブリンと蒼穹のドラゴンは友人関係にあったのだ。
 こうして蒼穹のドラゴンは我が街の守り神と同時に王として君臨する事となった。勿論そのドラゴンには夫が居た。
 なんとも、偶然に偶然が重なればこんなにも変わっていくのかと思ったものだ。
 ちなみに、この話は俺が生まれたばかりの話らしい。両夫婦とも健在であり、夫の年齢もそれなりなのだがどう見ても二十代にしか見えない。本当に四十代なのかと実際に言ってしまった事もある。

 「……我らの主によりて願い奉る。アーメン」

 ……っと。祈りの言葉が終わったか。
 考え事をしながらせっせこと穴を掘っていたがなんとか間に合った。
 いよいよ埋葬か。哀れではあるがこれも仕事だ。せめて安らかに……。
 泣き叫び、我が娘を見送る親の顔はいつ見ても、見慣れるものではない。



 遺族が悲しみの中帰り、俺も一仕事を終えて一服中。この仕事を始めてからは必ずこうしている。 俺の仕事は亡くなった人間の埋葬。葬儀屋と言ってもいい。先ほどの祈りの言葉は古くから亡くなった者、そして神へ語りかけてきた言葉だが、決して俺たちは教会の人間ではない。どんな時代であれ、死者への祈りの言葉は共通なのだ。ジパングではまた異なるらしいが。
 俺の仕事はいつも亡くなった者が入る棺桶を埋める穴掘りだ。本を読みながら長々と祈りの言葉を捧げる仕事はどうもこう、性に合わない。それに力仕事が出来る奴も少ない。じっと動かずに言葉を捧げるよりも、俺は身体を動かす方が好きだしそれでいい。
 他に仕事がなかった訳じゃない。ただまぁ……他の仕事よりも給金は高かったし、亡くなった者へしてやれる最後の大事な行事を請け負うというのも悪くはないと思ったからだ。
 
 「すぅ…………ふぅー……」

 だが、いつも俺は仕事が終わるとこうして亡くなった者の前で煙草を吸っている。
 センチメンタルになっているのではない。何故かはわからない。
 もしかしたら俺は偽善者なのかもしれない。人間が死ぬのは悲しい事だ。だがそれは家族や知人がするべき事であり、依頼された俺たちはその必要はない。ただ黙々と仕事をすればいいだけの話だ。
 それなのに俺は何故か、仕事の後にこうしている。黄昏ている、とでも言えば格好はつくだろうが、実際の俺の心の中には何もない。空っぽの状態なのだ。見送った人間の名前が刻まれた墓石を見ては空へ紫煙を吐き出す。
 
 「向いてねぇの、かな」

 後ろめたい事など一つもないはずなのにこうしてしまうのは、俺の精神が弱いからなのか。それとも人間の死といつも向き合っているからなのか。はたまた俺がただ単に大人になりきれていないだけなのかも、しれない。
 また俺は煙草を咥えて肺へと煙を送り、そして吐く。

 「そろそろ、行くか……」

 もう日が落ちようとしている。いくら何度も人間の死を送ったとしても、暗くなった墓地に一人で居るのは薄気味悪い。幸いなのか俺に霊感はないので幽霊を見た事がないのだが。
 そう言えば、この仕事を始めてから一度も魔物のゴーストを見た事がない。ゴーストが現れるという事はその者に未練があったという事だ。それなのに遭遇していないのは、死者に未練がなかったから、なのだろうか。

 「この街は平和そのものだからな」

 ドラゴンが居るからではない。ただこの街は、他の街よりも少し……。

 「しあわせ、なのかもな」

 人間と魔物が共存する街、フェリーチェ。
 俺はこの街が大好きだ。

 「そろそろ帰るか」

 短くなった煙草を携帯用灰皿に入れて、今日見送った少女の墓石を見る。
 エリー・フィリシア。
 若くして亡くなった少女の名前だ。

 「天国で幸せにな」

 一言声をかけて、俺も家へ帰ろうとした時―――。
 俺の目がおかしくなった。
 それは普段、ある事のない非現実的なものを目の当たりにしたからだろうか?
 両目を擦り、おかしくなったと思わせたものをもう一度確認する。

 「…………」

 変化なし。
 その瞬間、腰が抜けた。

 「な、なな……なんだ、これ……!?」

 先ほどまでの静寂から一変。場所が場所なだけに恐ろしい光景。

 「あ……ああぁ……」

 地面から紅い手が生えていた。

 「なんだよ、なんなんだよ……」

 しかも見る見るうちに手、そして腕が段々と出てきた。もう片方の手もだ。
 それはまるで芽を出した花のようだが、目の前にあるそれは土で汚れた手でここは墓地だ。
 
 「まさか、まさか……」

 早く家に帰ればこんなものに遭遇する事などなかった。
 それに力仕事ばかりでそれなりに体格はいいのだが、腰を抜かしてしまい立ち上がる事すら出来ないと言う間抜けっぷり。心はもう今すぐにでも脱兎の如く逃げたいのだが膝が笑っている。何が面白いんだ。こんな所で大爆笑しても俺はちっとも面白くなんかないッ!
 俺が腰を抜かしたのにはさらに理由がある。
 それはついさっき声をかけたばかりの墓石の前に手が出てきているのだ。つまり、それは。

 「エリー・フィリシア……なのか?」

 だが彼女は死んでいた。傷は縫われ、綺麗に拭かれていたが確かに彼女は死んでいたのだ。人を驚かせるためだけなら、棺桶に入ってからすぐに飛び出せば効果抜群だろう。そもそも死を冒涜するかのような行為はするべきではない。
 つまり、俺の目の前で地面から出てこようとしている者は。

 「ゾンビになった、エリー・フィリシア……」

 魔物化してしまったエリーに違いないだろう。
 この世界に生きる魔物は全て女性であり、人間と性交する事でしか子孫を残せないと知っているが、一度死んだ人間がゾンビとなって生き返るような、アンデッド系の魔物は見た事がない。せいぜいゴブリンやワーラビット、ワーシープにワーウルフと動物系の魔物しかいないのだ。
 一度死んだ者が生き返り、そしてその理由が生への執着だったとしたら。
 ………………。

 「〜〜〜〜〜っ。ぶはぁぁああぁぁあっ!」
 「うわああああっ!?」

 そして勢いよく飛び出してきたのは間違いなく棺桶で眠っていたはずのエリー・フィリシア本人だった。違うのは茶色の髪が真っ白になっていて、手が血に染まったかのように紅い。地面から出てきたのと同時にその紅い手がより恐怖を増大させる。

 「はふー。やっと出れたぁ、それにおなかすいたー!…………ん?」
 「あ……」

 目が合った。
 さっきまで俺は彼女の墓石の前に居たのだから。地面から出てきた彼女が最初に目にするのは当然だ。
 そしてエリーの眉が上がったかと思うと、にたぁ……と笑った。
 まさしくその表情は、丁度美味しそうな獲物が目の前に居るじゃないかという笑いだった。
 やばい。
 やばいやばいやばい。

 「ふふふふ」
 「な、なんだよ……?」
 「えものーっ♪」
 「ひいいっ!?」

 未だ腰を抜かしたままの俺に向かってエリーが勢いよく飛んできた。ゾンビってこんなに身軽なのか!?本で読んだゾンビは動きが鈍いって書いてあったぞ、アレは嘘なのかッ!?
 飛びついた勢いで俺を押し倒し、手を俺の両肩に置いてぎゅっと握っいてててててててて。何だこの馬鹿力はッ!

