読切小説
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知識の竜と半端な勇者
 枯れた大地を一歩一歩踏みしめる。『主神』を信仰している証の旗を大袈裟に振りながら動きを揃えて。
 約数百名はいるであろう勇者たちが進軍していた。
 街から離れて戦闘の訓練、と呼ぶには数が些か多すぎる。それもそのはず。彼らの向かう先には枯れた大地とは一変した世界があった。
 堕落し、荒廃した魔界。つい先日立ち寄った酒場で小耳に挟んだ新たな魔界の集落に間違いない。欲望と欲望が幾重にも混ざりあって出来上がった成れの果てだ。数百名の勇者軍の目標だろう。
 魔界の集落にだけ日の光が届いていないので全貌はわからないが、勇者軍と同等、若しくはそれ以上の魔物が住み着いているかもしれない。若い勇者たちはどんな意気込みで進軍しているのだろうか。教科書どおりに育った勇者たちならば魔物討伐の為に彼らなりの正義の炎が燃えているかもしれない。
 魔物は人を食らう、か。
 数百名の勇者たちの中で本当の事を知っているのは片手で数えられる程度なのではないだろうか?
 そもそも人間が生まれ持った本能である性欲に反し高潔に生きよなどと教える『主神』さまの考えはどうも性に合わないのだ。俺は健康で若い男な訳で。街を歩く女性の身体に目を奪われる事だってある。だが『主神』さまとやらはそれを善しとしないのだ。
 アホか。
 どうせあの勇者軍も魔物たちによって全滅させられるだろう。
 全員魔物に食われる運命。
 性的な意味で。
 どんな魔物が潜んでいるかわかったものじゃないがどんな魔物だろうと共通しているのは、無理矢理性交しようと襲い掛かってくる事だろう。
 ほら、男って単純だからさ。
 童貞なら一発でコロッと正義なんて忘れるだろう。多分俺もコロッとイッてしまうと思う。童貞だし。
 我ながら意地の悪い笑いを一つ。そして、溜息もまた一つ。
 間もなく戦場へと変わるであろう大地を見下ろせる丘に俺は居る。その他には誰も居ない。ただの人間ならばその行為は魔物にとって絶好の餌となるだろう。新鮮な若い男との交わりを今でも虎視眈々と狙っているかもしれない。既に一度、ゴブリンが襲い掛かってきたのだが、昼食の為に取っておいた干し肉サンドが入った袋を明後日の方向へ投げ、逃げた。空腹だったのか、俺など忘れたようにそれを追いかけていったので走る事もなく容易だった。
 
 「…………しかし、その損害は大きいのであった」

 腹減った。
 さっきから腹が空腹を訴えていてがっくりと項垂れる。
 早めに何処かの街へ行こうとは思っていたのだが、どういう偶然なのか丁度今居る丘について街を探そうとしていたら勇者軍を見つけてしまったのだ。確かに空腹ではあるのだが、勇者軍の実際の討伐を見るのは初めてだったので面白そうだと思い、こうして一人鑑賞させていただいているのだ。
 しかしまぁ、今までの経験からするとどうせ勇者軍に勝ち目はない。
 目測と勇者軍の進行速度から適当に計算して、あと五分もしない内に集落が射程距離に入るだろう。そしてそこからは戦争だ。性的な意味で。
 『今まで数多くの勇者たちが果敢に立ち向かったが、魔王の僕の力は強大で帰ってきた者は数少ない』。つまり魔物討伐なんて大義名分を容易く捨て、目の前に居る魔物娘にご執心って訳だ。人間の未来は明るいね。
 また意地の悪い笑いを一つして、空腹を紛らわせる為に常備している水を一口。
 
 「そろそろか」

 勇者軍の進軍が止まった。目標の集落は目と鼻の先だ。
 それぞれの得物を抜き、そして―――。

 「……ん?」

 突如日光が何者かによって遮られた。太陽を覆い隠さんとするその巨体が勇者たちの上空を飛んでいた。

 「………………」

 初めて見たその圧倒的な存在感と威厳さに俺は言葉を失った。
 あらゆる魔物よりもはるかに強く、人間の賢者よりも数倍、いや数十倍。もはや計り知れないほどの知性。一薙ぎで数百人の人間を血に染めるほどの巨大な鉤爪。そして大地を一瞬で消し炭へと変えるほどのジェノサイドな性能を誇る口から吐かれる業火。空よりも蒼く、歴代の戦士でさえ傷一つつけることすら叶わないという鋼の鱗。
 正に地上の王者と呼ぶに相応しい、蒼穹のドラゴンが飛行していた。
 大地を見下ろし数百人の勇者たちを見たが、そんなモノには興味がないのか何処かへ飛び去っていった。恐らくはただ飛んでいただけなのだろう。
 それだけで勇者たちの士気を落とすには十分すぎた。言葉を失い唖然とする勇者軍に、集落から怒涛のようにおびただしい数のサキュバスが雪崩れ込んできた。
 見事なまでに先制を打たれた勇者軍は驚愕。咄嗟の行動に移れなかった前衛は呆気なく潰された。
 これはひどい。
 先ほどまでの殺伐とした空気が一変し、汗と欲望にまみれた超集団乱交へ。
 勇者たちが身に纏っていた鎧は既に剥がされ全裸。ある者は一物を口に含まれて悦に至り、ある者は馬乗りにされて即挿入。ある者は……。

 「一気に三人の相手は辛かろう。南無」

 サキュバスにとってはお気に入りの面だったのだろう。手足を押さえつけられ両手は控えているサキュバスの秘部を擦らされ、一人のサキュバスは半裸で彼の一物を蜜の滴る肉壷で快感を貪っている。しかし彼の表情は既にサキュバスの虜となっている。双方合意なら乱交もまた良し。強姦?いいえ和逆輪姦です。
 真っ白な布にインクを落としてしまったかのように勇者軍は陥落していく。剣を振り回し抵抗してもサキュバスによって背後を攻められまた一人脱落。何名かが敗走している。