 「あたしが美味しく、残さず、綺麗に、食べてア・ゲ・ルッ♪」
 「やめろ、やめろぉぉッ!死にたくねぇ―――」
 「黙れ♪」
 「はぅっ」

 大きな口を開けて俺の首筋に噛み付いた瞬間、痛みよりも先に全身がビクッとするほどの快楽が駆け巡った。それに噛み付いたというよりも……。

 「かぷ、かぷっ」
 「うぁ、あぁぁ……」

 甘噛みだ。同じ場所に何度も何度も噛み付いては舌で舐めている。
 そして俺の身体に異常が現れていた。彼女に甘噛みされた場所から信じがたいほどの強烈な電撃のような快楽が走っているのだ。

 「あ、あああ、そこは、ぅうぁああ……ッ」
 「はむっ、あーむっ。んふ。美味しいよお兄さん♪」
 「や、め……やめてく……」
 「やだー♪かぷっ」
 「うぁぁああぁああっ!?」

 そしてその快楽で俺の愚息が今までで一番大きく、硬くなってしまっている。勃起するだけで痛いくらいだ。はちきれんばかりとはこの事だ。

 「れろれろ……、お兄さん汗臭い……♪」
 「はぁう!?」

 力仕事なのだから汗をかくのは当然の事であり、帰ったらすぐに風呂に入ろうと思っていたのだ。普通の女性なら顔をしかめて離れるのだろうが、エリーの場合は違った。頬を紅く染めて、汗が乾いてしょっぱくなった首筋を美味しそうに舐めているのだ。

 「美味し……っ♪」
 「くぁあああっ!」
 「出てきてすぐにこんな御馳走を食べられるなんて、あたしってついてるなぁ」
 「ち、ちが……っ、んぷっ!?」

 そして次の瞬間には唇を奪われていた。
 が、すぐに少女は離れた。

 「変な味……」
 「…………?」
 「なんか苦いよお兄さんの口」
 「あぁ……それは多分、煙草だな」
 「煙草?もー、お兄さん健康に悪いんだよ煙草は」

 …………まさか一度死んだ少女に健康についてのお小言を頂ける日が来るとは思いもしなかった。

 「それにぃ……」
 「え?んぷっ!?」
 「お兄さん本来の味が、ちゅっ、味わえないからぁ……♪」
 「んんぅっ!」

 にたぁ、と笑ったかと思うとまたエリーは俺の唇に吸い付いてきた。彼女の唇はまるで魔法のようで、抵抗をしたくても出来ない。それどころか受け入れてしまいたい誘惑がじわじわと強くなっていくのだ。

 「ちゅ、ちゅるっ、でも……こんな味も悪くない、かも……。ちゅっ」
 「く、う、ああっ」

 それに先ほどの首筋と同じくらいの気持ちよさが走る。彼女と唇を合わせれば合わせるほどそれは強くなり、俺の愚息はもう我慢汁でぐちゃぐちゃになってしまっていた。
 
 「んぅ、れろ、れぉ……んふ。ふはまえは♪」
 「っ!?」

 無理矢理こじ開けられた唇の中へと侵入し、彼女は俺の舌を唇で挟んだ。そして、

 「んっ、んぢゅっ!ぢゅ、ぢゅるっ!ずぢゅるるるっ!」
 「んんんんぅぅぅ!?」

 俺の舌を勢いよく、引っこ抜かれてしまいそうなほどに強く吸った。その動きはまるで口で俺の愚息をしゃぶっているかのよう。
 ただのキスでさえ刺激が強かったと言うのに、それよりもさらに激しいディープキスで俺の腰は自然と上がってしまっていた。そして俺の愚息も果ててもおかしくないくらいに震えている。

 「んぶっ、ぢゅるるっ!ん、ぢゅぅぅっ!」
 「ああ、ぁぁああぁぁああっ!」
 「ぷぁ……っ。ふふ、お兄さんの唾液、ちょっぴり苦くて大人の味だね……♪」
 「あ、あ……あぁ……」

 絶頂してもおかしくなかった。いや、もしかしたらもう出てしまっているのかもしれない。もはやわからないくらいに気持ちよかった。ただのディープキスじゃ、こんな事にはならない。

 「んふ……♪じゃあ……そろそろお預けも可哀相だし、メインディッシュを食べちゃおうかなっ」
 「んぇ……?」
 「えい♪」
 「ん、くっ」

 身体全体が痺れて動けない俺はいとも簡単にズボンと下着を剥ぎ取られてしまった。
 外へと晒された俺の愚息は一度も触られていないというのに、我慢汁で濡れていた。

 「はぁぁぁぁ……♪素敵……っ♪」

 最高の御馳走を目の前にしたエリーは涎を拭く事すらせずに俺の愚息を凝視している。物凄く恥ずかしい。何故俺は墓地のど真ん中で死んだはずの少女に犯されているのだろうと思ったが動けない。現実は非情である。

 「食べていいっ?ねぇ、食べていいっ?っていうかもう食べちゃうねっ♪」
 「や、やめ……!」

 首筋、唇。それだけで俺の愚息がああなってしまったと言うのに、一番敏感と言ってもいい場所を直接やられたら、一体どうなってしまうのか。
 自分の気がおかしくなってしまうのではないかという恐怖と、むしろそれを期待している心が鬩ぎ合うが、目の前の少女はそんな事もお構いなしに俺の愚息を握った。

 「硬い……、それにこんなにぬるぬるで……♪」
 「え、エリー、それ以上、は……っ」
 「お兄さんだって本当は期待してるんでしょ?あたしのぉ、この、舌でぇ……」

 見せびらかす様にエリーは長い舌で唇を舐めた。

 「このおちんちん……、舐められちゃったら……」
 「…………ごく」

 生唾を飲み込む。
 俺の心の中はもう、目の前の少女に舌と口で弄られたいという欲求で染まりそうだ。今にも俺の愚息をねぶろうとしているエリーの唇から目が離せない。

 「じゃあ、いただきまーす♪」
 「っっ!? ぅああぁぁぁあああっ!!?」

 そのまま一気に根元まで飲み込んでしまった。ズボンから外へと晒されて冷たかったのが一気にとろけてしまいそうなくらいに熱い口内へ。さっきまで散々我慢汁を垂れ流しながら絶頂の寸前で止まっていたのだ。
 だからなのか、俺の愚息は喜びを表現するかのように即座にエリーの口の中へと容赦なく射精してしまった。

 「んぶっ、んぅ!?」
 「あ、あぁ、ごめ、出て……」
 「…………んぅぅ♪」

 突然の射精に驚いたかと思うと、すぐに惚けた顔になりちゅ、ちゅ、と優しく残った精液を吸いだす。
 そして大きな音で喉を鳴らして俺の吐き出した精液を飲んだ。

 「ごくん…………っ。美味しい……っ♪」
 「そ、そう……」

 精液を吐き出した事により、若干冷静さが戻ってきた。本当に俺は何をやっているんだか……。仮にも相手は仕事で墓地に埋めた死者だぞ。しかもまだ若い少女だ。魔物化してすぐは腹をすかせているのは仕方ない。魔力が枯渇していたから精を欲するのは魔物たち共通の行動だ。とは言え、いきなり少女の口の中へ容赦なく射精したのはどうなんだ……。
 今日見たエリーの遺族の悲しい顔を思い出すと、より罪悪感が増してしまう。

 「ねぇお兄さん」
 「…………なんだ?」
 「とびっきりの濃厚な美味しい精を飲ませてもらっておいてなんだけど」

 ブルーになりかけている俺とは正反対に、蘇ったばかりの少女は涎を垂らしながらにたぁと笑った。
 …………え?

 「足りないからもうちょっとちょうだい♪」
 「えっ、ちょ、待てっ!」
 「いーでしょ、いーでしょ?」
 「いや、ダメだから、流石にそれ以上はご家族の方に顔向けできないからっ!」
 「えー」
 「えー、じゃなくって!」
 「うるさい♪」
 「はぁうっ!?」

 必死の抵抗も虚しく、エリーが愚息を甘噛みしたおかげで一度精を放ったばかりでぐったりしていたのがまた反り返ってしまった。
 お、俺の愚息はなんて正直な奴なんだ……!だから愚息と呼ばれるんだぞわかってんのか。

 「お兄さんはただ、気持ちよくなってくれればいいんだよっ♪……ぺろ、れろぉっ」
 「うあ、ああぁっ!?」

 フィリシアご夫妻ごめんなさい。その後貴方の娘さんに三回搾り取られました。



 「………………」

 現在俺の家。この仕事を始めて二年目に引っ越してきた念願の一人暮らしで自由に満ち溢れていた場所だった。
 の、だが。

 「ばりばり、ぼり、ん、この骨付き干し肉いけるー♪」

 唯一心が休まる場所に、骨ごと肉を食っている少女も一緒だった。
 ちなみに彼女はつい先ほど棺桶から蘇り、偶然その場に居た俺の精を文字通り吸い取り、何故か俺の家まで着いてきたのだ。

 「なんかこの身体になってから無性にお肉が食べたくなっちゃった」

 と言うのでとりあえず家にあった干し肉を渡したのだが……。
 本来は骨ごと食べる物ではなく、肉の部分だけを食べるはずが、エリーは簡単に骨までバリバリと食べている。魔物になるとあんな事も容易く出来るのか。あれが俺の腕だったとしたら、という想像をしたが背筋が凍ったので即座にやめた。
 それにしても、エリーは一度死んでいるのに魔物化して蘇ったという事は、ゾンビになったという事で間違いないだろう。だが書物に描かれていたゾンビの格好とエリーの格好は似ても似つかない。動きも俊敏だし、ゾンビとはまた違う種族なのだろうか?
 ぼーっとエリーの食事姿を見ていると、あっという間に干し肉を食べてしまった。
 が、こちらを物欲しそうに指を咥えて俺を見ている。

 「…………じぃ」
 「なんだ?」
 「足りない」
 「は?」
 「おなかすいたー。お肉もうないの?」

 三百グラムの干し肉を食っておいてまだ足りないと申すか。

 「あるにはあるが、それは俺の分で……」
 「じゃあお兄さん食べる」
 「よしたんと食え」

 あれだけ飲んでおいて、さらに干し肉を食って、まだ食うのか。どれだけはらぺこなんだよ。
 生前の彼女の姿を見た事はないが、こんな感じで食べ盛りだったのだろうか?魔物となってからすぐは精が枯渇していて、だからはらぺこなのかもしれない。

 「ぼりぼり、おいしー」
 「そいつは良ぅござんしたね」

 干し肉サンドになるはずだった食パンを食べながらエリーの美味しそうに食べる顔を見る。
 …………本当にエリーは死んだんだよな。
 それが魔物になって復活し、こうして肉を食べている。一度も暗い顔を見せる事無く、それどころか明るいぐらいだ。ただの人間から魔物になった気持ちはわからないが、本人はどう思っているのだろうか?

 「なぁ、エリー」
 「ばり、ぼり、……んぅ?」
 「その……なんだ、身体の調子とかどうだ?どっか痛いとか、苦しいだとか……」

 あっという間に干し肉を骨ごと食べたエリーは指をしゃぶってから首をかしげた。

 「なにそれ?何処も痛くないよ?」
 「そうか。あとは、そうだな…………言いたくないならいいんだが、今の気分というか……」
 「??」

 ぐ……言いにくい。

 「あー……その身体になってから、なんか思ったりは……しなかったか?」

 そう言うと、エリーはにこ、と笑った。

 「なぁに?気を使ってくれてるの?」
 「そらそうだ……。こっちは君が死んだ姿を見たんだからな」
 「んぅ……というか、崖から落ちたかと思ったら急に真っ暗で狭い所で気がついたんだもん」

 そうか……死んだという自覚がなかったのか。

 「狭いしとりあえず出ようと思って、試しに殴ってみたら突き破っちゃったからそのまま一気に出ちゃった」
 「…………」

 魔物化すると、本人の前の状態から強化されるのだろうか。並大抵の人間、それも少女があの棺桶を突き破るなど出来ないだろう。

 「んで出てきたら墓地だし、何が起こったのかわかんなかった」
 「まぁ、そうだろうな……」
 「そんな事よりも目の前に居たお兄さんが食べたくてしょうがなかったから考える暇もなかったけどね♪」