 「……あ。ギルタブリルに襲われた」

 一体何処から現れたのか、ギルタブリルの群れに敗走兵が襲われた。ギルタブリルの毒針を刺され、気絶した勇者をずるずる引き摺って巣へとお持ち帰りしている。恐らく一生戻れないだろう。ゆっくり乳繰り合ってね。南無。

 「まさかここまで早いとは」

 おおゆうしゃたちよ えろすにおぼれるとは なさけない。
 だが仕方ない。

 「……偶然とは言え、ドラゴンが上空を通り過ぎれば戦意なんて消失するわな」

 下手な行動で命を絶たれかねないと思うほどの凄まじさだ。俺だって未だに心臓がバクバクしている。いやはや、今こうして命があるのが嬉しい。たった数秒上空を飛んだだけなのに、まるで一日中血の香りに包まれて戦場に居るかのように生きた心地がしなかった。

 「その偶然によって勇者軍は全滅、か」
 「我(わたし)が通り過ぎずとも全滅していただろう」
 「そりゃそうだ―――」

 ……………………。
 
 「ここは絶好の観察場所だな。君が何故一人でここに居るのかわかったよ」
 「……あ……あ」
 「しかし……どうして君は一人なんだ? もしよければ教えてくれないか?」

 肩まで伸びた銀髪のさらさらな髪が風に揺れ、その髪が良く手入れされているのがわかる。そして眼鏡の奥にある鋭い目つき、エメラルドの虹彩と縦に伸びた瞳孔。

 「ど…………」
 「……うん?」

 それだけならばとびきりの美人で終わる。
 だが彼女の頭から生えている角、翼、そして蒼い鱗。鋭い爪。尻尾。
 リザードマンかと思ったが、武器を携帯していない。それもそうか。己の身体全てが超強力な武器だからだ。

 「ドラゴン…………?」

 うわ言のように呟いた俺の一言で、彼女はくすりと笑った。

 「くす。君は悲鳴をあげないんだね」
 「あ、いや……」

 余りの驚きに腰が抜けているだなんて口が裂けても言えない。
 さっき上空を飛んでいったドラゴンの鱗の色と目の前に居る魔物娘にある鱗の色が一緒だ。ただ見られているだけなのに心臓を掴まれているような錯覚を覚えるような魔物はドラゴン以外にない。どういう理由か、俺の隣に居た。

 「失礼。自己紹介が先だったね。我(わたし)の名前はシャルロッテ。お察しの通りドラゴンだ」

 それもかなり礼儀正しいドラゴンさんでいらっしゃった。
 にこっと微笑んだ顔はさっきの地上の王者と同じドラゴンだなんて思えないほどの美貌だった。種族とその特徴は知っていた。しかしドラゴンを見るのはこれが初めてだ。

 「お、俺はヴェル」
 「ヴェル、か。覚えておくよ」

 にこ、と微笑んだ顔は息を呑むほどの美しさで、今この瞬間ドラゴンと会話しているなんて一生に一度あるかどうか。

 「自己紹介も済んだところで、君に頼みたい事がある」
 「は……はい」
 「ふふ。そんなに怖がらずとも、我は君を取って食いやしないさ。肩の力を抜いて?」
 「は、はい……」
 「まぁ…………君を食べたりはしないかもしれないが、違う意味で食べるかも、しれないけどね?」

 と、妖しい笑みで上唇を舌で舐めた。しかもわざと音が鳴るように。
 力を抜きかけていた身体がビクッと反応し、また力が入り肩が上がった。
 そんな俺にシャルロッテさんはくはは、と笑った。

 「いやはや、からかってすまない」
 「いえ……気にしていません、から」
 「その言葉遣いもいい。もっと気軽に話してくれて構わないよ?」
 「は……いや、わかった」
 「それで。我は少々喉が渇いていてね。この辺だと湖もなくて困っていたんだ。喉が渇けば我の鱗も水分を失ってしまう。少しで構わないから水をわけてくれないか?」

 蒼穹のドラゴンは俺の持っている水を要求してきた。それぐらいお安い御用だ。携帯している水はまだ残りに余裕がある。
 ただ……。

 「残り少ないならいいんだ。我も一時的な渇きが癒せたらまた湖を探すつもりだから」
 「大丈夫、まだ余裕はある……」
 「本当かい?」
 「これ、どうぞ」

 水が入った筒を渡す。
 これ、さっき俺が口をつけて飲んだものなんだけど……。

 「ありがとう。君には借りが出来たな」
 「そんな大袈裟な」
 「いいや、きっとこの借りは返すよ。期待してくれたまえ」
 「あぁ……」

 そう言えば、ドラゴンは貴金属や宝石を集めるのが好みだと聞いた事がある。それを狙った盗賊も後を絶たないというが……。無事に帰れたものはいない、とか。
 シャルロッテさんは器用に筒の封を開けて、こくりと本当に少しだけ飲んで返した。ただ水を飲んだだけなのに絵になると思ったのは気のせいではないだろう。間違いなく美女だし。なんでドラゴンが眼鏡をしているのかわからないが。

 「ごちそうさま。助かったよ」
 「も、もっと飲んでくれても構わないぞ。もう一つ未開封の筒が……」

 そこで気がついた。普通なら未開封の筒のほうを渡すんじゃないか?
 俺みたいな人間が口をつけた水など飲みたくはないだろう。

 「そうかい?なら、もう一口…………こく、ん」

 あぁしかし。どうしよう。今更未開封のほうをどうぞなんて言えない。

 「ふぅ。すまないね」
 「いや、いいんだ……」

 少し罪悪感を感じつつ俺は彼女に苦笑で返す。

 「何度も疑問を投げかけてすまないが、君はこれから何処へ?」
 「特には……。俺は流浪の身だ」
 「ふぅん……?」

 そう、俺がこうして一人でいるのも理由がある。その理由はありきたりでよくある事だ。

 「確かに君は通常の人間よりも魔力があるようだね。一人で旅をしているのも頷ける」
 「―――ッ!」
 「インキュバス……にしては魔力がない。我の予想では元勇者、かな?」