 にひひ、と笑ってよだれを垂らす。背筋に何か寒いものが走り、俺の第六感が警鐘を鳴らしている。き、気をそらさせなければまたやられる。

 「そ、それよりも、君はゾンビにしてはなんか明るいっていうか元気だな」
 「死んだ自覚ないけどねー。どっちかと言えば変身しちゃった、みたいな」
 「変身?」
 「うん。こうなる前のあたしはどっちかと言えば大人しかったし、お肉もそこまで好きじゃなかったよ。果実の方が好きだったもん」

 それが今では骨ごと肉を食べてる、か。

 「ふーん……」

 味気ないパンをかじりつつ、この少女をどうやってご両親に説明すべきかを考える。
 今日見送ったばかりで今は気持ちの整理をつけられるほどの余裕もないはずだ。あの泣きっぷりは思い出すだけで心が痛い。それで急に蘇ってゾンビになりました、なんて言えばどうなるか…………。
 やはり、時間を置いたほうがいいのかもしれないな。
 それまで俺が面倒を見るしかないのかねぇ。
 やれやれ…………。食費がかさみそうだいてててててててっ。

 「はぐはぐ」
 「…………何をしてらっしゃる」
 「口寂しくって、つい」
 「それで俺の指をかじっている、と」
 「うん。じゅるるっ」
 「はぅっ!?」

 まただ。何故かかじられたり吸われたりすると、そこから普通ではありえない快感が走るのだ。
 それにただかじったりするだけでなく、舌も使ってねっとりと舐め回すから、指を俺の愚息に見立てているように見える。い、いかん。もう三回も出されたというのにまたムラムラしてしまいそうだ。

 「ちょ、ちょっとストップ!」
 「やだ♪」
 「あふんっ」

 …………フィリシアご夫妻ごめんなさい。とにかくごめんなさい。



 葬儀屋のいつもの朝は割りとルーズだ。
 日が高くなる正午前ぐらいに出勤すれば問題はない。仕事がいつ入ってくるかわからない、不定期な所もあるが毎日毎日仕事が入らないだけまだマシだ。仕事があるという事は誰かが亡くなった、に繋がる。
 この街、フェリーチェは都会よりも小さいが、人口はそれなりに多い。近々また増築するとかなんとか。この間酒場で一杯やっていた時にこの街の施設管理を担当しているドラゴンから聞いた。
 ちなみに、フェリーチェでドラゴンを見かける事があれば、それは王の娘だ。近づきがたいオーラを放っているが、話してみれば結構気さくなドラゴンだったりするのだ。母親であるシャルロッテに似たのか、それとも秘書的存在になっている夫のヴェルか。酒場などで見かければ話しかけてみるのもいいかもしれない。今の所三人の(ここで匹などという単語を使うと痛い目に遭うだろう)姉妹が居るが、俺と話した事があるのは次女だ。
 話がそれたが、とにかく俺はいつも起きるのが遅い方だ。全身を使ってくたくたな日があったら、それはもう至福の時なのだ。目覚めれば身体はすっきり。後は美味い飯でも食えばそれでいい。
 それでいい。
 ……のに。
 それを邪魔しようとしている存在が居る。
 いや、邪魔しようなどとは思っていないのだろう。恐らく彼女はただ、お腹がすいたのだ。腹が減ればそれを解消したいと思うはずだ。
 だから。
 いい感じで眠っていた俺の意識は現実へと戻され、そして股間にぬるっとした何かが這っているのに気がついた。

 「ん、ちゅっ、れぅ……れろれろ……ちゅぷ、ん、ぺろぺろぺろ……っ」
 「ん、んんぅ…………?」

 睡眠状態という無防備な状態に、不意打ちで悦楽が来るのは正直驚く。前もって言ってればそれなりに覚悟は出来る、というか昨日の時点で何回やられたのかわからないというのにどうしてこう朝立ちなどするのだ俺の愚息よ…………!

 「ぷちゅっ、ちゅる……れりゅ……ぢゅるる、ん、ふぅ、くちゅ…………」
 「え、エリー……なのか……?」

 下半身付近の毛布がぼこっと膨れているので、そこにエリーが居て何をしているのかは大体わかる。というかさっきから舌で根元から亀頭まで磨くように舐めあげている感覚がずっと続いている。
 が、俺が声をかけた途端それが止まった。

 「お兄さん起きたの?」
 「あ、あぁ……。誰かが悪戯してくれているせいでな」
 「んふ……♪朝からおっきくしてるんだもん……。お腹すいてたし、いいよね……っ?ちゅっ」
 「あふっ」
 「それにぃ、こうやってしてると、ん、ぢゅるっ、お兄さんの熱気とかおちんちんの臭いとかがこもっちゃって凄く興奮するの……♪」
 「いや、待て、朝からいきなりされるのはっ、はぅう!?」
 「いいから飲ませろ♪」

 俺が止めようとしても聞く耳を持ちやしない。そんな感じで昨日もエリーの口へと何度も射精させられたというのに、今もまた彼女の口戯で愚息がもう完全に勃起してしまっている。

 「ぢゅ、ぢゅるるっ、お兄さんの精液はぁ……あたしが全部飲むんだから……♪」
 「そ、そんなにやられたら、いつか枯れるって……っ!」
 「大丈夫大丈夫♪」
 「何を根拠に、いてぇっ」
 「かぷっ」

 裏筋に吸い付いて、そのまま甘噛みしやがった……!
 なのに、痛いの次にはそれが気持ちよくて。舌で舐められるのとは別の快感だ。お、俺はその気があったのだろうか……。

 「あらひのぉ、よだれでいっぱいに濡れちゃえば……、れろれろ、きっとお兄さんインキュバスになっひゃうよ……。らからぁ、らいひょうふ……。ちゅ、ちゅぱっ」
 「そういう問題じゃ、あ、くそ……っ」

 強引にでも引き剥がしたいのにそれが出来ない。俺だって健康で若い男だ。性欲だってある。正直朝からこんなフェラチオしてもらえるなんて贅沢なのだが、絶対に一回じゃ終わらないのは見えているのだ。というかいつもはらぺこなエリーが満足するほどって何回出せばいいんだよ…………。

 「んふふ、気持ちいーでしょ?れろれろ、んちゅ……っ。もうお兄さんのおちんちん、あたしのよだれまみれだよ……?」
 「くぅ……っ」
 「いいから、お兄さんは楽にしてて……。ちゅっ、ぴゅっぴゅってしてくれれば、いいからぁ……」
 「い、一回だけ、だぞ……?」
 「んふふふ……。んぅぅ……ちゅっ♪」