 大した洞察力だ。違うかい?という笑みを浮かべた。
 まるで今までの俺の行動を見てきたかのよう。正にその通りだ。

 「流石ドラゴン」
 「お世辞はいい。少し観察すればすぐにわかる事さ」
 「シャルロッテさんの言うとおり。俺は軍を抜け出してきた元勇者だ」
 「ふむ……。理由を聞いてもいいかな?」

 なに、簡単な事だ。
 教団の教えに疑問を持ったからだ。昔は本当に魔物と呼ぶに相応しい恐ろしい格好をしていたらしいが、新しい魔王によってそれは変わり、人間とさほど変わらない姿になった。その魔物たちが人間を喰らうとは思えなかった。
 実際、遠征した街では魔物娘と結婚し家族を築いている人間が多かった。人間に対して友好的なホルスタウロスだけじゃなく、凶暴とされているラミアやアラクネ、さらにはナイトメアと幸せそうに暮らしているのを目の当たりにし、本当に彼女たちが恐ろしい魔物であるのかと思ったのだ。
 疑問はやがて不満に変わり、そして除隊と言う名の脱走。
 中途半端とは言え、ある程度なら自分の身を守れるくらいには鍛えてある。だから俺はずっと一人旅を続けているのだ。
 何処かの街で新しい生活を始める気持ちはなかった。世界には沢山の魔物が住んでいる。それを見てみたいという知的好奇心があるからだった。
 例えば、スライムと一言で言っても原種のスライム、レッドスライム、シー・スライム、バブルスライム、ダークスライム、そしてクイーンスライム。これだけの種類のスライムが存在しているのだ。まぁ、ダークスライムは魔界に居る魔物だから恐ろしくて行けないのだが。他にもまだ確認されていないスライムがきっといるだろう。スライムはその場所に合わせて進化する魔物なのだ。
 急におしゃべりになった俺の話を黙って聞いていてくれたシャルロッテさんは首をかしげながら、

 「……君は魔物学者になりたいのかい?」

 と、今までに何度も聞かれた事を口にした。

 「いや、残念ながら俺には学がない。ただ見てみたいだけ」
 「本当に好奇心だけで一人旅を続けているのかい? ヴェル、君は面白い人間だ」
 「それはどうも……」
 「さて、と」

 突然シャルロッテさんは立ち上がり、翼を大きく広げた。その大きさは本人を簡単に隠す事も出来るだろう。いや、それどころか二人以上は入れるほどだ。そろそろ彼女は湖を探しに行くのだろう。

 「中々に面白い時間だった。感謝するよ」
 「あ、あぁ……」
 「そのお礼といってはなんだが、一つ忠告しよう」
 「忠告?」

 俺の後ろを指差した。
 ?
 彼女が指した先には……。

 「っ?!」

 ホブゴブリンがいた。木に隠れてこちらをずっと見ていたのだろうか?
 いきなりドラゴンに指を指されてビクッと動いた。その表情は段々怯えに変わる。

 「それと……そことそこ。あそこにも居る」

 シャルロッテさんが指差した先にはホブゴブリンの仲間らしきゴブリン。悉く隠れ場所を当てられたゴブリンたちはビクビクしながら木の陰から出てきた。さっき干し肉のサンドをやったゴブリンも居た。
 こんなにもすぐ側にゴブリンが近づいていたなんて、全く気づかなかった。流石はドラゴンだ。そんな事もお見通しなのだろう。

 「さて、かくれんぼが終わったところで我はこれにて失礼する」

 ……え?

 「いつか水の借りは返そう。約束する」
 「あ、あの」
 「君もそれまで、ゴブリンたちに襲われないようにな?」

 ニヤ、と笑った顔は美人な顔つきも相まってそれはそれはサディスティックだった。
 つまりはこう言いたいのだ。
 これからゴブリンたちに襲われるけど頑張って逃げてね。じゃーバイバイ。

 「ちょ、ちょっと待てっ!」

 流石にこんな数のゴブリンから逃げ切れると思うほど俺は馬鹿じゃない。あっという間に捕まりホブゴブリンとそれはもう蕩ける様な蜜月を……。
 だが断る。

 「ふむ? 勘でモノを言うが、これはもしや借りを返せるチャンス到来なのではないか?」

 とか言いつつだんだん彼女は宙に浮いていく。口で言っていることとやってる事が違う。
 またもやニヤァと笑ってシャルロッテさんは言う。

 「ヴェル。君が望めばこの我がいとも容易くゴブリンどもから救出してみせよう」
 「むしろ助けてくれっ!俺じゃどうにもならん!」

 男として情けない事この上ないが、俺は必死だ。そりゃ、ホブゴブリンのあの大きな乳房は魅力的ではあるが、俺の人生はここでおしまいになる。いや、あのおっきなおっぱいを好きに出来るという男冥利に尽きるチャンスを棒に振るのはなんとももったいないかもしれない。
 だが。俺はまだまだやりたい事があるのだ。行った事のない地だってある。
 そう、俺の冒険はこれからなんだ!