 そこで何故返事をしないのかがとてつもなく不安なのだが、ここまでされて出さないというのも生殺しだ。一度出せば冷静にもなれるし、してくれるならそれに甘えるのもいい。一度だけだ。一度だけ…………。

 「ちゅ、ちゅっ、れろれろ…………、ぢゅるっ、ん、ちゅぱっ、昨日もいっぱい飲んだのに、こんなに硬い……♪」

 手で扱かれながらそう言われるととてつもなく恥ずかしいのだが…………。

 「いっぱいぺろぺろしたら、その分いっぱい出るかなぁ?」
 「ど、どうだろう……な」
 「んふ。実験だー♪」
 「お、おい、俺を実験台にとかあふぅっ!?」
 「いいからいいから。ちゅ、ちゅ、ぺろ、ぺろぺろ……、れりゅ……っ、おにーさんは、ちゅっ、じっとしてるの……♪」

 ああくそっ。
 どうしてこう俺は流されやすいのだろうか。
 わかってる。どうしてなのか。
 こんなことされるのが初めてだからだ…………。
 それにエリーのフェラチオが抵抗できないほどに気持ちよすぎるからだ。

 「ん、ぢゅるるっぢゅるるぅっ」
 「う、あぁっ、そこ、は……」
 「ふふ、ここでせーえき、作ってるんだよね……、れる、ぢゅるっ」
 「くぅ、うぁぁあっ!」
 「おにーさんの声、ぞくぞくする……っ。ぷちゅっ、ぢゅぽっ」

 男の急所である場所を口に含まれて、悲鳴にも似た声が出てしまう。恐怖感とそれに乗じて快感がさらに高まる。

 「んふ、ここも弱いんだ♪」
 「弱いって言うか、多分男が共通して持っている弱点というか」
 「へぇ。でもおにーさん以外興味ないや」
 「それはどうもいってぇぇぇええっ!!」
 「わっ。びっくりした」
 「そこを甘噛みするのだけは勘弁してくれ!死ぬ!」

 た、玉に甘噛みとか……。マジ、死ぬかと、思った。

 「わかったぁ。ごめんね?お詫びに、いっぱい……ちゅるっ、ぺろぺろって……してアゲル……。ぺろ、ぺろっちゅるるっ」
 「あ、ああぁ……」
 「あらひのひた、ひもひいい?ちろっ」
 「そうだ、な……」
 「おちんちん、びくびくしてるもんね……?」
 「い、言うな……」
 「おにーさん可愛い♪」

 年下の女の子に舌で蹂躙されながら可愛いなどと言われるととてつもなく恥ずかしい。毛布を被りながらの状態でよかった。今の顔を見られるのは正直、ヤバい。

 「おちんちんびくってしたよ?気持ちいいのぉ?」

 ちょ、挑発的な声で……ッ!
 クソッ、腰が砕けたかのように動けないから抵抗すら出来ないのが……ッ!!

 「ん、ぺろ……っ。いいんだよ、気持ちよくなってくれればそれで……♪」
 「くぅぅうぅっ」
 「んふふ。あーむっ♪」
 「うぁぁああああっ!!?」

 そしてまたエリーに俺の愚息が食べられた。
 亀頭どころか根元まで行くかのような勢いで一気に飲み込まれてしまった。そして、粘っこく本当に溶かされると錯覚する。

 「んふふ。おいひ……♪」
 「エリー、それ、ヤバッ!」
 「んぅ?まららよぉ。ん、ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ……っ」

 咥え込んだまま、長い舌で出鱈目に愚息全体を舐め回される。強すぎる刺激に愚息の感覚がなくなってしまいそうだ。もう出てしまっているのか、それともまだなのか。
 本当に腰砕けの状態になり、俺の愚息はエリーによってされるがまま。

 「ん、れろれろ、ぴちゃっ、んふふ。ほろほろ……。あひはひへひはよぉ?」(とろとろ……。味がしてきたよ)
 「ん、んんんぅぅうあっ」
 「ちゅぱ、ちゅっ、れろれろぉ……っ。んぢゅるっ、ぢゅぽ……。ぢゅぷっ。んぁぁ……」

 と、いきなりエリーが毛布を払った。そしてエリーの舌の上でべとべとにされている愚息が見えた。舐めている本人は頬が紅く染まりきっていて、その顔は最高の御馳走を食べる事の喜びに満ちていた。
 思わず、生唾を飲み込んだ。

 「セラおにーさんのおちんちん……最高ぉ……♪」
 「そいつは、どうも……」
 「んふっ。れろれろれろれろぉっ」
 「うはああっ!?」

 亀頭の先を重点的に見せ付けるように舌で舐め回した。すると、エリーの舌へといきなり精液が飛び出た。だが、絶頂したという実感がない。

 「ごく…………んっ。んふふ。また出たね♪」
 「また……?」
 「あれ?おにーさん気付いてない?もうおにーさん二回、あたしのお口でしゃせーしちゃったんだよ?」
 「そ、そんな……」
 「嘘じゃないよ。こってりとした美味しいのがびゅっびゅーって出たもん♪」

 し、しかし、絶頂するほどならわかるはずだ。
 というか一回だけって言ったのに何回搾り取る気だこの魔物娘は……ッ!
 さっきしたはずの約束も忘れて、未だ勃起したままの愚息を舌でつつきながらエリーは言う。

 「もしかして、おちんちんの感覚狂っちゃった?」
 「う……」

 さらっと恐ろしい事を言わないでもらいたい。

 「だって、もう三回出したのにまだこんなにおっきいんだもん…………あっ」
 「え?」
 「インキュバスに近づいてるとか?」
 「マジかよ……」

 この街ではインキュバスなんて珍しいものではない。何せ、同僚のカイルはインキュバスだ。いつの間にかサキュバスと結婚していた。「いやぁ、今朝も妻が激しくってさー」といつも惚気話を聞かされている。
 それにしても、昨日出会ったばかりで進行が進むなんて……。カイルでさえ本人曰くちょっとずつ進行していたというのに。
 内心、焦っている俺をよそにエリーは手で俺の愚息を扱きながら言った。

 「ねーねー、まだおっきいから飲んでもいいよね?」
 「は?」
 「だって、このおちんちんはまだいけるよって言ってるよ」
 「いや、一回だけって」
 「うっさい♪ ぢゅずずずずずぅぅぅううーッ!!」
 「うわああああああっ!?」