 「了承した。では迅速に脱出するとしよう」

 そう言ってシャルロッテさんは手を差し伸べてきた。捕まれ、という事か?
 すぐに彼女の考えを理解した俺は手をぎゅっと握った。

 「振り落とされるな。それくらいは男の意地を見せろ」
 「わ、わかった。むぐっ!?」

 彼女の手を握った瞬間、思い切り引き寄せられて俺は彼女の胸に顔を埋める形になった。おっぱい。

 「すまないな、ゴブリンよ。だがこれもまた一期一会。きっと君たちに相応しい人間が現れるだろう」
 「あぅー」

 落胆するホブゴブリンの声が聞こえたが、今はそれどころではない。豊満な乳房を俺の顔に押し付けられているのだ。それに加え段々と身体は宙に浮いている。俺からもしっかり抱きつかないと落ちてしまう。相手はドラゴンだ。俺が思うよりも柔じゃない。それに肌が凄く柔らかくてしっとりとしている。

 「そう気を落とすな。君は十分に可愛らしい。そんな君を愛してくれる人間が現れる」
 「ほんとー?」
 「あぁ。では、いつか会う日があれば」

 彼女の翼がばさ、ばさ、と大きく動き出した。

 「ばいばーい」

 ホブゴブリンののんびりした声が段々遠ざかっていく。
 試しに下を見れば、もうさっきのホブゴブリンが掌で隠せるほどまで飛んでいた。未だに手を振っている。おっぱいも揺れている。

 「中々可愛いゴブリンだった。ホブゴブリンを見る機会はそうそうない」
 「そ、だね」
 「ところで、ヴェル」
 「なんで……しょう」
 「君の右手が我のお尻を鷲掴みにしているが偶然か?」

 ―――――ッッ!!?
 や、やけに柔らかいと思ったら……!

 「ぐ、ぐぐ、偶然です」
 「そうか。それなら仕方ない。出来れば場所を変えてもらえるとありがたい」
 「あぁ……」

 しかし一瞬でも彼女の身体から手を離したら落ちてしまいそうで怖い。しっかりと抱きしめてくれているから大丈夫かもしれないが、怖いものは怖い。そのままずらすしかなかった。

 「んっ……。手つきがいやらしいぞ?」
 「滅相もない!」
 「ふむ。我の真の姿で背に乗せて飛ぼうと思ったが……見ず知らずの冒険者を乗せるほど我の背は安くなくてね。これで勘弁してくれ」
 「じゅ、十分さ」
 「そう言ってもらえると助かる」

 嗚呼、罪悪感と言う名のナイフが胸を刺す。むしろご褒美なのであのドラゴンの姿じゃなくてよかった。
 
 「ところで……一体何処へ?」
 「我の住処」
 「お邪魔してもいいの?」
 「構わない。我の真の姿で君を背に乗せようとは思わないが、君には興味が沸いた」
 「そ、そう……なんだ」

 竜の巣へ辿り着く事は容易でなく。さらには財宝を手に入れて竜から逃げる事もまた至難の業。
 そう言われている場所へまさか本人からご招待してもらえるとは。
 幸運ってのはいきなり現れるもんだな。



 そしてシャルロッテさんに抱きかかえられながら空を飛ぶ事数十分。やはりドラゴンは人間に似た姿になってもその力は強大だ。飛ぶスピードが規格外だ。見る見るうちに乾いた大地から緑溢れる大地へ、そして山岳地帯へとあっという間に着いた。

 「もうすぐ到着だ。長旅ご苦労様」
 「いや、それは俺のセリフだから……。ありがとう」
 「くす。いいさ。我も人間を抱えて飛ぶという貴重な体験をさせてもらった」

 そう言われると恥ずかしくなる。男としてのプライドがまた一段階削れた気がした。だがその代わりシャルロッテさんのおっぱいと匂いを思う存分堪能させてもらった。ご馳走様です。死んでも言わないが。

 「到着……と」
 「あ……うぁ」

 長い事飛んでいたからか、急に自分の足で立つと眩暈のようにふらついた。

 「おっと。ふふ。人間は飛んだ事がないからふらついてしまうのだね」
 「そう、みたいだ……はは」

 笑って誤魔化す。
 自分の足で立ったというのにまた支えてもらって情けない。
 しかし彼女の身体は温かい。飛んでいる時も温かい身体に包まれて、高速で飛んでいても寒さは感じなかった。

 「ようこそ、我の巣へ。歓迎するよ」
 「ここがシャルロッテさんの……」

 ドラゴンの住処は金銀財宝、さらにはマジックアイテムを蒐集する習性があるという。全ての宝を換算すれば、何代も遊んで暮らせるほどの金になるらしい。
 俺も一度そんな宝の山を見てみたいとは思っていたのだが…………。

 「くす。がっかりしたかい?」
 「……いや、そんな事は」
 「我は他のドラゴンとちょっと変わっていてね。日夜輝き続ける宝石よりも、天気を操作するマジックアイテムよりも、知識を選んだのさ。そしてそれを書物にした物は何よりも価値がある……」

 彼女の住処は書物の山だった。それも尋常ではない数の本だ。

 「おかげでドラゴンにしては珍しく目を少し悪くしてしまってね。それでこの眼鏡を愛用している」
 「なるほど……」
 「ちなみに全ての書物を読了済みだ。興味がある本があるなら遠慮なく読んでいい」
 「あ、ありがとう」

 とは言われたものの、余りにも膨大な数の書物を目の前にしてどれから手に取ればいいのかわからない。さらにどう見ても読めない文字が書かれた書物まである。一体いつの時代の書物なのか……。

 「凄い……」

 まさにこの世の知識が詰まっていると言っても過言ではない場所だった。確かに彼女の言うとおり、金銀財宝よりもよっぽど価値があるように思える。

 「ふふ。少しでもわかってもらえたようで嬉しいよ」

 本心から喜んでいるのか、彼女の笑みには優しさが宿っていた。強く、そしてこの世の知識を網羅しているドラゴン。俺は今この世界の誰よりも幸運なのかもしれない。
 偶然の出会いに感謝しつつ、綺麗に棚に整頓された本に手を伸ばそうとして―――。

 くぅぅ。

 腹の虫が鳴いた。

 「ふふふふっ。知識よりも食欲が勝ったようだね」
 「お恥ずかしい……」
 「ふふふ。丁度いい。我もお腹がすいている。先に食事にしよう。確か貯蔵の肉があったはずだ。こっちに来てくれ」

 一際大きく笑ったシャルロッテさんに手招きされ、奥へ進むとそこはまたも綺麗なダイニングだった。まるで人間の家のようだ。知識から作ったのだろうか?