 腰から全てを吸い取られるような急激な刺激。
 し、死ぬっ、死ぬかと、おもった…………っ。

 「♪♪♪ んんん……ぷぁっ」

 ほんの少しだけ吸いながら、ゆっくりとエリーは俺の愚息を解放した。魔性の口内から出てきた俺の愚息は……既に力が入っていなかった。

 「ごちそーさま♪」
 「お、おそま……つ……」



 気を失った後、目覚めると既に正午を過ぎていた。
 流石にここまで寝坊すると怒られるのだが、それもなかったという事は今日は依頼がなかったのだろう。仕事がなければ雑務をこなすか、雑談するかのどちらかなのでお咎めもないはずだ。無断欠勤はよくないのだが、朝っぱらから酷く疲れる事をされたおかげで気だるい。
 というか、目覚めてからすぐに股間の辺りが濡れていて気持ち悪い思いをしてちょっと今は不機嫌だ。こんな事にしてくれやがった犯人は居ないし。
 とりあえず起きてからすぐにシーツと服を洗って風呂に入った。さっぱりした後は特にする事もないのでコーヒーを飲みつつ今日の新聞を読む事にした。

 「…………フェリーチェ増築の日時決定、作業スタッフ求む……か。賃金は悪くないが監督があのドラゴンか。うーん、扱き使われそうだな」

 人間も魔物も受け入れるこの街は一体何処まで大きくなるのだろうか。教会の連中も黙っちゃいないだろうが、この街にはドラゴンが四人も居る。おいそれと手を出す事はないだろう。まぁ、戦争が起こらないのが一番なのだが。
 新聞を読みつつそんな事を考えていると、家のドアが勢いよく開かれた。

 「ただいまー!」

 …………案の定、昨日家についてきたゾンビ、エリーだった。この家に置くと言った覚えはないのだが、かと言って放っておくのも可哀相だ。主にこの街の男とエリーの家族が。腹が減ったからと言って道行く男性を襲いそうだし、そんな娘の事をご家族が知ったら卒倒するに違いないだろう。やれやれ、とんだ拾い物をしたものだ。

 「おかえり。何処行ってた?」

 一応死んだ事にされているのだから、あまり出歩くと混乱しかねない。次からは出かける時には一言欲しいものだ……。そう思いながらコーヒーを飲む。

 「パパとママに会ってきた!」
 「ぶぅーっ!?」

 そして今日の新聞はコーヒーで染まった。
 と、というか、今この娘さんは何を仰りやがりました?パパとママに会ってきた、と仰いましたか?

 「? セラおにーさんどうしたの?」
 「……ど、何処に行ったって?」

 きょとんとした顔のゾンビ娘に問う。わかりきっているのだが信じたくなかった。

 「だから、パパとママに会いに行って、セラおにーさんの所でお世話になってまーすって」
 「おっ、おま…………ッ!!」
 「??」

 それだけでなく俺の事まで話しやがったんですかコンチクショウ。

 「で、ご、ご両親はなんと……?」

 どうして俺は今、恋人の両親に報告してきたと言われたような気分になっているのだろうか。
 ああくそ、明日からどんな顔をして街を歩けばいいんだ。嫁入り前に亡くなってゾンビになったばかりの女の子を、家に連れて帰ってあんな事やこんな事をしている変態野郎扱いされるのだろうか。それだけは、それだけは……ッ。
 俺はフェリーチェで生まれ育った人間だ。この街を愛している。この街以外で暮らす事なんて考えた事もない。この街で生きてこの街で死ぬと思っていたのに。ああ、すまないカイル……唯一の穴掘りが居なくなるかもしれない。
 心の中でこの街から別離する事を覚悟しかけている俺とは反対に、エリーはにこっと笑った。

 「おにーさんにありがとうって言ってくれってさ!グールになったばかりで花嫁修業もしてない娘ですがどうかよろしくお願いしますだって!」
 「…………は?」

 あ、あれ。
 てっきり娘をたぶらかせた変態男呼ばわりされてこの街から追放されるのではないかと、思っていたのに。
 というか今聞き慣れない単語が出てきたぞ。

 「あたしゾンビじゃなくてグールらしいよ!」
 「グールって……」

 その魔物は人間の骨肉を貪り食う事が何よりも好きな食人鬼の名前だ。だがしかしこの世界で言う魔物はエリーのような女性だ。ゾンビだって、男の精を求めて襲う事はあれど、殺す事はない。
 ………………。

 「なんか、一気に疲れた……」
 「セラおにーさんどしたの?まだ朝のご飯で疲れてるの?」
 「そうじゃ、ねぇ……」

 どうやってご両親に言えばいいのか、あれだけ悩んでいたというのに俺が出る事もなくあっさりと本人が解決した。しかもよろしくって言われたし。
 もうなんか、疲れたしか言えねぇ。つーか適応力たけぇなフィリシアご夫妻……。これも魔物が普通に街を歩いているような所に住んでいるからか?

 「って事でこれからよろしくねん♪」
 「あぁ……うん……」

 もうなんか、勝手にしてくれ……。

 「元気ないぞーかぷっ」
 「はぅああ!?」
 「んふ。おちんちんは元気になったね♪」

 …………。

 「がじがじ」
 「……ッ、…………ッッ!」
 「ふふ、声を我慢しても身体はびくんびくんしてるよー」

 ぶちっ。

 「?」

 耐えられない。
 こんなの、耐えられるか。
 エリーは若い少女で、死ぬ事なんて望んでいなかった筈だ。崖から落ちる時、彼女がどう思ったのか、どんな気持ちになったのか。
 そして変わり果てたエリーの姿を見たご両親の気持ちは。
 こうしてグールとして蘇って、偶然その場に居合わせた俺に何度も悪戯に精を取って。
 魔物として生まれ変わったから本能でそれをやっているのだろうが、本当の意味をわかっているのか?
 何度も何度も流された俺も情けないが、もう耐える事は出来ない。
 大切に接していこうと思っていたのに。

 「ひゃ、な、なに……!?」

 エリーの両手を掴み、そのままテーブルの上に押し倒す。そしてそのままの勢いでエリーの唇を奪う。
 突然の事で目を見開いていたが、次第に目を閉じて俺の乱暴なキスを受け入れた。
 自分からやっておいて、グールであるエリーの唾液によって俺はその魔力に負けそうになる。
 正直、膝が笑っている。
 だが…………!!