 「初めての客だからね、とっておきの料理を振舞うとしよう」

 そう言ってシャルロッテさんは可愛いフリルつきのエプロンを……って。それも知識から作ったのでしょうか?妙に人間臭い……。世界の書物を集め、読んだせいでそうなってしまったのかもしれない。

 「そこに掛けて待っていてくれ」
 「うん……」

 鼻歌交じりにシャルロッテさんは調理を始めた。包丁が軽快な音を立てている。料理には慣れているようだ。炎のブレスで薪に火をつけるのは凄く器用だと思った。
 てっきりドラゴンというのは野生動物の生肉を食べるか、ブレスでこんがり焼いたものしか食べないと思っていた。それを口にするのは失礼なので言わない。知的なドラゴンが豪快に肉を食べるというのもギャップがあっていいかもしれないが……。
 などと考えていたら食欲をそそる香りが鼻をくすぐる。朝食から何も口にしていない俺の胃袋はますます主張を強くする。時々鳴る胃の音で頬が熱くなるがシャルロッテさんは気にしていないのか、それとも料理に集中しているのか何も言わずに調理している。

 くぅぅー……。

 そして何度目かの胃袋の悲鳴についにシャルロッテさんの肩が震えた。

 「ぷっ……。よほどお腹がすいているのだね」

 さらさらな銀髪を揺らして、微笑みながらこちらを見た。お恥ずかしい限りである。

 「申し訳ない……」
 「気にするな。空腹は全ての生物にとって抗えない欲求だ。多少はマシになるかもしれない、味見を頼めるかい?」
 「いいのか?」
 「あぁ。我一人が食べるならまだしも、客に食べさせるのならば配慮すべきだろう?」
 「そ、それはどうも……」

 お言葉に甘えて味見をさせてもらう事にした。
 シャルロッテさんがスプーンで――野菜のスープのようだ――を掬い、こちらに近づけてくる。
 もしやそのまま……!?

 「じ、自分で出来……」
 「いいから。飲んでみてくれ」
 「あ……あぁ」
 「ふぅー……ふぅー……。これで飲みやすくなったはずだ」
 「うん……あー……」

 だらしなく口を開け、シャルロッテさんがスプーンを口の中へ運んでくれた。すると野菜の旨味を凝縮した甘く、そしてすっきりした味が口に広がった。

 「どうだい?」
 「美味い……とても美味いよ。こんなの、初めてだ」
 「くす。それならよかった。我と同じ味が好みのようで助かったよ」
 「料理が上手なんだね」
 「最初は知識だけあったのだけど、実際にやってみてその楽しさがわかってね。ドラゴンにしては珍しい、野菜を好むドラゴンになってしまったよ」

 くすくす、と笑うシャルロッテさんは人間と変わらない綺麗なお姉さんのようだった。俺には兄弟がいなかったので今のシャルロッテさんがまるで本当の姉のように見えてきた。
 尻尾をゆらゆらと揺らしながら調理するシャルロッテさんを眺めながら、ふとここから帰る時はどうしたものかと考えた。何処かの山岳地帯らしいが、この辺の地理が全くわからない。彼女に抱きかかえられながら途方もない距離を飛んだからだ。うーむ……。
 しかし今は持て成されているのだからそれを受ける事に集中するのが礼儀だ。
 程なくして料理は完成し、食事の時間となった。
 
 「すごい……美味そうだ」
 「くす。ありがとう」
 「じゃあ、いただきます」

 一度試食させてもらった野菜のスープを一口。さっきよりも野菜の味が引き出されてより一層美味だ。さらに彼女お手製のパンをひとかじり。麦の香ばしい風味と出来立てでしか味わえない触感はそのまま丸々食べてしまうほど病み付きになってしまった。

 「くす。そんなにがっつかなくても料理は逃げないよ」
 「いやでもこれは……もぐもぐ、こんな美味いの食べた事ない」
 「そうか。素直な感想が嬉しいよ。ふふふ」

 自分の作った料理が俺の口に合った事を喜びながら、シャルロッテさんも料理に手をつけた。
 それにしてもこれは美味い。今までは野蛮と言ってもいいほどの粗末な料理ぐらいしか食べた事がなく、彼女が作った料理の質といい味といい、素晴らしい出来だ。
 だからだろう、そんな感想を何も考えずに発したのは。

 「シャルロッテさん、きっといいお嫁さんになれますよ」
 「…………」

 パンを口に運んでいた動作が硬直してしまった。あ、やべ、何か不味い事言ったかな。

 「あ、いや、ええとその」

 急いで取り繕おうと思ったが、彼女は頬を赤く染めて照れくさそうに笑った。

 「ふふ。嬉しい……」

 彼女の後ろに見える尻尾が内心を現しているのか、上下にゆらゆらと揺れていた。
 そしてそれを見た俺は、目の前にいる蒼穹のドラゴンの本当の表情を見たような気がして心臓が加速を始めた。つられてこっちまで顔が赤くなる。
 なんとも恥ずかしい空気のまま、食事は進んだ。でも気まずくはなかった。なんというか、妙な安心感があったからだ。



 「今日は我の家に泊まっていくといい」
 「いいのかい?」
 「あぁ。本以外には殆ど何もないが、自分の家のようにくつろいでくれ」

 こんな機会滅多にあるものではない。それにシャルロッテさんの折角のご好意だ。俺は即決で頷いた。
 先ほどは食欲に負けて読む事が出来なかったが、彼女の宝とも言える書物を手に取る。題名は相当昔の書物なのか、既にインクは落ちてしまっている。開いてみれば辛うじて読めるようだ。早速椅子に腰掛けて読んでみる。
 どうやら世界中を旅した吟遊詩人の本のようだ。しかも実際の風景をそのまま切り取ったと言っても過言ではない美しい挿絵つきだ。その場所その場所に合った詩と起こった出来事、そして魔物。挿絵と合わせて読めばまるで実際にそこを歩いているかのよう。
 ページを進めていけば様々な場所の解説と詩、そしてそこで暮らしている魔物たち。読めば読むほどに心に優しい気持ちが溢れ、まるで自分の事のように感じる。