 「ん、ぷ……ちゅ、んぁあ……」
 「…………ッ」

 負ける訳にはいかない。俺はもう事を起こしちまった。止める事なんて今更出来る訳がない。
 恐れず俺はエリーの口内に侵入し、何度も何度も俺のペニスを舐ってきた舌を捉えた。そして円を描くように舌で蹂躙する。
 その間にもエリーの唾液は分泌され続けていき、尋常じゃない量だ。エリーの唇から零れているのがまた、扇情的だ。

 「……ご、くっ」
 「ちゅっ、れろれろ……んぁ、はぁ、あああ……っ」
 「…………ん、くっ」
 「せ……ら……おに、ちゅっ、ぷぁ……っ」

 舌がエリーの唾液に触れる外的刺激と、唾液を飲んだ事による内部からの蕩けるような悦楽。
 俺のペニスはもう何もしなくても出してしまいそうだった。
 しかし出したとしてもまだ萎える事はないだろう。まだだ。まだ、俺はエリーを…………。

 「……ん、ちゅっ、ちゅぅ……おにー、さ…………」
 「はぁ、はぁっ」
 「んんぅ、ぺろっ、ちゅぱっ、あ……っ、はぁぁ……っ」
 「エリー……エリー……」
 「セラ、おに、…………ちゅっ、ちゅっ、ちゅぅぅっ」

 いつまで持つかはわからない。
 俺は意識が飛んでしまいそうな程の快楽に耐えつつも、エリーが身に着けていた服とは言いがたい布を剥ぎ取る。そして下着も同時に抜き取った。

 「あ……ッ、はず、かしいよ……」
 「エリーだって散々同じ事、した、だろ……?」
 「あぅぅ……」

 そう言うとエリーは顔を真っ赤にしながらも足を広げた。
 エリーの秘所は唾液と同じくらい、もしくはそれ以上に愛液が分泌されていてテーブルの上に小さな水溜りを作っていた。
 
 「…………ッ!!」

 正直、もうダメだと思った。
 エリーの秘所がひくひくと動いては、こぽっ、と湧き出た泉のように溢れる蜜。
 それを見た瞬間に俺は顔を近づけてそこを塞ぐように唇をつけた。

 「ひゃあああぁあああ――――んッ!!?」

 その瞬間、エリーは悲鳴のような嬌声をあげた。
 舌を侵入させると、そこはもう痙攣していた。

 「あ……あ……ああぁ……」
 「……れろ」
 「ひゃぁぁああああぁぁぁああん!?」

 凄い。
 たった一度だけ秘所を舌で舐めあげただけなのに、エリーは絶頂に達してしまったようだ。
 まるで物欲しげにしている秘所がその口を何度も開閉させている。

 「セラおにーさ……ん、そこ、だめ…………」

 息も絶え絶えにエリーは訴えかけるが、無視した。
 俺だって、エリーの身体の味を知った瞬間に身体全体から熱を発しているくらいに熱いのだ。
 それほどエリーの愛液は凄かった。まるで、特濃の媚薬だ。
 さっきまで崩れ落ちそうになっていた身体が嘘のように動く。
 まだだ。
 まだ舐めたい。
 エリーの味を知りたい。

 「だめ、だめっ、ねっ?そこはもうやめよっ?お願いっ」
 「……どうして?」
 「だって、だってそこ舐められたら、あたしの頭の中、一気に真っ白になっちゃ……っ」
 「一度舐めただけで、イッたのか?」
 「…………あぅぅぅぅ…………」

 どうやら図星らしい。
 さっきまで悪戯していた小悪魔のような笑みから一変して、歳相応の恥じらいを持った少女の顔になっている。

 「わかった」
 「う、うん……わかってくれるなら、いいの……って顔近づけちゃあぁぁああぁぁぁああんっ!!?」
 「……じゃあ、もっと感じていいんだぞ」
 「や、やらぁ、またまっしろに、まっしろになっひゃっらよぅ……っ」
 「大丈夫だから…………」
 「やぁ……こえ、がまんできな……」
 「大丈夫だ。この街の家は全て防音設備が十分だからな」

 何せここは人間と魔物が住む街だ。
 今の世界の魔物は相手とセックスするのを何よりも好む。しかし近所の迷惑になっては気になって集中する事も出来ないだろうという配慮がされているのだ。
 なんというか、この街はちょっとおかしい。まぁ、恋人や夫婦が心置きなくする事が可能なのはいい事なのかも知れないが。

 「でも、でもぉ、せらおにーさんに、いっぱい、きかれ、ちゃう…………」
 「心配するな。とても可愛いぞ」
 「うぅ、でもやっぱりはずかし、ひゃあぁぁああっ!?」

 エリーが話しているが構わず続ける。何せエリーだって俺のを舐めている時は話を聞こうとしなかったからな。おあいこだ。

 「らめ、らめっ、らめぇえええっ!また、まっしろ、まっしろにぃぃっ!ひゃあああぁあっ、またまっしろになって、あああ、しんじゃ、しんじゃうよぉぉっ!!」
 「大丈夫、だから…………れろ」
 「はぁぁあああんっ!また、また、またぁ、おにーさんがなめたらまた、またぁぁっ!!」

 秘所から湧き出る蜜を舐めつつ、俺は片手で穿いているズボンや下着を一気に脱いだ。
 そしてまたエリーに覆いかぶさった。

 「はぁ……はぁ……ッ、せらおにーさん……?」

 度重なる絶頂に疲弊しつつも、エリーは俺を見た。
 本当ならもっと早くしたかった。だが、かすかにだけ残った理性を何とか繋ぎとめていたのだ。
 …………多分、エリーは初めてだろうから。

 「エリー、本気で嫌なら……」
 「ばか」
 「え?」

 ここまで自分勝手にしておいて何を今更、と言われても仕方がないのだが、本人の心が拒むなら、やめようと思っていた。
 しかしエリーは潤んだ瞳を向けて言った。

 「もう、セラおにーさん以外に、考えられないよ……」
 「…………エリー」
 「あたし、おにーさんの事が愛しくなるとつい、噛んじゃいたくなるの。口寂しいからっていうのもあるけれど、でもそれ以前にあたしは……セラさんの事……」

 その表情は、やはり歳相応の少女だった。
 視線を反らす事無く潤んだ瞳で俺を見上げる表情は、意中の相手に告白している表情だった。

 「…………セラでいい」
 「え……?」
 「ちっと歳は離れてるが、恋人同士ならそれも関係ない」
 「セラ…………さん」
 「俺だって、本気で嫌なら最初に拒んでいたさ。…………最初は、いや……その後もだが、流されていたけど……。でも、俺はエリーに確実に惹かれていたんだと思う。だから……」

 こうして、エリーと交わりたいと思ったのだ。
 …………まぁ、最初は勢いで押し倒しちまったけど。

 「うん……きて……」
 「…………あぁ」

 俺のペニスをエリーの蜜溢れる秘所の入り口へと当てる。
 一番敏感な場所同士が触れ合い、そしてそのまま膣内へと押し込んでいく。

 「あ、はぁぁ……はいって……あ、きたよ……ああ……ッ」
 「大丈夫、か……?」
 「あれ……っ?」

 ?