 「その本を手に取るとは、中々君の目はいいようだね」

 いつの間にか本を読んでいる姿を観察されていたようだ。嬉しそうにシャルロッテさんは笑う。

 「この本、素晴らしいよ。読むだけで優しい気持ちになれる。それにこの吟遊詩人は魔物に対して友好的なんだね」
 「自然を愛しているからね。自然を愛するという事はその自然に住んでいる魔物も愛している、という事なのだろう。それに彼には良き妻が側にいたという」
 「妻?」
 「あぁ。その挿絵を描いたのは彼の妻、リャナンシーだ」
 「……そうか、道理で」

 絵だけでも十分な芸術品だと言える理由がわかった。だから様々な魔物と出会っても襲われる事がなかったのだ。常に妻のリャナンシーが居たから。

 「その本は我の大好きな本の一つだ。世界の風景もさながら、魔物と人間による共同作業の結晶でもあるからね」
 「シャルロッテさんも、共存には賛成なのかい?」
 「勿論さ。何せ我たち魔物は女性しか居ない。人間の雄なくして子孫は作れない。我たちドラゴンもだ。少々、意地っ張りな面が玉に瑕だが」
 「でもシャルロッテさんはなんていうか、俺の思っていたドラゴンとは違うな。あぁいや、馬鹿にしている訳ではなくて」
 「くす。わかっているよ。人間が残した書物を読み漁っている内に我(わたし)の角は随分と丸くなってしまったらしい。我は人間を愛しているよ」

 ―――心臓が飛び出るかと思った。
 俺に言われた訳ではないのに、面と向かって「愛している」なんて言われたらドキドキしてもおかしくはない。相手は飛び切り美人なドラゴンだ。男なら誰だってドキッとする。
 その反応を知ってか知らずか、微笑みながら俺を見ている。これが裏もないのであれば、彼女は魔性の素質があると言っていい。間違いなく男はメロメロだ。
 俺は逃げるように本の続きを読むのだった……。



 そのまま時は経過し、あっという間に就寝の時間となった。
 シャルロッテさんのベッドをお借りして現在シーツに包まれている。もちろん俺は別の場所でいいと言ったのだが、優しいシャルロッテさんは首を振った。
 眼鏡の似合う銀髪の蒼穹のドラゴンの凛々しくも優しい表情を思い出しつつ、今日を振り返る。
 思い返せば今日は普段体験する事のない事ばかりだった。
 数百人の勇者軍が討伐に向かうのを見るのは初めてだし、勇者たちが討伐から帰ってこない現状を目の当たりにし、うらやま……もとい戦慄が走った。また今日も交わりが行われ日に日に魔物娘は誕生していくだろう。生まれた命は平等だ。教団の人間がどう思おうと彼女たちには彼女たちなりの幸せの形を築き上げていく。教団の連中は魔物たちをバケモノ扱いしているが、魔物たちにとってはただ単に恋に恋焦がれ、幸せになりたいだけなのだ。男性に恋をする事、愛し合う事、子供を産む事。それは人間となんら変わりない形。
 ままならないもんだ。
 同じ人間として、余りにも排他的過ぎる。
 あぁ、しかし。魔物娘と人間が子供を作っても生まれるのは魔物娘だけだという。男が生まれない。次第に人間から男が居なくなり、魔物娘も子孫を作れなくなり、やがて地上から人類は居なくなるだろう。
 旧魔王時代から新魔王時代に変わり、この問題が解決されるか、現魔王が死亡するか。魔物娘が増え続けている今、後者は恐らくないだろう。残るは前者の問題。これが解決されない限り世界は破滅へとゆっくりと近づいていく。
 
 「…………」

 俺のような元勇者の放浪者が考える事じゃないな。
 それに今日はドラゴンと出会い、さらには持て成されている。人間からドラゴンの住処へ財宝目当てに行く事はあっても、ドラゴンから連れて行ってもらえるなんて本当ならありえない事だ。
 偶然と運が出会いを作ったのか。
 ちら、とソファで眠っている蒼穹のドラゴンを見て、一言だけ。

 「ありがとう」

 いろいろな意味を込めた感謝を述べて、俺は意識を落とした。



 ぴちゃ、ぴちゃ……という水音が、意識が半覚醒に戻ってきた耳に届いた。
 水滴が落ちる音にしてはなんだか音が粘っこい。水というよりも粘着液を混ぜたような……。そうだ、スライムが動いているような音だ。絶賛捕食中(性的な意味で)のスライムを見かけた時にそんな音が響いていた。
 聞いているだけで劣情がふつふつと湧き上がるような音。
 意識は次第に戻ってきて、音と共に全力で走った後のような息遣いまで聞こえてきた。

 「…………?」

 それが一体何なのかを確認する為、うっすらと目を開ければ―――。

 「…………」
 「は、はぁっ、あ、ぁん、はぁ、はぁ……っ」
 「…………」

 眼鏡を外した蒼穹のドラゴンが寝ていた俺の上に跨って自身を慰めていらっしゃいました。
 胸や腰の布はなく、豊満なおっぱいとその先にちょこんと可愛らしくも勃ったピンクの乳首。俺の上に跨り、余す事無く開かれたシャルロッテさんの秘所は蜜をとろりと零しながらも、本人の手によって擦られている。
 あのドラゴンらしい鉤爪も、魔法か何かだろうか?今は人間の手と変わらない形になっている。

 「あ、あぁ……っ、は、いけない……のに、んんぁっ!?」

 自分の手なのに言う事が聞かないのか、秘所を擦り続けていた手は肉壷の中へと吸い込まれていく。
 くちゅり、といやらしい音を立てて中指の根元まで挿入された。
 するとシャルロッテさんはもう片手で胸を揉みしだき、股間に伸ばした手を動かした。
 くち、くち、とこちらの理性が吹き飛んでしまいそうな音に、俺の息子はどんどんその身に血を集めていく。
 それを見た蒼穹のドラゴンは俺が起きている事に気がついたようだ。
 
 「あぁ、すまない、あ、はぁぅッ! 起こしてしまった、かな、あンッ!」
 「あの、えっと」
 「いきなりこんな、ぁんっ、痴態を見せてすまない……だが、はぁんっ、元は君がいけないんだか、らぁっ」
 
 俺に見られる事によってさっきまでの自慰よりも激しく淫らに変わり、シャルロッテさんの声が段々艶かしくなっていく。

 「君は我のお尻を乱暴にした、だろ?」
 「あ……」
 「そんなつもりはなかったのだが……、その……我もドラゴンとは言え一匹のメスだ。オスにお尻を乱暴にされたら、発情してしまうんだ」
 「えっとあの……ごめんなさい」

 汗ばんだ顔のシャルロッテさんは首を振った。

 「いいんだ……。君の事をちょっと気に入っていたし、飛んでいる間も君の抱き心地はよかったから」
 「そ、そうなんだ」

 顔が熱くなる。シャルロッテさんの突然の痴態に既に身体は火照ってしまっているのだが恥ずかしいのも混ざりさらに熱い。

 「気丈に振舞おうと思って行動していたんだが、すぐ近くに男が寝ていると思ったら……滾ってしまった」
 「…………ごく」
 「気がつけば君に見せ付けるようにシていたよ……。初めてだよ、知識と本能でそういう事は知っていたけどここまでなってしまうなんて」

 シャルロッテさんの秘所はもう滴り落ちるほどぐしょぐしょに濡れている。蜜がとろとろと溢れてくるのを見て、俺の分身が一回り大きくなってきた。
 ドラゴンの存在感と威厳は既に崩れ去り、目の前にいるのは発情したただの魔物娘でしかない。自らの存在をアピールしている俺の分身を見て、シャルロッテさんはにこ、と笑った。

 「ここ……大きくなっているぞ」

 そしてズボンの上から上下に擦ってきた。ただそれだけなのに俺の腰がびくっと動くほどの快感が走った。こんな強い快感なんて経験した事がない。普段の彼女の振る舞いと俺の上に跨り肉棒をさすり期待と淫らに微笑む彼女のギャップに興奮してしまったのだろうか?

 「ん……くっ」
 「敏感だな……♪」
 「こんなこと、初めてで」
 「そうか……」

 突然、彼女の顔が近づいてきた。

 「ん……っ!?」
 「ちゅ、ん……あむ……っ。ちゅぱ、ちゅっ」
 「……ん、んぅっ」
 「我も初めてだ……。こんなわたしで良ければ、初めてをもらってくれないか……?」

 それはつまり、ドラゴンの純潔を奪う事で。
 さらに言えばドラゴンの恋人……いや、夫になって欲しいという事だ。
 俺も彼女の身体を見てちょっとした興奮もしたし、飛んでいる間は彼女の豊満な胸を押し付けられて勃起してしまった俺のがいつ気付かれるかとひやひやしていた。
 それにドラゴンなのに人間の事を愛していると言ったあの時も。凄く綺麗で魅力的だった。
 ドラゴンと一緒になるという事は俺の旅がここで終わりを告げる事になる。いつかは何処かで野垂れ死ぬ運命だろうと思っていたが、こうなるなんて。
 色々考えて、答えるのを渋っていたら―――。
 
 「…………駄目、か?」

 その顔をされたら、もう俺は拒否なんて出来ないんだよ反則だろ―――!

 「俺でいい、なら」
 「君が……ヴェルがいいんだ。もう君以外考えられないよ……っ」
 「シャルロッテさん……」

 今にも泣いてしまいそうなのに、彼女は柔らかい笑みで首を振った。

 「シャルって呼んで欲しい……わたしの旦那様」
 「……ッ! シャルっ」
 「ふぁ……っ♪」

 知的で物静かなシャルが見せる愛情を感じて、俺はたまらず抱きしめた。変な気持ちになっているからという理由ではない。心から彼女が愛しくなったのだ。

 「これから忙しくなるぞ?」
 「どういう……」
 「子作り、頑張ろうな♪」

 顔を真っ赤にしながらも心底嬉しそうな顔で大胆発言。これには俺の顔から火が出そうなほど恥ずかしかったが、彼女との愛の結晶を築く事の幸せのためならそんな事気にする必要なんてなかった。

 「あぁ……頑張って、みるよ」
 「ふふ、ありがとう……。それじゃあ早速……励もうか♪」

 ズボンを突き破りそうなほどに勃起した俺の肉棒を取り出し、シャルは自分の秘所にあてがう。
 ついに一つに繋がる……。そう思っていた矢先、シャルはこう言った。

 「人間と魔物との間で子供を作ろうと思ったら、結構一苦労するらしい。だから、その……何回でも、私の中に出して欲しい。ちゃんと、受け入れるから……」
 「あぁ。何度でもしよう。子供が出来て生まれても……」
 「〜〜〜ッ♪」

 そして一気にシャルは腰を落とし、処女膜を突き破り子宮口に先端がこつ、と当たった。容赦ない行動、それに驚くよりも彼女の膣内の蕩けてしまいそうなほどの熱さに出そうになった。

 「ん、くう……っ。はぁぁぁ……♪」
 「しゃ、シャル、そんな一気にしたら痛い……だろ?」
 「でも……この痛みはわたしがあなたのモノになったという証明になる……。わたしはこの時をずっと忘れない」
 「シャル……」
 「んっ♪ おっきくなったぞ?」
 「おいで、シャル……」
 「…………ッ! はい……♪」

 繋がったまま、彼女を抱きしめる。
 俺の為に頑張ってくれた女性に伝わるよう、心を込めて抱擁した。時折頭を撫でたりしてやると、彼女の尻尾が嬉しそうに揺れた。

 「よく頑張ってくれたな……。嬉しいよ」
 「あなたの為、だからな……♪」
 「俺も……その」
 「…………?」

 ああくそ。彼女だってそうなのだから、照れることなどないんだ。

 「は、初めて……なんだ」
 「―――ッ!」

 う、うああ!?
 元々キツかった膣内が急に強く締め付けて……ッ!!
 だ、ダメだ、耐えられ……!!