 「うお!?」

 突然後ろから何かに押された。その拍子にゆっくりと挿入していたはずが一気に根元まで入ってしまった。

 「あああぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁ―――――んっ!」
 「え、エリー……!?」

 後ろを見ると、エリーの両足が俺の腰に絡みつくように組んでいた。その勢いで奥まで入ってしまったようだ。

 「いたく、ない、それどころか、あぅ……ッ!」
 「ぐうぅ!?」

 急に俺の肩へと噛み付いた。俺の全身に衝撃のような快感が走った。

 「きもひ、いいよぅ……」
 「エリー……?」
 「ふいて……こし、うごかひて……」
 「あぁ」

 一度腰を引こうとするも、奥へ奥へとエリーの足がぐいぐい腰を押すせいであまり引けなかった。

 「え、エリー、腰に」
 「らっへ、らっへ、こうひてくっついれないと、あらひのからだ、ばらばらになっひゃいほうれ……」

 動いて欲しいのかそれともくっついていて欲しいのか……。
 ええい、こうなったら。
 痛くないと言っているし、心配する事は……ないと思う。

 「ふぁぁああっ!?」
 「ぐぅ、動くとまた違う気持ちよさ、がッ!」
 「こすれっ、こすれるたびに、いく、イクぅッ!!」
 「うぐ、ぐぁぁっ!」

 エリーの言うとおり、腰を動かす度に絶頂しているらしく、常にエリーの膣内はびくびくと動きっぱなしで、さらに狭い。それでいてとめどない愛液で摩擦はゼロだ。一瞬で射精どころか、気絶してしまいそうだ……!!

 「あンッ、ああぁ!? また、またイクッ、イクぅぅううっ!!」
 「くそ、こんなの……!!」
 「あぁぁあああああイクのとまらな……ッ!」
 「ぐ、ぁぁあああ!!」
 「せらぁ、いきっぱらしらよぉ……」
 「かみ、噛み付く、と……!」
 「はぁぁああぅ!!あンッ、あンッ、またいきゅぅぅうっ!!」
 「うあああッ!!?」

 もう何がなんだかわからない。まともな考えなんて不可能なくらいの強烈すぎる快楽。そして叫ぶように喘ぐエリーの声に身体も脳も全部がダメになってしまいそうだった。
 ただ出来る事は、腰を一心不乱に振る事しかなかった。

 「ら、め、らめぇええ、こんらの、あたし、あたしばかになるぅぅっ!」
 「は、はぁっ、はぁっ!」
 「あぁぁあんまたイクぅぅぅうん!イッちゃうっ、イッちゃうっ、はぁぁぁぁぁああーんッ!!」
 「もう、もう、わけ、わかんねぇ……ッ!」
 「せらも、せらもおかしくなってぇ、いっしょに、いっしょにおかしく、あぁぁああンッ!」
 「エリー、エリー、エリー……ッ!」
 「らめ、らめぇええ、もう、あらひ、しんじゃ、しんじゃう、おねがい、いっしょ、いっしょに、イッ、イッて、せら、せらぁ!」
 「く、う、うぁあッッ!」

 もはやそれはケモノ同然の交わりでしかなかった。
 汗と唾液とエリーの愛液と、もう何もかもがぐちゃぐちゃになってしまい、このまま一つの身体になってしまうかのようだ。
 そして一際強く抱きつき、肩に噛み付かれた瞬間にとうとう防波堤が崩壊した。

 「〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!?」
 「エリー…………ッ!!」
 「でて、でれぅ、おちんちんから、せーえき、れて、おまんこにだされて、またいく、イッちゃうぅぅううぅぅうッ!!」
 「エリー……ッ」

 強烈な絶頂が治まったらしく、放心状態でエリーは俺を見た。

 「あ……あ……、せら…………だい……す、き…………」
 「おれも、だ…………」

 それを最後に、俺たちは二人揃って意識が奥深くへと沈んでいった。



 ある日の休日。
 俺としては惰眠を貪っていたかったのだが、以前この家に転がり込んできた者によってそれも最近では難しい事になった。
 というのも、隣で勝手に俺の指をかじるグールが居るのだ。
 初めてされてからは随分と慣れたものだが、睡眠中にされると必ず起きてしまう。

 「がじがじ」
 「く…………エリー」
 「あ、起きちゃった?」
 「わざとだろ?」
 「いやーごめんごめん。そこにちょうど噛み甲斐のある指があったからさ」

 とか言いつつまたも指を甘噛みする俺の大切な恋人、グールのエリー。
 相変わらず俺の身体に噛み付いたりしてくるが、エリーの弱点を知った今ではそれを阻止する事も可能だ。
 …………まぁ、結局はセックスする事になるのだが。

 「はぁ……今、何時だ?」
 「さぁ?……かぷかぷ……お昼過ぎ?」
 「…………」

 俺と同じようにベッドにうつ伏せになり、肘杖をしながらニヤニヤ笑うその表情を見たらなんだか、怒る気にもなれなくなった。
 なんだかんだで可愛いからな、エリーは。

 「? なーに?」
 「なんでもねーよ」

 齧られていた手でエリーの頭を撫でる。
 
 「……にへへ♪」

 そうそう、ここもエリーの弱い所、だな。
11/05/08 21:13更新 / みやび

■作者メッセージ
東日本大震災で被災された方に心よりお見舞い申し上げます。

どうも、みやびです。
ちょっとお久しぶりになりましたが、今回はグールさんのお話です。
お口でぺろぺろするのが大好きな魔物娘さんとか、もう、俺得……!
なので今回はえっちなシーン多めにしました。擬音書きすぎてもう何がなにやら。

時系列的には前回のホブゴブリンのメルちゃんのお話から約二十年後のフェリーチェという街が舞台となっていますが、今後はこの「しあわせの街フェリーチェ」のお話を書いていくと思います。
沢山の感想ありがとうございました。皆様の言葉がなければここまで続く事はなかったかもしれません。実際フェリーチェという街を作ろうと思ったのも感想を頂いた中で思いつきました。
ホブゴブリンのメルちゃんの部下であるゴブリンたちにも幸せを、と思ったのですがごめんなさいこれで許してください……。

それではまた次がありましたら。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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