 「ごめ、シャル……!」
 「っ!? んぁぁああっ!? あついの、出てるぅーっ♪」

 暴発してしまった事を怒るどころかシャルは悦びの表情を浮かべて、腰を痙攣させながら受け止めてくれている。蒼い尻尾がふりふり、と動いていた。

 「あ……ああ……」

 予想以上だ。
 まさか一度も動く事無く射精してしまうとは。男として情けない……。
 俺の息子も同じように彼女の膣内でくた、と力を失っていく。

 「ア……はぁ……♪ これが、満たされるという感覚なのか」
 「その、ごめん」
 「……? 何がだい?」
 「すぐに……出しちゃったから、さ」
 「気にする事はない。わたしは奥に出してくれて嬉しかったぞ?」

 細い指先で梳くように頭を撫でられる。

 「だが、わたしもまだあなたが欲しい。そこで提案なんだが……」

 そう言うとシャルは指の先を噛み……って!?

 「シャル!?」
 「もしあなたにそのつもりがあるなら、だけれど。ドラゴンの血液を飲めばその身にも力が宿ると言われている」
 「ドラゴンの、力……」
 「名誉挽回のチャンスだぞ? くすくす」

 俺はヴァンパイアではないのに、彼女の指先から流れる血を見た瞬間に何かが滾ったようだ。その手を迷わず口に含んだ。

 「んッ♪ 嬉しいぞ……」
 「…………ぷは」
 「まるで赤子のように吸い付いて……可愛い奴め―――ふぁあぁああああんっ!?

 シャルの言うドラゴンの力の効果が早速出てきたようだ。

 「急に、大きく……。それもさっきよりも……ッ、んぁあっ!? 子宮口にまで届いてぇ……っ」
 「動くよ」
 「えっ? そんな、待って、そんなおっきいの、はぁあぁぁあああンッ!?」

 彼女の血を飲んだからだろうか?ドクンドクンと自分の心臓が高鳴り、目の前の女性が欲しくて欲しくてたまらなくなったのだ。
 むちっとした彼女のヒップを掴んで、ごつごつと打ち付けるように腰を動かす。そのたびに冷静なシャルは何処へやら、大きな嬌声を上げて悦んでいる。

 「あ、あああぁっ、はげし、はげしいよ、ヴェル……っ!」
 「君が、君が欲しい」
 「〜〜〜〜〜ッッ♪♪」

 膣内でも、身体でも。シャルは俺のぎゅうっと抱きついてこくこくと頷いた。

 「は、はああン! なる、なるぅっ! ヴェルのお嫁さんになるっ! あッ、あぁンッ、壊れちゃうくらい、突いてっ♪」
 「わか……ったッ!」
 「あぁぁぁあああンッ!おかしくなるぅぅううッ♪」

 いつもより怒張した一物を乱暴に、貪欲に彼女の蜜壷へ打ち込む。奥へ突くたびにぱんっと彼女のヒップと俺の腰が当たる音が響く。
 お互い初めてだというのに、こんなに乱暴でいいのかと思ったのだが、受けているシャルの表情を見ればそれも心配無用だと悟った。

 「あッ、ああんッ! きもち、ひ、ヴェル、きもち、ひぃっ♪」
 「俺もだ、シャル……!」
 「うんっうんっ、しゃるのおまんこでもっとよくなってぇ♪」

 いつまでも続けていたい濃厚で愛に溢れた行為も、やがて終焉がやってくる。股間の辺りが熱くなり、急激に呼吸が乱れた。

 「シャル……、も、出そう、だッ!」
 「らひへ、わらひの、なか、あ、あぁッ、孕ませてぇっ♪」
 「ぐ、うあぁッ!」
 「あ……ッ! また大きくぅ……っ」

 そして最後の一突きで、俺はシャルの奥へ全てを注いだ。

 「ッッ♪ あぁぁああぁぁああぁンッ♪」
 「う……あ……あ」

 注ぎ込むというよりも、吸い取られているような感覚だ。自分でも信じられないほどの精液が彼女の中へ大量に吐き出されていく。吐き出すたびに彼女の身体がぴくぴく、と動き、あまりの良さに声が出ないのか、俺と同じく虚ろな声で受け止めている。
 永遠とも思えるほどの長い射精を終えて、俺の息子はやっと収まった。同時に、その反動で物凄く眠い。
 だがそれもいいかなと思う。胸の中に居る愛しいドラゴンを抱きながら眠るのならそれはとても幸せな事だから。

 「おやすみ、シャル」




 「ヴェル、起きたまえ」

 ゆさゆさ、と優しく揺らされてまどろんでいた俺の意識は覚醒へと向かう。
 あー。そう言えば俺は何をしていたのだろうか。
 なんだか幸せな夢を見ていたような気がしたが……。

 「ん?」
 「起きたか。おはよう」
 「…………」

 目を覚ますと、すぐそこに蒼穹のドラゴンがふりふりのエプロンを着て俺を見下ろしていた。

 「おは、よう」

 そこで全て思い出した。昨日初めて彼女の家にお邪魔して、最後には…………。
 う、股間が。

 「? ……くすくす。朝から元気だな、君のそこは」
 「うぁっ!?」

 即見破られてそのいきり立った息子を一撫で。そして舌でぺろりと舌なめずりして、シャルは妖しく笑った。

 「朝からそんなでは辛かろう。ここはわたしが一つ……♪」
 「ちょ、シャルっ」



 濃厚な愛と幸せに包まれた日々が始まるのだった。
11/02/28 00:24更新 / みやび

■作者メッセージ
初投稿です。よろしくお願いいたします。
ドラゴンさんのお話は沢山あってどれも魅力的ですね。時間を忘れて読みふけってしまいます。

追記
沢山のご感想ありがとうございます! まだ未熟な者ですが次回もいいお話を書けるよう頑張ります。
感想で指摘していただいた部分を修正しました。流石に我(わたし)が多すぎたと反省。

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